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豪華ゲストたちとともにあらゆるスポーツについて、熱く語り合ってきた「ぴあトークバトル」。今回は5月12日に行われた「どうなる! ラグビー日本代表~W杯予選を前に~」をテーマにした第17弾の模様をそのままお届けします。

ぴあトークバトル Vol.17
スポーツ快楽主義2002 Vol.17 
どうなる!? ラグビー日本代表~W杯予選を前に~
前編

<ホスト>
青島健太(スポーツライター・左)
'58年、新潟県生まれ。慶応大から東芝へ進み強打の大型三塁手として注目を集めた。'85年にヤクルトスワローズに入団。'89年退団後、スポーツライターに転身。現在は、スポーツライター、キャスターとして、テレビ、ラジオ、雑誌等で活躍している。

<ゲスト>
二宮清純(スポーツライター・右)
'60年、愛媛県生まれ。スポーツライターの第一人者として、新聞、雑誌、テレビ等を舞台に幅広く活躍中。主な著書に、「Do or Die」(KSS出版)、「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)がある。

向井昭吾(ラグビー日本代表監督・左からふたり目)
'61年、愛媛県生まれ。東海大から、ラグビーの名門・東芝府中へと進み、日本代表フルバックとして躍動。日本代表13試合出場。'94年、東芝府中の監督に就任。'97年から日本選手権3連覇を達成。その手腕を評価され、'00年12月、日本代表監督に就任した。

栗原徹(ラグビー日本代表スコッド・右からふたり目)
'78年、茨城県生まれ。177cm、80kg。WTB/FB '97年、清真学園高より慶応大へ進み、「対抗戦」「大学選手権」2冠達成。日本代表初キャップは、'00年5月のフィジー戦。現在所属するサントリーでも、1年目から試合に出場、春のジャパンセブンズ、ウェールズ戦撃破、東日本社会人、社会人大会、日本選手権の5冠達成に貢献した。


青島:日曜日のたいへん天気がいいなか、こんなにお集まりいただきましてありがとうございます。ご紹介いただきました、血液型O型、生まれは新潟の青島でございます。場を温めようと思って言ったんですが、かえって寒くなってしまいました。
会場:爆笑
青島:世の中は、一昨日(5 月10日)から始まりましたプロ野球、巨人vs阪神の首位攻防戦で熱くなっております。私、東京ドームに行ってまいりました。こんな天気のいい日ですから、すぐそこの神宮球場では六大学野球もやっております。しかし、そんな数々のイベントにも目もくれず、今日はこの会場にお集まりいただきました皆様は、真のラグビーファン、筋金入りのラグビーファン、もっと一般の社会の方にわかりやすく言えば、常識外れのラグビーファンと言える方々だと思います。今日は、皆様からの質問も伺いながら、楽しく会を進めていきたいと思います。皆様、ご協力、よろしくお願いいたします。さあ、それでは早速ゲストの方々をご紹介してまいりたいと思います。皆様、お待ちかねです。まずは、ラグビー日本代表監督、向井昭吾監督です。そして、向井監督が標榜するスピード&アタック、間違いなくキープレイヤーになるであろう日本代表スコッド、サントリー所属、栗原徹選手です。皆様ご存知だと思いますが、日本代表はニュージーランド合宿から昨日(5 月11日)帰ってきたばかりです。久々の日本、監督いかがですか。
向井:暑い時に出たんですが、向こうの気温とマッチしてね、安心しました。
青島:栗原さんは……大学 (慶応大) の後輩なんで、栗原君はどうですか。
栗原:そうですね。ニュージーランドは暖かくて過ごしやすかったです。
青島:そしてもうひと方ご紹介させていただきたいと思います。切れ味鋭いスポーツ評論でおなじみです。スポーツライター、スポーツジャーナリストの二宮清純さんです。
二宮:こんにちは。二宮です。
青島:清純、今日の意気込みを。
二宮:一応、愛媛県の県立高校ラグビー部で、向井:監督のいる新田高校に、いつも100点ゲームでやられてましたんで、口だけでは勝ちたいなと思います。
青島:以上、4人のメンバーで進めさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
会場:拍手
青島:皆さんはもう、リポビタンDはお持ちですか。せっかく日本代表の皆さんが帰ってきたんで乾杯しましょうか。それでは、これから本当の意味での戦いが始まりますが、とりあえず、ニュージーランドの合宿お疲れ様でした、ということで。乾杯! いつもこういうホストだと、かなり緊張気味なんですが、今日はなんか妙に、悪い意味じゃなくて、いい意味でリラックスしています。よくよく考えてみますと、今日は私が一番偉いんですね、おそらく。日本代表監督の向井さん、東芝府中の私の後輩です。それから先程もお話しましたが、栗原君、後輩です。そして二宮清純、仕事的にはバッチリかぶっているんですが、某社のビールのCMでは私の方が先に出てるんです。歳でも私が1つだけ上なんですね。そういう意味では監督も、某ビール会社のCMに関しては後輩でいらっしゃいます。常識のある社会人の方であれば、この4人の力関係がどういうものであるかわかっていただけると思います。
二宮:体育会系のイヤなところだね(笑)。
青島:こういう言い方をするとサッカーの連中はすごくイヤがるんですよね。つまり、何が言いたいのかと言いますと、先輩が頼むコメントや質問ですから、極力協力的にお願いしますということで。さて、帰朝報告ということですが、大変長い合宿でしたよね。4月28日から昨日までですから。どんな様子で、どんな成果だったのかをまず、ご報告いただけますか。
向井:そうですね。ニュージーランドへは、スタッフを含めて50数名という、多いメンバーで行きました。皆さんが不安に感じるからあまり言いたくないんですけれども、最初行く時点で、だいぶ傷んでいた選手がいまして、その選手のケアに時間をかけて。そのうえでなおかつ、向こうに行って何をやったかというと、戦術面のある程度の柱ですね、それをやってきました。後で栗原選手に聞いていただけたら一番、そこの部分を話してくれると思うんですが、スケジュールを出したとたん、「休み」が書いてないんですね。
青島:いやな合宿ですね。

向井:「サラリーマンでも、必ず土日に休みがあるじゃないか」という選手たちの意見がありましたが、私の考えでは、進み具合、選手の傷み具合によって休みを入れた方がいいんじゃないかということが頭がありまして。それで、いろいろな選手のケガを考えて、なかに休みを入れたんですが、やらせていただいてわかったんですが、休みを入れた方が、3日やったら1日休めると、選手もモチベーションを高められる。勉強させてもらったかな、というか。こんなところで勉強させてもらったというと、何を言ってんだって言われるかもしれませんが。でも、そういうことを経て、アタック・ディフェンスという相手チームをつけた練習を、アディダス・インスティテュート・オブ・ラグビーというラグビーの、日本で言うとサッカーのJヴィレッジ (福島県) のようなところでやっていました。ラグビーしかできないというか、グラウンドが宿舎の真横にあって、羊とか、牛しかいないような状況のなかで、自分たちのラグビーをどうするか、選手たちみんなの連帯感と言うんですか、そういうのをやりながら練習をしました。アタックでは、いきなりかなりレベルが高くなってですね、あっという間にトライができてしまったというような形で。これでは、選手たちが安心するな、という気がしてました。やはり、最初のゲーム (対ワンガヌイ代表) でもそこで安心してしまいまして、若手中心ながら初めて箕内キャプテン(拓郎NEC)のもとで臨んだんですが、最後の最後で粘れなくて負けてしまいました。その試合では、栗原選手がキックを担当しまして、全て決めてもらいました。それから、最終戦 (対ノースハーバーXV) に向けてまた調整して、メンバーを入れ替えて。そこはかなりオールブラックスのセブンズの代表とかのメンバーがいるところで、かなりハードなゲームになるだろうと思ってやったんですが、私たちがイメージしているようなラグビーをしてもらいまして、最終的に勝つことができました。徐々にチーム的にまとまりつつ、上に向いた状態で帰ってこられたという感じです。5 月19日のロシア戦については、そういうところをレベル・アップした速いラグビーを見せたいですね。
青島:栗原選手の合宿の印象というか、手ごたえというか。戻ってきてどうですか。
栗原:そうですねぇ。
青島:監督が隣にいるとやりにくいよね、選手としたら。
栗原:いやぁ。合宿は3週間弱あったんですけれども、練習はもちろん、試合も2試合あって、そのうち最初に1敗してしまったんですけれども、最終戦で勝利できたっていうのが、チームの雰囲気というか、日本代表というチームが盛り上がるきっかけになりました。もし2連敗していたら、ふさぎこんでしまったり、雰囲気が重くなったと思うんですが、チームの雰囲気が上向きになってきたので、それが良かったなと思っています。
青島:私もニュージーランドに行ったことありますけど、本当に何もないんですよね。ニュージーランドの人が聞いたら、怒られちゃうけど。スペース的に広々としているし、合宿を張るには最高の環境だと思います。4 月24日に出発して5 月11日まで、という長い合宿をそもそもニュージーランドで張るという監督の狙いはどこにあったんですか。
向井:やはりラグビー漬けにする、ということですね。選手たちは、周りにもう少し日本でいうコンビニがあると思っていたでしょうけど、全くないですから。
青島:全くないと言っても信じにくいですけど、本当に何もないんですよね。もう、真っ暗になっちゃいますからね。
向井:そうですね。

青島:という合宿について、これからまた、もう少し詳しくお話をうかがっていこうと思いますけれども。清純は、向井さんが監督に就任してから、同郷ということもあって、熱い眼差しを注いでいたと思うんですけれども、どんなふうにここまで見てますか。
二宮:そうですね。代表監督と言ったらね、トルシエ(フィリップ、サッカー日本代表監督)という名前は出ますけど。愛媛県人としてですね、向井さんの名前ももっと出していただきたいところなんですけど。実は愛媛県の代表監督というのは2人目なんですよ。会場の皆さんご存知ですか。
青島:全く反応ないですね。じゃあ、愛媛県出身の方、いらっしゃいますか……残念ながらいらっしゃいません。
二宮:サントリーにいらっしゃる山本監督(巌、元サントリー監督)も日本代表監督をされているんですよ。ということで2人目。大変名誉ある立場なんですよね。私がここで改めて申し上げるまでもなく、やっぱり平尾 (誠二、元日本代表監督、神戸製鋼ジェネラルマネージャー) ジャパンの成果はあったと思うんですよね。まあ前回のワールドカップは3戦全敗ということで。それで向井監督が切り札として就任。東芝府中の監督時代は「PからGOへ」という革命的なラグビーを提唱された。それをどう日本代表に生かすのか、というところから始まったわけですけれども。さっきちらっと「速いラグビー」とおっしゃいましたよね。この速さの質というんですかね。スピードだけの速さではなくて、シンキング・スピードを含めた速さということで、たぶん合宿では、そういう速さを追求するスキルアップが行われたんじゃないかと思うんですが。僕は合宿を見てないんで、そういったことを聞いてみたいと思います。
青島:そうですね。スピード&アタックということで、本当に大きいテーマになるんですが、個別にどうアプローチするのか。ニュージーランド合宿に限らず、前から狙いはあったわけですけれども、チーム作りをどのように進めている最中なのか伺えますか。
向井:平尾監督から私に代わって、なぜ日本は、なかなか世界との差が縮まらないのかということがありまして、一番最初にJISS(国立スポーツ科学センター)で、選手のチェックをしたんですね。選手個々のスピードとか筋力を。やはり、ここにいるファンの方々に認識してもらいたいのが、世界のレベルがここだとすると、日本はそれのだいぶ下です。まずこのレベルを、ある程度勝負ができるところまで高めていかないと、スピードだけで勝負するのでは世界に近づけません。そういう部分では、ある程度筋力を高めておいて、なおかつ、日本の言う横のスピード、縦のスピード、また、考えるスピード、体の切れのスピードを高める。今回2試合戦ったなかで、スピードでは必ずここが通用するというところがあるんで、また試してみたいと思います。そういうところを生かしながら、なおかつダメージをうまくよけていくことを考えていかないと。合宿の最終日に、「スーパー12」 (チーフスvsハリケーンズ) を見たんですけれども、センターのプレイヤーがほとんど105kg、ウイングのプレイヤーが95kg。栗原君がいるバックスがそういう感じです。日本はそれぞれ10kg劣ります。だけど、筋力の面で詰めるとこは詰めて、次に戦術的交代というのがありますから、それをうまく使いながら、80分間、ロスタイムを入れて90分間体をもたせる。さらには、最後のところでさらにレベルが上がる、攻撃のレベル・スピードが上がる、というチーム作りになっていけば、なんとかそこで勝負できるのではないかと思います。なぜもっと本質の、こうやってこうやって、というのを言わないかというと、全部しゃべると、韓国の偵察がいるかもしれませんし。大方の戦うポイントというのは決めましたけれども、栗原選手がステップがうまくて得意だったら、そこにボールを集めて、抜いてもらうとかですね。別の例を挙げれば。元木選手(由記雄、神戸製鋼)でしたらセンターで強いですから、ちょっとずらして、前にボールを持って行ってもらうとか。そういうところが、これからの組み合わせで、よりレベル・アップしていって日本らしいラグビーになっていくと思います。

青島:ラグビーに限らず、欧米の選手と戦う時にはどんなスポーツでも、フィジカル面でのアドバンテージ、日本人が持っているギャップというのをどのようにして埋めるのかというのが、あらゆるスポーツの一番大きなテーマになってくると思うんです。そこは、向井さんが監督就任した頃から口をすっぱくして言ってますけれども。フィジカル面での進歩というのは、現実のところいかがですか。
向井:その面では急激に変わる、ということはないと思うんですね。継続した指導をしていくしか。外国人のガリー・ワレスというコーチが来ましたけれども、フィットネスやストレングス、ウエイト・トレーニングのところとか、彼から科学的に要求されて、そこのところをやりこんだといいますか、やりこむ厳しさを知ったと思うんです。それを継続してやることによってレベルが上がってくる。それがこの合宿中に表れるか、終わりに表れるか、最後に来年、例えば栗原選手がもっと大きくなって強くなって速くなったとき表れるのか。継続することによって、そこが見えてくるのではないかと。すぐにはなかなか効果は表れないと私は思っています。
青島:栗原選手のプレイは大学時代から見させてもらっていますけど、今日久しぶりに会って一番私が驚くのは、体がすごくでかくなってますよね。大学時代がひ弱だったというんじゃないけど、まああの頃はあの頃としてね。よっぽど、社会人の合宿所の飯が良くて、慶応が悪かったのかと思うくらい、フィットネスが充実しているように映るんですが。それは代表としてプレイするようになって、自分でも意識してることなんですか。
栗原:そうですね。代表の方には、大学4年生の時に選んでいただいたんですけれども、そこで自分の体の小ささを痛感しました。大学レベルでも僕は太い方ではなかったんですけど、それでも代表に選んでいただいて、試合に出させていただいたときに、触られなければ抜けるんですが、片手でも触られると、止まってしまうというところで壁にぶつかったといいますか。体を大きくしなきゃいけないなと思って、一生懸命筋力トレーニングを練習のなかに取り入れるようにして、ちょっとずつ大きくなってきて。まだ発展途上なんですけど。
青島:大学時代は何kgでしたか。
栗原:74kgくらいですね。
青島:今は80kg台ありますよね。
栗原:81~82kgくらいですね。
青島:私は違う理由で、体重は言いたくないですけどね。現役を終えて進化し続ける体重というのは困るものがありますけどね。
会場:爆笑
青島:まあそこは戦術とは別に、推し進めていかなければならない分野だというのは、間違いないですよね。
向井:そうですね。
二宮:向井監督から継続性の話が出ましたけれども、結局そこだと思うんですよ。今まではね、言い方悪いけど、代表合宿って一夜漬け的だったんですよ。試験勉強1週間だけやろうみたいな。継続性っていうのはもっと長いスパンで見なければいけないものだと思うんです。この前、ガリー・ワレスと対談したんですよ。私がずっと前から疑問に思っていたことを、彼もまた、まさに同じようなことを聞いてきたんですよ。なぜ日本には、タレント・アイデンティフィケーション・プログラムがないのか? 出してくれって言ったら、ないって言われて彼はショックを受けたというんです。要するにパーソナル・データですね。子どもの頃、どういう指導を受けて、身体の発育状況はどうだったか、どういう故障歴があるのか。オーストラリアでは全ての選手が持っている。ヨーロッパへサッカーの取材に行った時、僕らはそれを「カルテ」と呼んでたんですが、コーチは全員のカルテを持っているんです。だから指導者が変わっても、「自分はこういうトレーニングをやってきた」というと、「じゃあ、君はこれを継続しなさい」となる。指導者はカルテを見て、その選手の適性を見分けて、個人に合ったメニューを考えるんですよ。日本の場合には、学校制度の問題を言うと長くなりますけど、ほとんど縦1本の指導プログラムがないんですよ。だから例えば、中学の時はこうです、高校に行ったらこうです、大学に行ったらこうしなさい、と言われるんです。個々は優秀なんですよ。優秀なんですけども、あまりにも指導者が今までのつながりを大事にしないというか。カルテがないから大事にできない。だからこの選手は伸びるなと思っても、途中で成長が止まってしまうことがあるんです。そこから変えていかなきゃいけないと思うんですよね。ここは向井さんに聞いてみたいんですけど。
向井:それはその通りです。私も今回の合宿で一番最初にウエリントンへ入った時、小さな子どもたちが芝生の上でタックルの練習をしているのを見たんです。コーチはきちっと教えていて、なおかつ抜かれても怒らない。ハンドリングをちっちゃい子どもたちが楽しそうにやっていて、落としても怒らない。「ここまでくればいいよいいよ」という感じで、タレントを発掘しながら段階を踏んでいる。5歳児、10歳児とかが徐々に、グラウンドのいろんな場所でやっている。そこでタレントを発掘して、適正を見てるんじゃないかと思ったんですけど。そういう段階と、環境ですよね、やっぱり。そのくらいの小さな子どもに日本で「タックルをしろ」と言ったら、タックルで相手を倒すというよりも、倒れて血が出ないようなタックルの仕方を考えるというか。そういうようなことを考えちゃう部分があると思いますね。そういうようなことを、二宮さんやガリーが言ったように、やっていけるようになれば、この人はこういうケガをしているから、ここを強化していってということになる。だからJISSで測ったっていうのも、そこが目的ですよね。選手1人1人のカルテを作ること。栗原選手に骨折歴があります、となったら、そっちはもともと弱いんだから、そこを強化するようなメニューを一つは取り入れておかなければいけない。こういうことによってケガを減らしてあげられると、選手との信頼関係が作れる。選手は100%のパフォーマンスをして、私たちはそのサポートをする。そうすればより高いレベルを持とうという気になってくるんじゃないですか。そういうことができてくると、理想に近づいていくんじゃないかと思いますね。
二宮:日本の社会全体の問題だと思うんですけど、病院に行って診断されるじゃないですか。外国で病院に行ったら、カルテって自分でもらえるじゃない。それでそれを持って次の病院に行く。もし日本でカルテくださいって言ったら、俺を信用しないのか、っていうことになっちゃうでしょ。そこから変えていかなきゃいけない問題なんですけど、そうすると時間がかかっちゃうんで、とりあえずスポーツ界ぐらいはね。そういうプログラムを作っていかないと、指導も付け焼刃で終わってしまうと思いますね。
青島:まあ私は、現役時代、ラグビーではなくて野球をやってました。日本で観るにしてもやるにしても最もポピュラーなスポーツとして野球は上位の方にいると思いますけど。その野球でも今の話のように、子どもの頃、野球選手になるにはどのように体を作っていったらいいのか、みんなの教科書になるような体作りのテキストがないですよね。サッカーは今熱心に取り組んでますけど。野球でもないわけで、それくらい盛んなスポーツでも、そういったフィジカルなことに対しての認識がないと言いますか、目を向けてこなかった。世界のスポーツのなかでは、ラグビーと言わず、あらゆるスポーツにおいて、そういうのがあったと思うんですね。ちょっと話題がそれるかもしれませんが、メジャーリーグにたくさんの日本の選手がチャレンジしています。技術的に言えば、高いレベルであることは間違いないんですけど、もう一つ言えるのは、例えばフィジカル的に、大魔神の佐々木(主浩、シアトル・マリナーズ)は190cm近いです。伊良部(秀輝、テキサス・レンジャーズ)もそのくらいあります。マック鈴木(鈴木誠、3Aロイヤルズ)もそうですね。実はほとんど180cm以上、190cm近くなんですよね、活躍している人は。技術もあるんですけど、向こうにチャレンジしている人で、一番小柄なのがイチロー(シアトル・マリナーズ)なんですけど、彼でも181、2cmあるんですよね。野茂君(英雄、ロサンゼルス・ドジャース)も185cmあります。吉井君(理人、モントリオール・エクスポズ)もそれ以上。何を言いたいかと言いますと、海外で活躍している人たちは、フィジカル面でも充実していなけりゃ無理だということです。そういうことをやらないと追いつけないというのはあると思いますね。
二宮:アイデンティフィケーション・プログラムが行き着いた先が、かつての東ドイツのやり方なんですよね。筋細胞取っちゃって、白筋とか赤筋とかまで調べて。お前は長距離向きだから長距離やれ、とかね。そこまでいくと、個人情報保護法違反じゃないけど、これは完全なやり過ぎじゃないですか。人権問題じゃないですか。それをオーストラリアやニュージーランドの場合、どこまでやるかっていうのが今議論の的なんだと。ここから先はプライバシーの侵害じゃないかとか、遺伝子まで調べるのは侵害だとか。日本はどこまでいってるんだというと、最初からないと(笑)。ここが問題なんですよね。
青島:フィジカル的な充実抜きには、日本代表の強化は考えられないということで、皆さんはもう一致する認識があると思うんですけど。それと同時に、技術的にチームの戦略といいますか、どういうふうなチームを作っていくか考えなければいけないですよね。
向井:そうですね。こっちがボールを持っているんだから、0.何秒、0.0何秒でもボールを持っている優位性があるんだから、相手がフッと息を抜いた瞬間に攻める、仕掛ける感覚で攻めたいんです。40秒から1分30秒の長さがありますけれども、その間のリ・スタートのところでそういう攻め方をしたい。要するに、相手ディフェンスで仕掛けられるよりも、アタックで仕掛ける。ディフェンスは逆に、相手からアタックされるよりも、ディフェンスで仕掛ける。どちらもアタックというか。そういう仕掛けをするようなラグビーをしたいというのは私の頭のなかにあります。今回の最後のゲームでは、速く仕掛けるというのができつつあった。なおかつ、後ろ3人、栗原選手のところのウイングとフルバックにはスピード・ランナーを揃えてますから、そこで勝負ができた。理想形になりつつあったということですね。そういうゲームをもっともっと速くやりたいですね。
青島:栗原選手、向井監督が打ち出しているスピード&アタックについて、選手の理解度というか、それは代表の皆さん、すでに共通した認識で取り組んでいるんですよね。
栗原:そうですね。細かい部分まで個人に浸透しているかはわからないですけど、徐々にチームの方針は浸透してると思いますね。
青島:スピードという面でキーになるのが栗原選手だと思うんですが。
栗原:そうですね。ウイングというポジションをやらせてもらってるんで。世界と比べても体格が一番近いのがウイングだと思ってますし。そこのスピードでトライをとっていかないと日本は勝てないんじゃないかと。責任のあるポジションをやらせてもらってることに、やりがいを感じてます。
青島:向井監督の栗原選手に対する要望、あるいはこれまでの評価というのはいかがですか。本人を前に、厳しい話かもしれませんが。
向井:そうですね。今回2試合出場したんですけれども、キックがいいときはランがあんまり。逆に、ランがいいときはキックがあんまりという感じで。まあバランスなのかもしれませんが、2つの重責を担っていて苦しい部分があるとは思うんですけれども、やっぱり一つ越えることによって、代表の核のウイングになれるんじゃないかと思ってます。越えるためにもう一つだけ彼に要望したいのは、「しっかり食べろ」、それだけです。
青島:簡単じゃないですか。食べるだけなら私は代表かもしれませんよ。
栗原:もともと食が細いので。ご飯を食べる量が、普通の、スポーツをされてない方と同じくらいというか。それでキツイ練習をするともうお腹いっぱいというか胸いっぱいというか。本当に胸やけとかして、練習よりもご飯をたくさん食べる方がつらい。
会場:爆笑
青島:確かにきつい練習をやれば、食べられないですよね。
栗原:そうですね。水とか練習中に飲んでしまうんですよ。練習が終わったらすぐにご飯なんで、水でお腹がいっぱいになっているんです。
向井:そこまで飲めという指導はしてないですよ。
青島:じゃあ、スキルの方は合宿とかいろいろあるけど、飯食う合宿は俺がするよ。
二宮:じゃあ俺は、ビール担当で。
会場:爆笑
二宮:栗原君はどっちかというと、自分でトライまで持っていかなくても、人を使うことが好きですよね。使われることも両方できるけど、ラストパスを出すのも好きでしょ。向井監督は「最後まで持っていけ、自分でトライとりにいけ」と言いますよね。このへんはですね、ちょっと意地悪な質問かもしれませんが、どう意思統一をされているんですか。
向井:持っていけって言っても、ディフェンスが2対1のケースになるときが、なかなかないんですよね、今は。それで、基本的にボールを継続していけばアタックのリ・スタートができますから。両ウイングとフルバックを含めた3人は、どこのポジションでも同じという形でね。走り切ったらトライを奪えますというところも持ち合わせてもらって。さらに、ボールを継続する力がないと、そこで取られると非常なピンチになりますから、そこも。スペースを見てどこでトライが奪えるかというジャッジでしょうから、ずっと走ったらタッチに出るというケースであれば、止まって内に入るというのがいいと思いますし。状況に応じたジャッジで動けば一番いいなと思います。
二宮:勝負する意識が大切だと。
向井:そうですね。常に前を見て勝負する。
栗原:代表の試合では、トライをする機会が少ないので、去年の時点で向井さんの「トライをとれ」というひと言が僕にとって刺激になったというか。やはり、トライしたいな、トライしなきゃいけないなと思うようになってるので、捕まったらすぐにパスする相手を探すんじゃなくて、タックルを振りほどいて1歩でも2歩でも前に出る気持ちが芽生えてきてるんで。そういう意味で、トライをしたいなって思います。
青島:そこはもう遠慮なく、ガンガンいってもらいたいですよね。
栗原:はい。つなぎがどうとかっていうのも、僕にとってトライができない逃げの言葉だったんですよね、ちょっと振り返ってみると。だから向井監督からウイングはトライが一番の仕事だと代表になった時に言われて、僕は本当にそうだなと思って。大畑(大介、神戸製鋼)さんは僕のなかでは、すごい最後まで行っちゃうウイングなので、自分に足りないのはそこじゃないかなと。僕なりに頑張ってますけど。
青島:なるほど。代表チームのスコッドには各ポジション、面白い名前が挙がってますが、競争が激しそうなところというとフォワード第3列、あるいはスタンド・オフ。向井監督はどういう選択をこれからしていくのかが注目なんですが、そのへんのメンバーの絞り込みはどうなんですか。こういう時にはこういうチーム、メンバーで、というビジョンはボチボチ見えてきてると思うんですけれども。
向井:頭のなかでは、最終メンバーというのは元々持ってますけど。スタンド・オフのミラー(アンドリュー、神戸製鋼所)選手については、治療がありまして出場させることができなかった。テストして見られなかったんですよね。あと2人のスタンド・オフについては、結果を出してくれましたし、特徴も見えたし、どっちがどういう時に、というのも見えてきました。8番というポジションについては、みんなこだわりがあって。それをどううまく6、7、8に組み合わせて日本として一番戦うスピードが出るかっていうのを考えます。最後にやったゲームについては、日本らしいボールの動きができたと思いますけれども。斉藤(祐也、サントリー)選手は途中帰国してしまいましたので、テストができなかったので、ちょっと不安な部分がなきにしもあらずですけれども。まあ、ある程度構想は立っていて、スタンド・オフにしても、後ろの3人のところにしても、スピードがキーワードというところですね。
青島:今日はメディアの方々もいらっしゃるので、あまり具体的には言えないところがありますよね。これ以上聞いてくれるな、という向井監督の横顔でしたけれども。
二宮:箕内選手が代表のキャプテンですよね。これはどういう判断ですか?
向井:彼は海外経験もありますし。日本代表に思いがなかったわけではなくて。マン・ツー・マンで話をしたら、「思いはあります」ということでした。NECでも若くしてキャプテンに選ばれて、やはりここは「自分が」というのが彼自身のなかにあったみたいです。1年やってみて、ある程度自分のチームにおけるパフォーマンスがわかって。私が頼みに行ったら、「ありがとうございます」ということでした。あとは海外経験もありますし、プレイも自分のやるべきことは必ずやるという。今まで日本代表のキャプテンを見てきましたけど、自分で体を張ってチームを引っ張る方が、ほかの選手はわかりやすい。前回のマコーミック選手(アンドリュー、元日本代表キャプテン、釜石シーウェイブRFC))もそうですけれども、やはり体を張って前に行くプレイヤーであると。そして、話をしたなかで勝ちたいという気持ちも一致しまして、彼を選んだということです。
二宮:髪の毛の色は自由なんですか(笑)
向井:髪の毛の色はですね……私が相当気にしていたみたいで、ことあるごとに「いい色だね」と言うと、プレッシャーかかっているみたいで。だんだん元の色に戻っていってますね。髪の毛の色とかで本末が一致するかというとそうではないかもしれませんが、統一感を持っていきたいなとは思ってます。まあ、グランド上でしっかりやってもらえれば、私はいいと思うんですが。
青島:ワールドカップのアジア予選は、6 月16日まずは韓国戦が国立競技場でスタートするということで、全てはそこに向かってのお話なんですが、もう一つ伺っておかなければならない大事なことはプロ契約。オープン化によって、今回のジャパンの選手の数多くがプロ的な契約を結んで代表スコッドとなって、ラグビーにフルタイムで取り組んでいるという状況があります。これは選手の意識がかなり変わって、代表にはいい方に作用しているのでしょうか。監督はどう受け止めていらっしゃいますか。
向井:そうですね。先程言ったように、2つのことは一緒にできないですよね。ストレングスとスピード系を一緒にやるとオーバー・ワークになってくるということがありますので。それを午前と午後に分けてきちんと練習できるというのはいいですね。今まではゲームがあると、終わった次の日に帰ったり、その日のうちに帰って、次の日は出社という形で、体のケアができなかった。それがゲームをやった次の日は、きちんとリカバーして、それからレストを取らせるということができるようになりましたから。それを今までやってなかったかというと、やっていた人はやっていたと思うんですよ。ただ朝会社に行くと時間がありませんから。体のメンテに力を注いで、なおかつストレングスとスピードを分けてトレーニングできる。非常に良くなっていて、選手の意識も高くなっていると思います。私だけかもしれませんので、選手に聞いていただけるとよくわかると思います。
青島:栗原選手も協会と契約をしていますが、どうですか。今は全く会社に行かずにフルタイム、代表のスケジュールで動いてるんですよね。
栗原:会社に勤めるのがいい悪いじゃないんですけれども。サントリーの場合は、今の時期は5時半まで仕事をして、7時から練習、その後でウエイト・トレーニングなどをしますと、夜の12時くらいに家に着く毎日なんです。去年僕はプロ契約をしなかったんで、空いた時間は会社に行ってたんですけれども、日曜日に試合となりますと、月曜日出社して、また火曜日の午前中に集合となって。合宿に入ったら入ったで練習がありますし、1ヶ月に休みが何回あったかって言ったら、やっぱり少なかったんです。例えば、明日は月曜日なんですけれども、会社には行かずにトレーニングをできるんで。そういう意味では、たった5ヵ月なんですけれども、体を大きくできるチャンスだなと思います。後悔しないように、この5ヵ月を過ごしたいと思っています。
青島:それから監督、インセンティブで、例えばその活躍に応じてボーナス給が発生したりするわけですよね。
向井:そうですね。それはあまり監督が立ち入るところは少ないんですけれども。MVPのプレイヤーには、上乗せがあります。でもそれよりも、やはり基本的に選手はラグビーが好きだからやっていると思うんですよね。好きじゃないと続かない。好きなことに打ち込める時間が増えたということでは、選手は非常に目を輝かせてますし、なおかつやったことに対して報酬があるというので、ターゲットのレベルが上がってきていますよね。
青島:やっぱり清純、世界を目指すのであれば、評価っていうのは当たり前ですよね。
二宮:そうですよね。僕も2年ぐらい前に協会と幹部の方たちとプロ化の件でお話させてもらいました。今までのアマチュア・スポーツというのはね、お金をもらうのを汚いという意識があったと思うんですよね。僕は正当な報酬だという考え方なんですけど。アマチュアリズムって非常に言葉はきれいなんですけれども、実際にはコミュニズムに近い共産主義的なところがありまして(笑)。どこか無垢なもの、ピュアなものっていうのは、お金をもらっちゃいけないという観念があったと思うんですよ。ところがIOCも変わりましてね。例えば、IOCは昔はアマチュア規定というのがあったんですが、今はなくなりました。正当な報酬はもらっていいと。問題なのは、ガラス張りにして、不正が行われていないかをチェックすることなんです。プロとアマの違いは何かと言うと、僕はマーケットが決める問題だと思うんですよね。例えばマラドーナ(元アルゼンチン代表サッカー選手)というサッカー選手がいます。彼がもしアマでやりたいって言っても、人が集まってきてしまえば、産業になってしまうんですよ。ということは、マラドーナがアマかプロかを決めるのはマーケットなんですよ。そこは、第三者つまり、市場に委ねてもいいんじゃないかという考え方ですね。サッカーでもありました。1980年台後半にプロ化の会議に僕も出席しましたが、やっぱりアマチュアリズムが壊れるという抵抗があったわけですよ。今流行の言葉で抵抗勢力といいますか。私は川淵(三郎、Jリーグチェアマン)さんと話をしましてね、こうしないと強くならないと。それから、ただ強くなるだけだったら競技団体が良ければいいっていうことになっちゃうんで、やはり地域に貢献する、国に貢献するということが大事で、2番目に代表の強化ということだったんですね。そうやって構造から変えていくべきだろうと。カネはもらっていないが、気持ちはプロだといくら言っても、それは現実的ではない。僕らだってタダだったら、余程のケースを除いては原稿書きませんよ。
青島:監督、細かいところではいろいろな要望があると思うんですが、こういう選手の契約環境ができて、かなり代表のチーム作りやプレイという意味では充実した環境が整ってきていますか。
向井:そうですね。今は36、37人という形で、1つのプレイをやるときに全員が一緒に動かないとダメなんです。そこにまた別の選手が入ってくると、また同じことを繰り返さな
ければならなくなる。試合に出場する22名はまだ決まっていませんから、全員で動いている状態でして。選手の頭のなかやトレーニングもこちらに合わせてやってもらって、逆に言うと、その部分ではこちらもプロフェッショナルにやっています。選手たちだけ上っていって、スタッフはそのままということにならないように、バランスをとっていかなければと感じています。
青島:ちょっと会場の雰囲気がですね……私がやるとどうも固くなっちゃうんですよね。こうなってくると、柔らかくいきたいなと思いますんで。もちろんこの後予選に向けて、本大会に向けて、向井監督にじっくり聞こうと思いますが。ちょっと肩の力を抜いていただきまして、ブレイクということで。私は、どうしてだかわからないんですが、よくラグビーをやってたでしょって間違えられることが多いんですよね。
二宮:それは侮辱だねえ(笑)。
青島:ええっ。
二宮:侮辱だねって言うのはさ、プロ野球までやったのにってこと。ホームランも打ってたよね。
青島:そこらじゅうで言ってるんだけど、私はヤクルト・スワローズじゃなくて「ベンチに座ろーず」だったもんですから。
二宮:30回くらい聞いたよ。
青島:はい。それで、そういう方にはさらに言うんですよ。「ラグビーやってました。ポジション的にはフランカー、最近ロックが多いですけどね」って。
二宮:水割りのロックじゃないの。
青島:当たってますね。野球選手の時は監督、コーチにもっとバット「振らんか」と。引退してからはですね、焼酎やウイスキーはロックで飲むんでね、「ロックやってます」という形なもんで。
会場:爆笑
青島:良かった、盛り上がってきて。これでまた寒くなったらどうしようかと思いましたけど。ちょっと堅い話が続きましたので、ラグビーとの出会いとか、日常どんなふうに過ごされているのか、気分転換は何なんでしょうかとか聞きながら、最後もう一度核心に迫って、予選をどう戦うか、そして本大会への意気込みを伺って、質問コーナーにいこうと思います。というわけで、栗原選手は聞くところによると、ラグビー選手じゃなくて、建築家になりたかったと先程情報が入りまして。
栗原:そうですね。中高一貫の学校(清真学園)に行ってたんですけれども、みんな受験勉強をして大学に行くような学校で。僕も将来を考えなければいけない時期にきた時に、家とか建物とかに興味がありまして、建築家とかになれればいいなと思って、建築学科の受験を考えていたんです。
青島:私と意見が合いますね。私が小学校3年生の時の作文に「大工さんになりたい。自分が住むでっかい家を自分で建てたい」と書いていまして。
栗原:僕も、実家の家の造りが好きじゃないんですよ。どうしたらこういうふうになるんだろうって、父親に聞いてみたいんですけど。土地のわりに造りが悪くて。僕だったら、こういう設計にするのになって昔から思ってたんです。マイホームって言うんですかね、そういうのを自分の設計で建てたいと最初に思ったのが、きっかけでした。
青島:それじゃあ、ずっと理系?
栗原:そうなんです。もともと数学とか物理と全然できなかったんですけど、建築家になるためには、そういうのが必要だと先生に言われまして。本当は文科系の科目が得意だったんですけれども、理系に切り換えたんです。
青島:今も友だちのマンションに行った時、インテリアが気に入らないなとか。
栗原:そこまではないです。
青島:庭のレイアウトがよくないなとか、思ったりしないんですか。
栗原:人の家とか、お店でもそうなんですけど、きれいだなって思います。見るの好きなんです。
二宮:へえ。謎がちょっと解けたね。彼のプレイって立体的だもの。
青島:ですね。
二宮:やっぱり、構築してるもの。建築家の才能が出てる。
青島:空間をどう使うかというね。
二宮:空間プロデューサーだよ。
青島:やっぱり話は一度外れてみるもんだよね。思わぬことが出てくるからね。大事ですね。反省します。今度からは柔らかい話ばかりしましょう。まさに自分が持ってる目の前の空間をね、どういうふうにレイアウトするかというのは通常ありますよね。
栗原:どうですかね。
青島:バックスは広いじゃないですか。走るスペースが。
栗原:はい。
青島:向井さんもバックスですね。何か感じるところありますか。
向井:自分はおじいさんが大工さんでしたけど、そういうセンスはないみたいですね。
二宮:でもラグビーにしてもサッカーにしても、結局はスペースをどのようにイメージして、組み立てていくかというのがゲーム感覚で、すごく大事なんですよね。だから今みたいな、栗原君が話したような感覚を持ってない選手は、イノシシみたいにバーンと行くだけみたいなね。
栗原:そうですね。そんな角度で褒められるとは思っていませんでした。
青島:今はどうなんですか。そのへんはまだ考えながら?
栗原:そうですね。希望としては、ラグビーが終わってから建築家になれたら素晴らしい人生だなとは思います。いかんせん、勉強とか自分でやっていくのはちょっと難しいんで。なかなか意志が弱いというか。
青島:空いてる時間に、建築雑誌とか見ているんですか。
栗原:まあ、建物がよく載っている雑誌とか、ホテルでもいいんですけど、リゾート地とか、きれいなものが好きなんですね。建築雑誌というのは見ないですけど。
青島:普段の練習の合間とか、プライベートな時間があったら、どんなふうに過ごすとリラックスしますか。
栗原:そうですね。自分に対していつも疲れているイメージがあるんですよ。だから、自分を癒すことを考えていて。好きな音楽をCD屋さんで買って、お風呂に入りながら聞くとか。そんな程度ですね、普段は。
二宮:彼ね、喘息なんだよね。僕も小児喘息だったんだけど。喘息ってね、本当にしんどいのよ。呼吸が止まるから、仮死状態になっちゃうの、大げさだけれども。だから内面と対話するらしいですよ。それでプレイがだんだん芸術的になっていく。芸術家の人って、喘息の人、本当に多いんですよ。栗原君はアーティスティックでしょ、プレイが?
青島:喘息だったら良かった。
二宮:健ちゃんはどう見ても健康そうだよね。

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