チケットのことならチケットぴあチケットぴあ

こんにちは、ゲストさん。会員登録はこちら



@ぴあ/HOTスポーツ人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。5月20日に行われたイベントを、そのままお届けします。
 vol.11 後編
 SUPPORTED BY KIRIN

「どうなる! コンフェデレーションズカップ」(後編)

前編はこちら

出演者プロフィール
ホスト: 金子達仁(スポーツライター)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターに。著書「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などがベストセラーに。松本幸四郎氏、小室哲哉氏らを取材した「21」(ぴあ刊)が絶賛発売中。
ゲスト: セルジオ越後(サッカー解説者)
'45年、ブラジル生まれ。日系2世。現役時代、ブラジルの名門・コリンチャンス、藤和サッカー部(現湘南ベルマーレ)のゲームメイカーとして活躍。現在は青少年へのサッカー指導、辛口のサッカー解説で人気を博している。

金子:さぁ、そろそろ皆さんも温まってきたんじゃないですか。なかなかない機会ですよ、越後さんに質問できるのは。
客:これまでのトークバトルで金子さんはトルシエ監督に対してわりと批判的というか、ワーストではないがベストではないという意見でした。僕個人は、今度のコンフェデ杯で結果が出なくて「トルシエ、ダメじゃん」となると思ってるんですけど、そうなった時に、次の監督はどうしたらいいか。それと日本代表はどうすればいいか。今の代表だったら、ジュビロの方が強いと思うんですよ。
越後:ただジュビロはエスパルスにも負けるからねぇ。錯覚しているね、ジュビロが強いって。まわりのチームが落ちすぎてない? 今のセ・リーグみたいなもので。あ、ゴメン、ゴメン。
金子:いや、阪神は結構強いですよ。
越後:今、まわりのチームが本当に落ちてるから。totoがあるからみんな、錯覚している。だって、ジェフとコンサドーレがあの順位に来てるのが証拠だよ(5月19日現在暫定、ジェフ3位、コンサドーレ5位)。間違いないよ。日本人ではなくて、外国人選手の質がすごく落ちている。今までのJリーグの歴史の中で、お金も一番ない。お金がないと当然、いい選手がとれない。だから日本人がみんな、海外に出たいって言ってるでしょう。これは日本リーグの時代に逆戻りした証拠だよね。Jリーグが一番いい時には、誰も出たがらなかった。逆に世界の選手がJリーグに来たがったんだから。
客:さっきのお話をうかがっていると、審判やリーグの厳しさは海外に行かないとわからないところがあると思うし、廣山選手(望、セロ・ポルテーニョ)がパラグアイにいるじゃないですか。彼を呼び戻して代表に呼んだらいいんじゃないかと思うんですけど、そういうのがなかなか実現しない。
越後:彼を呼んで代表に出すのは決して悪くないと思う。ただ、彼がいなくなってから、ジェフが強くなったってのも面白いでしょう。それと、南米でもいい選手はほとんど海外で、ヨーロッパのメインリーグでプレイしていて、それで残った選手が国内リーグをやっているレベルだから。今度のコンフェデ杯に来るチームに近いチームが、彼が戦っている社会だからね。でも、本人は日本にいる時に、もうああいうプレイはできてましたから。ただ好き嫌いが監督にあるかもしれないですから、どこまで呼んでくれるか。アルバレンガっていう選手、知ってる? 今、活躍してるよ。確か彼は以前、川崎フロンターレにいたんですね。環境によって変わるということもある。だから、あまりマスコミに乗せられては困る。実際、マスコミはいいところばかりを書くんだから。新庄(メッツ)も首位打者みたいな扱いだから。もちろん、日本のメディアは日本人選手のことを取り上げるからね。
客:そういう意味でも、廣山君が戻ってきた時に、どこまでプレイするのか見てみたい気がするんですけど。
越後:そうですね。日本人というのはメディアが書いたら、そうだと思ってしまう。例えば「F・マリノスの波戸がいい」とか。今、ガンバの右サイドでやっている柳本選手(啓成)。「ナンバーワンの身体能力で、疲れを知らない男」ってすごく期待されたんだよ。波戸と似てない? だから結構、好みが行ったり来たりしている。1試合やったら、神様的な存在にマスコミが仕立てちゃうから。良くない試合でも何かネタを拾わなきゃいけない。拾った人が得をするのね。
客:トルシエ監督だと、今のままだと思うんですよ。
越後:体質的にすぐ天狗になる人だから。アジアカップに勝ってからは、すごく天狗になってたよ。アジアカップのレベルと世界のレベルが違うんだということを錯覚してたよね。もう大丈夫だって。僕はトルシエ監督をよく知ってるし、トルシエ監督の一番いけないところは、自分の喋ったことを忘れてしまうこと。「今の発言が、以前の発言と矛盾していないか」って、いつも僕は彼に言うんです。勝った時に「いい」って言ったら、負けた時に文句を言うな、言い訳をするな。彼の欠点は、勝った時には「世界レベルのチームを俺は作った」、負けたら「選手を替えたい」と言う。だってフランスからスタッフを連れてきて体力テストをした後に、向こうに行って「フィジカルが足りない」なんて言うのはバカみたいな話じゃない。けれども賢いよね。日本のメディア文化ってよくわからないんですけど、フランス戦から帰った後に彼は2時間ぐらい記者会見をやった。黒板まで出して、日本のマスコミ相手にサッカー教室をやったのよ。あれ、選手にやればいいのに。その記者会見が終わったら、日本のメディアが彼に拍手をするのよ。どうなってるの、これ?
金子:何が聞きたかったんです?
客:トルシエ監督は、僕はイヤなんです。
越後:ただ、勝ってくれればいいのよ。
客:でも彼のサッカーは越後さんが言ったように、勝ったら自分の手柄、負けたら選手のミス。
越後:だから彼は追い込むほど、選手たちにそれを伝えて頑張る。モロッコの時はもう無我夢中だったよ、彼。それがちょっと余裕を持たせたら、もう天狗になっちゃうんですよ。やっぱり彼は世界的な監督になりたいんだよ。彼は言うんです、「俺が何回言ってもダメだけど、ベンゲル(アーセナル監督)かジャケ(前フランス代表監督)が言ったら、みんな“ハイ、ハイ”って聞く」。本人が言うのよ、「俺にはまだカリスマ性がない」って。だからスペインに行った時、記者会見が始まる前に女性から「失礼ですけど、どなたですか?」って聞かれてムッとしたらしい。知られてないんだから。本当にヨーロッパを歩いていても、誰も「トルシエだ」って寄って来ないんだから。彼はこれからの監督。ただ、日本ではもう神様的な存在になってるけど。ワールドカップで戦うレベルの国との対戦をコパ・アメリカも含めて、何勝何敗何分か成績を見てみれば、どれぐらい良い監督かわかるんじゃない? アジアの中では、加茂さんもそれぐらいの成績。あなたもベンチに座ったら、アジアであれぐらい勝ち越しますよ。
会場:爆笑
越後:だって、オフト監督にしても加茂監督にしても、アジアではほとんど勝ってるんです。問題は向こうですよ。その壁を破るためにどうするか。
客:ただ気になっているのは、トルシエ監督は加茂さんの時と似ていて、選手交替がマイナスになるケースが多い気がする。よりピンチを招いているような気がしてならないんですよ。それで次の監督をどう選ぶべきか、誰がいいのか。
越後:それはもうサッカー協会の問題。トルシエよりもっと大きな問題。2002年のワールドカップを誘致する時に、どれぐらい日本サッカー協会の担当者が世界を回ったと思う? どれぐらい予算取りをしたと思う? 強化委員会の担当者なら、1年中世界中を回らなくちゃいけない。名刺交換をしたり。誰かに頼めば、情報を教えてくれるように。それを「出前」って言う。自分が世界に行って人材を探す。Jリーグはみんな、コネを持っている。でもサッカー協会は継続的にチームを持っているわけじゃないから、そういう決断ができない。Jリーグのサポーターはチームに対して、監督に対して要求する。日本代表のサポーターというのは、あまり追及しない。試合も少ないしね。レッズのファンが日本代表を応援する時はもう別人だもの。あれ、色が違うからでしょうね。
会場:爆笑
越後:日本代表も赤いユニフォームに戻るべきじゃないですか。そうしたら、レッズのファンの要求の仕方が全然違うのにね。選手を替えるというのはひとつの可能性。それは「采配」。監督を替えるのはフロントの仕事。確か釜本さん(邦茂)がトルシエ監督の上司だったけど、いろいろな意味で辞めた。それで岡野会長が両方を兼任する。けれど今年に入ったら、強化本部長は誰かほかの人がやって下さいということになった。いろいろな人の名前が挙がったけど、結局空いたまま。誰がトルシエ監督の直接の上司なのかわからない。そういう部分が一番心配です。
金子:それで、何が聞きたかったの?
客:トルシエの次の監督は誰がいいのか。
金子:そこが聞きたかったんでしょう。早く直球を投げないと。
越後:韓国に来たヒディンク監督もいいよね。勝たせてくれたらいいのよ。イングランドも替わったよ、監督。南米予選でもアルゼンチン以外はほとんどの国で監督が替わっている。カメルーンもコンフェデ杯に来る前に替わった。どうして替えるかは別問題として、替えていいのよ。Jリーグのチームがどれだけ監督交替したか、見て下さい。今のジュビロの監督(鈴木政一監督、昨季途中コーチから昇格)って知ってる? みんな、あの人は誰って言うでしょ。でもチームを勝たせている間はいいんだよ。早野監督(宏史、ガンバ大阪監督)も去年は良かったんだよ。大分の監督(石崎信弘)ももっと良かったんだよ、少し前まで。だから、監督業はそういう職業なんだよ。それとクビを切られるのは、死刑じゃなくて「転勤」。成績の悪い営業部長が本社から転勤を命じられるようなもの。営業の社会で例えると、日本サッカー協会が本社。みんな偉くなって、日本代表に行きたい。選手は営業マン。結果が出なかったら、営業部長を替える。成績が悪かったら、営業部長が転勤させられる。昔の営業部長は一時、京都支店に行ってた。そこの成績も悪くて、今NHKでアルバイトをやってる。
会場:拍手
越後:その次の営業部長は、今は札幌支店にいる。一生懸命に頑張って、もう一度本社に戻りたい。わかりやすいでしょう? そのもっと前の部長は、今はもう定年を迎えてスペインにいる。今の部長は、少し景気が悪くて、外国の資本がいろいろ入ってきている日本を建て直すために外国から来ている。成績が悪かったら、またどこかに転勤になる。そういう世界なんです。選手がどれぐらい入れ替わった? 監督も同じこと。「あの選手を替えたらどうなる?」というのと監督も同じ問題。どうして日本はひとりの監督にこだわるのか。
客:良さそうな監督がいれば、替えてみたら。
越後:良さそうな監督は、値段次第でいくらでもいるのよ。トルシエ監督がいくらもらっているかわからないけど、そのランクでもほかにもいると思うよ。
金子:だって今のバルセロナの監督(レシャック)、フリューゲルスをクビになった人ですからね。
越後:それこそ今度、日本に来るブラジル代表とカナダ代表の試合は、ヴェルディとレッズの試合みたいなものじゃない!(ブラジル/レオン監督=元ヴェルディ監督、カナダ/オジェック監督=元レッズ監督)
金子:越後さんも何度か言ってますけど、Jリーグの方が監督探しはシビアだし、目を持ってますよね。
越後:お金をよく払ってた時には、Jリーグにいい監督が来てたよ。フェリペ監督もジュビロからブラジルに帰って、グレミオの監督としてトヨタカップで優勝してる。だから、いい監督は勝たせる監督。ダメになったら落とされる。その刺激で、次は勝たなきゃいけないとなる。監督を替えるということは、選手の使い方が変わるかもしれない。すごく新鮮。会社でもよく人事を替えてるでしょう。
金子:どれほど優秀な監督でも、3年を過ぎたら難しいですよね。スーパーな監督だけが生き残れるけど、だいたいは2年でしょう、この仕事。
越後:だから野村監督は勝ってた時はいい監督だったけど、今はいい監督じゃない。もし阪神みたいなチームで一回でも優勝したら、いい監督でしょう。
金子:言ってること、よくわかりますよ。
越後:長嶋茂雄さんって阪神の監督やったことないよね。
金子:大変なことになるでしょう、それは。
越後:もしこれで阪神を優勝させたら、もう永久に最高の監督だね。
金子:間違いないですね。世界中、勝たせられないチームはないでしょう! コンフェデ杯の日本代表が発表されました。何にも新しいことはないですよ。ゴールキーパー、川口(能活・横浜F・マリノス)・楢崎(正剛・名古屋グランパス)・都築(龍太・ガンバ大阪)。
越後:そういう順番で発表したの? 発表の順番は変わったよね。
金子:ディフェンダーは服部(年宏・ジュビロ磐田)・上村(健一・サンフレッチェ広島)・森岡(隆三・清水エスパルス)・波戸(康広・横浜F・マリノス)・松田(直樹・横浜F・マリノス)・中澤(佑二・東京ヴェルディ※鈴木隆行(鹿島アントラーズ)に変更)・中田(浩二・鹿島アントラーズ)。中盤が森島(寛晃・セレッソ大阪)・三浦(淳宏・東京ヴェルディ)・伊東(輝悦・清水エスパルス)・奥(大介・ジュビロ磐田※藤田俊哉(ジュビロ磐田)に変更)・中田(英寿・ASローマ)・戸田(和幸・清水エスパルス)。また戸田を入れるんかい。明神(智和・柏レイソル)・稲本(潤一・ガンバ大阪)・小野(伸二・浦和レッズ)。フォワードが中山(雅史・ジュビロ磐田)・西澤(明訓・エスパニョール)・柳沢(敦・鹿島アントラーズ※山下芳輝(アビスパ福岡)に変更)・高原(直泰・ジュビロ磐田※久保竜彦(サンフレッチェ広島)に変更)。
越後:森島が帰ってきたじゃない。でもこう見ると、ヴェルディとセレッソの選手が多いねぇ。
金子:絶好調でしたね、2チームとも。
越後:大丈夫かな。若い選手が段々いなくなってるから。シドニーのメンバーはどこに行ったの? ワールドユースのメンバーはどこに行っちゃったんだろうなぁ? 名波(浩、ジュビロ磐田)はケガしてるんでしょう?
金子:左利きがいなくなっちゃいましたね、中盤に。
越後:左利きがいなくても大丈夫だよ。みんな「バランス、バランス」とよく言うけど、全員が右利きだったら大丈夫で、全員が左利きだったらダメと言うのは……。
金子:ブラジル代表も言われてましたね。
越後:いい選手だったら、どっちでもいい。悪い選手なら左利きばかり使ってもダメとよく言われるけどね。全員が右利きだと社会で認められるけど、左利きの選手ばかりを使うと「おかしいじゃないか」と言われるのね。でもさっきの話の続きだけど、何も変わらなかったよね。ほら、言ったでしょう、国内の試合だとサンフレッチェのフォワードは入らないね。切れたのかね、マイレージが。
会場:爆笑
越後:以前連れて行って、試合で使わないで、切ってる選手がいるじゃない。
金子:よくわかんないですね。
越後:謎だね。まぁ、森島が帰ってきたけど。彼がいなくなると、攻撃的なサッカーができなくなる。それに西澤が「淋しい」って言うね。でも森島が出て、西澤が出なかったら面白いよね、これ。
金子:セットで使わないと、意味がないですからね、このふたり。
越後:中山と高原を連れて行きながら、意外に西澤と柳沢を使うよ。そういう組み合わせが面白いよね。でも連れて行って、出さないで、切っていく選手が大勢いるよね。まぁ、スペイン戦と似たチームになるでしょうね。それで、まず攻撃させるというイメージじゃないですか。ジュビロの選手は少ないですよ。最近、1勝1敗でVゴール勝ちだから。
金子:不調?
越後:うん、不調だね。
金子:ディフェンスラインが良くない、そういうことですね。服部君しかいないですからね。中盤も良くない。
越後:結局、メンバーを固定している。ヴェルディの成績が良くないのに中澤を選んでいるし、セレッソの成績が良くないのに選手を呼んでいる。Jリーグの成績とあまり関係ないんじゃないですか?
金子:Jリーグで一番、F・マリノスのディフェンスは悪いと思うのに、ふたり入ってますね。波戸と松田。
越後:Jリーグの試合をあれぐらい観に行っても代表のメンバーが変わらないんだから、試合を観すぎているんじゃない? そう思うよ。どの試合を観ても参考にならないじゃない。この間、浦和の試合を観にいって、小野が出てなかったのに選ばれてる。彼しか代表に入ってないんだから、浦和からは。ということは、観に行った試合に出てないから、その選手を選んでもベンチに置いておくということでしょう? 試合を観に行って出てないなら、試合にも出さない。Jリーグはあまり関係ないということじゃない?
金子:そのようですね。
越後:鈴木(隆行・鹿島アントラーズ)も入ってないでしょ。
金子:入ってない。
越後:だってこの間のスペイン戦で10秒出して、点を取らなかったから。それは厳しいよ。さっきの話の延長だけど、ここから監督の「采配」は始まっている。誰を選んで、どういう料理を作るか。結構、無駄な経費を使っているよね。連れて行って、使わないで、次は切る。それでも、その選手が何も言わない。強くならないよ、これじゃ。これが外国だったら「もう行かない」とか「それじゃ俺のプライドに傷が付く」となるけど、日本だと何も言わない。みんな出たいから、ワールドカップに。
金子:結局こうなると、中田英寿頼みですよね。
越後:う~ん。だけどアジアカップの時に「いらない」って監督は言ってたけどね。
客:ワールドカップで日本にはホスト国として最低でもベスト16に残って欲しいと思うんですが、現在、日本と韓国のどちらがベスト16に近い状態なんでしょうか。それとこれから2002年まで、ベスト16に残るために何が本当に必要なのか。監督の問題もありますし、点を取らなきゃ勝てないわけですし、実際に点を取っていくにはどうしたらいいのか。フランスワールドカップで勝ち点を取れなかったチームが、勝ち点を取るにはどうしたらいいのか。ご意見を聞かせて下さい。
越後:選手に対する扱いが甘いのね、日本は。選手をアイドルとして応援している。厳しさがないんですよ、勝っても負けても変わらない。でも勝った時と負けた時の違いを教えていくのが、サポーターの役目。時間が経つとともに、選手とすごく仲良くなってしまった。昔は日本にサポーターは2~3人しかいなかった。今は友達が多い、勝っても負けても応援する友達。それは、きれいだけど、選手に反省させたり、精神的に強くさせることにはならない。叩かれないために選手は頑張る。世論が選手を作る、それぐらいどの国でも厳しい。ただし、勝ったらコロッと変わる。負けたらものすごく厳しい。これはもう永遠に続く。日本の場合は「世界の強豪といい試合をやった」というニュース。悪いけど、スポーツニュースのほとんどの女性キャスターはサッカーを知らないで原稿を読んでいるから「よくやった」とコメントする。自分が中継している試合で視聴率が上がったら「もっと良くなった」と褒める。それじゃ強くならないですよ。試合に負けて何が良かったか、と僕は言いたい。その厳しさの中でどう育っていくか。それが全然変わってないんですよ。日本では試合が終わってから急に厳しくなる。で、また忘れてしまう。フランスワールドカップと同じミスを繰り返しているじゃない、今。今までの何年間、何をしてきたか。強豪と試合することが強化なら、どうしてもっと早くやらなかったのか。コパ・アメリカの時にどうしてもっと追及しなかったのか。アジアカップに勝った、「おめでとう」。でもフランスに負けた、「何をやってるんだ!?」、そういうのがないのね。そのあたりが、選手も突然言われると、すごくショックを受ける。城(彰二・横浜F・マリノス)も行く時には「いってらっしゃい」とみんなに言われて、帰ってきた時にすごく厳しく迎えられたから、すごくショックだった。今、中村(俊輔・横浜F・マリノス)もそう。いつも褒められていて、急に非難されると、泣いてしまう、戸惑ってしまう、日本の選手は。フランス戦の後、成田に帰ってきた時、みんな「勉強になりました」の繰り返し。悪いけど、こういうチームはワールドカップで戦えませんよ、まだこどもだよ。彼らの年俸はいくらだと思う? もうアマチュアじゃないんだからさ。それでも「よくやった」と許される。そのあたりが外国の文化と違う。戦い方を選手に教えるのは、国民だよ。日本の場合は、すごく甘い。「フェアプレイ」とよく言うけど、それがどういうことかと言うと、問題を起こさないこと。ルールに則って表現をすること。NHKでトルシエ監督のドキュメンタリーをやって、グラウンドサイドやロッカールームのトルシエ監督を映していたけど、僕に言わせたら、高校サッカーのロッカールームでカメラを回したら、トルシエよりもっとすごいのがいるよ。手まで出てくるもの。物まで投げてくるもの。けれど、監督がいくら厳しくても、大事なのはまわりが何を求めているかということ。皆さんも見るとわかるけど、国立競技場でも、勝った試合でも負けた試合でも、選手がスタンドに向かって挨拶に行くと、みんな喜んで拍手を送ってくれる。勝った試合でも負けた試合でも、監督の記者会見が終わると日本のメディアはみんな、拍手をするんだから。その文化が変わらない限りは難しいんじゃないですか。サッカーでも野球でも、外国人選手、外国人監督は、結果が出なかったら、すぐクビになる。なぜ、外国人だけなのか。外国人枠を使っているから? 中田は今、外国人としてその厳しさを受けている。全員がプロ選手なんだから、外国人だろうが、日本人だろうが、良くなかったら「ダメ」と言い切る、それができないんですね。キャリアが長いとか、今までの実績をいつまでも評価して認める。それではチームに入れ替え制があっても、選手自身に厳しさがなかったら、どうしようもない。プロというのは、そういう厳しい社会。だからほかの人より数倍のお金をもらっている。数倍もらうということは、数倍厳しいということ。これが変わらない限りは、どの監督が来ても難しいんじゃないかと思います。サッカー協会の幹部が「別に勝たなくていい」と言っていて、それで国民も何も言わないんだから。これは誰かがゴルフをしに行ったのよりひどい発言だと思うよ。サッカー協会が「別に負けてもいいんだ」と言い切れるんだから。「選手と監督がリラックスしてできるように」と言うけど、本音は自分の身を守ろうとしてるだけで。だから外国に行ってチャレンジする経験を覚えたいなら、外国と同じ厳しさを日本にも持ってこないと意味がないじゃない。
金子:ベスト16に入れると思います?
越後:組み合わせ次第。またどこか中南米の国が同じグループに来てくれたらなぁ。まだジャマイカ残ってる? アフリカのナイジェリアやカメルーンあたりがジャマイカの代わりに来て、ヨーロッパや南米の強豪という組み合わせになったら、ちょっと厳しいと思いますよ。でもそれは、フランスワールドカップが終わった時にわかってるはず。
金子:アメリカは確かにアメリカ大会の時にベスト16に入りましたよね。でもあの時は出場国が24ヵ国なんですよ。グループ3位でも決勝トーナメントに行けたんですよね。そういう意味で比べると、ものすごくしんどい。
越後:それを言うなら、24ヵ国だったら日本はフランス大会に行ってない。国立競技場のUAE戦で終わってたよ。32ヵ国になったから行けた。今度はホームでやるから可能性は十分あると思うんですけど、でも急に日本が強くなったという錯覚は、もっと冷静に分析したら、結構厳しい。なぜかと言うと、そういう相手にはほとんど勝ち越してないから。勝っているのはほとんど弱い国。ドメスティックというかアジアのレベルだから。
客:ワールドカップ日本開催が決まった時、まだ日本は出場経験のない国でした。32ヵ国に増えて、初めて出場した国。私は日本はワールドカップを金で買ったと思っているんですよ。そう言われないためにも、僕は絶対にベスト16に残らないと世界に認められないと思うんです。
越後:「金で買った」と言っても、結果を出せば安いもんですから。金で買って、実現しなかったら高いものですから。だからアジアそのものがレベルが低い、これは仕方がない。地理的に世界のトップレベルにあるサッカーマーケットから離れているし、これは日本だけの問題じゃない。それを裏付けるのは、南米予選の敗者復活戦をオセアニアとやって、結局南米の国がワールドカップに行く。今回、アジアのもうひとつの枠はヨーロッパと争うけど、またヨーロッパが勝っちゃう。日本はアジアの中で上位に入ればワールドカップに行ける時代ですけど、もし日本がヨーロッパの予選グループに入ったら、絶対にワールドカップに行けないと思う。ワールドカップに出たことはなくても、日本より強い国はいっぱいあるんです。出場はしても1勝もできないということは、いかに他の地域とアジアの上位がアンバランスかということ。選手がバロメーターになるでしょう。世界レベルの中で、中田が出るか出ないかというところまで来た。でも、名波が行っても通用しなかったし、城が行っても、西澤が行っても結果を出せなかった。そういう選手が日本に帰ったら、結構活躍できる。どうしてか。急にその選手が上手になったか、こちらのレベルが低いか、どちらかでしょう。そこをどう乗り越えていくか。日本サッカー協会はキリンさんをはじめ、強化予算を100何億円集めて、集まったらみんな一流ホテルに泊まって、ビジネスクラスを使って、しょっちゅうあちこちで合宿をやる。なのにJリーグはお金がないから、いい選手を獲れないというのは、矛盾してない? 今のJリーグのチームを引っ張っている外国人選手、例えばレオン監督がウィル(コンサドーレ札幌)を見ても、たぶん呼ばないよ。リーグの強化が8割。Jリーグにレオナルド(元鹿島アントラーズ)とかワールドカップに出るバリバリの現役選手がいた時代が、日本が一番伸びたと思う。呼ばなくても、国内でそれができるんだから。今の外国人の質はどうしても金銭的な問題でかなり落ち込んだ。韓国に失礼かもしれないけど、これぐらい韓国の選手がJリーグに出られるようになったのは、外国人枠の質が落ちたから。彼らも外国人枠に入っているんだから。ワールドクラスとの対戦がJリーグではできなくなって、それを協会のお金でフランスやスペインに行って試合をやったから急に強くなれると錯覚しちゃいけないよね。僕は、Jリーグの方にもっと投資をして、リーグのレベルをもっと高めれば、選手も競争して伸びていくと思う。それが今、全く逆になったということは、ワールドカップ後のこの4年間の対策としては非常に悪かったかなと思います。
客:韓国の方は実際、ベスト16に残れそうなんでしょうか?
越後:国民が求める部分の環境は、日本より韓国の方が数段上でしょうね。なぜかと言うと、向こうは大統領制で、大統領が票につながるから試合を観にくる。日本では総理大臣は来ないよ。票にならないから。自分の選挙区で当選すればいいんだから。この選挙制度の違いで、国民の盛り上がり方が違うのよ。フランスも大統領が観にくるし、韓国は国を挙げてやりますよ。日本はどこまで国を挙げてやるかという問題。サッカーファン以外の国民がどのぐらい、本当にそれを求めてフォローしていくか。ワールドカップの予選、あの懐かしいドーハの悲劇やジョホールバルの歓喜をもう一回思い出して。外国では代表がやる試合はどんな試合でも、ドーハの時のような雰囲気になる。日本では4年に1回しかそうならない。そのあたり、韓国の方が国民の意識と、国を挙げてやるというメリットと厳しさが日本よりずっとあるんじゃないですか。韓国は日本と対戦する時は、いくら調子が悪いと言っても10人でも負けないからね。そのあたりの環境で比べると、韓国の方がはるかに刺激しているんじゃないですか。
金子:越後さんの話に付け加えますと、「強くなるために真剣勝負が必要だ」とみんな言いましたよね、フランスワールドカップが終わった後。真剣勝負の雰囲気を作ってないのは、実はファンなんですよね。今度のコンフェデレーションズカップ、みんながもう死ぬほど優勝しか認めない、この大会で勝てなきゃもう絶対に無理だ、というぐらいに圧力をかけて、かけて、かけまくったら、それがプレッシャーになるわけですよ。そこで出した結果というのは、相手いかんにかかわらず、すごく自信になると思う。でも、そういう雰囲気じゃないでしょう。というわけで、可能性としては去年よりさらに後退してしまったと思います。
越後:フランスに0-5で負けた後、スペインに0-1で負けたから、良くなったと錯覚していない? フランスに0-8で負ければよかったのね。あれぐらい守って、0-1で負けて、それもロスタイムでやられて。あれが前半に点を取られていたら、別にいいの? そこがやっぱり、どうして急にああいうサッカーをやって、どうしてああいうメンバーにしたか、それをもっと冷静に分析したら。
金子:僕、日本人はまだやれると思うんですよ。というのは、ドーハで日本に勝てなかったサウジが、'94年大会でベスト16に入っているわけです。可能性としては決してないことはないと思う。ただそれは真剣勝負を積み重ねて、強化を図っていった結果、可能性は高くなるかもしれないと思ったのですが、結局この1年間、何も高まりませんでしたよね。真剣勝負がどれだけあったか。何もないですよ。
越後:あとは、フランス大会が終わってから、ワールドカップらしいプレッシャーの中で結果を求められて、勝たなきゃいけないというシミュレーションが一度もない。
金子:強くなる試合をやってないんですよ。
越後:2002年が来たから急にできるようになることはないと思うよ。なぜかと言うと、今回のメンバーのほとんどがフランス大会に行ってないんだから。
金子:そう。
越後:全然違うよ、求められる、期待されるものが。だから今回「負けたらダメだ」ぐらいのプレッシャーでシミュレーションをしたらわかるよ。人間ってそうでしょう。生卵を投げてから、やっぱり随分変わったよ。
金子:ただ協会の方、トンチンカンも甚だしいのは「リラックスさせるために、ノルマを設定しない」。じゃあ2002年ワールドカップもリラックスしてできるんですかと僕はお伺いしたい。2002年、いやでも空前のプレッシャーがかかるわけですよ。少しでもそれに慣れておくべきだと僕は思う。それを本大会とはかけ離れた雰囲気を作っておいて「本大会、頼むぞ」って、ヤバいでしょう、これ。というわけで、いよいよ僕、スーパー・ペシミストになりつつあります。では次の方。
客:代表選手に対するファンの態度の話が出たんですけど、例えばここにいる全員が代表の試合を観に行って、負けてブーイングしたとしても、結局新聞に1行書かれてしまったら、そちらの方が影響力は全然大きい。環境を変えるには、僕らは具体的にどういうことをしたらいいのか、正直言ってわからないんですけど。
越後:メディアというのは、みんなが求めるものをドンドン書くのよ。今の日本のメディアは、みんなが求めているものをいいか悪いか関係なく書く。読んでくれたらドンドン書く。
客:そういう記事を読んで、サッカーに詳しくない人は「その通りだ」と思うじゃないですか。
越後:テレビの中継でも出るのよ、プラカードを出したり、横断幕を開いたりすれば。一時出たじゃない、「○○、辞めなさい」とか。
客:一概に、ファンの態度とくくって終わってしまうのは、ファン側としても納得のいかないところが少なからずあります。
越後:「日本は勝たなきゃいけない」と思わなかったら、何も意味はないのよ。応援に行って、「あの選手がカッコいいから好きだ、サッカーはあまりわからないけど」とか、そういうレベルだったらいいんですけど。でも「勝たなかったらいけない」「俺が愛してるチームが負けたらけしからん」「入れ替え戦に負けたら困るんだ」。そういったJリーグのチームを応援しているのと同じぐらいに、日本代表にチームとして愛情を持つか持たないか。Jリーグのチームと日本代表に対して、同じ人が、同じような表現をしていないというのは確かでしょう。それだったら勝てない。自分が日本代表に勝って欲しいなら、レッズに勝って欲しい、アントラーズに勝って欲しいのと同じぐらいに応援しなけりゃいけない。でも、どうも違う。
金子:付け加えさせてもらうと、僕もファンなんですよ。でも、多数派だった人たち、トルシエ監督でいいと舞い上がっている人たちと僕は違うと思う。それで一生懸命に「そうじゃない」という表明はしたつもりだけれど、結局それは伝わらなかったわけですよね、ここまで。民主主義の社会ですから多数決が通るのは当然。決まったら、僕もその一員なわけですよ。自分自身に対する「あ~ぁ」という気持ちも含めてダメだったなと。
越後:総理大臣が替わりましたよね。加茂監督から岡田監督に替わったようなものでしょう、振り返ってみたら。岡田監督も小泉総理と同じぐらいの支持率があったよ。何でもそうじゃない、期待に応えたら支持率が上がるけど、結果が出なかったら支持率が下がる。この厳しさはどの分野でもある。サッカーだけが特別だと思っちゃいけない。国を愛するように、会社を愛するように、チームを愛する。これはイコールなんだよ。外国では「自分の国に勝って欲しい」という気持ちは、「自分の国のここが良くなって欲しい」というのと同じで、全部が同じ目線だから激しい。Jリーグには「社長出てこい!」って言うサポーターはいるけど、「会長出てこい!」って言う日本代表のサポーターはいない。
金子:一度勝つと、すべて変わると思うんです。'98年5月までのフランスって、やっぱり世界の二流国だったと思います。彼らは負けても全然ブーイングがなかったし。負けると必ず彼らはエクスキューズしていたわけですよ。「我々は個人主義者だから、ドイツ人のように集団のためにロボットになれない。そこが大事なところで負けてしまう一因だ」と彼らは常にエクスキューズしてきた。勝ったら、もう変わっちゃったわけですよ。2000年の欧州選手権、フランス人だらけですよ。あんなの僕、いまだかつてヨーロッパで見たことがなかった。勝つことによって、メンタリティって変えられるものだと思う。トルシエ監督は「日本にはサッカーの歴史はまだ10年もない」と言う。確かにプロサッカーの歴史は10年はない。でもサッカーファンとしての歴史を10年以上持っている人たちってたくさんいるわけです。なので下地はできていると思う。勝てばチャンスはある。
客:勝つというのはコンフェデ杯で?
金子:コンフェデ杯もそうですし、2002年はもっとそうですよね。2002年に一気にベスト8ぐらいに進むことによって、全然変わると思うんですけどね。さっき彼が言ってたけど「日本は2002年のワールドカップを金で買った」。お金で買った部分は確かにあるのかもしれないけど、これで招致できなかったら日本のサッカーが潰れてしまうという危機感がみんなにあったわけですよ。みんなが総力を挙げて招致しにいったわけです。2002年を招致するためにかけたのと同じだけの労力が、今日本代表チームに注がれているようには、とても思えない。それは非常に悔しいですよね。
越後:日本は昔と比べたら良くなってるのよ。ただ、アジアレベルでは追いついたけれど、世界のレベルで追いつけない。「これでいい」「良くなった」という声を選手が聞いたら、もう選手は伸びない。僕がビックリしたのは「世界一になりたくないの?」と言ったら、「世界一になんかなれやしない」って言ったのね。チャレンジする前にあきらめている。それならJリーグも全部やめて、アマチュアに戻ればいい。そうしたら、こういう議論もなくなって平和になる。野球みたいに世界戦もなく、興行的に人が入っていればいい、世界レベルは別にいい、となるじゃない。世界一になるために何をするかというのは、すごくロマンがある。でも「参加するだけで素晴らしい」という言い訳がつく。ジュビロが強くなったのは、世界を狙ったからだよ。Jリーグでは、世界を狙うのはお金がかかるからやめているというクラブがたくさんあるんです。「赤字の試合をアジアでやってどうするんだ」って。世界一になるためには、世界の大会に出なくちゃいけない。だから国内レベルではジュビロが強くなったというのは、いい例じゃないですか。日本代表、参加するのはお金で買ってもいいけども、買ったからにはベスト16じゃなくて、ベスト8だな。「すごいノルマだなぁ」「このままじゃいけない」とみんなが思うじゃない、サポーターもメディアも選手たちも。今はサッカー協会もノルマを決めてないし、トルシエがそれに怒って「もっと上を狙おう」と言っても、結局本人は言ってないフリをするし。だから中途半端。Jリーグでも、「順位はともかく、赤字にならなければいい」という経営者がたくさんいる。それでもサポーターは観に来るんだから、たいしたもんだよね。負けてもいいけど、「これを狙う」という公約があって、それを実現しようとする時にドラマが生まれて、そこにスポーツを観る楽しさがある。YAWARAちゃんは、「最高で金メダル、最低で金メダル」。あれをすべての種目、すべての選手が狙っていくべきじゃないかと思います。それをできない時の悔しさ。それがすごく美しく見えるんですけれどね。そこまで賭けないで負けたら、だらしなく見えるよね。なんか言い訳をして逃げる。一番、頭に来たのは「フランスのグラウンドが良くなかった」。まるで、フランス代表は乾いたグラウンドでやって、日本代表はひどいグラウンドでやってたみたいだね。皮肉みたいに、両チームのスパイクもユニフォームも全部アディダス。なのになんで差が出るんだろうね? 日本の方がモノは良かったらしいんだけどね。
客:2002年までに日本のサッカー界が劇的に変わるのは難しい?
越後:でも2002年を利用しなかったら、どうするの。フランス大会から止まっているじゃない。国内で開催する2002年をひとつの勢いにして、2010年、2014年へとそういう方向性でやっていかないと。ヴェルディみたいに、サポーターが「別にいいや、もう観にいかない」となったらどうしようもないチームになっちゃうでしょう。レッズみたいに、サポーターがスタジアムに行って、表現したら、また強いチームになるんだから。いい時には認めて、悪い時にはハッパをかけて、それで変わっていけば、それに勝ることはないでしょう。
金子:負けた人を罵るのを潔しとしない文化が日本にはあるじゃないですか。サッカーに関しては、スポーツに関してはそれを少しずつ捨てていっていいと思います。だからもう僕も、阪神に対しては罵っていこうと思いますし。
客:でも阪神はお客さんが入りますよね。
金子:だから、それがダメなんですよ。そういう国民が、僕も含めてですけど、ダメなんですよ。
越後:野球はいいのよ入れ替え制がないから。1位になっても最下位になっても、次の年からまた頑張ればいい。野球場は劇場だからさ。オリンピックにプロが出なくてもいい。サッカーとは環境が全然違うよね。
金子:越後さん、最後にひとこと。
越後:日本は確かにサッカーの歴史は古いですけど、Jリーグというプロの世界はまだ10周年を迎えていません。プロというのはアマチュアと違って、生活に入っていくことによって長続きすると思うんです。今日はこういうテーブルを前にこういうトークをやりましたが、毎日のテーブルがこういう雰囲気になったら、日本も強くなると思うんです。サッカーは野球と違って週に1回しかやりません。多くても2回。試合の日と試合の日をつなぐために外国では、メディアが社会にぶつけた問題を「賛成か、反対か」と酒のつまみにして話し合う。まぁ、それでキリンビールが儲かる。居酒屋でもどこでも、「セルジオは悪党だ」とか「けど、俺は賛成だ」とか「トルシエはいいじゃないか」「いや俺は反対だ」とやりあってるうちに次の試合が来るんです。野球は毎日試合があるから、試合がつないでくれる。つまりネタがいくらでもある。サッカーはたまにしかやらない、それも90分しかやらない。試合と試合をつなぐのは、この雰囲気。昨日の試合について1週間議論をして、次の試合がやって来る。そういう文化を育てていくことによって、上がった選手たちがここに来る。街角で会う。そういうことがあって、世論ができて、選手がどこに行っても、賛成や反対、褒めている、非難しているといった声が耳に入るようになる。その時に国民的なスポーツになるし、やり甲斐がもっと出てくる。日本のサッカーももっと楽しくなる。サッカーはまだ“90分の文化”だからね。ご存じでしょうけど、試合が終わるとみんな、走って駅に向かって、勤めに行くのと同じような感覚で家に帰る。そうじゃなくて、その試合の反省会とか、あれが良かった、これが悪かったという話を酒のつまみにして、サッカーを知ってる人が知らない人に教えていくと、すごく面白くなるんじゃないかと思います。totoでかなり人と人のコミュニケーションが増えたらしいんですけど、博打のためだけにやっても仕方がないよね。だからぜひ今度のコンフェデレーションズカップにしてもJリーグにしても、今すごく気分がいいサポーターと、すごく落ち込んでいるサポーターとがぶつかりあって、そのエネルギーがチームに伝わって、選手に伝わって強くなっていく。選手の環境などは良くなったんですけど、サポーター、応援するファンがサッカーの文化を育てていったら、選手にもそれが伝わっていくんじゃないかと思います。空っぽのグラウンドではプロは成り立たないです。だから主役は選手じゃない、スタンドだよね。スタンドからの希望によって、選手のやる気が出ます。だから皆さんもぜひ、ひとりでもふたりでも毎週引っ張って行って、こういう議論を街角でして、他人を巻き込んでいって、それがスタンドに広がって。スタンド以外の場所でもサッカーの話ができるように、ぜひ皆さんに頑張って欲しいと思います。これは監督とか選手の役割じゃない。我々の役割ですから。我々がもっと活発になれば、選手と監督にもっといいものを求めることができますから。今の人数ではケンカすることができないから、まず人数を増やしましょう。そして、自分たちでこういう会をやって、膨らませていって欲しいと思います。またどこかで、小さなテーブルでもいいですから、どこかでもし会ったらこういう会をやりましょう、割りカンで。
会場:拍手
越後:今日はどうもありがとうございました。
金子:これがセルジオ越後さんです。ま、僕も頑張りますんで、ひとりずつでもいいですから。スタジアムで怒っていると「何コイツ?」と見られる部分はまだあると思いますが、負けたら本当に悔しがる。それがサッカー場に関しては珍しくないようにしていきましょう。篠原が負けた時、シドニーのオリンピックの柔道センター、悔し泣きしている日本人がたくさんいましたから。サッカーも早くそういう風にしていきましょう、頑張って。ありがとうございました。



前編はこちら


構成・文:CREW
撮影:源賀津己