――去年のC.C.Lemonホールはメレンゲにとっては初のホール・ワンマンっていうこともあって、思い出深いライブになったんじゃないですか?
クボケンジ「そうですね。今まではやっぱりライブハウスばかりでやってたので、まず照明とか、自分がやりたいと思っていたことをああいう形でやれたのが良かったですね。“空間”みたいなものを会場全部で見せられたのは、自分でも感動しましたし。ライブをやってても、今、光がこうなってるとかって見えるんですよね。自分達の音のアレンジに合わせてそういう演出をやってくれてたから、なんていうか……。自分達だけで作ってるんじゃなくて、もう本当に“チーム”っていう感じでや作ったライブだったと思います」
ヤマザキタケシ「メレンゲでホールでワンマンっていうのはあの日が初めてだったんでどうなるかなと思ったけど、みんな意外と落ち着いていて、どっしりした演奏で。だから、一言で言ったら、とにかく気持ちよかったですね。単に会場が広いから気持ちいいとかじゃなくて、演奏しててもまわりのアンサンブルとかがすごく耳に入ってきて気持ちよかったなっていうのは、やっぱり一番印象に残ってます」
タケシタツヨシ「ずっと前から、椅子席のあるところでワンマンをやりたいねっていう話はしてたんです。普通の会場に椅子を置いたりアコースティックでやったりとかもしてたんですけど、ちゃんとホールで見せることは今までできなかったんで、C.C.Lemonホールではそれがやれた嬉しさもあったし。あと、なんていうか……。ホールって、ステージ側から見ると客席が昇っていくじゃないですか。その広い客席にあの日はお客さんがいっぱい来てくれたっていうのは、すごく幸せな空間だったなと思いますね」
――『アポリア』を聴かせてもらったときも、美しいメロディと広がりのあるサウンドは、大きい会場だとすごく映えるんじゃないかなとあらためて思ったんです。曲を作るときは、そういうライブの風景をイメージしているような感覚があったりするんですか?
クボケンジ「それはあるかもしれないですね。小っちゃいライブハウスでやるのは、もちろん楽しいんです。そういう、すごく近くに壁とかがあって音が遠くへ飛んでいかない会場でやることは多いけど、ウチらは“広い音”を追求して作っているところもあるので、音源にしてもライブでのアレンジにしてもそういう感覚は意識してやってますね。広がりのある音色が好きだし、音作りでも、例えば歌詞だったり、その中にある感情とかに合わせてリズムもみんなで考えたりするし」
ヤマザキタケシ「うん。基本的なドラムパターンはクボ君の中のイメージが元になることもあるし、それを打ち込んだデモを聴いたり歌詞を読んだりして……。同じリズムパターンを叩くのでも、細かい話になっちゃいますけど、例えばタッチとかタイム感ひとつで表情がだいぶ変わってくると思うんで。シンプルな演奏の中でもどのタッチ、どのタイム感を選ぶかっていうのは常に考えてるし。で、ライブをやってるときにも“あっ、ここはこっちのほうがいいな”って新たに気付くこともあったりするから……。ある意味、自分達の曲は演奏する度に変わっていく部分もあるかもしれないですね」
」
タケシタツヨシ「僕も、基本的にはシンプルなものが好きで。あとはやっぱり歌詞、メロディに寄り添ったりっていう意識でやってるんですけどね」
――そうそう。楽曲のストーリーを、すごく繊細なタッチの演奏とメロディで描いていて。その豊かな感情表現が奏でる切なさとか儚さに、聞き惚れてしまうというか。
クボ・タケシタ・ヤマザキ「ありがとうございます」
クボケンジ「切ないとか、儚いとか……。そんなのばっかりですね、ウチらの曲は(笑)。最終的には、アニメみたいな感じなんですよ。僕が描いてるものって。僕の頭の中の妄想みたいなものを(笑)、アニメチックな世界観として色んな形で描いてるというか。で、なんていうか……。“今、幸せだな!”って瞬間も、もちろん思い返したら色々あるけど、そういうことよりも、例えば久しぶりに実家に帰ったとか近くの公園に寄ったとか、そういうときに一人で懐かしくなっちゃうような。そんな瞬間の切ない感じが僕はたぶん好きで、その切なさとか色んな感情に、聴いてる人も同じようになってもらえたら嬉しいっていうのはあるかもしれないです」
――6月の野音はC.C.Lemonホールよりさらに大きい会場ですから、その広い空間でメレンゲらしい感情表現が描かれるのが楽しみです。メレンゲの曲は“星”をモチーフにしているものも多いですから、それを星空の下で聴けたら素晴らしいなって。
ヤマザキタケシ「野音は、野外っていうのがやっぱり良いですよね。野外って、天候とか自然現象も加えられたらちょっとアツいなと思ってて。だいぶ昔なんですけど、フジロックで井上陽水さんを見たときに……。グリーンステージに陽水さんが出られてたんですけど、ちょうど夕陽が苗場の山に当たって陰るかどうかっていうときに「少年時代」が始まって、会場全体が号泣してる感じだったんですよ。それって、天候も見方につけた演出ですよね」
クボケンジ「うん。奇跡だね!」
ヤマザキタケシ「そう。フジロックと野音はだいぶ話が違うし奇跡は狙ってできるもんじゃないですけど(笑)、野外のライブはそういうことも良い思い出になるから、僕達も何か同じようなことができたらいいなっていうのはあるんですけどね。陽水さんみたいな、“マジック・アワー”なシチュエーションも味方につけて(笑)」
――じゃあ、例えば……。野音のあのシチュエーションで演奏して“奇跡”が起きたらいいなって、ちょっと想像したりする曲ってあったりしますか?
ヤマザキタケシ「例えば……。昼と夜のはざまの時間帯あたりで、照明だけじゃ出来ない演出でやれたらこの日だけの本当に大きい思い出になるんじゃないかなっていうのは、僕は“初恋サンセット”ですね」 タケシタツヨシ「うん。やっぱり、一番はそうなるよね(笑)」
――いいですね! まさにタイトルどおり、沈んでいく夕陽をバックに……。本当に実現したら、それこそ切なさで号泣するかもしれないです(笑)。
クボケンジ「雨降るかもしれないな……(笑)」
タケシタツヨシ「(笑)あんまり言わないほうがいいんじゃないの? 今からてるてる坊主作っとかないと」
――(笑)その野音も含めて、今年のライブ活動はバラエティに富んだ内容になっていますね。今年の『初恋サンセット』は10周年記念企画第一弾としてスネオヘアーとの共演で、その後にはGOING UNDER GROUNDとの対バンツアーもあり。
クボケンジ「はい。『初恋サンセット』は、自分らが好きな人を誘うことに意味があって。そういうやり方のほうが思いが強くなるし、“ファミリー感”みたいなものも感じられるし。で、スネオさんは、ちょっとスネオさんの方がデビューは先なんですけどほぼ同期みたいな感じで活動をしてきて、接点はなかったんですけどずっと気になってた人なんですよね。そういう人と今回一緒にやれるのは本当に嬉しいし、逆にゴーイングはプライベートでも繋がりがあって、でもライブを一緒にやったのはあんまりなくて」
タケシタツヨシ「だから、今回一緒にやれるのはあらためて良い機会ですね。僕らは個人的に彼らを昔から知ってて、しかも同じ世代で年齢を重ねているっていうシンクロ感もあって。そういう中で、例えば卒業して友達と離れていく寂しさとか、純粋さを失わないでいたいっていう気持ちだったりは、自分もすごく分かるし……。何よりも、そういう感覚を描いてる彼らの曲がすごく好きなんですよ」
クボケンジ「あと、ゴーイングって、“僕ら”って歌う曲が多いじゃないですか。それに対してメレンゲは、“僕”っていう一人称の曲がほとんどで。そのゴーイングの“僕ら”はすごくパワーがあって、ライブを見るとたまにうらやく感じることもあるんです(笑)。彼らが“僕ら”って歌うと、会場全体がウワァーッ! って包み込まれて、お客さんみんなと一緒に“僕ら”になってるような感覚が。そのひとつになってる感じはすごいなって思うし、逆に僕らは、みんながジッと聴いてくれてるライブが多いんですよね」
タケシタツヨシ「そうだね。その場でウワァーッ! ってなる感覚に憧れたりもしながら……(笑)。でも、全国に僕らのライブを見に来てくれて、色んな感想を送ってくれる人達がいるのは、やっぱりやってて良かったなって自信にもなるし。今年は10周年の年でもあるので、その全国の色んなライブで、新旧織り交ぜた色んな曲をやれたらいいなと思ってます。特に野音はスペシャルな内容にもしたいので、楽しみにしていて欲しいですね」