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@ぴあ/HOTスポーツ人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。6月17日に行われたイベントを、そのままお届けします。
 vol.12 後編
 SUPPORTED BY KIRIN

「どうなる! キリンカップ」(後編)

前編はこちら

出演者プロフィール
ホスト: 金子達仁(スポーツライター・左)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターに。著書「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などがベストセラーに。松本幸四郎氏、小室哲哉氏らを取材した「21」(ぴあ刊)が絶賛発売中。
ゲスト: 水沼貴史(サッカー解説者・中央)
'60年、埼玉県生まれ。浦和南高、法政大を経て、'83年に日産自動車(現横浜F・マリノス)に入社。日産の黄金時代を築き、Jリーグでも優勝を経験した。その一方で、日本代表として国際Aマッチ31試合に出場した。'95年に引退後はサッカー解説者として、持ち前の歯切れのよい語り口で人気を博している。
  高木琢也(サッカー解説者・右)
'67年、長崎県生まれ。国見高、大阪商業大を経て、'90年にフジタ工業(現湘南ベルマーレ)入り。'91年にサンフレッチェ広島に入団。'92年には日本代表デビュー、大型フォワードとして数多くの国際大会に出場。今年1月に引退し、サッカー解説者として活躍している。

金子:ちなみに水沼さんは、'79年ワールドユースの時はどうだったんですか。
水沼:ゲゲッ! 何ですか?
金子:やっぱり怖かったですか? アタックするの。
水沼:いや、何も考えていなかったと思うよ。
金子:ロボットのような練習してましたもんね。
水沼:うん。最初がスペインで、相手はプロで、全然違うってのは感じたんだけど。
金子:全然違いました? 内容では競ってたじゃないですか。
水沼:内容はね。でもさっきも話したけど、見切られているような感じは受けたよね。
金子:アルジェリアは?
水沼:それほどでもなかったかな。俺たちは行くしかないみたいな状況だったからね。日本でやってるというのを感じながらプレイしてたというのはあるかもしれない。「俺たちは勝ちにいくんだ!」って。守って勝とうなんて、全然考えなかったよ。
金子:突撃でしたよね、みんな、ただひたすら。
水沼:そう。
金子:気合いで。“神風サッカー”やってましたよね。
水沼:そんな感じだったよね。
金子:サイドをドカンと蹴って「水沼ドリブルだ!」って感じでしたもんね。
水沼:松本郁夫('79年ワールドユース代表監督) さんは後悔してるらしいけどね。「もっと勉強しておけば良かった」って。
高木:僕も松本郁夫さんのもとでプレイしたことありますから。
水沼:高度な戦術だった?
高木:厳しかったですね、練習は。すごく走らされたイメージが強いですよ。
水沼:でも、最近は選手がいろいろ考えて、自分で決めてできるようになりましたね。
金子:考えてなかったんですか?
水沼:考えてるんだろうけど、細かくこうしろ、ああしろという、今のような研ぎ澄まされた戦術はなかったな。どんどんサッカーが進化してきて、指導者もしっかり勉強して変わってるじゃない? 
金子:なんでこんなに'79年の話をするかっていうと、今マラドーナの自伝の翻訳がようやく終わったんですよ。で、彼が'79年のことを「人生最高の思い出であり、人生最高のチームメイトであり、人生最高の勝利だった」って。'86年のワールドカップではなくて。
水沼:へぇー、じゃあディアス(元アルゼンチン代表)とも仲が良かったの?
金子:当時は。今もそんなに悪くないんですよ。本当に仲が悪いのはパサレラ(元アルゼンチン代表)。
水沼:いや、でもマラドーナはすごかったよ、本当に。
金子:水沼さん、試合観に行きました? ワールドユースで日本が負けてから。
水沼:うん。大会の書類に名前を書く時に、僕たちの後がアルゼンチンだったの。で、俺たちが終わって、廊下ですれ違った時にマラドーナを見た時にはビックリした。椅子に座っててさ、座っているんだけど、太ももが山みたいでさ。
金子:あの頃、マラドーナもまだ細いじゃないですか。
水沼:でも異様な盛り上がりだったよ、太ももは。
金子:とにかく攻めた。「ボールを触りまくった」というアルゼンチンの表現が、関西弁の「ゆわしてやった」っていう感じなんですよ。'79年は自分たちでゆわしまくったと。
水沼:そういうノリはあったと思う。ホテルが僕たちの上の階だったんだよ、アルゼンチン代表。それでね、ヤツらはもちろんプロじゃない? 試合と試合の合間に練習もやってるんだけど、若いし、いろいろ遊びに行ったりとかするんだよ。秋葉原とか行って、当時はラジカセだなぁ。そういうのを買ってきて、音楽をガンガンかけまくってるの。
金子:やかましい。
水沼:そう。でもすごく楽しんでるような雰囲気は感じた。僕らは苦しかったもんね。
金子:マラドーナのマラドーナたるゆえんっていうのが、その自伝にいろいろ出てましてね。ワールドユースの準々決勝のポーランド戦、早い時間帯で3-0か4-0になってた。そこでメノッティ(元アルゼンチン代表監督)が代えたんですよ、休めって後半15分くらいで。その後ベンチで号泣したそうですよ、マラドーナ。全試合90分間“ゆわしまくって”優勝するつもりだったんです。4-0で勝ってるんですよ。普通は泣かないですよね。
水沼:泣かないね。何だろう、そのテンション。
金子:基本的にこども。
水沼:'96年のアメリカワールドカップ1次リーグで、ゴール後にテレビに向かってカーッとやってたのと一緒なのかな?
金子:あれは理由がいろいろあるらしいですね。自伝の中にマラドーナが選ぶ100人の選手って項目があるんですけど、一番はペレ(元ブラジル代表)。二番目は誰だと思います?
水沼:パサレラ?
会場:爆笑
高木:ベッケンバウアー(元ドイツ代表)
金子:彼、守備嫌いって言ってたんですよ。
高木:ボビー・チャールトン(元イングランド代表)
金子:左利きなんですよ。やっぱり好きなのは。
高木:ヨーロッパの人?
金子:南米、ブラジル。そこが意外ですよね。
水沼:リベリーノ(元ブラジル代表)か。
金子:はい。なぜリベリーノが好きかというと、リベリーノはペレにゆわしたところが好きだったんですよ。
水沼:おお、すごい人だ。
金子:さすが越後(セルジオ)さんのチームメイトって感じですよね。
会場:爆笑
金子:左利きの10番って特別みたいですね、南米では。三番はクライフ(元オランダ代表)。傾向としてガッツポーズが派手な選手が好きなんですよ。プラティニ(元フランス代表)は「クールすぎる」って。「サッカーを楽しんでねぇ!」って。ジダン(フランス代表)はプラティニと一緒で「サッカー楽しんでねぇ」。で、デル・ピエロ(イタリア代表)、「ここだよヤツがジダンと違うのは。ヤツはサッカー楽しそうだ」と。こどもの頃って、当たり前ですけどゴールすれば、無邪気に喜ぶじゃないですか。サッカーを素直に楽しんで、エモーショナルな部分を全開にしている人が好きなんですよね、マラドーナは。
高木:よくサッカーを楽しむってありますけど、ゲームの中で。水沼さん、あります?
水沼:うん。
高木:え? 代表とかでですよ。僕はあんまりなかったですね、一生懸命で。ある程度得点差があれば好き放題プレイしてましたけど、そういう実感はあんまりなかったですね。
金子:楽しむという発想、だんだん消えてきちゃってますよね。
高木:ええ。
金子:こどもの頃、僕はマリオ・ケンペス(元アルゼンチン代表)がすごく好きだったんですけど、なぜ好きだったのか今から冷静に考えてみると、ガッツポーズが派手だったからなんですよね。紙吹雪が舞っていて、そこを両手を上げて疾走するのにしびれた。ところが今、この歳になってワールドカップを観ていて、選手を見る条件でガッツポーズって完全に僕の中からなくなっちゃってるですよ。マラドーナはもう40歳で、しかもあれだけの選手。でも原点はそこなんですよね、サッカーを楽しんでいるか否かは。
水沼:高木のガッツポーズってどういうのだっけ。
高木:俺はあんまり。
金子:水沼さんは?
水沼:人指し指を立てて右手を高く上げて、「オリャア」。サッカー楽しんでるでしょ。
会場:拍手
高木:昔よりは減りましたね、そういう人は。
金子:求められるものが大きくなっちゃって、選手は仕事をこなすだけで精一杯。
水沼:ということは、ヒデ(中田英寿・ASローマ)は最近楽しみだしたんじゃないの?
金子:でしょうね。マラドーナ、実は中田英寿についても触れてるんですよ。アルゼンチン人のための本なのに、マラドーナが選ぶ 100人の中に中田英寿が入っているんです。
高木:マラドーナは中田のどこがいいと?
金子:それは本が出てから。結構面白いんですよ。ルンメニゲ(元西ドイツ代表)だったかな。「ドイツ人。骨の髄までドイツ人、ヤツらに勝つには殺すしかなかった」とか。
会場:爆笑
金子:ジョージ・ベスト(元イングランド代表)については「バカだった。僕よりもバカだった」。もう全部そんな調子なんですよ。
水沼:ジョージ・ベストのプレイ、ずっと見てたのかな?
金子:サッカーが好きなんですよね。ありとあらゆるものを観てる。ピクシーもそうなんですけど、彼も暇さえあればサッカーのビデオを観てる。ユーゴに行った時、ようやくアンテナを調整してユーロスポーツとか無料で観られるようにしたと自慢してましたから。
会場:爆笑
高木:そういう意味じゃ、日本はいろんな国のサッカーを観られるところですね。選手はなかなか時間がないと思いますけど、好きな人だったら観られる環境にはありますよね。
水沼:選手も好きなヤツはね。俊輔(中村・横浜F・マリノス)とか死ぬほど観てるんじゃないの?
金子:よくわかるわ、それ。
水沼:でもやっぱりいいよね。いろんな試合を観られるっていうのはね。
金子:だって、昔はイメージするものがなかったでしょう? 水沼さん。
水沼:ないんだよなぁ。
金子:気合いで日々、打開していくしかなかったでしょう。
水沼:ただね、ユースの合宿をしている時に'74年の西ドイツ大会を題材にした『イマジネーションサッカー』っていう8ミリみたいのを観せられた。毎回合宿の時に。
金子:うちの学校にもひとつありましたね、それ。
水沼:クライフのフライングダッチマンのシュートとガッツポーズで始まるやつね。
金子:ブルガリア戦のクライフ・ターンとか出てくるやつですよね。
水沼:そうそう。そういうのは見せられたよね。今のユースの選手たちは'98年のワールドカップとか、そういう日本代表選手の表情を織りまぜて、キャンプが今から始まる時に、どういうイメージでトレーニングして、どうモチベーションを高めるかというのを何分間かのビデオにしたのを絶対に毎回見るんですよ。
金子:誰が作ったんですか。
水沼:田嶋(幸三・日本サッカー協会強化委員)さんかな? たぶん日本サッカー協会で作ってるんだと思うんだけど、キャンプが長くなったり、トレーニングがきつくなったりした時に、どうモチベーションを高めていくかというのは、映像で訴えることが一番いい。言ってるだけじゃやっぱりダメ。あれはいいビデオだったですよ。
金子:Jリーグの監督にも、そういう方がボチボチ出てきてますね。暇さえあればビデオを観て、暇さえあればその中で好きな題材をチョイスして選手用にビデオを作る。
水沼:そうそう。昔はまるまる1試合観てたよね。
高木:観てましたね。長くて、寝てる人がいましたよね。
水沼:今はかいつまんで、良いところと悪いところをはっきりさせて見せるじゃない。
高木:守備はどうだ、攻撃はどうだって、相手のポイントをうまく押さえてね。
金子:90分観てたんですか? 高木さんなんかは。
高木:観てましたね。観た後、どうだったか、という詳しい話し合いはなかったですね。
金子:では、質疑応答に。
水沼:もうそんな時間ですか。早いっすねぇ。
金子:おふたりに聞きたい方は?
客:トルシエ監督の資質についてなんですが、監督に就任して以来、まずユースの初戦に敗れた時の「このチームは山本(昌邦・日本代表コーチ)のチームだ、俺のチームじゃない」に始まって、南米選手権では名波(浩・ジュビロ磐田)を、フランス戦では上村(健一・サンフレッチェ広島)を血祭りにあげて。監督は、勝てば選手のおかげ、負ければ自分の責任だと思うんですけど、トルシエにはそういうところが全然見えない。さらに就任当初、「私のサッカー戦術は何百ページもある」と言ってましたが、スペイン戦、フランス戦、さらに今回のコンフェデの決勝でも、5バックやトリプル・ボランチ。トルシエ監督の魅力が未だにわかりませんが、あったら教えて頂きたいんですけど。
金子:では、高木さん。
高木:僕ですか? 今までの日本代表の監督は、ひとりボランチ的にちょっと下がった位置に置く3ラインをやってて。今はフラットって言われてますけど、ラインをフラットにしたことはトルシエ監督じゃないと、なかなかできないことだなと思うんですよね。それだけ自分に自信を持ってるし、やっぱり芯の強さというのはありますよね。
金子:水沼さん。『スーパー・サッカー』では言えないこと、いっぱいありますよね。
水沼:長く付き合っていればその人のパーソナリティはわかってくるし、近ければ近いほど、その人の性格もわかってくると思うんですけど。まあ、ちょっと距離を置いて見てる分、人間性まではわからないですね。ただ監督というのは、自分の哲学を持っていて、それを貫いても周囲に認められるのが監督であると思うし、やり方は人それぞれいろんな形があるし。選手の特性を理解しながらやっていく方法もあるし、自分のやりたいサッカーにあてはめて選手を選ぶっていうのもある。僕らからすれば、どういうやり方をしても日本が強くなればいいとは思ってます。ただ、違うと思ったことはどんどん言っていくのが、今の僕の立場なんで、トルシエ監督がいいか悪いかで言えば、決勝を見た限りは「また前に戻ったじゃん」とも思う。ただ準決勝まで導いたのは間違いなくトルシエ監督でもある。
金子:アンケートにいい質問がありました。「トルシエは世界のトップレベルの監督を10とすると、何点ぐらいでしょう?」
水沼:いや、世界のトップレベルの監督が誰かっていうのは、僕はちょっとわからないですね。どの人がトップレベルなのか。どのサッカーが一番いいかっていうことにもなってきてしまうと思うしね。それは選手に恵まれているっていうのもあるだろうし。
金子:高木さんは?
高木:僕も一緒ですね。
金子:客席からのアンケートには、そういう質問多いですね。「トルシエはどうなのか、本当に彼はすごいのか?」。圧倒的にそれですね。
水沼:嫌いなんですかね、みんな。
金子:どうなんでしょう。好きな方、手を挙げていただけます?
水沼:うわー、少ない。嫌いな人ばっかりですね。
金子:手を挙げた方、なぜお好きですか?
客:戦術がはっきりしている。
水沼:ああ、はい。
金子:嫌いな方、そちらの方はなぜ嫌いなんですか?
客:柔軟性がない。
金子:はっきりしていると柔軟性がないは、もしかしたら表裏一体かもしれませんよね。僕ね、トルシエ監督についてひとつ言えるのは、彼がJリーグのクラブチームの監督をやっている分には僕は何も文句はないです。ただ、代表チームというのは特別なものだと思うんですよ。戦術がはっきりしている、それは確かにそうなんですよね。だけど、代表チームの監督というのはそれ以上に、その代表チームが勝つことの喜び、負けることの痛み、負けることによって味わう悔しさというのを強く感じる人でなければ任せたくないです。トルシエ監督を見ていると彼は日本代表を代表チームとしてではなく、単にサッカーチームとして指導している気がしてならないんですよ。例えばサンドニで(3月24日の対フランス戦)0-5で負けていた。僕は「岡田監督(武史・フランスワールドカップ日本代表監督、現コンサドーレ札幌監督)ではダメだ」と言い続けていた人間ですけれど、岡田監督であれば、一矢報いるために攻撃の選手を入れたと思うんですよ。トルシエ監督が入れたのはストッパーの選手。日本代表が負けたショックを感じているほどには、僕には感じられなかった。負けたことを悔しがっていないように思えてしまった。これは本当にワールドカップの修羅場になった時、ネックになるんじゃないかと思う。コンフェデレーションズカップがトルシエ監督を交代する最後の時期だと僕は言ってきました。その時期は過ぎました。でも、実はもう1回ありますよね。ワールドカップの1ヵ月前。1ヵ月前に突然の監督交代で好結果が出るというのは、珍しいことじゃない。サウジアラビアはアジアカップでそうだった。それからウズベキスタン戦(フランスワールドカップ予選)で加茂監督(周・元日本代表監督)が首を切られて、その後監督になった岡田さんの時もそうだった。僕は個人的には、トルシエ監督に代わる人材を探すべきだと言い続けていこうとは思っています。水沼さん、代表監督の資質ってどういうところにあると思います? 
水沼:選手がついていかなくてはならないので、サッカーに対する“熱”みたいなのを持っている人。それと、監督になった人によく聞くのは選手との線を置く必要があると。だけど、その線はある意味、点線でいいかなと思ったりするのね。だから、話をする、コミュニケーションを取りながらやっていける人が、いいかなという感じはすごくあります。ただ、NOだけではダメだと思うから、YESをもっと積極的に出せる柔軟さが必要かもしれないし、カリスマ性もなきゃいけないし。
金子:カリスマ性ね。
水沼:選手が「やっぱりこの人ならいける」という部分がないと絶対にダメだと思う。日本の選手たちが世界で最も経験が豊富で、世界で最も技術があるというのであれば、ワールドカップでも大丈夫でしょうけども、監督としても相談できる人が絶対に必要だと思うよ。
金子:確かに。高木さんどうです?
高木:僕も、まず柔軟性がないといけないというのは感じますよね。
金子:オフト(元日本代表監督)はどうでした?
高木:オフトはすごく選手に対して気を遣う人でしたね。
金子:彼が日本代表チームを愛しているんだなというのは伝わってきました?
高木:それはもう、感じましたね。選手からは絶対の信頼がありましたし。最初はいろいろ問題もありましたけど。
金子:カリオカ(ラモス瑠偉・元日本代表)とかね。
高木:それも試合の結果や、オフトがやっていこうとしたサッカー、毎日の生活での選手との距離、そういう中でラモスさんも全然文句を言わなくなった。最初は、夕食の時にみんなが揃っても、オフトが「いただきます」を言ってからじゃないとみんな食事は食べられなかったんですけど、ラモスさんは「そんなの冗談じゃない」って。
金子:まあ、言ってたでしょうね。
高木:それもしばらくすると普通になっていきましたし、小さいことですけどね。そういうところで選手と監督の信頼っていうのが強くなっていった。本来、代表監督になるということはそれだけメディアや、日本中の人たちから注目されるポジションじゃないですか。そういった意味で、すごくナーバスになる部分があると思うんですよね。それがトルシエ監督の場合は、自分の気を晴らしているような部分をコメントや態度で感じますし。そういうのもやはり、まわりにサポートの人たちとの“ファミリー”として考えていくような人じゃないといけない。
金子:今回ベンゲル(アーセナル監督)がいたのは大きかったと思います? 
水沼:結構、会ってたらしいですよね。パートナーとして考えれば、いろいろなことを相談するのはもちろんありかもしれないですよね。
金子:フランスワールドカップの時に、誰かアドバイザーが必要なんじゃないかと言われて岡田さんは、「それは俺が決める事ではない」と。「協会が決めれば従うけれど、俺からアドバイザーをくれと言い出すことはない」と。もっともな意見だと思うんですよ。
水沼:特別な人を置く。ブラジル代表がジーコ(元ブラジル代表)を置いたような感じもあるだろうし。例えばそれがコーチであってもいい。別に監督のいいなりのコーチだけではなくて。山本(昌邦・日本代表コーチ)さんなんかは一番選手のことがわかっていて、いろんなことを言える立場にあると思うし。それを受け入れないのはちょっと嫌だね。
金子:今年最初の代表合宿では山本さんじゃなくて、フランス人のコーチを呼んじゃったんですからね。
水沼:そういうところは嫌な面ではある、僕の中でも。すごくいろんなスタッフが日本人の中にいて、選手のことも理解してサッカーの事も理解しているのに、そういう人たちのことを信頼してないのかなって。やっぱり意見を言って、NOと言われる部分もあるだろうし、そういうところは変わってほしいなと思う。すごく。
金子:それと、やっぱり言葉を覚えてほしいですよね。代表監督である以上。
水沼:日本語?
金子:日本語。
水沼:覚えているのは、たぶん、そばの名前ぐらいじゃないですか。
金子:ヨーロッパのクラブチームはどこでも、その国の言葉を覚えるのは、監督の義務ですからね。彼も公言してたわけじゃないですか。「日本語を覚えます」って。
水沼:ええ。
金子:その意気込みは、僕は「よし!」と思っていたんですけど、完全に捨て去られちゃいましたよね。機嫌がいい時は英語、悪くなるとフランス語で話すという図式が完全にでき上がっているじゃないですか。メディアとのインタビューに外国語で答えるのは怖いからっていうのは、わからないではないですけど。
水沼:ルールを守って欲しいっていうのもあるね。練習を見に行ったりとか、試合終わったりして待っていて、なんで報道陣の前に出てこないの? って。
金子:ありますね。
水沼:あるよね。そういうのは困るね。
金子:メディアと応対した経験がないですからね。常にマイクが100 個も口のまわりに突きつけられるという環境がない。フランスで指揮をとってないわけですし。ほかにご質問は?
客:最近、よく雑誌で見かけるんですけど日本の代表は一流ヨーロッパ国に追いつくには4、5年か5、6年かかるとか言われるんですけど、他の国も成長していくのになぜそういうふうに言われるのか、その根拠が知りたいんですけど。
金子:僕は5、6年で追いつくなんて絶対に無理だと思いますよ。代表チームを一時的にヨーロッパの強豪国と戦えるようにすることは、不可能じゃないと思うんです。ただ、その国のサッカーの力、ファンのサッカーに対する理解度。例えば、世界中でいろんなサッカースタジアムに行きましたけど、監督の名前を連呼するなんて聞いたことないですよ。「ク・ラ・イ・フ・バルサ!」なんて聞いたことないでしょう。おかしいと思いません? それを6万人がやってるんですよ、日本は。こういうところも全部直していかなきゃ僕は嘘だと思うんですよね。一時的にトップチームだけを強くすることは'68年メキシコオリンピックで銅メダルを取ったことがあるように、それは可能だと思います。でも“日本のサッカー”という漠然としたものを、5、6年でヨーロッパに追いつかせるなんて、なめるのもいい加減にした方がいいと思いますけど、僕は。いかがでしょう?
水沼:Jリーグの「百年構想」じゃないですけど、やっぱりそのぐらいかかるんですよ、絶対に。Jリーグができて10年、急激に選手たちが伸びたと思うのね。世界一流の選手も目の前にいて、誰でも真似してうまくなろうと思うし、そういう環境は絶対に必要だから。Jリーグができたおかげでそういう効果が出つつある。だけど、本物になるためにはまだまだ時間はかかるし。それでも、百年かけずに、短くするのがこれからだと思う。
金子:そうですね。
水沼:世界に追いつくためには何かと言ったら、やっぱり経験っていうか、世界と戦ってどういうところが違うのか、慣れも必要だと思う。だから、どんどん外で試合をするのもそうだし、外国のチームに行けるチャンスがあれば、そこに行って、挑戦していくのもそうだし。昔でも、海外に3ヵ月や1年ぐらい留学する選手たちはいた。で、帰ってきた時にはものすごく違う選手になっているけど、3ヵ月すると戻る。そういうことを繰り返さないためにも、代表チームで言えば今年は短期間に多く試合が組まれているから、そういう感覚を忘れないうちにどんどん違うチームと戦っていく方がいい。簡単にはいかないですよ。いくらボールコントロールがうまくなったと言っても、ちょっと後ろに敵がいると感じたらまだブレるんだから、日本人は。そういう差は簡単には埋まらないし、本当の技術のレベルは全然違うと思う。フェイントなりドリブルだったりはうまいけど、止める、蹴る技術は全然違う。スペイン代表の練習を見ていたら、「うわっ、こりゃ勝てるわけないな」と思ったからね。やっぱり一本のパスにしても、速さや精度が違うし、コントロールだって違う。そういうのは日本の選手はすごくうまくなって、僕らの時代の選手が言うのはおかしいとは思うんだけど、まだ世界のレベルとは差があるなとは思うよね。実際、ピクシーと練習をやっているグランパスの選手に聞いたら、「練習でも本当にうまい」、「ミスしない」と。
金子:その時点からミスはいけないと叩き込まれてないと、フッとした時に出ますよね。
水沼:そう。だから悲しいのは、コンフェデをずっと観ていた目でJリーグを観ちゃうと、なんでこんなことろでミスしちゃうんだろうと、すごく感じてしまう。代表入りを狙っている選手が、それに慣れないで欲しいなと今一番思ってる。
高木:僕も5、6年ではちょっと難しいとは思いますけど、たぶんそれは日本の社会や環境が変わったりしないと、そういう力が伸びていかないという部分もあります。あと、Jリーグが始まって、僕らの時代と比べると環境がガラッと変わりましたよね。そういう中で、急に伸びる部分と段々と伸びてきてくる部分があると思うんですよ。ユースの年代とか、オリンピック世代も強くなってきていますよね。だけど、ある程度キューッと伸びても、もう少しいくとある程度止まる、停滞期がある。じゃあそこからどうしたらいいかというと、親善試合をやったり、日本から海外のチームに移籍したり、そういう出入りが頻繁になってくると、その選手たちが戻ってきて、彼らがひとつの代表チームになった時に、またそこで揉まれる。そうなっていかないと世界のレベルにはたどり着けない。これからが本当に難しい時期だと思いますよね。2002年ワールドカップ後が。
金子:そのほかの質問は? 
客:ヒデ(中田英寿)と小野(伸二・浦和レッズ)と中村俊輔の共存について。ポジション的なことから、何かコメントをいただけたら。
水沼:いやぁ、3人が共存してピッチに出たらすごいでしょうけど、誰が走るんだろうということになりますよね。
金子:中田英寿、よく走りません?
水沼:うーん、走りますけどねぇ、たぶんボールを出す方に生き甲斐を感じると思うんです。伸二もそうだろうし、俊輔はまさしくそうですし。
金子:浦和レッズに去年、一昨年、ペトロヴィッチっていたじゃないですか。彼は小野君にすごく怒ったらしいですよ。「35歳のマラドーナのつもりか」と。走らなさすぎると。
水沼:バランスで、そこに人がいればいい、みたいなね。全然動かなかったですもんね。
金子:イタリアぐらいディフェンスが堅い国でも、結局バッジオ(イタリア代表)とデル・ピエロ(イタリア代表)は共存できなかったですもんね。
水沼:そうだよね。
金子:ベッケンバウアー(元ドイツ代表)がいるドイツでも、オベラート(元ドイツ代表)とネッツァー(元ドイツ代表)は共存できなかった。
水沼:まあ、今まで運良くじゃないけど、うまく3人がピタッとはまるような時ってないんだよね。
金子:ケガしたりして。
水沼:そう。それで楽しみになってるんじゃないのかな。「どう使う?」みたいな。
高木:今回のコンフェデの決勝だと、ヒデがいなかった時に、じゃあ例えば、俊輔は出てなかったですけど、どう使うかっていうのもいろいろ言われたじゃないですか。そういった時に、誰かが欠けた時にどういうサッカーができるのか、僕はやってもらいたい。
金子:ただ小野君は左サイド限定で使われていたじゃないですか、基本的に。でも中村君が代表に帰ってきても、まさに左サイドですよね。で、名波君が帰ってきたらって考えると……。
水沼:楽しみにしましょうよ。
高木:でも、層が厚くなったんですよね。
金子:確かに。それは言えます。
高木:昔はね、都並(敏史・元日本代表)さんがいなかったら、左サイドバック大変でしたから、アメリカワールドカップ予選、出られる状態じゃなくても連れていって。
金子:確かに。
高木:今はいっぱいその下にいますからね、同じくらいの力の人間が。面白くなりましたよね。
金子:次はバケモノに出てきて欲しいですけどね。ちなみに水沼さん、田原(豊・横浜F・マリノス)君ってどうですか?
水沼:バケモノですよ。ちょっと、今までに見たことない。
金子:変でしょ。何か、釜本さんの“人でなし”ぶりが伝わってくるんですけど。
高木:すごいと思いますよ。性格まではよくわからないけど、プレイを見ているとね。
金子:センターサークル付近でプレイしている時とペナルティエリアでプレイする時と、速さとやる気がまるで違いますよね。
高木:一流のストライカーってそういう人が多いじゃないですか。90分のうち、88分は仕事をしない。そういう匂いも感じさせる。
金子:では、最後の質問を。
客:日本代表のキャプテンはまだ決まっていないんですけど、そのへんについておうかがいしたいんですが。
金子:僕が思うにコンフェデの決勝戦、あそこでトルシエ監督はいろいろなものを捨ててしまったと思うんですよ。あの大会を救ってきたのは1戦目、2戦目にキャプテンマークを巻いたゴールキーパー(川口能活)だと思うんです。準決勝で中田英寿にキャプテンマークを任せたのは、「頼むよ、決勝まで残って」っていう意味かどうかはよくわからないですけどね。
会場:爆笑
金子:準決勝が終わった段階で、ゴールキーパーは当然「さあ、また自分だ」と思ったと思うんですよ。それを奪ってしまった。あと、中田がいなくて、さあ俺の出番だと思った小野君をサイドに限定しちゃったりとか。キャプテンに関して言うと、本当にやばいと思いますよ、このままじゃ。キャプテンの顔の選手が出てきていないじゃないですか。中田英寿はそういうタイプの選手じゃないと思うし。
水沼:いや、顔は付けたら出てくるんです。そういう責任感を持たせてチームを引っ張るんだという存在をひとり決めたら。その選手はそういう顔つきになってくるし、今まで以上にいろいろなことに気を使う。だからと言ってプレイがダメになるということではない。ヨシカツ(川口能活)はキャプテンマークがあろうがなかろうが、アイツは一緒です。
金子:アイツはね。
水沼:だから今は、一番キャプテン候補となるのは森岡(隆三・清水エスパルス)かもしれない。森岡はやっぱりプレイをする中心としてはいいポジションにいるし。ひとりを決めて、さっき言った、監督との選手のコミュニケーションじゃないけど、いろいろなことをぶつけるヤツが出てこないとダメですね。
金子:みんな、引いちゃってますもんね。
水沼:今の選手たちって、構えちゃうところもあるじゃないですか。熱く「よし、行くぞ、ワーッ」という感じだけじゃなくて、ちょっと引いて見てしまうところもある。だけど、そういう熱さを中心になってぶつけていく選手は絶対に必要で、それは代表チームに限らず、いろいろなチームにそういう役割の選手はいるわけだから。
金子:確かにキャプテンというのは作っていくものだと思いますよ。それを今、作っていないことがすごく不安です。
水沼:でも、もう、決めるんじゃないのかな?
高木:マスコミの人たちが「キャプテン、キャプテン」と言うので、トルシエはそういうところに結構ナーバスになってますよね、逆に。だから、試合前に選手の腕をつかんで、「お前らみんなキャプテンだ」と言ってたという話も聞いてますしね。
金子:第三者から見ていて、ここのところ強いチームとやる時にいつも、中盤の底がボロボロになって2列目、3列目からの飛び込みが最終ラインで捕まえられなくなることがすごく目立つので、あのポジションの誰かがキャプテンになって責任感を持ってやってくれるようになったらいいなぁと思ってるんですけどね。
水沼:名波とか? イナ(稲本潤一・ガンバ大阪)? イナはちょっとな。
金子:ちょっとね。
水沼:テル(伊東輝悦・清水エスパルス)は?
金子:テル! 
水沼:でも、少し前の高木なんかの時代は、テツ(柱谷哲二・元日本代表)のことを思っていたわけじゃないですか、あんなにすごいキャプテンシーを持った奴はいないと。でも全部が全部、ああいうヤツでも困るんですよ。
高木:いろんなキャプテンがあってもいいと思うんですよね。
金子:その点、井原(正己・浦和レッズ、元日本代表キャプテン)君とか可哀相でしたけどね。全部ダイレクトに比較されて。
高木:そういうイメージがありましたよね。テツさんのイメージがすごく強いから。
水沼:そうなんだよな。
金子:ただ、柱谷さんのようでなくてもいいですけど、やっぱりリーダーシップは必要じゃないですか、どんな形で出るにせよ。苦しくなった時に影響力を与えられるようなキャプテン。だからそれが中盤の底に欲しい。
高木:ポジション的に一番ふさわしい場所ですよね。
金子:最終ラインの選手は、相手がなだれ込んで来ると捕まえきれないじゃないですか。だからそれを前の方の選手にもっと指示して欲しいんですよ。
水沼:人を捕まえることは慣れていないとダメ。ラインで守っていても絶対に間を突かれるわけだし、しっかりと捕まえるところで捕まえるような形を作っておかないとダメだし。それとキャプテンの話で、後ろの選手、中盤の底の選手もそうだけど、ゴン(中山雅史・ジュビロ磐田)を見ていると前の選手がキャプテンでもいいと思わない?
金子:思います。
水沼:あれだけ前の選手で引っ張って、態度で示していれば、絶対についていくよ、人は。
金子:基本的には僕、ストライカーやセンターフォードをキャプテンにするとガタガタになっちゃうと思うんですよ。でも彼は例外ですね。
水沼:でしょう。そういう選手を見つけることって大事かなって。で、密かに僕はコンフェデで一番良かった選手はゴンだと思っているんだよね。
金子:使われ方は可哀相でしたけどね。
水沼:プレイ面だけじゃなくて、ああいう大会というのはある程度の長い期間を一緒にグループで生活するわけで、その中で不平不満は絶対に出てくるわけですよ。選手によっては、出られる、出られない。急に「試合に出ろ」って言われる時もあるし。そういう難しい状況の中で、練習の中でも出た選手と出ない選手とで、すごく差があるんだよな。
高木:モチベーションが違いますもんね。
水沼:雰囲気も全然違うしね。俺たち、先発の選手は試合に出た次の日はリフレッシュでアップして、ちょっと走ってサッと上がる。それをサブの選手は、出場した選手と同じようにコンディションを作っておかなければいけないから、ちょっときつい練習もやる。それを試合に出た選手が外からストレッチをしながら見てると、きつい練習をやっている側としては、「チクショー」と思うわけですよ。
高木:そうなんですよね。
水沼:そういう気持ちのコントロールって、すごく大事なんだよね。次の試合、いつ自分に出番が来るかわからないし。そういう部分を引っ張っていたのはやっぱり、ゴン。
金子:確かに。
水沼:トシヤ(藤田俊哉・ジュビロ磐田)なんて、今回のフィールドの選手でひとりだけだよ、出場していないのは。だけど何も文句を言わないよ、アイツ。もちろん心の中にはあるんだろうけど。ゴンは途中から出てたりしてるけど、そういう人もたくさん見ているわけだし。ゲームが終わってから冗談も言えるような感じの選手なんだよね。ワールドカップになって勝ち進んでいけば、何ヵ月もずっと一緒に同じチームで過ごすことになるわけじゃない? そこで、そういう存在が必要なんだよね。それってチームの中にいないと。
金子:藤田俊哉君ですけど、決勝戦はさすがにみんな緊張したらしいんですね。その時にみんなの手を握って「大丈夫だ、お前ら」って。最後にヨシカツのところに行って「今大会のお前なら点を取られないから大丈夫だ」と。そう言われて彼はスーッと試合に入っていけたらしいんですよ。これはできないですよね、なかなか。
水沼:できない。予選リーグ3戦目のブラジル戦の時にも出られなかったんだけど、ひとりだけユニフォーム姿でアップしてるんだよ、ジャージを着ないで。「お前、やってるねぇ!」って言ったら、「スネあてもしておきましたよ!」って。最高じゃないですか!
会場:拍手
金子:でも、そういう闘志も無尽蔵ではないとは思うんで、藤田君にチャンスを与えて欲しいですよね。いつかくじけちゃいますって、チャンスがないと。
水沼:コンフェデ決勝が終わって、表彰式の時にジョルカエフ(フランス代表)の隣に座って、話したらしいよ。「よくやったよ」って言ったらしい。
金子:何語で?
水沼:知らん、そこまでは。「いいプレイだったよ」ってジョルカエフに言ったら、「お前、誰だ?」って言われたらしいよ。
会場:爆笑


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構成・文:CREW
撮影:源賀津己