インタビュー

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同一キャストで2時間公演を2作同期間に上演するという「2016ダブルチャレンジ」に挑むキャラメルボックス。梶尾真治の人気小説を原作にした「クロノス・シリーズ」最新作にあたる今公演は、シリーズ史上における重要な位置付けになるという。8年振りの再演『きみがいた時間 ぼくのいく時間』+成井豊渾身の新作『フォーゲット・ミー・ノット』に臨む西川浩幸、阿部丈二、筒井俊作の胸の内にあるものは?

丈二くんらしい秋沢がどんどん顔を出すんじゃないかと

――まずは『きみがいた時間 ぼくのいく時間』に関するお話を聞かせて下さい。
西川浩幸:正直に言っちゃうと、これは主人公・秋沢里志の物語ですね。だから、秋沢がダメだったらもうダメです。

一同: (笑)。

西川: 秋沢の周囲で色々な出来事が起こり、秋沢が翻弄される物語。
――その秋沢役を担うのが、阿部さん。
阿部丈二: 秋沢が常に中心にいるお話なので、それに対する責任感はあります。と同時に、今の僕達が再演する意味や価値を必ずどこかに含ませないといけないので、基本的には初演ありきなんですが、その中に自分がやる意味を探していこうと考えています。初演をなぞる気は全くありません。
――役と向き合うことで改めて感じた印象などは?
阿部: イメージとして正統派の純愛ものという印象があったのですが、意外と泥臭い物語だなと感じています。人間の弱い部分、自分勝手な部分、後悔など、色々な面が描き出された脚本だと感じていますね。僕自身と秋沢が通じる箇所もあると思っています。

筒井俊作:丈二くんは凄く真面目なので、稽古場にいるとひとつひとつを素直に、丁寧にこなしている丈二くんを見ることが出来ます。それは自分にとっても参考になるし、単純に応援したくなりますね。実は丈二くんが主演する作品での共演って、これまであまりないんですよ。

阿部:そっか、そうかもしれない。

筒井:じっくり模索しながら稽古をする丈二くんを見るのは、多分初めてじゃないかなぁ。今後、丈二くんらしい秋沢がどんどん顔を出すんじゃないかと楽しみにしています。

今回のお話は筒井さんにぴったりだと思う

――では次に『フォーゲット・ミー・ノット』に関するお話を。
西川: 成井さんの新作だし、成井さんが今作りたいお話という意味で「『きみ時間~』より現代だな」と感じました。それと(筒井演じる)春山恵太が主人公なんだけど、その周辺のドラマが立っていて、お客さんはそっちに惹かれていくんじゃないかなぁ。それらがいいクッションになりながら、春山のドラマが進んでいく。

阿部: 僕は「脇役もきちんとこなせる役者」が好きで、筒井さんは正にそういう役者だと思うんですよ。メインの役じゃなくてもお客さんの記憶に残る、物語にしっかり貢献出来る。だから今回のお話は筒井さんにぴったりだと思うんです。まず筒井さんに軸があり、周りにも色々なドラマがあって、それらをしっかり両立させないといけない。

西川: 筒井くんは少ない出番で見事に印象を残していく役者。でも今回は短距離走じゃなくて長距離走だから、今までのようなやり方ではいけない。主役というのは全体でもっと大きな人間性を求められていて、繊細な波に動かされていく。個人的には、そういう新しい筒井くんが見られる絶好のチャンスだと思っています。

筒井: ありがとうございます! 恵太は過去へ辿り着いた瞬間に記憶喪失になってしまうという設定上、見るもの全てが初めての状況に陥ってしまうので、ひとつのシーンに集中すると全貌が分からなくなっちゃって……。

西川:そうだと思うよ。

筒井:そうすると西川さんや丈二くんが助け船を出してくれるので、ありがたいなぁと感謝しつつ毎日頑張っている最中です。

西川:当て書きになっているから、そこはみんなやり易いと思う。あとはワンシーンワンシーンに成井さんの今やりたいことが凝縮されているはずだから、僕らはそれをもっと汲んで理解していかないと。

両方を観て初めて、今の僕達の「本当」が見える気がする

――この「ダブルチャレンジ」という試みには、どのような魅力があると感じていますか?
阿部: タイムトラベルもの2作で、同じ時間軸にフォーカスを当てているのですが、2作品の雰囲気がまるで違うんですよ。もし一日で2作品ともご覧頂くとしたら、同じキャストが同じ時間軸を生きているのに全く異なる雰囲気になるので、そこは観る方にとって面白みになると思います。これ、凄く不思議なんですけど、いわゆるパラレルとは違った様相になっていて、それが同じ日に上演されるという……。やっている僕達自身も面白いし、この不思議な面白さが結果的にダブルチャレンジの魅力に繋がるんじゃないかな。

筒井: ダブルチャレンジで2時間ものを2作品分で、役者達はふたつの人生を歩んでいるというか、幾つもの役を生きていると思うんです。それは単純な演じ分けというよりも、複数の姿を見て頂く感覚に近い。そこがひとつの魅力かなと思います

西川: 今、2本のお芝居を同時に稽古していて、それらを足して一人の人間なので、僕らの中にはどちらがより重要だとかそういう意識はありません。両方足して今の自分なので。その両方を観て初めて、今の僕達の「本当」が見える気がする。だから、両方とも観たほうが面白いのは間違いないと思いますね。その前提でみんなこの日々を生きているから、それぞれが影響を及ぼし合っている。

筒井: それは凄く感じます。

西川: 支え合っている関係なんだよね。僕らもそういう考えで臨んだほうがいいだろうし、お客さんにはそこも楽しんで欲しい。

阿部: いつもの2本立てと違って同じキャストでやるという意味では、その通りだと思います。

「時間の持つ意味」「今この瞬間の価値」を伝えられる作品

――クロノス・シリーズ2作品の同時上演ということで、改めて「クロノス・シリーズの面白さ」についてコメントを頂ければ。
阿部:シンプルな回答ですけど「時間の貴重さや意味」だと思う。時間というものがどれだけ貴重で、かつ意味があるか、それを犠牲にして何を成すのか、それを取り戻す為に何が出来るのか……。「時間の持つ意味とは?」「今この瞬間の価値とは?」ということを伝えられる作品なんじゃないかと。演劇はライブ媒体なので、こういったテーマにより適していると思います。

筒井:クロノスは万能のタイムマシンではないので、使用する際には選択が必要になってくる。クロノスを使うことで自分の何かを犠牲にしなければならない。ジョウンターなら身体が未来へ跳ばされてしまうし、スパイラルなら39年前の過去にしか行けないから、本来あるはずだった自分の未来を失ってしまう。クロノスを使うということは「自分にとって大切なものは何か?」を改めて問うこと。これはクロノス・シリーズにおいて発端の事柄ではありますが、やはり大きな魅力だなと思います。

西川:ジョウンターもスパイラルも欠陥があるタイムマシンなんだよね。クロノス・シリーズには「時間と闘う、時間に抗う」人達が沢山出てくるけれど、その際の武器であるクロノス自体は完璧なものではない。その「人間の手ではコントロールしきれないものと闘う」という点が、やっぱり面白いんじゃないかなぁ。

筒井:そう、リスクの大きな闘いですよね。

阿部:さっき筒井さんが言った「選択」という意味も含めて、今この瞬間を見つめ直すとか、そういうメッセージが込められているのが、クロノス・シリーズだと思います。

取材・文:園田喬し
撮影:源 賀津己