新作は、「他者」を意識した作品に
- ――まず、8月6日(水)にリリースされるアルバム『今、そこにある明滅と群生』について、非常に素晴らしいアルバムだと感じました。これまでの作品以上に、他者というものに凄くフォーカスされた作品に聴こえたのですが。
- そうですね。今回で言うと、僕自身が変わったというのが大きくて。これまではひとりの時間を凄く大事にしていたんです。夜はひとりで映画借りてきて見るとか、友達に誘われても「曲作りしてる」って言って断って。本当は曲なんか作ってないのに(笑)
- ――あははは!(笑)
- 僕の趣味といえば映画見たり、本読んだりって、全部ひとりで成立するものばかりで、それを続けてたらどん詰まりになっちゃったんです。曲が思うようにできなくなっちゃって悩んでいて。・・・ちょうど去年の武道館あたりがそのピークだったんですね。
- ――非常に多作のイメージがあるので、意外です。
- 無理やり搾り出すように作ってた時もあったし、あふれ出るものをそのまま作品にしていたんですけど、でもその時は搾っても出ない感じでした。その時にできるっちゃできる、って感じになるのが一番嫌だなって思っていて。これが曲作りでしょ?っていう風になっちゃいそうで怖かったですね。
- ――手癖になっちゃう、みたいな。
- そうですね。で、とにかく曲作って、歌わないで捨てるって事を繰り返してて、これは良くないぞ、何か変えないと、って思ったときに「自分が他者と関わる事だ」って気づいたんですよね。そこから人と会うようにして、「この会、何の意味があんだよ」って思ってたような会にも参加するようにして(笑)
- ――(笑)
- そしたら、結果的に意味のない出会いとか繋がりってひとつも無くて、そこで出会った人と励ましたり励まされたり、他愛もない話もして、繋がりが深い人、初めてであった人、様々な人との関わり合いを感じたここ1年だったんですね。で、このアルバムは、そういう心がけになった以降作った曲ばかりなんです。なので、先ほどおっしゃっていただいたように、これまで以上に他者を意識したアルバムになっていると思います。
- ――特に僕が心に残ったのは、「明日への星」の冒頭「貸した金返してもらえなくたって それのせいで電気代払えなくたって 愚痴グチと文句たれながら生きていくような真似はしないよ決して」という歌詞。これがロックンロールだよな、と思いました。
- ありがとうございます。
- ――『今、そこにある明滅と群生』、このタイトルというのはどこから出てきたのでしょうか?
- まさしく今『明日への星』のお話をしてくださったんですが、この曲の中では嘆きともとれる歌詞がたくさん出てくるんですね。それでも「君の事をひとりにはさせない」という、誰かへの思いやりを最終的には歌いたいって所に落とし込んでいて。今回の作品は一貫して、「自分が光を探して幸せになりたい」ということよりも「自分自身が光になって誰を照らす事ができるか」という事をテーマにしていて。
- ――なるほど。
- 『パイオニア』と言う曲の歌詞にも「光探すより自分が照らせる暗闇を見つけていたい」という歌詞があるんですが、その反面、『明日への星』のようなグジグジ弱虫っぽい一面もあって、それが「明滅」なんですね。誰かを照らす事もあれば、誰かに照らされる事もある。それが人間関係なんじゃないかと思っていて。その明滅している景色というのが、今回曲作りにおいて、ずっと頭の中にあった風景で。
- ――では群生というのは?
- これは、意味を調べると深いんですが、生きとし生けるもの全て「群生」を意味していて。人間だけではなく、太陽が照らされる、その上で草木が生い茂る。全て関連している。例えば、今このページを見ている人の近くにも明滅と群生はある、と言う気持ちで、このタイトルにしました。
- ――うん、このタイトル1行で楽曲全てを表現できているような、どストライクなタイトルですよね。さきほど、人と会うようにした、というお話があったんですが、楽曲作りやレコーディングとかも変わりましたか?
- そうですね、これまでギターで弾き語りして自分の好きなコード弾いて、「あ、この感じ良いからそのまま録音しちゃおうか」それをそのまま作品に収録しちゃうっていうのをやってて、そういうのも自分のやりたい事だったので後悔ではないんですが、今回はそういう録り方をした作品はひとつもなくて。
- ――高橋さんの作品の魅力のひとつでもありますよね。
- ありがとうございます、でもそれぞれどの曲もコンセプトがあって、それはギターひとつでは表現できない所があるんですね。たとえば、今回で言うと『おやすみ』とかは寝る前に聴いてほしいってコンセプトがあるし、それはギターだけでは表現しきれない。なので、今作はメロディを思いついた時点でボイスレコーダーで入れて、後からアレンジしたり、歌詞もこれまでは思いついたら「これだ!」って感じだったんですけど、入念に推敲して、「めんどくせえな!」って思いながらも(笑)
- ――(笑)
- あとは弦一本やピックの柔らかさにもこだわりました。なので、前作『BREAK MY SILENCE』とはまた違った振り幅の作品だなと思ってますね。
- ――特に一曲選ぶとしたらどれを選びますか?
- うーん、『BE RIGHT』ですかね。これが無かったら自分で最高傑作とは言ってないと思います。自分の中で手応えのある曲が10曲できて、「これでアルバムとして成立するな」って思っちゃうのが僕は一番危険で怖くて。だから芯となるものが欲しかったんですね。それでさっき言ったアルバムのテーマは既に決まってたので、その延長線上にある曲をひとつ作って。慎重には作ったんですが、結構すんなりとできて。これがあって作品がより締まりましたね。他の曲に比べると迷いが無いし、作りながら「これは1曲目だな」って思ってました。