インタビュー

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今年で41年目を迎える加藤登紀子のほろ酔いコンサート。観客も出演者もほろ酔いでコンサートを行うというこの奇想天外なライブがスタートした経緯から、12月4日リリースのラブソングベスト『登紀子愛歌~AIUTA~』のお話、そしてこれを見ている人に彼女が伝えたい事まで、多岐に渡って語っていただいた。

ほろ酔いコンサートは意外な場所からスタートした!?

――まずほろ酔いコンサートがスタートした経緯をお伺いしたいのですが。
加藤「経緯は、知床旅情が大ヒットした年(1971年)に「そのまま国民歌手みたいなのにならないでくれ!」って言われて(笑)」
――え!新聞記者の方に言われたんですか!?(笑)
加藤「お前ははみ出し野郎でいいんだ!はみ出せ!って(笑)で、日劇ミュージックホールという、当時はストリップ小屋だったんだけど、そこの支配人がちょっと変わった人で、アンダーグラウンドなアーティストとか前衛の演劇人とかを演出家としてその小屋に呼んだりするような方だったんですね」
――当時は斬新ですよね。
加藤「うん、そうなんです。その支配人と、さっきの新聞記者たちと、私が飲み友達だったのね。それでその日のショーがハネた(終わった)後、みんなでそこで飲んでいたんだけど。その延長線上で、そこで1971年の年末にライブをやったのがスタートですね」
――お酒を呑むというコンセプトは最初からあったんですか?
加藤「それはたまたまなんです。当時私が大関のCMをやっていて」
――(笑)なるほど。
加藤「ただ素面でやるのもつまんないから、樽酒を出してもらおうと思って。最初はお客さんに振舞っていたんだけど、みんな凄い酔っ払っちゃって、もう悲惨なくらい!」
――(笑)
加藤「(笑)でも今思い出すと、その時のお客さんは女性はひとりもいなかったわね。やっぱり夜中で、ストリップ小屋で、お酒付きっていうのは、来づらいかもね(笑)。でも私自身、お酒を呑んでというのは初めてだったから・・・あ、お酒自体は普段から呑んでたのよ?(笑)」
――(笑)
加藤「でもライブ中に呑んだ事はなかったから・・・でも呑んでやってみて思ったことは、何で今までやらなかったんだろう!ってこと!(笑)」
――(笑)凄い後悔したわけですね。
加藤「こういうコンサートこそ最高だわね、と思ったんだけど、その翌年に私が結婚して、歌手活動を休止したんです。その休止前最後に開催したのが日比谷野音のコンサートとほろ酔いコンサートだったのね。それで歌手活動を再開したときに、またほろ酔いコンサートも再スタートさせたので、そこから数えて今年で東京は41年目」
――物凄い歴史を感じるお話ですね。加藤さんにとって、通常のライブとほろ酔いコンサートの違いって何だと思われますか?
加藤「さっき言ったみたいに、はみ出せるって事ですね。でも大きくは通常のライブと変わらないかな。普段も私はナチュラルなので。それで言うとお客さんの方が通常とは違うかもしれないですね。最初の頃はネクタイを締めてきたお客さんがいたら「まず、ネクタイを取ってちょうだい!」って言ったりとか(笑)」
――ステキなライブですね(笑)
加藤「でも最近は私と同年代の方はノーネクタイの仕事をしている方が多いので、ちょうど良くなってきたかもしれないですね(笑)」
――(笑)あと、僕がほろ酔いコンサートで素晴らしいなと思った事が、学生席が用意されている事です。
加藤「それは大きな私のラブコールですね」
――そうですね。加藤さんの熱心なファンのみではなく、幅広い層に自身のライブを見て欲しい、という加藤さんの思いがこの学生席だけで分かる気がします。
加藤「うん、私としてはもう「おいでよ!いらっしゃいよ!」っていう感じなんだけど。例えばフジロックに出演したりするのもそうなんですが、20代、30代の人にも向けてやりたいなと言う気持ちはありますね。だから学生席といっても、私としては20代ぐらいまで年齢を引き上げてもいいと思ってる位で(笑)」

ロックのイベントとほろ酔いコンサートは似ている?

――確かに、フジロックなど様々なイベントに積極的に参加されていますし、そこで価値観がガラッと変えられるような方も多いと思います。
加藤「うん、フジロックとかもそうだし、佐藤タイジくんのイベントに出る時もそうなんだけど、私は凄く楽しくて。それは自分を物凄くさらけ出せるから。普段のライブがそうではないと言う事ではないんだけれども。ただ普段のライブは私を目当てに来てくださる方も多くて、そこで言うと自分を知らない人の前で自分を表現すると言うのは非常に刺激的なことで、大好きですね、面白い!」
――それを面白いと思える加藤さんも素晴らしいと思います。だって、毎年同じルーティーンの中でライブをやるというのは安全じゃないですか。でも、そういった挑戦も恐れないというのは、本当にステキな所だなと思います。
加藤「うん、でも少し違うのは、毎年ルーティーンでやっているライブもきちんと刺激があるということ。恒例のライブでも、半分以上は違うお客さんなわけ。見る側も新陳代謝があるから。そこは意識してやっていますね。あと、1年に何度も私のライブを見に来る方は、同じ曲でも、日によって違うという事を見に来るのね。そういう方っていうのは、ステージに立っている私と似た感覚かもしれない。毎日同じプログラムでも、その日その日でやっている私は違うから」
――なるほど。
加藤「でも、佐藤くんのイベントとか出て良いなあと思うのは、お客さんが立っている所、あれは良いなあ(笑)」
――(笑)
加藤「私のお客さんに中々「立って!」って言えないんだけど(笑)でも立っているほうが全身で音楽を感じられるのにね。そう言えば私自身も、自分が持っている強い言葉とかはさっきのロックのイベントとかだと出しやすいかもしれない。そういう相性の良さってあって。だから来ているお客さんがどうこうではなく、自分がいかに自分を表現できるか、そういう意味で言うと、そうしたイベント出演とほろ酔いは似ているかも」

印象的な宮崎駿さんの言葉

――来年でデビュー50周年を迎える加藤さん、本当に想像もつかないほど素晴らしい功績と足跡を残してきておりますが、その中でいくつもの印象深い思い出があると思います。最初に出てきた新聞記者からの言葉なんかもその一つだと思うのですが、印象的なシーン、はありますか?
加藤「うん、デビューの時は歌手として何をすればいいかという事だけを考えていたんだけど、色々世の中も動いていたし、私自身も運よく、と言ったら変かもしれないけど、「ちゃんとしなきゃ」って思える事件に出会えて、色々考える契機になって、それは自分でも凄いなって思ってるんです。そういう時に考えていたことは出会ったことからは逃げないということ。例えば、卒業式がボイコットになった事もあったし。『紅の豚』に出演しないか、と言われた事も大きく言えば出会いですよね」
――たしかに、それぞれが出会いですね。
加藤「出会ったことから逃げなかったから今の自分がいるわけで。そういった事を繰り返して気づいたことは、自分より自分のことを分かっている人がいつも私のことを見てくれているということですね。『紅の豚』の主題歌の『さくらんぼの実る頃』はテスト録音の1回目なんですね。宮崎駿さんが「これ以上は出せない、これが最高です」って言ってくださって。」
――え!?そうなんですか!?
加藤「うん、確かに、あれから何度歌っても、あのファーストテイクは最高だったなって」
――凄い!
加藤「私から何を引き出したいか、結果を見ている人がいるから、そういう人に出会うと楽ですよね。最高なものにしようね、と言いながらその手続きを話し合わないでも、お互いの気持ちの中で最高なものを作り出すことができる関係、それは本当に幸せな出会いだったと思いますね」

加藤登紀子が語る、今ラブソングを出す意味

――12月4日発売の『登紀子 愛歌~AIUTA~』。これまで加藤さんが発表した楽曲の中でもラブソングを集めたベストですが、このタイミングでラブソングのベストをリリースしようと思ったのはなぜですか?
加藤「去年は『登紀子 旅情歌 ―風歌 KAZEUTA』というコンセプトアルバムを出して、なんとなくなんだけど「今年はラブソングだね」っていう気持ちがあったんです」
――それは何でですか?
加藤「世の中色々、解決しなければいけないこともあって、困った事もいっぱいあって。それはとどのつまり、人を愛する時間がないという事が問題だと思ったんですね」
――なるほど
加藤「私が見ている限り、結果として「凄く人を愛してしまったから起こった問題」ではなくて、「その結果のだいぶ前で立ち止まっている問題」が多すぎると思ったんです。そこに辿り着く前に終わってしまっている感じで。もうちょっと愛する事に向かっても良いんじゃないか、人間が我を忘れて愛しても良いんじゃないかと思いますね」
――そうですね。
加藤「ライブも同じですけど、「数秒前まで予想もつかなかった」事が起こるのが愛だと思っていて、絶対惚れないと思っていたけど、惚れてしまった、みたいな。中の細胞を全部取り替えてしまうぐらいの事が愛なんですね。それでいうと、今の時代は何が原因かわからないくらいこんがらがっていると思いますね。だからこそ、恋も愛も、良い時間ももっともっと過ごすべきだと思いますね」
――今の状況を変えるには、愛する事に向き合うという事が解決策だという事ですね。
加藤「うん。今年私はエディット・ピアフをやったんですけど、彼女の愛の歌は生活の歌なんですね」
――というと?
加藤「例えば今で言うと婚活は「結婚するための活動」、就活は「就職するための活動」ですよね、生活は「生きるための活動」なんですよ。彼女は歌う事が生きるための活動だったんですよね。」
――なるほど、歌わなければ生きていけなかったと。
加藤「そうなんです。だから愛という事について深く考えていた今年に、エディット・ピアフについてのコンサートができたというのは、凄く自分にとって大きな事だったし、映画『キャプテンハーロック』のために書き下ろした新曲『愛はあなたの胸に L'amour dans ton coeur』もそう。今年の1年の活動がこのラブソングベストのDisk1に集約されていると思います」
――Disk2にも数多く名曲が並びます。
加藤「そうですね、2枚目はこれまでの活動を集約した感じで、例えて言うなら「愛の手ほどき」かな。1枚目はもっと熟成した愛の形を表現できたんじゃないかと思いますね。だから1枚目は熟年向け、2枚目はこれから愛を育んでいこうと思ってる人向けかな」
――では、僕は2枚目かもしれないですね(笑)
加藤「そうね(笑)あなたは2枚目かも(笑)でも2枚目は単なるベスト盤じゃないので、ファンの方も新しい形で楽しめるんじゃないかと思いますね」

悩んでいる人へのメッセージ

――僕は早川義夫さんの『サルビアの花』が大好きで、でも同じくらい加藤さんのカバーも好きだったので、収録されていて嬉しいです。
加藤「あの曲も、サルビアの花をベッドに敷き詰めて、あなたを待っているのに、それでもあなたは別の人のところへ行ってしまう」って言う歌でしょ?でも、ベッドの上を花でいっぱいにして、死ぬまで抱き合っているような男は、生活力がないよね(笑)」
――(笑)確かに!
加藤「そんな男、親が許さないじゃない(笑)でも素敵に生きようと思ったらそういう奴が良いよね、って思えるような決断も必要だよね」
――うーん、確かに、究極の選択ではありますよね、生活力のある人を選ぶか、そうじゃないか。
加藤「私は、こんな時代だからこそ、何年も保障あるような男選んでも仕方ないと思うのよね。今面白い奴を選んだほうがいいと思う。このインタビューを見ている人に伝えたいのは、ずっと素敵だって思えることをやり続ける事が未来を開く鍵だと思うんですね。今待っていたり、計算したりしているのはダメですね。」
――勇気付けられる言葉です。
加藤「人生は最高じゃなきゃ、最高だと思える瞬間をどれだけ迎えられるかだと思うので」
――ありがとうございます。それでは、最後にこれを見ている方にメッセージをいただいてもいいですか?
加藤「これまでも結構お話してきたけど(笑)」
――(笑)すみません、そうですよね。何か悩んでいる方に一言で良いのですが・・・。
加藤「人生の自分の居場所は自分で決める、自分の人生の主人公は自分にする。というのは大事ですよ。例えば、今いる場所をしっかり守るというのもとても大事だけれど、「明日辞めても良いんだ」と言う心持ちで生活するともっと簡単に生きていけるんじゃないかと思いますね」
――心に沁みます。
加藤「ほろ酔いコンサートは、気持ちがどん底の人も来て欲しいなと思います。ライブというのはにぎやかだし、気持ちが落ち込んでいる人は来にくいかもしれないけど、私が心がけているのは、一番心が参っている人が私と同じ気持ちになれるようなコンサートなので、どん底の人もどうぞ」
――ありがとうございました!

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