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@ぴあ/HOTスポーツの人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。12月17日に行われたイベントの模様を、そのままお届けします。
 vol.5 前編
 SUPPORTED BY キリンビバレッジ

「どうなる! サッカー日韓戦」(前編)

出演者プロフィール
ホスト:金子達仁(スポーツライター・右)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターとなり、スペインに移住。「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などベストセラーを生み出した。今、日本で最も売れ、最も刺激的なスポーツ・ノンフィクション作家。
ゲスト:青島健太(スポーツライター・左)
'58年、新潟県生まれ。慶応大、東芝で強打の大型三塁手として活躍し、'85年にヤクルトスワローズに入団。'89年に退団後、スポーツライターに転身。現在は、スポーツライター、キャスターとして、テレビ、ラジオ、雑誌等で活躍している。

金子:今回はまず2000年を振り返っていただきたいと思いますが、2000年一番の選手と言ったら誰を思い浮かべますか?
青島:どうしようかなあ。挙げたい人はたくさんいるんですけど。
金子:はい。
青島:僕としては、ちょっと評価が低すぎるんじゃないかなって思うのは、柔道の野村忠宏選手。
(場内拍手)
青島:高橋尚子選手は国民栄誉賞ですし、YAWARAちゃんもいろいろ賞をもらいましたよね。ふたりとも確かに素晴らしい選手ですしね。だけど、野村君って金メダルふたつも取ってるんだよ。
金子:はい。
青島:それなのに全然騒がれてなくて。今日、絶対言ってやろうと思って来たんですよ。野村凄いよ。
金子:僕もまさにそう思うんですよ。
青島:本当に?
金子:はい。特に、YAWARAちゃんが勝った後の騒然とした雰囲気の中で、誰も野村君の試合を観てなかったですよね。そんな中で、金メダルですよ。
青島:そうなんですよね。アトランタの時もそう。YAWARAちゃんが負けて、大騒ぎしてる脇で金メダルを取ってるんだから、野村君は。
金子:精神的に相当シンドイじゃないですか。自分で、“カーッ”てテンション上げてってる時に。周囲には、「ハイ、柔道終わり」っていう人たちがいっぱいいたんですからね。
青島:そう、そう。彼は自分の口からは言わないけれど、アトランタ・オリンピックの時には、YAWARAちゃんの取材陣に成田空港で突き飛ばされたんですよね。「ちょっとどいて」って、ガーンとやられて。シドニーでは、金子さんもその場にいたけど、野村君とYAWARAちゃんって、ほとんど同じ時間に畳に上がってたんですよ。
金子:はい。
青島:それで、野村君は自分の予選の試合が終わっても、インタビューを受けるミックスゾーンになかなか来ないで、試合場の脇でジーッとYAWARAちゃんの柔道を観てるわけ。
金子:あっ、そうだったんですか。
青島:やっぱり、さすが兄貴分だなあって思ってね。自分で戦いながらもYAWARAちゃんの柔道をきちんと応援して、気にしてんだなあと。彼が金メダル取った後に、「試合しながらも田村さんの柔道をしっかり観てましたよね」って聞いたんですよ。そうしたら、彼、「イヤッ」って言うのね。
金子:カッチョイイヤツですね。
青島:でも、よく聞いたら、田村さんが試合しているその向こう側で、男子の60キロ級の別の試合をしていてね。それがその次の試合で対戦するヤツだったというわけ。
金子:ハハハハハ。
青島:でもさ、オリンピックで2大会続けて金メダルというのは、ただ事じゃないですよね。
金子:はい。
青島:だから、高橋さんが国民栄誉賞をもらうのなら、田村さんもって声が上がったのはわかるんだけど、その前にまず野村君だろうって思ってました。
金子:国民栄誉賞っていうからには、長く残るものですし。
青島:うん。
金子:もちろん、田村さんも本当に頑張ったし。高橋尚子さんもとっても頑張ったんだけれども、たった1回チャンピオンになったのと、2大会続けて、それも追われる側の立場でタイトルを守ったのだったら、そっちの方が僕は大変なんじゃないかと思うんですよね。なぜ野村君が国民栄誉賞を取れなかったか。それは、メディアが扱わなかったからですよね。
青島:そうですね。
金子:はっきり言ってしまうと、そういうことで左右されて欲しくないなあと思うんですけどね。
青島:そうですね。カッコイイんだよね、野村君って。アノー、皆さんは柔道家をどうイメージしてるかわかんないですけど。僕らの世代はね、例えば桜木健一さんが演じたTBSの番組なんですけど。
金子:お客さん、「スイマセン、それ誰ですか?」って感じですよ。
青島:『柔道一直線』という番組があったんですよ。皆さんにイメージしてもらうために、俺歌っちゃおっかなあ。まだ覚えてるよ。どれだけ俺が必死で見ていたかわかるでしょ。「柔の道に命をかけた♪~」
金子:青島さん、CDは出さない方がいいですよね。
(場内爆笑)
青島:何て言うのかなあ。正義感が強くてさあ、寡黙で。強いんだけれども、そんなことを自分からは絶対吹聴しないみたいな。そういう、「男は黙って・・・」って感じがあるのね、柔道家には。
金子:僕ね、MVPとはまた全然違うんですけど。
青島:誰?
金子:選手じゃないんですけどね。篠原選手、あの内股すかしの。審判が見逃しましたよね。
青島:はい。
金子:そうしたら、その後監督の山下泰裕さんがずっと抗議してましたよね。
青島:必死でしたよ、山下さんも。
金子:もしあれが他の国の人であれば、激情してつかみかかってしまう人もいると思うんですよ。
青島:試合場に上がってくるね、間違いなく。
金子:表彰式をボイコットする国もあったと思うんですよ。
青島:はい。
金子:そんな状況でも、ルールは守って、発言するところはする。言うことは言っとく。日本人って、会議になるとサイレンス。サイレンス・スマイル・スリーピングで3Sって言われるじゃないですか。
青島:はい。
金子:それでもやっぱり、柔道の人たちって自分にプライドを持っている。自分たちがやってきた競技にプライドを持っているからこそ、ああして国際舞台でもきちんと発言できるんだなあと。日本人だからできないのではなくて、海外へ出ても「俺にはこれがある」って言えるモノがないから発言できないだけで。自信さえ出てくれば、言えるようになるんじゃないかなって、あの時の山下さんを見て感じられたのが嬉しかったですね。
青島:やっぱり、マナーですよ。ああいう場でマナーというのが存在するのかどうかわからないけど。越えてはいけないところは越えないで、きちんとやってらしたっていうのは、ありますよね。
金子:ただ、本当に怒ってましたよね、山下さん。
青島:うーん。
金子:目の前にいらっしゃったんですけど、以前話を伺った時の山下さんとは別人でしたよね。この人の正面には立ちたくないなっていうくらい。態度は温和だったんですけど、目はイッちゃってましたから。コワーって思って見てたんですけど、でも、頼もしかったですね。
青島:今の話で言えば、篠原信一選手も良かったね。金メダルを取れなかったのは、本当にハードラックとしか言いようがない。でも、それ以上のものだろうし。個人的にあの態度は、泣けたね。
金子:泣けましたよね。
青島:だけど、「弱いから負けたって」という彼の言葉、実はすごく前向きな受け止め方じゃない。これ言われると、負けちゃうなっていうか。変な言い方だけど、グッときちゃうな。惚れちゃうね。
金子:次のアテネ・オリンピックで金メダルを取ったら、国民栄誉賞という声が出てきますよね。今回の負けがあまりにも悲劇的だったから。
青島:「勝ったと思って喜んでしまったことが、何よりも悔しい」と言ってね。彼だって「何なのこれ」「どうなっちゃってるんだ」という気持ちだったでしょう。だから、その後力が出せなかったというのはあると思うんですけど。彼の態度は、忘れているものを見せてくれたっていう気がするけどね。
金子:サッカー選手にはないものですよね。僕自身含めて。
青島:ハハハ。
金子:僕だったら、ツバ吐いてますよ。
青島:柔道の話の続きだけど。
金子:柔道って、オリンピックの時はすごく盛り上がりましたよね。でも、日本の柔道関係者が必ず言うんです、柔道人口は減ってるって。
青島:うん。
金子:柔道関係者はもちろん、柔道をやる選手を一生懸命スカウティングしてますし、増やそうとしてるんですが。いかんせん、サッカーやバスケットに流れるこどもが多すぎる。
青島:うん。
金子:運動神経のいい子は、もう九州の方でも柔道には入ってこなくなってしまった。このままでは、やっぱり厳しいという話を何度もなさってたんですね。
青島:うん。
金子:ソフトボールもそうなんですよね。日本リーグのチームでも、東京から四国に遠征する時、バスで移動すると言うんですよ。選手たちは完全に自分のプライベートを犠牲にして、ソフトボールをやっている。没頭してるっていう言い方もできるんですけども。
青島:例えば、シドニー・オリンピックに出場した安藤美佐子選手。あの世界的なショートストップが所属するチームがなくなっちゃうんだから。オリンピック直前に。
金子:ソフトボールもオリンピックの時にすごく盛り上げてくれましたよね、日本中を。
青島:はい。
金子:彼女たちの犠牲の上に成り立ったものを、僕たちはおいしくいただいているだけって気がするんですよね。もし、本当にスポーツが大切であれば、彼女たちがもっといい環境でプレイできるために、あるいは柔道家たちがもっと誇りを持って柔道に取り組めるように、あるいはもっと柔道をやりたいっていうこどもたちが増えるような環境作りをしないと。「私たちに何ができるの?」と思っている人たちが、何かやろうと言うようにならないと、もう立ちゆかないと思うんですよね。
青島:うーん。
金子:オリンピックの時だけ、「柔道は日本のお家芸」と言ってても、日本国内での扱われ方を見たら、柔道関係者が頑張ってるだけですもん。お家芸を守るために、じゃあ日本人は何をやってるのかって言うと、柔道やってない人たちは何にもしていないんですよね。本当にイカンなと思いますし、できるのであれば、僕はサッカー畑の人間ですから、Jリーグに柔道部ができて欲しいと思いますね。
青島:うん。
金子:アントラーズのファンが、アントラーズの敷地内で練習をしている柔道選手を応援に行ったり。そうすれば、柔道のお好きな年配の方、今のサッカー界にはいない年配のファンの方が、逆にサッカーを観に来てくれるかもしれない。ソフトボール部を作ったっていい。非常に大変だと思うんですよ、ひとつの企業に任せるには。そこで、企業と日光アイスバックスの合体みたいなものができていけば、もっともっと日本のスポーツは、良くなっていくんじゃないかなあって気がするんですけどね。いろいろ、本当にシドニーは考えさせられました。
青島:でも、きっと柔道は恵まれてる方だと思うよ。
金子:ですね。
青島:だって、学校には柔道場があるしね。警察とかね、そういうところでもやられてるわけで。ただ、柔道はもともと日本のオリジナルの競技なんですから、金子さんが言うように限られた場所でしか出合う場がないというのではなく、もっともっと、例えみんなが柔道選手にならなくても、こどもの頃にやれる機会があるといいと思うんです。柔道をやることによって、直接人と向き合って戦うというのはどういうことなのかとか、あるいは畳の文化って我々にはあるわけですけど、それがわかると。今なんて、マンションだったら、畳の部屋がないところで、ずっと育った人たちもいるわけじゃないですか。
金子:あー、確かに。
青島:だから、柔道というものの中には、実は僕らが失ってしまったものが、まだたくさん守られていると思うんですよ。オリンピックでおもしろかったのは、例えば欧米の選手が試合を終わった後、礼をしないで出ていくと、わざわざいったん戻して礼をさせる場面が何度もあったんですよね。
金子:ありましたね。
青島:審判がやらせてましたから。やっぱり礼に始まり、礼に終わる。そういうことを今の若い人たちは学校で言われちゃうと、「ふざけんなよ、コノヤロー。うざったい」ってなっちゃうんだけど。この会場にも、社会人の方がかなりいらっしゃると思うんだけど、やっぱり自分のところにお客さんが来た時、そういうことをきちんとやれる人の気持ち良さってあるわけじゃないですか。そういうのって、どこかで学んできたと思うんですよ。
金子:はい。
青島:スポーツとそういう礼儀とか作法が一緒になって、嫌なものになっちゃってるのが、日本のスポーツの悪いところでもあるんだけども、特に野球界なんか。あいさつしてないとか、声が小さいとかって。俺なんか、どれだけ殴られてきたかって。野球が下手でブン殴られるのはいいんだけど。
金子:慶応大でも?
青島:もちろん。俺たち、「クソッ、アノヤローを絶対殴って、野球部の裏のドブに落として、辞めるぞ」って。
金子:暗いっすね。
青島:メチャ暗いよ、もう。
金子:慶応ってもっとチャラチャラしてると思ってました。
青島:全然。堅い話をしちゃえば、2000年の9月に文部省が「スポーツ振興基本計画」というのを出して、今まで学校とか企業に頼ってるスポーツの環境を、金子さんが言うようにもう少しいろんな場所でできるようにしようとしたけど、Jリーグがサッカーだけでなく、少年柔道スクールに加わってもいいんだよね。そういうスポーツの場を学校とか企業だけじゃないところで、いかにして用意していくか。もっと取り組まないと日本のスポーツがダメになっちゃいますよって。
金子:はい。
青島:そろそろこの話は終わりにするって意味でもうちょっとだけ言わしてもらうと、オリンピックの時だけ「いいぞー日本」とか、「頑張れ」とか言ってんだけど、オリンピックが終わってしまうともう応援しようってムードがなくなっちゃうのはイカンよね。
金子:何て言うんでしょうね、「自分たちが携わるメリットって何?」と聞かれて、僕が自信を持って答えられるのが、携わるとスリル倍増だということですよね。
青島:うーん。
金子:自分は、例えば関係者や選手、関係した競技がオリンピックで戦ってる場面は、それまで部外者としてテレビでオリンピックを見ていた時とは比較にならないぐらい、痺れさせてもらえますし、感動はでかいですよね。青島さんにYAWARAちゃんを紹介していただいたじゃないですか。
青島:はい。
金子:話をさせてもらって。僕は別に何をしたわけでもないんですけど、それでもやっぱり痺れますよね。話をした子がああいうところで戦ってる姿を見るっていうのは。
青島:はい。
金子:そういう人たちを支えようっていう流れが自然になっていかないと、いつまでも日本人はスポーツのおいしいところを食い物にしているだけで、その実、本当に一番おいしいところを知らないまま終わっちゃうんじゃないかなって気がするんですよね。
青島:幸いに、僕も金子さんも皆さんが行けないような、選手が戦う場面とか、終わった直後に話を聞きに行けるんですけど。そういう仕事なんで、金子さんなんかは多くの皆さんが見られないようなものを、自分自身がアンプになるというか、フィルターになって発信しているわけです。その幸せってある。ありがたいことだよねえ。
金子:ただ、実は誰でもできる、味わえる幸せだと思うんですよねえ。積極的に関わっていくことによって。
青島:まあ、お蔭様で本当にいろんなものを見せてもらってるんでね。今、女子ソフトボールの話があったから。
金子:はい。
青島:僕は、シドニーでソフトボールの会場だったブラックタウンっていうところに足繁く通いましてね。
金子:遠かったっすよね。
青島:ハハハハ。今回の女子のソフトは凄かったね。いろいろな選手がいるけど、やっぱり宇津木麗華という37歳かな。日本の4番バッターですよ、三塁手。あの人は凄い。
金子:彼女の肩、相当悪くて打てないだろうという話を、オリンピック前に専門家から聞いてたんですけど。
青島:手術したんですよ。ボールを投げると、痛くてね。だけど、何とか間に合わせてきて。
金子:メチャクチャですよね。
青島:皆さんもご存じだと思いますけど、もともと中国の中心選手だったんですけど、日本の宇津木妙子監督に憧れて、師事するような形で、国を越えてソフトボールをやりに日本に来たんだけど。アトランタ・オリンピックに出場するに当たっては、3年経たないとその前いた国の承認が必要ということで、中国がそれを許さなくて出られなかったんですよ。その時、彼女はもう30歳を過ぎてるわけで。そこから4年越し。肩の手術も乗り越えて、日本の代表選手として出た。執念という言葉は簡単すぎちゃうんだけど。でも、何が何でもっていう思い。肩だってそうだしさあ。それは凄いものがありましたね。日本は大会を通して8勝1敗の成績ですよ。優勝したアメリカは3敗してるんだけど。あれ不思議なシステムでね、勝った方が待ってて、負けてもまた戻って来れる。それで、決勝でまた日本対アメリカ。結局、最後はサヨナラ負けするんですよ。レフトにボールが飛んでね、雨の中。
金子:あれが僕の目の前だったんですよ。
青島:目の前だったの? 小関しおりさんが。
金子:追いついたって思ったんですけどねえ。
青島:途中から雨が降りだしたんですよ。日本が先制したんですけど。それが、宇津木さんのホームラン。アメリカのピッチャーはリサ・フェルナンデス。日本の選手はわかってたらしいんだけど。リサがチェンジアップを投げる時はグラブの膨らみ具合でわかるんですって。
金子:わかってたの?
青島:わかってたんだって。それで、そのチェンジアップを宇津木麗華選手がセンターオーバー、弾丸ライナーのホームランですよ。それが日本の先制点。
金子:今だから言える話ですね。ヤマ賭けじゃないんだ。
青島:それで1対0。そのまま逃げきれれば良かったんだけど、同点に追いつかれて、サヨナラ負けですよね。でも、レフトが雨の中後退して、ボールがグラブの中に入ったんですよ。
金子:その時に、足が…。
青島:ツルンといって倒れた時に、ボールがポロンと落ちたんだよ。それで、サヨナラ。試合終わった後に、外国のプレスか何かが、そのボールを落とした選手にね、「どうして落としたのか、雨で滑ったのか」とかいろいろ聞いたのよ。小関さんはうつむいちゃって、答えられないの。そうしたら、宇津木麗華選手がマイクロフォンをガッっと取って。「あのプレイで負けたわけじゃなく、我々は全員で戦って負けたわけだから、その質問は答えたくない」みたいなね。
金子:カッコイイっすね。
青島:「誰もエラーだとは思っていません」って、マイクをバンって置いたんですよ。もう、我々はウォーッっていう感じだったんだけど。だけど、それはかなり感傷的なとらえ方なんだけど、その時に思ったのが彼女の背景ですよね。
金子:うん。
青島:アトランタにも出られなかった。それで4年我慢していた。肩の手術もした。とにかく“打倒アメリカ”ですよ。彼女がホームランを打った。それで、勝ちにもう手が届いてたのに、最後で滑り落ちた。その想いの中で、「いや、別にあれで負けたんじゃなくて、みんなで戦って負けたんだ」と言い放った宇津木麗華っていう人が、デカイなって思ったね。彼女のキャプテンシー。僕は今回のオリンピック、いや2000年のMVPに入れたいな。宇津木麗華、やっぱり中国の人はデカイなって。
金子:中国の人がですか。
青島:違う、違う。だって、中国きったないよね。アトランタの時は宇津木を出すなって言ってんだから。そうだよ、あん時はチェッなんて思ったんだ。
金子:ハハハハ。
青島:それでも、宇津木さんは凄いなって思いましたね。以上、宇津木麗華話。ハイ、タッちゃんの番。印象に残る試合とか、人ってどう? いろんな人に会ってるし、もうサッカーは世界中で観てるし、もうわかんなくなってるだろう。
金子:サッカーに関して言うと、僕、今年のベストゲーム、観て一番感動したのは、Jリーグ1stステージの横浜F・マリノス対セレッソ大阪。
青島:うーん。
金子:これ、勝った選手も、負けた選手も泣いてたんですよ。まだ最終戦じゃないんですよ、どっちのチームも。ただ両チームとも本当に後がないって状況で戦った。チャンピオンシップでそういう状況ができあがるのは、当たり前だと思うんですね。
青島:うん。それがレギュラーシーズンの中で。
金子:はい。その中であそこまで、両チームが負けられない、負けたくないっていうのをストレートにぶつけ合って。試合展開としても、あそこまでおもしろい形になったっていうのは、Jリーグで随分久しぶりだったなって気がするんですよね。
青島:うーん。
金子:野球のワーストゲームはオリンピックの3位決定戦。
青島:あー。
金子:もうねえ、怒り止まらず。「君たち、何しに来たん?」っていうか。選手たちは一生懸命やってたんですけど。日本の野球界に腹が立っちゃって。
青島:選手は責められないよねえ。だって、彼らはレギュラーシーズン戦ってて、それでもってヒョコッと行ってプロ・アマが合流して。チョコチョコって一緒に練習して、そんなんでオリンピックに勝てちゃいけないよ。
金子:ナメてますよね。
青島:ナメてるよ、それは。そんなに甘いはずがないですよ、オリンピック。例えば、アメリカは金メダルを取りましたよ。監督はトミー・ラソーダ(元ロサンゼルス・ドジャース監督)ですよ。日本で言えば、長嶋茂雄さんを監督に置いてるようなもんだから。
金子:頭、悪いんですか?
青島:まあ、感性の采配だね。
金子:ああ、なるほど。
青島:トミー・ラソーダが日本戦の時に言うわけですよ。「この試合はワールドシリーズの第7戦よりも大事なゲームなんだ」と。「なぜならば、オリンピックのゲームは世界中が見てるんだから。そういう想いで俺らは来てるんだ」とね。
金子:うん。
青島:日本にそういう意識が、少しでもあったのかって。例えあるって言ったって、そういう体制じゃないよね。オリンピックで見せてもらったものは。
金子:何か、戦う前からエクスキューズでしょ。「だって、ベストメンバーじゃないんだもん」って。なら、行くなよって、僕なんか思うんですけど。
青島:そう、そう。
金子:相手にも失礼だし。青島さんも散々聞いてたと思うんですけど。少なくとも、オーストラリアの人たちの意識としては、韓国の方が日本より強いんだっていうのが、浸み込んじゃいましたよね。韓国はプロチームでガーンと来てるっていうのが一般にも流れてるし。日本もそうなんだよねって思ってる人がすごく多かった。柔道でせっかく日本人はプライドが満たされたのに、野球でオイオイオイっていうのがすごく残念でしたね。
青島:自分自身、大学、社会人、プロと野球を通して、日本のスポーツ環境を幸い全部体験してきたんでね。そこで頑張ってらっしゃるたくさんの人たちの苦労とか問題とかわかるんですけど。悲しいかな一番辛いのは、未だに僕は高校生とキャッチボールできないんだよ。プロ野球出身者としては。自分の母校である埼玉県立春日部高校へ行っても。
金子:今でも?
青島:当たり前ですよ、今でもダメ。それをやるには、もうめんどくさい許可申請取らなくちゃいけない。
金子:アホくさ。
青島:でしょ。母校ですよ。大学の場合は、卒業したOBで現役選手でなくなればいいんですけど。だから慶応大学に行くのは、良くなったんですよ。フラッと行って教えるっていうのは、母校に限り。でも、高校はダメ。
金子:母校に限り?
青島:大学はね。
金子:それもまた、おかしな話ですね。
青島:自分は偉そうなこと言える選手じゃないんだけど、せっかく田舎の県立高校の、どっちかって言ったら勉強ばっかりやってるような学校から出たプロ野球選手じゃないですか。少しでも行って、「お前ら、頑張れよ」って言う立場だと、自覚してますけど。行っても何もできないんだよね。それじゃもったいないじゃない。俺なんか体は動かないからさあ、少々高校生たちの練習を手伝ってあげるぐらいしか役に立たないんだけど。それも封じられてるわけだから。
金子:それは、高野連?
青島:高野連というかルールの問題があるんですけどね。アマチュアの方が、プロというか、タレントと同席するようなことで利益を受けちゃいけないと。だから、変なんだけど、インタビューなんかでも局アナが行けば、ツーショットで「何とか選手、チームの状態はどうですか?」ってインタビューできるの。例えば、有働由美子さんとか進藤晶子さんなら局アナだから。でも、俺はスポーツニュースやってても、それはできないの。タレント扱いだから。
金子:週刊誌に出ているゴシップの回数は彼女たちの方がはるかに多いですけどね。
青島:でしょ。
金子:でしょって言われても、困りますけどね。
青島:だから、スポーツプロパーをとりあえず自任して、タレント業みたいなことを自重した方がいいなって思って、極力そういうことを意識してやっていても、立場的にはダメなんです。
金子:うわー、知らなかった。
青島:それじゃあ強くなんないでしょう、野球だって。もったいないでしょう。別に俺が何を教えるってわけじゃないけどさあ。もっと役に立ちたいとか、もっと日常的にお世話したいって思ってる人は、たくさんいるんだよね。でもね、プロ野球のOBになっちゃったら、野球とは一切接点を持てないわけですよ。随分、状況は変わってきましたけどね。
金子:随分?
青島:良くはなってきた、昔に比べればね。何か暗い話になっちゃったね。だから、野球もメダルどうのこうのじゃなくて、もっと自由にできる環境を作ろうよってことを声高に言っていかないと。シドニーだ、アテネだってメダルの問題じゃなくて、30年後に野球がもうヨレヨレになってるかもわかんないよっていうことを踏まえて、こういう風にやろうよってことを今、言わないと。
金子:あのー、新庄君(剛志)メジャーに行きました。
青島:阪神ファンとしては、どうですか?
金子:アイタッて感じですけど、それはいいんですよ。阪神に関して言うと、フッっていう笑いしか出なくなっちゃってますから。うーん、何て言うんでしょうねえ。これからドンドン、メジャーに行きたいっていう動きが出てくると思うんですけど。
青島:もう、止められないでしょ。
金子:選手たちの中では、メジャーに行きたいという気持ちが強くなっていくと思うんですよ。マック鈴木(カンザスシティ・ロイヤルズ)もそうですけれど、ダイレクトにメジャーを目指すっていう形ができてしまうと思うんですね。日本のサッカーの場合も、最終目標として海外というのがあるっていうのは間違いないと思うんですね、選手の中に。ただ、ひとつ決定的に違うのは、Jリーグを通らずに海外に行く選手は、あんまり増えないと思うんですよ。というのも、高校生にとって、海外のサッカーとJリーグでは、圧倒的にJリーグの方が近い存在だから。試合できるし、練習させてもらえるし。
青島:うーん。
金子:教えてもらえるしね。そうした中で自分に合ったところを選べるから、まずはやっぱりJリーグに入るという形があると思うんです。僕、外部から日本の野球を見てて思うのは、メジャーリーグと日本のプロ野球、どっちも選手にとっては遠い。だから、こんなにメジャーをダイレクトで目指してしまう選手が出てきてしまうのかなあと。だから、早く中学生、高校生にプロが教える環境を整えないと。大人はどう言うか知らないですよ。指導者が困るかもしんないですね、今まで自分が教えてたことがデタラメだったっていうのを、プロ野球選手に証明されてしまうから。まあ、それによってその人の指導のレベルも上がるだろうし、何よりも元プロ野球選手に教えてもらえたこどもの喜びって、とんでもなく大きいじゃないですか。
青島:はい。
金子:それが、日本のプロ野球を身近に感じていく、ひとつのきっかけになると思いますしねえ。これだけ多くテレビでメジャーリーグを扱っていたら、もしかしたらパ・リーグの試合より多くプロ野球ニュースとかに出てくるかもしれないですよね、これからは。
青島:多分、イチローのゲームは毎試合出るでしょ。
金子:もちろん、夢として高いところがあるのはいいんですけども、この国にあるリーグっていうのは、この国のスポーツの母体だと思うんですよね。そこが、蝕まれてしまったら、最終的にこの国のスポーツが壊れてきてしまうと思うんですよ。
青島:うん。
金子:本当に早く、野球はプロとアマの垣根をなくさないと。垣根を作ってるのって、大人の言い分ですよね。
青島:そうですね。
金子:その中で、やってるこどもたちのことを何にも考えていない。高校野球、中学野球、リトルリーグ、どれも当たり前ですけど、主役はこどもじゃないですか。その主役のことを何にも考えていない。
青島:そう。それが一番大事ですよ。将来を考えたらね。これね、すごくおもしろい話なんですけど。柏レイソルの北嶋秀朗君にこの前会いに行って、聞いたんだけど。彼、残念ながら得点王はゴン(中山雅史・ジュビロ磐田)に最後さらわれたけれども、2000年は大活躍でしたね。
金子:はい。
青島:彼は船橋でサッカーを始めたんだけど、お父さんが野球好きで、野球をやらせたかったんだって。市立船橋高校とか、習志野高校とか。千葉県は長嶋さんもそうだし、掛布さん(雅之・野球解説者)もそうだし、錚々たるメンバーを生んでる野球が盛んなところですよね。
金子:はい。
青島:それで、お父さんが、小学1年生の時に彼を連れて少年野球チームに行ったら、「野球は小学3年からじゃないと入れません」って言われたんだって。それで仕方ないから本当はやる気ないんだけど、サッカーに行ったら、「どうぞ、どうぞ。うちは1年生からOKですよ」って言うんで、少年サッカーチームに入ったんだって。
金子:ひとり失いましたね、人材。
青島:失った。彼は182、3センチあるのかな、75キロぐらいでしょ。野球やったって、もう本当に素晴らしい体格ですよ。サッカーが全身運動なのに比べて、野球って肩とか肘とか部分的な動きがあるから、ある程度体ができ上がった頃じゃないと良くないというのも、ある意味では優しさなんだけどね。だけど、1年生がやりたいって言ったら、ボール拾いでも何でもいいじゃない。お兄ちゃんたちのお手伝いでもなんでもいい。そうやって、入れさせてあげることができないのかなあって気がするのね。現場で教えてる方からすると、ちっちゃい1年生がチョロチョロして、ケガでもしたら危ないから、「3年生になったらおいで」というのもあると思うんだけど。
金子:はい。
青島:だけど、金子さんが言うように、こどもの頃にどういう風にしてスポーツと出合うかって、多分一番大事でさあ。
金子:決めちゃいますよね。
青島:皆さん、スポーツのルーツというか、原点がどこにあるのかってことを、一度お考えになってみたら、思わぬモノを思い出したりするのかな。例えば、会社から帰ったお父さんが、夏ならいつも枝豆食いながらビール飲んでいて、ご飯時は家中揃ってナイターを見ていたとか。巨人戦を見るのが夕ご飯の風景みたいのって、あったでしょう。それでお父さんにルールを教えてもらいながら、「王とか、長嶋もいいけど、お前、高田(繁・読売ジャイアンツ2軍監督)もいいぞ」なんて言われて、ジャイアンツファンになったとかさあ。そういうね、関西だったら、阪神戦をこどもの頃に見せられてとか、甲子園球場に連れてってもらってとか、そういう風にしてスポーツとの関わりが始まるじゃないですか。だから、スポーツを大事にするって言った場合に、一番優先順位の高いことと言ったら、こどもがスポーツに出合う場、あるいは気持ち良くスポーツをやれる場を用意するってことじゃないですかねえ。
金子:まあねえ。究極的には、こどもたちが野球をやりたいと言ったら、フカフカの芝生、それからきれいなアンツーカーの野球場がある。サッカーやる、ラグビーやるとなったら、もう本当に天然芝のきれいなところでできる環境を作ってあげる。やれる環境を作って、こどもたちがやりたいと思うきっかけを与えてやるっていうのが、一番この国のスポーツを盛んにしていく上で、正しい、それでいて簡単な方法だと思うんですよ。
青島:今日、2000年一番の選手とか、MVPの話を僕たちがするのってものすごくおごってるんだよね。
金子:うん。
青島:だけど、こうやって皆さんと話しながら出てくる選手って、恐らくある意味で一番多くの人に見てもらえたり、何か感情的な揺さぶりを作った人なわけだからさあ。こどもたちにとっては、彼らの凄さってが伝わっていると思うと。多分、高橋尚子さんを見て、さあマラソンやろうって思ってる人が日本中に今、相当いるよ。
金子:でしょうね。大事ですよね。
青島:田村亮子さんを見て、やっぱり柔道って凄いなあと思って、柔道やりたいんだけど、柔道を習う場所がないと思ってる子がたくさんいるでしょう。そういう意味で、俺、新庄だってすごい貢献だと思うよ。
金子:阪神をバイパスにして、メジャーに行く選手が増えちゃうんですよ。
青島:いいじゃない。やっぱり阪神では飽き足らず、メジャーに行くんだって。
金子:これね、僕、もしかして新庄君のことをすごく勘違いしてるかもしれないんですが。
青島:うん。
金子:僕、許せないのはですね、新庄君に限ったことじゃないけど、日本人のサッカー選手についても言えることだと思うんですが、日本で全力でやってないんですよ。それなのに、海外行けば全力でやるって言うようなことは、嫌いなんですね。南米の選手、いつかはヨーロッパでやりたいと思ってますよ。じゃあ、彼らは地元で手を抜いてるか、そんなことないですよ。死に物狂いでやってます。ヨーロッパのリーグに比べれば、若干レベルは落ちるかもしれない。でも、だからと言って手を抜いたりしない。死に物狂いです。僕は基本的に、今日戦えないヤツは明日も戦えないって思ってますんで。そこがねえ、新庄君ちょっと、勘違いしてなければいいなあと。だってこの間、某フジテレビですか、「必死になってやったことない」って言っちゃってるんですもん。お前、ファンをナメとんかって思いましたね。僕は必死であって欲しいと思いますし、常に。新庄君は、必死でないことをどこかでエクスキューズしてたと思うんですよ。これは本当に苦しくなった時に、乗り越えていけるかっていうと、乗り越えられないとは言いませんけど、乗り越えられない可能性の方が高いんじゃないかなぁと、僕は思ってしまう。よっぽど、トントン拍子に行かない限り。
青島:メジャーはねえ、夢だとか、身体能力が高いとか、事前のモノがいくらあろうが、実際に打席に入って、「はい、やってごらんなさい」って言われて、できるパフォーマンス、プレイしか評価されないからね。
金子:はい。
青島:別に同情するつもりもないけど、僕は新庄君がそういう気持ちで行くんであればね、応援したい。もちろん、金子さんも応援する気持ちはあるんだろうと思うんだけど。メジャーは、必死にならざるを得ないステージだから。
金子:必死にさせられるんじゃなくて、自分で必死になってくれっていうのが、唯一ですね。
青島:なるほどね。
金子:古田君(敦也、ヤクルトスワローズ)も、「新庄は化け物だ」って言ってるじゃないですか。そしたら、彼、本当にやれるでしょう。
青島:彼はあれかなあ、「筋肉番付」(TBS系放映)出たことあるのかなあ。
金子:ないんじゃないですか。
青島:多分優勝するよね。飯田(哲也・ヤクルトスワローズ)の100 倍ぐらい凄いよ。多分、能力的には。100 倍は言いすぎたけど、1.3倍ぐらい。
金子:極端に落ちましたね。
青島:それで、あのルックスじゃない。
金子:ちょっと、イビツじゃないですか。
青島:まあ、好みはあるけど。負けるなあって気がして。
金子:そもそも勝負しようなんて思ってないから(笑)。
青島:ルックス的にも、何て言うか華がある人だし。成功してもらいたいね。
金子:はい、帰ってきてね。
青島:冷てーなあ、タッちゃんも。
金子:いや、帰ってきてねと言うのは、成功して帰ってきてねと。
青島:そうですね。
金子:さあ、そろそろ日韓戦の話に移ろうと思いますが、青島さん観に行きます?
青島:行きます。
金子:僕、行けないんですよ。12月19日の12時55分発のフランクフルト行きに乗りまして、19日の8時半くらいに、ローマに着きまして。
青島:オーッと。
金子:それで、20日の16時何分かに、日本行きに乗って帰ってくるというスケジュールなんです。日韓戦に出ないっていう人がいるために。
青島:はい、はい。彼、来てくれればね。日韓戦というと、いつも過酷なスケジュールになってるんだ、俺も。’97年のフランス・ワールドカップ予選、ソウルで日本が勝った試合。
金子:11月1日ですね。
青島:あれ、俺、韓国から日帰りしました。多かったのかな、そういう人。
金子:多かった、多かった。
青島:でも、おもしろかったな。
金子:日韓戦。例えば10年前であれば、中田英寿(ASローマ)はまだ日本代表になっていないですけれど、僕はローマなんか行かないと思うんですよ。日韓戦を観に行ってますよ。決戦でしたから、僕らにとって日韓戦は。
青島:なるほど。
金子:僕、'66年の生まれですから、70年代の後半から日韓戦を観てましたけど。まず、国立競技場がアウェイでしたからね、完全に。ここで、俺らが頑張らんとアカンやろっていうような。とにかく日韓戦は特別でしたからね。それが、ワールドカップの共催が決まってから、ガタガタと崩れちゃいましたね。
青島:うーん。
金子:これ、サッカーの日韓戦に限らずですね。シドニー・オリンピック、野球観に行ったんですよ。
青島:日韓戦?
金子:はい。あれも、スタジアムが全然危険な匂いがしなかったですね。
青島:なるほど。
金子:初めて僕、韓国で日韓戦を観たのが’91年のアジアユース予選なんですけど。今佐川急便でやってる坂本君っていう高校生が、35mくらいのミドルシュート叩き込んで。その試合がデビュー戦だった、やけにルックスのいいゴールキーパーが、まずいプレイしてたんですけど、なぜか1対0で勝っちゃった。そのゴールの瞬間、僕、ガッツポーズ。記者席で日本人ひとりだけ立ち上がって。数秒後、ホントに身の危険を感じましたね。
青島:ああ。
金子:憎悪に満ちた視線がブワーッと来ましたし。それで終了5分ぐらい前だったのかな、記者席に居たたまれなくなって、グラウンドに降りてって、ベンチの横で応援してました。
青島:君は危険回避する術をいろいろ持ってるよね。
金子:いや。あの雰囲気こそが、日韓戦だと思うんですよ。
青島:僕は、野球で日韓戦って何度か体験してますけどね。
金子:はい、はい。
青島:まず、最初に韓国に行ったのは、’81年だったか、’82年だったかなあ。それぐらいだったんだけど。
金子:じゃあ、まだチャムシル球場じゃないですね。
青島:チャムシルじゃないですよ。その時、韓国は戒厳令が出ててね。それでも飲みに出掛けるわけよ、ソウルの街に。
金子:'81年って、光州事件(韓国・光州市で反政府デモに立ち上がった学生・市民が全市を占拠。軍が発砲し、多数の死者を出した)の翌年ですもんね。
青島:そうものすごい時でね。それでね、宿舎に帰ってくる時、橋の上にいた兵隊さんがタクシーの中に自動小銃をガーッって入れてきてさぁ。僕ら、とにかくパスポート見せたよ。
金子:カッチョ悪いですね。
青島:でも、それは、悪く言うとかそういうつもりじゃなくて、国内が緊迫している中だし、もう99パーセント、いや全部韓国ファンですよ。まあ、金子さんが言ったさっきの試合よりも、「勝ったら帰れねぇぞ」っていうような雰囲気の中での試合ですよね。
金子:勝ったんですか?
青島:負けたんだけどね。あと、ロサンゼルス・オリンピック予選のソウルでの韓国戦。僕がエラーして・・・。
金子:はい、はい。
青島:多分、俺、韓国ではヒーローだったと思うんだ。
(場内爆笑)
青島:それが原因で、日本がもしかしたら、ロサンゼルス・オリンピックに行けなかったかもしれないという事態がね、ありましたけれど。ただ、それは歴史の問題もあるから、あれなんだけど。そういう緊張感って、どんなスポーツであれ、ずっと日韓戦にはあったのに。金子さんが言うように、随分変わってきたじゃないですか。
金子:ええ。

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構成・文:CREW
撮影:源賀津己