インタビュー
- ――9月30日(水)にリリースされる、ハルカトミユキの新作『LIFE』。本作の持つ意味は、「ハルカトミユキの変化を鮮烈に刻んだ『世界』に続く、今年2作目のミニアルバム」というだけには収まらない。本作は、ハルカトミユキのこれまでのキャリアにおける最重要作品と言える作品なのだ。何故か。それは、本作が彼女たちにとって文字通りの「勝負作」だからだ。「ミュージシャンにとってすべての作品は勝負作だ」という正論もあるだろう。しかし、ハルカトミユキにとって自分たちの作品を『LIFE』(=命、人生、生活)と名付けること、その作品の冒頭を“肯定する”というタイトルの曲から始めること、それは彼女たちが今、一つの大きなターニングポイントに立っていることを意味している。
- 「1曲目の“肯定する”はずっとテーマとして温めていた曲で。でも、断片のようなものはあったんですけど最後まで書けなかったし、そこまで言い切れなかったんですね。でも、今回はどうしてもこのテーマを歌いたくて。『肯定する』って言葉も、そのまま歌詞にするかどうか悩んだんですけど、もうそのまま歌ってしまえって思って。メジャーレーベルに移籍して2年目の年を過ごしていく中で、だんだん部屋の中で自分が一人で考えていたことと、ステージに立って歌っていきいたいことは違うんだなって思うようになってきていて。この歌詞は、ステージに立って歌いたいと思ったことで書けた歌詞なんです。だから、これまでの歌詞とは結構違って、かなり言葉も削ぎ落としています」
- ――確かに、メジャーデビュー以前は詩人としても活動していたハルカがこれまで書いてきた歌詞は、それだけで一つの表現として成り立つような、非常に孤独で、鋭利で、美しい言葉が印象的だった。そんなハルカが、"肯定する"ではこんな無骨な言葉を力強く歌っている。《僕に拾い上げさせてくれ もうあいつらには触れさせない ひとりで生きる勇気 君に。 肯定するよ、生きてく君の 全てを》。そういえば、心なしかその歌声も変わってきたように思える。
- 「明らかに変わってきましたね。以前の曲を自分で聴いていても『歌い方、違う』って思う。意識して変えたつもりはないんですけど、いい意味での精神的なギリギリ感が出てるのかもしれないですね。『綺麗に歌わなくてもいいや』というか、『綺麗に歌ってるだけじゃ遠くまで伝わらないな』って感覚があって。これまでは『わかってくれないなら、わかってくれなくていいよ』って思ってたし、それを普段言葉にしない分、歌にしてきましたけど、今はそこが変わりました。これまで自分はまず歌詞を丁寧に書いて、それを人に伝えるための道具が自分の歌だと思ってきたけど、今は歌そのものが表現だと思えるようになったんです。そうすると言葉も変わってきて。言いたいこと、伝えたいことを、ストレートに書いてもいいと思える様になって、言葉と歌が一つになってきた感じがします」
- ――本作『LIFE』におけるハルカトミユキの「勝負」は、そんな作品の変化だけではない。リリースの3日後の10月3日(土)に予定されている日比谷野外大音楽堂でのFREE LIVE『ひとり×3000』。2015年に入ってからのハルカトミユキは、公約としてかかげてきた「12ヵ月間、毎月新曲を配信リリースする」という(曲のストックをあまり持たない彼女たちとしては)無謀なハードルを一つずつ飛び越えながら、この10月3日(土)の野音でのフリーライブに向かって走ってきたと言ってもいい。野音でのライブ。それは、彼女たちにとってそこまで大きいものだろうか?
- 「大きいですね。もちろん、会場の広さとか、お客さんのキャパシティとかも、今私たちが置かれている立場からすると物理的にもうかなり高い壁ではあるんですけど、それだけじゃなくて『自分がこれからも歌っていくこと』を考えた時に、今回のライブが一つの大きな勝負になるんだろうなって思っています。私、これまでの人生において勝負をしてきたことがなかったんですよ。ずっと不戦勝でここまできたというか(笑)。本当の勝負を避け続けて、戦わずして勝てる方法だけを考えて、自分の得意なことしかしてこなかった。それは、どこかで本当に戦ったら負けると思っているから、そうやって生きてきたんだろうなって。でも、そういう生き方って、きっとどこかで壁にぶつかるんですよ。その壁が私たちにとっての野音。でも、『やります!』と言った以上、そんな恐怖心を捨てて、初めて本当の勝負をしてみたいと思っています」
- ――実際に、今回の『LIFE』には、野音のステージで歌うことをイメージして書き始めた曲がいくつも収められているという。そして、それは結果として、ハルカトミユキの表現自体を、音楽的にも、歌詞の面でも、飛躍的にスケールアップさせることとなった。
- 「最初は野音のステージに立つことをイメージして、空とか星とかをモチーフにした曲を作り始めたんですが。でも、結局そのほとんどの曲で、自分が命について歌いたくなってしまって。空や星についていろいろ考えている時、『銀河鉄道の夜』や『銀河鉄道999』のことを思い出したりもして。結局、どちらの作品も人の人生や命について語っている作品じゃないですか。きっと、そこにも引っぱられて、『命』のことを作品になっていった。『LIFE』って、ちょっとタイトルにするには大げさだし、最初は照れもあったんですけど、今回の野音もそうですけど、すべてを潔くやっていきたいというのが今の気持ちなんです」
- ――そこまで強い決意をもっていわれると、10月3日(土)の野音のステージを見届けないわけにはいかないだろう。ハルカは自身のtweetなどでも「当たって砕けろ」的なことを言っているが、万が一そこで砕けたとしても、その破片から、また新しい何かが生まれるに違いない。
- 「私が昔からずっと思い描いてきた世界って、ものすごく大きいんです。それなのにこれまで勝負を避けてきたっていうのは、矛盾しているようですけど、目指している場所が大きいからこそ、そこに行けない自分を直視してこなかったんですよね。でも、今は自分を直視して、自分が立っているこの状況を全部受け入れて、その上で、今年の10月3日(土)に野音のステージで勝負をしたいと思っています。その先に広がっている、もっともっと大きな世界に向かっていくために」
文:宇野維正