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2004年のトークバトル第一弾のテーマは、テニス!! 全豪オープン開幕直前の1月11日、WOWOWの全豪中継キャストが勢ぞろいして行なわれたぴあトークバトル スポーツ快楽主義の模様を、余すところなくお届けします。

ぴあトークバトルVol.33
「今、テニスがおもしろい!!~どうなる!? 全豪オープンテニス~」

前編

<ホスト>
進藤晶子
'71年大阪府生まれ。神戸松蔭女子学院大卒業後、'94年TBSにアナウンサーとして入社。「NEWS 23」のキャスターを務める。'99年10月から「ニュースの森」のメーンキャスターとして活躍し、01年3月TBSを退社。その後NEW YORKに在住し約1年間の充電を経て02年5月TBSW杯サッカー放送メーンキャスターとして復帰。現在はテレビ、新聞、ラジオ、CMへの出演等さまざまなメディアで活躍中。

<ゲスト>
岩佐 徹
'38年東京都生まれ。63年慶應義塾大学卒業後、フジテレビ入社。'88年にWOWOWへ出向し、'98年フリーアナウンサーとなる。これまでにプロ野球、メジャーリーグ、サッカー、バレーボール、ゴルフなど幅広いジャンルのスポーツを実況し、現在WOWOWでは、サッカーとテニスの実況を担当している。

遠藤 愛
'71年広島県生まれ。小学2年からテニスを始め、暁の星女子高2年時にウィンブルドン・ジュニア準優勝、3年でインターハイ準優勝。筑波大学2年時にインカレ優勝。'91年8月にプロへ転向し、同年ユニバーシアードシングルスで金メダルを獲得。'92年バルセロナ五輪代表。'94年タスマニア国際オープンでツアー初優勝。同年全米オープンではベスト16に進出。'98年12月引退(WTA最高位26位)し、現在では日本テニス協会強化委員を務めるかたわら、筑波大学大学院博士課程に在学し東京家政学院筑波女子大学国際学部講師として教壇に立つ。

フローラン・ダバディー
'74年 フランス パリ生まれ。アメリカUCLA、パリ東洋学院日本語学科を経て、'98年映画雑誌『プレミア』のエディターとして来日。同時にサッカー日本代表監督の通訳に抜擢され、パーソナルアシスタントに。 現在は、ライターやパーソナリティを務めるほか、俳優、モデルとしても活動を広げる。父は脚本家ジャン・ルー・ダバディー。母は元雑誌編集長。著書に『タンポポの国』の中の私』(祥伝社)などがある。

柳恵誌郎
'41年福岡県生まれ。'66年~'71年に6年連続でデ杯代表をつとめる。'70年全日本シングルスランキング1位。'73年プロに転向(戦後2人目のプロ)し、ウィンブルドン4回出場の経験を持つ。 日本プロテニス協会理事長、副会長を歴任し、'86~'88年にはデ杯監督もつとめた。現在は、85,000人以上のテニス仲間、関係者と「ヤナギルート」作りを広げ、全国 各地を奔走。'02年大人、中高年向きのテニス「シンプルテニス」を立ち上げ「シンプルテニス塾」を開設。'03年7月から湯河原ラケットクラブの支配人を務める。

進藤:「ぴあトークバトルスポーツ快楽主義2004 VOL.33『今、テニスがおもしろい!!~どうなる!? 全豪オープンテニス~』」、このイベントは、WOWOWの協賛でお送りします。本日司会進行を務めさせていただきます進藤晶子です。皆さん、最後まで思いっきり楽しんでいってください。よろしくお願いいたします。
会場:拍手
進藤:それではゲストの方々をご紹介します。まずは、私と一緒に2004年WOWOWテニスのメインキャスターを務められますフローラン・ダバディさんです。
会場:拍手
進藤:続いて、日本プロテニス協会理事長、副会長、さらにデビス・カップ監督を歴任され、湯河原ラケットクラブの支配人を務められております、テニス界のカリスマ、柳恵誌郎さんです。
会場:拍手
進藤:さあ、続きましてはテニスプレーヤーとして最高ランキング26位、バルセロナオリンピック代表をはじめ数々の大会で活躍され、現在は日本オリンピック委員会の強化スタッフをしていらっしゃいます遠藤愛さんです。
会場:拍手
進藤:そして最後はこの方、WOWOWスポーツアナウンサー岩佐徹さん。
会場:拍手
進藤:今日は、テニス大好きだとおっしゃる方がたくさん集まってくださったと伺ってます。今回の「ぴあトークバトル」はテニスについてとことん話していきたいと思いますので、よろしくお願いします。もうすぐですね、1月19日ですか。間もなく始まります全豪オープン。WOWOWでは、この5人のメンバーで現地からお伝えすることになっています。来週ですね、皆さん、メルボルンに向けて出発されます。新年のご挨拶も含めまして、一言ずつご挨拶いただきたいと思います。フローラン・ダバディさんです。
ダバディ:こんにちは。よろしくお願いします。ダバディです。本当にですね、私はもう、テニスは一番好きなスポーツで、実はまあ、言ってもいいですかね。
進藤:どうぞ。
ダバディ:サッカーより好きで。
進藤:サッカーより好き!
ダバディ:あのーWOWOWに選ばれまして、進藤さんと一緒に今年からメインキャスターを務めること自体が非常に光栄と言うよりもワクワクうれしく、楽しく思っています。よろしくお願いします。
進藤:遠藤さんと柳さんはプロのテニスプレーヤーでいらっしゃいましたし、岩佐さんはね、実況の、プロの伝え手さんで。
ダバディ:私は、オタク。
進藤:そうそうそう、そうなんですよ。ダバディさん、ものすっごくテニス、詳しくていらっしゃるんですよね。
ダバディ:単なるマニアでお邪魔させていただきますけれども。
進藤:テニス好きはいつからですか。
ダバディ:もう、父が私を初めてローランギャロスに連れて行ったのが、6歳とか7歳。それから必ず毎年ローランギャロスは行きましたし。あとたまたま私のおじいさんが、ラシン・クラブ・ド・フランスというフランスで割と有名なテニスクラブのオーナーでして。昔の選手で言いましたら、私が憧れていたアンリ・ルコント選手とか、ヤニック・ノア選手。子どもの頃、ロッカールームに入れもらって。彼らいつもフランスのチャンピオンシップを争って、決勝戦をうちのクラブでやってて。
進藤:ええ。
ダバディ:その頃からテニスは輝いていましたね。
進藤:そんな話をしつつも、岩佐さん、ダバディさんの写真撮っていらっしゃいますけど。ホームページにアップされるんですか。
岩佐:場合によっては。
進藤:・・・だそうです。フローラン・ダバディさんです。よろしくお願いします。
ダバディ:よろしくお願いします。
会場:拍手
進藤:続きまして、柳恵誌郎さんです。
柳:よろしくお願いします。何を言えばいいんですか。
進藤:新年のご挨拶がてら、一言お願いします。
柳:あのーあけましておめでとうございます。ただ、WOWOWをずっとやらさせていただいているんですけど、私の顔をテレビの画面でしかご覧になってない方が多いということで、今日は顔を出すことが恥ずかしくてね。ちょっと困ってるんですよ。と同時に、最近ダバディっていう変なのが来ましてね。もう、ガタガタやりますんで、どうも落ち着いてやれないっていうような。これはジョークですけれども。
進藤:ご登場の冒頭から、サイドテーブルに腰掛けようと、ギャグをかましていただいて。
柳:わざとふざけてみたんですけどね、なかなか僕には様にならないということで。残念だと思ってます。でも、楽しくやりたいと思ってますので、よろしくお願いします。
進藤:よろしくお願いします。
会場:拍手
進藤:そして華やかに。遠藤愛さんです。よろしくお願いします。
遠藤:よろしくお願いします。どうも皆さん、あけましておめでとうございます。今日ってどういう風なスタイルなのかわからず。全然お客さん来なかったらどうしようって何気に思ってたんですけど、本当にたくさんいらっしゃっていただいて。
進藤:たくさんですね。
遠藤:本当、テニスの、ただボールをポコポコ打ち合うだけじゃなくって、その裏に隠されたいろんなものを。そういうのもお話できればいいなと思ってます。よろしくお願いします。
進藤:遠藤愛さんです。よろしくお願いします。
会場:拍手
進藤:そして、岩佐徹アナウンサーです。
岩佐:えー皆さん、初めましてと言いましょうか。あけましておめでとうございます。ちょっと喉を痛めておりましてかすれ声になっていますけど、真夏のメルボルンに行けば、よくなるんではないかと期待しています。私は立場として、WOWOWの社員ではないんですけど、WOWOWに草鞋を脱いで仕事をさせてもらっている関係上、ダバディのようにサッカーよりもテニスが好きだとかそういうことを言えない立場ですけれども。どちらも同じぐらい好きだとしておきたいと思います。どうぞ全豪を楽しんでください。
進藤:よろしくお願いします。
会場:拍手
進藤:今日はこの5人でお送りしていきたいと思います。それでは本題に入っていきたいと思います。テニスと言うとね、いろんな楽しみ方があって、いろんな切り口があると思うんです。プロのプレーヤーさんにとっての楽しみ、アマチュアプレーヤーにとっての楽しみ、ちょっと近い立場でテニスを伝える側の楽しみもあれば、プレーヤーに声援を送るファンの楽しみ方もあると思うんですが、奥深い魅力がたっぷり含まれているこのテニス。もともとこのテニス、発祥の地というのはどこなんですか、柳さん。
柳:フランスですね。
進藤:フランスなんですか。
柳:それからイギリスに渡りましてね。で、ウインブルドンで栄えたと。
進藤:どれぐらい前の話なんですか。
柳:いや、もう100年ぐらい前になりますか。
進藤:そこからドンドンと広がっていったんですね。
柳:そうですね。
進藤:故郷は同じフランスだそうです。
ダバディ:実は私も先ほど知りましたが、ラ・ポームという、手でとても柔らかい、軟式ではないんですけれども、ボールを打つっていう文化がルイ15世の頃からずっとありまして、それがテニスの。
柳:起源というか。
進藤:なるほど。そのテニスの魅力なんですが、皆さんそれぞれの立場から、いろいろ微妙に違うと思います。まず、ダバディさんからご覧になる、テニスの魅力ってどういうところになるんですか。
ダバディ:そうですね。私はスポーツである前に、そして最近、必然的にビジネスである前に、私はエンターテイメント、いわゆる娯楽であるべきだと思うんですよね。映画と一緒っていうか、スポーツはアートだと私は思っていますね。見る人が持っている知的好奇心に刺激を与えることが、アートの根本、神髄であって、それはスポーツの神髄、いわゆるエッセンスだと思うんですね。それを忘れずに、ずっとテニスがそういう楽しいスペクタクルを我々に提供していただければ一番幸せですし。昔の世代、私が好きだったノア、マッケンロー(ジョン、アメリカ)、ルコントとかも、本当に、ファンがいてのパフォーマンスって言うか。90年代はちょっとおとなしくなっていて、あまりにも強過ぎるようなサンプラス(ピート、アメリカ)とアガシ(アンドレ、アメリカ)という選手がいて、21世紀にはフェレロ(ファン・カルロス、スペイン)がいて、サフィン(マラト、ロシア)とか、エンターテイメントを知る男たちって言うか。女性もエナン(ジュスティーヌ、ベルギー)とかセレナ(ウイリアムズ、アメリカ合衆国)とかが戻ってきてですね、本当に楽しい娯楽が期待できると思います。
進藤:プレーヤーのプレーに魅力があるっていうことですか。
ダバディ:そうですね。テニス自体は比喩的に映画で例えるなら、生で描かれる脚本だと思うから、映画を生で見てるっていう。でもそのエンディングが全く予測できないところが、すごく私は好きですね。
進藤:スポーツはエンターテイメントだということをモットーに掲げていらっしゃるのが、岩佐さんですよね。
岩佐:僕は、スポーツそのものはダバディさんの言うようにアートなのかもしれませんけど、テレビに関わっている立場から、皆さんにお伝えする立場から、常にテレビ放送と言えども、スポーツ放送はエンターテイメントだと固く信じて放送しているつもりなんですけど。ですからこの後話すこととだぶってしまうかもしれないんですけど、テニスっていうのは、あらゆるスポーツのなかで極めて珍しい、試合が始まってしまったら、もう誰もコーチングができないというスポーツなわけですよね。全てをさらけ出した、シングルスで言えばふたりの選手がネットを挟んでプレーをするという。それだけはもう、テレビですから、全部余すところなく伝えられるわけですよ。ですから本来、解説者とか実況者っていうのがしゃべらなくても、皆さんおわかりになるスポーツだと思うんですけど、私の立場としては、そうじゃなくて、そのふたりがどういうバックグラウンド、あるいは歴史を持っていらっしゃるかっていうことを調べて皆さんにお伝えすることで、皆さんがそこでプレーしているふたりのイメージを膨らませることができるんではないかと思ってるんですよね。
進藤:全てがさらけ出されて、見えてくることが一つ、テニスの魅力でもある。
岩佐:僕は伝える立場から、そう思いますけど。
進藤:さあ、柳さんからご覧になった、テニスの魅力というのは。プレーなさる、内側からも感じられるでしょうし、今、外からご覧になっている立場でもある。
柳:正直に言いましてね、私が若かった頃、世界中を駆け巡った頃の気持ちと、今の気持ちとは全く違いますね。今はいろんなタイプの選手がいて、その半分以上は、親からの遺伝だろうと思うんですけど。そういう要素を持って、戦っているわけですね。違う人たちが、どう戦えばどうなるかっていうことを分析するのが、今楽しくてしょうがない。分析しながら、その試合が展開していくのがおもしろい。ところがね、実際現役としてやっている頃っていうのは、そんなことないんですよ。それから、解説もしなくて、普通にプレーしているときは、皆さんもたぶんそうだと思うんだけど。ここに来たボールをカッと打った。それがもう、自分の考えている通りのショットでスカーンといったときの爽快感っていったら、もうないんですね。全て忘れてしまう。
進藤:最高ですか。
柳:それが一本あれば、その日は終わりでもいい。他は全部負けてもいいくらいの感覚の方がほとんどでいらっしゃる。
進藤:至福のとき。
柳:もう一つは、自分よりもうまい、強いショットを持った人たちに対戦したときに、うまいボール配置って言いますか、方向をうまく変えてね、流れを作ったなかでポイントを一点でも取れたら、これもうれしい。だいたいテニスをやってる人っていうか、選手もそうでしょうけど、そういった面が一番大きいんじゃないでしょうかね。もちろん、勝つことが一番すばらしいことではありますけど。そんな感じがしますね。
進藤:いかがでしょう、遠藤さん。
遠藤:何か皆さん、アートだとか何とかってすごく難しそうなことたくさんおっしゃってて、私はすみません、すごい子どもっぽい発言になっちゃうかもしれないんですけど、やる側からすると、テニスってミスをしないことがあり得ないスポーツなんですよ。
進藤:ああ。
遠藤:実は私、陸上部の短距離の先生にスカウトされたっていうか。それが笑っちゃうんですけど、おしりの筋肉がものすごく発達してたから。もう、ブリッて。
柳:それ、同感。現役、知ってますから。
遠藤:こいつはスプリンターに向いてるって思われたのかわからないんですけど。でもバリバリ、テニスをやってましたし。走り方とか教わったりとかをしたんですけども、「やってらんないや」て思って。このなかにもし、100m、200mをこよなく愛してる方がいらっしゃったらごめんなさい。私には合わなかったんですけど、本当にスタートでミスしちゃったら、取り返しがつかない。
進藤:なるほど。
遠藤:例えばフィギアの方とお話をしても、一回転んじゃうと、もうそこで終わりですよね。テニスって、ミスしないわけないんですよ。グラフ(ステフィ、ドイツ)だろうがサンプラスだろうがマッケンローだろうが、絶対にミスするし。グラフっていうのは、今のままでもオリンピックの100mに出られるって言われてたんですよ。テニスでナンバー1だったときでも。それだけの身体能力を持ってるんですね。私が初めてフレンチに出て、初めてグラフを見て、「うわあ、これはものが違う」ってすごく思って。
進藤:そうですか。
遠藤:もう本当に、頭をガツンってぶん殴られちゃったように思って。でも、この人たちと戦わなくちゃいけないと思って。もう「ヒェー」とかそういう感じだったんですけど。でも、そのときコーチである父親といろいろ話したんですけど、愛は愛なりのテニスっていうか、私は私なりのテニスを作っていっていいというか。すごく走るのが速い人は、走るのが速いテニスをすればいいけども、走るのが遅い人は、アンティシペーション、予測能力を鍛えればいいとか。パワーがない人は、組み立てで展開していけばいいとか。それがやってておもしろい、テニスのやり方でしたね。完全に力こぶを作ったら、きっとウイリアムズ姉妹なんかは、私の2倍、3倍だと思うんですけど、そういう選手に対してでも1ポイントも取れないわけはないじゃないですか。だから、やってておもしろかったし、やりがいがあったし。でも、私は今それを伝える立場にいるわけで。それをどう噛み砕くっていうか、どう伝えていけば、この楽しさわかっていただけますかっていつも思いながら。頭の中は絶叫しながら言葉では絶叫しないで、冷静に伝えてますけど。
進藤:100人いれば、100通りの攻め方があるというわけですね。
遠藤:だからチャンピオンの性格っていうか、資質も全然違いますよね。プレースタイルっていうか。
進藤:プレーヤーそれぞれの持ち味や性格なんかも、これから追々伺っていきたいと思うんですが。テニスと言うとね、ほとんどお休み期間がないわけですよね。1年のうち、シーズンっていうのは何ヶ月ぐらいなんですか。
柳:男女ともだいたい11月でシーズンが終わって、もう1月には新しいシーズンが始まるわけですよね。今年の場合には、1月5日から、男女とも新しいカレンダーがスタートしたんですけど。年によっては、12月のうちに新しい年度の最初のトーナメントが始まる場合もありますし。休みというのは、本当に実質1ヶ月あるかないかでしょうね。ですから、プロ選手たちは、もっとシーズンを短くするようにアピールしてるわけですけどね。
進藤:その1ヶ月しかないなかで、例えば自分の体の肉体改造をしてみたりとか、パワーアップするための日々を積み重ねるわけですよね。とてもハードなスケジュールだと思うんですが、最高で毎週何試合ぐらい出るものなんですか。
遠藤:一概にはもう。毎週毎週、トーナメント自体は存在してるので、自分でピックアップして出ていくんですけど。だから、だいたい毎年12月28日にオーストラリア入りして。そこから暑さに慣れないといけないので調整を始めて、それが終わった後、2月に日本で東レパンパシフィックがありますよね。
進藤:ええ。
遠藤:3月フロリダに行って帰ってきて、5月、6月、7月、8月がヨーロッパですね、ウインブルドン、ローランギャロスに向けて。それから帰ってきて、2週間ぐらいでアメリカのシーズンが7月の初めから始まります。
ダバディ:今、遠藤さんがおっしゃったように、ピックアップっていう言葉は、最近のテニスを象徴している言葉で。本当に、それも岩佐さんがおっしゃったように、シーズンをもうちょっと短くすればいいんですけど。今は本当に毎週毎週、週2回、タイに大会があれば、ブラジルにもあって。その大会選びっていうのは、本当にゲームみたいにマネージメント能力が必要になっていて。逆にすごい元気で出たいけれども、そこはパスした方がいいっていうのも。その新しいマネージメントもおもしろいですよね。
遠藤:それからあの、正直な話、プロの立場からすると、捨てトーナメントというか、優勝とかベストの成績を狙わないけれども、出ておいた方がいいというときも。新しい技術を身に付けるときって、今まで身に付けたものをグチャグチャにして組み立てていかなきゃいけないときもあるんですよ。だから今シーズン上半期は捨てて、肉体改造に取り組んで、全米ぐらいでベストにいければいいやってこともありますね。
進藤:すごく勇気のいることですね。
遠藤:はい。例えばオリンピックを目指してる選手なんかは、オリンピックの前までに何十位かまでに上げておかないと引っかからないわけですよ。だから、今年はアテネがあるので、それに向けてその前までは詰めて詰めて大会に出て、ランキングを上げておいて、ピックアップしてもらえるようにとか。
岩佐:トーナメントの数だけで、単純に比較はできないと思うんですよね。と言うのは、ランキング50位の選手とトップ10の選手、仮にふたりの選手が5週連続プレーをしても、50番台のプレーヤーっていうのは1、2回戦で負ける可能性が大いにあるわけですよ。トップ10のプレーヤーっていうのは、準決勝、決勝まで出てしまうことがあるわけです。そうすると、こなす試合の数が全然違うわけです。
進藤:ええ。
岩佐:試合と練習ではもう疲れ方が全然違うと。僕はやったことがないからわかりませんが、皆さんそうおっしゃる。旅の大変さとかということは、5週連続プレーをすれば、両者ともに同じでしょうけど、試合をするストレスを受ける度合いっていうのは全然違うわけですよね。ですから、例えば記録をずっとフォローしてると、3週連続決勝まで出たトップ10の選手が次の試合1回戦で負けたりすると、「ハハ~ン」と僕らは思ってしまうんですよね。つまり、テレビではこういうことは言えませんけども、少しそこで休みたいなと思ってるんじゃないかなと。
進藤:なるほど。
岩佐:そういうことはあってほしくないですけど。でも人間として、スケジュール、試合の大変さっていうのを傍で見てますと、わからなくはないと思うんですね。
ダバディ:あとはもう、時差も。柳さんに聞きたいんですけれども、これほど時差の激しいスポーツはないですよね。例えば、アメフトは東海岸から西海岸にチームが移っても3時間ぐらいの時差。まあ、私もサッカー時代にヨーロッパに行きましたけど、試合までは3日間、4日間あって、それで一試合だけですから。ちょっと薬を飲んで頑張って、ビタミンCをいっぱいとって。でもテニスは、ドーハにいる選手が来週はオーストラリアで。それが終わったら、今度はブラジルのサンパウロに行って、プラス11時間、マイナス11時。どうするんですか、時差の調整って。
柳:そりゃあもう、選手それぞれの感覚でやりますよね。みんなうまいですよ。みんな寝るところがあれば、パッと寝ますしね。皆さんが心配するほどではないんです。ただ、今岩佐さんがおっしゃったみたいに大会が続きますとね、どうしても自分では懸命にやっているつもりでも、相手との絡みもありますけど、やっぱりうまく調子が出ない、うまくポイントがつかめないっていうときがありますね。そういうときに、失墜していくわけですね。初めから負けようと思って誰も試合に出てない。絶対勝ちたいと思ってるんですけど、体が、あるいはメンタル的なものが充実できなくて負けて。それで、そのポロッとっていうのはしょっちゅうありますね。ですから、我々が若い頃みたいに、試合に全力を尽くさないなんて大会側に申し訳ないと。逆に、来ているお客さんに顔が立たないなんて怒りましたけれども、主催者としてはね。でも今の現実を見てみると、やむを得ないと。もしそれを選手にわからしめるんだったら、大会の数を減らすなり。商業主義があまりにも走り過ぎましたんで、ちょっと酷だなと。解説してると、岩佐さんは選手のことを「もう疲れてますね。そろそろ足がダメじゃないですか」って言われるんですけど、選手の立場、私は昔やってましたから、「そんなことありません。あんなの全然平気です」って全く逆のお答えするんです。内心では、「疲れてるだろうな」って当然思ってるんですけど
進藤:なるほどね。そんな過酷な日程のなか、毎年毎年プレーヤーの皆さんは自分の実力を少しでも多く発揮しようと頑張っていらっしゃるわけですが。ではここでですね、去年、2003年のテニスの動きを振り返ってみたいと思います。2003年、いろいろありました。テニス戦国時代なんておっしゃる方もいらして。激動のこの1、2年というところでしょうか。まずは男子から振り返りますと、新しいスターが次々と誕生しました。柳さん、いかがでしょうか。
柳:これは岩佐さんとずっと話させていただきましたけど、男子の世界は100番ぐらいのランクまで、誰が勝ってもおかしくないっていう時代がずっと続いたんです。いわゆるサンプラス、アガシっていうのはいましたけれども、もうそろそろピークではなくなってきたという状況がありましたので。そのなかにあってね、これはたぶん、何かのチャンスをつかめば上にいくなっていうのが、ちょこっちょこっと目につき始めたんですね。10人ぐらい。そのなかの4、5人がバッと出てきたと。で、やっと形を作り始めたかなと。
進藤:出てくるときっていうのは、何がきっかけで出てくるんですか。
柳:たまたま自分のコンディションがうまくいったっていうことよりも、相手との絡みで。例えばボールの速さ、ボールの回転の違いで、自分のラケットと接する面がちょっと変ってくることがありますね。それだけで、自分の調子がよくなったり悪くなったり。
進藤:微妙なものですね。
柳:あるいは組み合わせですね。自分が嫌いじゃない人とうまく当たって、偶然にうまくいったとき。一遍で自信がつくわけですよ。そうすると一気にいくときがある。
進藤:全てが倍増。
柳:もちろん、それだけで自分に満足は決してしてないんですけど。自分なりに考えると、一つ抜けたかなと思わせる時期がくる。それが、去年の3人なんですよ。
進藤:岩佐さんも柳さんも、この辺がいくんじゃないかなっと前々からね、目星をつけていらっしゃいました。その通りですね。
岩佐:まあ、僕なんかが言うのは、だいたい記録をフォローしていて、ずっと準決勝まで出続けてる名前が目に付くわけですよ。そのなかから僕は、こいつは出てくるかなっていうような話をするんで。柳さん、遠藤さんもそうですけど、選手を実際に見て、ここがいいから伸びるっていう風に思っているのとは全然違うんですよ。
進藤:柳さんは「違う、そんなことない」とおっしゃってますけど。
岩佐:誰かが出てくるっていう風に言っても、僕のベースと柳さんの根拠っていうのは全然違うんですよ。けっこう一致することがありますんでね、ふたりの息が合ってると言われるんですけど、全然そんなことはないんです。
柳:ただ私、分析するのが好きだと言いましたけどね、世界のテニスの流れが、例えばグラウンドストローカーの時代、今来てますけども、ネットプレーヤーの時代とやっぱり変化していくんです。ショットも変化していくんです。ですから今、猛烈なパワーを持った男性がかなり強いところに、去年、一昨年ぐらいから出てきて、これは今の選手の一段上を行くスピードの選手が当然出てくるかなって思いました。そしたらここにきて、そのスピードをうまくかわして、柔らかいテニスで相手の息を止めてしまう、いわゆるスピードを殺すという、また新しいのが出てきてる。つまり、サーブ&ボレーの全盛から、今度はラケットが変わる、いろんなことが変化して、グラウンドストローカーがはるかに強くなった時代もありました。いろんな変化をしてるんです。今、そうですね、去年はちょうどその変換期にきて、いろんなテニスが、特徴のある人たちが出てきたなってことで。
進藤:はい。一つ一つちょっと振り返っていきたいんですが、2003年の全豪、男子ですが。こちらはベテランの活躍ということで。これはもうダバディさん、おっしゃりたいことがたくさんあるんじゃないですか。
ダバディ:客観的にプロとして選手を見てですね、この選手はきっと今年活躍するんじゃないかなとか、技術的にとか、さすがだったというよりも、私は心で。まあそうですね。岩佐さんに近い切り口っていうか、とっても主観的にこの選手に活躍してほしい。だから去年のアガシ-ロディック(アンディ、アメリカ)の試合があってですね、5セットで、21-19でしたっけ、最後の。
岩佐:ファイナルがね。
ダバディ:そういう試合を見てて、とにかくこれで終わっててもいい。その後のアガシのすばらしい快進撃、シュットラー(ライナー、ドイツ)の3セットの1、2、2って見ました。これってテニス的にすばらしい。でも、私は、エラナウィ(ユーネス、モロッコ)の試合でもう満足。これでテニスを見ててよかった。今年もそういう試合は、ファーストラウンドでも、準決勝でも、決勝としたらそれもすばらしいけど、見たいっていう気持ちが一番強いですよね。
進藤:お気に入りのアガシですね。
ダバディ:うーん、特にそうでもないんですよ。
進藤:そうでもないの? 違った?
ダバディ:私はですね、あんまり強い選手は好きじゃないんですよ。
進藤:あら、強い選手は好きじゃないんですか。
ダバディ:もっと渋くて、何かそういうアラジ(ヒチャム、モロッコ)みたいに、こんなきれいなバックハンドがあって、それだけに注目するのが好きですし。昔の、サーブが非常に速くて短い、カレン(ケビン、アメリカ)とかいたんですけど、そういうちょっとしたところで、これ、かっこいいなとか。サフィンがラケット持つのは、マッチを持ってるみたい、何かちっちゃいラケットみたいに見えるっていう、彼の強大な体に対する。
進藤:そういう細かい部分にも惹かれちゃったりするわけですか。
ダバディ:まあそれもマニアで。皆さんは見てて、くだらないかもしれませんけど。
岩佐:楽しみ方としては、そういうのもありなんじゃないですか。
柳:そうだと思いますよ。というのは、WOWOWの仕事をさせていただいてね、やっぱり日本のファンがどうしても見たい番組を選んで決めるわけじゃないですか。僕に言わせてみると、本当にいい試合、ランクが上じゃなくても、彼らが全力で戦っている姿っていうのは、見てると感動するわけですよ。涙が出てくるんですよ。
進藤:そうですね。
柳:そういう試合を本当は流したいって言うんだけど、どうもプロデューサーに怒られちゃうんであまり言えませんけど。どうしてもファンの多い試合になる。今、エラナウィの話、出ましたね。もうね、エラナウィ感動しましたね。31歳よ、彼。
ダバディ:そうですよね。
柳:彼が、覚えてます? この間3セット目から突然ビニールを手にかけて、ここにあった瓶から薬を塗って、どんどん塗ったの。それで僕、アラビアの秘薬かと思ったの。
ダバディ:この間、杉山愛さんの番組で、彼のいろんなマニア紹介しましたよね。
柳:そう! そういうのを見たときにね、テニス以外のおもしろさをね、しかも用意周到に自分の経験からして、自分の体をよく知ってて。相手がロディックでしょ。そういうことをやってるベテランの試合運びのすごさにね。やっぱりそりゃ、打たれますよ。
ダバディ:そして今年はエラナウィとアラジが本格的にダブルスで組むことになって、ツアーも最初から最後まで一緒にやるから、このペアがもう楽し過ぎると思うんですよ。
進藤:目が離せないですかね。柳さんにとっての、全豪オープンを振り返っていただけますか。
柳:僕ですか。今、ちょっと話が違う方にいきましたけど、アガシが去年はね、頑張って勝ってくれました。決勝なんか、もう信じられない試合でした。私は正直言って、完全な判断ミスでした。アガシっていう人が、去年、一昨年ぐらいから、決勝にいくことは難しいと断言しておりました。ところが去年も勝ちました。で、よく彼のテニスを見てみると、すごい進化をしてます。
進藤:未だに進化するんですか。
柳:一番目につくところはバックのクロス、打点を速めてるんですね。上がり球をただ返すんじゃなくって。もとはただ深く返してたんです。あれを速めて、しかもいろんなところに打ち分けるスピード。これができたんで、時間的余裕が全然出てきたという。相手に対しては大変なことですよね。ちょっと見方を、アガシに対しては変えましたよね。
進藤:あんなベテランでも、まだ進化するんですね。
柳:サンプラスだってデビューしてから去年まで、どれだけ変わりましたか。サーブ&ボレーだけじゃないんですよ。サーブの内容、ボレーの内容、ショットの内容、全部変えてきているわけです。
進藤:どれだけ深く向き合うか、ですね。
柳:そうです。
ダバディ:杉山(愛、日本)さんもネットプレーヤーになってほしいですね。
柳:何、杉山の話? 今日。
遠藤:ダブルスをあんなにうまく両立させた選手って珍しいというか。ナブラチロワ(マルチナ、アメリカ)がそうでしたけど。けっこう敬遠しがちでしたけど、明らかにダブルスで身に付けてきたなって思われる技術が再三見られるので、すごくうまく取り入れましたよね。でもね、ネット、今年どんどん出るって言ってましたしね。
進藤:ご自身もベスト5入りを目指すとおっしゃっていました。ちょっと女子の話にいきましたけども、続いて男子。全仏オープンです。それでは、岩佐さんお願いします。
岩佐:去年の全仏・・・いきなり振られて、僕はオーストラリアの話だと。
進藤:ごめんなさい。
岩佐:一言だけ去年の全豪について言うと、もう暑さですね。
進藤:すごい暑さだったらしいですね。
岩佐:13日目に44度という猛烈な暑さがありました。その前の日も暑くて、2日間、12日目、13日目と初めて暑さのために屋根を閉じて、全豪史上、プレーをしたというのがこれが一番の印象です。全仏については、断片しか思い出せないんですけど、フェルケレクっていうオランダの、百面相って僕ら勝手にニックネーム付けてしまいましたけども、表情豊かな選手が出てきたり。全豪、全仏と、男子の決勝は非常にあっさり終わってしまって。いつも男子のファイナルを担当するもんですから、いい試合になってほしいと思うんですけど、全豪、全仏と、終わってからがっくりきましたけれどもね。
進藤:そういうものですか。
岩佐:それから去年の全仏で言えば、女子の準決勝のセレナとエナンの試合のときには、皆さんご存知だろうとは思いますけど、あれはフィアナル3-3でセレナが30-0だったんですね。セレナがサーブに入ったときに、エナンが左手を挙げて。これは普通、ノット・レディだと。まだ自分は準備ができてないからちょっと待ってほしいというジェスチャーになるわけですよね。テニスの世界ではオフィシャルな言葉なんですけど、それをやった。それをセレナは見たんでしょうね。見て、サーブをしたところ、フォルトになった。セレナ自身は当然、ファーストサーブからやり直させてもらえるもんだと思ったんだけども、チェアアンパイアは何も言わなかった。後で主審の話を聞くと、自分はエナンのジェスチャーを見てないんだと。結局その後、6ゲームのうち5ゲーム、セレナは失って、準決勝で敗退したわけですけども。どっちが悪いかという議論は当然あるわけですけど。それを決めるよりも、そういうことがあってエナンが優勝したことに、こうちょっとね、イヤな部分が残ってしまったなと。そういう意味で、去年の全仏は僕のなかでは印象が深いですね。
進藤:
素直にワッと喜ぶというよりも、ちょっと気持ちの悪い感じが残っちゃう。
ダバディ:パリのファンもブーイングとか過激でしたね。
岩佐:それはいつものことですからね、フランス人はね。
会場:笑い
柳:ローランギャロスのお客さんっていうのは、4大大会のなかでも一番厳しいです。セレナがアメリカ人で、去年はイラクの戦争がどうのこうの、それが影響しているんではないかという話がありましたけども。私はそうまでは思いたくないし、フランスのお客さんはああいうもんだと思った方がいいと思います。かつてピアス(メアリー)がフランスに国籍を変えた後でも、成績が悪いとものすごいブーイングを浴びせてましたからね。
進藤:ええ。
岩佐:要するに、自分に正直ということでしょうか。
ダバディ:あとは声を高く上げる選手には、特に女子には厳しいんですよ。セレスにも、各ショットに「ヤハッ!」とかって。
進藤:そうなの。どうして嫌いなんでしょうね。
ダバディ:やっぱり女性が美学の象徴なんで。「ヤハッ!」っていうのは。サバチーニ(ガブリエラ、スペイン)みたいな呼吸を期待してますね。
進藤:もう少し、野太い声だといいんですか。
ダバディ:いや、だからコナーズ(ジミー、アメリカ)だったらかっこいいけれども、女性はもっと何かさり気なく。
岩佐:じゃあ今年、シャラポワ(マリア、ロシア)はまずいかもしれないですね。
進藤:大会によって会場やお客さんの雰囲気が大きく違うとのことですが。全豪の雰囲気っていうのはどうなんですか。遠藤さん、どうですか。
遠藤:全豪っていうのは・・・フランスは怖いんですよ。特に地元の選手と当たりたくない。
進藤:ほぉーっ。
遠藤:向こうに対して、すごくサポートするので。全豪も、地元の選手に対してはすごいですけど、けっこうフェアですよ。で、すごく陽気です。だから、最初は私のこと全然知らないで、「何だおまえ」みたいな感じで入っていっても、いいショットをやると、「何だやるんじゃん」って。そんなコロッと変わったりします。
進藤:コートにいらして、感じるものなんですか。
遠藤:感じますね。だから本当に、ぶっちゃけた話、ローランギャロスのコートに入るときは怖いし。ドローミーティングのときに、もちろん2番とかイヤですけど、WC、ワイルドカードの選手と当たりませんようにって。ある意味ラッキードローなんですよ。ワイルドカードの選手っていうのは、本来入るはずのないランキングの選手が、主催者の推薦で入ってくるので、ラッキードローのはずなんですけど。しかもあのレッドクレーに。に慣れてるし。でも、全豪はそんなことはないですね。すごく明るく迎えてくれるって感じかな。
柳:全豪はサポーターが一番多いんです。各国のサポーターが。
進藤:各国の。
柳:世界中から。それぞれの国から来る人もいれば、オーストラリアに住んでるかもしれませんね。
進藤:ええ。
柳:いくつか入り口がありますけど、その前にサポーターたちは時間を約束してんのか、集まってくるんですね。集まって、全部そこで同じ格好に着替えを始めるわけです。
進藤:あらまあ。
柳:それはもうさまざまです。
岩佐:ペインティングしたりしてね。
遠藤:サッカーの応援してますよね。
柳:そのサポーターが来ているところの人とやる選手は気の毒ですね。
進藤:それはそれで邪魔になる。
柳:もう圧倒的に偏った応援ですから。サフィンでしたかね、スウェーデンの。2、3年前サフィンが決勝で負けたんです、随分やじられて。相手の国のサポーターにね。
ダバディ:ヨハンソン(トーマス、スウェーデン)にね。
柳:サフィンは、サポーターに「いや、本当に応援、よかったね」って。敵っていうかね、相手にも関わらず、サポーターにいい言葉を。あの気性の激しいサフィンがそういう言葉を吐けるわけです。そうするとサポーターも一遍に解けちゃうわけですね。
進藤:ああ。
柳:サフィンの応援にある。そういったいい意味がありますから。日本の応援の方で、日の丸のペインティングをした人までいました。やってくれる場所があるんです。
進藤:杉山さんや浅越しのぶさんにお話伺ったら、日本人の応援の方がたくさん来てくれるのを目で見ると、大きな勇気になるとおっしゃっていました。
柳:そりゃそうでしょ。
遠藤:普段、グランドスラム以外の大会では、ほとんど敵陣に乗り込むじゃないですが。なかなか日本の方っていらっしゃらないんですけど、すごいうれしいですね。やっぱり、「私、一年間頑張ってきました、見てください」っていうのもありますし。全豪はお正月休みと絡めて行きやすいですし、チケットも入手しやすいので、皆さんぜひ。
進藤:行きましょう、一緒に。メルボルンへ。
遠藤:本当にいらしてください。
岩佐:全豪は今1月開催なんですけど、情報によりますと、2006年は今までより1週間ぐらい遅くなりまして、2007年から3月開催になる可能性があります。ですから、お正月休みを利用して行きたいということだったら、この2、3、年が大きなチャンスです。
進藤:うまい。薦め上手です。
岩佐:いやいや、気候も1月が最高ですよね。
柳:3月は寒くなりますね。
岩佐:寒くなりますね。
進藤:じゃあ、やっぱり今ですよ。みなさん、今がチャンスです。続いて、全米にいきましょう。全米はニューヒーローの誕生ということで、沸きに沸きました。柳さん、お願いします。
柳:私はもう、感動でしたね。ロディックのデビューを見たときに、これぞ、アメリカのサンプラス、アガシかって。それまで、岩佐さんとよく放送中しゃべりましたけど、「アメリカが危ない、アメリカのテニスがダメになる」と何度言ったことか。それでやっと出てきたんです。それまでも何人か出てきましたけど、ロディックほど強烈な印象の人はいません。で、昨年確かに優勝はしましたけれども、デビューしたときほどの強烈さはないんです。やっぱり円熟味が増したと思うんですね。デビューしてちょっと、よく負けたりして低迷したんですけど、やっと本物になってきたかなということで。フォームからして、皆さんにああいうフォームを真似してくださいって薦めるようなフォームじゃないんですね。ですけど、すごい。
進藤:そうなんですね。
柳:それはもう、見ててね、とにかく「あっ!」ということの連続ですよ。
進藤:パワーですか。
柳:パワーもそうですけど、パワーだけじゃないです。相手が非常にうまくなって、自分のパワーが封じられてうまくいかないというときに、彼はフッと表情を変えてですね、ペースを落とすんです。それはアガシと一緒なんです。アガシもそういうペースを持っているんです。やっぱり先輩から教わったか。うまくペースを変えて、そこで互角に持ち込んどいて、パッ! その転換がうまいんですね。転換っていうのは、自分の方でペースを変えれば、自分のペースは崩れないんです。相手にペースを変えられると、崩れるんです。これはリズムなんですね。それを彼はうまく使って、いよいよ力を本物にしてきた。ですからもう、去年はうれしかったですね。
進藤:岩佐さんも大感激?
岩佐:去年の全米っていうのは、すごくドラマチックだったと思うんですよね。まあ、一つにはお天気の話をすれば雨に祟られて。柳さんと僕は途中、4日間でたった1試合しかしゃべらなかったときがありました。これは一日が終わって次の日の新しい試合の準備をしなくて済みますから随分楽でしたけど。雨で待つっていうのは非常につらいっていうのが一つありました。それから、今ロディックの話が出ましたけど、あれは準決勝でしたか、ナルバンディアン(ダビド、アルゼンチン)にマッチポイント、ダウンまでいって、そこから挽回して優勝した。しかも、大会初日のナイト・セッションでサンプラスが引退した。ちょうどその後、要するに松明が引き継がれるという形で若手が優勝したという、そういう意味のドラマチックさもあったかと思いますね。それから準決勝を迎えた段階で、アメリカ勢っていうのは、女子でカプリアティ(ジェニファー)とダベンポート(リンゼイ)、男子ではアガシとロディック。4人、ベスト4に駒を進めてたんですよ。僕は、これはアメリカ勢が4人、男女ともファイナルを戦うことになる可能性もあれば、全部いなくなってしまう可能性もあるぞと思っていたら、3人までは負けてしまったわけですよ。これはアメリカ、最悪のシナリオだと思ったときに、ロディックがマッチポイント、ダウンから挽回して、ただ一人ファイナルに出た。しかも長い試合を戦って。全米のシングルス、男子の方は、準決勝と決勝の間に一日も休みがありませんから、5セットマッチを戦ったロディックが不利ではないかと思われたんですけど、一方のフェレロ(ファン・カルロス、スペイン)も4日連続の試合でしたから、彼もまた厳しい部分があったと思います。そういう意味で、非常にドラマチックだったなっていうのが、去年の全米ですね。遠藤さんも、雨絡みで杉山の試合が延びて、ようやく一試合しゃべれて。
遠藤:そうですね。本当にどうなることかと思ったんですけど、杉山さんはその雨に祟られて、途中で集中力が途切れちゃって負けちゃいましたけど。私、去年の全米で印象に残っているのが、カプリアティとエナンの試合。
ダバディ:これがもう。
遠藤:私、今だから言えますけど、終盤もう涙が止まらなくて。あー今思いだ出しても泣きそうになっちゃうくらい。あの状況でエナン、どうしてあそこまでできちゃうんだろう。つってたんですよ、足が。やばい、また思い出してきた。それで、自分と比較するのは本当、とんでもないんですけど、私は絶対にできないし。
遠藤:他の選手もたぶん、絶対にできない。でも、あそこまで勝ちたいって思えちゃう。どうしてそんなに勝ちたいの、エナンって。もちろん、グランドスラムのタイトルっていうか、優勝していく選手っていうのはそうなんでしょうけど。技術とかって、きっとクライシュテルス(キム、ベルギー)の方が勝ってると思うんです、身体的にも。それでもエナン、勝っちゃうんだっていうのが、見てて、これがもう選手としてのすごい違い。ナンバー1になっていく選手と、たかだか20何位で終わっちゃう私。その違いっていうか、「うわーっ」て。
ダバディ:また涙、出てますね。
岩佐:あのね、よく泣くんですよ。
会場:笑い
遠藤:ごめんなさい。本当に、すみません。
岩佐:あのーとにかくお相手をしていて、話を振って、返ってこないときは危ないかなというような。ですから、せっかくこっちがいいネタといいますかね、裏話的なことを用意してあっても、ここで言うと泣いてしまうかもしれないなと思うとやれませんしね。
遠藤:すみません。
岩佐:去年はサンプラスの引退セレモニーのときも、柳さんと遠藤さんとふたりにゲストで出ていただいたんですけど、途中からふたりとも返事がないんですよ。
会場:笑い
岩佐:まあ、遠藤さんはわかるんですけど、やっぱり柳さんもサンプラスに対する思い入れは非常に強かったんだろうなと思いました。
進藤:その涙のわけは。どういうときにグググッときちゃいますか。
柳:あのね、自分で勝手に思うんだと思うんですよ。その選手がどういう状況にいるかよくわからないんですけど、激しい戦い、例えばそうですね。優勝したときに、奥様が子どもを連れて出てくると、その子供を抱っこしたりするじゃないですか。そうすると止まらないんですよ、感動的なものが。何でしょうね、わからないんです。
進藤:本人になっちゃう? 共感しちゃうんでしょうか。
柳:岩佐さんには申し訳ないんですけど、いっつも解説室にいますね。岩佐さんはいつも右側にいるんで、最近どういうわけか、左側の目から涙が。見えないように、見えないようにね。それでスッスッとぬぐいながら。でも、嗚咽が出るときがあるんですよ。
進藤:おおっ。
柳:そういうときはしょうがない、黙っちゃうんですけども。もう、涙が止まらないんですね。僕もやっぱりプレーヤーだったからかもしれませんけど、やっぱり精一杯やって、負けても感動するんですね。要するに一生懸命やってる姿をどこかで感じたときっていうのは、そりゃもう、最高ですよ。ですから現場でそれを見れるという、僕らのこの幸せ。もう、解説者冥利に尽きるなと。その点、岩佐さんはね、本当にジーンときてても、一応、言葉をつないでくださるわけですよ。
進藤:押し殺して。
柳:だから、僕らはいくら泣いてもいいわけで。全部、振っとけばいいんですから。
進藤:遠藤さんの涙のツボはどんなところですか。
遠藤:私は、本当は自分でも予想つかないから困っちゃうというか。何かやばいことになってきたって、トリップしちゃうんですよ。そこに何かポンッて放り込まれたようになっちゃって。で、あーって。あるときは選手のなかに入り込んじゃうし、あるときはこの試合を見ている恋人。私、すごい憧れてることがあって、男子の選手が戦っているときに、パッと観客席で応援している恋人が・・・
進藤:いいですよね、あのシーンね。
遠藤:それをすごいやりたかったんですよ。それにすごい憧れてて、結局それがないまま結婚しちゃいましたけど。それをすごいやってみたくって、何かあるときはそうなっちゃってるんです。この人の恋人ってこういうときどうやって見てるんだろうって。
進藤:なるほど。
遠藤:あとは選手になりきっちゃって。ここにくるまで、この子は苦労したんだろうなって。きっとああいう練習やったんだろうなって。
ダバディ:ブルック・シールズの涙はフェイクみたいで、信じなかったんですけど。
遠藤:やっぱりサンプラスの元彼女のこれ、両手握り合わせてっていうのをやりたかったんですけど。
進藤:遠藤さんがやりたかったんですか、やらせたかったんですか。
遠藤:やりたかった。
ダバディ:まだ可能性ありますよ。
遠藤:あ、本当に? わかんないけど。
進藤:ということで、これからの中継このおふた方の声が聞こえなくなったら、「あ、泣いちゃってるのかな」と。
柳:あ、怒るときもあります。怒るときも黙りますから。
進藤:怒っても黙っちゃう。それはどんなときに怒っちゃうんですか。
柳:選手が気に食わないとき。
会場:笑い
岩佐:もう一つ、アナウンサーの言うことが気に入らないとき。
会場:笑い
柳:確かに。本当に黙っているときは、気に食わないときです、全てが。
進藤:プレーの姿勢が気に食わない。
柳:選手もそうだし、アナウンサーと喧嘩するときもあります。そうすると紙が入ってきて、「柳さん、しゃべってください」って。
進藤:おもしろい。
ダバディ:全豪は本当、涙と怒りの大会ですからね。もう、期待してください。全豪は必ず去年のエラナウィもそうなんですけど。唯一涙を流したのが、サンプラスとコリア(ギジェルモ、アルゼンチン)との1995年の試合なんですけど。サンプラス、全然自分の表情を見せない人で、うまくコントロールする人で、逆にたまにはね、無味乾燥な人だなって。もっと自己表現をしろってところを期待しててですね。でも何か、彼はガリクソンが亡くなったことを思い出して、それでコートに入ってね、コリアに勝ったっていう試合とかね、すごかったから。全豪は必ずそういう試合があるから。今年も期待してください。
進藤:かっこいいですよね、コリアね。コリアってどんな人なんですか。個人的な興味で申し訳ないんですけど。じっと見入っちゃって。
柳:コリアっていう選手は背がちっちゃいんですけど、彼のテニスを見た方はおわかりだと思うんだけど、「あれ、本当に強いのかな」って思うはずです。猛烈なショットは打たないんです。どんなに強いショットを打たれても、何気なく返すんです。それで組み立てていく。初めね、出てきたときはものすごく打ったんです。ですから私は、この人絶対に出てくると言いました。で、ちょっといろんなことがあって低迷していましたけど、去年辺りから出てきて、全くテニスが変わりました。要するに、攻め一本槍から、一回相手のテニスを受けてから、うまく散らしていくテニスに変った。ナルバンディアンと同じアルゼンチンなんですけど、このふたりは非常におもしろい、将来の存在に。
進藤:なるほど。

後編へつづく

取材・文:CREW
撮影:新関雅士