
とある森。地上で、たくさんのセミが羽化して歌う頃。
羽化前のユウダチゼミのゴッホは、せっかちすぎる少年。
いつも急いで根の蜜を吸いすぎて、その根を弱らせてしまうゴッホは、幼虫仲間に馬鹿にされている。
そんな彼にもただ一人の理解者がいる。同じ年に卵から生まれた、穏やかな性格の少女ベアトリーチェである。
せっかちで、決まりを守ることも苦手なゴッホのために、ベアトリーチェは必ず羽化すればゴッホと恋人同士になることを約束してくれていた。
ゴッホは感謝して、そのかわり必ず、君のためだけに、ほかのどのセミよりも美しい声で歌うことを約束するのだった。
だがこの年、ゴッホの体には異変が訪れていた。せっかちすぎたせいだろうか、ゴッホの体は来年ではなく、今年羽化の準備を始めてしまったのだ。
セミは地上に出れば、絶対にその年に死ぬ。そうなれば、二度とベアトリーチェに会うこともできないのだ。
友人のミミズ・ホセに助けてもらって、なんとか地中にとどまろうと奮闘するゴッホ。
だが、いくら苦痛に耐えて踏ん張り続けても、体の変化はとまらない。とうとう、ゴッホの体が勝手に地上へ向かってしまう。
「待っていて、ベアトリーチェ。僕は必ず、来年の夏、君に歌を聴かせるから!」