インタビュー

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2010年ショパン国際ピアノコンクールの覇者、ユリアンナ・アヴデーエワが、東芝グランドコンサート2015にソリストとして登場する。演奏するのは、ショパンのピアノ協奏曲第1番。彼女にとって特別なレパートリーだ。優勝以来、世界が大きく注目する中でも、確かな足取りで充実した演奏活動を続けてきた彼女。ショパンのピアノ協奏曲への想いや、トゥガン・ソヒエフ指揮トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団について伺った。

ピアノ協奏曲第1番は、若きショパンの感情の万華鏡

――トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団、そしてソヒエフ氏とは初めての共演かと思いますが、どのようなイメージをお持ちですか?
独特の伝統を持つこのオーケストラとの共演を楽しみにしています。ソヒエフ氏については、トゥールーズやその他いくつかのオーケストラを指揮されている演奏を聴きましたが、彼の音楽へのアプローチ、情熱、そして作品についての豊かな知識に感銘をうけました。どんな共演になるのかすごく興味を持っています。
――ショパンのピアノ協奏曲第1番について、聴きどころをお聞かせください。
この作品は第1番という番号がつけられていますが、実際には第2番のあと、ショパンが祖国ポーランドを離れる直前に作曲されたものです。彼は当時、ワルシャワ音楽院の声楽科の女生徒に恋をしていました。ときに希望にあふれ、そしてときに悲観的になるというさまざまな若い感情が、万華鏡のように表現されています。第2楽章では特にそれが感じられるでしょう。また、ショパンはワルシャワのオペラハウスに頻繁に通っていて、イタリアのオペラ、なかでもベッリーニの作品に傾倒していました。第1楽章の第2テーマからはイタリアオペラの影響が強く感じられます。そして第3楽章ではクラコヴィアクというポーランドの踊りの要素が現れます。ひとつの作品の中に、たくさんの要素がつまっています。
――以前、1849年製のエラールピアノを使ってこの作品を録音されていますが、こうしたショパンの時代の楽器を演奏する経験は、現代ピアノでの演奏に影響を与えましたか?
もちろんです。ヒストリカル・ピアノで演奏するということは、私にとって、タイムマシンに乗って作曲家の時代に飛び込むような経験でした。ショパンが実際耳にしていたピアノの音は、当時のエラールやプレイエルのもので、現代ピアノの音とは異なります。最も違うのは、音の持続する長さ。そうしたピアノにおける演奏では、アーティキュレーション、ペダルの使い方、フレージングなどが全て異なるということを知りました。

そのおかげで、現代ピアノで演奏する際の表現の幅が豊かになったと思います。古楽器で実践した綿密なアーティキュレーションを現代ピアノで応用すると、とても新しい効果が得られるのです。音色のパレットが広がったと思います。
――この作品は、壮麗なピアノパートに比べてオーケストラパートがシンプルなことから、オーケストラパートはショパン以外が完成させたのではないかという説もありますね。アヴデーエワさんは、この作品のピアノとオーケストラの関係について、どう感じていらっしゃいますか?
オーケストラの役割はとても大きく、ピアノと同等だと思います。オーケストラとピアノのどちらかが主役でどちらかがサポート役ということはありません。確かに、ピアノパートだけ聴いてもある程度音楽として成り立つ作品ではありますが、ショパンには決してそういう意図はなかったと思います。彼はオーケストラの楽器のために、とても美しいソロを書いています。例えばバスーンのソロ、なかでも第2楽章で登場するバスーンとピアノによる対話は、まるでオペラの中の二重唱のようです。
――繰り返し演奏されている作品だと思いますが、作品に対しての特別な想い、または印象に残っているステージはありますか? 例えばショパンコンクールの本選でこの作品を演奏されたときには、演奏中にステージの明かりが消えるハプニングもありましたね。
驚くべきハプニングという意味では、もちろんあのステージが一番印象に残っていますね(笑)。ショパンコンクールという大舞台で、カメラや照明があまりにも多すぎた結果、電気系統のトラブルが起きて、演奏中に明かりが落ちてしまったのです。電気がついたり消えたり、まるでディスコのように(笑)。あんなことは、あの時が最初で最後です。

私にとって、ショパンコンクールで過ごした時間、そしてそこで演奏したこの協奏曲はやはり特別なものです。何度も繰り返し演奏していますが、その度に新しい発見があります。

特別な仙台。思い出のホールへの再訪

――優勝から4年が経ちました。ショパンコンクールの前後で変化したと思うことはありますか?
ショパンコンクールは私の人生のさまざまな扉を開いてくれました。そして、いろいろなオーケストラや指揮者との共演、世界中の新しい聴衆との出会いをもたらしてくれました。そんな中で、歳を重ね、人間的に成長したとは思いますが、私という人間自体は変わっていないと思います。少なくとも家族や友人からはそう言われます。そして、音楽へのアプローチ、目指しているゴールや理想も、全く変わっていません。
――ツアーでは仙台、名古屋、川崎などで演奏されますが、印象に残っている都市はありますか?
どの都市もとても好きです。なかでも仙台には特別な想いがあります。私が初めて仙台を訪れたのは2011年1月のこと。ワルシャワ・フィルとの日本ツアーで最初に演奏した街でした。聴衆のみなさんとの間にとても素敵な絆を感じたことを覚えています。しかし、その直後に東日本大震災が起きました。同じ年の11月、リサイタルのため仙台に戻ったときには、街の大きな変化に衝撃を受けました。その後も幾度か仙台を訪れる機会はありましたが、今回は、初めて演奏したホールへの久しぶりの訪問となります。あの場所で再び仙台のみなさんのために演奏できることを、光栄に思っています。
――最後に、今後の活動の予定や、取り組んでいきたい作曲家などついてお聞かせください。
ひとりの作曲家やある時代に焦点を当てるということは考えていません。さまざまなものを取り入れたプログラムを用意していくつもりです。例えば今は、バッハと、ショスタコーヴィチやメシアンなどの20世紀の音楽を結びつけたプログラムに興味があります。

もちろん、ショパンは私の演奏活動にとって特別な存在ですが、その意味でも他にまだまだ勉強したい作品がたくさんあります。例えば20世紀の音楽を勉強することは、ショパンを演奏するうえでの新しい視点をもたらしてくれます。その逆に、バッハなどの古い時代の作品を勉強することもショパンの解釈にとってプラスになります。だからこそ、いろいろなプログラムを取り上げていきたいのです。これから何に取り組んでいくことになるのか、私自身も興味がありますね。

取材・文:高坂はる香
撮影:吉田タカユキ
取材協力:スタインウェイ・ジャパン(東京・天王洲/新セレクションセンター)

INFORMATION

  • 東芝グランドコンサート2015 トゥガン・ソヒエフ指揮 トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団 ■日程・会場 【大阪】2/20(金) ザ・シンフォニーホール <Aプロ> 【東京】2/21(土) サントリーホール <Aプロ> 【広島】2/22(日) 広島上野学園ホール <Aプロ> 【福岡】2/23(月) アクロス福岡 福岡シンフォニーホール <Aプロ> 【金沢】2/25(水) 石川県立音楽堂コンサートホール <Aプロ> 【名古屋】2/28(土) 愛知県芸術劇場 コンサートホール <Bプロ> 【仙台】3/1(日) 東京エレクトロンホール宮城 <Bプロ> 【川崎】3/2(月) ミューザ川崎シンフォニーホール <Bプロ> ■出演 指揮:トゥガン・ソヒエフ ソリスト:ルノー・カプソン(ヴァイオリン)※2/20、21、22、23、25 ユリアンナ・アヴデーエワ (ピアノ)※2/28、3/1、2 ■演奏曲目 <Aプログラム> ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲 サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲 第3番 ロ短調 Op.61 ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲『展覧会の絵』 <Bプログラム> ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op.11(ナショナル・エディション) リムスキー=コルサコフ:交響組曲『シェヘラザード』Op.35

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