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@ぴあ/HOTスポーツの人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。12月3日に行われたイベントの模様を、そのままお届けします。
 vol.4 後編
 SUPPORTED BY キリンビバレッジ

「メジャーリーグはこんなにスゴイ!」(後編)
前編はこちら

出演者プロフィール
ホスト:金子達仁(スポーツライター・左)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターとなり、スペインに移住。「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などベストセラーを生み出した。今、日本で最も売れ、最も刺激的なスポーツ・ノンフィクション作家。
ゲスト:長谷川滋利(メジャーリーガー・右)
'68年、兵庫県生まれ。小学1年よりソフトボールを始め、中学軟式野球大会で投手として全国制覇。東洋大姫路高時代には3度甲子園に出場した。立命館大でエースとして活躍した後、'90年ドラフト1位でオリックスブルーウェーブに入団、新人王を獲得。6年間で57勝をマークし、'97年にアナハイム・エンゼルスに移籍を果たした。メジャーリーグでは主にセットアッパーとして活躍している。4年間の通算成績は、25勝21敗16セーブ。

金子:そろそろまじめな話をしましょうか。長谷川さんの本『適者生存』。適応すること、アジャストすることについて書かれた本だと思うんですが、それでひとつ難しいのは、日本人の場合、僕自身スペイン留学中にスゴく考えたんですけども、アジャストしようとし過ぎて媚びてしまう、自分を見失ってしまう。この境目を長谷川さんはどうやって?
長谷川:それはちょっと説明しにくいな。僕は非常に我が強いんです。だからそれを前提にしたアジャストなんで。そうか、普通の人はそう思いますよね。僕の場合にはホントに頑固なほど自分を大事にする。だから、あまり友達もいないんですけど。何て言うんですかね、自分の道を貫きたいんです。それが基本にある上でのことなので。でもそればっかりでもダメだから、そう枝葉をちょっと変えていかないとダメだなと。それでも基本はやっぱりありますよ。ここだけは譲れない。例えばピッチングなら、後ろのスウィングは絶対に変えられないと。僕ちょっと変な投げ方をしてるんですけど、これ変えるとダメだって自分に言い聞かせてるんです。もしかしたら変えた方がいいかもしれないですけど。自分の中で、コレで固まっているのに変えてはいけないって。そういうところがあるんですよね。
金子:その信念はオリックス時代に固まってたんですか?
長谷川:そうですね。ピッチングコーチに、1年目が終わって、2年目の悪い時に「こう変えろ」って言われても、絶対それだけは譲れなかった。でも、僕いいヤツですから、笑って「ハイハイ」って言えるんですよ。
金子:とりあえず、それで。
長谷川:そうです。実際には全然聞かないですから、「おまえはホントに変わらんバカだな」と言われましたけど。「そうですね」って笑ってたんです。コーチを逆に操るような形で。
金子:でも、それで納得してしまうコーチも問題。
長谷川:まあまあまあ。コーチの話が出たので話させてもらいますが、アメリカのコーチにラーセル・マッチマンってすごいのがいるんですけど、彼なんか、僕のビデオを2時間くらいズーッと見てるんですよ、僕が悩んでると思うと。それくらい研究してるんで、アーだ、コーだと言えるんですが、それでも言わないんですよ、僕が質問しにいくまで。給料は400万円とか500万円とかですよ、お金のこと言うて悪いんですけど。日本のコーチなら、1000万円、2000万円でしょ。5000万円もらっているピッチングコーチとかいましたよね。そうかと思えば、400万円で毎日選手のビデオを2時間3時間も見てられるってスゴいですよね。僕なんか非常に尊敬してるんです。アメリカではコーチよりも僕ら選手の方が立場は強いんです。でも、尊敬してるとこあるんです。一生懸命やってくれてますから。だから、何かポンって言われた時に、素直に「やってみよう」って思えるんです。そこまで見てくれてるんですから。テレビなんかで「長谷川さん、将来はコーチですね」とか言われるんですけど、そういうコーチたちを見てるんで「500万でそんなことできません」って言いたいんですけど。まあ、それだけ言っても何にもわかってもらえないので言わないんですけど。実際の話そうなんですよ。もとの取れない仕事だと思います。コーチがボール拾いしたり、ノックのキャッチャーしたり。日本だと、「長谷川、取ってこい」「何してんや、ボール拾いぐらいしろ」って感じですからね。もう全然違いますよ。日本の場合は怒って尊敬させようとか、怖がらせて何かさせようって感じなんですけど、そこが明らかに違うと思います。
金子:それだけ素晴らしいコーチと接していたら、全面的にそっちの方に行ってしまいそうになりません? でも、向こうに行けば行くほど日本を意識なさってるじゃないですか。
長谷川:僕は向こうでずっと暮らしたいので、選手として戻ってくる気はないんですが、そういうことを知っているので、例えば秋のキャンプなんかに呼ばれたら、こういう風にした方がいいとかアドバイスしたいですね。そういう意味で日本のプロ野球をヘルプできたらなって思うんですけど。
金子:話は戻りますが、長谷川さんは何でアメリカに適応はしても同化はしなかったんでしょうね。
長谷川:それはどういうことですか? 同化はしないというのは?
金子:もしかしたら日本人というのは、外国へ行って自分の国の悪口を言う人の割合が世界一多い国民ではないかと思うんですよね。日本はダメだ、日本はダメだって。どうしたって、アメリカ人にはなれないわけじゃないですか、日本人なんだから。なのにアメリカ人のように振舞いたがる。
長谷川:それは多分僕がアメリカの中で、アメリカ人と一緒に暮らしてるからじゃないですかね。というのは、やっぱりアメリカの悪いところが見えますから。例えば、今ココにおられる方にはあまりわからないと思いますけどね、「アメリカは差別がない国」って言いますけど、あの国は一番差別がある国だと思うんです。いろんな人種が集まってますから。やっぱり同じ人種同士で固まったりとかしてますよね。選手同士でもやっぱり黒人と白人は分かれますし。そういうのを見てていいことだとは思わないですし、日本人の方がそういう点はちゃんとしているんじゃないかな。人種をネタに笑ったりジョークにしたりはしないと思うんです。そういう中にいて、僕はほとんど白人の、選手は白人の方が多いのでそっちにいることが多いんですが、黒人のいないところで悪いジョークを言って笑ってるのを聞いているんですよ。ホントにアメリカ人の中に入って生活しているので、逆に日本もそんなに捨てたもんじゃないと感じるんです。アメリカ人の方が悪いところもありますから、人間的に。そういう意味で、自分は日本人であることは悪いとは思っていないですし、日本のことをあまり悪いと思わないですね。もうひとつねえ、コレはあんまり言わん方がイイかな・・・。
金子:ココまで言うたら、言わんと。
長谷川:ハイ。僕の場合は特殊な技能があるんで、今はアメリカでアメリカの会社に入って金を稼いでいますけど、将来的な部分では、アメリカにいてアメリカ人のために働くというのはできないですね。
金子:ウーン。
長谷川:「ほんならお前、お金取っていくだけか」みたいに思われるかもしれないですけど。僕は、どっちかと言うと、最終的には日本の企業で働くんじゃないかと思うんですけどね。アメリカはさっきも言ったように、差別的なところなんで、日本人がアメリカの会社に入ってやろうというのは難しいところがあるんですね。こんなことを考えながら、市民権を取ろうとか考えてるんですけど。矛盾してますね。
金子:でも、いいところでもありますよね。イヤなところもどうしてもあるとは思うんですけど。
長谷川:そうですね。まあ、家ひとつとってみても、テレビで放送されたんで言いますけど、日本と同じ額を出すと2倍3倍のところに住めますし、物価も全然違いますし。何をしようとしても空気が違うと言うか、澄んでますから。やっぱり大きな国なんでね。そういう意味ではホント住みやすい国だとは思うんですけどね。
金子:ちょっと変なこと聞いてもいいですか。
長谷川:どうぞ、何でも聞いてください。
金子:メジャーリーグに行って、ボールが変わりますよね。それで、スライダーが曲がらなくなったと聞きました、行ったばかりの頃。プロのピッチャーが言う「曲がらなくなった」という感覚、例えばそれまでは何センチくらい曲がってたんですか?
長谷川:スライダーというのはそんなに曲がらなくってもいいんですよ。僕の球だと例えば、10センチ曲がればいいとするじゃないですか。それがバッターの届かないギリギリの距離というか、芯をはずす距離なら。その長さにならないで、位置に行かないくらい曲がらなかったんですね。
金子:3センチくらい?
長谷川:何センチとかって言えないですけど、半分くらいしか曲がらないっていうか。
金子:感覚的には?
長谷川:ハイ。それで、もうひとつはその曲がるというよりはね、日本で言うキレですよね。このクッと曲がるのがないんですよ。だからダラーンと曲がる。同じ量だけ曲がるとしても、ダラーンと。同じ投げ方しているのに、ボールがこう行くのとクッと曲がるのとでは違うんですね。バッターというのは、そのゆっくり行く方がわかるもんですし。まあ、そんなダラーンとしたスライダーならいっそのことカーブの方がいいわけですから。スライダーというのは結局、キレでクッと曲がるから抑えられるんですね。でも、それが最初の頃の腕の振りだと、バッターにはちょうどいいスピードやキレになってしまったから、随分打たれましたね。だから、キャンプの時にスライダーをバカスカ打たれた時は、「これまで苦労してきたけど、もしかしたらコレで俺はアウトなのかもしれないな」と思いましたね。日本にいる時には、右バッターには真っ直ぐとスライダー、左バッターには真っ直ぐとシンカーで勝負してたんですけど。それが右に対しては真っ直ぐしか投げられない。そんなんで抑えられるわけないですから。
金子:またまた素朴な疑問なんですけども、スライダーの曲がりが甘くなったのに、シンカーは変わらなかった?
長谷川:それがね、シンカーはすごく落ちるようになったんですよ。風の抵抗を受けやすい球種なんで、重力に向かって落ちて行くのには適してるんだと思うんですよ、向こうのボールは。だから、今流行っているツーシームとかいう球種も、風にぶつかって妙な動きをするんですよ。誰かが言ってましたけど、バレーボールのサーブでボールが回転しないでスーッと曲がるアレですけど、わかりますか?
金子:わかります。
長谷川:それってサッカーでもそうなんですけど、蹴り方によって、こうスーッと曲がる。ボールをひねって曲がらせるのでなく、風に面をぶつけてこう曲がるような。
金子:ナックルもそうですよね。
長谷川:ハイ。そういう球がアメリカで流行ってるというのは、そういう球しか投げられないんですよ、きっと。ボール自体がね。
金子:マダックス(アトランタ・ブレーブス)のスライダーは相当曲がるんですかね、やっぱり。
長谷川:マダックスのはスライダーと言うより、逆の球なんです。あれも風にぶつけて投げる球で。みんなね、マダックスはコントロールがいいピッチャーだと言うんですけど、僕は、マダックスって決してコントロールがいいなんて思わないですよ。だいたい、だいたいのところに投げてるんです。真ん中あたりを狙って、それで曲がりがすごく大きいんで、本人もどこに行くのかわからないんです。だから、ナックルボール・ピッチャーと一緒なんです。それがね、野球選手ってよくあるんですけど、実は僕もそうなんですが、結果論でコントロールがいいとか言われるんですよ。よく「あの場面では、あそこまで考えていた」なんて言ったりしますけど、ホントはそんなに考えてないですよ。
金子:ワハハハ。
長谷川:中日からロッテに移籍した牛島さん(和彦、プロ野球解説者)と、僕非常に仲良くさせてもらってるんですけど、言うてましたよ。「そんなにピッチャーって考えて投げてないよな」って。「テレビなんかで聞かれたら、そういう風に言うんだよな」って。僕ももちろん頭使ってやっていますけど、試合の時よりもその前後に頭を使うようにしているんです。
金子:と、言いますと?
長谷川:どういう風に投げるかとか、事前にきちんと調べてね。マウンドに上がってからは、野性じゃないんですけれどもカーッとなってしまいますし。調べてきた通りにはできないですけど、準備はしておいて、その通りやったかやらないかっていうのはその場しのぎみたいな感じで。「マウンドでは冷静ですね」と言われますけど、冷静に見せているだけですから、ホントは。頭ももちろん使おうとしてるんですけど、そうそう冷静にプレイしてないとは思うんです、みんな。
金子:普通に考えたら異常な環境ですもんね。何万人もの目が注がれて。
長谷川:アドレナリンってものすごく出るんですよね。それを一番感じるのは、ブルペンでいくら一生懸命投げても130km台後半くらいしか出ないんですけど、マウンドに行くと普通に投げてもポーンと出るんですよ。不思議です。どの投手も感じてることなんですけど。でも、たまにいるんですよ、変なヤツ。うちのパーシバルという抑えのピッチャーは、プルペンでもいきなり98マイルくらいバーンと出すんですよ。「お前、おかしいだろう」と言うんですけど、そういうヤツもいるんですね。でも、ほとんどのピッチャー、特に僕みたいな軟投のピッチャーは、そういう方が非常に多いから。また、ベテランになると、スピードが段々出なくなるんですよね。だから、ボールが遅ければ遅いままでやけに冷静なんですよ、マウンド上で。だから、今言うてた話につながると思うんですけど、マウンド上ではカーッとなった状態にならないと、常にそんなに冷静だと、スピードが出ないんですよね。
金子:そういうことは『適者生存』には書いてないんですよね。
長谷川:ハイ、書いてないですね。ホントはもっとメンタルなことを書きたかったんですけど、ターゲットが違うんで。ちょっと柔らかい方がイイって言われて。でもメンタル面のこととか、非常に好きなんです。目標というか最後のゴールを設定して、これから1年後どうするかってことを設定して、そのためにはこれから1ヵ月の間どうしたらいいか、そのために1週間どうしたらいいかと計画を立てて、その計画の中で今日は1日に何をしようかと考えるのが、メンタルトレーニングですよね。
金子:それはO型の人間にはできないですね。
長谷川:できないですかね? 僕はA型なんですよ。もっと技術的なことを言うと、実際の場面では深呼吸をうまく使うとかいろいろあるんですよね。そういうことをホントはもっと細かく、専門的なことまで書きたいなと思ってるんですけどね。あと、ご存知の通り「ゾーンに入る」とか「無になる」とか言うんですけど、その状態を作り出すにはどこが一番近いかと言うと、ビビりの緊張した状態なんですね。「どうしよう」と思ってる状態が、一番無に近づきやすくて、その次が怒りの状態なんです。でも、怒ってる状態は無になりにくい。例えば、打たれたりして、「次また打たれたら、オレ1軍から落ちるわ」ってビビりに入るじゃないですか。そういう状態の時に無に入りやすいんです。それで、一番最後の最悪な状態がやる気のない状態。
金子:キレてしまった状態。
長谷川:そうですね。まあ、プロの場合はそこまで来るのは非常に少ないんですけど。例えば、今年で言うならクレメンス(ニューヨーク・ヤンキース)。シーズン後半やワールドシリーズでは非常にいいピッチングしたんですけど。あるいは日本のピッチャーでも、昔巨人にいた西本さん(聖、プロ野球解説者)とか。彼なんか日本シリーズだけ急に良かったりしましたけど、そういうピッチャーは普段は怒りの状態が多いんです。ベテラン選手に多いんですけど。「何で今まではコレだけできたのに、今できないのか、腹立つなぁ」って、そんなことばっかり考えてプレイに集中できないんですよね。でも、そういう大事な試合になったら、やっぱりベテランでもビビりの状態に入ってくると思うんです。そうなった時に無の状態に近づきやすくなるので、ベテラン選手が活躍したりするんだろうと僕は思ってるんですけど。だから、クレメンスもびっくりするくらいいいピッチングしたりするんですよね。シーズン中は全然良くなかったのに。そういうメンタルなことを調べると非常に面白い。例えば阪神の星野さんなんか、テンポが変わらないんですよ。ボッコボコに打たれようが、バッチリ抑えていようが、ズーッと同じテンポで飄々と投げてるんです。それがすごい。メッタ打ち食らってやる気がない時は、「ハッハッハッハ」というと呼吸法にするとガーッとなりますよね。さらに、その後もう一回深呼吸して戻すとか、いろいろな技術があるんですけど、そういうのは全く関係なく、打たれようが打たれまいが変わらない人っているんですよね。野茂君なんかもそうですけど、速い球を投げる技術のほかに、そういう強いメンタルな面も持って生まれた人もいるんですよね。
金子:ハアー。
長谷川:会場を見ていたら、通の方も非常に多そうなんで深い話をしてみたんですけど。
金子:長谷川さんにさらにお伺いしたいんですけども、実績を残す、そしてその実績が連なっていくと、自分の中で恐れというのは薄れてきませんか。
長谷川:それも今言ったみたいに、技術でカバーできると思うんですよね。誰かアメリカのピッチャーが言ってましたけど、マウンドに上がる時に恐れを感じなくなったら、終わりだ、引退だってね。どれだけマウンドを経験しても、いい実績を残しても、まあベテランもそうですけど、がんばれるのには何らかの緊張感があると思うんですよ。それがあるからやっていけるんでね。それがなくなるとホントに引退の時かなって。いまだに僕、ロージンバックを最初に触る時は、手が震えてますよ。ビビりはしてないんですけど。
金子:それでもコントロールがちゃんとつくわけですよね。
長谷川:まあ、つかない時もありますけどね。4月なんてホント状態がいいのに、ダメでしたね。自分なりにもう少し調べてみたいのは、4月から9月まできっちりいけて、フォームも全部良かったのに、どうして4月だけ悪いのか。それがメンタル面の問題なのか、何なのかわからないですけども。
金子:4月が悪いと思い込んでると。
長谷川:そういうこともあるかもしれませんね。極力そう思わないようにしてるんですけども。メンタルなところだけでなく、例えば血液がどう動いているかとか。やろうと思えば、そういうところまで全部調べられるんですけども。まあ、そこまで行ったら面白くないと思いますしね。学者の世界に入りますから。僕がそのまま学者になって調べてみるならいいんですけど。教授の人たちって、自分で野球をしたこともないのにそういうことを言うじゃないですか。それぞれ血液の問題だとか筋肉の問題だとか、部分部分をかいつまんで説明されるんで、そこがちょっと合わないなと思うんですけどね。
金子:「木を見て森を見ず」って感じですか。
長谷川:そういうことだと思うんです。それでは気楽な話にしましょうか。
金子:気楽な話? 何か気楽な話ありますか。何を聞かれても大丈夫ですか。
長谷川:ええ、何でもいいっすよ。例えば、メジャーリーグにいる日本人選手の中で、どういう感じの人と付き合っているのかとか。どういう感じの人が嫌いですかとか。
金子:では、そのふたつ。
長谷川:自分で首締めてしまいました(笑)。基本的にね、僕は地味な人が好きなんですよ、カッコイイ人。
金子:地味でカッコイイって?
長谷川:イヤ、ごめんなさい。僕の言葉がおかしかったです。地味な人の方がカッコイイと思います。
金子:具体例をちょっと。
長谷川:まずアメリカ人からいきますけど、うちのアースタッドって選手、1番バッターがいるんですけど、絶対に笑わないんですよ。ホームランを打っても何しても。しかもすっごいプレイをするんですよ、いつも。まあ、知ってる方もいらっしゃるかと思うんですけど。超ファインプレイとかしてハイタッチするじゃないですか。その時も笑わないんですよ。
金子:イチロー君も笑わないですよ。
長谷川:エエ。でもちょっと違う。それより彼にはね、もう少しファーストまで全力疾走して欲しいですね。ホントの話。オイオイ言っちゃったよ、とうとう。でもそれは、良くなって欲しいとこですから。僕は打者じゃないんで、何でも言えるんすけど。テキサス・レンジャーズの選手は、ほとんど全員常に全力疾走。チームカラーなんですけど、全員がファーストへ一生懸命走るんですよ。それが野球の基本ですから。アメリカンフットボールもそうだと思うんですけど、激しく走る、激しくぶつかるという基本ができてるヤツが、やっぱりカッコイイんですよ。アースタッドもそうですし、うちのショートを守ってるディサシナもそう。ホームラン打とうがヒット打とうが、常に淡々としていて、表情が一緒なんです。話してみるとバカなことばっかり言ったりしますけどね。僕もピンチの時に出てきて笑ってるから、余裕があってカッコイイとか。自分で言ってるだけかもしれないですけど。自分ができないから憧れるのかなぁ、ズーッとポーカーフェイスでやるヤツに。日本には少ないですよね。何かあるとみんな苦笑いしますし。エラーしたら、アーアって顔をするじゃないですか。でもね、守備で言うと、ロベルト・アロマーとかビスケル(クリーブランド・インディアンズ)とか、このふたりは憎たらしいくらい上手いんですけど、彼らだって時にはエラーもしますよね、もちろん。でも、グラブを叩いて誤魔化したりなんかしないんですよ。それでも、そういう時はかなり意識してると思うんですが、ジーッとしていてピッチャーに声をかけには行かないんです。試合が終わった後に、ボソボソって言ったりはするんですけどね。カッコイイでしょ。日本人ってね、合間に来るんですよ。日本人じゃなくてもアメリカ人のそこそこのプレイヤーは、「ゴメンなー」って。そう言うことによって、自分を慰めてるんですよ。「オレは言いに行ったぞ。だからそれは許してくれよ」、とね。
金子:ウーン、嫌いなのは?
長谷川:嫌いな人はね、やたらと目立ちたがる人、痛がる人。チームが変わったからいいんですけど、エドモンズっているんですけど、メッチャ痛がりなんですよ。アメリカにもいたんですね、そういう人が。日本にはいっぱいいるんですけど。すっごく上手い選手なんですよ。マニアの方は知ってると思いますけど。ダイビングするし、バッティングもスゴイ。今年はマグワイアと一緒にセントルイス・カージナルスでとにかく打ったヤツなんですけど。飛びつくでしょ、そうすると「痛いー!」みたいな感じで。それがなんか嫌いですね。お父さん、お母さんが優しい人だったんでしょうね。うちの息子もヤバいんですけども、痛いか? 痛いか? って育ててきましたからね。
金子:豪邸でね。
長谷川:イヤイヤ。
金子:外国人の話はわかりましたが、日本人は?
長谷川:やっぱり自分で首締めますね。基本的に目立ちたがりの人嫌いなんです。名前は言えないんですけど、日米野球で来てた人なんですけど。
金子:ワッハハハ。
長谷川:イヤ、あの人自体は好きなんですけど、なんかこう目立ちたいっていうところがあるじゃないですか。
金子:メチャクチャ歯切れ悪いですね。
長谷川:それはそれでいいんですけど。僕とはタイプが違うなって。目立つことは基本的に嫌いじゃないんですけど、そこまでっていうのはね。ひとつ言いたいんですが、アメリカの野球って言いますけど、あれは世界の野球ですからね。日本の解説者とか評論家の人たちとか、「日本は追いついた」とかすぐに言いますけど、日本人が向こうに行ってやってるのに追いつくわけないですよね。メジャーとマイナーとまで言わないですけど、世界中の選手が集まってるところに、第2次世界大戦じゃないんですから、日本対全世界で勝てるわけないんですから。だから、メジャーを越えようと言うのはやめましょうって、声を大にして言いたいですね。「日本とアメリカの差はレベルの差です」と言うと嫌われるじゃないですか。僕いいヤツなんで、そこのところを質問するのはできるだけやめて欲しい。技術的な差は何ですかとか、レベル的な差は何ですかと言われれば、明らかに違うので答えられますけど。それはもう仕方がないことでしょう。日本って、今人口どのくらいでしたっけ?
金子:1.3億人くらい。
長谷川:1.3億人ですよ。メジャーリーガーがどれだけ多くの人の中から選ばれてるかってと言うと、何十億ですからね。みんながみんな野球をしてるわけじゃないですけど。その中からだったら、例えばマグワイアみたいなスゴイ選手も出てきますよ。日本も人口が10何億もいたら、マグワイアも出てきますよ。中国だって、あれだけ大勢の人がいるからスゴイのが出てくるじゃないですか。それと同じこと。1 :10くらいで比べてるのに、それは無理な話だと思うんですがね。
金子:長谷川さん、日本の大学でもやられ、プロ野球でもメジャーでもやった。日本のスゴイ選手、世界のスゴイ選手をご覧になられてると思うんですね。それで、どこの世界でも必ずルーキーって出てくるじゃないですか。コイツやりそうやなっていうのを感じられる能力を、長谷川さんは持たれていると思うんですが。
長谷川:よく言うのは、雰囲気っていう・・・イヤ、それは違うなあ。イチロー君も最初は雰囲気なかったからなあ、みんなが言うほどは。
金子:そうですよね。
長谷川:アメリカなら、ガルシアパーラ(ボストン・レッドソックス)という選手がいるんですけど、彼は新人の頃から雰囲気がありましたね。態度といい。僕思うんですけど、格好から入るってあるじゃないですか。打ち方とか、イチロー君がこうやって腕回すように。やっぱりカッコイイですよね。逆に、チョコチョコチョコチョコしてるだけのヤツっているじゃないですか。どう見てもアカンわって感じの。そういう選手は、どうやっても無理ですし、ある意味で人間性というのも感じられると思うんですけどね。僕は、『適者生存』でも書いているんですが、超一流、例えばイチロー君とかマグワイアとかみたいなタイプではないんです。自分自身のことよく知ってますから。僕みたいなタイプは、超一流には絶対なれないんです。ホントのヒーローというのは、僕もそうなりたいんですけど、やっぱり全然違う。タイガー・ ウッズみたいにはなれないですもん。もうひとつ言いたいのは、イチロー君にもちょっと聞いてもらいたいんですが、タイガー・ ウッズってね、アメリカ人に言わせると「何もかも揃ってるのがアイツだ」って。ホント、インタビューの時とかもスゴイんですよ。それをね、イチロー君に見習って欲しいなあと。彼は頭がいいですけども、もう少し技術的なこともわかりやすく話したら、みなさんにもっと受けるんじゃないかなって思うんですけどね。難しいですよね、彼の言うこと。
金子:イチロー君は言っても伝わらない?
長谷川:そういう時があるんですよ。僕らがわからなかったら、みなさんには絶対わからないですからね。確かに彼は僕らより上のレベルなんですけど、できればもう少し簡単に、わかりやすく言うとね。僕は直接彼にはよう言えないんで、金子さんから。
金子:またちょっと違う話で長谷川さんにお伺いしたいのはですね、日本のプロ野球でやってきたけど、もっとレベルの高いところでやってみたいと夢見て、メジャーへ行った。その夢がかなったんですよね。次は出てきません? ワールドシリーズで勝てるチームでやりたいとか。
長谷川:ホントのこと言えば、ワールドシリーズには出たいですね。みなさんはね、そういうイメージが湧きにくいと思いますので、ぜひワールドシリーズが行われている場所に行って欲しいですね。まあ、チケットが手に入らないからまず行けないんですけど。その雰囲気たるや違いますから。オールスターゲームとは全然違います。ワールドシリーズに出るということを、伊良部君はわかってたかどうか知らないですけど。アメリカンフットボールで言えばスーパーボウル、バスケットはもうひとつなんですけど、野球はワールドシリーズ。エンターテインメント性がスゴくて、例えば今回はあのビリー・ジョエルが歌いに来たとか。すごく売れたヤツがドンドンドンドン来るんですからね、ワールドシリーズには。それに、テレビドラマに出てくるようなヤツらもスタンドにコネを使って来てるわけですよ。そういうのを見ると、ホントあの場所というのは、プロ野球選手にとって最終の場所だなと。憎たらしいことにヤンキースの野郎どもは何回も何回も出てるんですけども、それだけに我がエンゼルスとしては、チャンスが少ない。最悪の場合、ヤンキースに入ってでも出場してみたい。
金子:コレだけ言うといて。
長谷川:引退するまでには、ヤンキースに入ってでもあの雰囲気を味わいたい。嫁さんには悪いですけど、それまでは辞めないですよ。家庭をほっぽり出しても、あそこには出たい。衛星放送の解説で行ってるんですけど、ホントはしたくないんですよ。でも、解説すれば行けるじゃないですか。だから、僕が放送中に、シーンとしてたら、真剣に見てるか、試合がつまらなくて寝てるかのどっちかです。
金子:西海岸を離れてでも?
長谷川:最後にはね。エンゼルスって今まで一回もワールドシリーズに行ったことがないんですよ。だから、ワールドシリーズに出場するということは、エンゼルスの歴史に“日本人・長谷川”というのが初出場の時にいたとなるわけですよ。それもすごく名誉なことですよね。
金子:例えばですね、このシーズンオフに「来年は絶対に日本シリーズで優勝するぞ」って思ってる阪神の選手って、いないと思うんですが。
長谷川:そんなこと言っていいんですか? 星野さんは行く言うてましたよ。
(場内爆笑)
金子:ココで笑いが起こるって、スゴイことなんですよね。エンゼルスの選手にはワールドシリーズに出場しようという気はあるんですか?
長谷川:ありますね。アメリカ人はそういうところを持ってるんですよ。あと、アメリカ人にはチームのためという考えがないと思うでしょ。彼らそれを非常に持ってるんですよ。「野球はチームでやるもの、おまえはチームの一部だ」ってよく言うんですよ。それを感じてるんで。もちろんエンゼルスも出られないチームじゃないんですよ。ただ、先発投手がいないんで。黒木君(知宏、千葉ロッテマリーンズ)来てくれないかなぁ。冗談で言っていると思うでしょ。本気ですからね。ホントに先発いないんで、彼ぐらいのピッチャーを日本から5人も連れてくれば、今の先発陣よりイイんでまあ勝てるだろうと。先発投手が揃えばうちはもともと優勝できるチームなんですよ。バッターは今年、ホームランを30本以上打ったのが5人いて、中継ぎもまあまあ。全体でもトップレベルの抑えのパーシバルがいて、セットアップは日本人の長谷川を据えてとなれば、いっぱいいるわけですよ。もうひとつはね、ヤンキースに強いんです。ヤンキースが僕のこととか研究してるみたいですよ。
金子:日本人の場合、すぐに限界を設けてしまうでしょう。野茂選手が行く前、日本人くらい野茂がダメだって言ってた人はいなかったですから。
長谷川:そうですね。
金子:長谷川さんの時も、長谷川では無理だと。あるいは、阪神勝てるわけないとなる。コレって何なんだと思いますか。
長谷川:何なんでしょうねえ。でも限界があって、そんなん当たらないとわかっていても宝くじを買うじゃないですか。同じことだと思うけど、何ででしょうね。例えば、日本の社会人野球があるじゃないですか。あれって、選手が勝手に限界を設けてしまって、30歳くらいになるとみんな辞めないといけないとなるんですよ。30歳といったら、プロ野球では一番活躍できる時なのに。社会人野球で30歳になったベテランはね、オッサンになっているんです。気持ち的な部分が非常に強いと思います。限界なんてないんですよ。だから、僕が阪神のオーナーになってお金がいっぱいあったら、あっちこっちからいっぱいいい選手を連れてきますよ。メジャーからもスゴイのを連れてきて。先発を何人か連れてきたら絶対優勝できないわけはないんです。
金子:いいな、それ。
長谷川:では、アメリカの場合なぜ限界がささやかれないかと言うと、例えばサンディエゴ・パドレスなんてチームは、全然お金のないチーム、使わないチームなんですけど、1年だけワールドシリーズに出たいからってやった。あの時はたまたま成長してきた選手に加えて、よそからスターをいっぱい連れてきたんですよ。1年だけ強化して、パドレスという球団名を売った。そういうタイミングがムチャクチャうまいんですね。そう考えたら、阪神もその可能性は十分ありますし、限界なんてことはない。それでも、個人に関してはやっぱり限界はあるんですけどね。しかし、あの本にも書いているんですけども、個人だって1年では無理でも、何年かすれば絶対に変われるぞって思う。新しい環境の中に入って、適応していけるのもひとつの能力だと。僕は自分自身それを持っていると思うので、1年とは言わないですけど、2、3年したら、どんなところに入ってもそのレベルでやれる自信はあるんですけどね。たぶん日本人というのは、そういう適応する力をあまり信じていないと思うんですよ。だから「活躍する人=速いボールを投げられる人」となってしまう。あとよく言われるのが、「私なんか英語は最初から無理や」と。そういうのよくありますよね。何でもやってみないとわからないのに。もちろんそういうことをきちんとわかってる人もいっぱいいるんですけど、少ないですね。
金子:その適応する力というのは先天的なものですか、それとも何かきっかけが・・・。
長谷川:そうですね、自分自身よくわからないですけれど、まあ先天的なもんではないとは思うんです。
金子:実際それは両方あると思うんですよ。
長谷川:適応する=何か目標を置いて、それに向けて地道な努力をすることなんですよね。
金子:適応という能力がそれだけ大切だと、長谷川さんが思ってるっていうことは、適応することによって結果をつかんだ経験がいくつかあるからだと思うんですよ。メジャーではあったでしょうけど、それ以前にも何かありましたか。
長谷川:常にどこかに入る時というのは、例えば高校に入る時でも大学に入る時でも。もちろん日本のプロ野球に入る時でも、あったと思うんです。また、そこに入って行って自分自身が変わってきた自信はあります。もうひとつはよくする話なんですけど。例えば勉強でね、AとBという学校があるとすると、Aが素晴らしい学校で、Bが次のランクの学校だとしたら、僕の場合はAに無理矢理にでも入ってその中でレベルを上げたいタイプなんで。ある人はBに入ってトップに立ちたいと思うかもしれませんけど。僕は自分より上のレベルのヤツがいないと、上げて行きにくいと思うんですよね。それが適応かどうかわからないですけど。そうやってレベルを上げて行きたいタイプなんで。プロに入る時も、「プロの球団より社会人だったらお前は間違いなく活躍できる。オリンピックにも出られるから、社会人に入ったらどう? お前はそう言うタイプやで」と言われましたが、とにかくレベルの高いところに入って、自分のレベルを上げていきたいと思いまして。だから日本のプロ野球でも、超一流ではないですけど、そこそこやれた。だったらもう一個上のレベルのところに上がって行けば、その分レベルも上げられるんじゃないかと考えたんですよね。
金子:だからその場で適応して行ってるんだと思うんですけど。本の中ではサラッと書かれているので読み飛ばしてしまいそうなんですが、ルーキーのシーズン、オリックスに入って5連敗じゃないですか。2連敗して、3連敗になり、4連敗になり、5連敗になる。その時、自分の能力に対する疑念って湧いてこなかったんですか?
長谷川:そこはね、自分自身、自信を持ってるんでしょうね。そんなとこで自分がどうなるかなんて考えなかったですね。常に考えてたのは、どういう風にしたら、もう少しいいのか。アメリカに入った時のスライダーの話ではないですけど、その当時は左バッターに対する球がなかったんで、シンカーはその間に覚えたんです。5連敗してからはもう、技術的なこととか、コントロールのことしか考えなかったわけですよ。後ろに下がっても仕方ないし、ダメだって思ってしまった瞬間に終わってしまうんで。ひとつ言えるのは、メンタル面が弱い人は、「ああどうしよう」とか考えずに、1点だけ技術的なことを考えてやるといいと思うんですよね。ゴルフでも野球でもいいんですが、ゴルフならばフィニッシュだけと決めとけば、OB出したらヤバイという時に、とにかくそのことだけを考える。マウンドでもひとつだけ、例えば足を高く上げようということだけ考えてたら、ノーアウト満塁ノースリーになっても、「ああそうだ、オレにはそれだけや」となる。「ボールを投げたらどうしよう」なんて思っていることが一番怖いんでね。そのことを忘れるためにも、とにかく足を上げることだけを考えようと。みなさん、ぜひやってみてく下さい。

取材・文:CREW
撮影:源賀津己

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