インタビュー

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舞台を中心に活躍する実力派若手男優たちが、古典落語の演目を二人一組で掛け合うという全く新しいスタイルが人気の「ハンサム落語」。2013年にスタートしたこのシリーズの第五幕が来年2~3月に上演され、大阪、福岡でも公演を行う。初演から全シリーズ皆勤出演中の平野良、第三幕に続いて再登場の林明寛、初参加の小谷嘉一に話を聞いた。

重みを増した、「ハンサム」の意味とは…

――「ハンサム落語」第五幕に出演されるお三方ですが、平野さんは第一幕からずっと出ていらして、林さんは2回目、小谷さんは初登場なんですよね。
平野良: 僕と(磯貝)龍虎だけが全部出ていて、1回だけ欠席の常連も何人かいますね。
小谷嘉一: 過去のシリーズに知り合いがいっぱい出ていたので話はたくさん聞いているんですけど、僕はまだ観たことがないんですよ。
――全く知らずこれに挑むのは、なかなかの猛者では(笑)。
林明寛: いやあのね……みっちり稽古した方がいい! 「ハンサム落語」にはいっぱい魔物がいるから。
平野: アッキー(=林)は伝説の男として今も語り継がれているんですよ(笑)。
林: 前回は、イベントみたいな感じかなと思っていたら準備が全然足りなかったです! みんなちゃんと落語を作ってたから、まずそのギャップにテンパっちゃって。
平野: 初日終了後のアッキーの顔、今でも忘れられない(笑)。
林: ダメージ大きかったです……。でも恐怖があると人って強くなるんだなと。今回はリベンジマッチとして頑張ります!
――若手男優たちが落語を、しかも二人一組の掛け合いでという画期的な企画ですが、1回目のときはどう挑んでいったんですか?
平野: まず名前が先走るような「ハンサム落語」というタイトルなので、色眼鏡で見られるところがあるというか。
――言ってみれば、「イケメンが落語なんてできるのか?」という見方をされがちですよね。
平野: そういうところもありますね。奔放にやって最後ギュッと締めるとか、言っちゃえばギャップ萌えみたいなことも計算のうちではあるんですけど。そもそも、本格的に落語を目指してやるのかということも、初演では試行錯誤で。僕の中では、二幕の時点で結果的に楽しいことができればという気持ちになり、三幕四幕と重ねていくうちに、タイトルの“ハンサム”のニュアンスが変わってきたというか。正直言っちゃうとやっぱり最初恥ずかしかったんですけど、今は重みを増した“ハンサム”になってるんじゃないのかなって思っていて。それは、みんなが本気でぶつかってきたからこそだと思うんですけど。

相手と自分の世界観をミックスして化学変化を起こす

――生で拝見しましたが、個性とか実力とか、演者の全てがあらわになってしまう怖い舞台だと思いました。
平野: 余分な演出がないので、ごまかしようのない素材をお客様にただ観ていただくだけ。役者にとってはバトルみたいなところがありますね。掛け合う相手との戦い、演目との戦い、ある意味、お客様との戦いでもあると思いますし。
林: 擦り切れるぐらい集中力が必要で、アクションを全力でやる舞台と同じぐらい頭が疲れるっていうか。動き回るわけじゃないのに、汗だくになるんですよ。生きてる!って感じがします、座布団の上で(笑)。
――掛け合いなのでコンビネーションがとても重要ですよね。稽古は相当されるんですか?
平野: いえ、それぞれの相手と数回程度。僕、人見知りなんですけど、芝居のスタンスをぶつけ合ってだんだん仲良くなるみたいなことも結構ありますね。だから本番中、ずーっとフル回転! 最初の“マクラ”で相手がしゃべっている姿を見たり、合いの手の入れ方の感じで、徐々に把握していくというか。たまにポロッと爆弾落としてみて、それをどう処理するかとか。この2人だったら終着点はきっとここらへんで、そこを狙っていけば面白いんだろうなっていうのを、たぶんお互いに探しつつゴールに向かう感じです。
林: 「ハンサム落語」は相手と自分の世界観をミックスして化学変化を起こしていくもの。だからちょっと俯瞰で柔軟性を持ちつつやっていかないと大変なことになるって痛感しました(笑)。
――経験者お2人の話を聞いて、いかがですか?
小谷: 超未知の世界だから、逆に僕は怖いもの知らずってところがあるかもしれないですね。
平野: コニーさん(=小谷)は武器も豊富なんで、僕的には全然心配してないですよ。
小谷: そんなことないけど(笑)。普通の芝居でも、ずっと稽古で作ってきたことが、舞台上でちょっと変わる瞬間とかが結構好きで。「いつもと違うところで目線そらしたな」とか、そういうのあるよね?
平野: うん!
小谷: そういうことが起きているのは僕らしかわからない瞬間なんだけど、「ハンサム落語」では、舞台上でそれがいっぱい作られていくんだろうなと思うと、ワクワクしてくるというか。もちろん上手くいかなかったら、拾えなかったらどうしようって怖さはあるんだけど、今の話を聞いていると、そっちのワクワクの方が強いなって。
――“落語”という点にはそれぞれどう向き合っていきますか?
小谷: 僕は地元が浅草に近いんです。だから小さい頃から祖父に寄席に連れて行ってもらったりしていて、落語のイメージはあるんですよね。ただ今回のようなスタイルでは、全然違うものが生まれるのかなと。「ハンサム落語」には独自のルールや世界観があって、落語落語しなくなる瞬間もあるのかな?と思っているんですけど。
平野: まさにそうです。落語をちゃんと勉強するというようなことは、僕自身は第一幕であきらめたというか、別モノなんだなっていう。掛け合いなので、2人とも同じ勉強を積んで同じビジョンを持っていないと、上手く交わらないんですよ。だから要所要所で、本職の噺家さんの要素も入れつつ、結局は2人の世界観の方を大切にするようになりました。
林: 僕は前回の経験を踏まえて、生の落語をもうちょっと観て勉強しなきゃダメだなあと思っているんですけど。でも自分の中で作りすぎてもまた、掛け合いにならなくなっちゃいますからね。

いま自分が出せる全てを出してライブ感を楽しみたい

――“落語”のとらえ方も含め、演目が同じでも、ペアそれぞれでカラーが全然違ってくるのが面白いところですよね。
平野: そうなんです。オカズなしでがっつり落語をするペアもあれば、ふわっとした楽しいペアも。今回でいうと、RUN&GUNの2人(宮下雄也、米原幸佑)なんかは関西風味だろうし、芸術系とかパワー系のペアもきっといます。今回のメンバーはぐっと渋みが増して、全員役者バカ! 一人、トモカズ(吉田友一)って妖精が混ざってますけど(笑)。僕は今回、トモカズ以外の全員とやらせていただけるんですよ。みんな実力はありつつ持ってる武器は全部違うので、戦い方も変わってくるだろうし、ほんと楽しみです。
林: 僕、前回は(平野)良さんとやれなかったんですよ。今回、大好きな先輩たちとご一緒できるので楽しみですし、全力で頑張ります!
小谷: どんな空気感なのかとか、やっぱり実際に舞台に立ってみないとわからないですね。でもいろんなこと抜きにして、今自分が出せる全てを出さないと、完全に前回のアッキー状態になってしまうなということがわかりました。
林: ちょっと!!(笑)
小谷: 上手くやればいいのか面白ければいいのか、何が最良なのかまだわからないけど、自分の中で答えを出して、毎回毎回のライブ感を楽しもうと。アッキー状態にならないように(笑)。
平野: “観て損はない”ってたぶんこのことだと思います。役者が全部を出し切って、一人ひとりの人生の生き様を観ることができる作品。それで損したって言われたら「今までの人生なんだった?」ってぐらい(笑)賭けて挑みますので、ぜひ一度ご覧ください!

取材・文:武田吏都
撮影:源 賀津己