インタビュー

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アリスのリーダーとして1972年にデビューして以来、数多くのヒット曲を生み出すとともに、コンサート・ツアーをベースにした活動に道筋をつけ、さらには日本のポピュラー音楽がアジアに進出する先鞭をつけるなど、つねに日本の音楽シーンの“新しい夢”を切り開いてきた谷村新司。未来に向けたコンセプトのもと、シングルの連続リリース、音楽番組「地球劇場」のスタートに続いて、7月からはツアーで全国をめぐる。

歌という財産を後世に伝えるために

――一連の展開の中心には「100年後の君に聴かせたい歌」というコンセプトがあるということですが、谷村さん自身は歌に対して今どんな思いをお持ちですか。
みんなそうだと思うんですが、最初に歌を作り始めた頃は「女の子にモテたい」というのがきっかけだったんです(笑)。それから、例えば「日本で一番になりたい」とか、そういういろんな競い合う思いのなかで歌ってきたなかで、僕の場合は「昴」という歌がユーラシア大陸に出ていって、おかげで初めて訪れた国でもいろんな人が僕の歌を歌っているシーンに直面するという経験をたくさんしました。そのときに、歌は国境を越えるんだということを実感として理解できたし、さらに言えば世代も越えていくんですよね。お父さんが歌っていたのを聴いて育った世代が、その歌を「お父さんの歌」として覚えていたりするんです。そんな経験を僕はずいぶんたくさんすることができたんです。で、100年という時間について考えてみると、今から100年前と言えば明治/大正の時代です。だから、例えば夏目漱石の言葉を今僕らが感じられるように、僕らが作ってきた歌を100年後の若い人たちにちゃんと感じてもらえるようなつながり方ができたらいいなと思うんです。それに、100年前には残そうと思ってもなかなか難しかったでしょうが、僕らはいろんな技術が進歩した現代に生きているわけだから、残すための最大限の努力をしたいなと思うんです。自分の作品だけでなく、いろんないい曲がたくさんあるし。「地球劇場」というテレビ番組を始めたのも、そういう気持ちで始めたんです。
――その時々のピュアな思いに従って素直に行動するという点は、最初の「女の子にモテたいというのがきっかけ」というところから一貫しているとも言えますね(笑)。
(笑)、そうですね。確かに、僕はその時々の思いに忠実にやってきました。僕は今65歳ですが、55歳のときに一度リセットしたんです。事務所もたたみファンクラブも解散して、自分の活動を白紙に戻し、60歳以降、自分の心が本当に喜べることは何だろう?ということを考え、それに向かって活動を再開したら、そのタイミングで上海の音楽大学から教授になってほしいという依頼が来ました。やったことないことだったけど、でも天命というのはそういうことだと思ったから引き受けたんですが、やってみると知らないことだらけだなと思いましたね。
――例えばどんなことを知らないと感じられたんですか。
その音楽大学の学生たちは英才教育を受けているから、音楽がどういうふうに出来上がっているかということについては、みんな知ってるんです。でも、例えば「ド」はどうして「ド」というのかということは知らないわけです。音って何?という、いちばんシンプルなことを彼らは知らないし、僕も知らない。言い方を換えると、HOW TOは習っているけれど、WHYは誰も教えてくれない。それを、僕は学びたいと思ったんです。そこから僕のなかでスイッチが入って、以来7年間は本当に食べる時間、寝る時間を惜しんで、怒濤のように学び続けた時間でした。そのなかで音とは何かということについても全部、自分なりに理解できるようになって、そのことを学生たちに伝えると彼らもすごく納得してくれました。それで、そういったことのすべてを日本の学生にも伝えたいと思って、今は東京音楽大学で教えていますし、"心の学校"と銘打ってピアノ1台とともに小さな街をめぐって、音の話もしながらいっしょに歌うということを続けています。そういう流れのなかで、「100年後の君に聴かせたい歌」というコンセプトにたどり着いたわけです。

゛やくそく゛が平仮名である理由

――谷村さんが「勉強」と言われた積み重ねは、今回の、四季それぞれの季節に連続リリースされるシングル曲の制作にも反映されていますか。
もちろん、つながっています。例えば歌詞のここはどうしてこの漢字を使っているのか、またここはどうして平仮名になってるのかといったことについて、すべて僕なりの意味があるんですよ。
――例えば8月15日にリリースされる夏のニュー・シングル「やくそくの樹の下で」のタイトルにある"やくそく"はどうして平仮名なんでしょうか。
漢字で"約束"と書いてあると、守らないといけないと思ってしまうでしょ(笑)。でも、平仮名で書かれてあると、"できたら守りたいな"というような、柔らかいものになると思うんです。漢字と平仮名とではそれくらいニュアンスが違うと日本人は感じますからね。
――確かに、この曲の主人公は「明日また逢おうね」と歌いかけるわけですが、逢えなかったら許さないというような感じではないですよね。でも、すごく逢いたいという気持ちは感じられます。
お互いに本当に逢いたいと思っていれば逢えるよね、という気持ちですよね。それが"約束"ではなくて"やくそく"ということなんですけど、同じように"なぜ「木の下で」ではなく「樹の下で」なのか?"というと、"樹"という字は人間の形と同じであるという意味を持っていて、だから"木"のように立ってなくても、お互いにとって大事な思い出の場所で逢いましょうということなんですよね。
――「やくそくの樹の下で」と春にリリースされた曲「サクラサク」の両方の歌詞で印象に残るのは、"夢"という言葉です。
今、夢を語る人がすごく減ってきたように思うんです。
――語りにくい時代になってきているということもありますよね。
そうですね。ただ、僕らは語りにくくても語ってきたんです。だって、「無理だよ」とよく言われましたから(笑)。でも、夢を設定することで、そこに向かっていくエネルギーが自分のなかに生まれるんですよ。生きていく上で、"そこそこでいい"と思っている人には、そういうエネルギーは要らないものです。ただ、そういうふうに生きていると、すべてが"そこそこ"になってしまうような気が僕はするんです。それよりも、夢を語って、少々の無茶は乗り越えようとしないと、1回きりの人生なのにつまらないでしょって。

日本の名曲が詰まった今回のツアー

――今回のコンサート・ツアーは、そういう思いも込めながらのステージになりますか。
いや、むしろ何も考えないで歌うという感じですよ。自分の思いはすべて歌詞に込めてあるし、セット・リストを決めた時点ですべての物語は出来上がっていると思いますから。あとはその時々の状況に応じて、その時々のベストを尽くすということだと思います。
――今回のツアーでは、60年代、70年代の日本の名曲もたくさん取り上げるそうですね。
僕がステージでそういう曲たちを歌うのは、初めてかもしれないですね。歌ってみて初めて気づくことというのがあって、そういう自分なりの解釈で歌おうと思っているんですけど。
――一般の音楽ファンがそういう日本の名曲たちを歌うことは単純に心地良いわけですが、谷村さんもそういう気軽な心地良さみたいな感覚を感じる部分はありますか。
それは、すごくありますよ。だって、そういう名曲ってイントロから全部いいですから。みなさんも、いい曲ってイントロから覚えてらっしゃると思うんですけど、だからこのツアーでもイントロはオリジナルに忠実に演奏しようと思っています。イントロを聴けば最初の歌詞がみんな浮かぶような曲ばかりだから、みなさんも気軽に、いっしょに歌ってもらえたらいいなと思っています。
さらに、このツアーでは、未発表の新曲もいち早く披露されるという。ファンにとっては、新しい楽しみと喜びにあふれたコンサートになるに違いない。

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