ピアノ協奏曲第1番は、若きショパンの感情の万華鏡
- ――トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団、そしてソヒエフ氏とは初めての共演かと思いますが、どのようなイメージをお持ちですか?
- 独特の伝統を持つこのオーケストラとの共演を楽しみにしています。ソヒエフ氏については、トゥールーズやその他いくつかのオーケストラを指揮されている演奏を聴きましたが、彼の音楽へのアプローチ、情熱、そして作品についての豊かな知識に感銘をうけました。どんな共演になるのかすごく興味を持っています。
- ――ショパンのピアノ協奏曲第1番について、聴きどころをお聞かせください。
- この作品は第1番という番号がつけられていますが、実際には第2番のあと、ショパンが祖国ポーランドを離れる直前に作曲されたものです。彼は当時、ワルシャワ音楽院の声楽科の女生徒に恋をしていました。ときに希望にあふれ、そしてときに悲観的になるというさまざまな若い感情が、万華鏡のように表現されています。第2楽章では特にそれが感じられるでしょう。また、ショパンはワルシャワのオペラハウスに頻繁に通っていて、イタリアのオペラ、なかでもベッリーニの作品に傾倒していました。第1楽章の第2テーマからはイタリアオペラの影響が強く感じられます。そして第3楽章ではクラコヴィアクというポーランドの踊りの要素が現れます。ひとつの作品の中に、たくさんの要素がつまっています。
- ――以前、1849年製のエラールピアノを使ってこの作品を録音されていますが、こうしたショパンの時代の楽器を演奏する経験は、現代ピアノでの演奏に影響を与えましたか?
- もちろんです。ヒストリカル・ピアノで演奏するということは、私にとって、タイムマシンに乗って作曲家の時代に飛び込むような経験でした。ショパンが実際耳にしていたピアノの音は、当時のエラールやプレイエルのもので、現代ピアノの音とは異なります。最も違うのは、音の持続する長さ。そうしたピアノにおける演奏では、アーティキュレーション、ペダルの使い方、フレージングなどが全て異なるということを知りました。
そのおかげで、現代ピアノで演奏する際の表現の幅が豊かになったと思います。古楽器で実践した綿密なアーティキュレーションを現代ピアノで応用すると、とても新しい効果が得られるのです。音色のパレットが広がったと思います。 - ――この作品は、壮麗なピアノパートに比べてオーケストラパートがシンプルなことから、オーケストラパートはショパン以外が完成させたのではないかという説もありますね。アヴデーエワさんは、この作品のピアノとオーケストラの関係について、どう感じていらっしゃいますか?
- オーケストラの役割はとても大きく、ピアノと同等だと思います。オーケストラとピアノのどちらかが主役でどちらかがサポート役ということはありません。確かに、ピアノパートだけ聴いてもある程度音楽として成り立つ作品ではありますが、ショパンには決してそういう意図はなかったと思います。彼はオーケストラの楽器のために、とても美しいソロを書いています。例えばバスーンのソロ、なかでも第2楽章で登場するバスーンとピアノによる対話は、まるでオペラの中の二重唱のようです。
- ――繰り返し演奏されている作品だと思いますが、作品に対しての特別な想い、または印象に残っているステージはありますか? 例えばショパンコンクールの本選でこの作品を演奏されたときには、演奏中にステージの明かりが消えるハプニングもありましたね。
- 驚くべきハプニングという意味では、もちろんあのステージが一番印象に残っていますね(笑)。ショパンコンクールという大舞台で、カメラや照明があまりにも多すぎた結果、電気系統のトラブルが起きて、演奏中に明かりが落ちてしまったのです。電気がついたり消えたり、まるでディスコのように(笑)。あんなことは、あの時が最初で最後です。
私にとって、ショパンコンクールで過ごした時間、そしてそこで演奏したこの協奏曲はやはり特別なものです。何度も繰り返し演奏していますが、その度に新しい発見があります。