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@ぴあ/HOTスポーツの人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。12月3日に行われたイベントの模様を、そのままお届けします。
 vol.4 前編
 SUPPORTED BY キリンビバレッジ

「メジャーリーグはこんなにスゴイ!」(前編)

出演者プロフィール
ホスト:金子達仁(スポーツライター・左)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターとなり、スペインに移住。「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などベストセラーを生み出した。今、日本で最も売れ、最も刺激的なスポーツ・ノンフィクション作家。
ゲスト:長谷川滋利(メジャーリーガー・右)
'68年、兵庫県生まれ。小学1年よりソフトボールを始め、中学軟式野球大会で投手として全国制覇。東洋大姫路高時代には3度甲子園に出場した。立命館大でエースとして活躍した後、'90年ドラフト1位でオリックスブルーウェーブに入団、新人王を獲得。6年間で57勝をマークし、'97年にアナハイム・エンゼルスに移籍を果たした。メジャーリーグでは主にセットアッパーとして活躍している。4年間の通算成績は、25勝21敗16セーブ。

金子:それでは、よろしくお願いいたします。最初に長谷川さんに聞きたいのはですね。
長谷川:ハイ。
金子:イチロー選手が成功するかどうかというのは何万回も聞かれてると思うんですけど・・・長谷川さんは、3年前から成功するに決まっていると、おっしゃってますので僕はあえて聞きませんが・・・。
長谷川:実はテープを用意して来たんです(笑)、なんてね。そうですね、もう500回ぐらい質問されてますけども。野球って、もちろん局面局面は1対1ですけど、1試合で何十回もイチロー君と対戦するわけではないですよね。だから正直なところ、マークする選手とは違うんですよ、イチロー君というのは。7回、8回に出て行く僕らが一番マークするのは、ホームランを打てるバッターなんですよね。
金子:ハイ。
長谷川:サンフランシスコ・ジャイアンツで言えばバリー・ボンズとか、対戦しないですがセントルイス・カージナルスのマーク・マグワイア。ああいう、ココという時に大逆転されるようなバッターをマークしてるんですよ。イチロー君というのはどっちかと言うと、ランナーを送ったりとかでしょ。もちろんランナー2・3塁とか大事な場面では、ヒットというのも非常に怖いんですけど。試合のシチュエーション的に、そんなに怖くないバッターなんで。まあ、それをテレビとかで言うとねぇ、「何だ長谷川、感じ悪いヤンケェ」と言われるので。
金子:ワッハハ。
長谷川:アノー、いつも言うてるのは、イチロー君なら3割10本。ホントのこと言うと10本も打たんでもイイと思うんですけど。3割打って、盗塁は50個くらい。まあ、50も言い過ぎで、30ぐらいできれば、もう万々歳ですよね。日本の人たちはホント期待してるんで、その成績で成功と言ってもらえるかどうか・・・しかし、1年目はそれくらいでイイと思うんですけど。
金子:イチロー君って、高卒で入ってきた時は2軍でしたけど、1軍の選手たちにもすでにモノが違うと。
長谷川:言われてましたね。
金子:そうすると、D監督と合わなかったとしても・・・。
長谷川:テレビ回ってないから、実名でイイですよ(笑)。
金子:1軍に上がってくるのは遅かったですよね。個人的な思いなんですけど、監督と合わなかったとしても、イチロー君が今のようなレベルに達していたら使わない監督はいないですよね。
長谷川:そうですね、すぐにね。
金子:ということは、割と新しい環境にアジャストするのが不得手な選手なのかなと。
長谷川:そうかもしれないですね。
金子:メジャーに行っても、1年目から期待したらちょっとかわいそうかなって。
長谷川:僕もそう思います。ただね、イチロー君の場合、環境に順応できなくても3割は打つんじゃないかというところがあるんですよね。
金子:それほど格上。
長谷川:それほど違うんですよ。まあ、本当のこと言えば、僕は自分のことで精一杯なんで、そんなことは見てられないんですけども。
金子:日本のメディアがドバッと行きますよね。
長谷川:そうですね。運が悪いことに、すぐにシアトル・マリナーズと6試合ぐらいあるんですよ。イチロー君がメジャーで1番最初に対戦する日本人投手として、長谷川滋利はもう投げる解説者にさせられますね。
金子:ワハハ。
長谷川:「今日のイチロー君はどうでした?」って、おそらく対戦しなくても絶対テレビに出るんですよ。僕もまたイイやつなんで、「そうですね、一球目のあの球を見送ったのが、ヒットが打てなかった原因だと思います」なんてね。
金子:それ意味ないんでしょ。
長谷川:全然意味ないんです、ホントは。
金子:とりあえず、向こうが考えてない質問をするなら、考えてない答えでというわけですね。
長谷川:そうそう。でもルールがあって、とりあえず僕のことを聞いてから人のことを聞くなら気分イイじゃないですか。日本のメディアって、ルールというものがあんまりわかってないんです。例えば、アメリカ人の選手にも「長谷川は今日どうでした?」っていきなり聞くんですよ。英語がソコソコわかるんで聞いてたら、「今日の長谷川はどうでしたか?」って、本人はホームラン2本打ってるんですよ、その試合で。それなのに、そんなことから切り出すんで、お前それはダメやろうと。
金子:相手の人格なり、感情なりに想像をめぐらす作業がゼロですよね。
長谷川:そう、その通りですね。非常に見てて怖い。まあ、僕の場合、日本のメディアのことをよく知ってるし、そのへんはイイやつですから。
金子:ワッハハ。
長谷川:きちんと対応しますよ。
金子:何で不信感を抱かなかったんですか、日本のメディアに。だいたいみんな嫌うじゃないですか。
長谷川:うーん、そうですね。基本的に、所属していたのがオリックスだったので取り上げられなかったというのがあるんですけど。
金子:取り上げられたかったんですか?
長谷川:ウーン、少しは。やっぱりプロ野球選手って、みんな目立ちたがりですからね。ひとつエピソードがあるんですけど。イチロー君が1軍に上がって2年目、一番ブレイクしてた時ですかね。新幹線で行動する時も、メディアが追いかけるんですよね。たまたま僕とイチロー君が新幹線から降りたら、カメラマンが大勢いましてね。僕、カメラマンから肘鉄食らって、よろけながら彼のことを見てましたが、その時は腹立ちましたね。
金子:ちょっと待って下さい。誰に腹立ててたんですか?
長谷川:イチロー君にね。
金子:ああ、イチロー選手にですか。
長谷川:その時はイチロー君に腹を立てるんですけども、よくよく考えると、ちょっと待て、一番悪いのは何やと。それでメディアに腹立てるわけですよね。まあ、そういうこともあったんで、アメリカに行って自分がそうなった時はね、極力チームのみんなには迷惑をかけないようにとか考えたりしています。まあそんなのは抜きにしても、メディアを嫌いにならなかったのは、注目度も低かったし、アメリカに行ってからは日本の新聞を読まなかったからですけど。
金子:日本の新聞は1日遅れくらいで手に入るんですか?
長谷川:買わないで、インターネット。コンピュータずっとやっているので、インターネットで常に日刊スポーツとか、スポニチとかのホームページを見ています。イイ時はチェックして、悪い時は絶対に見ないって感じですけどね。
金子:日本にいた時は?
長谷川:日本にいた時は、新聞見ても載ってなかったですから。問題なかったんですよ。
金子:ここまで、メジャーに行くのは、やっぱりパ・リーグの選手が圧倒的に多いですよね。
長谷川:そうですね。
金子:やっぱりどっかにある、見られたいという気持ちが関係してるんでしょうか。
長谷川:そうですね、今鋭いところつかれたと思うんですけども。山田(秋親)君って・・・。
金子:ハイハイ、長谷川さんの後輩の。
長谷川:悲しいかな日本の場合、野球はセ・リーグ。僕もオリックスでやってたのでわかるんですけど、注目度、金銭面、待遇面、何につけても絶対にセ・リーグがダントツ飛び出ているわけですよ。
金子:ちょっと待って下さい。阪神でもそうなんですか?
長谷川:そりゃ阪神の方がイイですよ。
金子:阪神でも!
長谷川:全然、そりゃ。
金子:負けてても?
長谷川:阪神って、何か悪いように言われてますけどイイですよ。
金子:あ、そうですか。
長谷川:ヤクルトとかの方がちょっと劣るかな、みたいな。
金子:そうですか。
長谷川:金銭面とか待遇面とかでは。ただ阪神の場合は、給料が爆発的に上がる選手がいないじゃないですか。
金子:そうか。
長谷川:山田君にもそう言ってあげたんですけど。大学生なんでわからないんで、ダイエーに行っちゃったんですよね。しかも2位で。僕、ちょっと悲しかったですね。
金子:2位と1位の違いは大きいんですか。
長谷川:今は2位まで逆指名ということで、そんなに変わりはないと思うんですけども。やっぱり、一生“ドラフト1位”って言われますからね。そのプライド的なものはありますよ。山田君ならどこの球団でも1位になれる選手なんで、ちょっと残念かなって。立命館って古い大学ですから、僕とか古田さん(敦也、ヤクルト・スワローズ)とかOBにしてみれば、「お前が1位だ」みたいな感覚を持っているんです。
金子:ふんふん。
長谷川:立命館だから、ホントは1位なのに2位にされたんかなぁ。大学の名前みたいなものはありますよ、やっぱり。例えばそれが駒沢大学とか、野球のバリバリのところだったら、そんな失礼なことはしないんじゃないかとかね。金銭面とかもあるんですけどね、それは今話することではないので。なんかこう腑に落ちないところがありますね。
金子:6.5とか言う数字も出てましたもんね。
長谷川:ハハハ、彼のお父さん言っちゃっいましたからね。
金子:パ・リーグがとても苦しいってことは伺いましたが、長谷川さんがドラフトで入られた時には、その何はあったんですか?
長谷川:あれですか?
金子:山田君に関しては6.5。
長谷川:僕らの時はそんなの全然ないですよ。それでも1億円もらったんです、その当時にね。一番最初に1億円突破したのは野茂君ですよ。今は当たり前みたいですけど、上限が1億5000万円ですか。
金子:ハイ。
長谷川:やってもいない選手にそれだけ払うんですね。
金子:ちょっとシビアな話になるんですけど、今長谷川さんがおっしゃったように、結果を出してない選手に1億円。契約金ですよね。これ、功罪どっちの方が大きいんでしょうか。
長谷川:そうですね、僕が考えるのは球団としてはやっぱり経営があるんですよね。当たり前の話ですけど。だから、プレイしていない選手にそれだけ払うということは、すなわち活躍した選手からちょっとずつ削らないといけないということ。そういう意味では、きっちりやった選手にお金を払ってないと思います。今アメリカでも問題になっているんですよ。ドラフト1位の選手にかなり払っていることが。でも、アメリカの場合は、ホントに人数の多い中から10何人かに何億円か払っているので、もらったヤツらの方も90%ぐらいはきちんと活躍するんです。日本の場合はそんなに活躍しないですよね。
金子:アメリカの場合、例えばテレビの放映権を世界中にいろんなところに売ろうとしている。
長谷川:そうですね。
金子:帽子であり、ユニフォームであり、いろんなところでマーケティングを広げようと努力していますよね。
長谷川:そう、しかもそれを30球団に全部きれいに分けてるんですよね。
金子:でも日本の場合は、パイを大きくする努力もしなければ、利益を分配しなくてはいけないという気もないじゃないですか、今の段階では。なのに選手の給料だけ上がっていく。人口減ってっているわけですよ、日本は。
長谷川:そうですね。だから僕は、常識的に考えて先々不安になってくると思うんですよね。ホントに不景気ですし。なんか経済の話になってきましたけど…。日本のプロ野球の将来を考える時だと思うんですね、今こそ。選手会でもそういう話は出ているんですけども。
金子:考えてる選手が少ないじゃないですか。
長谷川:そうなんです。それも問題ですね。まあ、選手会のトップの人がそういうことを非常に考えてはいますが。
金子:立命館の先輩の古田さんとか?
長谷川:エエ、古田さんなんかそうなんですけど、会長ですから。でもまあ、古田さんなんかもあんまり強く言えないんですよ。古田さんも将来的には監督になる人です。例えば普通の会社でも、文句ばっかり言ってる組合員はトップになれないじゃないですか。古田さんはそんなこと言わないですけど、なんかとっても大変だなあと思いますね。
金子:昨年、選手会の会議に出席させていただきましたが、誰も何も言わないんでビックリしたんですけど。
長谷川:しゃべってたの野茂と僕ばっかりだったでしょ。
金子:ハイ。イヤーすごく喋ってましたよね、野茂さんが。テレビが回ってなかったら、こうも違うもんかなと思いましたが。
長谷川:彼からね、前の日に電話かかってきたんです。「こういうこと言おうよ」って、色々言うんですよ。言おうよ言おうよって、最終的にはオレに全部言わせようとするんですよ。
金子:ワハハハ。
長谷川:「そんなこと言ってないで、お前が言えよ」って言うたら、「おう、よっしゃわかった」って。それで結局ダーッと言って。やっぱり彼もね、日本のプロ野球のことを非常に考えてるんですよ。自分が将来戻れるか、戻れないかの問題ではなく、そういうことが好きですから。一生懸命考えて、「こうなったらいいんじゃないか」とか言うてましたから、その通りそのまま言えばって言ったら、「アホ、オレは言えんだろう」って。なんでやねん!
金子:ハハハ。
長谷川:「お前が言え。お前、そういうイメージだから」って訳のわからないことを言うんです。まあ、よく考えてる選手もいるんですけど、さっきも言った通り大半の選手が何も考えていない。6年前ですかね。選手会でストを起こそうって話になった時、僕の隣に座っていたヤツが、「全員賛成ですね?」と言われてパッと手を挙げたんです。でね、「お前わかってんの?」って聞いたら、わかってないんです。「お前、ストしたら明日からお金入らへんで」と言ったら、「そりゃマズイマズイ」って。そんな感覚なんですよ。だから、古田さんたちが何のためにやっているのか、わかってない。こんなかったるい会議、早く終わればイイのにみたいな感じなんです。
金子:僕は東京六大学の中で一番偏差値の低い大学を出たんですが、そのOBと言うのはやっぱり一番考えてない急先鋒なのかなって思ってしまいますが。
長谷川:そうですか。
金子:考えてない人多くないですか? H大学。まあ、それはイイんですけど。立命館は考えてますよねえ。
長谷川:立命館といっても僕と古田さん、今メインで活躍してるのはふたりしかいないんですけど。
金子:ふたりいたらスゴイじゃないですか。
長谷川:そりゃまあ、そうですけど。なんて言うんですかね、ちょっとこう都落ちした大学で。京都はもともとは都だったんですけど、立命館は、都落ちした大学というイメージで、ちょっと変わった人が入るところなんで。そんなこと言うたら立命館の出身の人に怒られますけど。
金子:日本のプロ野球というか、大学からそうなんですけど、“野球マシーン”。
長谷川:サッカーもそうですよね。
金子:サッカーマシーン。サッカー以外のことには何にも興味を持たない。サッカー以外のことを何も知らないという人が、メジャーリーグと比べて多くないですか?
長谷川:そうですね。僕コンピュータ使ってまして。今でこそ、皆さんも使ってるでしょうけど、僕はMS-DOSの時代から使ってるんです。そうすると、野球に集中してないとか言われるんですよ。野球に集中してますよ、グラウンドでは。でも、グラウンドを離れればコンピュータもするし、日経新聞も読むし。経済のこともそこそこ考えながらやっていかないと。野球選手って、スポーツしてればそのままお金が入ってくる訳ではないですからね。お金が勝手に湧いて、そのお金持って行ってる訳ではないんで。経済の中のひとつとして野球があり、その中のお金をもらってると思うんです。そういうのをやっぱり考えないと、これからの将来無理なんじゃないかと思うんですけど。
金子:アメリカ人は考えてますよね。基本的に社会全体が施してる保障のレベルというのが日本に比べて低いですから、自分でやらなきゃならないですもんね。
長谷川:確かにそうですね。例えば南米から来た選手なんて言うのは、サミー・ソーサ(シカゴ・カブス)なんかもそうですし、キューバから来たパルメーロ(テキサス・レンジャーズ)とかもそうですけど、彼らは帰る国がないんで、とにかくアメリカに来て一生懸命野球をやって、その上で年金の問題とか将来のことをきっちり考えておかないといけないんでね。自分の国に帰ってどうのこうのってないじゃないですか。そういう意味ではホントに社会のシステムとか、将来的に自分がどういうことをやったらいいのかっていうことも、よくわかってると思うんです。だからプロ野球選手であったり、サッカー選手であったりしても、将来はそれだけではいけない、そういうことも考えておかないといけないと思うんですよね。
金子:長谷川選手の本を読んでて面白いなって思うのは、例えば今、エンゼルスなら私服で球場に行けばすべて準備ができてる。移動はジェット機、自家用というか球団用の。とにかくメジャーリーガーであることにプライドが持てる環境ができている。それでもって、メジャーリーガーには周囲の人が敬意を持って接してくれる。これは非常におもしろい環境だと思うんです。ただひとつ引っかかるのがですね、今の日本のプロ野球選手、日本のプロスポーツ選手で、それだけの敬意を注ぐに値する人ってどうやったらできるのかなと。ニワトリが先か、卵が先かという問題になってしまうんですけど。アメリカやヨーロッパに比べたらすごく少ないんじゃないかなって。スポーツがヨーロッパやアメリカほど日本では大切にされてないというのもあると思うんですが。
長谷川:アメリカ人の選手たちは、サインをする時にね、こども主体にするんです。大人にはちょっと待ってくれ、後でするからみたいな感じで、こどもを優先させる。アメリカに行って先輩であるアメリカ人のそういう態度とか見て、僕たちも変わっていってるところなんです。日本ではそういう選手というのがひとりもいない。一番イイのは、僕たちが戻ってきて、アメリカで教わったことをやれば、そういう風になっていくかもしれないですけど。でも、なかなか難しいですよね、浮きますし。まあ、なんやかんや言うて、そういう尊敬されるに値する人って、向こうには多いですね。そういう選手を作るにはどうすればいいかというのは、金子さんらの仕事かもしれませんよ。
金子:イヤイヤ。
長谷川:プロ野球選手に対して、何か本を書いてみるとかいうのはないんですか?
金子:読まないからね。プロ選手は本を読まないから。
長谷川:僕らも選手会でエージェントのことを話してたんですけど、どうやってわかりやすく伝えればいいかという問題がありまして。古田さんはプリントを配ってるんですが、みんなそれを全然読まないらしいんですよ。僕はそれを持っていって必ず読んでたんですけど。そんな感じですから、「マンガにしたらどうですか?」って言ったんです。そうすればみんな読みやすいかと思って。
金子:悲しい話ですね。
長谷川:でも、難しいじゃないですか。日本でプロ野球選手になろうと思ったら、昔から野球バカでないとなれない。野球しかない人でないといけないという感覚がありましたから。
金子:それで高校3年間送られてますしね。
長谷川:そうですね。朝5時に起きてそのまま始発の電車に乗って、帰ってくるのは夜の10時ですから、家にいるのは7時間しかない。どうやって勉強せえっていうんですかね。今ちょっとは変わってると思うんですけど、そういう時代を経て今があるんで。ほとんどの選手がそういう環境にいたわけですから、大学に行ったからって野球も勉強もしようという考えにはなかなかならない。やっぱり、それが日本の環境じゃないかなと思うんです。僕の場合はちょっと変わりもんですから、それでも勉強がしたいと思いましたけど。
金子:長谷川さんの母校の東洋大姫路高校って、野球部に入りたくて入って来る人ばっかりでしょ。
長谷川:そうですね。
金子:それなのに、入学して泣く人はいないじゃないですか。
長谷川:初めて制服を着た時に泣きました。PL学園と同じような、昔海軍の兵隊さんが着てたようなボタンが無い制服なんですが。
金子:チャックみたいなヤツですね。
長谷川:ええ。それを着た時に、ホントは公立の普通高校に入れてたのになぁ、勉強で行きたかったのになぁって思って、涙がボロボロ出てきちゃって。自分で選んだことですから仕方ないんですが。高校時代もそういう思いがあったので、先ほどの話のように家には7時間しかいないから勉強できないですけど、受験には英語と国語と社会が大事やって知ってたんで、理科の時間に英語の勉強したりしてましたね。
金子:国立は避けて、私立一本。
長谷川:国立なんて無理ですから、高校に入った時点で。ホント授業中いろんなことしてましたよ。僕がその時考えてたのは、慶応大学か立教大学。慶応も立教も2部(夜間)がないんです。1部しかない大学って、朝からは練習しないんですよね。午前中は学校に行って、午後から練習。そういうところに入ったら授業にも出られるし、野球もしっかりできるなって思ってましたから。
金子:ホントに大学で勉強したんですか?
長谷川:しましたよ。結局、立命館に入りましたけど、推薦制度ができて1年目だったんです。僕は1部だったんですが、監督が「授業に行ってもイイよ」と言ってくれて。その代わり「夕方からはしっかり練習してくれ」と。10人だけそういう推薦の学生がいたんですけども、とにかく学校に行って帰ってきたら練習。練習をサボる意味でも行ってたと思うんですが、授業はきっちり聞いてましたね。でも、それをまたテストするのが日本の悪いところなんですよね。大学って、ホウ、なるほどなるほどとわかって、社会に出てからそれを使えればいいじゃないですか。それをわざわざ全部わかったかどうかテストするのはおかしいですよね。今32歳ですけど、大学の授業に出たいですね。金融論とか面白いとこだけ。面白くないのは行きたくないですけど。テストのためではなく、本を読んだりしてるのと同じように、授業に行きたい。行けるんですよね、確か?
金子:行けますね、今は。
長谷川:それがホントの教育じゃないかって僕は思うんですけど。
金子:学歴ということを言ったら、日本のプロ野球選手は非常に高いですよね。
長谷川:そうですね。
金子:大学行ってる選手があれだけいて。
長谷川:卒業ではなく、出身っていうのもありますし、あとはなんか知らないけど卒業できてたっていうのもいますけど。
金子:映画なんか見ていると、アメリカでも大学行ってアメフトしかしてない、バスケットしかしてない、それで大学からお金もらって、卒業して行く選手っていますよね。
長谷川:しかも、3年生でドラフトにかかるみたいですね。
金子:それなのに、何で日本みたいにバスケットバカ、アメフトバカにならないのかなって。
長谷川:そうですね。彼らの話を聞いていると、高校時代に全部やってるんですよね。
金子:いろんなスポーツを?
長谷川:ハイ。野球やフットボールやバスケ。今でこそふたつくらいに減ったらしいですけど、僕らの年代のヤツってみんな3つくらいの競技をやっているので、頭が柔軟だと思うんですよ。
金子:色んなことに興味が持てると。
長谷川:ええ。例えば野球でスランプに陥った時もフットボールで何か見出すとかね。僕は一生懸命ゴルフをやってるんですけど、スランプに陥った時にゴルフできっかけをつかむこともありますよ。そこまで行くには、ゴルフも一生懸命やらんとダメですけど。ただ気分転換にやるんじゃなくってね。丸山(茂樹)君に真剣に質問したりして、きちんとしたフォームで打てるようにしましたから。そういうふうにすると、ゴルフのフォームが野球にも生かされるんです。そういう柔軟さってアメリカ人は持ってるでしょうね。僕もそういうのを見習ってるんですけど。
金子:極言すると、役に立たないものってないじゃないですか。それを簡単に捨ててしまってる選手って多いですよね。その中だけで答えを探そうとして。
長谷川:それはね、コーチや監督もそういうところありますよ。例えば僕、調子が悪い時に「ゴルフ行ってきまーす」と言うと、「ちょっと待て!」って言われますから。「何をやってるんだ」みたいな。野球のことをほっぽり出して他のことをするとは、どういうことだって。
金子:例えば山田(久志)さんも。
長谷川:いや、山田さんはそうじゃなかった。山田さんはそういう感じじゃないんですよ。まあ、あるコーチはそういうふうに言うんですよ。とにかく野球のことを考えろと。でも、アメリカに行ってゴルフもやってますけど、野球に関しては今の方がずっと考えてると思うんですよ。そんなこと誰も言わないですけど、自分の仕事場であるメジャーリーグが一番レベルの高いところだとわかってますから。気を抜いて野球のことを考えなくなった瞬間、やっていけないというのは知っていますからね。ただ、プロの選手が野球のことを考えるのは当たり前のことで、うまく気分転換をするとか、野球自体をうまく進めるために他のことをしようとしているだけですから。遠回りみたいですけど、その方が近道になるのに、日本人はそれが下手だなと思います。日本のプロ野球選手は、特にそう思いますね。
金子:プロ野球選手っていうより、日本人。日本人ってことになってしまいますね。
長谷川:ただ若い選手にね、「じゃあ、長谷川がやってるようにゴルフしろ」とかって言ったら…。
金子:ゴルフに飲まれちゃう。
長谷川:ええ。僕はよく阪神の星野(伸之)さんと飲みに行ってましたけど、飲みに行っても無駄がないんですよ。最後タクシーで帰る時には野球の話になってるんです。酔っ払って本音が出てね。「お前、やっぱココがダメだ」なんてことを僕はいちいち聞いてるわけですよね。そういうのはやっぱり今の若い子にはない。僕も若いんですけど。イチロー君世代の人は少ないな。飲みに行ったら行っても、女の子と話して終わりなんですよね。
金子:それはそれで楽しいでしょうけどね。
長谷川:でも、いつもそれではね。成長がないっていうか、僕なんかこういう顔だからおねえちゃんにはあまり好かれなかったですけど。今の子ってカッコええじゃないですか。どっちかって言うと芸能界ぽくって。ヤクルトの五十嵐(亮太)君なんてキムタクやない、あれ。あの髪の毛、ビックリしますよ。そういうタイプでもてるから仕方ないですけど。でも、たまには女の子は放っておいて先輩と一緒にタクシーに乗ってみろと。そういう昔ながらのところというか、そういうのも大事やと思いますし。
金子:コレ、日本のイイところですよね。
長谷川:でも先輩を間違ったらダメですけど。本当に意味の無いこと言うてる人いますね。そういう人は、まあ名前は出しませんけど。
金子:僕は部外者なんで名前出してしまいますけど、川藤さん(幸三・元阪神タイガース)と一緒にいて野球で学ぶことはあんまりなさそうですね。
(場内大爆笑)
長谷川:いや、そうですけど。でも人生は学べるかもしれない。
(場内爆笑)

【・・・後編につづく】 後編へ
取材・文:CREW
撮影:源賀津己