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歌舞伎座ほか全国の公演情報

、インタビュー、ニュースなど 歌舞伎特集

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  • 松井今朝子
    歌舞伎に造詣が深く、江戸の歌舞伎役者を主人公にした作品も数多く発表している直木賞作家の松井今朝子さん。作家デビュー前は歌舞伎の制作に携わり、1991年にぴあが発売した『歌舞伎ワンダーランド』は、松井さんが監修を手がけた歌舞伎ムック本の先駆けだ。また原作を担当した『まんが歌舞伎入門』が版を重ねるなど、歌舞伎の魅力を楽しく、わかりやすく浸透させてきた功労者でもある。長年にわたり歌舞伎を観続けてこられた松井さんに、「演劇鑑賞」とはひと味違う「歌舞伎見物」の楽しみをうかがった。
    取材・文 市川安紀
  • 「劇場で買い物」も楽しみのひとつ

    ひと昔前とは違って「歌舞伎を観に行くことの敷居は低くなっているのではないか」という松井さん。確かに近年では歌舞伎俳優の話題が世間を賑わすことも多く、串田和美、蜷川幸雄、野田秀樹、三谷幸喜、宮藤官九郎など現代演劇の人気者たちも歌舞伎の脚本や演出を手がけ、演劇ファンの関心も高い。「伝統芸能だから」と敬遠する向きは少なくなりつつあるだろう。その一方で、歌舞伎ならではの豊かな楽しみ方は、他の演劇とは趣を異にする魅力がある。

    松井今朝子「私は歌舞伎座に行くと、必ず佃煮を買っていたんです。劇場で佃煮を買うなんて、西洋の演劇観からすればあり得ないですよね。芝居とは何の関係もないのに(笑)。でも芝居だけではなく、飲んだり食べたり、買い物することも含めて満喫することが、歌舞伎の正統的な楽しみ方だと思うんですよ。作品を観るということに限れば、西洋の劇場のように開演時間も遅くして、休憩はバーで一杯軽く引っかけられる15分もあれば十分。でも、日本の芝居の観方は本来そうではなかったわけです。時間を買うつもりで、“今日は歌舞伎デー”というように、ゆったりとした気分で観るといいと思います。私は歌舞伎以外の演劇を観に行く機会も多いんですが、歌舞伎の場合はそうやって気持ちを切り替えて楽しむようにしています。今度新しくなる歌舞伎座も、階上に庭園が出来たり、地下がショッピングセンターのようになるそうですから、歌舞伎座探険も楽しいと思いますよ」

    好きな役者を見つけて気長に見守っていく

    芝居の内容のみならず、劇場に足を運ぶという非日常の行為そのものを大らかに楽しむ。「ハレ」の日ならではの気合いが入った着物姿で訪れる観客もおり、そんな艶姿を眺めるのも一興だ。とはいえ、やはり歌舞伎は役者あっての芸能。より深く歌舞伎に親しむには、ひいきの役者を見つけることが一番の近道だといえる。

    「誰か好きな役者をつくるからこそ、歌舞伎を観続けることが出来るんですよね。歌舞伎は観客が“観続ける”ということを前提につくられている芝居ですから。役者が通る花道のように、観客と役者の距離が近い演出が盛り込まれているのは、歌舞伎が役者のファンあっての演劇だという証拠です。私の場合は(六代目)中村歌右衛門に惚れ込んで、中学生の時には京都から新幹線に乗ってひとりで東京の歌舞伎座に通っていました。まぁ、これだけのめり込むのは普通じゃないですけどね(笑)。そうして観続けると、自分の好きな役者さんだけでなく、その周りにいる役者さんも覚えるようになる。『この人、だんだん良くなってきたな』、『あ、今回はいいじゃない?』なんて、親近感を抱くようになっていくんです。だいたい40年も観続ければ、一通りの演目を大体見られると思いますよ。やがて若手だった人たちが中堅になり、中堅の人たちが大御所になっていく。そういうことも含めて、“歌舞伎村”の住民になるという感覚です。その村の子供たちがどんなふうに育っていくのか、見守っていく楽しみがあるんですね」

    松井さんが歌舞伎を観始めた当時は、目当ての役者が出る幕しか観ない、という観客も少なくなかったとか。役者にとってはシビアな話だが、裏を返せば、それは観客が「自分だけの観方」を持っていたということだ。

    「自分のひいきじゃない役者が出てくると、後ろを向いてお弁当を食べるお客さんもいたようです。さすがに私が観出した頃には、そこまでするお客さんはいませんでしたけど。役者に限らず、“コレさえ見られれば”という自分なりのポイントを発見できるといいですよね。デザインや美術系の方々も、歌舞伎の衣裳やセットの色づかいが西洋美術では完全にあり得ない、と言って面白がる人は多いですよ。
    例えば“吊り枝”(作り物の梅や桜の枝を吊り下げた歌舞伎のセットの一部)なんて、不思議といえばすごく不思議です。それに歌舞伎では人が中に入る“馬”が当たり前のように出てくるけれど、これも西洋の演劇ではあり得ないそうです。蜷川幸雄さんが『ハムレット』をイギリスでなさった時に、フォーティンブラス役の俳優が(人が演じる)馬に乗って出てきたら、客席がドーッと笑っちゃったんですって。つまり西洋の伝統では、本物の馬を出すか、まったく出さないか、どちらかしかない。いかにも作り物然として、人が入っていることが丸わかりの馬なんて、冗談だと思われて失笑されるわけです。でも歌舞伎では、ものすごくシリアスなシーンでも馬が出てきたりします。私などは歌舞伎から観始めた人間なので抵抗はなかったんですが、黒衣の存在や“大向こう”(『○○屋!』などと客席から声を掛ける客)が気になってたまらない、という人もいるでしょうね」

    役者を育てる「怖い客」になろう

    誰でも未知のものに接すれば、驚き、戸惑うこともあるだろう。だがそれを自分の価値基準に照らして「あり得ない」と切り捨てるよりも、「何でそんなことになっちゃってるの?」と面白がることができれば、歌舞伎を観る醍醐味もどんどん深まっていくというものだ。

    「音の世界にしても、歌舞伎では雪の音や波の音を太鼓だけで表現します。そういうことは観ているうちにだんだんわかってくることであって、いっぺんに全てをわかろうとするのは、私は無理だと思いますよ。あまり性急に観ないということが肝心ですね。性急に全部観ようとすると、体がカチカチになってしまって、楽しむどころじゃありませんから。歌舞伎はなるべく長く観続けるのがいいというのは、そういうことなんです。
    昔はおじいちゃんやおばあちゃんが芝居に連れていってくれて、劇中の登場人物について『この人は悪い人なんだよ』なんて教えてもらいながら、だんだん見慣れていったんでしょうね。今はそうした“歌舞伎を観る側の伝統”が抜けていますから、難しい時代ではありますけど。日本人のメンタリティも確実に変わってきているので、悲劇的な場面で役者が泣き過ぎてしまうのが私はすごく気になります。今の世代の観客や役者さんにしてみたら泣かないほうがおかしいのかもしれないけれど、役者にあんまり泣かれてしまうと観ているほうは却って泣けないと私は思ってしまう。ただ、そうしてその時代を生きている人間の感覚は変わっていくものであって、変容しないものは続いていかないんですね。料理にしても、味覚は時代と共に変化してきました。感覚的な問題をどうとらえるかは永遠のテーマだと思うけれど、本当に素晴らしいものであれば、有無を言わさず訴えてくる何かがあるはずなんです。歌舞伎でもオペラでも、感動させられるものは自分に知識がなくても感動できると思います。特に役者の“オーラ”のようなものは、誰もが感じられるはずですから」

    役者のオーラに触れるという意味では、生まれ変わった歌舞伎座のお披露目公演は、まさにうってつけの機会だろう。現在の歌舞伎界を担う俳優たちが総出演し、歌舞伎の代表的演目もズラリと並ぶ。次代を背負って立つ若手の活躍も期待されるところだ。

    「それぞれの俳優たちの“これぞ”という演目をぶつけている豪華配役ですから、やはり見応えがあると思いますよ。芸の継承という点においても(十八代目)中村勘三郎さんを五十代の若さで失ったことはとても残念だけれど、歌舞伎界全体のことを考えて役者を束ねられる器量を備えた役者が出てくることを期待しています。歌舞伎座のひのき舞台というのはもともと役者にとっても衿を正すような役割があったはずで、私たち観客も役者が本気を出さずにはいられないような“怖い客”だと思わせることが必要だと思いますね。つまらなければ『つまらないんじゃない?』って感じてもいいし、素直な感覚で観ることが一番です。現代の時間軸とは違う時代に想像をめぐらせて、昔を旅してもらいたい。そうして長く観続けてほしいと願っています」

    インタビュー・コラム
    ライター・編集者市川安紀さんに聞いた!歌舞伎座のみどころ

    この当たり役を見逃すな!

    新開場を寿ぐ4、5、6月の歌舞伎座には、「この人ならこの役」という当たり役や贅沢な顔合わせが並ぶ。

    4月は中村吉右衛門の『熊谷陣屋』、尾上菊五郎の『弁天娘女男白浪』(弁天小僧)、片岡仁左衛門の『盛綱陣屋』、松本幸四郎の『勧進帳』で、名優たちの至芸をたっぷりと。5月は菊五郎、仁左衛門、幸四郎の大顔合わせによる『三人吉三』、坂田藤十郎の『伽羅先代萩』のほか、仁左衛門と坂東玉三郎の『廓文章』、玉三郎と尾上菊之助の『二人道成寺』で美の極致を。6月は祝祭性の高い『対面』と『助六』がオールスターキャストで華やかだ。また4月の『勧進帳』では市川染五郎尾上松緑中村勘九郎らが血気にはやる家来に扮するなど、そこここで若手の頼もしい成長ぶりも見られるはず。

    そして今は亡き中村勘三郎、市川團十郎に捧げる『お祭り』(4月)と『助六』には、特別な思いがこめられる。前者は勘三郎の盟友・坂東三津五郎を中心に、息子の勘九郎、七之助をはじめ勘三郎ゆかりの役者が総出演する。後者は亡き父に代わって市川海老蔵が江戸一番の色男・助六に扮する。絢爛豪華な江戸歌舞伎の粋に酔いながら故人を偲びたい。

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