新作アルバム『LIFE』への想い~進むべき道
- ――全15曲、収録時間67分を越える新作アルバム『LIFE』はデビュー10周年の節目にふさわしい入魂の大作になりましたね。
-
山内:そうですね。気が付いたら、大作になっちゃった、といった感じです(笑)。デビュー10周年ということで、3人それぞれ考えたことはあると思うんですけど、自分にとってこのアルバムはバンドの10年を1枚に詰め込んだものというより、この10年で辿り着いたアルバムなんですよ。
金澤:僕も10周年ということはそんなに考えてなくて、それよりも前作『VOYAGER』からどう変わっていけるのかということが意識にありました。ただ、フジファブリックはずっとそういうバンドだったと思うんですよ。1枚目から2枚目、2枚目から3枚目と、作品ごとに変化を意識していましたし、その連続の先にこの8枚目のアルバムがあるというか、自分たちとしては進むべき道を歩んでいるんじゃないかな、と。 - ――進むべき道というのは?
- 山内: 今の3人体勢になって、リリースしながらまとまってきたもの、サウンドを含めて、歌いたいものが地に足をつけた曲作りを通じて、今回形に出来たかな、と。もちろん、今回は過去の出来事を振り返るタイミングでもありましたし、これまでの10年を踏まえて、未来に向けて、希望や喜びをつないでいくにはどうしたらいいかということを考えた時、アルバム・タイトルにもなっている『LIFE』というテーマが思い浮かんで、そのテーマのもと、歌いたい思いが言葉になって、形になっていったんです。
- ――つまり、今までのように出来た曲に対して歌詞を付けるのではなく、今回は早い段階で歌詞があったと。
-
山内:
そうですね。今回は歌詞を付けた弾き語りに近いデモが最初にあって。さらに言えば、今まではその後のアレンジをスタジオで考えていたんですけど、今回は僕の家に3人で集まって、アレンジを詰めていったんです。そうすることで、スタジオの時間を気にせず、気持ちのうえでも楽でしたし、自由に曲の可能性を探ることが出来たんです。
金澤: 晩ご飯をどこで食べるか、店のリサーチからお店の予約まで、決めるのは僕が担当だったので、そういう探求も含めて、このアルバムには詰まっていると思います(笑)
山内:一緒のものを食べて、曲を合わせて、その繰り返し。いってみれば、友達の家に集まって、夏休みの宿題をやっているような感じというか。そのバンドにはそのバンドなりのムードがあると思うんですけど、一緒に作業をしながら、無駄話をしながら、その時のムードだったり、曲の方向性や伝えたいことが共有出来たことも大きかったですね。 - ――今回、15曲中、11曲の歌詞を山内くんが書いていますが、2011年のアルバム『STAR』から歌詞を書くようになって、ここにきて、自分なりの作詞法や視点が定まってきたということなんでしょうか?
-
山内:
定まったというか、作詞を始めた最初の頃は、選択肢が無限にあるように感じていたんですけど、作品のリリースを重ねたり、ライヴでの反応に後押しされたことで、みんなに「GO」サインを出してもらったような感覚があって。沢山ある選択肢のなかから自分が歌いたいことを見つめられるようになったというか、自分が歌いたいことを出せるだけ出してみようと思えるようになったんです。
加藤:そして、今回は歌詞が先にあったので、アレンジのアイデアを膨らませやすかったというか、歌詞と曲の一体感も高まっていますし、山内くんの家でアレンジを固めたことで、その後のスタジオの作業も録音自体はスムーズで、どういう質感の音を鳴らすか、その音決めにいつも以上に時間をかけられたんですよ。 - ――アレンジに関していえば、山内くんのデモがシンガーソングライター的な弾き語りに近いデモがもとになっているだけに、金澤くんはオーソドックスにオルガンとピアノを弾いている曲が多いですよね。
-
金澤:そうなんですよね。シンセサイザーを沢山弾いた『VOYAGER』に対して、今回は山内くんのデモのニュアンスを汲み取りつつ、アナログな質感やその場の響きや空気を作品に封じ込めるにはピアノやオルガンがいいだろうな、と。しかも、今回は幾重にも鍵盤を重ねて録ってないんですよ。そうすることで、一つの楽器から出る音が太く大きくなるし、そういう鍵盤のアプローチはこのアルバムの大きな特徴だと思いますね。
加藤:僕のベースも「sing」と「卒業」の2曲でアップライト・ベースを弾いているんですけど、曲に寄り添うことを意識して、これといって変わったことはせず、プレイ自体はオーソドックスだと思います。 - ――そして、ドラマーには近年の作品やライヴに参加している54-71のBOBOさんと100sほかでお馴染みの玉田豊夢さんが参加。そして、「フラッシュダンス」にはギターの名越由貴夫さん、「祭りのまえ」と「卒業」ではコーラスにビューティフルハミングバードの小池光子さんが参加しています。
- 山内:BOBOさんと豊夢くんには曲のタイプに合わせてドラムを叩いてもらいましたし、光ちゃんのコーラスもフジファブリックに女性ヴォーカリストを迎えるのは初めてなんですよね。そういう意味では僕らにとっての新たなチャレンジですし、フジファブリック流のダンス・ミュージックというテーマのもと作った「フラッシュダンス」で名越さんにノイズ・ギターを入れてもらったのもフジファブリックらしい試みだと思いますね。
- ――シンガーソングライター的な歌モノを軸に、「efil」や「WIRED」のようなヘヴィなバンド・サウンドもあれば、「フラッシュダンス」や「バタアシParty Night」ではダンス・ミュージック、「祭りのまえ」や「卒業」にはサイケデリックなポップ感覚が盛り込まれていたりと、曲調や色彩の豊かさは実にフジファブリックらしいですよね。
- 山内:そうですね。このアルバムは歌いたい思いに突き動かされたということもあるし、生命力が沸き上がってくるように、溢れるアイデアをそのまま素直に形にするレコーディングだったので、音楽性に幅はあって。それでいて取っ散らからず、様々な楽曲が一つにまとまったのは、『LIFE』という作品のテーマがあればこそだと思います。