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@ぴあ/HOTスポーツの人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。8月27日に行われたイベントの模様を、そのままお届けします。
 vol.3 後編
 SUPPORTED BY KIRIN

「どうなる! サッカー五輪代表」(後編)
前編はこちら

出演者プロフィール
ホスト:金子達仁(スポーツライター・左)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターとなり、スペインに移住。「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などベストセラーを生み出した。今、日本で最も売れ、最も刺激的なスポーツ・ノンフィクション作家。
ゲスト:二宮清純(スポーツライター・右)
'60年、愛媛県生まれ。スポーツライターの第一人者として、新聞、雑誌、テレビ等を舞台に幅広く活躍中。主な著書に、「Do or Die」(KSS出版)、「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)、「最強のプロ野球論」(講談社現代新書)がある。

二宮:金子さんに聞きたいんだけど。
金子:ハイ。
二宮:トルシエ監督は岡田監督よりはマシだと言ってるけど、その評価すべき点と評価しない点はどこ?
金子:トルシエの評価すべき点、そうですねえ、若年層のチームを任せるにはいい監督だと思うんです。割とチャンスを誰にでも与えるし。それによって、選手層が厚くなった。ただ、層を一番厚くしたのは、Jリーグだと思ってるんですけれども。それでも、トルシエが選手層を厚くしたっていう部分も確かにあると。これって両刃の剣で、誰にでもチャンスを与えるってことは、誰でも切るわけですよ。そこで、彼の植民地感覚が顔を出すのかな。切った選手に対するフォローって全くないんですよ。だから、ある外国人監督なんか、「トルシエに、うちの選手がボロボロにされた」と激怒してるわけですよ。そう言われるのも仕方がないところがある。
二宮:外国人監督のアルディレス(横浜F・マリノス)とか、ハジェブスキー(元ジュビロ磐田)とか、トルシエのことをムチャクチャに言うね。
金子:はあ。
二宮:あれはどう思う? 俺は理解できるとこあるんやけどね。
金子:とっても理解できますよ。Jリーグの監督は日常的に日本人選手と接してるわけですよね。だから、日本人のメンタリティーもトルシエよりは通じてる部分があると思うんです。それに、トルシエよりも日本に長くいるというプライドもある。彼らからすると、「あとからやって来て」、言い方すごく悪いけど、「なんで王様面してるの?」っていうのがあるんでしょうねえ。
二宮:自分が代表監督になったら、もうちょっとええサッカーするよってのもあるんかね、やっぱり。
金子:それもありますし。あとは、一時期Jリーグを無視するような発言をトルシエがしたじゃないですか。代表のために休めだとか。スケジュールが非協力的だとか。これねえ、国内リーグが未発達なところで代表監督をやってきた人ならではの発言なんです。
二宮:なるほど、なるほど。
金子:ところが、Jリーグをやってる側からすれば、たまったもんじゃないですよね。
二宮:だから、なんでオリンピック期間にJリーグを休むのかわからん。
金子:これ、すっごく矛盾してるんですよ。オリンピックは随分変わってきたとはいえ、所詮2軍の大会ですよ。2軍の大会なら、休む必要はないんです。他の国が2軍を送ってるからって、うちも2軍を出すという考え方じゃなくていいと思うんですが。他は2軍でも、うちはトップチームを送るよと。そのためにJリーグを中断する、俺たちはオリンピックにかけてるんだっていう考え方があってもいい。あってもいいけど、そういう考え方をするんだったら、もっと強化しろよと。強化を全くしてないわけですよ。
二宮:してない、してない。
金子:強化を全くしないでおいて、Jリーグは中断してオリンピックに集合させる。これはものすごいナンセンスだと思うんですよねえ。
二宮:そうだねえ。
金子:このあたりの意志が統一されていないっていう気がするんです。
二宮:ところで、みんなは2002年、2002年って言うけれども、日本のサッカーにとって、あるいはスポーツ文化にとって一番大事なのは2002年以降だと思うんですよ。
金子:そうですよね。
二宮:野球の場合、アメリカで勝つために作った日本代表チームだったはずの巨人が、いつの間にか企業の宣伝だけに使われて、地域のチームが育たなかった。簡単に言えば、巨人が勝っても日本のスポーツ文化は豊かにならなかった。その反省からきてるわけです。日本のサッカーが強くなることによって、あるいは成長することによって地域に潤いができるだろう、そうすれば競技人口が増えるだろうと。我々はスポーツを単に”見る”だけではなく、”する”環境を増やしていかなければならない。日本のスポーツの一番の問題点、サッカーがまだ本当の意味で育っていない点は、サポーターがクラブメンバーになってないことなんです。
金子:全くそうですね。
二宮:ヨーロッパの場合には、サポーターよりクラブメンバーですよ。みんながボールを持って試合をするわけ。試合が終わったら、バーで酒を飲みながら、「今日のお前のプレイは良かったな」とやる。これが本当。日本の場合、ただ応援しているだけでボールを持って来ない。やっぱり、サポーターからクラブメンバーに変わっていかないといかんのですよ。この可能性が一番あるのが野球ではなく、サッカーなんです。だから、僕らはサッカーを支持しているのに、今のままだったらサッカーの日本代表が巨人みたいになるやん。ただ、「勝てばいいんじゃないかな」ってなる危機性があるわけです。
金子:ヨーロッパのクラブっていうとすごく特別なものという感覚が日本人にはあると思うんですが、ドイツでホームステイした時に僕がすごく感じたのは、何だこれ、日本の学校のクラブと感覚的に一緒なんだなってこと。自分はサッカー部だけど、テニス部の試合があればガンバレ、ガンバレって。この感覚が出てこないと本物じゃないですよね。
二宮:それが地域主体となるわけやん。だから、村田亙というフランスのクラブに入ったラグビー選手に話を聞いたら、バイヨンヌというたった人口4万人の町にあるスポーツクラブには19種目あるらしい。日本だったら、野球だったら野球だけ、サッカーだったらサッカーだけでしょ。そうでなく、ひとつのクラブになって自分たちの町を応援するというふうにならないとね。例えば、横浜スポーツクラブだったら、野球のベイスターズも入らんといかんわけでしょうし、関東学院大ラグビー部も全部入らんといかん。まだまだ競技の壁があるわけですけど、それを取っ払うには、やっぱりサッカーがリーダーシップを発揮する必要があるというのが、僕の意見なんです。
金子:まあ、広島でね、似たような企画が進行中ですが。あのー、何が起こるかわからないスポーツの未来を占うっていうのは難しいし、あんまり意味があるとは思わないんですけども、オリンピック代表が勝てなかったとする。原因はハッキリしてますね、準備不足。
二宮:そう、準備不足。
金子:あのアジア最終予選を終わってから、一体何試合テストマッチをやったんですか。
二宮:それもきちんとした緊張感の中での試合をやっていない。花相撲やったと。
金子:モロッコでフランス代表に引き分けたでしょう(6月のハッサン2世国王杯)。悪いことじゃない。ただ、そこでね、得たものが何かの役に立つのか。2002年でフランスと当たったとします。フランスにリードを許した時、モロッコで僕たちは引き分けたから大丈夫だと思えるのか。思えるわけないんですよ。ゴールしても喜ばないフランス代表を、選手たちは見ちゃってるんだから。フランス代表が一生懸命やってないってことは、彼らが一番わかってるわけですよ。これがね、パリ郊外のサンドニでやってフランス人の度肝を抜いたっていうんだったら、仮に2対3で負けてたとしても、大丈夫だと思えたかもしれない。
二宮:あのさあ、ちょっと具体的なこと聞きたいんだけど。僕ね、トルシエの攻撃のアイディアというのにこだわりたいんですよ。
金子:ハイ。
二宮:あとは選手の創造力、クリエイティビティーとイマジネーションの問題やと言うけど。確かにそれはわかる。わかるけれども、やっぱり道筋は用意せんといかん。僕ね、将棋が大好きなんやけども、サッカーも、ペナルティエリアに入ったら詰め将棋やねん。詰め将棋っていうのは何回も何回も、羽生や谷川などプロの棋士でも、ズッと繰り返すわけですよ。だから、詰めるわけでね。その詰め将棋のディテールの部分のアイディアをね、示してないと思うんですよ。
金子:そうですね。
二宮:そういうのを聞こうと思ったら、トルシエはいきなり協会批判にすり替えるから、オイオイ、ちょっと話が違うぜと。やっぱりトルシエって、アイディアを出してない気がしない?
金子:彼が結果を出したのは、アフリカですよね。彼に求められたのはルールを作ることであって、その先を示すことはなかった。それは、選手たちの中に潜んでいるものだった。
二宮:あとは選手たちの身体能力が高かったら何とかなるやろと。
金子:セットプレイは、もう圧倒的な武器ですしね。日本にはそれがないわけですよ。
二宮:ないない。
金子:以前ドゥンガにインタビューした時に言ってたんですけども、ブラジル人の彼から見ても「日本のサッカーには決まりごとがなさすぎる」って呆れてるわけですよね。
二宮:全く同感。僕がサッカーを取材した中でね、一番すごいのはネルシーニョ(元ヴェルディ川崎監督)なんですよ。ネルシーニョって黒板でこうやって、こうやってって。将棋で言えば詰め将棋みたいに。加藤久さんやったら5手くらいでわかんなくなったけど、ネルシーニョは10手までいくんですよ。ラモスが完全に参りましたみたいな感じになってね。4バックから3バックに試合中に変えてたじゃないですか。僕らも見て、ネルシーニョってすごい人やなと思いましたよ。あれと比べたら、トルシエは全然。3次元方程式を解いている人と、足し算引き算をやっている人って感じ。
金子:それは、彼が悪い監督っていうことではなくて、日本のような国に合わない監督だと、僕は思うんですよね。
二宮:なるほどね。あとは身体的な特性で解決してくれと。日本みたいに本当に決めごとを作らなければいけない国では、もっと細かいことやらんとダメだと。
金子:オリンピック代表の登録メンバー18名見て、まず思ったのは、これは中田英寿に全てを委ねたんだなということですよね。
二宮:なるほどねえ。トルシエっていうのは、協会では岡野さんを見つけ、ピッチの上では中田英寿を信じると。
金子:言い切ってしまうとそういうことですよね。中田英寿はいい選手ですけれども、彼はマラドーナじゃないわけですよ。同じようなことをやって'86年のビラルドっていう監督は成功したんですけどね。マラドーナと心中、マラドーナに全てを託す。みんながマラドーナを抑えに来たけれども、マラドーナはそれはねのけちゃって。
二宮:そうだよね、手も使って点も入れちゃうしね。
金子:ありとあらゆることをやって、マラドーナは勝った。中田英寿が相手に同じことをされた場合、それは無理ですよ。ただ、このチームにおける彼は、マラドーナ的な役割を課せられてますよね。
二宮:それは、彼にとっては不幸だってことやね。
金子:うーん。モロッコでの彼はもう本当にヘロヘロでしたよね。あの頃に比べれば、コンディションが良くなってますから。いいサッカーできる可能性がありますけど、ただ対戦相手も同じことですから。トルシエに攻撃のアイディアを期待するのは、もう諦めました。
二宮:期待してもダメだって言うこと?
金子:うん。
二宮:詰め将棋できないんだ。
金子:きっと、ヨーロッパでも南米でもサッカーはチェスだって言いますけれども、チェスはあんまり好きじゃないんでしょうね。
二宮:うーん、古い話してもしょうがないんだけど、ネルシーニョだったら、簡単にワールドカップに行けてたでしょう。
金子:ハイ。
二宮:加茂さんだとか岡田さんになって、マレーシアで最後にああいう形になってようやくワールドカップに行けたけど、本当は簡単に行ってたと思うんだよね。
金子:行かなきゃいけない。
二宮:行かなきゃいけないけどさ、あれだけダッチ・ロールをやって。今回も原因はハッキリわかってる。トルシエを続投させたことですよ。これはトルシエがいい、悪いじゃなくて、協会が決断することで、上層部が勝つための指導者を呼んでくるんだったら、あそこでやっぱり切らないといけないじゃないですか。
金子:ですねえ。
二宮:よくやってくれた。若い選手にチャンスを与えてくれた。緊張感の中で若い選手を鍛えてくれた。ありがとう。だけれども、こっからの勝負は、次の人間やでと。
金子:ハイ。
二宮:そういうことを、協会が言わないといけなかったわけですわ。それが、べンゲルにいつまでたっても、ストーカーみたいに付きまとって。
金子:忘れちゃいけないのが、彼はグランパスを放り出して、アーセナルに行ったわけですよ。
二宮:ねえ。
金子:僕は悪いことだと言うつもりないですよ、ビジネスだから。彼のステップアップのためにそれは必要だった。
二宮:ビジネスでしょ。
金子:ハイ。
二宮:全てが。
金子:ところが、日本人はそこに情を絡ませようとするわけですよ。よくやってくれたからだとかね。向こうがビジネスだったら、こっちもビジネスでいいと思うんです。
二宮:全く同感。今度はベンゲルが2001年から契約してもいいよって言ってるらしいんですけど。トルシエは当然2002年の本大会で指揮を振るまでの契約を求めるわけじゃないですか。なんで、ベンゲルと交渉して失敗したっていう企業秘密を平気でベラベラ喋るのかね。
金子:まあ、賭けてもいいですけど。アーセナルは今回、ヨーロッパ・チャンピオンズリーグでとっても厳しい組に入ったわけですよ。コケてリーグ戦の優勝の目がなくなった時点で、またベンゲルの話が出てきますよ。
二宮:出てくるよ。ずっと、水面下で交渉してるわけじゃない。
金子:ハイ。
二宮:僕はベンゲルさん、優秀やと思いますよ。思うけれども、やっぱり日本の協会がね、本当に優秀だとするならばね、きちんと契約を結ばなきゃ。
金子:ハイ。
二宮:ある週刊誌に書いたんですけど、日本協会はジゴロになれと。
金子:ハハハァ。
二宮:監督っていくつも選択肢があって、これがダメやったらこれ。これがダメやったらこれという選択肢を持ってないといけないわけじゃない。それが、オール・オア・ナッシングで、例えば、自分が一番好きな女に「あんたと結婚したい」って言って、フラれたら私は独身でいますっていうわけにはいかんやろ。
金子:びっくりするのは、世界中で本当にひとりかふたりですよね。選ぶ側より監督が偉いケースって。日本の場合、決してビッグネームでもスーパーでもない監督なのに、なめられてますよね。
二宮:オフトの時はしょうがないですよ。だけど、今はこれだけサッカーが育ってきた中で、なんでひれ伏さんといかんのか。
金子:今まさに二宮さんがおっしゃった通り、オフトとトルシエって能力的にもタイプ的にも、非常に似通ったところにあるんですよ。
二宮:そう、同感ね。
金子:次のステップに行くべきですし、Jリーグにはトルシエよりもはるかにいい監督がいるわけです。二宮さんから再三名前を出して頂いたネルシーニョは、Jリーグの日本人監督、あるいは選手から、やっぱりすごく高い評価を受けてたわけですよね。もちろん、嫌いだって人もいましたよ。ただ同時に、あれはすごいという人が確実に存在してた。今のJリーグにトルシエはすごいっていう人、外国人監督ではまずひとりもいないわけですよ。
二宮:いないね。
金子:日本人監督もほとんど、怒ってる。なめんなと。そういう人物に協会はひれ伏してるわけですよね。
二宮:そうなんだよね。選択肢がいくつもあって、そのうちのひとつが、トルシエだったらいいわけですよ。ベンゲルというような深窓の令嬢に恋をして、ストーカーみたいにつきまとったけど、全然いい返事がないと。もう一回付き合ってくれと頼んだら、トルシエに「アンタいい加減にしなさい」ってケツ叩かれて、そろそろ結婚しなさいって婚姻届に判を押させられたみたいな。ほかにいないからっていう状況でしょう。何でほかにもっとねえ、愛人作ってなかったのかって。
金子:本当にもっと、したたかでないといけないんですけどね。
二宮:だから、今西和男さんなんかもそれ言うんだよね。もっと、選択肢を作るべきだと、
金子:ハイ。
二宮:なんで、もっといろんなところに交渉の窓口がなかったんやと。ひとつしかないからつぶれてしまったらおしまいだと。
金子:そろそろ、質疑応答を始めましょうか。はい、どうぞ。
客:JFLの横浜FCが地域密着型ってことで今やってると思うんですけど、金子さんはスペインの方へ留学されてたこともあるのでFCバルセロナなどに詳しいと思うんですが、地域密着型のスポーツをこの21世紀に発展させるためにはどうすればいいんでしょうか。
金子:これ全てのスポーツについて言えることなんですけども、例えば、ヨーロッパの場合、僕たちの先祖はこの街に1000年前から住んでいるという人たちがいるわけですよ。1000年前からローマっ子だとか、1000年前からバルセロナに住んでたとか。日本では関西がそれに近いのかな、だいたい人口の8割が3代前から住んでるので、それだけ地域に対する思いが強い。それが、ヨーロッパでは本当に強い。だからまず、地域密着型のスポーツが成り立つということがあると思うんですね。それと、もうひとつ忘れちゃいけないのが1000年前からバルセロナに住んでる人がいる、1000年前からローマに住んでる人がいる。でも、1000年前からサッカーがあったわけじゃない。サッカーなんて所詮200年前の話なんです。では、誰がチームを作ったのか。選手が作ったわけですよ。あくまで主役は選手だった。その考え方が今も、脈々と息づいていると思います。横浜FCはすごくがんばっています。Jリーグのチームにもがんばっているところがある。ただ、選手たちにとってクラブっというのは、作ってもらったものなんですよね。自分たちが作ったものという考えがすごく少ない。主役は選手なんですけれども、選手自身が自分を主役だと思ってないという問題もあるわけです。
金子:次の方、はいどうぞ。
客:先ほど、サッカー協会の中に、ゼネラルマネジャーのような制度を確立したらいいんじゃないかというお話がありましたけど、具体的に今、選ぶとしたらおふたりは誰が適任とお考えですか?
二宮:僕はやっぱり、今まで取材した中でナンバー1の、金の計算ができてサッカーがわかってる・・・
金子:ちょっと待って。
二宮:今西・・・
金子:あっ、同じだ。
二宮:圧倒的に今西和男さんですよ。
金子:僕も、全く同感です。
二宮:金の計算ができるの彼しかいないもん。キチンと交渉できるのは。今西和男は、全部結果を出してますよ。例えば、選手を取るよりもコーチを高校とかに派遣して育てた方が安いんじゃないかとか。500万円という人件費でコーチをひとり派遣した広島南高校は優勝しましたよ。それで、選手を取った方が安いわけ。そういう発想ができるんですよ。それと日本がなんで韓国に勝てるようになったかっていうと、それは全部今西和男の情報のおかげですよ。彼だけですよ、韓国のサッカー関係者からポッサムキムチが贈られてくるの。要するにアンタを信用してますよってことですけど。そこまで人脈を作れて、金の計算ができて、サッカーがわかってるていうのは、彼ぐらいしかいないんじゃないの。
金子:僕も全く同感です。むしろ、あの方はJリーグよりももっと大きなステージでやった方がいい方だと思うんですよね。
二宮:例えばね、日本がワールドカップに行ったのは一回しかないんですよね。誰が行かせたのか、これ、今西和男だってハッキリ言えるんですよ。あそこで、加茂さんの首を切れたのは、今西さんしかいないわけじゃない。
金子:ゼネラルマネジャーっていうことであれば、加茂さんもアリだと思うんです。僕、あの人には監督としての能力は、もう正直言うとかなり厳しいものがあると思うんです。ただ、フリューゲルスの監督をやっていた時代、今西さんがおしゃってたことなんですけども、「加茂周は監督の能力はない、ただゼネラルマネジャーとしての能力はワシも負けるかもしれない」と。だからこのふたりかなあ、僕の中では。
二宮:やっぱりさあ、加茂さんってさあ、土建屋の親父なんだよね。
金子:コラ、コラ。
二宮:だってさあ、今予算集まんないからさあ。当時は取れたよ、加茂さんの顔で木村和司とか水沼貴史だって。今は将来就職の面倒を見てやるとか言えないじゃない。
金子:ちょっとすいません、答えようがありません。次の質問お願いします。はい、どうぞ。
客:オリンピック代表がどのぐらいの成績を残すかという予想は一般的にあると思うんですけども、2002年とか2003年以降のことを考えたら、どういう成績を残すべきなのか。例えば、優勝がいいのか、予選リーグで負けてしまった方がいいのか。そこらへんのお考えがあれば、聞かせて頂きたいんですが。
金子:さっきもちょっと言いましたけれども、2002年の試合で相手にリードを許しても、「大丈夫だ。だってあの時も」と思えるような試合をやって欲しい。僕、サッカー、というかスポーツはまず、結果を重視すべきだと思いますし、僕自身、結果を求めますけれども、内心では例え負けるんであっても、4対5で壮絶などつきあいの末に負けたら、残るものってあると思うんですよ。2002年、本当に苦しくなった時に自分を支えてくれるような試合をやって欲しい、ということですね。
客:あともうひとつ。日本代表がこれから目指すサッカーなんですけど、攻撃的なのか、ディフェンシブなのか。どちらがいいとお考えなのか、おふたりにお伺いしたくて。例えば、イタリアみたいにしっかり守って、いろんなところから文句を言われ、雑誌で叩かれながらもファイナルまで行って、そこそこの成績を残すサッカーがいいのか。それとも美しく戦って美しく散るオランダのサッカーがいいのか。
金子:まず、自分たちのサッカーを語るには、まだ日本は弱すぎますよね。自分たちのサッカーがやれる実力関係にないわけじゃないですか。どれだけ超攻撃的なサッカーでアジアを勝ち抜いても、ワールドカップに出ればディフェンシブになってしまうわけですよ。僕としては、最終的には、他を圧して勝つサッカーをやってもらいたいけれども、現時点では少ないチャンスをモノにする形というのは、伝統として作っていくべきだと思うんです。ですから、欲張りなようですけれども、長い目では攻撃的サッカー。
二宮:僕はね、金子さんの意見とほとんど似てるんだけど、デフェンスとかオフェンスっていう概念がなくなってると思うんだ。本当の意味でトータリズムっていうのがきてて、守ってるっていうのは、例えばボールが支配されてるからであって、攻められてるのかっていったら意外にそういう問題ではない。例えば、ブラジル人なんかはボールを常に持ってないといけないっていうか、持ってると攻めてるように思うけれど、そういう概念が多分、これからはなくなるんじゃないかと思うんですよ。相手にボールを持たせてても、絶対に崩されないっていう陣形があるわけだし。攻撃だとか、ディフェンスだとかっていう概念がなくなる。その中に日本人独特の勤勉さを出す。日本人の今の段階ではですよ。将来的にはどうなるかわかりませんよ。今の段階においては勤勉さを否定するのではなくて、肯定しながら汗をかくようなね、みんなが働きバチのようにやる。89分間休んで1分間で点を取るというような人って、日本には出てこないと思うんですよ。となると、国民性の中で融合しながら、その中でベターな選択をするしかないんじゃないかと思うんですけどね。
金子:そうですね。さっき言いかけたのにちょっと付け加えると、最終的に相手チームよりも、長くボールを持っていられるチーム。そのことによって、ピンチの数を減らし、チャンスの数を増やしていく。ただ、もちろんツボにはまったら、ここはキュッと行くよっていうサッカーがいいなあと思うんですけどねえ。よろしいでしょうか。最後に、はい、どうぞ。
客:日本代表の監督の話なんですけど、2002年に向かって、実現するかどうかは別として、理想の監督は誰がいいと考えていらっしゃるか、おふたりに聞きたいんですけど。
二宮:僕、野球は江夏豊さんで勉強しました。サッカーはネルシーニョで勉強しました。だから、やっぱりネルシーニョ。彼は心理学者であって、役者なんですよ。しかも、テクノロジーみたいなのがはっきりわかってる。一例を挙げますと、ヴェルディにいた時に、柱谷哲二とビスマルクがマークを間違えたって言って、ピッチの上でケンカをし始めた。哲ちゃんもカーッとなるからビスマルクに頭突きなんかして。それを見たネルシーニョが、ハーフタイムで選手が戻ってきたらテーブル放り投げたんですよ。監督は誰や、ワシは帰るって。そうしたらケンカしていたビスマルクと柱谷が握手をしながら、監督戻って来て下さいと言った。やっぱりそういうふうな腹芸というか、演出能力が彼にはある。世界には優秀な人がいるでしょうが、僕の取材経験から言うと、ネルシーニョを上回る人はいないね。
金子:僕はですねえ、まあ、いろんな名前をあげてますんで、それについてはご存じだと思いますけれども。まず、考えるべきは、なぜ日本代表がフランス・ワールドカップで勝てなかったか。点が取れなかったかですよね。だったら攻撃パターンを構築できる人物、ネルシーニョはまさににそのひとりだと思いますし。点を取れるパターンを作ってくれる監督を、そこから考えるべきじゃないかなって思うんですよ。誰がいいって言って人物を探していくと、極端になってしまいますから、傾向をまず探していくべきだと思うんですね。この監督はどういうサッカーをやってるのか。この監督はどういう成績を残してきたのか。その上で、点を取ってる、ボールキープ率長い、というような人が監督やってくれたら、日本人の勤勉性、ボールに触る回数が増えれば増えるほど日本人の勤勉性が生きて、何ごとも正確にやろうとするメンタリティーも生きてくると思うんですけどね。
二宮:ヨハン・クライフ。今西和男さんが絶対クライフって言うんだよねえ。
金子:あの人も同じですもん。
二宮:そこでさあ、聞きたいんだけど。例えば、今の日本のサッカーのレベルが仮に中学生とするならば、オフトが入った時はまだ、日本のサッカーは小学生やったと思うんだよね。だから、オフトは小学校の先生。ファルカンも無能じゃないと思うけど、いきなり大学教授みたいな講義をやっちゃったから、中学生にはわからなかった。トルシエっていうのは、中学校の先生くらいだよね。まあ、例えて言えば。
金子:確かにね。
二宮:日本もそろそろ高校の先生を呼んできた方がいいんじゃないかと思うんだけど。そこでクライフは大学の先生みたいにならない?
金子:彼についてひとつ言えるのはですね、あれほどの選手でありながら、北米サッカーリーグでプレイをしている。それからスペインリーグ、あんまり知られていないんですけどね、スペインリーグ2部でもプレイしています。バルセロナに行ったら彼は、スペイン語ではなく、カタルニア語を勉強したわけです。「郷に入りては・・・」っていうのをすごく持ってる方なんですよね。
二宮:じゃあ、クライフがいいじゃん。
金子:チャンスだったのは、チャーリー・レシャックが、フリューゲルスにいた時に、クライフも日本に興味を持ってるし、ヘッドコーチみたいな形だったらやるんじゃないのみたいなことを言ってたわけですよ。
二宮:金いくら?
金子:いや、彼はとにかくサッカーが好きだから。それは誠意で。
二宮:来てもらいましょうよ。
金子:もう、だって彼、お金いらないですもん。
二宮:とりあえず、金子さんとふたりで本を書いて印税を稼いだんだから、呼べばええやん。
金子:アハハハ(笑)。今日は、みなさんどうもありがとうございました。

取材・構成:CREW
撮影:末石直義

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