インタビュー

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笑福亭鶴瓶が本格的に落語と向き合ったのは、50歳の頃からだった。その時から干支が一周した昨年の独演会では、大トリで演じる噺をあらかじめ告知することで、観客が見たい演目を選べるスタイルをとっていた。12年間の確かな成果にも思えたスタイルだったが、ある夜の公演終了後「これからが始まり。落語と違うところにいきたい」と舞台の上から語った言葉が印象的だった。落語家・笑福亭鶴瓶はどこへいくのか? 今年も『笑福亭鶴瓶落語会』の季節がやってくるーー。

落語家・笑福亭鶴瓶がこだわる“ポイント”

――まずは、根本的な質問から。落語家・笑福亭鶴瓶とはどんな存在なのでしょうか?
……まだわからないですね。うん。まだわからない。言うても、まだ13年ですから。落語と本格的に向き合ってから、まだそれだけの時間しかたっていないんです。だから、見に来てくださいとしか言えないんですよね。もちろん、自分也にこだわっているところはあります。たとえば、演じる時に鶴瓶がやっているんじゃなくて鶴瓶が消える。しかし、鶴瓶でしかできない演じ方で……というのが理想なんです。そのためには、くさい言い方になってしまうんですけど、毎日毎日稽古するしかなくて。
――そこまで稽古するのは、なんのためなのでしょう?
ポイントを見つけるためです。うまいことポイントを突けると古典落語が、いままでとはまた違うところにいける気がしていて……。そもそも、古典落語というのは先人たちが繋いできた物語があるでしょ。それをそのままやる落語家もいる。いいんです。いろんな人がいていい。でも僕は、稽古を重ねていると“ここがひっかかるなぁ”とか、“ここをこう変えたらどうだろう?”というポイントが見えてくるんです。たとえば『死神』という噺では、従来は男だった死神を女性に変えたりもして。
――今回の『笑福亭鶴瓶落語会』では、『三年目』という古典落語を演じる予定だそうですが、ポイントは見つかりましたか?
怒り方ですね。『三年目』という噺は江戸前(関東)では人情噺とされ、上方(関西)では『茶漬幽霊』というタイトルでユーモアのあるお噺として演じられるんですね。で、僕が感じたポイントは、主人公の男がいかに怒るかというところだったんです。妻に先立たれた男が後妻をもらう。前妻が恨んで出てくる。でも、その出てくるタイミングが問題で「なんで今頃やねん!」って観客も亭主の気持ちになって納得してもらえるように演じたいなぁって。ね? わからないでしょ?
――わからない? どういうことですか?
『三年目』というタイトルと今の話でなんとなくの粗筋はわかるかもしれないですけど、落語に詳しい人以外は、どこが面白いのかはわからないでしょ? だからやっぱり、とにかく見に来てくださいとしか言えないんですよ(笑)。

尊敬している“表現者”

――では落語から少し離れたお話も。5年前の鶴瓶さんは、尊敬する表現者として「SMAP、EXILE、中村勘三郎」の名をあげいていました。最近は、どのような表現者をすごいと感じていますか?
これがまたね、「すごいなぁ」と思う人がどんどん増えてきているんですよ。昨年末に、福山雅治さんのコンサートに行って感動したんですけど、完璧なんです。完璧すぎて嫌味な表現ってあると思うんですけど、彼にはそれがない。あの顔であの声であのギター。どこまで完璧やねんって言うぐらいの完璧さがすごく良かった。一方で、相変わらずすごいSMAPは完璧じゃないところを舞台で堂々と見せられるでしょ。だらしなさを見せる大人っぽさがある。ただ、SMAPの木村以外のメンバーには、表現以外にせなあかんことがありますけどね。
――SMAPがしなければないこととは?
結婚。あんなカッコいい連中がいつまでも残っていると想像してください。少子化だなんだと言われている時代なのに、SMAPを好きな女性たちがいつまでも待ってしまいますよ。
――(笑)。では、鶴瓶さんが思う、ある表現が「すごい/そうでもない」の差にはなにがあるのでしょう?
すべての表現を見に行っているわけでもないので、偉そうなことは言えないです。ただ、ひとつ感じるのは素人とアマチュアの垣根がどんどんなくなってきているということ。たとえば、今度「A-Studio」のゲストに登場してくれる淳(ロンドンブーツ1号2号)ね。今日、ずっと研究していたんですけど、あいつは素人時代からめっちゃファンが多いんです。それがそのままプロの世界に入っている。だから、吉本の芸人なのに、いい意味で吉本らしくない。
――たしかに、吉本の芸人には番組内で先輩後輩が顔をあわせた時のコンビネーションなど、「THEプロ」な感じがあります。
うん。でも、ロンブーはちょっと違うでしょ。で、ロンブーがブレイクするきっかけのひとつに、「BINTA」という企画があったんですって。女の子と淳が勝負して、女の子が勝つと1万円がもらえて、淳が勝つとビンタできる。その女の子たちは、番組を見てる世間の人たちも<なんか嫌な感じやなぁ>と思うような子なんやけど、勝った時の淳は思いっきりビンタしていたと。相方の亮ですら「そんなに全力で叩きます?」とひく時があるぐらいビンタしていた(笑)。淳は本気だったわけですよね。そして、今も本気でやっている。それって、プロとアマチュアがどうのと言う以前に、すごく大切なことやと思うんです。あえてプロとアマを比べた上で言うのなら、「素人だけど本気の心」がおもろいと言うか。淳は、その心をいまだに忘れていないし、もし、その心をなくしてしまったらロンブーじゃなくなると考えているような気がするんです。

落語を演じながら“離見”がみたい

――「素人だけど本気の心」は、鶴瓶さんにもあるものなのでしょうか?
全然ありますね。いまでもその心はあるし、忘れたらダメだとも思っています。ただ、時代の違いは、やっぱりある。僕は本当の芸人と呼ばれていた寄席芸人から、そうじゃないところまでいきたいなぁと願ったわけですから。ある意味、ものすごいプロの世界から始めて、テレビやラジオというメディアを目指したわけで。
――芸人、テレビタレント、俳優、そして落語家。もし、鶴瓶さんが肩書きを選べるとしたら、なにを選びますか?
うーーん。いまとなっては落語家なのかなぁ。いろんなことをやらせてもらってるけど、ようやく落語家なんでしょうね。
――落語家としてのその1年の集大成とも呼べる独演会。昨年の『笑福亭鶴瓶落語会』では、演目が終了したあとで「これからが始まり。落語と違うところにいきたい」と話されていたのが印象的でした。
演出家の蜷川幸雄さんが言うてはるんですけど「演技者にとって一番大事なのは離見である」と。演じながら俯瞰して自分を客観的にみれることを“離見”と言うんですけど、その感覚を鶴瓶噺では体感できるようになってきたんです。笑福亭鶴 瓶を笑福亭鶴瓶が離れてみてる感じと言うか。
――鶴瓶噺とは、鶴瓶さんが本当に経験したことを2時間ノンストップでしゃべるオリジナルの話芸です。
鶴瓶噺は30年以上やってますからね。一方で落語は本格的に向き合ってから13年。そういう経験の差が大きいのかもしれないですけど、落語では一度もできていないから、「これから」と言ったんです。ただまぁ、僕なんて遅いほうですけどね。藤原竜也という天才は15歳で離見をみてるらしいんですから。ロンドンという異国の地でね、貰っている台本の意味もわからず演出家に怒られながら、それでも逃げずに稽古を続けていたら、もうひとりの自分が演じている自分を見ることができたらしいんですよ。まぁ、その演出家が蜷川幸雄だったわけですけども(笑)。
――なるほど。最後に、落語に絞って、鶴瓶さんの今後の目標を教えてください。
離見をみたいです、落語を演じながら……。さっきの質問にあった肩書きなんてものは、世間の人が決めることやと思うんです。でも、いまはまだはっきりと「落語家!」と言い切れるものでもないっていうのは、悔しいじゃないですか。「いまとなっては」とか「ようやく」とか、自分でごちゃごちゃ言うてしまってね(笑)。でももし、落語を演じながら離見がみえたのなら、その時は胸を張って落語家だと言い切れるのかもしれません。それぐらい、鶴瓶噺で感じた離見というのは、気持ちのいいもので、しゃべるのが楽しかったですから。

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PROFILE

笑福亭鶴瓶
昭和47年2月14日、六代目笑福亭松鶴の許に入門。 内弟子時代を経て、昭和47年上方落語会会員として登録。 現在は上方落語協会副会長。

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