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@ぴあ/HOTスポーツ人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。6月17日に行われたイベントを、そのままお届けします。
 vol.12 前編
 SUPPORTED BY KIRIN

「どうなる! キリンカップ」(前編)


出演者プロフィール
ホスト: 金子達仁(スポーツライター・左)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターに。著書「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などがベストセラーに。松本幸四郎氏、小室哲哉氏らを取材した「21」(ぴあ刊)が絶賛発売中。
ゲスト: 水沼貴史(サッカー解説者・中央)
'60年、埼玉県生まれ。浦和南高、法政大を経て、'83年に日産自動車(現横浜F・マリノス)に入社。日産で黄金時代を築き、Jリーグでも優勝を経験した。その一方で、日本代表として国際Aマッチ31試合に出場した。'95年に引退後はサッカー解説者として、持ち前の歯切れのよい語り口で人気を博している。
  高木琢也(サッカー解説者・右)
'67年、長崎県生まれ。国見高、大阪商業大を経て、'90年にフジタ工業(現湘南ベルマーレ)入り。'91年にサンフレッチェ広島に入団。'92年には日本代表デビュー、大型フォワードとして数多くの国際大会に出場。今年1月に引退し、サッカー解説者として活躍している。

金子:今日はコンフェデレーションズカップが終わって、日本代表について、そして来たるキリンカップについて話をしていこうと思います。まず、このトークバトルに初めて来ていただきました、『スーパーサッカー』(TBS系、土曜24時~放映)でもお馴染みで、僕の大学の先輩でもある水沼貴史さんです。
水沼:こんにちは。よろしくお願いします。
金子:もうひと方、高木琢也さんです。
高木:よろしくお願いします。
金子:それでは、日本のサッカーの将来と、それを支援しているキリンビールさんに乾杯しましょう。キリンカップなんですが、水沼さん。日本代表に何を期待しましょう。
水沼:コンフェデでは準決勝まではまあまあだったんですけど、決勝で僕自身もフラストレーションが溜まり、試合が終わった後にミックスゾーンで選手たちの顔色や表情を見て、話を聞いた中で、やっぱり選手たちにも溜まっているものがあるなというのはすごく感じたんです。だからそれを発散して欲しいというのがひとつ。で、新聞報道によれば、選手を入れ替えたり、若い選手を多く使うようですけれど、ホームでやる限りはやっぱりサポーターの人達が納得するような戦い方をして欲しいなとすごく思いますね。
金子:高木さんは?
高木:僕は、結果としてコンフェデというのは期待以上のことをやってくれたと思うんですけれども、あの力を継続して、固めていくという意味でも、今回のキリンカップはすごく大事な大会だと思いますね。テレビで日本戦後のフランス選手のインタビューを観たんですけど、デサイー(フランス代表)が「フランスも日本も引き気味というか、積極的にいかなかった」と言っていたり、リザラズ(フランス代表)も「もっと日本は来るんじゃないかと思っていた」と。そのコメントを聞いた時、僕は力の差を感じましたね。
金子:うーん。
高木:日本はそうじゃないのにな。別に引き気味でいったわけでもないのにね。
金子:かなり後半とかは、圧力をかけようとはしましたけどね。
高木:そういう意味でも、この大会でよかった部分もありましたから。そういった部分をもっともっと固めていってもらいたいなと思いますね。
金子:ちなみに水沼さんが、コンフェデのファイナルで感じられたストレスの原因とは? フラストレーションを感じられた原因とは?
水沼:うーん、システム。
会場:爆笑
水沼:僕としては、トリプル・ボランチは嫌い。最初から3枚を置くのと、自然に試合の流れで、システムを崩されてしまってそういう形になる場合とが考えられるんだけど、相手もいることだし。自然になってしまうのはOKなんですけど、最初からそういう形でいくのはどうもね。なんか、それまでやってきた形じゃないととられちゃうんですよね。
金子:結局フランスを自陣に引き込んじゃいますよね。
水沼:やっぱり相手は「たぶん日本は、最初から攻撃に来る」という予測をしていたと思うの。確かに開始早々のモリシ(森島寛晃・セレッソ大阪)のボールが入っていれば、変わったと思うんですけど。昨日もモリシが『スーパーサッカー』にゲストで来てくれたんですけど、「いつもビッグチャンスはあるんですけどねぇ。そこで決めてりゃもっと大物になってるんですよ」と言っていた。間違いなくチャンスはあるんです、何回かね。そこで決めるのがすごく大事で、あそこで先制パンチを浴びせていれば、違った展開になったかもしれないけど。とにかく前に人を置いてプレッシャーをかけて欲しい。相手の力が上だから自然に下がってくるのは仕方がない。いくら攻めても跳ね返されることは絶対にあるんですから、力の差を考えれば。でも、あれじゃ最初から受け身という気がしてならない。
金子:うん。
水沼:3月に0-5で負けたフランス代表にリベンジするんだって言ってたじゃないですか。トルシエ監督も。僕がトルシエ監督とトークショーをやった時も、「現実を考えないとね」みたいなことを言ってたんだけど、裏では「コンフェデでは攻撃的にいく」と言ってくれてたんですよ。なのに結果的に決勝までいったら「現実を見ないといけない」みたいにトーンダウンしちゃったじゃないですか。満足感はあったんでしょうね。
金子:お腹いっぱい。
水沼:例えば、0-1という結果が残れば、もしかしたら「コンフェデの決勝、0-1の日本はすごいなぁ」と見られるかもしれない。それがもし0-5だったら。歴史を振り返った時に、0-1と0-5の差を気にしてしまったのかと思えてならないですけどね。
金子:高木さんはどうでした? 決勝戦をご覧になられて。
高木:後半はフランスも多少前に来るようになってきて、日本が前に出られない部分もありましたしたから、システムを変えて相手が戦いやすい状況を作ったという気もしますけど。前半は、中盤の稲本(潤一・ガンバ大阪)とか戸田(和幸・清水エスパルス)のあたりを、本当にフリーにやらせた状況が多かったと思うんですよ。そういった時にチャンスも何度か確かに作りかけた部分もありましたから。ああいう時に、スリーボランチでやっていると、構えている状態から前に出るということで厳しいし、時間もかかる。
金子:距離も遠くなる。
高木:そういう状況で、前に出る選手がもっといても良かったなって気がしますけどね。
金子:高木さんも水沼さんも元フォワードじゃないですか。前評判は大したことなかったのに、トーナメントはガーッと上に勝ち進んだ。さあ、ファイナル。試合前にあのフォーメーションを選手として伝えられたら、どんな感じがするんでしょう? 
水沼:いや「戻ったなぁ」と僕は思いますね。もっと人が近くにいてくれたらと絶対に思うだろうし。昨年モロッコでフランス代表と戦って、3月にサン・ドニで戦って、相手の力というのはもちろんわかってたと思うんですよ。だけど決勝まで来た過程が、それまでの戦い方とは違うから、流れが日本にも来てたという部分もあるし、積極的にやってきてできたっていう部分もあるし。「それでいこうよ!」となってたと思うんだよね。それでメンバーが発表されシステムがわかった時に「反応はどうだった?」って、いろんな選手に聞いたんだけど、「別に」という感じだったんだよね。選手たちはたぶん「積極的にいきたいな」と思ってるんだけど「あ、戻ったのかな」と。
金子:何か水をかけられたような。
水沼:そんな気もするんですよ。ゴン(中山雅史・ジュビロ磐田)に「チャンスだったのにね」って聞いてみても、「そうなんですけどね……」っていう感じなの。
高木:せっかくツー・トップとかで攻撃の数を増やせば、ある程度の技術を持っているし、できる部分もたくさんあったんですけど。なにせワン・トップは前々から結果が出ないっていうか、タメを作れていない部分がほとんどでしたからね。そこで、ああいうシステムでやると、やはり相手の方が力的にも上だし、こちらが圧力をかけられる状態じゃないですか。あのピッチに立ったら、僕だったらそう感じますね。
金子:西澤(明訓・エスパニョール)君は日本にいた時、ポストプレイがうまかったじゃないですか。それが、フランス戦でもそうですけれど、特にワン・トップになると、ボールが止まらない、キープできなくなっちゃいますよね。ヨーロッパのディフェンダーと、日本のディフェンダーとでは、背負っている時にストライカー側から見て何か違うんですか?
高木:海外のディフェンダーには、僕はやっぱり圧力を感じますね。
水沼:高木の体をもってしても?
高木:ええ、感じましたね。
金子:ぶつかる力が強いということ?
高木:いや、もちろん、そういう当たりも強いですけど、それ以前の圧力っていうんですか。そういうのを感じて。オフト(元日本代表監督)の時に、イタリアのユベントスと対戦しましたけど、コーラー(ユルゲン・元ドイツ代表)という選手が僕についてたんですが、後ろからずっと小突かれてたんですよ、ボールが無い時に。嫌がらせなんですよ。
金子:ふくらはぎの下あたりを?
高木:そうですよ。ちょくちょく踏んだりとか。
水沼:そういうのは本当にあるんですよ、皆さん。国際試合ではね。
高木:そこまでしなくても十分に力の差があるんだからって思ったんですけどね。
会場:爆笑
水沼:やられたくてもできねぇよ、みたいな。
高木:だから本当に逃げてましたよ、少しずつ動いたりして。それだけでもイヤでした。
金子:日本のディフェンダーはそのあたりはクリーン?
水沼:う-ん、前田浩二(アビスパ福岡)あたりなんかは違うんじゃないの?
金子:顔に出てますよね。
高木:そういう意味じゃ、クリーンですよね。
水沼:秋田(豊・鹿島アントラーズ)はやってるよねぇ。横腹パンチとか入れてますよ。
高木:秋田は吠えるんですよ、ヘディングする時。「どりゃぁっ」って。
金子:それが何か妨げに?
高木:妨げにはならないですけど、何か嫌じゃないですか、後ろに息が荒い奴がいると。
会場:爆笑 
水沼:うん。僕は韓国のディフェンダーを背負った時が最悪でしたね。「息があがってるな、バテてるんだろうな」と思っているのに、ついてくる。どうしてそんなについてこれるの? 明らかに息が上がってるんだよ。もう「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ」って全開なんだよ。でも切り返してもついてくるし。何だろ、韓国の選手でそう思うんですから、フランスの選手だったら、たぶんとんでもないんでしょうね。
金子:でも水沼さんはわりとコリアンとの対決に強かったじゃないですか。チャムシルだって初ゴール、水沼さんでしょ。
水沼:ああ、そうですね。まあ、そういう記録が残ってるだけで実は弱いんですよ。
金子:イタリアワールドカップ予選の時も、北朝鮮相手にスーパー・ボレーあったし。
水沼:あ、そうだね。
金子:別に得意じゃなかったんですか、コリアン?
水沼:うん。人を背負ってないからだね、その時は。
高木:サイドだったんですか?
水沼:そう。嫌だと思うよ、やっぱりああいう大きな相手。だってみんな言ってるよ、ビエラ(フランス代表)、ヤバいって。
金子:日本人が考える人間の体型からちょっと外れてますもんね。
水沼:普通はでかくて、速くて、うまいっていう人、あんまりいないよねえ。
高木:僕は前にファン・バステン(元オランダ代表)を見て思ったんですよ、すげえヤツだなぁと。それが最近はビエラ。
水沼:あんなに大きくて、普通は足下が弱かったりするんだけど、全然弱くない。スピードもまあまあある、ヘディングとか高さもあるし、強いでしょ。あれはやばいですよ。
金子:プラティニ(元フランス代表)の頃のフランスって、よく日本に例えられてたじゃないですか。ドイツが韓国に例えられて。「ドイツは強い。フランスは弱い」と言われていたのが、もう「いつの話だ?」って感じになっちゃいましたよね。
水沼:華麗だけど、みたいなね。
金子:世界最強でしょ、あの運動能力。カメルーンよりすごいですもんね。
高木:安心して見てられますもんね。
金子:1対1の強さっていうのはもう、大前提としてバーンとあるじゃないですか。
高木:リザラズ(フランス代表)なんかは身長、モリシぐらいですよ本当に。それでもねぇ、走ってますよね、最後までずっと。
水沼:リザラズはすごく頭のいい選手なんですよね。チャンピオンズ・リーグに行くとだいたい、リザラズとエッフェンベルグ(バイエルン・ミュンヘン)と監督が出てくるんですけど、リザラズはスペイン語も喋るしね。
金子:彼、バスクですからね。
水沼:フランス語でしょ、英語でしょ、もうペラペラ。それにドイツ語でしょ。
金子:彼、苦労してますからね。あの、アスレティック・ビルバオ(スペイン・リーグ)ってバスク人しか取っちゃいけないチーム。リザラズは一応バスクの人間なんですけど、国籍はフランスじゃないですか。史上初めての外国人なんですよ、アスレティック・ビルバオの。で、メディアやファンから……。
水沼:みんなに何か言われるの?
金子:そう、袋叩きに遭い、で、結局1年間で出ちゃうんですけど。そこでの経験がものすごく自分を人間的に成長させたっていうことは言ってましたよね。
水沼:デシャン(元フランス代表、バスク出身)もそんなような感じなんでしょ?
金子:スペイン・バスクはサッカーがめちゃくちゃ盛んなんですけど、フランス・バスクは完全にラグビーの町なんで、サッカーをやっている人間がまず少数派ですし、その段階でマイノリティの苦労を味わっていますからね、彼ら。
水沼:でもなんであんなにフランスの人達は強いんだろう。デサイーだって日本代表戦の時、白いユニフォームでしたよね。ものすごく大きく見えるじゃないですか。で、ミックスゾーンで会った時は、そんなにでかいと思わなかったんです、実は。
金子:松本幸四郎さんがおっしゃってましたけど、「いい俳優は舞台に立つと大きく見えるものだ」と。
水沼:なんであんなに、強いパスを出せるんだろう。デサイーのインサイド・キックのパスはものすごいよ。
金子:昔、アディダスのコマーシャルで鉄球を蹴ってましたからね、アイツ。
高木:でも、海外のチームと日本人の差っていうのはそういうところあるじゃないですか。インサイド・パスの速さとか。
金子:決勝戦で一番ビックリしたのは、三浦淳宏(東京ヴェルディ)君。彼が入ってきた時に日本の選手、やっぱり知らず知らずのうちにパスが強くなっていたんですよね。彼だけが極端にパスが弱かった。それにすごくビックリした。慣れって大事なんだなって。
水沼:慣れは必要でしょう。何回もやっていれば圧力も感じなくなるのかもしれないし。
高木:そうですね。相手も前を狙いづらくなりますからね、速いと。そこでしっかりとした技術があればピタッと止めることもできますからね。
金子:僕、先日、釜本(邦茂・元日本代表ストライカー)さんと対談したんですけど、ストライカーに対してかなりしょっぱい話が出たんですよ。「頭を使っていない」と。「結局俺は、どこでシュートを打つか、どこでどの足でシュートを打つかを考えて、そのためにプレイをしてた」と。「今の日本のストライカーを見てると一生懸命プレイしているだけで、自分がどこでシュートを打ちたいのか、あるいは自分が得意なところはどこなのかをわかってない。出発点が根本的に間違っている」。
高木:そういう意味では、今の近代サッカーというのは、フォワードでもいろいろな部分を要求されていますから。確かに日本代表のフォワードの人はすごく頑張ってますよね。
金子:一生懸命。
高木:ディフェンス面でも頑張ってますよね。だから最後は余力がないと思いますし。
金子:高木さんの時はどうでした?
高木:基本的にはディフェンスもやってましたけど、きつかったですね。いざっていう時。
金子:ディフェンスしているうちに、本来の目的がボケてくるってやっぱありますよね。
高木:それはありますよね。
水沼:僕が一回取材した時に、釜本さんに実際にシュートを見せてもらったんです。実際に同じピッチでも戦いましたけど、やっぱりすごいですよね。
金子:バケモノでしたね。
水沼:右足のシュートがすごいってイメージがあるじゃないですか。だけど本当に強いのは左。右はコントロールなんです。それでもあんなに強いシュートを打つんだもの。
金子:右45度が釜本さんは有名だったじゃないですか。だからまず45度に持っていくことを考えてプレイするんだけど、その間必ず左45度をダミーにすることによって、右45度が活きてくるっていう話を聞いて。ストライカーとしてこの人は一流だったんだなと。
水沼:綺麗だもんねぇ、釜本さんのフォームは。本当に自分の形を持っている。
金子:プレースキックとか美しいですもんね。
水沼:美しい、本当に美しい。自分の好きなところ、自分の得意なところを持っていると、パスの出し手の方もそのイメージができるじゃない。動き方によって、あそこで欲しいんだろうなというイメージができてると思うのね。だから今、ダミーの動き方で相手を釣っているんだと、杉山(隆一・元日本代表)さんはわかっていたんじゃないかな。
金子:でしょうね。釜本さんが言っていて「なるほどな」って思ったのは、日本代表はメキシコ五輪の時は基本的にメンバーが固まっていた。だから、試合の前日や前々日に、食事しながらどういうパスが欲しいのか、どう崩していこうかという話ができたらしいんですよ。ところが、今は当日にならないと誰が出るかわからないですよね。あれじゃ、前日の話し合いがまったくできない。要はプラスアルファのコンビネーションというのが作れないって言うんですよね。 水沼:メンバーがその日にならないとわからないし、「えっ?」っていうようなメンバーを組んでくる時もあるし、選手としても気が抜けないって言ってたよ。「えぇ~っ!?」みたいな。都築(龍太・ガンバ大阪)、ビックリしてたらしいからね。
金子:結果的には当たりましたよね。でも博打じゃないですか。
水沼:もちろん、ワールドカップもコンフェデもそうなんだけど、強国と対戦する時は時間的にかなりボールを支配される。で、守備の時間が長くなる。速く攻めなきゃならない時、2人、3人で攻める形を作らなきゃダメじゃない。そうしたら、ふたりのコンビっていうのは絶対出てくる必要がある。だからそういうのは作っておかなきゃいけないと思うのね。だからいつも仲良しでやっているモリシと西澤のコンビはある程度できる。ゴンと高原(直泰・ジュビロ磐田)もジュビロでやっているからできる。あとは隆行(鈴木・鹿島アントラーズ)と高原とか、隆行とゴンとかの組み合わせを見ないと。
金子:なるほどね。
水沼:ふたりでどうやって受けて、どうやってワン・ツーしようかとか。
金子:釜本さんは「ミッドフィールドと話さなきゃいかん」って言ってたんですよね。
水沼:本当はそこからボールが出てくるからそうなんだけど、例えばイタリアにしても、しっかり守ってカウンター攻撃とか、ふたりで点を取っちゃうわけじゃない。それは、作っておく必要があると思うんだよね。
金子:これはもう、ひらめきじゃないですよ。約束ですよね、完全な。
水沼:あとモリシが言ってたのは、彼は受け手でしょ。パスの出し手ではない。ボールを誰かが持った時には必ず走れって、昔から言われていたんだって。とにかく走る、スペースを見つけて走ることをすごく考えてた。僕も現役の頃はもちろん受け手でいて、木村和司(元日本代表)さんっていう出し手がいて、ふたりで本当にいろんな話をして、こういうふうに僕が動いた時には、もう裏を狙っているからねってことまで約束してた時があるのね。例えば名前を呼んだだけで、これは裏を狙っているんだとか。
金子:日産の黄金時代はそうやって作られたんですね。
水沼:ディフェンダーがついてきて、引きながら名前を呼んだら後ろとかね。「来てる来てる、食いつきやがった」みたいなのは、どんなにサッカーが変わっても、ふたりが理解しあってるのは必要だと思うんだよね。そこに3人目が絡んできたら最高だし。
金子:ま、それはこれからの1年ですよね。まだ、なかなか所属しているチームを超えた素晴らしいハーモニーというのが、代表チームで出てこないじゃないですか。
水沼:うん。
金子:同じ所属チームの選手同士が、代表でそれをやってるっていうのは力になってますけど。
水沼:高木はポストプレイで自分が受けた時に、ここに来いっていう要求はしてた?
高木:してましたね。試合前にミーティングやったりしてましたし、特に僕はサンフレッチェ広島の時にはハシェック(元チェコ代表)とコンビを組むことが多くて、ハシェックといつもグラウンド内で話をしてましたよ。僕はそういう相手との関係を大事にしながらやっていましたけどね。でも、国立競技場とか大きな競技場だと声が聞こえないでしょう。
水沼:うん。
高木:だけどそういう時でも、何回もコンビを組んでいると、例えば自分の相棒の選手がこう動いた時にはこういう形で来るというのはだいたい感覚として身に付いてると思うし、自分が動いている時にはもうひとりのフォワードはこういう形でいるだろうなと。そういう予想やひらめきは絶対あると思うんですよね。コミュニケーションってひと言で言いますけど、話すことはサッカーにとって本当に大事なものだと思いますけどね。
金子:日本代表、まだそこまではいってないですよね。
水沼:そうだね。だから、もちろん同じレベルの考え方を持っている選手。例えばオールスターゲームみたいな試合で高いレベルの選手が集まって、パッと試合をしたら普通にできちゃう、というのはそこだと思うんだよね。同じ発想、同じイメージを持って高いレベルでプレイしてるから、喋らなくてもわかりあえる。代表もそうなってくれるといいですね。
金子:それはもう個の問題ですよね。選手たちがまず気付いてくれないと話にならないし。監督にはそれを育てる環境を作ってほしいですよね。で、キリンカップ、相手がユーゴとパラグアイ。どうでしょう、対戦相手としては?
水沼:いい相手です。パラグアイは南米の特徴的なチーム、例えばブラジルとかアルゼンチンとか攻撃的にどんどんパスをつないで攻めてくるサッカーもあれば、パラグアイみたいに感動的なまでに守備を頑張れるチームも出てくる。それも環境だと思うんだよね。南米予選を戦っていく上で、そういうことをしないと勝てないところがある。そういうパラグアイの粘り強さを、日本がどう打ち破っていくかを見てみたいし。ユーゴはどうですかね、ちゃんとしたメンバーで来てくれますかね? 今、ユーゴも過渡期かな。
金子:過渡期でしょうね。結局、'87年のワールドユースのメンバーが離散して、おじいちゃんになってきちゃいましたから。若いタレントは今ひとつ出てきてないですよね。
水沼:うん。
金子:国がああいう状況でしたから、そんなに時間をかけて育成することも到底やっていられなかったわけですし。レッドスター(ユーゴスラビアの名門クラブーチーム)だって、17歳くらいの体も何もできてない、未知の環境に行ったらノイローゼになっちゃう、ホームシックになっちゃうようなかわいいこどもを売っちゃいますからね。
水沼:う~ん。
金子:外国人選手って使い捨てじゃないですか。選手の将来を考えてどうこうというのは獲った側のクラブは考えないですよね。高木さん、パラグアイ、ユーゴと対戦したことは?
高木:僕はないですね、一度も。観たことしかない。
金子:パラグアイのディフェンス、ご覧になられていかがでした?
高木:本当に粘り強いですね。それとパラグアイは南米でもすごくいい選手が豊富にいる。Jリーグのチームも、安くていい選手が多いってことで狙っているって聞いてますし、そういった意味でもチグハグなプレイというのはなさそうな気がするんです。まとまりがあって。ゴールキーパーのチラベルト(パラグアイ代表)とか芯がしっかりしてますからね。
金子:'98年のパラグアイ対フランス戦は本当に感動的でしたもんね。
水沼:あれはすごかったですね。
金子:守りであそこまで感動させられるんだなって。高木さん、粘り強いディフェンスっておっしゃいましたけど、これは作れるものなんですか?
高木:僕は可能だと思いますよ、それは。
金子:粘り強いディフェンスを作る上で何が一番必要なんでしょう。
高木:いろいろあると思うんですよね、ポジショニングとか。ディフェンスラインの統率とか、個人でやらなくちゃいけないのは、ポジショニングと気持ちの問題じゃないですか。気持ちってひと言で言っても90分集中できる、そういう気持ちをやっぱり持つこと。
金子:面構えが野武士みたいな選手、ズラリと揃っていますもんね、パラグアイ。
高木:それとやっぱり諦めない、そういう気持ちの問題ですよね。
金子:でもこれ、点を取るのは相当大変じゃないですか?
高木:と、思いますよね。ホームとアウェイの戦い方を知っているチームほど、やっぱりそれは難しくなるんじゃないんですか。
金子:ノルマは?
水沼:キリンカップ、チャンピオン?
金子:うん。
水沼:これは無謀じゃないですよ。金子さんが『スーパーサッカー』で言った、コンフェデの1次リーグ勝ち点7って最初に出した時ほどは。
金子:無謀だったですかね?
水沼:いや、まさかって思いながら出したでしょ?
金子:僕は正直、5はいくかなって。多分予選リーグ敗退だろうなと思っていましたね。
水沼:キリンカップのノルマはやっぱりチャンピオンだよね。
金子:うん。
水沼:相手を考えてみてもね。でも、よくよく考えるとパラグアイとかユーゴとか相手にチャンピオンにならなきゃいけないと言ってるのがすごいと、実は思うんだけどね。日本サッカーのレベルも上がってきて、ワールドカップを開催するからみたいなのもあるんだけど、それだけのことをできる選手が揃っているってことだね。
金子:確かに4年前、クロアチアに勝ってますしね。5年前、メキシコに勝ってますしね。
水沼:あの5年前のメキシコの試合は覚えている。すごくいいサッカーをしたよね。
金子:その時僕はスペインに行っちゃったんで観てないんですけど、ボラ(ミルチノビッチ・元メキシコ代表監督、中国代表監督)がその話をしていて、「あの試合、日本は素晴らしかった」ということは言ってましたけどね。
水沼:もしパラグアイの守備を崩すためには、攻撃の形をどうやって作るの?
金子:中央突破じゃ、相当しんどいですよね。
高木:きついでしょ、やっぱり。
金子:かと言って、サイドアタックをするのも。まず日本でサイドに選手がいてもアタッカーはなかなかいないですよね。
高木:引っ張れる選手がいないですよね。
金子:最後の守りも堅いですよねぇ。チラベルトがハイクロスの処理に難があるんで、サイドから速いクロスを入れるのが唯一の活路かな。そこまでいかないですよね。
水沼:あとはわざとゴール前でフリーキックを与えて、チラベルトに上がらせて。
会場:爆笑
水沼:カウンターを作るの。
高木:でも、フリーキックを入れられたらしょうがない。
水沼:それは一か八かなの。そういう相手になったからこそ、コンビだとかそういう約束事でディフェンスの背後を取る、引いてきたところ、スペースを突く。そういうことをやっていかないといけないと思う。
金子:コンフェデレーションズカップで、例えば鈴木君がスペースに豪快に走り込んでましたよね。でもすでにあったスペースに走り込んでいた気がするんですよ。今度のパラグアイはそういうスペースを与えてくれない相手ですよね、作らないとしょうがない、スペースを。
水沼:そうそう。ただ、前にひとりでスペースを作るのはなかなか難しいんだよね。
高木:そうすると前後の関係とか、ダミーで走ってそこにスペースを作ってあげるとかしないと。特にスペースを与えてくれないチームに対して、前の人間がスペースに行こう行こうと思ってやると、絶対オフサイドを取られる可能性がありますからね。そういうのって、やっぱり2列目との関係でうまく動いていかないと難しくなるのかなって。
水沼:例えば西澤とかがゴール付近に下がってきてても、相手は付いてこないんだよね。
金子:割と放っておいてますよね。
水沼:そうそう。何でかと言うと、別にそこでボールをキープされていても怖くはないっていうのがある。怖かったらもっとプレッシャーをかけてチャレンジしてくるんだけど。そうしないとスペース生まれてこないでしょ、裏に。そしたら、そこに飛び出す選手がいてもできない。だから引いてボールを受けて、正確なコントロールで、前を向いて勝負しかけるみたいなプレイを出していって、そういうイメージを相手に与えていかないと。いきなり引いてスペースを作るというのは、見切られたら何もできないわけだから。
金子:日本の選手、前を向いて1対1になってもなかなか仕掛けていかないじゃないですか。迎撃するのが怖くないでしょうね。縦にスパーンと一発、前を向かせたら抜ける選手がいたら、フランスのディフェンダーも引っ張られてくると思うんですよ。
水沼:だから引っ張ることができるようになるのが一番かもしれないね。なんか悔しいもんねぇ。せっかくスペースを作ろうとしたり、引いてボールを受けているのに、全然見切られているみたいなね。そんなに悲しいことないよね。
高木:それはね、確かに見切られたような気がしますよね。その後のことをディフェンスが予知して、ポジション修正しているとしか見えない。
金子:そういう相手って今までいました? 「うわー、見切られとるわ」という。
高木:日本ではないですけど、海外の試合だとそういうのって多いですね。無理しない、そこまで行く必要ないよっていうディフェンスは。守るところは自分達はここだって。
金子:ユーゴはもうかなりガタガタみたいですからね。
水沼:ユーゴにはちゃんと勝っておくべきだろうね。僕、去年ユーロ2000でユーゴ代表を見ましたけど、いいチームだったね。ひとり若い選手がいるでしょ?
金子:ええ。今はオランダでやってますね、ちょっと名前が出てこないんですけど。得点王になりましたよね。
客:ケジュマン!
金子:ああ、ケジュマン。
水沼:そう、ケジュマン。あれは楽しみかもしれない。
高木:あんまり大きくないですよね。どっちかって言うと日本人の体型に似てますよ。
金子:なんて言うんだろうな。小さい選手は絶対に速いですよね、海外の場合。で、大きい選手は……。
水沼:速い。
会場:爆笑
金子:すみません、小さい選手はすごく速い。何かそういう補うものは持ってますよね。
水沼:持ってるね。頭の良さだったり。自分の生きる術を持っているよね。
金子:そこまで考えて欲しいですよね、日本の選手達に。
水沼:モリシは「単純に誰かが持ったら走る」って言ってたけど、あれは考えてるな。
金子:東一(東海大一高)って、才能ものすごいのに、なんか伸び悩んじゃうのが多いですよね。モリシだけがここのところ例外になってきているかなという。
水沼:そうだね。
金子:高校時代の評価って言ったら、伊東テル(伊東輝悦・清水エスパルス)の評価、これはもう、数年前の小野君をはるかに越えたと思うんですよ。
水沼:うんうん。
金子:あの頃ってマニアばっかりだったじゃないですか、サッカーファンは。それが絶賛してましたし、僕も。やっと礒貝(洋光・元ガンバ大阪)よりすごいのが出てきたなって。その時点で僕のサッカーを見る目はなかったんでしょうね。
高木:テルのどういうところが変わったんですか?
金子:変わってないんでガッカリしたんですよ。依然として自分の得意なプレイが何か、自分の特徴が何か、未だに自分の中でシャープにできていない気がするんですよ。だから一生懸命頑張ってる。でもそういう選手は、例えばチームメイトであれば森保(一・サンフレッチェ広島)君みたいな選手でいいと思うんですよ、頑張ってくれる選手であれば。これはセルジオ越後さんからも言われたんですけど、今Jリーグでサイドバックとかセンターバックをやってる選手に、元10番がいっぱいいるんですよね。結局、頭使ってない。で、限定される仕事しか与えられなくなっちゃう。非常にもったいないなぁと。
水沼:ディフェンダーは、小学校の時にフォワードとか中盤の前の方だった選手が多いと思う。
金子:このあたりがヨーロッパとちょっと違いますよね。明らかに。
水沼:日本では、ずっとディフェンスをやっている人っていうのは、少ないと思うんだよね。
金子:リザラズ、ずっとディフェンダーですからね、出てきた時から。
水沼:何かスペシャリスト系に入ってくるよね、そうなるとね。
金子:役割を限定されているにもかかわらず、日本人選手はそのポジションのスペシャリストになっていないんですよね。で、自由なポジションにいったらそこでその奔放な才能を発揮しているかと言うと、そうでもない。
水沼:テルはボールを下げるのが、すごく多くなっちゃってるのが悲しいね。
金子:あの時の東一では、テルがスーパースターですよね。高校選手権は出てないですけど。二番目が松原良香(アビスパ福岡)。で、四番目、五番目ぐらいに服部(年宏・ジュビロ磐田)君だったわけですよ。結局あの時からサイドバックしかやってなかった服部君が、一番評価できるようになってる。服部君は、当時から自分はこれしかできないからってことをすごく考えてた。だから伊東君がそのあたりを考えてくれれば。自分は何ができるのか。
水沼:伊東と話した時「キャプテンマークを付けたら俺は変わる」って。パスを出すことを常に考えて、困った時にドリブルするって言ってた。いつも困ってればいいんだよな。
会場:爆笑
金子:困った時にドリブルですか?
水沼:パスで崩すことをまず考えていて、「出しどころがない」って時にドリブルが多いって。そうやって最初に決めてるから、今は仕掛けるってことが自分の中にないのかもね。
金子:どうも彼は本当に自分の才能に気付いてないという気がしちゃうんですよね。
水沼:彼の魅力はそれなのにね。
金子:だって彼、本当に日本人で一番「マラドーナ」って言われてしっくりくる体型してましたしね、中学校の頃から。小学校の時から得点王ですからね、長身ストライカーで。
水沼:全日本少年サッカー。すごかったじゃないですか。
高木:そうなんですか?
金子:ずば抜けてデカかった。小学校6年で 170cm近くあったから。でも1cmも伸びなかった。
高木:試合中にまずパスっていうのは、たぶん余計な時間をかけたくないっていう考えがあると思うんです。ドリブルでいくと、ちょっと相手に守る時間を与えてしまうから。パスで入って、時間のロスをなくして試合の流れをよくしようと。だけど、困った時にドリブルっていうのはよくないですよね。彼の持っている力からすれば。
金子:普通は前にスペースがあれば持って進み、来たらはたく。それが逆。
高木:そうですね。
水沼:モリシも言ってたな。「ちょっと前の、まだ若い時の自分のビデオを見るとドリブルがすごく多い。でも最近はそれがなくなってきています」って。逆に言えば、まわりがよく見えてワンタッチでパスをするのがいかに大事か覚えてきたんだろうけど。「ドリブルをもっとやった方がいいんですかね?」って。さっき出たクロアチア戦の、左からずーっとドリブルで入ってきて決めたのとか、やっぱりそういう印象は強いわけじゃない。
金子:彼のドリブルっていうのは、欧米人が一番嫌がるドリブルだと思うんですよ。チョコチョコ、チョコチョコしてて。
高木:ボールのタッチ回数が多いですからね。
金子:飛び込めないですよね。
水沼:あの時のクロアチア、そうだったもんね。
高木:何回もキックフェイントに引っ掛かってね。
金子:彼みたいなタイプが日本で一番怖い、敵に嫌がられるドリブルのできる選手だとわかってたら、ああいうタイプがもっと出てきてもいいんだけど、全然出てこない。ということは、あのドリブルが有効だとわかっていない選手が多いからだと思うんですよ。
水沼:どこでそれを活かすかわかってないのかもね。いつ、どんな時にドリブルをしたらいいか。もちろん前が大きく空いていたら、別に細かくドリブルする必要はない。大きくボォーンっと蹴ってドリブルしたっていいし。そういう状況判断がまだできてないよね。ドリブルで持って上がればいいのに、止めてパスで行ったり。下げたりとか。
金子:大事な試合になればなるほど、増えますよね。
水沼:ミスしたくないとか、そういう頭が働いちゃうんだろうけどね。


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構成・文:CREW
撮影:源賀津己