スキマスイッチ

デビュー10年目突入を機に制作された“DOUBLES BEST”を引っ提げて、全都道府県51公演というグループ史上最長ツアーに挑んだスキマスイッチ。すべての楽器を2人だけで演奏するという挑戦の中で見出したもの、そして2人が目指す未来とは――？

ステージ上には2台のピアノ、何本かのエレキとアコースティック・ギター、ドラム、キーボード、サンプラー、パーカッション類など、様々な楽器がずらりと並ぶ。これらの楽器を2人だけで演奏してライヴを作っていくのがスキマスイッチ“DOUBLES ALL JAPAN”ツアーで、昨年10月からスタートして全都道府県を巡ってきたツアーの、今日はちょうど50本目。東京のあとはファイナルの沖縄公演のみというところで、脂の乗り切った完成度の高いライヴが見られる予感に、開演前からわくわくする思いが止められない。

大歓声と拍手に迎えられて登場した2人が、ピアノの前に座り、その上に置かれた小さな機材のボタンを押してリズムを刻み始める。いくつかのパターンを打ち込み、組み上がったリズムが心地よく軌道に乗り始めると、2人があうんの呼吸を合わせてピアノを叩き、大橋が「アイスクリーム シンドローム」を歌い始める――。ちょっとしたスリルと驚き、そして手作りのあたたかさと遊び心に満ちた鮮やかなオープニングだ。
「ここは僕らの仕事場、工房です。うちに遊びに来たという設定で、ゆっくりくつろいで、楽しんでください」
アコギとピアノで綴る「全力少年」のあとに大橋の最初のあいさつがあり、大橋がエレキに持ち替えて感情のこもった長いソロを聴かせる「螺旋」など、2人のプレイヤビリティーを存分に発揮した躍動感ある曲が序盤は続く。中でも楽しかったのは「ガラナ」で、大橋が叩く生ドラムを即座にサンプリングし、ループするリズムとワイルドなエレキギターに乗せて歌うスタイルは、まさに“DOUBLES”ならではのアイディアあふれるもの。6曲目「藍」では2人がピアノに向かい、大橋がテンポとコード、常田が装飾のメロディを奏でるという見事な合奏を披露する。2人だけの演奏というと、静かなアコースティック･スタイルを連想するかもしれないが、“DOUBLES”はそれだけではない。エレクトリックな響きもふんだんに取り入れて、アップテンポもバラードも、よりカラフルに生々しく彩るのが特長だ。

くつろいで、と言った本人がどうやら一番くつろいでいるようで、中盤のMCはまるで普段着の2人そのもの。長いツアーの思い出、休みの日に遊びに行く場所、常田家の庭に咲く桜まで、どんどんずれていく話題がなんともおかしく、的確なツッコミあいに笑いが絶えない。アコギ2本で歌われた「病院にいく」を経て、打ち込みのリズムのテンポを変えてメドレー化した「ソングライアー」「さみしくとも明日を待つ」から、ピアノのフレーズでつないでゆく「雫」までの自然なつながりは見事のひとこと。大橋のアカペラ・コーラスをフィーチャーした「ボクノート」に至るまで、スロー～ミッドテンポの美しいメロディの楽曲を連ねた中盤の構成は、この日のライヴの大きなハイライトとなった。

その次に、登場したピカピカの新曲「トラベラーズ・ハイ」は、このツアーのテーマとして書き下ろされたもので、中盤の歌詞に空白があり、そこに全国各地の名所や観光スポットを当てはめていくという企画が楽しい。早速、客席に向かってアンケートをとったところ、スカイツリーやレインボーブリッジを差し置いて1位に選ばれたのは「ハチ公」。初めて聴くのに覚えやすいポップな曲で、アドリブで付け加えた常田の「ぅわん！」という鳴き声にやんやの歓声が飛ぶ。親しみやすさ満点のあたたかいムードが、実にスキマスイッチらしい。

ここからいよいよ、ライヴ終盤の聴かせどころに突入してゆく。代表曲「奏(かなで)」「ふれて未来を」「ユリーカ」と、徐々にテンポを上げて盛り上げてゆく展開も見事だったが、何といっても素晴らしかったのは「晴ときどき曇」の、会場が一体となった大合唱シーンだ。♪sunny,cloudy,ah-♪と、観客全員が歌うコーラスが延々と続くシーンの感動は、たとえるならポール・マッカートニーがライヴで歌う「Hey Jude」のエンディングを思わせる、と言えば伝わるだろうか？　音楽でひとつになるとは、つまりこういうことなのだと、多くを語らずとも伝わる美しいシーンだった。

本編ラストは、カントリー・タッチの軽快なリズムを持つ「ただそれだけの風景」。ここまでで2時間半を経過しているが、時間の流れが自然なのでまるで長く感じない。観客も元気いっぱいで、アンコールを求める拍手と歓声が鳴り止まない。
「もうちょっと、やりますかー」
再びステージに戻ってきた大橋がアコギとハーモニカをセッティングし、常田はと見ると、なつかしいアフロ頭に変身中。「初心に返って」という紹介で歌われたのはもちろんデビュー曲「view」。曲が終わると律儀にアフロを外して一礼する常田のしぐさがなんともおかしい。続いて「ラストシーン」を歌い、本当に最後の1曲を残すのみとなったところで、大橋が観客に語りかける。
「僕らのいる場所は、華やかに見えるかもしれません。でも芸能人じゃない。ただの音楽好き、みんなと同じ普通の人です。これからも、僕らの人間性を見せていきたいと思います。また会いに来てください」

ラストは万感こめたバラード「またね。」。2人の音楽家としての才能とスキルを存分に発揮しつつ、シンプルで入りやすく、あたたかく親しみやすい、スキマスイッチの本質を見事に浮き彫りにした“DOUBLES ALL JAPAN”ツアーはきっと、今後の彼らにとって大きな財産になったはずだ。終わったばかりなのにもう次のツアーが待ち遠しい、そんな気持ちにさせられる素晴らしい体験だった。