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@ぴあ/HOTスポーツの人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。8月6日に行われたイベントの模様を、そのままお届けします。
 vol.2

「どうなる! 2000年プロ野球」

出演者プロフィール
ホスト:金子達仁(スポーツライター・右)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターとなり、スペインに移住。「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などベストセラーを生み出した。今、日本で最も売れ、最も刺激的なスポーツ・ノンフィクション作家。
ゲスト:玉木正之(スポーツライター・中央)
52年、京都府生まれ。作家、スポーツライター、音楽評論家。スポーツから音楽まで、幅広く執筆、評論活動を展開。主な著書に、「スポーツとは何か」(講談社現代新書)、「オペラ道場入門」(小学館)など。
ダンカン(タレント・左)
'59年、東京都生まれ。お笑い芸人。バラエティ番組のほか、脚本・主演映画「生きない」をはじめ、役者としても活躍。阪神タイガースの熱烈ファンで評論活動もしている。

―― プロ野球も後半戦に突入しましたが、今回は「2000年のプロ野球」をテーマとして、阪神タイガースの話題を中心にお話しいただきたいと思います。ゲストにスポーツライターの玉木正之さんとタレントのダンカンさんをお招きしております。それでは、みなさん拍手でお迎えください。(ゲスト登場)

金子:僕がとってもソフトでマイルドな人間に感じられますね、この顔触れだと。さあ、どうしましょうか? いきなり、阪神の話を進めますか? かなり暗いですよね。
ダンカン:とりあえずは、首位なんでジャイアンツの話でいいんじゃないですか。
金子:わかりました。
ダンカン:ジャイアンツね、僕はっきり言って嫌いなんです。お金で優勝を買うチームは。ただし、今年に限っては、ON対決があってもいいなと思うんですよ。
玉木:僕もそう思う。
ダンカン:なぜかと言いいますとね。ONというのは、2000年の今年で終わると思うんです。20世紀というのは昭和だと思うんですよ。その昭和がどこから始まるかと考えると、昭和30年代、つまりテレビ放送が始まった時からなんです、僕にとっては。それを反映してきたのが長嶋であり、王なんです。今のお父さんたちがONを見て力を得て、日本を高度成長させてようとがんばってきてくれたお陰で、今の日本がある気がしますから。そんなお父さんたちへの恩返しの意味を込めて、ON対決で巨人が優勝してくれても、今年はいいなあと思うんですよ。
玉木:大賛成だね。日本シリーズは巨人vsダイエー。それで、ひとつの時代が終わって、巨人がつぶれると。
ダンカン:そうそう。
玉木:団塊の世代・・・あっ、いるかな、ここにも。もし、いたら申し訳ありませんが・・・団塊の世代より上の人には社会から引退してもらうと。
ダンカン:うーん、それでいいんですよ。ただちょっと困るのは、優勝するとミスターを引退させにくい。また、来年もやりそうなんですよね。
玉木:僕も今年の春、長嶋さんの時代は終わったと思って、『サヨナラ長嶋茂雄さん』というコラムを書いたんだけど。巨人ファンからウンコを送りつけられたりとかね、その程度の反響しかなかったのが残念だね。
ダンカン:僕もそう思います。だって、今さら永久欠番の3番じゃないですよ。封印しておくものじゃないですか、みなさんの記憶の中に。
金子:僕、阪神ファンとして非常に面白いなって思っているのは、巨人が独走しているのに視聴率が下がってるじゃないですか。これが例えば、昭和30年代、40年代なら、ちょっと違うのかなって気がするんですが。
玉木:巨人が強ければいいという時代はもう終わったですね。それと、2年前かな、視聴率の詳しい年代別調査結果が出ましてね。それでは、巨人戦を見ている人の中で一番多いのは40歳以上の男性。20歳前後の女性とか若い男性は、もうほとんどプロ野球を見なくなったというんですよね。明らかにファンは変わってきてる。それから、プロ野球自体の観客動員数っていうのがメチャクチャな数字じゃないですか、はっきり言うとね。だから、プロ野球のファンが増えてるのか、減ってるのかもわからない。野球自体が発展しているのかどうかもわからない。ホラ、僕らがこどもの頃はまだテレビのニュース番組で、「梅雨の晴れ間、東京・丸の内のオフィス街ではキャッチボールをするサラリーマンが・・・」なんて言ってたでしょう。
ダンカン:ありましたね。
玉木:近所の中華料理屋のオッチャンが、休み時間にエプロンしたままキャッチボールをしてたりというのも、よくあったじゃないですか。
ダンカン:どこの路地見てもやってました、キャッチボール。
金子:そういう人は、今絶滅しましたね。
玉木:これは、やっぱり野球というスポーツが日本の中では発展してない証拠だなって。金子さんは詳しいと思うけど、ブラジルの少年なんか、どこでもサッカーやるわけじゃないですか。
金子:はい。
玉木:そういう雰囲気っていうの、昔は日本にもありましたよね。それが野球を支えてたはずなんですけどね。
ダンカン:我々の小さい頃は、バットがなくても木材でやってましたからね。
玉木:棒切れとゴム毬でもあればよかったわけでしょ。
ダンカン:うーん。
金子:日本の場合もそうなんでしょうけど、面白いと思うのは、ヨーロッパや南米に行っても、サッカー選手が同じことを嘆くわけですよ。「俺たちのこどもの頃は、みんなが路地でサッカーやってた」と。
玉木:ホンマ? それ面白いね。都市が発展してくると必然的に仕方ないのかな。
ダンカン:巨人の視聴率がこれだけ落ちてるっていうのはねえ、もうひとつ理由があると思うんです。清原とか、松井とか、マルティネスとか、打つ人だけですよね。目立っているのは。我々がこどもの時って、確かに巨人が9年連続日本一になるわけですよ。
金子:はい。
ダンカン:もう巨人が勝つのはわかってるんだけども、みんなが注目してるのは、長嶋や王だけじゃなく、バントで送る土井がいて、塀際の魔術師と言われた高田がいて、頭脳派キャッチャーの森さんがいたし、渋い国松もいたとか。そういうひとりひとりに色があって、見ている方としては、「俺は王にはなれないけど、土井の役目だったらクラスのチームの中でできるぞ」って。そういう、自分を照らし合わせられるものがあったような。でも、今は全部同じだから、そんなに上手くない子は、「どうせ清原にはなれないもんなぁ」って、野球にソッポ向いてるんじゃないかな。
金子:野球が遠くなってしまったということですか。オリンピックはどうですか。注目されませんか。
ダンカン:僕、単純にオリンピックで松井秀喜とかね、惚れちゃうような選手を見たいですよ。
玉木:僕も見たいですよ。
ダンカン:ねえ。でも、巨人がやっぱり反対するわけですよ。自分のところが優勝するために。僕の夢は、9月になって巨人の優勝が決まる日に、オリンピックで松坂大輔が投げて、日本が優勝を決める日と重なって、時間帯もまったく同じだったらいいなぁって。それで、どちらもテレビ放送があるわけですが、オリンピックが35パーセント、巨人戦がたった6パーセント、そんなふうになったらいいですよね。
玉木:狙いは大賛成やけどね、オリンピックで日本は勝てないよ。キューバ、アメリカ、それからオーストラリア、韓国。この4チームが決勝トーナメントに行くって。そしたら日本は、どこに入ったらええねん。
金子:ハハハハ。
玉木:だから、一回負けんとしゃーないね。負けて、こらいかん、どないしたらええんやろうってならないと。まあ、阪神は負け続けても全然ようならへんけど。
ダンカン:ねえ。それでも阪神はね、キャラクターがいいから愛すべきチームであるんですよ。
玉木:そうとしか言いようがない。
ダンカン:だって、中込なんて投手は体重が100kgを超えてるんですよ。そんなピッチャー今まで日本のプロ野球にいました? 先日ね、中込と話してたら、ひとつ悩みがあるんだって。何だって聞いたら、「このまま太り続けると、セットポジションの時にグラブに手が回らなくなるんじゃないか」って言ってました、まじめに。
玉木:江夏は100kg超えてないの。
ダンカン:江夏さんはねえ、最高で80kgちょっとですね。
玉木:そんなやった。
ダンカン:ええ。それで、中込は去年の夏場、一番暑い時期に調子悪くて、2軍に落とされたんですよ。2週間ぐらい落とされたんですけど、炎天下で練習して、試合するわけですよね、ウエスタンリーグというのは。でも、2週間たって戻ってきた時に7kg増えてたんですから。汗が出るからビールがうまくってって。珍しいでしょ? 15年前に優勝してから、ずっとそんな選手ばっかりですからね。
玉木:その前の時は、優勝までに20年かかったからな。
ダンカン:うーん。
玉木:まだ5年あるよ。あのね、15年間負け続けてもファンがいる球団って何なんだろうって、何度も考えたことがあるんだけど。やっぱり、最高に素晴らしいのは甲子園ですよ。
ダンカン:一番誇れますね、あれは。
玉木:あの野球場だけは、スポーツ施設のハードウエアとして最高でね。大正時代に造られたんだけど、日本初のスポーツコンプレックスやったんですよ。複合総合競技場。
ダンカン:だから、屋根がずっと付いてたんですね。
玉木:昔は、内野は全部屋根だったんです。あれは雨でもラグビーとかサッカーが見られるように屋根付けたんよ。鉄だったんで、第2次大戦中にゼロ戦作るために、もってかれてしまったけど。今はジュラルミン。
ダンカン:それでちょっと小さくなったけど。
玉木:そう。今の横浜の国際競技場のようなもの。
金子:へえー。
玉木:観客席の下にはプールもあったし、アルプススタンドに雪運んでね、スキーのジャンプ大会やったこともあるんですよ。
ダンカン:本当ですか。
玉木:だから、甲子園っていうのはなかなかのスタジアムなんですよ。ただ、建ててすぐにボロボロになったんですよ。なんでか知らんけど、コンクリートの手抜きかなぁ。それで、ボロ隠しにツタをはやそうってね。ほんで、それが今では名物になったというわけ。
ダンカン:そうなんですよね。
金子:ファンもやっぱり独特ですよね。去年『Number』で阪神の特集をしたんですが、優勝の可能性がちょっと見えた時に、甲子園の試合を撮影したスペイン人のカメラマンが、もうびっくりするんですよ。「日本には、本当のスポーツファンというのはいないと思ってたけど、ここは違う」って。
玉木:甲子園がいいのはね、参道があるんですよ。駅下りてから。
ダンカン:あります、あります。
玉木:参道がふたつあって、真ん中に大きな道と右側に細い道。それでね、右側の細い道に関東炊き屋が並んでるわけですよ。
ダンカン:はい、はい。
玉木:「おいでやす、おいしいおまっせ」とかってやってるわけですよ。でもね、本当のファンというのは、その参道に来て雰囲気を味わって、どっかの店に入ってテレビを見るよ。テレビの方がよう見えると。
ダンカン:あーあ。
玉木:昔は東洋一のスタジアムって言われてね、今でも僕はそうやと思ってるんですよ。あの頃から甲子園球場のようなものをいっぱい造っておけば、もっとスポーツに対する見方っていうのも変わったはずなんですよね。やっぱり一種の豊かさみたいなものがあるわけでしょ。
ダンカン:グラウンド下りても、ホント、芝が絨毯のようですからねえ。
玉木:あれ、外野に看板立ててる阪神園芸がやっとんねん。
ダンカン:そう、そうです。
玉木:儲けんのうまいでぇ。自分たちで園芸屋作りおって。
金子:例えば、ヨーロッパやアメリカに行ったらこのスタジアムに行ってみたい、足を踏み入れてみたいってあるじゃないですか。僕、ボストンでフェンウエイパークでしたっけ、野球場に行きましたけど、やっぱりすごいですよね雰囲気が。
玉木:行くだけでいいよね。
金子:はい。僕も甲子園に行って、阪神負けたら嫌ですけど、それでも東京ドームで負けるよりはマシかなって。
ダンカン:そう、そう。わかりますねえ。
金子:甲子園は、スタジアムを造る人、設計する人、みんなの愛が詰まってるなあっていう感じがするんですよね。
玉木:メシもちゃんとあるしね。きつねうどんとカレーがうまくて。
ダンカン:珍しいのは、球場の中に握り寿司がありますからね。
金子:ありますね。
玉木:焼きとりもいいね。
ダンカン:でかいですよねえ。
玉木:食いもんとか飲みもんがあって、ちゃんとスポーツやってたら、行きたくなるよね。なかなか考えてますよ、甲子園は。
ダンカン:でしょうねえ。
玉木:それにしても、何で阪神ファンやねん、ふたりとも。僕は関西出身やからやけど。
ダンカン:僕は昭和40年ぐらいからしょっちゅう後楽園球場で村山実を見てましてね。とにかくプレイボールの一球目から最後の130球目まで、全力で立ち向かって行って、それでも巨人に一歩及ばず負けてしまう。
玉木:昭和40年というのは憎いな。39年に優勝してるから、優勝経験が長い間なかったわけね。
ダンカン:ないんですよ。それでね、村山を見て大の大人が泣くんですもん。昔の大人って絶対泣かなかったですからね。感動しましたよ。
玉木:村山さんって、物凄くおかしいと思わへん? 『巨人の星』っていう漫画あったじゃないですか。
ダンカン:はい。
玉木:村山さんはその主人公の星飛雄馬でしょ。
ダンカン:間違いなく、星飛雄馬ですよ。
玉木:で、阪神の花形満、あれは長嶋ですよね。
ダンカン:言われてみれば。キャラクター的には。
玉木:巨人で“星”と言われる選手を現実で考えると、一番最初は沢村栄治。それから川上哲治、長嶋茂雄、王貞治、以下なしというのが系譜でしょ。そしたら阪神の系譜を考えたら、一番最初は景浦勝なんですよ。それから藤村富美男、村山実、田淵幸一、掛布雅之。やっぱり村山と長嶋は入る球団を間違えたんやね。村山実さんが巨人に入って『巨人の星』やって、長嶋さんが阪神に行って藤村富美男さんの跡継いでたら、これほどわかりやすいことはない。巨人と阪神の色分けがね、ちゃんとできたんですよ。巨人の“星”は、真面目に目ん玉から火噴いてね。ほんで、家帰ったらオヤッサンが机飛ばして。
ダンカン:ちゃぶ台ね。
玉木:そんで、阪神の方は外車に乗ってチャラチャラして。女の子連れて、ホームラン打つと。決まりですよ。
ダンカン:金子さんはどうして阪神ファンになったんですか?
金子:僕、横浜で生まれ育ったんですけど、小学校の時に父親の転勤で神戸に行きましてね。その頃はまだ、巨人ファンだったんですよ。ところがこっちへ戻ってきたら、どうしても横浜の街に馴染めなくて。神戸懐かしさで、急速に阪神ファンに傾倒していきましたね。
ダンカン:横浜、神戸って言ったらメチャクチャかっこいいじゃないですか。そのままにしておけばよかったんですよ。阪神ファンになって、ガクンと落ちましたね。
金子:今はそうでもなくなりましたけど、僕の場合それにプラスして、日本のサッカーがメチャクチャ弱かった時代ですから。自分くらい幸の薄い奴はいないと思ってました。
玉木:ホンマや。
金子:昭和41年生まれですから、僕。15年前まで阪神の優勝見てないわけですよ。メキシコ・オリンピックも見てないし。
玉木:なるほど。
金子:阪神もサッカーも勝つところを見たことがない。
玉木:ええとこ、知らんわけやな。でも、阪神で優勝見たことないっていうのは、自慢にも何にもならへんしなあ。俺かて、阪神ファンになったの昭和40年なんよ。
ダンカン:あっ、じゃあ1回しか見てないんですか、阪神の優勝。
玉木:そう。昭和39年は小学校6年、それまで長嶋さんが好きで巨人ファンやったんですよ。昭和40年になって中学1年生になったら、担任の教師が「お前らこどもとちゃうんやから」って言うわけですよ。そんで、巨人ファンのままじゃいかんと。
ダンカン:その先生もムチャクチャですね。
玉木:関西の人間でね、きちんと元服する奴は、近鉄ファンとかにちゃーんとなりおるんですよ。ちょっとヤワな僕見たいな人間は、やっぱりみんなと一緒の阪神ファン。それが昭和40年やったもんでね、この前の優勝まで苦節20年。ほんまに辛かったなあ。
ダンカン:しみじみしますね。
玉木:でもね、応援しててエエことも山ほどあったんですよ。例えば、オールスター戦で江夏が9人連続三振とったとか。
ダンカン:西宮球場で。感動させてくれますよね。オールスターというのはみなさんご存じだと思いますけど、3回しか投げられないから、バッター9人っていったら全部ですよね。それを全部三振にとるなんて、もう漫画の世界じゃないですか。
玉木:最後に加藤英司が出てきてファールフライ打った時、キャッチャーが田淵でね、江夏が「追うな」って言ったとか、言わないとか。
ダンカン:田淵さんに聞くと、最初から取れないから追う気はなかったって。
玉木:それから、江夏が延長12回ノーヒットノーラン。しかも、サヨナラホーマーを自分で打つという。そうしたら、試合後の記者会見で江夏が「野球はひとりでもできる」と言いよった。感激やったねえ。ほんまに。
ダンカン:我々ファンには感激ですけど、チーム内では嫌われたらしいですよ。
玉木:過去は語りたくないな。未来を語ろう。
金子:でも、過去を語ってらっしゃる時が、玉木さん一番元気そうですよ。
玉木:それ、年取ったっていうことや。未来あらへんのや、もう。
ダンカン:最近だったら川藤幸三さん。いい話ありますよね。球団から「ユニフォーム脱いでくれないか」って言われてね。確かに、力はなかったんですよ。「もうウチとしては必要ないから」って言われたんだけど。その後に、「若い奴に譲ってくれ」って言われたそのひと言でカチーンときて、「何で自分が若い奴に譲んなきゃいけないんだ」って。「金はいらないから、もう一年どんなことをしてでもユニフォームを着る」と決めて、それで代打の切り札になりましたからね。
玉木:あの人ほど、ヒット打たずに人気の出た選手はいないよね。
ダンカン:すごいですよ。通算で200何本でしたっけ。イチローは1年で210本打ってますからね。それでも、18年目でオールスター戦に初めて出たんですよ。代打で出てきた時、川藤さん、かっこよかったですよ。カーンと左中間ド真ん中。普通だったら楽々ツーベースなのに、秋山が返球してきたんで、必死に走ってスライディング。でも、タッチアウトですもんね。
玉木:あった、あった。
ダンカン:しかも、そのスライディングがベースに全然届いてなかったもんなぁ。
玉木:9回裏ツーアウト満塁で、ここで一打出たら逆転っていう時に代打で登場して、三振しても許されたのはあの人だけやね。
ダンカン:すごいですよ、堂々と三振して帰ってきて。ベンチで「アノヤロー変化球投げやがった」って。
玉木:あれは結構ねえ、吉本新喜劇のパターンでしょ。池乃めだかがやくざみたいな男と喧嘩してね、ボコボコにやられるんだけど「オッ、今日はこのぐらいにしといてやらー」って。
ダンカン:阪神の場合、得点だけじゃなく芸術点も含んでますからね。
玉木:阪神の芸術点は高いよね。
ダンカン:かなり高いですよね。だって、ミスター・タイガースの掛布がですよ、“カッカッカッカッ蚊のカッチャン”のCMやってましたからねえ。
玉木:思い出した。岡田もやってるやん、うどんの。あれもようやるなあ。関西人じゃなくて、千葉県生まれの掛布でもあそこまで芸ができるようになって、ホームラン王も取れたんだから。長嶋さんが入ってたらもっと凄かったよ。日本を代表する大選手と同時に、大エンターテイナーになってた。
ダンカン:阪神に行くと血が変わってくるんですよね。さっきの川藤さんが評論家の時の話ですけど。ノーアウトランナー1・2塁で8番バッターの時、アナウンサーが「川藤さん、ここはどういうふうに攻めたらいいですかね、送りバントですか」って聞いたら、川藤さん「ヒット打ったらええんや」ですもん。
玉木:俺、川藤さんと阪神の安芸キャンプの紅白戦の実況解説やったことがあるの。
ダンカン:すごいでしょう。
玉木:もう、最高やね。「イヤー、打っても阪神勝ちやし、守っても阪神勝ちやし。こんな見やすいゲームないなあ」って。
ダンカン:俺、その試合行ってますよ。試合が終わってから川藤さんが「ダンカンよかったなあ、阪神勝って」って握手求められましたもん。毎年の恒例です、あれは。
金子:せっかくですから、おふたりに何か聞いてみたい方いらっしゃいましたら、手を挙げて頂けます? はい、どうぞ。
客:阪神ファンなんですけども。阪神って、バース以外に外国人選手の獲得に成功している例って、ほとんどないと思うんですけど。
ダンカン:ないこともない。
玉木:ある、ある。昔はバッキーね。
ダンカン:バッキーは大きいですよ。
玉木:それに、ブリーデン、ラインバックも。
ダンカン:ラインバックはよかったですね。“空白の一日”を利用して、無理矢理巨人に入った江川卓のデビュー戦で。
玉木:逆転スリーラン。
ダンカン:打ちましたよね。
玉木:ソロムコっていうのもいてね。
ダンカン:いた、いた。アメリカに戻ってから、鍋を売りつけにまたやって来たんですよね。
玉木:そうそう。
金子:フィルダーもいましたね。
玉木:アメリカでホームラン王になった。
ダンカン:デトロイト・タイガースでね。
玉木:外国人選手の活躍度、割合としてはいいんじゃないの。
ダンカン:ここ最近はパッとしないんですけどね。
玉木:関西のチームに入った外国人選手は、結構活躍するんですよ。広島を除いて。
ダンカン:広島はちょっとお金がなさ過ぎですから。
玉木:いや、ほんまに。関西に住むと、神戸があるでしょう。東京にいて、六本木に飲みに行くと、外国人グレるんですけど。神戸で飲むとね、外国人同士の付き合いがうまくいくみたい。
ダンカン:観光旅行みたいな人もいましたよね、グリーンウェルなんて。
玉木:いましたね。
ダンカン:大阪から東京に一回遠征して、観光したらそのまま帰りましたよ。
玉木:あれも、芸のつもりやったんでしょ。
ダンカン:ミスター・レッドソックスだったんだけど、おかしいなあ。
金子:ヒット1本あたり、5000万円でしたよね、確かね。
ダンカン:あと、一番ひどいのはですね、小林繁さんに聞いた話なんですけど。ある外国人投手なんて、カーブの握り方を知らなかったって。ホント、そんなのいたらしいですよ。
玉木:すごいなあ、江夏さんの新人の時や。カーブの握り方知らんくせにサインに首振って。ストレートしか投げられへんくせに、カーブもあるように見せてたっていうね。
ダンカン:それでも、年間401奪三振ですからね。
玉木:2年目でね。新人の時でも280ぐらいだったかな。
ダンカン:とってますね。年間401奪三振って世界記録じゃないですか。
玉木:一試合平均が11.9ぐらいでしょ。9イニングで約12コですよ。
ダンカン:凄いですね。
玉木:今の質問に答えるなら、阪神の外国人選手はけっして悪くはない。
ダンカン:確かに、最近パッとしないだけで。それでも、今年のペナントレースも、ちゃんと30本塁打打てるヤツと3割打てる打点の多い外国人バッターが揃っていたら、優勝戦線に残れるんじゃないかって。今年はちょっと、寂しかったですけどね。
金子:・・・というようなところでよろしいですよね。もう、グーの音もでないって感じでしょ。では、次?
客2:スミマセン、質問じゃないんですけど、パ・リーグの話をちょっとしていただけますか。
ダンカン:パ・リーグの方が今、全然面白いもんね。僕、失礼だと思うのはね、イチローの打率は3割9分9厘ですよ、昨日まで。何でスポーツ新聞の1面にしないんだって。未だに巨人のことばっかりで。スポーツってはっきりしてるじゃないですか、勝つか負けるか。数字が上か下か。今イチローがトップなんだから、1面に持ってきてしかるべきなのに、そういうことをしない今のスポーツ新聞っておかしいなって思いますよ。
金子:優勝予想は?
ダンカン:パ・リーグは、僕ね、ダイエーが行きそうだと思いますよ。2.5ゲーム差ついたから言うわけじゃないけどね。去年のダイエーというのは、近鉄の“イテマエ”じゃないけど、イケイケですごくいいタイミングが重なって、優勝したような気がするんですよ。それで、今年はほかのチームから包囲網敷かれたら、やっぱりダイエーは細かい野球ができないんで、いいとこまで行っても落ちてくるなあって計算してたんですけど。この間オールスター戦の時に東京ドームに行って、城島くんとか小久保選手と話してたらね、全然雰囲気が違うんですよ。もう、大人のプロ野球選手になったっていう感じ。風格さえ感じるような。去年までなかったんですけどね。だから、本当の強いチームになったんじゃないかな。試合巧者のチームになったような。だから、ダイエーが今年も優勝するって思ってるんですけどね。
玉木:それでON決戦よ。
金子:たった一度の恩返しをしようと。
玉木:そうですね、プロ野球がこれでつぶれてくれたらええなあ。それで、新しいプロ野球が生まれたら。
ダンカン:どちらのファンですか?
客:西武です。
ダンカン:西武が行きそうですよ。
(場内:爆笑)
ダンカン:西武はピッチャーがねぇ。松坂くんがオリンピックに行っちゃったらキツイねぇ。西口あたりに踏ん張ってもらわないと。石井貴もちょっとへばってきてるし。あとは、試合を上手く運んでもらうしかないですね。
客:今年、ニューヨークにヤンキースとメッツのサブウェイシリーズを見に行ったんです。
玉木:羨ましい。
客:それで思ったんですけど、日本一を決める日本シリーズがあるなら、最下位シリーズっていうのはやらないんでしょうか?
ダンカン:僕はそれ、ずっと言ってんのよ。最下位シリーズを絶対やるべきだって。パ・リーグとセ・リーグのね。日本中に12球団あって、それぞれファンが熱心に一年間応援してくれるわけじゃないですか。弱くても本当に応援してくれてる。それなのに最下位っていうのは、ファンを裏切ったことになるわけですよ。だからね、パ・リーグとセ・リーグの最下位が、しかも普段プロ野球が行われないような地方に行って、そこで決着をつけるべきだって。そうすると、普段見てない人も生のプロ野球を見られて。こどもなんかねえ、生のプロ野球選手を見て感動して、大人になってもずっとプロ野球ファンでいてくれるじゃない。自分の息子にも話してね。そのくらいのみそぎをしてもいいと思いますよ、僕は。
玉木:2部リーグを作って入替え戦なんかしたらいい。
ダンカン:まずいですよ、一番まずい。
玉木:阪神、PL学園と入れ替わったりしてね。
ダンカン:シャレにならないですよ。3年ぐらい前の秋ですけど。新聞に、PL学園の練習試合の方が大きく出てたんですよ、阪神の記事よりも。
玉木:リーグの交流戦、あれ、日本でもやったらどうかって。パ・リーグなんかはやりたがってるでしょ。まあ、パ・リーグがやりたがってるのも、ちょっとやらしいところがあるわけで、巨人のおすそ分けが欲しいと。ほんで、セ・リーグはセ・リーグの方で既得権は守りたいと。次回のトークバトルに出てくる二宮清純が、セ・リーグの高原会長に「交流戦ぐらいやったらどうですか」って言ったら、高原さんが「パ・リーグにはマーケットがあるんですか?」って言ったって。そのうえ「有名な選手ってイチローぐらいでしょ」って。あの高原会長という人は野球何にも知らん人ですからね、はっきり言って。川島さんというコミッショナーもそれに近いけども。ここでは何言うてもええので、これナイショにしててくださいねって、どこがナイショやねん。
ダンカン:高原さん、巨人のメイが阪神の和田の頭目がけて投げた時のコメントが、ちょっとかっこ悪かったですね。「私もテレビで見ていましたが、あれはメイのよくない行為です」みたいなこと言って。テレビで見ててどうすんだって。会長なら、テレビ見てる時間があったら、球場に足を運びなさいって。
玉木:あの人ら、球場に行かないもんね。
ダンカン:だから、はっきり言って俺は、女の会長は許さない。
玉木:日本シリーズの時は来るんですよ、あの人らも。でも、日本シリーズの頃って西武球場は寒いじゃないですか。そんで、みんな裏の方へ行ってしまってね。野球見ないんですもん。あんな奴らが野球を仕切ってるかと思うと、ホンマに腹立ってくる。
ダンカン:だって、生で何試合見てますか? 俺、年間45から50試合は生でプロ野球を見ますよ。ちゃんと練習から行って。
玉木:ダンカンがコミッショナーになったら。
ダンカン:ホント、なりたいぐらい。
玉木:ホンマに。
金子:でも、高原さんに限らず、日本のスポーツのいわゆる協会のトップって言われてる方って、そのスポーツよりも協会の立場が好きな方が多いですよね。
ダンカン:だから、野球に携わった人にがんばってもらいたいんですよね。例えば、個人的には好きですよ、掛布雅之も江川卓も。江川なんか、巨人にああいう形で入ったけれども、素晴らしいピッチャーであった、怪物であったことは認めます。だけど、あのふたりはタレントになって、何億っていうお金を貰ってるわけですよ。でも、本当にやんなくちゃいけないのは、もう一度ユニフォームを着て、第二の掛布を育てる、第二の江川卓を育てるってことじゃないかなぁと、僕は思うんです。野球に恩返しするためにも。
玉木:それは、本当にその通りだと思う。ただ、その環境がないのも事実でしょ。どこに帰ってやったらええのかとかね。
ダンカン:「巨人のピッチングコーチやりたいです」って江川さんから言えば、すぐOK出ますよ。ただ、今3億円稼いでいるのが、3000万円になって収入が10分の1になるから、やめられないでしょうけどね。だから、僕は原辰徳って意外に好きなんですよ。NHKでスポーツキャスターやって、何億というお金稼いでいたのに、それが今は巨人のコーチですもんね。「俺は現場でユニフォーム着てどうにかしてチームを作っていきたいんだ」っていう気持ちがあるのがうれしいですよね。
玉木:僕もね、原っていう人をけっこう評価してるところがあるんだけれども。あの人の精神っていうのは、やっぱり東海大学に入って、首都リーグでやってきた時に培われた部分があってね。大学選手権なんか、首都リーグ代表の原はストライクゾーンがこんなに大きくて。東京六大学の法政の選手は、ストライクゾーンがこんなに狭い。そんな差別を受けながらやってたわけですよ。そこでそういう精神力が培われたのかもしれないね。
ダンカン:そうですね。でも逆に、原が東京六大学だったらつぶれてたかもしれないですしね。
金子:それでは最後になりますが、ダンカンさん、ひと言お願いします。
ダンカン:どうも長い間ありがとうございました。なんかすごくねえ、熱心に聞いてくださって。くだらない話してるのに申し訳ないなあっていう、アッ、イヤ、お客さん頷かないでくださいよ。僕も巨人の文句を言ったりなんかするけど、やっぱり気になるから言ってるんであって。巨人は嫌いだけど、松井くんみたいな巨人の選手は大好きだし。逆に、阪神は好きなんだけど、阪神の選手は体たらくだから嫌いなんですよ。でもまあ、最終的には阪神が好きというか、スポーツが好きなんで、またどこかでみなさんとお会いしたいなあと思います。ありがとうございました。
金子:玉木さん、お願いします。
玉木:僕はビール飲んで舌が回り過ぎまして、失礼もあったと思いますけど。プロ野球っていうのは、ダンカンさんと一緒でホンマ好きなんです。はっきり言うと、サッカーより好きなんです。けど、サッカーの組織、Jリーグの方がまだマシなんですね。プロ野球という組織には、Jリーグのような組織になってもらいたいんです。まあ、今日はホント、楽しく喋らせてもらいました。ありがとうございました。
金子:エーっとですね、僕はまずスペインに住んでた時に一番びっくりしたんですね。日本ですと「俺、サッカー嫌い」とか、「野球嫌い」って出ますよね。ところが、日本人というのは、例えば、僕と玉木さんが仲が悪かったとしても、面と向かって「オマエのこと嫌いや」っていうメンタリティーを持ち合わせてないわけです。“嫌い”という言葉を日常生活の中でできるだけ使わない民族。それが日本人だと思うんです。しかし、スポーツに関して言うと、いとも簡単に「嫌いだ」という言葉が出てきてしまう。これ、スポーツがまだ日本人の血になっていないひとつの証ではないかと思うんです。僕はサッカーでデビューした人間ですけれども、野球も大好き。おまけに阪神ファンですし。でも、残念ながらまだサッカーファンの中には、僕が野球の原稿を書くと「裏切り者」と言う人がいますし。逆に、野球をやっていた方がサッカーに入ってくると、「素人に何がわかるんだ」と。すごく排他的になってしまうところが日本にはある。“スポーツはスポーツ”、それでいいと思うんです。そんなわけで、今回はあえて“野球の話”を設定させていただきました。また、ぜひよろしくお願いいたします。どうも今日はありがとうございました。

取材・構成:CREW
撮影:末石直義