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- ――シーグレルさんはピアソラ五重奏団のピアニストとして活躍されていました。最初にピアソラとの出会いについてお聞かせいただけますか。
- 1978年、知人のギタリスト、オスカル・ロペス・ルイスが「ピアソラが新しい五重奏団のメンバーに君を迎えたいと言っている」という連絡をしてきたのがきっかけです。ピアソラに会ってすぐその場でセッションをし、これはうまくいくなとフィーリングが合ったところで、ピアソラが楽譜の束をどさっと渡してきたんです。「20日後にリハーサルを始めるから、全部練習してきてくれ」と。20日間必死に練習してリハーサルにのぞみましたが、最初からとてもいい雰囲気で、信頼関係を築くことができました。ピアソラに指名してもらうのは、アルゼンチンのサッカー代表チームに選ばれるくらい名誉なことです。最初に会ったとき「本当に私でよいのか、私はタンゴのピアニストとしてのキャリアはないが」と聞いたところ、「だから君がほしいんだ」と言われたのを覚えています。ピアソラは自らのタンゴに「即興」の要素を求めていたのでしょう。
- ――今回披露いただく「タンゴ・ジャズ・コネクション」も、ジャズ要素を多く含む一味違うプログラムですね。
- ピアソラが亡くなってから、私が最初にしたことは、バンドネオンなしの編成で新しいグループを作ることでした。そして毎回異なるジャズ界のトップアーティストをゲストとして迎えたのです。それが今回の「タンゴ・ジャズ・コネクション」の元になったもので、ニューヨークのジャズクラブで始まり、10年以上続いている人気プログラムです。この間20人以上のジャズ・アーティストと共演してきましたが、今回フィーチャーするレジーナ・カーターはそのなかで最もお客様からの人気が高かったアーティストです。レジーナは、ビブラートの弾き方がちょっとブルース的なので、果たして自分の曲に合うのだろうかと疑問に思っていたのですが、リハーサルで一緒に弾いたときからマジックモーメントが起こり、いいケミストリーを作ることができました。彼女は一瞬にして聴衆の集中力を集めることのできる奇跡的なアーティストです。お互いに学び、発見し合うことのできるいい関係が続けられていると思います。
- ――今回のプログラムは、ピアソラとシーグレルさんの作品で構成されています。いくつか作品紹介をお願いいたします。
- 今回が日本初演となる私の《マハビシュヌ・タンゴ》は、レジーナと世界初演した作品です。ジャズ、ロックにタンゴ的なメロディをどのように合体させるかという点で私にとって挑戦だったのですが、大成功を収めました。レジーナのお気に入りの作品でもあります。また《プレイシス》はブリティッシュ・カウンシルの委嘱でコンテンポラリー音楽のフェスティバルのために作曲した作品です。 ピアソラはたくさんの作品を残しましたが、唯一作曲しなかったのが、速いタイプのミロンガです。今回のプログラムのうち2曲、私の《ミロンガをもう一度》と《石蹴り遊び》に使われているのが「速いミロンガ」で、ヌエボ・タンゴのファンに人気の高い作品です。最後のピアソラ《チン・チン》は、ピアソラと私の長い関係を物語る作品です。この作品を初めてピアソラ五重奏団で弾き始めたときは、即興の部分が2~3小節しかなかったのですが、最後の2、3年は時には10分あまり一人で即興することもあったほど革新を遂げました。 ぜひ今回はレジーナとのセッションを楽しみにしていてください!
東京オペラシティArts友の会会報誌「tree」Vol.107(2014年12月号)より