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@ぴあ/HOTスポーツの人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。8月27日に行われたイベントの模様を、そのままお届けします。
 vol.3 前編
 SUPPORTED BY KIRIN

「どうなる! サッカー五輪代表」(前編)

出演者プロフィール
ホスト:金子達仁(スポーツライター・左)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターとなり、スペインに移住。「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などベストセラーを生み出した。今、日本で最も売れ、最も刺激的なスポーツ・ノンフィクション作家。
ゲスト:二宮清純(スポーツライター・右)
'60年、愛媛県生まれ。スポーツライターの第一人者として、新聞、雑誌、テレビ等を舞台に幅広く活躍中。主な著書に、「Do or Die」(KSS出版)、「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)がある。

金子:皆さん、ビールは回ってますね。はい、それでは今日もお暑い中お集まり頂きましてありがとうございました。キリンビールさんと日本のスポーツに乾杯しましょう。乾杯!
場内:乾杯!!
金子:ご存じの方がいらっしゃるかもしれませんが、二宮さんは、今からちょうど7年前に、当時まだサッカー専門誌の一記者だった僕をインタビューした最初の方なんです。僕が生まれて初めてインタビューを受けたのが、二宮清純さんでした。その時、えらくベタ誉めされまして。俺もこれやったらフリーになれるなと思ったのを覚えております。今日は二宮さん、よろしくお願いいたします。
二宮:よろしくお願いします。今、御紹介にあずかりましたが、本当はね、飲み友達。
金子:友達なんて恐れ多い。
二宮:そう、オフト(元・日本代表監督)の時ですね、ラモス天皇なんて言われてる時代に、金子さんは「ラモスはもういいから、磯貝を使え」とか書いてたんですよ。
金子:そこで大きな間違いしてますよね、僕。
二宮:全然。この人思い切ったこと書くなぁと思って、一回会ってみようということになったんですが、会ってみたら、何や普通の兄ちゃんかって。
場内:爆笑
金子:今日はようやくサッカーのオリンピック日本代表のメンバーが発表されました。二宮さん、ご覧になられてご感想は?
二宮:そうですね、フォワードは3人ですか。
金子:非常に少ないですね。
二宮:ちょっと心配やね。
金子:僕が非常に気になったのは、フォワードは平瀬君、柳沢君、高原君なんですが、ミッドフィールドで高原君と普段コンビを組んでいる選手はいないんですよ、レギュラーで出そうな選手に。それに、平瀬君、柳沢君にパスを出しそうな選手もいない。結局この中でオリンピック、ワールドカップを経験してるメンバーは中田英寿と松田直樹。このふたりにかかる負担というのが、すごく重くなるんじゃないかという気がしたんですけど。
二宮:都築が選ばれたのは良かったね。
金子:確かに。曽ヶ端君もいいゴールキーパーですけれど、Jリーグで結果を出してるのは明らかに都築君ですから。彼が選ばれないと、何のためのJリーグかとなってしまいますよね。
二宮:トルシエは選ばれとるね。
場内:爆笑
二宮:いや、良かったと思ってる。平瀬とね、この前初めて話したんですよ。カレーのCMをよく見てたけど。
金子:ハハハ。
二宮:ハンサムな人だなあって思ってたけど、話してみると面白いね。フォワードって試合中に、お尻の穴に指入れられるんやってねえ、ディフェンダーに。
金子:ハイハイ。
二宮:ブラジルの連中なんかバーッと寄ってきて、何すんのかと思ったら、尻の穴にバーンと入れるんやって。そうしたら、ウォーッと飛び上がって、ヘナヘナとなってしまうらしいよ。格闘技やったらまだわかるやん。それが、立ったまま指を入れるブラジルのディフェンダーの技術って何なんやろうね。
金子:ブラジル人の発想って根本的に違うなって僕がびっくりさせられたのが、セットプレイの時に相手のスパイクにツバを吐くのが、常套手段としてあるっていうことなんですよ。ツバを吐くのはもちろん反則じゃないわけですけど。
二宮:ハァー。
金子:当然、相手はオイ!ってなるじゃないですか。
二宮:怒らせると。
金子:そのスキに、蹴ってしまえと。
二宮:よく、マリーシア(ポルトガル語で「狡賢さ」)って言うじゃない。その上にもうひとつ悪玉みたいな奴がいて、マリーシアが関脇ぐらいだったら、横綱はマランドロっていう奴がいて、悪玉の王様みたいなんだけど、コイツは何やってもかまへん。交通事故を起こしても逃げたら勝ちやみたいな。サッカーは、マリーシアやマランドロみたいな連中がいっぱいおるんやろ。
金子:まあ、いっぱいはいないですけどね。ブラジル人の中でも、ドゥンガ(元・ジュビロ磐田)みたいな選手はやっぱり特別ですからね。
二宮:あの人は人格者?
金子:あれは悪役。勝つためには本当に何でもやる。味方にとっては、とっても頼もしい選手ですよね。ところで二宮さん、日本のオリンピック代表がどこまで行くかですけど。
二宮:今回の五輪代表は最強やと思いますよ。見てて本当に強いなと。前回アトランタの時も最強チームと言われましたよね。現地でセルジオ越後さん(サッカー解説者)と一緒に練習を見てたら、緑と黄色の鳥が飛んで来たんですよ。それで、「何やこの鳥は?」って話になったら、セルジオさんが「これ野生のインコやけど、緑と黄色やからブラジルのスパイや」って言ったの。そしたらみんな、もう大笑い。つまり、ブラジルのスパイが日本なんかを見に来るわけがないということですよ。でもこれが、多分今やったらね、ひょっとしてどこかにスパイがおるかもしれまへんでってことになるでしょう。それだけ、4年間で進歩したということですね。
金子:なるほどねえ。僕はちょっと二宮さんと考えが違いまして、4年前は対戦相手の日本に対する評価が、不当に低すぎたと思うんですよ。あの時も、ブラジルは日本を偵察する必要があったと思いますし。
二宮:なるほど。
金子:日本人も自信がなかった、それも事実なんですけど。4年前に比べると、明らかに日本人選手は自信を持っている。ただ、飛躍的に4年前と比べて伸びたかというと、僕はそうでもないと思うんですよ。
二宮:そうでもない?
金子:ハイ。もちろん、サッカーはどんな状況でも番狂わせが起きる競技なんですけど。番狂わせが起きるには、ある程度の条件が必要だと思うんです。やっぱりムチャクチャ暑い時、それからムチャクチャ選手のコンディションが悪い時というのは、より番狂わせが起こる可能性が高いと思うんです。前回のオリンピックは、灼熱のマイアミ、しかも7月。ヨーロッパや南米のサッカー選手にとってはシーズンオフ。
二宮:なるほど、なるほど。
金子:そこに、日本の選手たちは3月にJリーグが開幕してトップコンディションで臨んだ。'94年のアメリカ・ワールドカップでも、韓国やサウジアラビアが番狂わせやってますし。暑くて、コンディションが悪い時って、本当に番狂わせが起きやすいんですよ。それを考えると、二宮さんがおっしゃるように、日本のサッカーが強くなってるのは間違いないと思いますが、その強くなったアドバンテージを打ち消す要素も、今回はたくさんあると思うんですよね。
二宮:今度はコンディションが非常にいいですからね。
金子:ハイ。
二宮:ということは、奇跡は起こりにくいと。
金子:起こりにくい。まあ、ブラジルに勝つのは奇跡だと思うんですよね。
二宮:番狂わせは起こらない?
金子:ハイ。
二宮:言い切る?
金子:うん。
二宮:勝負師だな。
金子:イヤイヤ。あと、もうひとつ心配なのは、前回のオリンピックが終わった時に西野朗さん(当時の五輪日本代表監督/現・柏レイソル監督)が何を悔やんでたかというと、準備期間がなさすぎた。それをとにかく悔やんだわけです。
二宮:うん。
金子:今回、一番大事な時期にトルシエはバケーションでいなくなっちゃったわけですよ。韓国のオリンピック代表は、8月29日と31日はナイジェリア代表とテストマッチ。さらに、ブラジルともうひとつどこかとテストマッチが組まれてる。とにかく試合数が多いんですよね。それなのに、日本の五輪代表はどうなっているのか。確かに一昨年の段階では、韓国より日本の方が強かった。でも、その後の準備という点では、明らかに劣ってるわけですよ。
二宮:国内でよく試合をするじゃないですか。非常に言い方難しいけど、やることは無意味じゃないと思うんですけど、花相撲的な意味合いって・・・
金子:ありますね。
二宮:何かそれがあってね。果たして、ギチギチのところでどれだけやってんのか。さっきの平瀬じゃないけど、尻の穴に指入れられるような厳しい試合をもっとやったらいいんじゃないかなって思うんですけどね。
金子:そうですね、本当に。自分の国でやるのであれば、せめて日本と同じように本番を間近に控えた国とやらないと、あんまり意味がないと思うんですよ。
二宮:僕ね、釜本(邦茂)さんを弁護するわけじゃないけど。たったひとつね、この人がええこと言うなぁと思うのは、「サッカーは点取ってなんぼや」って言うでしょう。
金子:ハイ。
二宮:サッカーはあの網の中にボールを入れるゲーム。例えば、ボクシングなら判定もあるし、体操なら9.50みたいに点数が付くわけですけど、サッカーは誰かが点取らんといかんわけでしょう。それがね、システムオタクみたいになってしまって。相変わらず何も解決されてないような気がするんですよ。
金子:国民性プラス練習だと思うんですけどねえ。逆に言うと、韓国ではとにかくサッカーは点を取る。でも、そこに全てを注ぎ込み過ぎてミッドフィールドがものすごくおろそかになっている。
二宮:それはどっちがいいって、一長一短あると思うんです。日本というのは、何かあったらまずみんなで相談しろと。それで稟議書を回すわけですよ。韓国っていうのは、まずケンカしようってなるやん。
金子:うーん。
二宮:とりあえず先に殴った方が勝ちやっていうのがあって。だから、バンバンと行って、シュートを打つというのが国民性みたい。日本の稟議書を回すっていう慎重さも大事やけど、反対に数打ちゃええっていう思想もどこかで取り上げていかんといけないと思うんですよ。
金子:2002年に一緒にワールドカップをやるから、とりあえず今は手をつなぎましょうではなく、本当に小学校、中学校、高校の段階から、お互い行き来して、日本の選手は韓国で練習する、韓国の選手は日本で練習する。そういう環境を作っていくことによって、両方の国が飛躍的に強くなると思うんです。現時点では夢物語ですけど、日韓合同の代表チーム結成されたとしたら・・・
二宮:いいねえ。
金子:僕は、ワールドカップでコンスタントにベスト8はいけると思いますよ。
二宮:それ、面白いかもね。実は僕の方が聞きたいんやけど、トルシエって、ずーっと僕の頭にクエスチョンマークがあるんですよ。非常によく若い選手を使ってるし、チャンスを与えてる。いいところがたくさんあると思うんですけど。
金子:ハイ。
二宮:ただひとつ気になるのは、自主性のないチームって負けんねん、最後は。新聞に書いてさんざん叩かれたけど、トルシエとイメージがだぶるのはマッカーサーなんですよ。
金子:まさに。
二宮:戦後、マッカーサーが何をやったかというと、日本人は6歳のこどもや、ワシが教えんといかん、ワシに逆らう者はいかんと。いわゆる、今の日本の教育現場にはいないような鬼教師なのね。確かに、使われてる選手はみんなトルシエはええって言うよ。だけど、どこかで選手が監督を越えるというか、自主性を持たんと勝てへんと思うんだよね。
金子:まさにおっしゃる通りです。トルシエにとっての誤算は、植民地的なやり方に反発してくる選手の少なさだったと思うんです。彼が今まで指揮を執って結果を出してきたところは、アフリカですよね。国家という概念より、部族に対する概念の方が強い。そこで国家の代表チームを作るためには、はっきり言って強烈な締めつけ、強権が必要だった。トルシエがやったのはそういうスタイルだったと思うんですよ。
二宮:植民地支配やったからね。
金子:ハイ。ただ、頭ごなしに抑えつけても抑えきれないぐらい反発してくる力が、アフリカの選手たちにはあった。それが、攻撃においてのイマジネーションになってたと思うんです。
二宮:なるほどね。
金子:それで、彼は同じやり方を日本に持ち込んで、服従を強いた。もちろん反発されればむかつくんでしょうけど。服従を命令したら、反発してもらわないと困るのが彼のサッカーだったと思うんです。ところが、みんな怯えてしまった。
二宮:それは生殺与奪というか。監督が選択権を持ってるわけだから、選手たちは言いたくても言えないよね。
金子:ただ、それでも反発してくるところで彼はやってきたわけですよね。まあ、そのへんの苛立ちがものすごい自己矛盾の発言だと思うんです。「日本人は赤信号になったら渡らない、だから勝てないんだ」というような発言になった。信号が赤だと言ってるのは自分なのにもかかわらず、どこかでそれを選手に破って欲しいという期待があるわけですよ。
二宮:破ってくれないとね。
金子:もうひとつ言うと、それを口にすること自体、日本という国をちょっとなめてるんじゃないかという気がするんですけどね。
二宮:僕もそう思うね。
金子:例えば、ドイツ人も信号を守りますよ。じゃあ、フランス人である彼がもしドイツのチームに行って、「ドイツ人は赤信号だと渡らない」って言えるか? まず、言えないですし、言ったら大変なこと。それが日本では言えてしまったし、言っても何にも起こらなかった。それで、「なんだこの国は。何でもOKか」と思わせてしまった可能性はありますよね。
二宮:まさにそれがあるんですよね。僕とか金子さんとか、協会批判の急先鋒なんて言われてるけど。きちんと話をすればね、日本サッカー協会の言うこともわかるんです。それがね、トルシエは自分に対する批判を全て協会批判に変えて、逃げたってところがあるでしょ。
金子:すり替えましたよね。
二宮:僕、協会の人と話してて、なるほどなあって思ったのは、トルシエと再契約するにあたってお金を出しますよね。プロの監督だから、当然金は取れるだけ取る。正しいと思いますよ。
金子:ハイ。
二宮:でもね、予算っていうのはあり余るほどあるわけじゃないですから。トルシエにも「この程度でええやろう」とか、言うべきところはやっぱり言わないと。日本の公共事業やないけど、そうしないと破産しますよ。
金子:ハイ。
二宮:「トルシエ、そこまでは言ったらいかんよ」ってね。「自分はスーパーパワーや。何言うてもかまわん」っていうふうに、トルシエがなってしまったら逆にお互い不服な関係になると思うんですよね。
金子:一時期、トルシエにモロッコから監督就任の打診がきてるっていう話がありましたね。随分強気になってましたけど、彼が一番わかってるはずですよ。自分に1億6000万円も出す国なんて、地球広しと言えども、ここしかないって。
二宮:やっぱり、そのへんが上手いっていうか。アジアだとかアフリカというのをなめてる。植民地を支配する側の人間の知恵っていうのは感じるね。
金子:二宮さんもおっしゃった通り、僕も協会を一方的に非難するのは間違いだと思うんですね。彼らは、間違いなく一生懸命やっている。ただ、だからと言って許されるのかと言ったら、違うと思うんですけど。
二宮:全く同感。
金子:同じようにJリーグのフロントも一生懸命やってる。彼らは、チームがつぶれるかもしれないと感じて、必死でやってる。日本サッカー協会は、一生懸命やってるかもしれないけれど、果たしてJリーグで苦しい台所を支えてるチームほど必死なのか。
二宮:その通り。やっぱりね、僕はシステムを変えるしかないと思ってるんですよ。
金子:そうですね。
二宮:システムの何がまずいかって、やっぱりね社団法人法ですわ。
金子:はあ。
二宮:この前調べてなるほどなぁと思ったのは、社団法人というのは全て理事会の決議で決まるんですよ。そうなると、理事会っていうのは地方に住んでいて、Jリーグを普段見てない人も議決権を持ってるんです。
金子:そうなんですよね。
二宮:だからね、これはシステムを変えないと。そう考えると、岡野会長にも同情する点があるし、トルシエにも同情する点がある。ハッキリと権限を明確にするためにはね、大がかりな構造改革をやるしかないんやないかなあと思いますね。
金子:理事会スタイルの弊害っていうのが、結局、誰が決断するのかわからない部分で。
二宮:そう、そう。
金子:どう責任とるのか、全く不明なまま来てるのが、サッカーだとしましょう。逆に、俺がやるって言いだした人がいて、突っ走ちゃったのが、日本水泳連盟ですよね。
二宮:そうだね。水連なんて、全く誰も文句が言えない組織なんですよ。要するに日本人っていうのは基本的に、長いもんに巻かれろだから。僕らみたいに文句言ってる奴らはいつか弾かれるの。今はうまく行ってるけど。
金子:ハハハァ。
二宮:俺らも3年か5年の命やから。それはともかくとして、サッカー協会で幹部会って決めたじゃないですか?
金子:ハイ。
二宮:でも、幹部会なんて何の権限もないですよ。僕は調べたけど、協会規約によれば議決権も全くないの。例えば、加藤久さん(湘南ベルマーレ監督)が強化委員長をやった時、'95年ですね、僕、長沼(健)さん(当時の日本サッカー協会会長)に聞いたんですよ。その前の強化委員長だった川淵(三郎)さんは、オフトも決めたし、加茂(周)さんも決めた。ということは、「強化委員長には決定権があるんですね」って言ったら、加藤久さんは切られてしまった。それじゃあ、「強化委員長には決定権がないんですか」って、また長沼さんに聞いたんです。そしたら、長沼健っていう人はねえ、面白い男でね。「代表監督の選定権はあるけど、決定権はない」って言ったね。
金子:さすが賢い方は、言葉の使い方が違いますねえ。
二宮:勉強になったね。僕はメモしましたよ。「選定権はあるけど、決定権はない」って。それで今回、釜本さんがガーガー言った時に、「強化委員長に選定権はあるわけですよね」とある協会の幹部に聞いたわけです。そうしたら、「推薦権はあるけど、選定権はない」って言ったんですよ、今度は。お前らいつ変えたんやそれって。決定権が選定権になって、推薦権になってるわけですよ。僕は見逃さんよ。
金子:見事な言葉遊びですね。
二宮:推薦権の後、何くるんかなって思ってね。
金子:結局、「わからない」っていう答えしかないですね。
二宮:誰が責任とるかわからない、日本型システム。ハッキリさせなあかん。やっぱり、代表監督の決定というのは会長の領域やと思うんですけど、そうしたら代表監督の首が飛ぶたびに、会長もコロコロ変わってしまうでしょ。違う意見の人もいると思いますけど、強化推進本部長にとりあえず代表監督マターは任せる。つまり、食料品に何か虫が混入されたとしたら、責任は厚生大臣までやと。厚生大臣はクビになるけど、総理大臣まで毎回変えてたら、1ヵ月に一回位、日本の総理大臣が変わるとまずいですから。会長の一番の責任というのは、サッカーの普及やからね。普及がうまくいかん時には会長の責任ですよ。だけど、代表監督マターは、力のある強化委員長を連れてきて、その人に任せて、それが上手くいかんかったらアンタもクビやと。このくらいがベストやないけど、ベターだなあと。
金子:まあ、そうですねえ。言われてみて僕も、ふと思ったんですけど、クラブチームの場合、結果が出ないとすぐ袋叩きに合うのは会長なわけですよ。まず最初は監督ですけど。でも、サッカー協会という大きな組織にあっては、代表チームはあくまで、いくつかある仕事の中のひとつにすぎないわけですから。
二宮:そうそう、ワン・オブ・ゼムなんだよね。
金子:そこでダメだからと言って、他のことが全く見えなくなってしまう、不問にされてしまうのは、確かにおかしいし。でも、代表監督の責任をとる人が誰なのかっていうのが見えないから、直接的に上に行っちゃうわけですよね。
二宮:それが見えなくても、以前はここまでジャーナリズムがサッカーを追いかけなかったし、叩かなかったから、川淵さんなんかがいいようにやってたわけでしょ。
金子:うんうん。
二宮:当時の川淵強化委員長が監督を次から次からへと変えてたわけですよ。でも、ある意味において、誰かそういうふうに代表監督マターの責任をとる人を置かないと。僕は、協会としては、強化委員長を置くシステムは間違いではないと思うんですけど、人選が間違っていたと思うんですよ。
金子:なるほどね。
二宮:野球でも、ゼネラルマネジャーのシステムは正しいんです。ただ、千葉ロッテが広岡(達郎)さんをゼネラルマネジャーにした人選が間違っていた。同じように、釜本というのは人選を間違えた。
金子:何度も言ってることなんですけど、ガンバ大阪を強くできなかった方がですね、日本代表を強くできるとは、正直僕には思えなかったですし。確かに釜本さんは素晴らしく偉大なストライカーで、あの人のことは大好きなんですけど。彼が、誰かひとりでもいいからストライカーを育てたかって言うと、今ガンバ大阪のツー・トップは誰だっけということになるわけですよ。
二宮:日本は、どうしたら点を取れるんやって取材に行ったの。釜本さんしかおらん思うてね。それで、「どうしたらいいんですか?」って聞いたら、返ってきた答えが、「腹筋を鍛えろ」ですもん。
金子:ハハハァ。
二宮:そんなんひと言で言われて、どうやって20枚原稿書くんや。これ、笑い話なんですけど、意外にいいこと言ってるんですよ。確かに腹筋を鍛えたら、シュートがきちんと抑えられるんですよ。ポカポカふかしてたりしなくなって。でもねぇ。
金子:あの人は、聞きに行くと答える人なんですよ。ただ、聞きに来るのを待ってる人でもあるんですよね。
二宮:ボールは自分のところへ来るもんやと思ってるから。
金子:そうそう。
二宮:フォワードやから、神様やから。ボールを俺によこせと。だから、向いてないんですよ、強化本部長とかの汚れ役は。
金子:先ほど協会の責任という話になりましたけど、ここまでダイレクトに協会トップに責任が行くようになったのは、加藤久さんの更迭以降だと思うんですよ。
二宮:いや全く同感です。
金子:あそこで上が乗り出してきたからですからね。
二宮:そうそう。あの時に日本のサッカーはおかしくなったんですよ。加藤久さんは強化委員長だったから、代表監督に関する全権を持ってると思ってた。それで、ネルシーニョに交渉しに行った。ところが、さんざん手続きを踏まえて契約を進めていたのに一気にひっくり返されてしまって。僕、長沼さんに言ったんですよ、加茂さん続投の時の記者会見ですけど。「加茂さんの監督としての能力をどう評価してるんですか」って。そしたら、「能力という問題ではなくて、今はうまくいってる」って。能力を評価されない監督って不幸でしょう。
金子:それは、日本のプロ野球も関係してますよね。
二宮:そうねえ。困ったもんだねえ。会社でもそうだよね。だいたい能力がない人間が、上に行くんだよ。ゴマすってたらうまいこと多いから、この世の中は。
金子:本当そうですよ。
二宮:権限っていうのは責任の大きさにに応じたものなわけだし、それはコインの表と裏じゃないですか。日本はコインの表だけが歩いてるわけで。誰もとらへんからね、責任を。水連の問題なんかにしても、古橋さんがアトランタ・オリンピックで誰もメダル取れんかったのを、千葉すずひとりのせいにしてるけど。水連としては、誰ひとり責任とってないから。やっぱり誰かが責任とらんと、次に行けんでしょ。
金子:会社に例えれば簡単だと思うんですよね。いろんな部署があってそれらが全部ダメだと、大赤字で大変なことになってしまうから、社長の首が飛びますよね。
二宮:当然ですよ。
金子:でも、ひとりの部長が大失敗をしたからといって、社長が飛ぶか。違う話なんですよね。
二宮:そうそう。だから、サッカー協会全体から言えばねえ、Jリーグを作る時4つ目的があった。一番がスポーツ振興で、二番目が代表強化。あと三番、四番は忘れたなぁ…。これら全部の目的が達せられない時、サッカー協会の会長が責任とるべきですよ。でも、誰かが責任をとらなくてはいけなくなった時に、その問題に関する最高責任者を置いておくべきで、それが代表監督の問題なら強化推進本部となるわけですよね。今までだったら、強化推進本部の力というのは、まあ協会全体の1/20ぐらいでいいと思ってたけど、2002年を控えてるから1/5ぐらいの力を与えてもいいと思うんです。やっぱり重点的に強化すべきだと思いますから。責任と権限を与えるべきだけど、100%与えるとさっきも言ったように、代表監督が変な采配をしたから、それ選んだ人間がクビというわけで岡野会長が飛ばされてしまう。これはおかしい。俺、岡野のことなんか全然弁護してないですよ。だってJリーグを作る時、一番反対したのが長沼健と岡野ですもん。
金子:ハハハハ。
二宮:'98年のフランス・ワールドカップに出場できたのもそうですし、その前の'96年のアトランタ・オリンピックでブラジルに勝ったのもそうですけど。全てJリーグ効果じゃないですか。そのJリーグの設立を時期尚早だと一番反対して、「日本にはプロ野球があるのに、プロリーグなんか作って誰が責任取るんや」と言ったのが、長沼さんと岡野さんですよ。その岡野さんが、日本サッカー協会の会長。多少の自己批判があってもいいんじゃないかな…。
金子:責任とれって声が上がってくるのも、むべなるかなってとこですよねえ。

【…後編につづく】 後編へ

取材・構成:CREW
撮影:末石直義