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青島:向井監督は、ラグビーをいくつぐらいから始めたんですか。 向井:ラグビーは高校からですね。 青島:その前は? 向井:その前はバレーボールをやってました。 青島:また、立体的になってきましたねえ、話が。 二宮:向井さんのね、新田高校時代の話ってメチャ面白いの。同じ愛媛県だからよく聞いたけど、怖いよー新田高校。町を歩いてて、新田高校の制服が通ったらすぐ陰に隠れんの。 青島:そんなにガラが悪かったんですか。 向井:いやいやそんなことは……ないこともないですけど。 会場:爆笑 二宮:新田高校ラグビー物語ってすごいんですよ。向井さんなんてね、しょっちゅうカエルを食べさせられたんだから。 向井:いや、私じゃないですよ。 青島:フランス料理だったら高級食材じゃないですか。 向井:いやいやそういうんじゃなくって。私が1年生の時に雨が降りまして。新田高校のグランドというのは、海が近いもんですから、春になるとダンプカー3台分ぐらいの砂が入ってくるんですよね。そこで練習するんですけど、あんまり3年生が走らないんで、先生がカエルを捕まえてこいと言うんです。僕が捕まえてきたんですけど、何をやるのかなと思ったら、先生がパッと殴って仮死状態にするんですよね。それで3年生を呼んで、「これを食べるとジャンプできるから食べろ」て。私が持ってきたのがすごく大きかったもんですから、後で3年生に殴られまして。あんなの食えるわけねえだろって。 二宮:実際、ジャンプ力は多少ついたの? 向井:いやあ、つかないでしょう。 青島:生で? 向井:生ですね。私もびっくりしましたけど。私の時は、なかったです。 青島:さすが伝統校ですね。 二宮:そういうところでずっとやって我慢してたら、根性つきますよ。新田高校といえば、名選手をたくさん輩出してますよね。指導者も向井さんをはじめ、山本監督も木本監督(建治、元早稲田大学監督)も。そうそうたるメンバーがカエルによって鍛えられた(笑)。 青島:真似しないでくださいね。でも、カエルを食べながら向井さんは……。 向井:まあ、私は栗原君みたいに才能がなくて、高校時代は走るのも遅くて。それで大学に行って、先程二宮さんが言ったように、ウエイト・トレーニングをやれば腕の振りが速くなって足が速くなるというような情報をいろいろ集めまして。体育会系のところにいきましたから、自分でやることによって、スピードも変わってきたんです。だから高校で教わったのはメンタル面で、大学で技術面というか、テクニック面を教わったことによって、徐々に自分が変わっていくのが感じられました。そんな状況のなか、たまたま東芝府中に入れたんですね。なおかつそこで、いろいろなやり方を学んで、コーチに教えていただいて。だからずっと勉強しているというイメージですね。 二宮:向井さんの負けず嫌いエピソードというのはすごくたくさんありまして、スクラムハーフの村田選手(亙、元東芝府中、ヤマハ発動機)から聞いたんですけれでも、「向井さんほど負けず嫌いの人はいない。会社の昼休みにバドミントンをやると、すごい真剣にやって絶対に負けない。遊びじゃない」って。この前、向井さんに聞いたら、新田高校の体育の授業でバドミントンをやっていたっていうんですよね。だから最初から村田選手よりもアドバンテージがあった。 向井:前に一度村田選手が昼休みに挑戦しに来た時、ケガをさせまして。 二宮:バドミントンでどうやってケガさせたんですか? 向井:私が右に左に羽根をさばくと、村田が一生懸命走るわけですよ。ちょっと羽根を前に落とした時にスリップして、前のめりに倒れましてケガを。こういうことをやっちゃいけないなあと思いました。昼休みのたった20分に、真剣にやってしまいましたから。 二宮:村田が言ってました。「あんな大人気ない人はいない。遊びじゃない」って。 青島:だいたい浮くタイプですよね、そういうタイプ。なんでも本気になるという。 二宮:人間関係は? 向井:人間関係は……村田も私には、「ちょっとフランスに遊びに行ってきます」と言って、帰ってきたら「辞めます」ですから。ああそういうことかと。 二宮:バドミントンの恨み? 向井:気が合うところはありましたよ。彼は私以上に負けず嫌いかもしれませんけど。 二宮:東芝府中時代、他の選手が言ってたんですけど、向井さんと村田選手がいつも言い争っていたと。ある意味、イエスマン的じゃない選手、チームの和を乱すとかじゃなくて、そういう選手の存在が必要だったと思うんですよね。代表には、そういう選手はいますか。 向井:かなりいますよ。 二宮:頼もしいですね。
| 向井:コンバインド・チームですから、やっぱり自分たちが居心地がいいところが、監督にとっても居心地がいいという。不十分だったり、いろんな合わないことがあって、それをどう調整するかというのは、試合がうまくいけばいいわけですから、そのなかの過程についてはいろいろと出し合って話をしてケンカして。こうやれば勝てるよということでまとまっていけばいいと思っています。最初からこうやりましょう、ハイハイハイと言ったところには、たぶん間違いが非常に多いんじゃないのかなって。それに、ケンカしているうちに、ここは私が我慢しなきゃいけない、ここは……というのがわかって、丸くなって、チームになっていくと思いますから。言ってくれるのは、私たちにとってはありがたいと考えます。なおかつ芯は持っていたいですね。言われたからそれに従って右に行きましょう、左に行きましょうではなくて、ある程度芯を持って、選手ならびにコーチの意見も聞く。そこのところがずれたら、こういうふうにいきます、そこは曲げません、というのを私自身がジャッジして言えば。徐々に輪になったチームになっていくと私は信じています。そういう意見があるというのは、自分にとってプラスだと思っていますから。 二宮:向井さんのイメージって、失礼ながら頑固というイメージなんですね。ビールのCMなんかそういう感じでしたけど。向井さんを指導者としてずっと見させてもらっていて、非常に印象に残る言葉がありまして。東芝府中の監督1年目の時にですね、向井さんはフルバック出身ですから、フォワードの選手の練習を見に行ったら、反町(光一)選手が、「どうせあんたわからないでしょ」って。「バックスの人間がフォワードを見てもわかんないでしょ」って。そうしたら、向井さんは「そうだね」って言って、半年間口きかなかったんですよね。半年間じっと我慢してフォワードの練習を見ていた。普通指導者だったら、口出ししたくなるじゃないですか。それが半年間何も言わなかったというんですから。この半年の静観というか、忍耐というか、ここに指導者の原点があるんじゃないかという気がしてるんですよね。 青島:いかがですか。 向井:いやあ、あの時は非常に苦しかったですよ。やっぱり、「全然やったことがない人が」ってことになりますから。フォワードの1番・2番・3番というところは、それぞれ自分たちの世界があってですね。昔から言われているのは、「試合に負けたけど、スクラムは負けなかった」。こういうことをよく言われてるんですね。でも試合に負けたら負けでしょって思うんですけど、「いや、負けてません。絶対に勝ってます。だから私を代えないでください」っていうようなことを言うんです。でも、チームワークっていうのは15人で仕事してるんです。そのなかで、誰がトライしたかの問題じゃなくて、「そこでボールをきちっと出せたからトライが生まれた」と言えるようにするために私が知らないと。「あそこで我慢してくれたからトライが生まれた」ということを、ミーティングのなかでも、何回か使ったことがあります。そのことによってプロップの選手たちは、俺たちも見てくれてるんだからわかってるんだなって。信頼関係ができて、逆に彼らから、半年間終わった時に言われた一言が、「今のスクラム高かったですか、低かったですか」と聞かれたんですよ。それは半年も見ればわかりますから、「高かったんじゃない?」って。それからですよね、その選手が話をしてくれるようになったのは。そこに行っても、じゃあリードしてくださいって。それ以降、変わってきたってことですね。 二宮:ラグビーって、東芝府中にしても、新日鉄釜石にしても、NECにしてもね。結局、生産部門は生産部門でプライドがあって、流通部門は流通部門でプライドがあるわけですよ。生産部門がFWなら流通部門はバックス。それがそのまま移行してきた歴史っていうのがあると思うんですよね。だから向井さんが今おっしゃったように、フォワードは「負けてない」とかね。でもゲームとしては負けてる。やっぱり意識改革というか、当たり前のことなんだけれども、それは大変だったと思いますね。 青島:特に代表チームになるとね、それぞれのチームから来て、短期間で離れていってしまう。選手とどうコミュニケーションをとるかというのは、重要な部分ですけどね。 向井:そうですね。あまり選手と近づきすぎると。じゃあ、大畑選手と栗原選手、14番のポジションをどっちに決めますかという時に、やっぱり周りは見てるわけですよ。あの人といつもしゃべっているから、あの人になるんじゃないかなって。自分をマイナスの見方をするんですよね、みんなは。それを避けるためには、プレイについては会話はしますけど、それ以外のところについては割り切って。そりゃ、一番楽しいですよ、選手とファミリー的にやっていけば。でも最後は、監督として選手をどう使うかというジャッジをしなければならないので、そこは近寄らず、ある程度コミュニケーションをとりますけれども、友だちにはならない。 二宮:バドミントン友だちですか。 向井:そうですね。 青島:さて、ニュージーランドの合宿を終えて帰ってきた日本代表ですけれども、壮行試合としてロシア戦、トンガ戦(5 月26日)が予定されています。そして、アジア予選になりますけれども、日本ではサッカーのワールドカップが開催されている真っ只中に、6 月16日国立競技場で韓国戦。いよいよ日本代表が予選突破に向けて動き出しますが、今日いらした方々から、そのあたりについての質問を多数いただいております。ちょっと名前は申し上げない方がいいですね。千葉県のIさん、女性の方です。「韓国戦について、向井監督が考えていることを少しでも聞かせていただければ」というアンケートをいただいております。次は同じく千葉県・我孫子の方、女性です。「ワールドカップは出場すると思っていますが、本大会の成績の目標はどのくらいですか」ということですね。ほかにもたくさんありますので、そのへんを伺っていこうと思いますが。ではまず、ロシアとトンガの壮行試合を経て、6 月16日までにどんなふうにもっていくかというところなんですけれども。 向井:そうですね、ロシア戦、トンガ戦では、今回の合宿でやってきたことを試すというか、きちんとできるかどうかをやってみて、韓国についてはそのなかのメンバーでベストな状態のプレイヤーを使っていきたいと思っています。「PからGOへ」というのがありますが、世界でもそれは当然のことで、ほとんどどこの国もやり始めています。日本の速さという部分では、1つ考えているのが、外国のゲームを見られた方はよくご存知かもしれませんが。サントリーが一昨年、当たってボールを出して、当たってボールを出してということを続けていましたが、結局あれでは外国チーム相手では最後にはボールを奪われてしまう。そこが身体能力というか、体の大きさの部分でのパワーの差というか。打ち合いが続いて、日本が疲れたときにボールを取られるということがありますから、早い段階でトライを奪わなければいけない。相手を集めて、速くボールを回さなければいけないというのはありますね。それを今考えて、徐々に構築してきてます。韓国については、相手の情報が少しは入っていますけど。やはり私も経験がありますが、日本でやる時は全くチームが変わってくるんです。前回偵察に行って観たんですけれども、あのゲームを観ると、たぶん弱いと選手は思ってしまうんですね。それを観せるとダメだと思いますから、そういう部分を抜き取ったことを選手にリリースしようと思いますけれども。やっぱりそこのところで韓国戦については、日本と韓国の人口の差とか、コーチの入ってきた度合いとかを考えると、大差で勝たないと私自身も納得しませんし、選手もやっぱり納得しないと思う。なおかつ、ここにいらっしゃってる皆さんも、納得しないと思います。やっぱり結果はきちんと出すことは必要だと思ってます。ただ韓国については、特別なことをするのではなくて、普通のプレイを普通に、なおかつ速くというテーマを頭のなかに入れて、あと3試合やって、韓国では完璧に、パーフェクトな勝ち方をしたいと思っています。 青島:ロシア、トンガとの壮行試合に関しては、そこである程度最終的な選手の見極めをするレベルの試合になるわけですよね。 向井:そうですね。 青島:そこで、スコッドに入っていますけど、栗原選手も確かなアピールを、ということになると思いますが。 栗原:そうですね。ロシア、トンガも含めてなんですけど、韓国戦に一番選手は出たいと思っていると思います。その前のロシア、トンガの試合でチャンスを与えられると思うんですけど、みんな必死にアピールすることはわかりきっていることなんで、僕もそのなかでうまくアピールできて、韓国戦に出場できればな、と思っています。 青島:それにしても、6 月16日に日本でアジアの予選っていうのは、清純、すごいスケジュールだよね。 二宮:どういう意味よ。それにしても、向井さんもおっしゃったけど、韓国は日本と戦うと、こちらが思っている以上の力を出してくるんだよね。7月14日は日本にとってはアウェイゲームですよね。僕たちが多少危惧するのは、韓国は、僕はオリンピックからサッカーのワールドカップ予選、50回以上取材してますけど、何もなかったことってないんですよね。卑近な例を挙げるとすれば、ある柔道のチームがですね、パーティーで焼肉を食べたらみんなお腹をこわしたとか。ホテルに泊まったら、隣の部屋で宴会をやっていて眠れなかったとか。ボクシングのタイトルマッチの時にはですね、タクシーに乗って行ったら、5時間ぐらいグルグル回されたとか。アウェイ特有の、なければいいんですけれども、そういうことを予測しておいた方がいいですよね。もちろん協会全体がバックアップするとは思うんですが。あまり神経質になり過ぎるのもよくないんですが、彼らがなぜそうやって一生懸命になるかというと、兵役の免除とか、今はそれ程じゃないけれども、オリンピックとかアジア大会で勝つと、たくさんお金がもらえたんですよ。モチベーションが違うんです。それで、今まで楽勝だと思っていた試合がことごとくアウェイではやられてるということがあってですね。今は手の内を見せられないでしょうけれども、そのへんの指導の仕方といいますか。それも楽しみにしています。 青島:この間の新聞にも、サッカーのワールドカップで韓国は決勝トーナメントに進出したら、兵役を免除したらどうかという話が出ていると載っていましたしね。 二宮:あまり言いたくないですけど、例えば1988年のソウルオリンピックの時に、ボクシングで圧倒的に負けてる試合で勝った。審判の買収があったわけですよ。そこまで心配しなくちゃならない。 青島:国立競技場でもありますが、アウェイではもっとあるということで、監督はいかがですか。 向井:二宮さんが言われたような対策も少しは考えています。私は、自分の体で痛みを覚えています。バンコクでアジア大会(1986年第10回アジア大会)をした時にですね、決勝戦が韓国とだったんですが。相手のドロップゴールが、レフリーは「入った」、観客は「入ってない」。入ってないんですけど、ギリギリ入ったというコールで負けたんです。得点される前に、私がラストパスをして、つないで、最後40分くらいまで勝ってたんですけど。パスして振り返ったとたんに、タックルをくらいまして、アゴが折れました。あの時もやはり、最後まで気を抜くなと。勝つまで、ノーサイドの笛が鳴るまで、諦めないというのが勝負の鉄則だというのを自分で体感していますから。そういう部分では、それを選手に伝えていきたいと思います。私の感覚では、韓国チームは疲れてはくるんですけど、ボールがくるとまた、狼になるんですよね。そういう激しさと、ボールへの執着心がありますから。そういうのを押さえ込むというか、気力を失くしてしまうくらい初戦にかけてますね。叩いて、叩いて、叩きたいなと思ってます。それをできるように、今頑張っているところですね。 青島:やはりワールドカップですから、我々は日本に本大会に行ってもらって、いい成績を収めてほしいと思っていますけれども。戦う相手のチームにも、同じ事情が、背景があるわけで、格下だと思われる相手でも、本当に最後に何があるかわからないですから。最後まで戦い抜くということが、勝負の鉄則ですので、今、監督の方からも、力を抜くことなく戦いたいというお話が出ました。それでは、そろそろ皆さんの方から向井監督、栗原選手にぜひ聞きたいということがあれば、質問していただくという形にしたいと思います。女性の方もたくさんいらっしゃいます。私のホストで、なかなか質問が足りなくて、不十分な部分もたくさんあると思いますので、皆さんからぜひ、これを聞きたいというところを聞いていただきたいと思います。いかがでしょうか。 客:トンガ戦、ロシア戦、韓国戦、全部行こうと思っています。頑張ってください。向井監督にお聞きしたいことがあるんですけれが、前回のワールドカップでは残念ながら日本は3戦全敗でした。その敗因を総括されて、今回の予選、本選へ向けての計画を立てられていると思うんですが、実際そのあたりをどう思っていらっしゃるのか。例えば、平尾前監督といろいろ話をされて何か継続策を出したのかというあたりを、ぜひ教えてください。 向井:平尾監督とは話をして、チーム分析のところについては継続して残した方がいいし、身体的な面の差というのがありますということを受け継いだんですけれども。前回3敗しましたが、私が思うに、平尾監督の評価が最も良かったんじゃないかと思われるのが、その前のパシフィックリム。日本は速いラグビーをやってたんですね。村田・岩渕健輔(サラセンズ)のハーフ団で。あれは速いラグビーで優勝をとったと思うんです。それが、ワールドカップの直前に、世界的な外国人プレイヤー(ジェミー・ジョセフ/サニックス、元オールブラックス。グレアム・バショップ/サニックス、元オールブラックス)が入ってきました。それを私は悪いとは思ってないです、一切。でもやはり、日本の速さの部分を強調するんであれば、どうかな? というところですよね。私自身の考えですと。最後のところでは、世界ナンバー1と言われるプレイヤーたちに対して遠慮があったのかなと。わかりませんけどね。でも日本流というのを考えると、どっちが良かったのかなというのを少し考えました。そのなかで、今私が考えているのが、速いラグビーですよね。ボール出しのタイミングなんていうのは、海外にはないタイミングですし、仕掛けられるところがありましたから。それは昔からあったんですよね。それは日本の特徴と言われるところだから、それを生かしたい。なおかつ私の外国人観というのは違ってまして、外国人の選手は、ジャパンの助っ人であると思っています。チームのなかに入って、一番いい、全ての面で優れた選手を選ぶようにと。なおかつ「日本はこういうラグビーをしますよ、できますか」と。そこで「できない」となれば替えるしかないですよね。日本のラグビーの柱があって、それに合わせられるかというので私は選んだというところがあって。日本流は最後まで通します。キャッチ・フレーズじゃないですけど、スピード&アタックってありますけど、日本のイメージ的に言うと、どうなんですかねえ、忍者のように何をやるかわからない、というような仕掛けができるようにと考えています。平尾監督から引き継いだものもあります。それは継承して、なおかつ先程二宮さんが言われたんですが、コーチング・プログラムもきちんと作っていければ、次の人に渡したときに、こういうことをやってきたのか、じゃあ次はこういう段階にきているから、ここを上げていけばいいなと。段階を踏んでいけばいいと思うんですね。今までは監督が変われれば、変われば、変われば……でしたけど、日本協会自体が継続したものを考えないと。2007年というのが、ターゲットに挙げられていますけれども、段階を経ていきたいですね。皆さんの期待通りオールブラックスとやったら勝ちますよ、ということはなかなかないんで。 二宮:いい質問が出たんでちょっと補足したいんだけれども、スピードと日本人らしさというのは、向井ジャパンのキーワードだけれども、スピードというものの捉え方が、僕の考えなんですけど、単にストップ・ウォッチで計る速さではなくて、まさに日本人の速さというのは、間とか、緩急とかであって、要するに時計的に速いんではなく、どうやって速く見せるかということだと思うんですよね。ただ速いだけなら、外国のラグビーも速いですよ。外国のスクラムハーフも、でかくて速いんですよね。即物的な速さではなくて、まさに日本のワビ・サビ的な速さといいますか。そういうスピードで計時されない速さといいますか。これをどのように表現されるんでしょうか。具体的な質問なんですけど。 青島:キレということですね。 向井:それは、栗原選手なんかも横に動くスピードというのは、外国人選手が持っていないものを持っていますし、大畑選手であれば、加速のスピードを持ってます。村田選手であれば、間合いでもって抜くという。だから、スパンと抜けるようなトライも必要だし、ちょっとずらすという感覚も必要だし。それをどう組み合わせるかというところだと思うんですよね。 二宮:日本人独特の間というか。大げさに言えば、日本人独特の時空間の感覚というか。それが表現できたときに、向井ジャパンというのは新しいものを構築できるんじゃないかなと期待しています。 向井:触られないで前に行く方法というのは、1つしかないです。キック。裏に出るという間合いの使い方というのは、日本人はすごくうまいんで。裏に転がすキックというのは、1つの武器だと思います。 二宮:サッカーのスルーパスみたいな。 向井:そうですね。 青島:ということで、よろしいでしょうか。他にございますか。 客:ラグビーの構造的なことだと思いますが、日本代表が特に外国の強いチームと試合をする時、トライする時はものすごく苦労して苦労して、一生懸命パス回して走って、本当にきれいなトライをとるんですけれども、とられるときはあっという間で。ものすごくかわいそうだなって気がします。構造的に、特に強いチームと試合する時に、なんとかならないもんなんでしょうか。 向井:80分間のゲームであれば、キックをしてですね、アウト・オブ・バーンでボールを出して、時間を稼ぐという方法もあります。だけど得点を取らないと勝てませんから、仕掛けている時間が長ければ長いほど、私は勝てると思うんですね。大きな相手に抜かれないためには、ストレングスの質をできるだけ上げておかなきゃならない、確実にタックルの能力を上げなきゃいけない、というのがまず1つあると思うんです。それから競った試合をするためには、時間をうまく使って、キックでボールをデッドにして、その間時間を稼ぐということも考えていかなければいけないと思います。基本的に皆さんが見られるシーンというのは、攻めて、攻めて、攻めて、とった! で、ホッとしたときにボールを取られるところだと思うんですけど。攻めて、攻めて、攻めて、もう一度リ・スタートになってからも攻めるというモードを作らないと。ホッとするのはトライして戻る時だけ。ゴールキックの間の時間がありますから。ホッとしてもすぐに戦闘モードに戻るということが必要ですね。攻めた次のところでボールを奪われて、薄いところでトライされるというのが、日本で一番多いパターンです。そこをケアして、そういったシーンを失くすことができれば、外国との差は縮まるのではないかと。それからもう一つ、ニュージーランドで現地の方に聞いたんですけれども、ニュージーランドでもこういうことが起きています。アイランダーと呼ばれる方がいます。トンガとかサモア出身の選手なんですが、彼らと、白人の高校生から18、19歳の選手とはラグビーをやらせられないということで、白人の子どもたちはサッカーに移行していって、ラグビーの人口が減っているそうです。本当に向こうで考えられているのが、柔道じゃないですけれども階級制、体重別でやるということです。アイランダーと白人の子どもたちが少しずつ離れているんです。白人の子どもたちがアイランダーとやるとケガをするんで、それがやっぱり深刻な問題になっているようですけれども。そういうようなこともあって、まずストレングスのところは、より近づけて、勝負できるようなところまで持っていかないとですね。今おっしゃられたように、軽く攻め抜かれるんであれば、近づけていって、対等に戦えるところまで持っていきたいというのはありますね。それができるように、徐々に頑張っているというところです。 青島:実際にゲームを戦っている栗原選手に伺ってみましょう。 栗原:試合を見ていただければ分かると思うんですけれども、外国の強い選手が突進してきた場合に、日本選手だと1人では止めきれない部分があるんで、2人、3人使っていく。そうすると15対15のスポーツなので、どうしても数的優位がドンドン生まれてくるんですよね。そこで向井さんも言いました、ストレングス、強さの部分で日本がトライする時はすごく苦労して、トライされる時はあっさりというのがあります。ある意味、仕方がないと思っているんですけれども。でも、日本が外国のチームに勝つこともあるので、そういう試合で共通しているのは、同じような状況で勝っていることだと思います。だから僕が目指しているというのは、苦労してでもトライをして、最後の最後までディフェンスをしっかり粘るというか、なんとか相手がミスをするまでしつこくディフェンスにいくというか。そういうのがうまくいった時に、世界で強いと言われているチームに勝てると思ってます。ちょっとかわいそうだなって思われるかもしれないんですけど、やってる方もツライ状況なんで。だけどそこで金星をあげるというのが、楽しいことですし。ロシアやトンガは強いと思うんで、全くそういう展開になると思いますけれども、そのなかで日本が勝っていくというのを見てもらいたいと思います。 二宮:1ついいですか。サントリーがウェールズに勝ったじゃないですか。あれを見ていると、ウェールズのフィットネスに最初から問題があったとしてもですね、非常にサントリーのゲーム・フィットネスがしっかりしていた。今までは全て精神論に帰着していたけれども、やっぱりフィットネスがしっかりしていないと、フィジカルがしっかりしてないと。精神論には限界がありますからね。体が動かなくなってしまったら、竹槍でB29を落とすような話になっちゃって。やっぱりそうじゃなくて、ちゃんとしたコンディション面からしっかりしてないと精神力の発揮しようがないんじゃないかと。今、少しずつできつつあるんじゃないかと思いますけど。クラブによって、フィットネスの温度差があるんじゃないかという気がするんですよね。サントリーは熱心にやってるみたいですけど。日本代表が集まったときにフィジカルなことをやるんじゃなくって、できてる選手が集まるっていうのが代表だと思うんだけれども、それをしっかりやらなければいけないというところが、向井さんがご苦労されている点だと思いますね。 向井:私がずっと思っていたのは、指導者流なんですよね。それを統一して、しっかりとしたフィットネス、ストレングスの基準値を設けて、それに落ちる人はその時点で落ちちゃうというレベルを持って。彼は足が速いから、うまいからとかじゃなくて、基準があって、それよりも落ちてるからダメなんですよというものがあれば、次からはそれをターゲットにして頑張ればいいんだと。その次のテクニックについては、栗原選手はキックがうまいんですけれども、センターとしてこういうオプションを使いたいんだけれども君は右キックできるのかと言った時に、できませんと言ったら、できるように努力しなきゃいけないし、できる人に替えなきゃいけないと思うんですよね。そういう基本的なことをベースにして、確実に統一されたコーチングをしないと、時間がないですから。少しでも時間を減らすためには、統一したコーチングをしっかりして、そのなかから選ばれる選手が日本代表となって、戦い方はこうで、これができないとダメだというものを回していけば、私が今やっているところの時間は減らせると思います。そうすれば戦略面の時間をもっともっと増やせるんではないかと。 青島:ということで、いかがでしょうか。 客:ありがとうございます。 青島:予選は、かわいそうにね、と思われる試合は絶対避けていただいて。 向井:そうですね。 青島:相手のチームが、かわいそうだねと。日本にコテンパンだねと言われるような試合を期待しています。残念ながらお別れの時間になってしまいました。日本代表がいよいよ6 月16日国立競技場、ワールドカップ・アジア予選、まずは韓国と激突です。最後になりましたが、向井監督、そして栗原選手に意気込みを伺ってお別れしたいと思います。今日は残念ながら、本大会の話は伺えませんでした。それまでまだ、時間がございます。予選を勝ち抜いて代表になったところで改めて伺おうと思います。その回にもぜひお集まりいただきたいと思います。最後におふたり、それぞれ意気込みを伺わせてください。それではまず向井監督から。 向井:必ず勝って本大会行きますので、応援お願いします。 会場:拍手 栗原:僕の場合選手なので、全試合スタメンでフル出場して、ワールドカップの出場権を獲得できるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 会場:拍手 二宮:1つお願いがあるんですけれども。栗原選手をバドミントンで痛めつけないでくださいね。 青島:そういうことをしながら、コミュニケーションをとっているんだというところも今日は伺えました。くれぐれも、カエルは食べないように、真似しないようにお願いいたします。それから栗原選手は、インテリアとか建築関係が好きですので、ファンの方、何か差し入れる時には、そんな本も喜ぶかもしれません。ですね? 栗原:はい。 青島:それを見ながら空間をどう攻めるかというイメージを作っておりますので、そのあたりもこれから応援する時は参考にしていただきたいと思います。まとまりのないホストになってしまいましてすみません。向井さん、栗原選手のおふたりを、そして日本代表を応援していただきたいと思います。今日は日曜日の午後にも関わらず、たくさんお集まりいただきまして、本当にありがとうございました。これをもちまして、トークバトル、フィニッシュさせていただきたいと思います。ありがとうございました。 構成・文:CREW 撮影:源賀津己 前のページへ |