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チケットぴあインタビュー

福西崇史 サガン鳥栖×シドニーFCを読むVol.2

福西崇史 サガン鳥栖×シドニーFCを読むVol.2

7月24日(水)に迫ったサガン鳥栖×シドニーFCのプレシーズンマッチ。クラブ史上初の国際親善試合をベアスタで迎えるサガンはどう戦えばいいのか? そして、“最後のファンタジスタ”デル・ピエロをいかに抑えればいいのか? ジュビロ磐田、日本代表でボランチとして活躍した福西崇史氏に訊いた。
──福西さんが現役当時には、夏の国際親善試合が頻繁に開催されたものでした。印象的なゲームはありますか?

「リーグ戦の中断期間に日本代表の活動があるので、実はクラブの国際親善試合にはなかなか参加できなかったのです。ただ、2005年にジュビロ磐田対レアル・マドリードの試合が行なわれた際は、直後に代表の活動があったけれど出場しました」

──ジダン、フィーゴ、ロナウド、ベッカム、ラウールらがいた“銀河系集団”のレアル・マドリードですね。

「こちらはシーズン中で向こうはシーズン前ですから、レアル・マドリードはコンディション万全でなかったと思います。結果は0対3で負けましたが、無理をしてでも出場して良かったと思いましたね」

──それはなぜ?

「世界のトップレベルの選手がうまい、すごいと言っても、何がうまくてどこがすごいのかは、実際に対戦しないと分からないものです。メッシでもネイマールでも、代表とクラブでは生き方、生かされ方が違う。クラブは選手にとっての日常だから、慣れ親しんで分かり合っている関係のなかでどんなプレーをするのかを、同じピッチで感じたかったのです。コンビネーションについては、クラブのほうが間違いなくスムーズですし」

──シドニーFCと対戦するサガン鳥栖にとっても、非常に価値のある経験になるわけですね。

「それはもう、間違いありません。海外のクラブ相手に自分たちがどれぐらいできるのかを知ることは、チームにとってプラスになります」

──ジュビロの一員として、福西さんはアジアの頂点に立ったことがあります。それだけに、クラブレベルでの経験の重要性を、肌で感じていたのでしょうね。

「当時のジュビロには日本代表経験者が多く、国際経験の重要性は理解しているけれど、代表とクラブでは戦い方が変わってきます。レフェリーのジャッジも、相手の戦い方も、局面での激しさも違う。同じことがないと言ってもいいぐらいで、力を出し切れば勝てるというわけではありません。そういう『違い』を知ることが、チームの経験値を高めます」

──福西さんが指摘する「違い」を、ファン・サポーターの方にもスタジアムで感じてほしいですね。

「自分たちが応援しているチームが、いつもとは違う相手、有名な選手とマッチアップしている姿を観るだけでも、十分に価値があると思います。国際試合には独特な空気感がありますから、通い慣れたスタジアムでも、『あれっ、いつもと違うな』と感じるところがきっとあるはず。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の創設によって、クラブレベルで世界と対戦することも当たり前になりつつあります。サガンも世界へ羽ばたくことを目指しているわけですから、この試合は世界進出への序章にしてほしいですね」

──なるほど。

「数年後にこのチームが、アジアの舞台に立ったとしましょう。『そう言えば、あのシドニーFC戦から始まったんだよな』という思いが、おそらく胸に過るはずです。そのときに、『あの試合を見逃してしまった」という後悔をしてほしくないんです」

──国際親善試合をきっかけに、成長スピードをあげていく選手もいます。

「いますね。シドニーFC戦を経て変わっていく選手が、きっと登場するはずです。日本代表の選手たちも、ブラジルやイタリアとの試合を終えて意識が変わっていますし。ましてやシドニーFCには、アレッサンドロ・デル・ピエロというスーパースターがいますからね」

──親日家の彼は、今回の対戦をとても楽しみにしていると聞きます。

「そのデル・ピエロを封じたら、選手は大きな自信をつかむでしょう。試合後に『デル・ピエロを抑えた』と言える選手が、ぜひとも出てきてほしいものです。でも、デル・ピエロはモチベーションが高いでしょうし、シドニーFCでは身体がフィットしていて、昨シーズンはコンスタントに得点を取っています。彼を止めるのは、簡単ではありませんよ」

──デル・ピエロのようなスーパースターと対戦することで、選手はどのようなものを得られるのでしょう?

「プレーを知ることはもちろんですが、同じピッチでオーラを感じることができるのも大きい。プロサッカー選手として、デル・ピエロの振る舞いを見て勉強になるところはあるでしょうし、自分も同じレベルを目指したい、世界で活躍したいというモチベーションを得ることもできるはずです。今回のゲームは親善試合ですが、だからこそ思い切ってチャレンジできます。サガンの選手たちには、ミスを恐れずに思い切ったプレーをしてほしいですね」

──イタリア代表からは引退していますから、デル・ピエロとはシドニーFCでしか対戦できないわけですしね。

「そういう意味でも、今回の国際親善試合は貴重な機会です。繰り返しになりますけれど、見逃せない一戦です」

──デル・ピエロの魅力を改めて語ると?

「年齢的なピークは過ぎたかもしれませんが、経験がもたらすうまさがあります、テクニックは錆びついていませんし、厳しいタフなゲームを重ねてきた余裕を感じさせますね。有名な『デル・ピエロ・ゾーン』を作るための、自分の生かし方は必見でしょう。一流選手というのは、自分をどうやって生かすのかに秀でています。全盛時に比べて身体は動かなくなっても、それを補うだけの経験を持っています。彼の存在感はテクニックによって生まれているのか、それとも動きの質によるものなのか。スピードがそれほどあるわけではないけれど、どうしてボールをとられないのか。そこは戦えば分かるでしょう。そういうことを体感できるサガンの選手たちが、僕には羨ましいですよ」

──オーストラリアのサッカーについては? 豪州代表と何度も対戦した福西さんの皮膚感覚を、ぜひ教えて下さい。

「ちょっと変わってきているな、という印象があります。というのも、フィジカルの強さで押してきた時代から、個々のテクニックやチームとしてのパスワークを取り入れてきている。組織とフィジカルのバランスを考えた戦い方、という感じでしょうか。オーストラリアAリーグでプレーしている小野伸二選手も、『面白いですよ』と話していました。ヨーロッパでプレーしていた代表クラスの選手が続々と戻ってきて、色々な国から選手が集まってきています」

──成長著しいリーグですね。

「ACLでもライバル関係にありますから、勝負にこだわった戦いが見られるでしょう。クラブチームですけれど、両チームともに国を背負っている。日本のサガン鳥栖と、オーストラリアのシドニーFCの戦いです。勝敗にも内容にもこだわってほしい」

──ACLに出場するチームの選手たちは、いま福西さんが仰った「日本の代表」というメンタリティを強調しますよね。

「こうした親善試合は、のちにACLのような真剣勝負に生きてくるものです。個人的には日本人選手が経験を積み重ねるためだけでなく、ファン・サポーターが応援するチームをより深く知るきっかけになる意味でも、クラブチームによる国際親善試合が活発に行なわれてほしいと思います」

──では、サガンにとってシドニーFC戦が持つ意味とは?

「組織だったサッカーで全員が労を惜しまずに頑張ることで、サガンはJ1昇格1年目の昨シーズンに5位と躍進しました。そこからさらに一歩前へという位置づけが今シーズンで、ここまでやや苦しんでいます。勝つためには何かを積み重ねなければいけないわけで、そのきっかけをつかむ一戦にしてほしいですね。デル・ピエロという特別な選手がいるチームに対して、どういう戦いをするのかで……」

──浮上の足掛かりを見つけられる?

「と、思います。5月下旬の中断からトレーニングを重ね、7月6日の再開後にリーグ戦を消化し、そしてシドニーFC戦を迎える。トレーニングしてきたことを、ゲームで出せているのか。この試合でまたさらに、気づくものがあるのか。尹晶煥監督と選手たちは、積み重ねの一環としてとらえられるのではないでしょうか。シドニーFC戦は日本代表が出場する東アジアカップと重なりますが、あくまで個人的な意見としては、サガンにはゲームにベストメンバーで臨んでほしいですね。クラブチームの国際経験から得られるものも、間違いなくありますので」

──今回のシドニーFC戦をきっかけに、国際親善試合が毎年の恒例になっていくといいですね。

「本当にそうですよ。シドニーFCに『来年もまた来たい』と思わせるゲームになってほしいし、欧州や南米のクラブから『今度はぜひ我々を呼んでほしい』とオファーが来るようになってほしい。そのためにはサガンがJ1リーグで存在感を高めていかなければならないし、まずは今回のシドニーFC戦に勝たなければなりません。サガンらしい闘志溢れるアグレッシブなサッカーを、勝利へ結びつけてほしいですね。ああっ、それにしても……」

──それにしても。

「デル・ピエロとはやったことがないので、僕も出場したいんですよ。フル出場は無理だけど、20分なら何とかなる……かな(苦笑)」

取材・構成:戸塚啓
撮影:スエイシナオヨシ

(プロフィール)
福西崇史●ふくにしたかし
1976年9月1日、愛媛県生まれ。1995年、ジュビロ磐田入り。FWとして入団したが、ボランチにコンバートし、2年目にはレギュラー定着。以後、黄金の中盤の一角として、磐田の黄金期を支える。その後、FC東京、東京ヴェルディに移籍し、2008年引退。J1リーグ戦通算349試合62得点。Jリーグベストイレブン4度受賞。2002・2006年『W杯』出場。国際Aマッチ64試合7得点。近著に『ボランチ専門講座』(税込み1575円/東邦出版)あり。

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