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LIVE REPORT


吉田拓郎


会場にいた誰もが感情を揺さぶられた、
約3年ぶりの首都圏ライブ
2012.11.6.TUE
“吉田拓郎 LIVE 2012”
NHKホール(東京都)
吉田拓郎

老若男女、様々な人の人生の一部分を彩ってきただろう、吉田拓郎。この日行われたライブで、彼が未だに走り続けている現役のミュージシャンであること、そしてこれからも様々な世代の人生を彩り続けていくだろう、ということを確信させる素晴らしいライブであった。

11月6日に最終日を迎えた今回のライブには、本人はもちろん、ファンにとっても万感の想いがあるだろう。会場のNHKホールには青春を拓郎に彩られた当時からのファンは勿論、若い男女の姿も見受けられ、世代を超えて愛される数少ないミュージシャンのひとりだということを改めて感じさせられた。

ライブは定刻どおり夜6時半にスタート。暗がりの中、拓郎がギターを持って出てくるとそれだけで客席から歓喜の声が挙がったが、彼がギターで弾き語りを始めると会場の熱気はすぐさま最高潮に。1曲目に披露されたのは『ロンリー・ストリート・キャフェ』。亡くなった加藤和彦さん作曲の歌だ。黒シャツに白タイ姿の拓郎。伸びやかな声に合わさるギターの音色。装飾の少ない弾き語りだからこそ、吉田拓郎がそこにいる、という当たり前だが観客にとって大事な事実に胸が熱くなる。続いてバンドが全員出てきて披露されたのは『落陽』。客席からどよめきと悲鳴が同時に起こる。確かにこの曲は彼のキャリアの中でも、名曲度合いと知名度で言えば終盤に披露されてもおかしくないほどの曲だからだ。

そんな客席の困惑に似た思いを見透かすように、拓郎は意気揚々と歌い上げる。座席付きの会場だが、早くも立ち上がり手拍子やリズムを取る観客の姿も。拓郎とバンドとの息もピッタリだ。3曲目にはこれも名曲のひとつに数えられる『こうき心』。「街を出てみよう」という歌詞で始まるこの歌は、『落陽』と同じく旅立ちを彷彿とさせる歌だ。青春時代に故郷から夢を追いかけて都会へと出た、会場にいる拓郎と同世代の人々はこの2曲に思いを馳せたことだろう。

3曲終わった所でこの日初めてのMC。「いきなりフィナーレみたい」と茶化すように言う拓郎に客席からは大きな笑いが。「今日の楽屋は紅白の時に北島三郎さんが使ってる楽屋と一緒らしいよ」と言った後に「はるばる来たぜ函館~♪」とこちらの想定外のカバーも披露してくれた。

吉田拓郎

続いて披露されたのは『僕の道』。今年リリースされたアルバム『午後の天気』の1曲目だ。「この道が大好きだから この道を行けばいい」と歌われたこの曲に、吉田拓郎というアーティストの歩んできた道を重ね合わせ、ジーンと来た人も多いだろう。ライブで聴くこの曲はまたCDとは異なったダイナミックさが感じられ、非常に素晴らしかった。そのまま『白夜』『家へ帰ろう』と披露。昔の楽曲と最近の楽曲が入り混じるセットリストだが、そこに対して全く違和感がなく、改めてライブのアレンジの素晴らしさと、長年変わらない楽曲の芯の強さを思い知らされた。

楽曲の合間には男女問わず「拓郎~!」という呼びかけが引っ切り無しに飛び交う。MCで拓郎は「20代の頃に広島から東京へ来たんだけど、最初のうちは客席も10代から20代だったのが、自分の年齢が上がっていくに連れて客席の年齢も上がって行く。これは仕方のないことなんだけど、楽屋で客席見てると歌いたくないんだよね」と拓郎流の毒の効いた言葉があったが、それだけ昔からのファンを裏切らない音楽活動を続けてきたと言う証拠だろう。

MCに続いて披露された『ウインブルドンの夢』は2009年にリリースされたアルバム『午前中に・・・』に収録された楽曲。このツアーが途中で中止となっただけに、待ちわびたファンも多かっただろう。『Voice』は1977年にリリースされたシングル『もうすぐ帰るよ』のカップリング曲。熱心な拓郎リスナーにはたまらない選曲だ。

「昔は拍手も湿り気があったんだけど、最近は乾いた音しか聴こえないな」というお客さんいじりも拓郎とリスナーの深い関係性があって出来ることなのだろう。お客さんも愛のあるブーイングを飛ばしていた。そんな関係性を伺えるMCが「時々自分が自分に酔ってるのが嫌になるときがある。でもそんな時に客席を見て、その表情にほだされていく。そうやってステージと客席が一体になっていくんだ」

その言葉の通り『白いレースの日傘』『虹の魚』とバンドと拓郎の演奏、そして客席が大きくひとつになったところで「次の曲は歌わなくても聴かなくても良い曲です」という何とも不思議なMCが。そうして披露されたのは加藤紀子に提供した曲『ふゆがきた』のセルフカバー。歌い終わった後に拓郎は「人にあげた曲ってあんまり気持ちが入らないんだよね」と言いながら、貴重な演奏に客席は酔いしれた。

そしてイントロが鳴った瞬間に客席から歓声が上がった『慕情』、そして『歩こうね』。どちらも最近2作のアルバムに収録されている名曲だ。特に『慕情』はNHK BS時代劇『新選組血風録』の主題歌だったので、このNHKホールという会場にはピッタリの選曲となった。だからという訳でもないのだろうが、続いてのMCで拓郎は現在放送中のNHK朝の連ドラ「純と愛」にも触れ「劇中の若者に悪口を言いながら見てる」と言いながらも楽しそうだった。

吉田拓郎

ライブもいよいよクライマックス。『花の店』ではライブ終盤にも関わらず伸びやかなボーカルを見せ、『伽草子』『流星』というファンにはたまらない名曲も、原曲の雰囲気を損ねることなく、ライブ用にリアレンジされており、特に『流星』では涙を見せるファンもいた。「短い間でしたが、このメンバーで本当に良かったと思っています」という言葉と共に披露された『全部だきしめて』ではバンドメンバーを紹介。楽器からコーラスまで、それこそ客席と同じように若手からベテランまでで構成された今回のバックバンドなくしては、素晴らしいライブは演出できなかっただろう。続いての『春だったね』は名盤『元気です。』の1曲目に収録された楽曲。その当時としては破格のセールスを誇ったアルバムで、先日放送されたニッポン放送の「坂崎幸之助と吉田拓郎のオールナイトニッポンGOLD」にゲストで山下達郎が出演した際、山下が思い出話として、当時働いていたレコード屋でこのアルバムが飛ぶように売れ、発注をかけてもその数が届かない程だった、と語っていた。ただ、この日の客層を見れば分かる通り、その当時からのファンもいれば、その当時を知らないファンも大勢いる。これは逆に、セールスだけでは計れない拓郎の影響力の大きさを物語っているように感じた。続いての『僕達はそうやって生きてきた』で拓郎は歌う。悩んだり、悲しんだりするのは間違いではない、生きるということはそういうことだと。拓郎の歌には一貫して安易な励ましや飾った言葉はない。インスタントな歌では長年愛されはしない、と体言していることを改めて思い知らされた。

本編最後は冒頭に弾き語られた『ロンリー・ストリート・キャフェ』と同じく加藤和彦作曲の『純情』で締められた。先立ってしまった盟友というべき人の作曲でスタートとフィナーレを飾るというのは、何かしらの想いがあったに違いない。

本編が終わってからも鳴り止まないアンコール。すると、思ったよりも早く拓郎が登場。こうした所も拓郎らしい。『リンゴ』『外は白い雪の夜』と往年の名曲を2曲、歌い上げた。ステージの拓郎はこれまでも十分にこもった気持ちを、また一段と強く込めたように見えた。

アンコールが終わった後、ステージの右、中央、左に立って深々とおじぎをする拓郎。客席に向かって毒づいたりするが、それは彼の最大限の愛情表現なのだと分かる。「これぐらいの場所がちょうど良いな」といっていた今回の4か所にわたるライブ。ただ、体調を壊さない程度に、もっともっと歌って客席に毒づく拓郎を見てみたいというのが、リスナーの偽らざる本音だろう。今回のライブで、ステージを見つめる僕たちの表情にほだされてくれれば、という事を願うばかりだ。


Text by 佐久間隆


SET LIST

ロンリー・ストリート・キャフェ
落陽
こうき心
僕の道
白夜
家へ帰ろう
ウィンブルドンの夢
Voice
白いレースの日傘
虹の魚
ふゆがきた
慕情
歩こうね
花の店
伽草子
流星
全部抱きしめて
春だったね
僕達はそうやって生きていた
純情

アンコール
リンゴ
外は白い雪の夜

INFORMATION

【LIVE DVD】

吉田拓郎 LIVE 2012

『吉田拓郎 LIVE 2012』
ライブDVD&CD発売決定!!
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PROFILE

吉田拓郎(ヨシダ タクロウ)

1946年4月5日 鹿児島県大口市に生まれる
1970
4月 "フォーク村"のオムニバス・アルバム『古い船をいま動かせるのは古い水夫じゃないだろう』を自主制作。
6月 「イメージの詩」と「マークII」をカップリングした、デビュー・シングルがエレックレコードから発売される。
10月 初のフル・アルバム『青春の詩』が発売され、音楽界にその存在が浸透しはじめる。
1971
7月 TBSラジオ深夜放送『パックインミュージック』のパーソナリティに迎えられる。
8月 岐阜県中津川市での"フォークジャンボリー"でPAの故障をきっかけに歌い始めた「人間なんて」は、観客と一体となり延々2時間歌い続け、歴史的大事件となる。
11月 アルバム『人間なんて』発売。
1972
1月 CBSソニーに移籍し、「結婚しようよ」をシングル・リリース。ヒット・チャートの2位にランクされ、50万枚を超す大ヒットとなる。
6月 シングル「旅の宿」をリリース。チャートの1位を記録、売り上げも60万枚を記録。
7月 アルバム『元気です』を発売。アルバム・チャート第1位を13週独占する。 CBSソニーとプロデューサー契約を結ぶ。
10月 日本人として初の全国ツアーをスタート。
1974
森進一に提供した「襟裳岬」が日本レコード大賞を獲得する。
1975
6月 アーティスト自らがつくるレコード会社として小室 等、井上陽水、泉谷しげるとともに、"フォーライフレコード"を設立(1977年、社長に就任)。
8月 静岡県掛川市・つま恋に6万人(警察発表では7万5千人)の若者を集めオールナイト・コンサートを開催。日本ポップス史上の新記録を樹立する。
1977
10月 吉田拓郎プロデュースのもと、原田真二がデビュー。
3か月連続シングル発売、78年2月発売のデビュー・アルバムは4週連続1位を記録。
1978
4月 文化放送『セイヤング』のパーソナリティになる。
1979
7月 愛知県知多半島先の篠島でビッグコンサート“アイランドコンサートイン篠島”を開催。
2万4千人を動員し、オールナイトで58曲を歌い続ける。
1980
ロサンゼルス・マリブのシャングリ・ラ・スタジオで初の海外レコーディング(アルバム『Shangri-la』)を行なう。
1981
資生堂キャンペーン"ひかりとパラソル"イメージソング「サマーピープル」を担当。
1982
年間ツアー公演数は60本を超し、ツアー中、6月にフォーライフレコード社長を辞任。
3月映画「刑事物語」主題歌「唇をかみしめて」発売。業界初の片面シングル。
1985
7月 10年ぶりの"つま恋"ライブを開催。"ONE LAST NIGHT IN つま恋" は、46人のミュージシャンを集め、10時間半演奏を続けた巨大イベントで拓郎は72曲を歌った。
映画"幕末青春グラフィティRonin坂本竜馬"(河合義隆監督)に高杉晋作役で出演。
1986
4月 加藤和彦氏をプロデューサーに迎え、ニューヨーク、パワーステーション・スタジオでアルバム『サマルカンド・ブルー』をレコーディング。
1987
松本隆監督作品"微熱少年" にカメラマン役で出演。
1988
3月 サッポロドライCMに出演、イメージソング「すなおになれば」発売。
6月 新宿パワーステーションで、久々のライブハウス・コンサートを行う。
1989
3月 東京ドームでコンサートを開催。5万人を動員する。
9月 日本テレビ系ドラマ『あの夏に抱かれたい』の主題歌「落陽」発売。
1992
人口2万4千人、新潟県吉田町の有志 "若者共和国" の依頼で「吉田町の唄」をつくる。
1996
10月 フジテレビ系音楽番組『LOVE LOVEあいしてる』にKinKi Kids、篠原ともえとともにレギュラー出演開始。番組テーマソング「全部だきしめて」を作曲。
1997
4月 TBS「吉田拓郎のお喋り道楽」スタート。 7月 就職情報誌"とらばーゆ" のCMで「人間なんて」が取り上げられ話題となる。
10月 ニッポン放送『オールナイトニッポンDX』の月曜パーソナリティになる。
11月 吉田拓郎とLOVE LOVEオールスターズの『みんな大好き』発売。
これは、吉田建、武部聡志、高中正義、中川雅也のアレンジ、番組に登場した数多くのトップ・ミュージシャンの参加で制作された。
1999
4月 サンヨー食品「カップスター」のCMに出演。
9月 フォーライフレコードとの専属アーティスト契約を解消。
2000
4月 インペリアル・レコードに移籍。
10月 テレビ朝日レギュラー番組「T×2 SHOW」(/w THE ALFEE 高見沢氏)。
ニッポン放送レギュラー番組「Super!! Music Stadium」スタート。
2001
7月 ユニクロ CM出演。
10月 ニッポン放送レギュラー番組「吉田拓郎とアスリートな彼女たち」スタート。
2002
4月 エッセイ集「もういらない」発売。
10月 文化放送「セイ!ヤング21」スタート。
2003
3月 オリジナルアルバム「月夜のカヌー」発売。
5月 DVD「101st Live 02.10.30」発売。
10月 30年ぶりのビッグバンドを瀬尾一三と結成し、国際フォーラムを皮切りに全国ツアー開始
ニッポン放送「吉田拓郎 わがままベスト10」スタート(2004年3月まで)。
2005
9月 3年連続となる "TAKURO&his BIG GROUP with SEO 2005" ツアー開始。
2006
3月 05年のツアー映像と秘蔵フィルムを収録した2枚組DVD「TAKURO & his BIG GROUP with SEO 2005 Live&His RARE Films」発売。
9月 31年ぶりにつま恋でかぐや姫との野外イベントを実施
12月 '06年9月23日に聖地「つま恋」で行われた、吉田拓郎&かぐや姫の野外コンサートを特別編集した3枚組DVD「Forever Young Concert in つま恋 2006」発売。
2007
10月 8月よりスタートした全国ツアーが体調不良により中止となる。
2008
2月 ニッポン放送10年ぶりに「吉田拓郎のオールナイトニッポン」に出演。
8月 ニッポン放送特番「吉田拓郎 残暑お見舞い申し上げます」に出演。
2009
2月 エイベックスへの移籍と最後の全国ツアーを発表
3月 NHK BS2のスタジオライブ「大いなる明日へ~復活!吉田拓郎~」に出演。
4月 ニッポン放送「オールナイトニッポン ゴールド」に出演。
オリジナルとしては6年ぶり、25年ぶりに全曲作詞作曲を手がけた移籍第1弾アルバム『午前中に・・・』発売。
オリコンアルバムチャートでTOP10最年長記録となる6位を記録。
6月 最後の全国ツアー「Have A Nice day LIVE 2009」開始。(4公演を行い中止)。
11月 「Have A Nice day LIVE 2009」ツアーを収録したライブCD「18時開演」を発売。
ニッポン放送「坂崎幸之助と吉田拓郎の オールナイトニッポンゴールド」スタート
2010
4月 ニッポン放送 ショウアップナイターテーマ曲「that's it やったね」を書き下ろす。
9月 ニッポン放送「元気です!吉田拓郎」スタート
2011
4月 NHK BS時代劇『新選組血風録』主題歌「慕情」を書き下ろす。
2012
6月 3年ぶりのNEW ALBUM『午後の天気』が6月20日に発売。
10月 コチラも3年ぶりのライブ “吉田拓郎 LIVE 2012”4公演を関東圏にて開催決定。



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