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豪華ゲストとともに、あらゆるスポーツについて熱く語り合ってきた「ぴあトークバトル」。3月1日には横浜・関内ホールで「横浜F・マリノス2003キックオフフェスタ」として開催された。2部構成の第1部には岡田武史監督、第2部にはキャプテンの松田直樹選手、副キャプテンの奥大介選手を招き、「2003年F・マリノス大予想」をテーマに行われたバトルの模様を、余すところなくお届けします。

ぴあトークバトル
スポーツ快楽主義2003 Vol.24
「~横浜F・マリノス2003キックオフフェスタ~  2003年F・マリノス大予想!!」 

前編

<ホスト>
青島健太(あおしまけんた、スポーツジャーナリスト、右)
'58年4月7日生まれ。新潟県出身。春日部高-慶応大-東芝と進み、’85年ヤクルト・スワローズに入団。同年5月の公式戦初打席でホームランを放つ。5年間のプロ生活を経て、現在はスポーツライター、キャスターとして様々なメディアを通じてスポーツの醍醐味を伝えている。

<ゲスト>
岡田武史(おかだたけし、横浜F・マリノス監督、中央)
'56年8月25日生まれ。大阪府出身。天王寺高-早稲田大-古川電工(現ジェフ市原)と進み、日本代表としても活躍。日本代表コーチを務めていた’97年ワールドカップ最終予選途中に代表監督へ昇格、ワールドカップでも指揮を執る。’01年には監督としてコンサドーレ札幌をJ1昇格に導き、今季から横浜F・マリノス監督に就任。

武田修宏(たけだのぶひろ、元サッカー日本代表、左)
'67年5月10日生まれ。静岡県出身。’86年、清水東高から読売クラブ(後のヴェルディ川崎、現東京ヴェルディ1969)入り。’01年の引退までに、パラグアイの名門スポルティボ・ルケーニョなど延べ7チームでプレイし、Jリーグでは通算237試合94得点(歴代4位、’02シーズン終了時)。日本代表通算18試合1得点。


青島:「横浜F・マリノス2003キックオフ・フェスタ」と題してお送りします、本日24回目を迎えましたこの「ぴあトークバトル スポーツ快楽主義2003」。横浜F・マリノス、今年はさらに楽しみですね。特に岡田武史新監督を迎えて、すばらしい補強もしてますからね。チームの状況もこれから岡田監督に伺っていきたいと思います。それではまず今日のゲストをご紹介します。元日本代表フォワード、現在は解説者として大活躍中の武田修宏さんです。
会場:拍手
青島:今日は昼間、国立競技場で行われたゼロックス・スーパーカップで一緒だったんですよね。
武田:そうなんです。今日は横浜F・マリノスからオファーがあるというんで、選手としてのオファーかなって思ったら、ゲストだったんですね。よろしくお願いします。
青島:本日は2部構成となっております。まずは、第1部のゲストをお呼びしましょう。今シーズンから横浜F・マリノスの監督に就任されました岡田武史監督です。
会場:拍手
青島:それではたっぷりとお話をうかがっていきたいと思います。
武田:僕がここにいるの、不思議なんですけど。
岡田:今日はお前の質問コーナーがあるらしいぞ。
武田:いやいや、そんな先輩がいらっしゃる前で。
青島:さっそくバトルが始まっていますけど、おふたりは現役のころ対戦したことがあるんですよね。
岡田:そうですね。彼がまだ青二才のときだったと思うんだけど。すごく若い女の子に人気でね、よく覚えてますよ。あのころは、本当にいい選手だったよね。
武田:岡田大先輩にそんなふうに言ってもらえるとは。光栄です。
青島:武田さん、今日はいきなりやられてますね。
武田:今日はやられに来ましたから。
青島:今日は会場に女性のファンが多いですね。壇上からはライトの関係で見にくいところはあるんですけど、ほとんどが女性の方ですね。
岡田:ということは、僕のサポーターじゃない。
青島:え?
岡田:松田(直樹)か奥(大介)のファンでしょう。
青島:そんなことはないでしょう。岡田さんに会いに来たんだという方は拍手をお願いします。
会場:拍手
青島:そりゃあ、そうですよ。
岡田:無理やりやってない?
青島:ほとんどは横浜F・マリノスのファンだと思いますけど、なかにはほかのクラブの偵察の方もいらっしゃるかもしれませんが。大丈夫ですよね、いませんよね?
岡田:あ、いらっしゃいましたよ。
青島:キャンプを打ち上げて御殿場から戻ってこられたばかりということで。今日は、国立競技場はかなり雨が激しかったんですけど、スケジュールは無事に消化されたんですか。
岡田:そうですね。正直に言うと、一番いいのは午後に御殿場でヴァンフォーレ甲府とゲームをやってから帰ってこようかと思っていたんですが、ゼロックス・スーパーカップがあったのでそれを観たいなと。それで、御殿場でのゲームを10時半キックオフにしたんです。向こうはどしゃぶりじゃなかったので、コンディションとしては悪くはなかったんだけど、試合内容としては最悪でした。一応勝ったんだけど…まあ、10時半キックオフにしたから、みんな寝てるんだよね。
青島:花粉症で大変だったとか、キャンプ前には残念なことにけが人のニュースも届きましたし、いろいろあるかとは思いますけど、キャンプも含めて今までの内容をどんなふうに評価されますか。
岡田:そうですね。よく「新加入の久保竜彦」、「新加入の佐藤由紀彦」と取り上げられるんだけど、僕にとっては全員が新しい選手でね。まずは選手を知るということ、そしてその選手はどういうタイプで、どういうポジションにマッチしているのかなというのが、大体見えてきました。まあ、そこそこのチームになってきたかな。僕はよく言うんですけど、“グッドチーム”になってきた。ただ、まだ“ストロングチーム”ではない。今のチームの状態だと、例えばコンディションがこうで、対戦相手のタイプがこうで、こういう状況だったら、そこそこまでいける段階かな。でも、ひとつでも条件が欠けてくると、いいサッカーができる強いチームにはまだまだなりきっていないなと。まあ、そんなことを言っても3月8日からはヤマザキナビスコカップが始まりますから。ポジションの問題が大きいんで、この1週間で位置取りを修正しようかなと。それが当たるか当たらないかで、カフー(イタリア・ASローマ、ブラジル代表)が来るまで、僕がいられるかどうかが決まるんですが。
武田:岡田さんが今年目指しているのはどんなサッカーですか。例えばアグレッシブに前からプレスをかけていくのか、じっくりパスをつないでいくのか。
岡田:よく言うんだけど、マスコミというのは、俺も一時期マスコミで食べていたときがあるけど、「プレッシングするのか、しないのか」、「選手を育てて勝つのか、いい選手を他から取ってきて勝つのか」、「攻撃的にやるのか、守備的にやるのか」、いろんなことを言う。でもそんなに簡単に割り切れるもんじゃないんだよ、スポーツというのは。プレッシングする場合もあるし、かといってなんでもかんでもプレッシングしていたらとても90分間もたないし、守備を破られるリスクも大きくなる。若手も使いながら、ベテランを中心にしていくとか、バランスの問題だから。でも、自分が横浜F・マリノスに来て指揮をとりたいと思ったのは、やはり優勝という目標があるわけで。それに向かっていくためには、しっかり守ってカウンターアタックをやるだけでは、試合に勝つことはできても優勝は無理。そういう意味では、リスクを冒してでも攻める。まずはボールに向かう姿勢を出せるチーム。それも、選手が俺の言ったことをロボットみたいにガチガチにやるんではなくて、生き生きとピッチの上で躍動する。そういう姿勢でボールに向かってアグレッシブに戦うチームになってくれたらなと思う。
青島:岡田さんが就任されてから、テーマとしていろいろなことを挙げていらっしゃいますけれども、なかでも非常に大事なこととして、意識改革を挙げられた。今のお話にもありましたけど、どのような方向に意識を変えたいということなのでしょうか。

岡田:意識改革というのは、横浜F・マリノスというチームを外から見ていて、ジュビロ磐田、鹿島アントラーズ、あるいは武田たちがいた強いときのヴェルディ川崎と比べて何が違うのかと比べたときに、外から見て感じたのはいろいろな意味での甘さ。甘さというのは、「まあまあそこそこ、これはいいだろう」と許すこと。例えば、つまらないことかもしれないけど、7時に集合と言ったら、7時1分でもなくて、6時55分でもなくて、7時。1分の遅刻はまあいいだろうと許したら、じゃあ1分30秒はどうなんだ。1分52秒はどうなんだ。そういう次元の曖昧さ。練習でコーンからコーンへのダッシュだと言ったら、コーンからコーンであって、コーンの手前5メートルまでダッシュすることとは違う。そういったグラウンド上のことだけではなくて、いろいろな意味で、ちょっと規律が甘いんじゃないかなと思って見ていた。例えばラモス瑠偉(元日本代表)とか、柱谷(哲二、元日本代表、元コンサドーレ札幌監督)とか、キー坊(北澤豪、元日本代表)とか、武田もいたけど、あのころのヴェルディ川崎の選手が日本代表チームに来るじゃない。そうすると、一番フィジカル的にキツい練習を先頭を切ってきっちりやるのが彼らなんですよね。それで、逆に弱いチームの選手の方が、コーンの外側を回れと言ってるのに内側を回る。それは内側だろうって注意しても、向こうに行くと、またコーンの内側を回ってる。そのへんの厳しさみたいなものが必要かなって思ったんで、意識改革をテーマに挙げたんですけど。意識改革にはいろいろあって、今年のテーマは…テーマを言う方がカッコいいでしょ。最初にミーティングをするときに何もテーマがないとカッコ悪いから。それで今年のテーマとしてまず「enjoy」。これは、サッカーを始めたときの楽しみ。好きでサッカーを始めたころはみんな「俺にボールくれ、俺にボールくれ」と思っている。ところがだんだんミスしたくないとか、ボールが来ない方がいいとか。そういうふうになってほしくないから、ミスを恐れずに生き生きとプレーしてほしいと気持ちをこめて「enjoy」。これ、なぜ英語なのかというと、日本語だとどうもカッコ悪いんだよ、「楽しみ」なんて。
青島:そうですよね。
岡田:次に「thinking by yourself」、自分で考えてほしい。横浜F・マリノスのチームは、外から見ていると、チームに対するロイヤリティ、忠誠心がちょっと欠けているのかなと。例えばチームが1対0で負けているときに、淡々と僕はここで自分の役割をやってます、という選手がいる。チームが負けているのに、勝ちたくないのか、お前のチームだぞ。例えば、物が売れなくて倒産しそうな会社で、僕は経理部ですからと言って電卓をたたいてても、倒産したら一緒だぞ。全員で外に出て物を売りに行く、そういう一体感、自分のチームだという認識がないんじゃないかと。戦術は監督が考えてくださいではなくて、自分のチームだったら自分で考えなきゃいけない。そういうつもりで「thinking by yourself」を挙げたんです。次に「concentration」、集中するということ。練習の回数はシーズン前で大体55、6回。多いチームでも60回はいかない。少ないチームだと45回くらいかな。回数的には大して変わらないんです。何で差をつけるかといったら質で差をつけるしかない。練習の質をしっかり上げてほしい。それとともに、いったんピッチに入ったらサッカーに集中してほしい。こんなことをしたらカッコ悪いかなとか、ここでミスしたら恥ずかしいなとか、明日新聞にどんなふうに書かれるかなとか。そういうことに気を取られずに、ともかくサッカーに集中してほしい。最後に「aggressive play」を挙げたんですけど、理屈や戦術やいろいろなことがあるけど、いったんグラウンドに出たら闘うんだと。能書きはいい。闘え。アグレッシブに戦ってほしいと。この4つのテーマをひとりひとりがやってもダメなんで、最後に「communication」をもってほしい。今年はこの4つプラス1のテーマを掲げて、意識改革をやっているんですけど…成果はまあまあですかね。
武田:まあまあですか。
岡田:でも、僕が横浜F・マリノスに来てビックリしたのが、何となく横浜F・マリノスの選手は武田みたいにもっとチャラチャラしてるのかなと思ってたの。そしたらすごく真面目なの。ビックリしてね。この前、御殿場でのキャンプのときに、ヤス(安永聡太郎)が渋滞で初めて遅刻しよったんですよ。それまでね、練習でもミーティングでも遅刻者ゼロ。僕が監督するのは4チーム目なんですけど、こんなことは初めて。1月20日ぐらいから始まって、遅刻者がいない。
青島:それは、今うかがった意識改革が早くもチームに浸透しているということではないんですか。
岡田:でもね、遅刻がゼロだと罰金が集まらないから、結構フトコロが…
武田:選手にしてみれば、岡田さんが怖いからじゃないですか。
岡田:怖くない、怖くない。めっちゃくちゃ優しいよ。
青島:アハハハ。
岡田:選手たちはすごく真面目。プロ意識もあるし。ちょっと枠からはみ出すような奴がいない物足りなさみたいなものはあるかもしれないけど、思った以上に真面目で、一生懸命やってくれる。それは驚きでしたね。
青島:それはスポーツに限らず、仕事でもメンタルな部分は基本になりますよね。一方でプロフェッショナルな戦いとなりますと、やはり戦力が整わないと、気持ちだけではやっていけない部分というのはありますよね。で、外から見ていますと、今シーズンはすごい補強をされた。特にフォワードを中心に、点を取る新しい顔ぶれが加わった気がしますが、このあたりいかがですか。
岡田:どう?
武田:僕が何を言ったとしても、岡田監督の腹の中では、ここはこうしてという考えがあると思うんですけど。僕はフォワードとして、岡田監督がフォワードの選手を見ていて、こういうタイプだと思っていたけど、実はこういうことの方が得意だったというような驚きがあるか聞きたいですね。久保選手とか安永選手とかマルキーニョス選手とかいますけど、実際に見ていて、こいつはココがすごいといったところはありますか?
岡田:実はマルキーニョスや清水(範久)がケガをしていて、ようやく戻ってきたんだけど、今フォワードがふたりしかいないんだよ、久保と安永と。坂田大輔と阿部祐大朗はユース代表に行ったきりで。祐大朗は2回帰ってきたんだけど、1回目は捻挫で、2回目の御殿場キャンプでは熱を出しやがって。1回も見てないですよ、プレイ。だから知らないんですよ。僕が知っているのは久保と安永だけ。ただ、久保に関してはビックリしたね。マスコミでは、野性的で、身体能力を生かしていて、戦術がどうのこうのじゃないタイプと言われてるけど、そんなことはない。アイツ、結構しっかりとした考えを持っているし、動き方とかすごく考えている。それはうれしい驚きでしたよ。あんまりしゃべらないのは想像どおりだったけどね。結構うちとけてきて、「あ、久保が笑うんだ」って驚いたり。
会場:笑い
岡田:そのへんが驚きだった。ヤスはね、あいつのおかげで助かってる。彼のプレイもそうだけど、合宿のときは松田とヤスが率先してチームを引っ張ってくれて。指宿の合宿に関しては100パーセント満足してるんだけど、それは彼ら2人のおかげだと思っています。相当追い込んだんですけど、彼らが率先してやってくれたので、ものすごく質の高い練習ができたと思っています。
武田:ということは、その2人が先発なのかな。
岡田:今はそれしかいないから。
会場:笑い
岡田:まあ、戦力的には正直言って1年目は難しいんですよ。選手全員を把握しているわけではないので、どういうバランスがいいのか。会社の方からは、こういうタイプの選手ですと言われるんですけど、自分の手元に置いて、一緒に練習して、一緒に生活して、性格を含めていろいろなものを見ていくと、やっぱり最初のイメージと違う選手は当然出てくる。6月のコンフェデレーションズカップでJリーグの日程が空くじゃない。それまでリーグ戦10試合、ナビスコカップ4試合があるから、6月まではそのへんで相当、苦労するんじゃないかなと。だからといって負けていいってことじゃないけど。首が飛んじゃうからね。何とか勝ち星を拾いながら、いったん6月のブレイクのところで、チーム内でもう一回ポジションのシャッフルをしなきゃいけないかなと思っています。シーズン中にシャッフルしちゃうと、リスクが大きいから。
青島:中盤には佐藤由紀彦選手が入りましたし、そうすると気になるのは、奥(大介)選手をどういうふうに使っていくのかもキーポイントになると思うんですけど。
岡田:大介は僕が思っていたのとイメージが違ったタイプで。僕は今年、横浜F・マリノスは55点、得点すると言っちゃったんだけど。本当に55点取るためにはどうしたらいいかと考えていくと、まず久保が今までの最高得点が15点くらいだから、マックスで15点。優勝争いをするぐらいならチーム全体の調子がいいから、それにプラス2、3点として。そうやって数えていくと、得点数の2番手が奥なんですよ。奥がマックスで10得点くらいかな。それを換算していっても55点にはならないんだけど。それはともかく、奥にはもっと前でプレーして点を取る仕事を、とチームに来る前は考えていたんだけれども、あいつが気持ち良さそうにプレーしている場所はもう少し後ろ。ああ、あそこでやっているときは、あいつはすごく気持ちが良さそうにプレーしているなと。まあ、そこから点を取りに前に出ていくこともできるんで。最初に考えていたよりも、少し後ろ目で前を向いてボールを持てるポジション。後ろから敵を背負って受けるんじゃなくて、そういうポジションの方が彼にはいいんじゃないかなと今は思っています。まあ、試合で使いながらいろいろ試してみることになると思いますけど。
武田:ディフェンスを見てみると、Jリーグで一番失点が少なかった。
青島:27点しか取られていませんからね。
武田:松田選手を守備の中心にして。
岡田:だから、攻撃とディフェンスを分けて考えちゃだめなの。さっき言ったでしょう。ディフェンスだけじゃ55点にならないんだよ。どうしたらいいかというとディフェンスが少し弱くなってでも、リスクを冒しても攻めていかなきゃしょうがない。そうでなきゃ55点は取れない。55点取れないと、優勝争いは絶対にできない。そこそこの結果でいいっていうなら、ディフェンスを固めるよ。まあ、そんなこと言ってても、実際に始まったらガチガチに固めていたりして。
武田:今日岡田さんが言ったことを頭に入れながら試合を観ます。
青島:去年、ジュビロ磐田の総得点が72点くらいですか。横浜F・マリノスが44点。
岡田:ただ、ジュビロ磐田は延長Vゴールが8点くらいあります。今年は延長がないので、64点くらいの計算になるんですよ。昨年、横浜F・マリノスは総合2位なんだけど、引き分けがある状態では4位まで落ちちゃうんですよ。2位が鹿島アントラーズの勝ち点53くらいじゃないかな。たまたま僕が対戦相手をAランク、Bランク、Cランクに分けて、今年は何勝何敗くらいかなと適当にはったりで数えていったら、勝ち点54だった。それで過去の2年間くらいのデータを見たら、どちらも2位が鹿島アントラーズで勝ち点53点と52点だったかな、確か。「あ、そこそこや」と思って、じゃあ今年は勝ち点54でいこうと。なにか数字を言った方が本当らしいでしょ。実際にはそんなの分かるわけがない。勝ち負けが分かるぐらいなら、こんなことしてないでtoto買ってるよ。
青島:延長がなくなって、引き分けのゲームもあるとなると、かなり攻撃的なゲーム内容というか、各チームとも点を取りにいくサッカーになってくるんでしょうか。
岡田:いや、そうとは限らないですよ。引き分けありとなったからって、いきなりみんながすぐにリスクを冒してバンバン攻めていくかといったら、それはないと思いますよ。やっぱり試合の状況によって、残り15分くらいになって0対0だったする。優勝を狙うわけではないチームでアウェイだったら、当然引き分けを狙おうとしますよね。逆に優勝を狙うチームであれば、0対0のときはリスクを冒してでも攻撃する。というのも、15試合で決まっちゃうわけですよ。僕は、引き分けをありにするなら、1シーズン制にするべきだとずっと言ってきたんですけどね。それはなぜかと言うと、1回の引き分けが、勝ち点3を取れずに勝ち点1になったせいで優勝を落とす可能性があるわけですよね、15試合の場合。そうすると、上位のチームはガンガン点を取りにいかないといけなくなる。相当荒れた試合が予想されますよね。だから、そういう意味では、最後の10分のパワープレイとか、そういうことを考えないといけない。今はそこまでやる時間がなくて、もっと根幹の部分のチーム作りをやっていますけど。
武田:岡田監督は以前コンサドーレ札幌にいて、残留争いとかね、どちらかというと優勝争いには…
岡田:アホ。J2で優勝したんだぞ。
武田:いやいやいや、そうですね。今回は横浜F・マリノスにきて、優勝を争わなければいけないというのは、僕から見たらすごいプレッシャーがあるだろうなと。そう思いながら、僕は最近のんびりと仕事しているんですけど。やはり、コンサドーレ札幌からこちらに移っていろいろと変わったと思うんですよ。家が近くなったというのもありますけど、どうですか。プレッシャーというのは、あまり感じない方だと思いますけど。
岡田:いやいやいや。
武田:岡田監督だったら、プレッシャーを感じるより楽しむ方かなって。
岡田:開幕までは楽しいよ。勝ち負けがないんだもん。でもね、プレッシャーはいつでもあったね。代表の監督をやっているときもあったし、コンサドーレ札幌の1年目も2年目も3年目もあったし。やっぱりプレッシャーがないときはなかったですね。昨日、監督会議があって、テレビとかのインタビューで自分で自分を追い込んでいるように感じるんですよと言われて。いや、自分で何で追い込まなきゃいけないんだと。僕は追い込んでいるつもりは全然ないんだよ。どうせ僕が横浜F・マリノスに来たら「優勝ですよね」と言われるのはわかってるんだよ。周りに先に言われるのがいやだったから、先に言っておこうと思って。で、「優勝、優勝、優勝」って叫んでいて優勝できるなら、そりゃあガーンと追い込んで「優勝、優勝」と叫ぶけど。選手によく言うんですよ。優勝のプレッシャーがあるっていっても、じゃあ何ができるんだ、お前たちにはって。日常のコンディション管理、練習を集中してやること、試合でベストを尽くすこと。これしかないんです。どんなにプレッシャーがあろうが何をしようが。それをやっても、勝負事というのはわからない。すばらしいサッカーをしたって負けることもあるし、泥くさいサッカーをやって勝つときもある。それはしょうがない。だけど勝つためにベストを尽くす。それしかできないんだ。「俺は死ぬ気でやります。優勝します」と言うそばから、足元がつまずいたらしょうがない。自分でもプレッシャーがないこともないんだけど、仕方がないと思っています。自分のベストを尽くすしかない。僕はその代わり、自分のベストを尽くす自信はある。それでダメだったら仕方がない。クビになるか、辞めるか。それは仕方がないと思ってるから、自分で追い込んでいるつもりはない。ただ、会社から最初に「コミットメントはこれでよろしいでしょうか。ターゲットはこれでよろしいでしょうか」と言われてますけど。僕は「優勝するためにベストを尽くしますから、ダメだったらクビを切っていいです。残金は要求しませんから」って答えた。スポーツである限り勝負事ですから、勝敗には責任を取らないといけない。ただスポーツというのは、数字だけで表せるものでもない。企業で利益率が何パーセント、売り上げがいくらと提示するように全て数字で片が付くものではなくて、数字半分、残り半分は感動とか喜びとか幸せ感、そういうものがないと。サイボーグがガーッと試合して数字や記録を残しても、観てる方もやってる方もおもしろくない。そういうものではないと思っているからね。ただ、監督は勝敗には責任を取らないといけないとは思っているから、そうなったらしょうがない。
青島:もうすぐヤマザキナビスコカップも始まります。Jリーグの開幕も3月21日です。開幕戦からいきなりジュビロ磐田と対戦です。もうナビスコカップも間近で、いよいよ厳しい戦いが始まるわけですけれども、いかがですか手応えは。
岡田:今の状態のままだと、いいときはいいけど、そこそこという感じになってしまうんで。監督というのは最悪の場合も考えるわけですよ。うまくいかなければ、時間はかかるけど、このあたりで修正しなければいけないなとか。いろいろなパターンを考えているんです。うまく運ぶストーリーでいきたいなと思うんですけどね。ナビスコカップのFC東京との2試合を5分以上の成績でいければ、Jリーグ開幕のジュビロともいい試合ができると思ってます。
青島:少し先の話ですが、カフーが加わるのは7月からですか。
岡田:そうですね。でもまだわからない。来るとは思うけど。まあ、外国人選手はわからないからね、いろいろ考え方が違うから。でも、カフーは誠実な奴だから。ミラノで一回会ったんだけど、話をして、「日本に行きますから」みたいなことは言ってたけど。まあ、来てから考えよう。
青島:少し早い質問かなとは思ったんですけどね。
武田:僕は今、指導者の勉強をしてるんですけど、なかなか日本人のいい監督が育っていない。今回、岡田さんには成功してもらって、岡田さんしかいないと…
岡田:そんなことないよ。日本人の指導者は本当に育ってきてるよ。僕らの世代の近辺、その下の世代もすごく勉強してる。だから、そういう指導者仲間と話をするのがすごく勉強になるから、年下の人間でも呼んで、一緒に飯を食って話したりしてるんだけど。すごいなと思う人間はいっぱいいます。今はレベルが上がってきている。ヘタな外国人の監督より、しっかり勉強している若い日本人の監督の方が、僕は優秀だと思う。
青島:今日は横浜F・マリノスのファンの方がたくさんいらっしゃっています。せっかくですので会場の方から質問を岡田監督に。ぜひ聞いておきたい質問がございましたら、どうぞ。質問がある方、手を挙げてくださいますでしょうか。
客:Jリーグの開幕から、ずっと横浜F・マリノスを応援しておりまして、最近の横浜F・マリノスは、岡田監督がおっしゃっていたように、きれいなサッカーをし過ぎるような気がします。ゴール前までいくんだけど、シュートをしないで“接待パス”をする。こっちで見てると、なんでそこで打たないんだって。頼むよ、突っ込んでいってくれっていうところが足りなくてですね。本当に勝ちたいのかどうか、わからないようなサッカーをここ2、3年見せられていて、ちょっと勘弁してほしいなっていうのがずっとありました。岡田監督が、スポーツニュースかなにかのインタビューで、選手が途中で止まっちゃって前にいかないときに、「そこだ!いけー!」というのを見まして、たいへん心強く思ったんですけど、試合中でもそういうことは言っていただけるんでしょうか。
岡田:あなたはおいくつですか。スカウトしようかな。
客:40歳は超えてます。
岡田:あー、それはちょっと厳しいな。さっきも言ったように、きれいなサッカーもいいけど、レアル・マドリード(スペイン)のポンポンポンとつながる美しいパスはすごいなと思うけど、スポーツを観て感動を受けるときというのは、例えばアイルランド代表チームがワールドカップで勝つために、愚直なまでにただ蹴るだけだけど、必死にゴールを目指す。本当に死んじゃったら困るんだけど、ひたむきにゴールを目指すあの姿。ゴールを取りたいという気持ちを持って、前に向かっていかないと、やっぱり本当の感動は与えられないと思う。横浜国際総合競技場を7万人で満員にするっていうのが今年のクラブのテーマで、7万人を入れようと思ったら観客を感動させないと。そういうサッカーは、勝ち負けは別にしてもぜひ目指したい。ただ残念ながら、今日の御殿場での試合では、そういうひたむきさは全くなかったね。
会場:笑い
岡田:みんな、疲れているというのもあるんだけど、パスを回しておられましたね。
会場:笑い
岡田:それでも、勝っちゃうからまずいんだよね。大体さ、2月23日のプレシーズンマッチで名古屋グランパスに3対0で勝っちゃたのがまずいんだよ。これはね、相手がうちの条件に全部マッチしていたわけ。それで圧倒して勝っちゃったんだけど。ちょっとこの時期にこれは早いかなって思ったけど、その後ちょっと悪かったけれど、ギリギリに間に合うかなと思っています。そういう意味では、今ご質問にあったようなサッカーをぜひやりたいと思っております。
会場:拍手
客:今日、ゼロックス・スーパーサッカーは観に行かれましたよね。
岡田:テレビで武田君の解説を聞いてました。
客:それで、今のゼロックス・スーパーサッカーとかA3マツダ・チャンピオンズカップ(2月16~2月22日)を観て、ジュビロ磐田の印象はどうですか。開幕で対戦しますけど、ジュビロ磐田戦に向けて、何か対策はありますか。教えてください。
岡田:それは秘密でしょう。
客:じゃあ、印象を。
岡田:今のところね、正直言って対策は考えていないです。相手に合わせることはある程度必要です。相手に合わせるのか、自分のサッカーを貫くのかっていうのもバランスの問題で、ある程度相手に合わせるのも大事なんだけど、それは自分のチームのベースがしっかりしてからでないと、本当に右に行ったり左に行ったりしちゃうんで。今はベースをしっかりさせることに専念しているんで、あまり相手の情報も入れていないし、対策も立てていません。そして、ジュビロ磐田に対しての印象は、A3マツダ・チャンピオンズカップを観ていて、みんな悪い悪いって言ってたけど、やっぱり力のあるチームだなと思っていました。ジュビロ磐田がゼロックス・スーパーカップで京都パープルサンガに3対0で勝って、これである程度ペースが出てきたなってっていう感じを受けて。やっぱりいいチームというのはね、技術が高いっていうのもありますけど、それ以上に同じメンバーでずっとやっている。今日は高原(直泰、ハンブルガーSV)が抜けたところにグラウが入っていて、そいつのところだけ、いかにみんなと合わせるかというところだった。コンビネーションが合い出して、本当にお互いの意思疎通がきれいにできているチームだなと。やっぱりやるからには、高原が抜けてどん底だと言われる状態のジュビロ磐田とやるのは、いやだよね。本当に強いと言われるジュビロ磐田とやりたいし、強いと言われる鹿島アントラーズとやって、初めて3強と言われるチームになれると思うから。ゼロックス・スーパーカップの勝利でジュビロ磐田も良くなってくるだろうし、Jリーグの開幕まで、うちもいいチームにして、ジュビロ磐田に対して、いい勝負ができるようにしたいと思っています。
会場:拍手
青島:岡田さん、もっともっと話す時間が欲しいですね。
岡田:いや、十分です。
青島:武田さん、最後に岡田さんに聞いておきたいことは。
武田:聞いておきたいことというか、岡田さんの人柄がいいなって思ったことがあったんですね。実は今日、北澤と会ったんですけど、フランス・ワールドカップでメンバーから外れた北澤が現役引退するときに、岡田監督がわざわざお花を贈ってくれたって。北澤がありがとうって言っていました。そういうところが、岡田監督ってすばらしいと思いませんか。
会場:拍手
岡田:フランス・ワールドカップ以来、みんなカズ(三浦知良、ヴィッセル神戸)とキー坊と俺の仲が悪いんじゃないかって思っているみたいだけど、連絡は取り合っているし、キー坊も毎年年賀状をくれるし。本当に辛かったかもしれないけど、その後も頑張ってたし、これからも、ああいう奴には成功してほしいからね。それで何となく花でも贈ってみるかなって思って。
武田:お礼を言ってましたよ。
岡田:俺がいないときに連絡をくれたらしいんだ。
青島:さて、残念なんですが、時間の方も迫ってまいりました。最後に横浜F・マリノスのファンの方が大勢お集まりですので、シーズンに向けての抱負も込めて、最後に一言お願いします。
岡田:先程から言っていますように、横浜F・マリノスは優勝を狙えるチームです。ただ、どこのチームも優勝を狙っています。2月28日のJリーグの監督会議でね、ボタンを押したわけですよ。「優勝を狙っている人」って。
青島:押さない監督もいたんですか。
岡田:そりゃ、いますよ。押したのは16チーム中、11人。俺はどうしようかなって思ったけど、一応押しておいた。やっぱりそれだけ、自分たちだけ勝とうとしているわけじゃなくて、相手も必死なわけです。非常に厳しい戦い、特に最初の10試合ぐらいは厳しい戦いになります。でも、僕らはそれに向かって、会社もチームも非常にまとまっています。一致団結して戦う態勢ができているんでね、きっといい結果を出せると思っています。ただ、やはりそれにはプラスαの力、サポーターの力が必要です。ぜひ、力を貸していただきたいと思います。よろしくお願いします。
会場:拍手
青島:ぜひ熱い応援をサポーターの方々よろしくお願いします。残念ですけれども、時間がきました。ここで、岡田監督とお別れです。ぜひ、すばらしいシーズンを送ってください。ありがとうございました。
岡田:ありがとうございました。
青島:みなさん、もう一度大きな拍手を。横浜F・マリノス、岡田武史監督でした。
会場:拍手
青島:この後は、みなさん、さらにお待ちかねの選手の方が登場です。武田さん、いきなりやられたじゃないですか。
武田:いやあ岡田さん、僕に突っ込んでくるとは思わなかった。岡田さんは現役のときも非常に堅実な守備の方で、本当にスッポンマークという感じだったんですけど。今日もマークにつかれてしまったという感じですね。
青島:まあ、監督さんという立場で、この時期言える話と言えない話っていうのは出てきちゃいますよね。
武田:でも、優勝を争うって言っちゃいましたからね。これはプレッシャーがかかると思いますし、柱谷さんとか、松木(安太郎、元セレッソ大阪監督、元東京ヴェルディ1969監督)さんも苦労しましたから。岡田監督は仲良くやってきた監督ですので、ぜひ成功してもらいたいですね。横浜F・マリノスとか、東京のチームが勝っていかないと、本当にサッカーは盛り上がらないと思うんですよ。僕は京都パープルサンガとかジュビロ磐田とかジェフ市原でもプレイしましたけど、やはり関東のチームが勝たないと、サッカー全体が盛り上がらないと思うんで、ぜひ優勝を争ってほしいと思いますね。
青島:そうですね。横浜国際総合競技場を、毎回7万人で埋めるようなね。
武田:本当に、横浜の青い海が見たくて一度来てみたかったんだけど、一回も横浜F・マリノスからオファーがなくてね。一回ぐらい来てもいいかなって思ってたんだけど。そしたら今日、ぜひトークバトルに来てくださいっていうことで、今ごろオファーが来ました。まあ、僕もいつかまた監督、コーチになって。今、井原(正巳、元浦和レッズ)も、横浜でコーチの勉強をしているみたいですから、応援したいですね。
青島:たくさんのお話を伺いました。さあ、それでは引き続き第2部の方へ移っていきたいと思います。

後編へ続く

構成・文:CREW
撮影:源賀津己