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@ぴあ/HOTスポーツ人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。6月24日に行われたイベントを、そのままお届けします。
 vol.13 前編
 SUPPORTED BY KIRIN

「どうなる! キリンカップ」(前編)

出演者プロフィール
ホスト: 金子達仁(スポーツライター・左)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターに。著書「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などがベストセラーに。松本幸四郎氏、小室哲哉氏らを取材した「21」(ぴあ刊)が絶賛発売中。
ゲスト: 田坂和昭(セレッソ大阪・中央)
'71年、広島県生まれ。東海大一高、東海大を経て、ベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)に入団。その後、清水エスパルスでプレイした後、'00年にセレッソ大阪に加わった。豊富な運動量と優れた読みで相手の攻撃の芽を摘む守備的MF。日本代表として国際Aマッチ7試合に出場した経験を持つ。
  盧延潤(ノジョンユン、セレッソ大阪・右)
'71年、韓国生まれ。サンフレッチェ広島、ブレダNAC.FC(オランダ)を経て、'99年にセレッソ大阪入り。韓国代表として国際Aマッチに42試合に出場し5得点。爆発力のあるドリブルを武器に、'94年のワールドカップアメリカ大会、'98年のフランス大会で活躍した。

金子:暑い中お集りいただきまして、ありがとうございます。今日はセレッソのおふたりに来ていただきました。で……あの~~~大丈夫ですか、セレッソ?
会場:爆笑。
田坂:ヤバいです。
金子:この順位はないでしょう(1stステージ・第12節を終わって最下位)?
田坂:そうですよね。僕たちも思っていなかったんですが。
金子:原因は?
田坂:原因と聞かれると困るんですけど……運がないですね。はい。
金子:それはあるよね。運が来るのを待つだけっていう感じ?
田坂:辛抱強く待ちます。
金子:大丈夫ですか、ノさん?
ノ:その通りです。
会場:爆笑。
金子:さて、今日は、質議応答をまじえながら、和気あいあいとやっていきたいと思っています。よろしくお願いします。まず最初に、今回スポンサードしていただいたのがキリンビールさんということで、まずはアルコールで乾杯をさせていただきたいと思います。……ちょっとキザ臭いですが、サッカーの未来に乾杯。
会場:乾杯。
金子:今日は皆さんはフリードリンクなんですよね? ということで、ガッツンガッツン飲んで、飲みまくって帰って下さいね。
会場:爆笑
金子:さて、控え室で僕たちはさきほど散々話をしていたのですが、そこでノさんが、小野くん(伸二・浦和レッズ)が今、オランダに行くのは非常にいいことだとおっしゃったんですね。
ノ:そうです。
金子:なぜ?
ノ:オランダというのはヨーロッパの真中にあって、サッカー文化のあるところなので。
金子:ノさんもオランダに行かれていましたが、その当時のオランダで、何に一番驚かれましたか?
ノ:やっぱり生活がすべてサッカーなんですよね。私がいたのは人口12万人くらいの小さな町だったんですけど、週に1回試合があるんですね。で、3万人くらい収容するんですけど、いつもいっぱいで。で、ファンの人たちは普段はすごく一生懸命仕事をやって、ストレスをサッカーで解消するというのが生活パターンなんですよね。だから、もし、彼らのストレス発散の場であるサッカーで、仮に2連敗や3連敗をした時には町を歩いていても、ムチャクチャ文句を言われるんですよ。「早く帰って練習をしろ!」みたいなね(笑)。つまり、生活がすべてサッカー中心になっているんですよね。だからこそ、そういう中で、小野くんがサッカーをするのはいいことだ、と。私生活も含めて、ちゃんと学ぶことができれば、小野くんはもともといいものを持っている選手だから、すごく成長すると思います。
金子:これまた田坂さんも含めて話をしていたのですが、その中で、田坂さんと僕の意見が一致したのは、やっぱり礒貝洋光(元ガンバ大阪)はすごかった、と。才能はずば抜けていたと。で、ノさんにここ十年で韓国が生んだ一番のいい選手は誰かと聞いたんですね。で、そしたら、キム・ジュソンだと。このどちらも……キム・ジュソンにしても、礒貝洋光にしても、どちらも、代表ではあまりパッとしていないんですよね。で、その原因を突き詰めていった時に、結局、何が大事なのかと言えば、環境だと。そういう意味も含めて、小野くんが今の21才という年齢で海外に出るというのは、タイミング的にどうでしょう?
ノ:彼は今が一番伸びる時じゃないですか。フィジカル面でも、戦術眼でも、やっぱり一番伸びる時期だと思う。それに、ヨーロッパで1年プレイすれば、来年のワールドカップに帰ってきた時にはヨーロッパの選手と同じくらいの戦術眼を備えているでしょうから、日本代表にとってもすごい力になると思いますよ。それは、中田(英寿・ASローマ→パルマ)を見たらわかりますよね。中田がイタリアにいく前、'98年のワールドカップの時と今の中田って、彼の移籍金が2倍くらいになっているのと同じで、実力も2倍くらいになっていると思いますよ。
金子:ちなみに、ノさんはデビュー当時の中田もご覧になられていると思いますが、その当時の中田と、今季、セレッソに入った大久保(嘉人)くんを比べてどうですか?
ノ:いや~~大久保の方が2倍くらいうまいですよ!
会場:爆笑
ノ:いや、ホントに。大久保は今、19才ですけど、彼は僕が19才の時に持っていなかったものを、たくさん持っている。ただ……問題は、彼が田舎もんだということですよ(笑)。
会場:爆笑
金子:(笑)。田舎もん?
ノ:そう、田舎もんです。だから、もし彼が将来的にヨーロッパで活躍しようと思ったら、もっといろんな面を鍛えないと……ヨーロッパに行ったら自分ひとりだけですからね。自分で何でもやらなければいけませんから。今は確かに若くて、しかもうまいですから、まわりも持ち上げますけど、でも、それだけじゃあダメですね。厳しくしないとね。彼が伸びることは、まず一番は彼にとってすごくいいことだし、その次はセレッソにとっていいし、その次は日本代表、次はアジア……とすべてにいいことなんですからね。ただ、確かに素晴らしい才能を持っていますよ。私は日本に来て8年になりますけど、高校を卒業してプロになった若手選手で、あれだけいいものを持っている選手は初めて見ました。彼が高校2年生の時に、テストみたいな感じでセレッソに練習に来た時から凄い選手だなと思っていました。
金子:ちなみにベルマーレ平塚で、中田くんと一緒にプレイしていた田坂さんはどうでしょう? 中田くんと大久保くんを比較すると?
田坂:そうですね。僕も去年、大久保がセレッソに練習に来た時は、まずびっくりしましたね。ヒデも高校時代に一度ベルマーレに練習に来たことがあったんですけど、その時と比べても大久保の方が断然うまいと思いました。ただ、ノさんの言われた通り、大久保はこれからだと思うんですよ。ヒデも入ってきた頃に比べて今はすごいレベルの選手になりましたよね。で、なぜそうなれたかと言えば、やっぱりヒデがすごく努力をする選手だったからだと思うんですよね。彼の場合は見られるのが嫌だから、あまりそういう風に見えないかもしれないけど、人が見ていないところでムチャクチャ努力していましたからね。
金子:大久保くんはどうですか?
田坂:してるとは思うけど、まだまだ、ね。ヒデっていうのはみんなの前で自分が練習したり、努力しているっていう風に思われるのをすごく嫌がるんですけど、でもすごく本当は陰で努力している選手だったんですよ。だから、あそこまでいくのは当然だなっていう風に思ってて…大久保もこれから先、セレッソでどれだけ努力をしていけるか、ですよね。それによって日本代表とか、その次の世界が見えてくるというか……本当にこれからの勝負だと思います。
金子:さて、コンフェデレーションズカップ。まず、ノさんは韓国代表を見てどう感じられましたか?
ノ:いや、良かったんじゃないですか。単純に2勝しましたしね。本当は決勝に進むべきでしたけど、運がなかったので……。2002年も3試合で2勝すれば、決勝トーナメントには進めると思いますよ。それと、フランス、メキシコ、オーストラリアという強い国と韓国代表が試合をしたのは、初めてですからね。いい経験になったと思いますし、次はもっといい試合ができると思います。
金子:韓国が2度目のワールドカップの出場を決めたのが’86年ですよね。で、その時から……'86、'90、'94、'98年と4回続けて出場していますけど、まだ1勝が挙げられない。ワールドカップの1勝っていうのはやはり遠いですか?
ノ:やあ、なかなか難しいですよ。例えばアメリカ大会の時は、あの暑さ……あれは韓国では経験したことがなかったですね。すごい暑くて…夏は45度くらいになるそうですから。ドイツ戦の時はベンチで寒かったんですけどね。アメリカの時は一応、ベンチの後ろにエアコンがあったんですけど、上からの太陽が暑くて、本当に顔だけ真っ赤。で、'98年のフランス大会は芝が違いました。すごく柔らかいところと、堅いところがあって……ああいう芝にヨーロッパの選手は慣れているから強いですよね。そういう意味では今回の2002年は、チャンスなんですよ。
金子:自分たちの芝ですもんね?
ノ:それもありますし、やっぱり気候にも慣れていますよね。日本の6月は蒸し暑いでしょ? ヨーロッパや南米の選手はそれに順応できないだろうから、走れないと思いますね。それに、何と言っても長居スタジアムの6月の暑さはすごいですよ(笑)。
会場:爆笑
金子:韓国の6月と日本の6月とではどっちが過ごしにくいんですか?
ノ:やっぱり日本が少し暑いでしょう。確か、日本の予選の最後(6月14日)は大阪でしょ? だから、あれはチャンスですね(笑)。いい結果になると思いますよ。
会場:爆笑
ノ:何て言ったって、まず風が入らないですからね。
金子:確かにヨーロッパにはあの湿気はないですよね。
ノ:ないでしょう。だから、寒いところの国は間違いなく走れないと思いますよ。そう言えば、'94年のアメリカ大会の時のドイツがそうでしたよね。前半はすごくよかったのに後半はマレーシアのレベルになっていましたから(笑)。前半が終わった選手の顔を見たら「もういいや~」っていう感じでしたし。マテウスも自分から手をあげてメンバーチェンジを申し出ていましたけど、やっぱりサッカーは走れないとどうしようもないですから。
金子:あまりにも暑くて、エフェンベルク(ドイツ代表)は頭おかしくなって中指たてちゃって、あれで永久追放になったりしたんですもんね(笑)。確かにそういう意味ではチャンスではありますね。
ノ:あとは、刺身をたくさん食べさせたらいいですね(笑)。
会場:大爆笑
ノ:向こうの人たちは生のものは食べないから、あれが体調を崩させるには一番でしょ?
金子:なるほど(笑)。で、韓国は勝てそうですか?
ノ:いやあ、日本も、韓国も確かにチャンスだとは思いますよ。ただ、組み合わせがまだどうなるかわからないしね。それにしても、日本はうまかったですよね……最後の予選を大阪に決めて。韓国はインチョン(仁川)ですから、あまり暑くないんで……。
金子:あ、インチョンはあまり暑くないんですか?
ノ:そうですね、あまり暑くないですね。上の方だから。テグ(大邱)とかだったら暑かったと思いますけど。
金子:ちなみに、ヒディング監督について、韓国代表の選手は何て言ってますか?
ノ:結構厳しい監督らしいですよ。ヨーロッパの監督にしては珍しいですよね。私は6人くらいヨーロッパの監督と一緒にサッカーをしましたが、すごい優しくて、フリースタイルの人が多いんですよね。でも、ヒディングは違って、すごく厳しいらしいです。
金子:田坂さん、日本代表はどうご覧になられましたか?
田坂:結果も準優勝ですし、試合を見てもトルシエ監督のやろうとしている戦術を選手がちゃんと理解しているんじゃないかなと僕は思いましたけど。
金子:西澤(明訓・セレッソ大阪、エスパニョール→ボルトン)くんと森島(寛晃・セレッソ大阪)くんのコンビネーションについてはどうでしたか?
田坂:セレッソでも一緒にやっていましたからね。それに、代表でもまた一段とプレイの幅が広がったというか……ふたりのコンビネーションからチャンスも作れたし、ふたりのコンビネーションからディフェンスもできたんじゃないかなと思いました。
金子:西澤くんのプレイは変わりましたか?
田坂:スペインでも6試合くらい出たと聞きましたけど、日本代表に帰ってきた時の方が自信を持ってやっていると思いましたね。まわりがすべて日本人だし、モリシとか知っている選手もいるし、そういう意味では余裕があったんじゃないかなと。向こうではやっぱり、結果を出さなきゃっていうプレッシャーとまわりに慣れていない環境の中でプレイしていたせいか、いつものアキじゃないのが気になっていたんですけど……。
金子:確かにセレッソの西澤くんではなかったですよね。
田坂:ええ、そんな感じがしましたね。
金子:ちなみに、ノさんはオランダでもプレイされましたが、やっぱりどこか『よそいき』になってしまった部分ってありました? それともすぐにとけ込めました?
ノ:いやあ、できませんでしたね。まず、チームメイトが何をしゃべっているのか、言葉がわからないし。特に私がいた時は、アメリカ、ユーゴスラビア、アフリカとかいろんな国の人がいましたからね。難しいですよ、慣れるのは。アキも6ヵ月ですけど、苦労したと思いますよ。だって、向こうの人にとっての東洋人、アジア人はやはりレベル的にABCで言うとBじゃないですか。だから、向こうの人たちは「何でBの選手が活躍できるんだ」っていうことになるんですよね。そう考えれば、やはり中田が活躍しているのはすごいことなんですよ。ヨーロッパの人たちはサッカーは自分たちがナンバー1だと思っていますからね、頭の中で「東洋人は何もできない」っていう風な印象を持っている人も多いし。だから、そこに東洋人が行って活躍するのは難しいんですよね。だからアキに対してもそうですよ。本当に信じてはいないだろうから、たぶんいいボールもこなかったんじゃないかなと思います。例えばモリシが一緒にいて、アキにいいボールを出してあげていたら、もっといい活躍できただろうし。まわりがどれくらい信用してくれるかで全然違いますからね。でも彼にとっては、すごくいい勉強になったと思います。
金子:ノさんにとっては、日本も外国だった訳ですが、サンフレッチェ広島に入った時は言葉ができなかったにもかかわらず、割と最初から活躍されていましたよね?
ノ:日本とヨーロッパとでは違いますよ。韓国と日本は食べ物も似ていますし……そう言えば、当時はたくわんをたくさん食べましたね(笑)。
会場:爆笑
ノ:初めて日本に来た時は毎日カレーライスを食べていましたね。で、思ったんですけど「なんで日本はカレーを出す時、たくわんがふたきれしかないのか」って。あれは、不思議でしたね(笑)。
金子:納得できなかった(笑)?
ノ:そうですね(笑)。韓国では何でもたくさん出すんですよね。日本はどの食堂もたいてい、たくわんはふたつ。だから私の先輩は、ひとつのたくわんを25回噛んだそうですよ(笑)。おかわりできないからふたつで満足するためにね(笑)。
金子:じゃあ、カレーばっかりだったんですね、日本に来た最初の頃は?
ノ:そうですね、カレーライスばっかり。だから今はあまりカレーライスは食べない。
金子:オランダに行った時は?
ノ:オランダの時は、寿司とかも食べにも行きましたよ。ヨーロッパは楽しいですよ、何もないから(笑)。試合以外の時間は家族だけですからね。だから練習が終わったら朝から晩まで家族と一緒にいました。家の芝を切ったり。ヨーロッパでは綺麗にしておかないと警察に通報されますから、一軒家だったんですけど、週に3回くらいは芝をきれいにしていました。土とかもきれいにしないとダメで、すごく厳しいんですよ。だからヨーロッパに行ったことで僕が一番成長したのは芝を切ることですね(笑)。
金子:ちなみにノさんの場合、Bランクという偏見と戦う中で、結果を出したら、まわりの反応が変わりましたか?
ノ:そうですね、すぐに変わりました。例えば、試合で点を入れたら全然違いますね。オランダでは試合が終わったらサポーターが集まるレストランがあって。で、勝ったら、みんながそこでビールを飲んだりするんですね。その時にサポーターが試合で活躍した選手を呼んで、一緒に1時間近く話をするんですよ。ファンがチームにお願いをして、ファンの人が「今日は○○選手がよかったので、会いたいです」ってチームにお願いするんです。で、選手も「ファンが自分を呼んでくれた」って喜んでそこに出向いて、ビールを飲みながら話をする。それを1~2回経験すると、町を歩いていても、みんなが自分のことを知ってくれている。もちろん、私は東洋人だから目立っていたっていうのもあるんですけど。向こうではそういうコミュニケーションも取りましたね。
金子:さて、田坂さん。小野くんはどうなると思います?
田坂:まずは、試合に出られるかどうかが、一番の問題だと思うんですけど、試合に出れば、活躍してヒデくらいの評価が得られるんじゃないかなと思います。サッカーはどこの国でもやっぱり試合に出なければ何も始まらないですからね。日本の選手が何人か海外に行くようにはなりましたけど、やっぱり試合に出て欲しいですよね。で、僕らがJリーグでやっているレベルを海外で証明して欲しいなって思いますね。
金子:後は、ちょっとした運にも恵まれて欲しいですよね?
田坂:そうですね。
金子:西澤くんも最初の頃、シュートを打って、バーに当てましたよね? あれが入っていたら変わっていたんじゃないかなと思いますよね。
田坂:そうですね、一度ゴールを決めた時もオフサイドをとられましたし……ホント、そういう意味では運と言うか、ツキも必要だと思います。
金子:セリエAのデビュー戦で中田くんが決めたゴールは、ある意味キーパーミスじゃないの? っていう得点だったけど、入りましたからね。あれをセーブされていたらわからなかったっていう部分もあったはず。
田坂:そうですね。
金子:ちなみにノさん、結果を出した時 は、運に恵まれていましたか?
ノ:私は、オランダに行った時に開幕戦で得点を入れましたよ。ディフェンダーに当たってコースが変わって入ったんですけど、あれでその後監督は試合で使ってくれたんだと思いますね。やはり監督は内容が悪くても得点を入れると試合には出しますから。それでだんだん慣れてきたらいいプレイもできるし。だから、やっぱり監督ですよ。監督が小野くんをどのくらい信じるか。最初からいいプレイはできなくて当然ですし、悪い時といい時があっても仕方がないけど、でも、悪い時でも試合に出してくれれば活躍できるし、それは彼にとってもプラスになるし。ただ、海外に出るのはいいことだけど、簡単ではないと思いますよね。
金子:これから先、日本も韓国もどんどん海外に出て行く選手が増えていくと思うんですけど、そうなった時に自国のリーグは大丈夫なんでしょうか? 韓国も日本も若い選手がどんどん出ていってしまいそうですが。
田坂:韓国で言えば、ノさんとか、ミョンボ(ホン・ミョンボ・柏レイソル)とかスター選手が結構日本に来ていますもんね。日本の選手も海外に行くようになっているし……そうなると、、日本のJリーグの人気がやっぱり低迷するんじゃないかっていうのは、Jでプレイをしている僕らにとって恐いことですよね。だからこそ、なおさら、僕たちも頑張らなきゃいけないっていうのも感じますけど。ただ、ひとりのサッカー選手としては、やっぱり日本の選手が海外にたくさん出て、さっきも言った通り「日本の選手もこれだけできるんだ」っていうことを証明してもらいたいって思いますよね。そういう意味ではちょっと……複雑な部分もありますよね。
金子:ノさんは実際に自分も外国でプレイしている訳ですが、やっぱり複雑ですか?
ノ:そうですね、それもあるけど、でも、メリットとデメリットの両方があると思います。メリットはリーグにおいて、若い選手たちがチャンスをもらえる、ということ。それによって若手選手が成長しますよね。デメリットは人気。スター選手が外国に出ることによる、ね。でも、何年後かを考えれば、出た方がいい判断だと思います。
金子:ちなみに、1990年の段階で、ノさんは日本のサッカーにどのよ うな印象を持っていましたか? 弱い?
ノ:いやあ……弱いっていうより、韓国が強かったですね。’90年に私は大学2年生で、確か日本とやって2-0で韓国が勝ったと思うんですけど、やっぱり韓国が強かったですよ。先輩たちは本当に。強いとか弱いとか話にならないくらいでしたよね。あの時の韓国代表はすごい選手ばかりだったし、日本よりはるかに強かったですね。
金子:その時と今の韓国代表を比べて、どうですか?
ノ:いや、あの時代を考えれば今は負けていますね。当時は先輩たちひとりひとりのタイプが違ったんですよね。速い選手もいれば、テクニックの高い選手もいて。だからチームとしてのバランスがすごく良かったんです。だって、試合に出れなくてもそばで試合を見られるだけで楽しかったですから。で、終わったら洗濯。洗濯が終わったらマッサージ(笑)。
金子:えっ。マッサージも?
ノ:マッサージもしましたよ。あの時は大学生が5人、代表に入っていたんですけど、練習が終わったら洗濯するのが日課でした。
金子:代表メンバーなのに?
ノ:いやあ、もう恐いですから、先輩たちが(笑)。
金子:そう言えば、去年の夏に韓国の小学生が日本の小学生と長居で試合をやったじゃないですか? それを見た時にすごくびっくりしたんですけど、韓国の選手はシュートを打つことしか考えていなくて、日本の選手はパスを回すことしか考えていないんですよ。つまり、ボールキープ率は日本の方が高いのに、シュート数は、20対2で韓国が断然多い。韓国の選手ってなんであんなにシュートを打つのが好きなんでしょう? だからいいストライカーがいっぱい出てくるのでしょうか?
ノ:サッカーはやはり、センタープレイが大事ですからね。だから、こどもの時から自分もセンターでプレイしたいってアピールしているんじゃないですか? 
金子:韓国はセンターフォワードとストッパーにすごい選手が出てきているじゃないですか? で、日本にとっては、それがウイークポイントなんですよね?
田坂:いい選手はいると思うんですけど、韓国の選手ほど日本の選手っていうのはイメージが強くないですよね。インパクトが薄いと言うか……僕が小さい時に、韓国と初めて試合をした時、同じアジア人で、同じ顔の色をしているのに、なんでコイツらはこんなに強いのかなと思いましたよね。ちなみに僕は12才の時だったんですけど……日本で初めて12才以下の日本代表っていうのを作って、その時に選ばれて韓国とやったんですけど、同じ年なのに何でコイツらは強くて速いのかなって思ってね。結局、僕はそれ以来、韓国のチームに1度も勝っていないんですよね。12才以下の大会もそうだし、ジュニアユースでもユースでも学生選抜でも大学のユニバーシアードでも……一回も勝てない。今の日本代表とかを見ていると、韓国に対するプレッシャーとかコンプレックスがないから、あれだけできると思うんですけど、僕らの時は本当に韓国とやるのが嫌でしたもんね。
金子:嫌?
田坂:嫌でしたね。強くて速くて、当たったら痛いし。フィジカルはめちゃくちゃ強かったし。
金子:圧力に飲み込まれていくような感じだよね?
田坂:そう。また韓国の選手は日本とやる時はすごく眼の色を変えてやってくるっていうか、それがヒシヒシと伝わってくるんで……。
金子:でも日本の選手だって眼の色を変えていたでしょ?
田坂:やっていましたけど、やっぱり勝てなかったですよね。頭のどこかにやられるっていう意識がありましたよね。
金子:逆にノさんなんかは、日本と試合をしても負ける気がしなかったでしょ?
ノ:ああ、なかったですね。
金子:どういう感じだったんですか?
ノ:日本との試合があるってわかった時から、日本には負けたらあかんっていうことを監督が言っていましたからね。「負けたら韓国に帰れないぞ」っていう話もされましたし。僕がU-16の時に名古屋で一次予選をやったことがあるんですが、その時もまだ高校1年とかだったのに、「負けたら帰れない」とか言われていましたから。だからもうみんな必死で頑張りますよ。
金子:日本戦の時っていうのはやっぱり普段以上の力が出ていたと思いますか?
ノ:やっぱり出ますね。普段より走れますね。メンタル的に出るんですよね。
金子:その気持ちを他のチームに向けてくれればワールドカップでも勝てていたんじゃないですか(笑)?
ノ:そうかもしれないですね。
金子:もう日本に向けている時じゃないでしょう?
ノ:あれは僕も不思議なんですよね。なんで他のチームの時に出ないのかなって。
金子:ワールドカップを見ていると本当に思いますよね。「日本とやっている時の韓国じゃない」ってね。
ノ:そうですね。メンタル面が違う。
金子:今はずいぶん変わってきましたけどね。
ノ:今は前みたいに、日本への思いも強くないと思いますね。強くないって言うか、他の国と同じくらいで……時代が変わっていますね。負けても何も言われませんから。昔は負けたらいろんなメディアからムチャクチャ文句を言われましたけど、今は負けてもあまり言われませんから。本当に、変わりましたよね。例えば、'98年のソウルで0-2で日本に負けた時も、前なら大変なことになっていたはずなのに、韓国のメディアは「内容が良かった」とか言っていましたからね。だから僕は、何ごとやと驚きました(笑)。
会場:爆笑
金子:ドーハで負けた時も、やっぱり大変でした?
ノ:大変だったですよ。例えば監督の人形を作って火をつけたりされていましたから。みんなが「帰れない」って言ってたのに。でもあれがドーハじゃなくて、チャムシルのスタジアムで負けたらもっと大変だったでしょう。チャムシルでは韓国は負けていなかったですから。あの時日本に負けて「うわあ、明日はこれは大変なことになる」と思っていたら「良かった」とかって、おさまっていましたから(笑)。9時のスポーツニュースでも「良かった」みたいな雰囲気になっていましたし。まあ、これはすべて、2002年のおかげだと思います 。
金子:2002年が終わってもこの流れは続いていきますかね?
ノ:それはわかりません。でもたぶん、一度変わっているので、戻ることはないでしょう。
金子:ノさんが初めて日本に来た時は韓国の反応がすごかったじゃないですか? 「なぜだ?」と。今は全然違いますもんね?
ノ:そうですね。今はみんな愛国者になっていますね(笑)。私が日本に来た時は「何で行くんや」って感じだったし、マスコミにはムチャクチャ書かれましたし。でも今は逆にみんなが「愛国者」みたいになって……いいですよねえ、今の選手は。だって当時は私が点を入れていても、無視ですよ。今は得点を入れたら9時のスポーツニュースで「○○がJリーグで得点を決めた」って流れますけどね。私が優勝した時でさえ、新聞にもあまり出なかったですからね。やはり時代は変わっていますよ。
金子:それは変わったというよりノさんが変えた部分もありますよね?
ノ:いやあ、やっぱり2002年ですよ。
金子:ちなみに、今、田坂さんは、Jリーグで韓国の選手とぶつかることが増えたと思うんですけど、やっぱり今でも嫌ですか?
田坂:嫌ですね。相変わらずフィジカルは強いし。抜いても後ろからずっと追い掛けてくるし(笑)。
金子:誰が一番嫌ですか?
田坂:ノさんが広島にいる時に試合をしたんですけど、その時は、僕が一回削ったらすぐに削り返されましたし。
会場:爆笑
金子:削られたのは、田坂くんが何をやって?
田坂:僕がボランチで、ノさんがセンターフォワードで、僕が後ろから思い切りコンといったら、ノさんが後ろ足でゴン、と。そういうのもあるし、今はミョンボとかもすごいっすね。
金子:元チームメイトなのに?
田坂:そうですよ。僕が抜いたら…たぶん抜かれた時点でプライドが許さないんでしょうね。後ろからガッチリきますから。やっぱり韓国の選手は嫌ですよね。ユン(ジョンファン・セレッソ大阪)とかもそうですよ。練習で一緒にボール回しとかをしていても、負けるのが嫌っていうのが伝わってくる。そういうプライドはいい意味で高いですよね。抜かれることは、練習でも絶対に許さないみたいなね。そのへんが日本の選手にはあまりないところですよね。それに比べて韓国の選手は、精神的に強いですよね。
金子:それは日本の選手は全面的に見習うべきですね。
田坂:もちろんそうですね。
金子:ノさんは、そういう日本と韓国のこだわりの違いって何だと思います?
ノ:いやあ、最近は変わらないと思いますよ。例えば、2年前に韓国で日本と試合をやったんですけど、ガンバにいる稲本(潤一)に、私は足を踏まれましたからね。その時に「ああ、変わったな」と。
金子:頭にきながらも、変わったなと思ったんですね?
会場:爆笑
ノ:そうですね。変わったなと思って笑えました。それまで、何もしてないのに踏まれることなんてなかったですから(笑)。だから日本は伸びてきたんだと思いますね。反対に今の韓国は少し大人しくなっているように思いますね。若手は特に、僕らの次の時代は、そういう気持ちが少し弱いかなと。
金子:確かにファイターと呼ばれるような選手は今の韓国を見ると、減ってきているかもしれませんね?
ノ:そうですね。なんでかなと思いますけど……でも、若手がアイドルになっているのは確かですね。それは間違っていると思うので、いつも後輩たちに「アイドルはすぐに終わる」と言っているんですけど。要は、アイドルだと遊べるし、どこに行ってもスター扱いでしょ? だから彼らは今、遊びが楽しいんですね。仕事をしていない。だからサッカーがうまくならないんですよ。いい選手は日本と同じくらいいますけど、伸びないですね。何て言うか……今は挨拶すらしない選手もいますからね。そんなの、僕の時代なら殴られますよ(笑)。
金子:東海大学はそのへんのところどうでした?
田坂:僕が1年の頃は厳しかったけど、だんだんだんだん、そんなに厳しくなくなりましたね。
金子:田坂さんが1年生の時の4年生と言うと、誰がいたんでしたっけ?
田坂:山口素弘(名古屋グランパス)さんとか、岡中さん(勇人・ガンバ大阪)とか……で、その下に礒貝さんとか、澤登(正朗・清水エスパルス)さんとか、加藤望さん(柏レイソル)とかがいて。その頃、うちの大学はムチャクチャ強かったんですよね。今は2部ですけど。
金子:あまり縦社会じゃなかった?
田坂:大学は違ったけど、高校の時はすごかったですね、かなり。
金子:東海大一高? 
田坂:ムチャクチャ厳しかったですよ。僕が1年生の時に、3年には澤登さんがいたんですけど、怖くて全くしゃべれなかったし、眼もあわせられなかった。あまり知られていないと思うけど。
金子:本当に? だってそのもうひとつ上にはブラジル人がいたじゃないですか。
田坂:サントスですよね?
金子:そう。なのに縦社会なの?
田坂:そうなんですよ。だからノさんと同じく、僕たちも洗濯したし、買い出しにも行きましたし、マッサージもしましたし……まあ、説教っていうのもありましたし(笑)。
会場:爆笑
金子:ちなみにノさん、ノさんの高校時代っていうのはどうだったんですか?
ノ:高校時代ですか? あ~~~毎日殴られましたね(笑)。
会場:大爆笑
ノ:いやあ、全国で5番目に入るくらい厳しいところだったんですよ。勉強なし、朝から晩まで走る。で、夜は殴られる(笑)
会場:大爆笑
ノ:いや、本当に、ものすごいところなんですよ。僕は3回逃げました。朝、親には「学校行きます」って家を出て、魚釣りに行きましたね。だって、すごいところなんですよ、朝から晩まで。
金子:部員は何人くらい?
ノ:部員は35人くらいだったんですけどね。で、田坂のところは3年が1年だけでしょ? 僕らの時は3年生が2年生と1年生をやって、次は2年生が1年生をやるんですよ。だから僕ら1年生はやられるだけ(笑)。もうすごかったですよ。練習もきつくて……秋とか冬が一番嫌いでした。
金子:え? なんで?
ノ:秋とか冬に木を切るじゃないですか。その時に、すごく重くていい木がとれるんですよ。あれで殴られるとかなり痛い(笑)。
会場:大爆笑
ノ:その時に切った木はすごくいい重さで、いい太さで……本当にいい木なんです。重いのは痛いですよね、本当に。
会場:大爆笑
ノ:でも、その高校というのは何回も全国優勝していますからね。本当に名門です。
金子:ちなみに男子高ですよね?
ノ:そうです。
金子:で、寮生活なんですか?
ノ:僕たちは寮じゃなかったですね。今は寮生活みたいですけど。朝練習がある時は6時くらいに行って、家に帰るのは夜の12時くらいでしたね。洗濯とか全部終わってから帰るので。もう本当に厳しかったですね。だから大学に入った時は天国だと思いましたよ。いや、大学も厳しかったですけど、高校よりはまし。上下関係は相変わらず、すごく厳しかったですけどね。僕らがいた大学の寮って5つのチームが入っていたんです…アイスホッケー、野球、ラグビー、バスケット、サッカーなんですけど、全部のクラブが寮生活なんですね。でも、4年生になると、王様になれます。4年生に行くまでは少し遠いですけど、4年生になったら本当に王様になれます(笑)。
会場:爆笑
ノ:僕が4年生の時に、今、巨人にいるチョ・ソンミンが1年生だったんですよ(笑)。
金子:へえ。
ノ:例えば、食堂に朝ごはんとか食べに行くじゃないですか。で、その時に4年生が入ってきたら、クラブに関係なく、ちゃんと挨拶をしないといけないんです。それをしないと怒られます。
金子:じゃあ、ノさんも4年の時は怒っていたんですね(笑)?
ノ:いやあ。私は代表に呼ばれていたので、あまり寮にはいなかったので。でもたまに帰ってくると、クラブとかは関係なしに、みんながパッと立って挨拶してきましたね。一番強いのはラグビー部で……ラグビーの先輩は一番恐かったですね。
金子:体もでかいし?
ノ:そうですね、あれは人間じゃなかったですね(笑)。
会場:爆笑
ノ:だから、ラグビーの先輩たちがお酒を飲んで酔っぱらって帰ってきたら、2階から飛び下りて逃げましたからね。本当に。
金子:そういうのは田坂くんは、大学ではなかったよね?
田坂:はい、大学は全然大丈夫でしたね。 

[……後編に続く] 後編はこちら

構成・文:高村美砂
撮影:スエイシナオヨシ