チケットぴあインタビュー

──これは長塚さんが昨年の留学中に出会った戯曲だそうですね。

長塚「ええ、ナショナルシアターの芸術監督であるニコラス・ハイトナーに『面白い現代演劇を教えてくれ』とお願いして、いくつか紹介してもらった中で、一番印象深かった作品のひとつがこれです。主人公の女性の名前がハーパー・リーガンで、彼女の2日間のお話なんですが、これは誰にも起こりうる物語じゃないかと。誰しもふっと自分の人生をみつめ直して、また歩み出さなければいけない時が訪れるだろう…と、読んでいて素直に感じたんですね。僕らが“今”を生きることの険しさを、背景としてきちんと描いていて、その中にハーパーのドラマがある。かなり優れた戯曲だと感じましたね」

小林「私も台本を読んで、心に響くポイントがいっぱいありました。これが舞台になったら、きっと喜んでくれる人がたくさんいるだろうな、やり甲斐があるな、と。ハーパーのように40歳を過ぎて家庭があって…となると、おそらく誰もが、自分でどう納得すればいいのかわからないまま過ごしてしまっていることって結構あると思うんです。それを、この芝居ではグイグイ導いてくれるというか。こういうことでいいんだ！ みたいな発見がありますよね」

長塚「それこそが演劇の持つ素晴らしさのひとつじゃないですか？ 舞台を観て、自分の中にあったわだかまりがスッと消えたりするのは、芝居の持つパワーですよね」

小林「自分自身とどう向き合って、どう進んでいけばいいのか、みたいな“きっかけ”がたくさんあるお話です」

長塚「物語自体はとても丁寧な作りで、女性に向けて開かれていると思うんですが、そこに僕が入ることによって男の視線も加えていけるんじゃないかと。ここに登場する旦那さんとか少年などの男の視線がまた、面白いんですよ。ハーパーは、もう大きい子供がいるのに、どこか成熟しきれていないところがあって、そこがキャラクターとしての魅力です。「オカン」になりきれなかった人なんですよね。想像力が膨らみます」

小林「そうそう、いろんなことを受けとめきれてない大人って感じですよね」

──お二人の初めての共同作業にも期待が集まっています。

長塚「僕、子供の頃に父に連れられて行った撮影現場で、聡美さんにお会いしているんですよ」

小林「覚えていますよ～。うっすら、まだ形になりきれてなかった長塚さんを(笑)」

長塚「モヤモヤした残像のように(笑)？ 子供の頃からいろんなドラマを見て素敵な女優さんだと思っていましたが、やっぱり僕は舞台『おかしな二人』での聡美さんが非常に面白くて魅力的で、いつか一緒に……と」

小林「長塚さんはしっかりご自分のビジョンを言葉に表せる知的な方で、お人柄も柔らかそうですし。非常に人間として多面的で、魅力的な方だと信頼しております」

長塚「ハハハ、よろしくお願いします。今回の舞台は、とくに女性の方々にはある種の冒険みたいなものにシンパシーを感じていただけるだろうと。ハーパーと歩みを共にすることによって、何か日常生活のちょっとしたことが、観終わった後に違って見える。それをぜひ体験してほしい。かなり刺激的な舞台になると思っています」

小林「絶対に私くらいの歳の人たちが見たら、ハラハラしながらも勇気づけられると思いますよ。今の自分を認めてあげたい、そんな気分になって前に進んで行ける芝居になることを目指して、がんばります」

取材・文：上野紀子　撮影：引地信彦

▼『ハーパー・リーガン』＜パルコ・プロデュース公演＞
9月4日(土)～26日(日)　PARCO劇場(東京)
10月2日(土)・3日(日)　梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ(大阪)
[劇作・脚本]サイモン・スティーヴンス [翻訳]薛珠麗 [演出]長塚圭史
[出演]小林聡美/山崎一/美波/大河内浩/福田転球/間宮祥太朗/木野花
□東京：7月31日(土) 10:00 一般発売
□大阪：8月1日(日) 10:00 一般発売
★先行実施予定。