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チケットぴあコラム

ラグビー 日本代表 vs ニュージーランド代表(オールブラックス)

ラグビージャーナリスト・村上晃一の
日本代表vsNZ代表を読む

元ラグビーマガジン編集長であり、現在は著書の執筆や雑誌への寄稿、J-SPORTSの解説で活躍する
ラグビージャーナリスト・村上氏が、NZ代表の強さの秘密、そして日本代表の活路を分析する。

秩父宮でオールブラックスが観られる幸福


 オールブラックスと聞けば、多くの人がラグビーを思い浮かべる。おそらく、世界で一番有名なスポーツチームのニックネームだろう。同時に、試合前の雄叫び「ハカ(ウォークライ)」も、広く知られている。日本語で「がんばって、がんばって」と言っているように聞こえるあのダンスだ。本当はニュージーランド(NZ)の先住民族であるマオリの言葉で、「カマテ、カマテ」と言っている。戦いの前の勇壮な儀式である。


 太古からの豊かな自然で知られるNZは、世界随一のラグビー王国だ。国の首相の名前は忘れても、オールブラックスの主将が忘れられることはない。1850年代に入植した英国人が持ち込んだラグビーは、マオリの高い身体能力に適しており、またたくまに発展した。1905年、初めて英国遠征したNZ代表チームは全身黒のユニフォームをまとっていた。オールブラックの由来は諸説あるが、その姿から名づけられたというのが最有力説である。遠征での戦績は、35戦して34勝1敗。オールブラックスが強さの象徴として強く印象付けられたツアーだった。
 以降、100年以上続くラグビーの国際交流史のなかで、オールブラックスは強くあり続けてきた。2013年8月22日現在の通算記録は502戦380勝104敗18分け(NZ協会公式HPより)。勝率は75%を誇る。2011年、自国開催のラグビーワールドカップ(RWC)では、1987年の第1回大会以来2度目の優勝を飾り、NZ最大の都市オークランドのイーデンパーク競技場は歓喜に揺れた。


 そんなに強いのに、なぜ2度しか世界一になっていないのかという疑問が浮かぶだろう。国民の大きすぎる期待の中で、大一番になると弱気の虫が顔をのぞかせるのだ。それもまた、彼らが全世界のラグビーフリークから愛される理由なのである。
 プレースタイルは、いたってシンプルだ。身体能力の高い選手が激しく前に出て、フィールドをいっぱいに使ってボールをパスし、華麗な個人技で防御を破る。NZは移民の国でもある。英国からの移民、マオリに加え、サモア、フィジー、トンガといった南太平洋の島々から、さまざまな人種が融合し、それぞれの運動能力が混ざり合い、他に類を見ない魅力的なスタイルが出来あがっているのだ。


 現在のキャプテンは、リッチー・マコウ(187㎝、106㎏、32歳)。主にボール争奪戦を担うフォワード8人の中心的選手であり、2006、2009、2010年と、IRB(国際ラグビーボード)の最優秀選手に3度選出された。キャプテンとしての勝率は9割近いカリスマである。チームの頭脳は、ダン・カーター(178㎝、93㎏、31歳)。世界最高のスタンドオフ(背番号10)であり、プレースキッカーとしてもテストマッチ(国代表同士の試合)で、1300点を越え、記録を更新中だ。
 この2枚看板が、11月2日(土)の日本代表戦でプレーするかどうかは未知数だが、オールブラックスにはそれぞれのポジションで「世界一」と言われる選手が並んでいる。
 NO8(ナンバーエイト)のキアラン・リード(193㎝、108㎏、27歳)は、ボールを持った時の突破力、幅広いディフェンス能力で世界最高のNO8と言われる。スクラム最後尾での彼に動きにも注目したい。バックスラインでは、CTB(センター)のコンラッド・スミス(186㎝、95㎏、31歳)がいる。弁護士資格を持つ秀才で、「シルキースキル」と称されるきめ細やかなパス、ステップで防御を翻弄する。華やかな個人技と言えば、FB(フルバック)のイズラエル・ダグ(186㎝、95㎏、25歳)だ。彼の変幻自在の走りも観客は魅了する。ダン・カーターの後継者として今や互角の実力を備えるアーロン・クルーデン(175㎝、82㎏、24歳)も小柄だが、タックルをかわす技術に優れる好選手だ。


 世界最高峰の運動能力とハイレベルのラグビー経験を誇る彼らに対し、日本代表はどう挑めばいいのか。過去の対戦は4戦全敗。直近では、2011年RWCで対戦し、7-83と、力の差を見せつけられた。WTB小野澤宏時、LO大野均、NO8菊谷崇などその時の悔しさを知る選手は、いつかオールブラックスと互角に戦えるチームになりたいという思いを抱き、今も日本代表でプレーしている。
 2012年春から指揮をとるエディー・ジョーンズヘッドコーチは、日本選手のフィジカル面を向上させ、強豪国にも当たり負けしない力強さを身につけさせた。攻撃面でも、各選手の役割を明確にし、ミスなくボールを運べるようになった。この春には、世界ランキング5位のウェールズ代表に勝利するなど日本代表は着実に成長してきた。
 加えて、ジョーンズヘッドコーチは、オーストラリア代表監督としてオールブラックスに勝った経験がある。彼は言う。「オールブラックスに勝つには、彼らに考えさせることです。日本は何をしてくるか分からない、と」。常に相手の予測を裏切るプレーが繰り出せるかどうか。そして、ひとたびボールを持てばグラウンドのどこからでも一気にトライする能力を持つオールブラックスに、いかにチャンスボールを与えないか。一つ一つのプレーを丁寧に行えば過去最高の試合ができるはずだ。オールブラックスの試合は全世界の注目が集まる。日本ラグビーを世界にアピールするチャンスを生かしてほしい。


 日本の観客が幸運なのは、この試合が秩父宮ラグビー場で行われることだ。観客動員が見込めるオールブラックス戦は、どの国でも収容人員5万人以上のスタジアムで行われるのが普通である。巨大であればあるほど観客席と選手の距離は離れる。秩父宮のようなコンパクトなグラウンドでオールブラックスを生で観られる幸せには、なかなか巡り会えないのだ。
 世界一強いラグビーチームと、逞しくなった日本代表の対戦である。世界のラグビーの「今」を感じる機会を逃す手はない。


TEXT●村上晃一