インタビュー

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“クラシック音楽の殿堂”サントリーホールのブルーローズで、お酒の楽しみ方を知り、クラシック音楽を聴く「Classic Bar in Blue Rose」。Vol.2はワインがテーマ。第1部のトーク&テイスティングに続く第2部(2月10日、11日)では、日本を代表するピアニストであり、ワインについて豊富な知識を持つ横山幸雄さんが登場し、ショパンの演奏を聴かせてくれる。横山さんに、このイベントの魅力やワインとの出会いについてお話を伺った。

Interview

――今回のイベントは、第1部でワインを味わい、第2部で横山さんによるオール・ショパン・プログラムを楽しむという内容です。プログラムはどのようにお決めになりましたか?
ワインもクラシックの作品も、ある作り手が若い時に作ったものなのか、歳を重ねてから作ったものなのかで大きな違いが生じます。そこで今回は、ショパンという一人の作曲家について、作風の変化に焦点を当てるプログラムを組みました。

まず、「アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は、20代前半のショパンが、もとはオーケストラとピアノのために作曲し、それをピアノ版に編曲した作品です。ショパンは後半生、サロンで少人数に向けて演奏することを好むようになっていきましたが、これが作曲されたころはまだ作曲家として評価される前で、自分の才能を世に知らしめたいという気持ちがありました。楽曲はタイトルの通りとても華やかです。

一方のバラード第1番はほとんど同じ時期に作られていながらキャラクターが異なり、内面から滲み出すような感情の込められた作品です。エチュード作品10からの3曲も若い頃の代表作で、ショパンが得意とした小品におけるセンスの良さが光っています。

「幻想即興曲」はそれから少し後の作品ですが、ショパンはなぜか生前この作品を出版しませんでした。ワインでいえば、作り手が自家消費用にして売らなかったワインのような感じでしょうか(笑)。出来が良くなかったことを理由にしながら、実際は自分たちで飲みたいからということもあったりするんですけれどね。

そして、「英雄ポロネーズ」。恋人のジョルジュ・サンドの支えのもと、もっとも旺盛な創作活動を行っていた32歳頃の作品を、最後に演奏します。
――ワインに合わせる音楽として、ショパンをお選びになった理由は?
今回、みなさんがどんなワインをお飲みになるのかまだ聞いていないので、ショパンの音楽がぴったり合うかどうか、正直わかりません(笑)。ただ、初心者からそうでない方までを対象としたイベントということで、すごくエキセントリックなワインが出てくるということはないのではないかと。そう考えると、ショパンの音楽は、個性的過ぎて人をはねのけてしまうようなものではなく、詳しい方でもじっくり楽しむことができるバランスの良い音楽ですから、多分、合うのではないでしょうか。
――横山さんはワインエキスパートの資格もお持ちで、レストランのプロデュースもされているほどのワイン通です。ワインに魅力を感じるようになったきっかけは何でしょうか?
16歳でパリに留学したときから、日々ワインを飲み続けてきました。ちなみにフランスでは16歳からお酒を飲むことができ、パリ音楽院の食堂にもワインが置いてあります。

学生の頃は、15~20フラン、日本円で300円くらいのさまざまなワインを飲む中で、それぞれ味が違うことに興味を持つようになりました。パリの駐在員の方のパーティーなどに招かれると、学生が普段飲んでいるのとは全く異なる良いワインが用意されていて、その味わいの違いにも驚きました。それから、上には上があるのだといろいろなワインを飲みましたね。今なら1本10万円するようなワインも、7、8千円で飲むことができたのは良い環境でした。

こうした経験の蓄積とともに、どうしてひとつひとつの味が違うのか、興味を持って調べるようになりました。今でこそワインの本はたくさんありますし、僕も書いているくらいですが(笑)、当時はそういうものがなかったので、ようやく手に入れた文庫本を暗記してしまうほど何十回と読んだ覚えがあります。作り方の違いがどう影響するのか、年によって味が変わるのはなぜか、同じ区画の葡萄でも醸造家によってどうしてこんなに違うものができるのか。おいしいものを楽しみたいというのは大前提としてありますが、僕にとってはこうした知的な楽しみの占める部分が大きいです。

ただ、本当に突き詰めていこうとするとかなりのお金と時間がかかりますから、あまり人にはおすすめしません(笑)。
――ワインと音楽、両者のどんなところに共通点があると思いますか?
時間との密接な結びつきに共通するものがあると思います。 まず、音楽というのはあらゆる芸術の中でも、もっとも時間と深い関係があります。例えば絵画の場合、基本的には変化することなくずっとそこにあって、何度も繰り返し見ることができます。それに対して生の演奏は、すべての音が現れては一瞬にして消えていくことの連続。その中で、緊張と弛緩、昂揚などさまざまな起伏が生じます。

一方のワインも、他の多くのお酒や食べ物に比べて、時間の流れの中で変化が起こりやすいものです。抜栓して空気と触れること、温度が上昇すること、飲む側の口の中の状態によって、味が刻一刻と変わっていきます。

ワインと音楽には、そうした瞬間の変化を追って楽しむという要素がありますね。
――ワインもクラシック音楽も、伝統があり、多くの種類があって、自分で選んで深く楽しむには知識が必要です。そのためワインにはソムリエがいますし、最近はクラシックでも、自分で音楽を選べる知識を身につけようというクラシックソムリエ検定があります。知識を持ち、選べるようになることのおもしろさはどこにあるでしょうか。
知識を持って自分で選ぶことができるというのは、究極の贅沢ですね。誰しも、最初は有名で評価の高いものを味わいたいと思うのが自然でしょう。そこから進んでいくうち、誰も知らないすばらしいものを発見する喜びに出会います。一度その楽しさを知ってしまうと、やめられなくなると思います。
――ワインには詳しいけれどクラシック音楽は普段あまり聴かないという方、またはその逆でクラシックはよく聴くけれどワインをもっと知りたいという方と、さまざまな方がお越しになると思います。来場されるみなさんにメッセージをお願いします。
ワインも音楽も普段何気なく味わっている方が多いと思いますが、今回のイベントの魅力は、実際に楽しみながらそれらを学べるということ。どちらも奥が深く、全部いっぺんに知ることは不可能ではありますが、そのときに飲むものや聴くものについて知ってから味わうことはきっと楽しいと思います。

クラシックに興味はあるけれどなんとなくコンサートホールは敷居が高いと感じている方にも、そこにワインというアイテムが加わることで、その敷居が越えやすいものになるのではないかと思います。

日本で最高峰のステータスを持つサントリーホール。その中のブルーローズという広すぎない空間で演奏者の息づかいを感じることで、音楽をより親密なものに感じていただくことができるのではないかと思います。

取材・文:高坂はる香

INFORMATION

  • Classic Bar ~in Blue Rose Vol.2~ ■日程・会場 2015/2/8(日) 14:00開演 2015/2/9(月) 19:00開演 2015/2/10(火) 19:00開演 2015/2/11(水・祝) 14:00開演 サントリーホール ブルーローズ(小ホール)(東京都) ■出演 槇田貴久(ワインバー葉隠 オーナーソムリエ 第1部出演 解説) 川久保賜紀(ヴァイオリニスト 2/8、9 第2部出演) 江崎昌子(ピアニスト 2/8、9 第2部出演) 横山幸雄(ピアニスト 2/10、11 第2部出演) ■内容: 第1部<トークライブ> 男性、女性に問わず高い人気を誇る「ワイン」を愉しむ秘訣について、<ワインバー葉隠オーナーソムリエ>槇田貴久氏を迎え、ワインテイスティングを交えながらお届けします。 第2部<クラシックリサイタル&トーク> 日本を代表するヴァイオリニスト川久保賜紀またはピアニスト横山幸雄を迎え、トークと演奏をお届け。 通常のリサイタルとは違ったカジュアルな雰囲気でクラシック音楽をお楽しみください。 ●川久保賜紀(ヴァイオリニスト 2/8、2/9出演)  江崎昌子(ピアニスト 2/8、2/9出演) 【演奏曲目】 クライスラー:美しきロスマリン クライスラー:中国の太鼓 サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン ほか (※曲目、演奏順は変更になる可能性がございます。) ●横山幸雄(ピアニスト 2/10、2/11出演) 【演奏曲目】 <オール・ショパン・プログラム> アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ バラード 第1番 「12のエチュード 作品10」より 「別れの曲」「黒鍵」「革命」 幻想即興曲 英雄ポロネーズ (※曲目、演奏順は変更になる可能性がございます。)

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