厳かでありながらも胸を打つ優しさに包まれた《レクイエム》には、死を直視し謙虚な感動を抱いたひとりの音楽家の深い思想が反映されています。LFJ2013では1893年版の《レクイエム》が演奏されますが、この版はフォーレが意図した内省的な精神により近いものと考えられるでしょう。モーツァルトやベルリオーズ、ヴェルディのレクイエムとは異なり、フォーレのそれは死と“最後の審判”がもたらす苦悩や恐怖を表現しようとはしていません。彼の音楽は純粋に苦しみを癒そうとするもの、喩えるならば“永遠の幸福への道”なのです。単旋律聖歌特有の水平的なしなやかさによって、この作品は極めて澄んだ印象を与えます。そして声楽パートと器楽パートが精緻に結びつくことによって、あふれんばかりの慈悲が見事に表現されています。
《ボレロ》は20世紀に書かれた最も有名な管弦楽曲のひとつでしょう。この作品の誕生の裏には、舞踊家のイダ・ルビンシュタインがいます。彼女からの依頼でバレエ曲を書くことになったラヴェルは、アンダルシア地方(スペイン)の民族舞曲“ボレロ”からインスピレーションを得て、「17分のあいだ、徐々に音量が大きくなっていく」作品、同時に「たった2つだけのテーマが、ひたすら繰り返される」作品を構想しました。この実に困難な試みは最終的に、多様な音色の追求に結実します。というのも《ボレロ》では、作品全体に付された大きなひとつのクレシェンドによって強弱表現が前進する中で、オーケストラ内の楽器が様々に組み合わされ、音色を変化させていくのです。曲の最後に、音量は最大になります。同一不変のリズムと旋律が繰り返される単調さに、はじめのうち聴き手はしつこいと感じるでしょう――しかし曲が進行するにつれ、この作品のフィジカルな力に圧倒され魅了されてしまうのです。
《恋は魔術師》は、聴く者をアンダルシア地方(スペイン)のジプシーの世界へといざないます。荒々しく魅惑的な音楽が表現する衝動や官能性が印象的な作品です。実はこの傑作には原曲があります。舞踊家のパストーラ・インペリオからの依頼でファリャが書いた《ヒタネリア(ジプシー気質)》という作品です。のちにインペリオの母がうたう古いジプシーの歌に魅せられたファリャが、《ヒタネリア》を改訂したものが《恋は魔術師》です。ファリャはこの新たなバレエ作品のために筋書きをふくらませ、有名な「火祭りの踊り」等を追加で作曲したのです。ストーリーには、幻想的で魔術的な雰囲気が漂っています――嫉妬にさいなまれた元恋人の亡霊に悩まされるジプシー娘(カンデーラ)と、彼女の今の恋人(カルメロ)が、最後には不吉な魔力から解放される、という筋書きです。初演(1915年)は不評を買ってしまいましたが、翌年に“フラメンコ歌手付の管弦楽組曲”として再び改訂されています。
グレゴリオ聖歌は、幾世紀も前の口承伝承から生まれた宗教音楽です。オリヴィエ・メシアンやモーリス・デュリュフレ、フランシス・プーランクら20世紀を生きたフランスの作曲家は、過去の遺産であるグレゴリオ聖歌を愛し、これを題材として深い宗教性を宿す作品を書き上げました。メシアンは、典礼用の伝統的な聖歌を重んじ、ア・カペラの宗教声楽曲を数多く作曲しました。その中でもキリストの“最後の晩餐”について歌う《おお聖なる饗宴》は有名です。デュリュフレはグレゴリオ聖歌のテーマに基づく短いモテットを書いています。プーランクの《悔悛節のための4つのモテット》も名曲です。声楽アンサンブルのヴォックス・クラマンティスが、単旋律聖歌をもとに作曲されたこれら20世紀の宗教作品の傑作と、グレゴリオ聖歌とを交互に歌い上げます。この公演は、二つの時代の音楽が出会う、美しい舞台になるでしょう。
◇メシアン《おお聖なる饗宴》
公演番号: 133 , 135 , 232 , 236 , 346
◇デュリュフレ:グレゴリオ聖歌による4つのモテット
公演番号: 133 , 135 , 232 , 236 , 242 , 245 , 315 , 346
◇プーランク:《悔悛節のための4つのモテット》
公演番号: 133 , 135 , 232 , 236 , 346
◇ヴォックス・クラマンティス“聖なるパリ”
公演番号: 133 , 135 , 232 , 236 , 346
この二つの協奏曲はギター音楽の最高傑作といえます。《アランフェス協奏曲》はロドリーゴがパリ滞在中に作曲が開始され、1940年11月にバルセロナで初演されました。タイトルは、18世紀に再建された宮殿で有名な古都アランフェス(スペイン中央のマドリード州南部)にちなんでいます。3楽章からなり、聴き手はアランフェス宮殿の庭園――木蓮の香りや鳥のさえずり、せせらぎの音――にいざなわれ、時空の旅に出ます。《アンダルシア協奏曲》145は、3人の息子との共演を望んだギター奏者セレドニオ・ロメロから依頼され作曲された、4つのギターのための協奏曲で、アンダルシア地方の民衆の舞曲から影響を受けた旋律やリズムが特徴です。
◇《アランフェス協奏曲》 公演番号: 141 , 222 , 316 , 341
◇《アンダルシア協奏曲》 公演番号: 145
紛れもなくアルベニスの最高傑作であり、ピアノ音楽史上でも傑作として輝き続ける《イベリア》には、“ピアノのための12の印象”という副題がついています。この曲集はアルベニスの最晩年にあたる1905年から1908年にかけて作曲されました。アルベニスが母国スペインに別れを告げている曲集、といえるでしょう。第一巻・第一曲目の「エボカシオン」を除く全曲に、スペインの土地、あるいはスペインの祭りの名前――アンダルシア地方に因んだものが多く登場します――がつけられています。しかしこの曲集のねらいは、単なる描写ではありません。イベリア半島の文化を存分に吸収したアルベニスは、他の誰よりも、安易な絵画的描写に陥りませんでした。彼は母国の深い魂を音に置き換えたのです。その音楽言語はフランツ・リストの伝統を受け継ぐものですが、フランスの作曲家たちとの交流を経たアルベニスは、ピアノという楽器の表現の可能性を拡大しています。それゆえに《イベリア》は、20世紀のその後のピアノ音楽の書法に大きな影響を与えていると言えるでしょう。
LFJ2013は、サン=サーンスの《動物の謝肉祭》、フォーレの《ドリー》、ラヴェルの《マ・メール・ロワ》、プーランクの《子象ババールの物語》といった若い聴衆のために作曲された名曲に触れていただく機会ともなります。もともとピアノのために書かれたもの、器楽アンサンブルのために書かれたもの、大編成のオーケストラのために書かれたもの、語り付きの作品やそうでない作品など様々ですが、それら全ての曲に共通するのは、音楽の質の高さと、聴きやすいけれども決して子供向けになりすぎていない点でしょう。可笑しさ、優しさが交差し、時に有名曲のテーマが引用されたり…。こうした生き生きした音楽が、子どものみならず大人の創造力に語りかけ、魅力的な世界へと連れて行ってくれます。
1886年に作曲されたサン=サーンスの《動物の謝肉祭》は、器楽アンサンブルのために書かれた“動物学的大幻想曲”。14の構成曲はそれぞれ、強力な器楽的効果とパロディを駆使して、ある動物やある動物のグループを表現します。LFJ2013では、ポーランド出身の画家でアニメーション映画作家のマリウシュ・ヴィルチンスキのライブ・ドローイングをプロジェクターで投影しながら、この作品をお聴きいただきます。
ジャン・ド・ブリュノフの絵本をもとに作られたプーランクの《子象ババールの物語》は、1940年の夏に作曲されました。台本では、ジャングルから飛び出した子象ババールの様々なエピソードをたどっていきます。朗読のほか、音楽そのものも情景を描写したり説明したりします。ジャン・フランセが1962年に、原作に忠実な管弦楽版を編曲しました。
◇サン=サーンス:動物の謝肉祭 公演番号: 144 , 223 , 322
◇ライブ・ドローイング 公演番号: 216 , 223 , 322
◇プーランク:《子象ババールの物語》 公演番号: 323
≪パリの喜び≫は、マニュエル・ローゼンタールがオッフェンバックの名作オペレッタ/オペラからの抜粋を集め編曲した風変わりなバレエ作品です。バレエ・リュスにより1938年4月、モンテカルロ歌劇場で初演されました。
◇公演番号: 116
サティ、プーランク、セヴラック、ラヴェル、ドビュッシー、フェルー、アーン、デュポン、ケクラン、シュミットの曲を集めました。20世紀初頭にフランス音楽を豊かに彩った知られざる作曲家たちの名曲を旅することのできる、スペシャルなコンサートです。
◇公演番号: 333
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン公式サイトより転載