チケットのことならチケットぴあチケットぴあ

こんにちは、ゲストさん。会員登録はこちら

歌舞伎座ほか全国の公演情報

、インタビュー、ニュースなど 歌舞伎特集

歌舞伎座ほか全国の公演情報、インタビュー、ニュースなど 歌舞伎特集 歌舞伎らんど

  • 林真理子
    歌舞伎見物の達人・林真理子がススめる
    初心者おすすめの演目から観劇のコツまで
    デビュー以来、150冊以上もの小説やエッセイを出版し、30年もの長い間、ベストセラー作家であり続ける林真理子さんは、大の歌舞伎ファンとしても知られる。「大人になってから見始めた」という歌舞伎の魅力にどっぷりつかり、国内ばかりか海外の公演にも駆けつけるほど熱心だ。歌舞伎見物の達人だから知っている歌舞伎の魅力と、初心者向けのお薦め演目や、観劇のちょっとしたコツをお話いただいた。
    取材・文:沢 美也子
  • 歌舞伎を見に行くと身も心も休まる

    見たことがない人にとっては、歌舞伎は何となく敷居が高く感じられるもの。しかし、見慣れてしまえば、そこはひとつのパラダイスともなる。林さんにとっては、歌舞伎見物はリラックスの時間だと言う。そこには、昔からの日本の芝居見物の事情がある。

    「私が歌舞伎を見始めたのは、33歳か34歳の頃からです。でも、その前に亡くなった市川團十郎さんが襲名なさった時に、対談をしているんですよ。歌舞伎は1回も見たことがなかったのに、失礼な話ですよね(笑)。そんな私でも團十郎さんは、優しくお話してくだいましたけど。歌舞伎を見るきっかけとなったのは、日本舞踊を習っていたことですね。当時、私の周辺では日舞を習うのが流行で、(漫画家の)池田理代子さんも一緒でした。踊りを習っていると、歌舞伎にも興味がわいてくるんですね。『道成寺』とか、歌舞伎には舞踊の名作がたくさんありますから。ある人が言ってましたけど、昔は東京の下町の女性は三味線や踊りを習う人が多くて、見る側にも芸事の素養があったから、歌舞伎が身近なものだったと。今はそういう人は少ないですが、私はたまたま踊りを始めて、そのお仲間の中に歌舞伎に詳しい方がいて、歌舞伎を見る機会があったんです。見てみたら、面白かったんですよね。舞踊劇には当然、興味がいくし、お芝居も面白かったですね。それでよく見るようになっていきました。
    歌舞伎の一番いいところは、身体も心も休まることなんです。オペラにもよく行きますが、オペラは緊張します。前の日から緊張してしまうくらいです(笑)。独特の張りつめた空気があって、少しでも音をたてたら追い出されるような雰囲気ですから、上演中はとても気を遣います。でも、歌舞伎の場合は、ダラダラしてても平気ですよね。疲れている時は、ちょっとウトウトして、また見てということもあります。緊張しないで楽に見ていられるのが、とても嬉しいですね。考えてみれば昔はお弁当食べて、お着物を着替えて、好きな演目だけ見て、また食べてお酒飲んで、というように1日かけて遊ぶものでした。今、お相撲はそれが残っていますけど。歌舞伎のリラックスできる、ゆるい感じは、とてもいいですね」

    多彩な歌舞伎俳優たちの魅力と子供のころからの成長を見守る楽しみ

    歌舞伎座はもちろん、新橋演舞場や浅草公会堂の歌舞伎、平成中村座、渋谷のコクーン歌舞伎と、林さんは実にいろいろな劇場へ足を運ぶ。市川海老蔵襲名披露パリ公演にも駆けつけた。偏りのない幅広い見方は、好きな俳優がたくさんいるから。また、歌舞伎俳優は幼いころに初舞台を踏み、その後何十年も舞台に立ち続ける。世界で一番息の長い俳優たちかもしれない。初舞台から見続けた歌舞伎俳優が成長していく様子を見られるのも、歌舞伎独特の楽しみだ。

    林真理子「よく、好きな歌舞伎俳優は誰ですか?と聞かれますけど、私、好きな人がたくさんいすぎて言えないんですよ。以前、中村勘三郎さんにその話をしたら、『そのほうがいい。誰か一人を好きだと、その人がいなくなったら歌舞伎をみてくれなくなっちゃうから』と言っていました。あ、それならみんな好きでいいんだなとちょっと安心しましたね。あえてあげるなら、中村勘三郎さん、中村吉右衛門さん、坂東玉三郎さん、坂東三津五郎さん、市川海老蔵さん……もう数えきれないですね。元気な頃の勘三郎さんはすごく楽しませてくださったし、吉右衛門さんは、知的な感じがして好きです。玉三郎郎さんの『楊貴妃』はあまりに美しくて、劇場全体がどよめいたくらいです。三津五郎さんの魅力については、最近、書いたばかりなんですが、踊りが素晴らしい。昔の日本人の体型だから重心が下にきて、踊りがびしっと決まるんです。お芝居もいいですよね。世話物の『髪結新三』とか、すごくよかったです。三津五郎さんが出てくると、江戸の初夏の空気がわーっと漂ってくる。吉右衛門さんが直侍(『雪暮夜入谷畦道』)をおやりになった時は、これなら売れっ子の遊女が本気になっても仕方がないと納得するくらい、本当にセクシーでドキドキしました。
    私は京都の顔見世興行や、(四国の)こんぴら羅歌舞伎にも行くんですが、大阪で見た尾上菊之助さんの玉手御前(『摂州合邦辻』)は、驚きでした。娘役かと思ったら年増の人妻役で、こってりした色気があって、素晴らしかったですね。菊之助さんは、(前名の)丑之助時代に、新之助(現在の海老蔵)さんたちと『白波五人男』をやった時も見ていて、あの初々しい少年が、年増役をやるほど大人になったんだ!と、改めて思って。海老蔵さん、勘九郎さん、七之助さんたちも子供のころから見ていますが、どんどん役者として成長しいてますよね。そういう、成長する姿をずっと見ていくことができるというのも、歌舞伎ならではの魅力だと思います」

    歌舞伎を見る、その一歩を踏み出すために

    最近は、テレビドラマや映画に出演する歌舞伎俳優を見て、歌舞伎ファンになった人も多いのではないだろうか。
    ひとりのお気に入りを追いかけるうちに、きっと歌舞伎全体が好きになっていくはずだ。歌舞伎には興味があるけれど、観に行くきっかけがつかめない、一歩が踏み出せない人のために、林さんとっておきのコツとお薦めを教えてもらった。

    林真理子「歌舞伎は古典芸能だから堅苦しいというわけではありません。むしろ荒唐無稽な話が多くて、初めのうちはポカンとするかもしれない。私のお薦めはイヤホンガイドを使うことです。あらすじや、名台詞、ドラマの背景など解説してくれますから。台詞が難しくて分からないというハードルも、イヤホンガイドがあれば越えられますよ。私も最初はよく利用していました。それから、芸談をまとめた本を読んでから行くと、話の肝がよく分かって面白く見られると思います。硬い芸談ではなくて、例えば勘三郎さんの芸談などは読みやすくていいですよ。『夏祭浪花鑑』のお辰が(自ら美しい顔を傷つけて)“亭主が惚れているのは顔じゃない、心でござんす”と示す見せ場について、勘三郎さんは、“普通はたっぷりやるけど、僕はサラリとやりたい”と言っていて、そういう芸談がたくさん語られています。実際に見に行って、そこの場になると、“知ってる!”と思えて楽しいですよ。
    何から見てもいいと思いますが、お薦めは『髪結新三』や『源氏店』などの(江戸庶民の話を描いた)世話物からなら、なじみやすいと思います。河竹黙阿弥が書いた『白波五人男』や『三人吉三』も、話は面白いし隠れホモ関係が分かったりして楽しいですよ。歌舞伎の中に、江戸のBL(ボーイズラブ)を探すのも、ひとつの見方かもしれないですね(笑)。歌舞伎は長い狂言の一部を上演することが多いですが、『寺子屋』などは親子の情愛がテーマで、前後が分からなくても十分に楽しめます。それから、『夏祭浪花鑑』『法界坊』など、勘三郎さんがコクーン歌舞伎でおやりになった演目は間違いがないです。踊りを見るのもいいですね。『鏡獅子』や『道成寺』など、華やかな演目がいいのではないでしょうか」

    江戸時代の空気の中で、贅沢な時間を

    歌舞伎見物の楽しみは芝居を見ることだけではない。何を着て行こうか、どこで食事をしようか、お土産は何を買おうかなど、楽しみ方は多彩だ。

    「ある雑誌で、詳しい方が書いてました。その方は“数か月に一度、散財して身を清めなさい”と言っていました。いい着物を着て、おいしいものを食べて、お土産を買って、贅沢をする。でも、それは大人になってからの楽しみとして、とっておいていいと思います。若いうちは、自分のできる範囲で贅沢をする。コンビニのお弁当ではなくて、せめてデパ地下のちょっといいお弁当にするとか。少し前から着物姿の若い人も結構見かけますが、多分、古着なんでしょうね、サイズがあってなくて、腕がにょっきり出ているなど、困った人もいます。着物にするなら、きちんとした着物を着てほしいですね。洋服で行くにしても何でもいいやではなくて、ちょっとお洒落する。劇場に入ったら、自分もインテリアのひとつになるのだから、それを楽しまなくちゃね。自分も人を見ているでしょうが、人から見られているという意識も大切です。いつもの生活とは違う時間、江戸時代の雰囲気のある空間で、楽しい時間を過ごしてくれたらいいなと思います。歌舞伎座はお土産も種類が多くて楽しいですよ。和紙のポチ袋やレターセットなど可愛いものがたくさんあるし、よく買います。今、歌舞伎座が新しくなって、東京の新名所になっていますから、東京スカイツリーと同じ感覚で、一度行ってみてほしいですね。20年くらい前は、歌舞伎を見る若い人は、洒落た人という感覚があったのですが、そういう流れがまた生まれるといいですね」

    歌舞伎の公演、役者、チケットについてなど歌舞伎にまつわる情報を紹介するチケットぴあの「歌舞伎特集」ページです。