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@ぴあ/HOTスポーツの人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。2月4日に行われたイベントの模様を、そのままお届けします。
vol.6 前編
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「どうなる! 21世紀の日本ラグビー」(前編)

出演者プロフィール
ホスト:青島健太(スポーツライター・中央)
'58年、新潟県生まれ。慶応大、東芝で強打の大型三塁手として活躍し、'85年にヤクルトスワローズに入団。'89年に退団後、スポーツライターに転身。現在は、スポーツライター、キャスターとして、テレビ、ラジオ、雑誌等で活躍している。
ゲスト:金子達仁(スポーツライター・右)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターとなり、スペインに移住。「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などベストセラーを生み出した。今、日本で最も売れ、最も刺激的なスポーツ・ノンフィクション作家。
堀越正巳(立正大学ラグビー部監督・左)
'68年、埼玉県生まれ。熊谷工業高、早稲田大で数々のタイトルを獲得した後、神戸製鋼に入社。1年目からスクラムハーフとしてレギュラーを獲得、神戸製鋼のV4からV7に貢献。'98年、神戸製鋼を退社、立正大ラグビー部監督に就任。日本代表キャップ数は26。

青島:今日は素晴らしいゲストを、わが埼玉からお迎えしております。皆さんご存じだと思いますが、熊谷工業高校から早稲田大学、神戸製鋼、そして日本代表でスクラムハーフとして活躍され、今は立正大学ラグビー部の監督をされている堀越正巳さんです。
(会場:拍手)
青島:まずは1月2日、大学選手権準決勝・法政大学VS慶応大学についてうかがいたいんですが。
堀越:法政のひたむきさが出た、すごくいい試合だったと思います。ラジオの解説をやっていたんですが、慶応は去年のひたむきさが欠けていたなと思いました。
金子:慶応の慢心。
青島:法政は120パーセントの力を出していた。一方、慶応は40とか50パーセント?
堀越:そうですね、60パーセントぐらいですか。
青島:にもかかわらず15-13ということは、本気出したら慶応だったんだな。
金子:あのー、勝ち負けというのはすごく重いですから。もし、逆転されていたら法政もスパーンと行ってましたけど、リードしたまま詰められただけの2点差ですから。
青島:なるほどね。堀越さん、今は立正大学の監督ということで、2年目?
堀越:はい。2年目終わりました。
青島:どうですか、監督という立場になられて。
堀越:やっぱり難しいですね。選手の時は自分のことばかりでしたし、キャプテンになってもチームの運営とかはしましたが、それでもそれほどではありませんでした。それが監督になると、学生の生活やら授業のことなどすべてにおいて心配しなければならないので。やるのと教えるのとでは全然違うということが、改めてわかりました。
青島:立正大学は関東リーグ戦の2部ということですが、今シーズンの成績は?
堀越:4位ということで、昨シーズンよりひとつ上がりました。
(会場:拍手)
堀越:ありがとうございます。でも、僕がバトンタッチされる前は3位だったので。
(会場:爆笑)
堀越:いろいろあっての3位だったんですが、それから5位に落ちて、ひとつはい上がったので。
青島:立正大学は埼玉県の熊谷にあるんですよね。私も埼玉にずっと住んでいたんですが、何であそこはラグビーが盛んなんでしょうか。
堀越:まずですね、僕が熊谷工業高校の3年の時、全国大会で準優勝したんですが、今の市長がその時初めて市長になられたそうで、ラグビーにかなり思い入れがあるらしいんですよ。それで、熊谷工業が初めて全国大会で優勝した次の年に、あの熊谷ラグビー場がオープンしました。それからさらにですね、熊谷をラグビータウンにしようと、熊谷市にある中学校には全部ポールを立てたんです。
青島:堀越さんも中学までは野球をやっていたんですよね。
堀越:はい。
青島:野球やっていればよかったのに。
堀越:この体ですから、野球は続けられないと思って。
青島:そうですか。私の場合、野球をやっていましたが、ポジション的にはフランカーだったんです。
金子:何それ。
青島:監督にいつも言われていたんです、「オマエ、もっとバットをフランカー」
金子:堀越さん、つまらないって言わな。「NO」と言える日本人になりましょうよ。
青島:それじゃ、堀越さんはスクラムハーフ。金子さんはニューハーフって、これどう。
観客:つまんねぇ。
金子:とうとうお客さんにも言われましたよ。
青島:今日はラグビーの話をドンドン進めていきたいと思いますが。まずは去年、平尾誠二前日本代表監督が、これ言葉的に難しんですが、辞任? 解任? どうなんでしょうかね。平尾監督を中心に、強い日本を目指していた日本ラグビー界だったんですが、平尾監督自身が一度体制を白紙に戻すということでお辞めになりました。皆さんはどう思ったかうかがってみたいんですけど。2003年まで平尾体制で行った方が良かったんじゃないと思われる方、拍手をお願いします。
(会場:拍手)
青島:いや、平尾体制を白紙に戻して、宿沢強化委員長・向井監督で行くのも仕方ないという方?
(会場:拍手)
青島:数の上では、仕方ないという方が多いようですね。金子さんはどう思いましたか?
金子:もったいないなぁと。代表監督である以上、結果が出なければ解任されるのは仕方ない。ただ、平尾さんのおっしゃっていた日本を強くするためのビジョンは、素晴らしいものがあると信じていたので、辞任してもその意見はラグビー界で反映される形を取っていくものと思っていました。それなのに、それまで白紙に戻ってしまって。
青島:平尾さんが代表監督に就任した時は、ジャパンプロジェクトを打ち上げ、平尾プロジェクトを打ち上げて、ラグビー界が挙党体制で日本を強くしようという意気込みが見られたしね。平尾さんを、オマエが切り札だという形で送り込み、迷うことなく長いスパンで強化に取り組むんだなというのが感じられただけに、今回のことは“何?”という思いでした。堀越さんは、アンダー19日本代表などのコーチをされていて、ある意味で平尾体制のスタッフという位置づけだったと思うんですが、今回のことはいかがでしょうかね。
堀越:記者会見があるということで、たぶん日本代表がプロ化される話だと思っていたわけですが、蓋を開けてみたら平尾さんが辞めるということで、僕自身も驚きました。
青島:あの会見の前後に何があったのかということが、本当かウソかはわかりませんが、週刊誌やインターネットなどで書かれていたところによると、本当は平尾氏はまだまだやるつもりであったと。まあ、彼の言葉によれば「我慢のコンセンサスが取れなかった」と言うんですが、どれくらいまで勝つことを求められずに強化に向けて進めていけるかということでしょうが、それが「残念だ」とおっしゃってましたよね。
堀越:はい。
青島:ずっと平尾氏がいろんなことをやってきましたが、その方向性についてはどうお考えですか。
堀越:僕は日本代表の選手としてもやっていましたし、アンダー19や21、23など下の方で選手を育てることもしていまして、ワールドカップに向けては彼らが強くならなければいけないということでやっていましたので、どちらから見ても平尾さんの進むべき方向は良かったんじゃないかなという気がします。ただ、協会と現場側の間で何があったか、詳しくはわかりませんが。
青島:僕らにとって、平尾という人物はラグビーの顔ですしね。
金子:いや、顔だから任せるべきというのはおかしい。だって、平尾さんが現役でラグビー界の顔だった頃、サッカー界の顔は釜本さん(邦茂、サッカー協会強化委員長、国会議員)ですよ。
青島:それは何をか言わんやですか。
(場内爆笑)
金子:サッカーの人間から見たら、ラグビーは平尾さんで、国立競技場はいっぱいにするし、女の子たちは集まってキャーキャー言うし、ああムカツクって感じでしたよ。でも、平尾さんにお会いして、日本のラグビーを強くするためのいろいろなアイデアをうかがったら、同じフットボールとしてサッカーにも当てはまるなという点が随分ありました。僕自身が考えていたことを、あの方はもっと明確な形で持っていましたからね。この人は凄いなぁと思っていたのに、辞めた途端その意見まで消してしまうのは、もったいないと思います。
青島:平尾さんはラグビーを語る時に、「創造的破壊」とよく言われましたが、やる時には一気にやらなければならない、改革しなくてはならないということで、代表選手としてのキャリアがない人でも、志や能力があれば仲間に入って欲しいということでやっていましたよね。だからこそ、見ている我々にはわかりやすい形だったんですが、やっている皆さんにはどう映っていたんでしょうね。
金子:確かに、メディアやファンが凄い、凄いと言っても、現場の中ではふざけんなよという声が上がっているという例は、サッカーのことを言うわけじゃありませんけど、よくありますからね。
堀越:僕は平尾さんが監督になる以前の、本当にアマチュアという時から日本代表でやらせてもらってきたんですが、一番辛かったのがアルゼンチン遠征の時なんです。飛行機を乗り継いで30時間ぐらいかかったんですが、その間ずっとエコノミークラス。僕なんか小さいですから、両脇に大きな選手がきて本当に辛い思いをして行ったんですが、それが平尾さんになって代表はビジネスクラスになった。そうやって、代表のステイタスを上げると同時に、ラグビーに取り組みやすい状況が作られていったんです。
青島:なるほどね。
堀越:僕は日本代表として最後に試合に出たのが、'98年にシンガポールで行われたワールドカップ・アジア予選だったんですが、3番目のハーフとして行ったんです。普通、3番目のハーフは連れて行かないんですが、そのへんが僕のしぶといところでして。
青島:ホント、しぶといよね。
堀越:そうしたら、村田さん(亙、アヴィヨン・バイヨンヌ)はヒザの靱帯をケガするは、大原(勝治、トヨタ自動車)は扁桃炎になるはで、僕に出番が回ってきたんです。まさに、呪いをかけたような。
青島:ラッキーって感じですね。
堀越:はい。代表として最後の試合になるかもしれないという感情があったからかもしれませんが、ファーストキャップを取った時よりも、'90年にスコットランドに勝った時よりも代表として戦えることがうれしくて。ジャージをもらった時には涙が出ました。そうやって代表のステイタスを上げられたのは、平尾さんだからだと思うんです。
青島:平尾さんはグラウンドを離れても、代表のステイタスを上げて、代表に選ばれることが名誉なんだと思えるように持っていったりもして。まあ、とにかくいろいろやってきたんですが、何だかんだ言ってもう辞めてしまって。
金子:もう遅いですからね。
青島:そうなんですよ。代表監督って、やっぱり勝つことでしか成果を表せられない。そう考えると、もう就任した時から辞めさせられる方に向いているんじゃないかなと。
金子:まあ、そうですね。
青島:そうすると、トルシエ(サッカー日本代表監督)を見ているとわかるんですけど、寿命を延ばすためには要所要所で勝たなければならないということでしょうね。ですから、'99年のワールドカップの時に、難しい選択だったと思うんですが、マコーミック(アンドリュー、東芝府中ヘッドコーチ)を主将にして、外国人選手を6人も入れたというのは、勝ちに行ったんでしょうけど。辛いのは勝ちに行って勝てなかった。彼にしてみれば、誤算でしょう。そうなると、堀越さんもバショップ(グレアム、サニックス)がいたんで代表になれなかったんですが、そういう代表になれない、試合に出られない選手がいる。さらに、その裏には彼らを支えている企業がそれぞれある。そういう点が、今回の動きを一気に作ってしまったというのはありますよね。
金子:でもね、だからと言って、勝ちに行く努力をしないで戦う方がいいのかと言ったら、それは全然違うじゃないですか。ラグビーはサッカーと違って、日本でプレイしていれば外国人選手の出場も認められている。堀越さんは今監督されていますから、監督だったら許されている手段は勝つためにすべて使いたいですよね。それが自分のポリシーに反していなければ。平尾さんがやったのは当然のことだと思うんです。プロ的な判断として勝ちに行った。でも、勝てなかった以上、プロ的な判断としてのリアクションとなった。ですから、今回のことは仕方ないんじゃないかなと。
青島:こういう流れも、代表監督である以上仕方ないという気もするんですけどね。
金子:堀越さん、素朴な質問なんですが。サッカーなら、有能な監督が率いた場合と無能な監督が率いた場合を比べると、10-10 の5分5分の力でスタートして1年経ったら90-10 、10回やって9回勝てるぐらいに変わる可能性があると思うんですが、ラグビーはどんなもんですか。
堀越:僕はラグビーの場合、そこまで行かないと思います。サッカーの場合、いろいろなシステムとかを確立しているからそうなると思うんですが、ラグビーもそういうことはやっているんですけど、自分たちでその場その場で考えながらやることが多いですからね。もちろん、悪い監督によって、やることを全部否定され続ければ別ですけど。
金子:悪い監督って、どういう監督ですか。
堀越:そうですね……。
金子:具体的に思い浮かべながら話してもらっていいんですけど。
(会場:爆笑)
金子:僕の場合、ヴィジョンのない人、ヴィジョンを伝えられない人だと思うんです。
堀越:そこらへんは一緒だと思うんですけど、ウーン、スイマセン、もうちょっと考えさせてください。
金子:困ってますね。
青島:難しい質問だよね。
堀越:ええ、ヴィジョンと言われた時、果たして僕にヴィジョンがあるのかなって考えてしまったもんですから。
金子:自分のことはこの際、棚に上げてしまってください。
堀越:ウーン、選手に個性があると思うんですが、悪い監督というのは、チームを輪にするためにそれを削ってしまう。尖っている者は尖ったまま、大きい輪にすればいいんですけど。
金子:そう考えると、この国では悪い監督ばかりになってしまいますね。
堀越:そうですね。
青島:そうですって、言っちゃいましたね。
堀越:汗が出てきました。
青島:今日お集まりの方々からアンケート用紙にご意見を書いてもらっているのでご紹介しますと、まずは「平尾監督時代はイメージ論、抽象的な指導ばかりが先行していて、実戦的な戦略が立てられなかったと聞いていますが、実際はどうだったんでしょう」とか。「代表の強化が一番です。どうしたら強くなるんでしょうか」とか、こういう意見が多いようです。実際、平尾さんにお話をうかがうと、“イメージ”や“感度”という言葉を好んで使われていました。「どういう局面なのか、まわりの選手が何を求めているのか。そういうことが瞬時にイメージできる感度のいい選手が、日本代表には欲しい」と。そして、より具体的には展開していくラグビーを追い求めてたわけですよね。神戸製鋼でも、それに近いラグビーをやられていたわけですし。その方向性というのは、日本が生きる道としてどうだったんでしょうか。
堀越:今は外国でも継続ということで、展開が重視されていますから。松尾雄治さん(元新日鉄釜石)とも話したんですが、日本人は外国人と比べてどうしても体格差があるので、当たるラグビーをしていると、それがボディブローのように効いてきて、最後は動けなくなって得点されて点差が開いてしまうから、時間の経過とともに考えるラグビーをして、敵陣で攻めながら奪ったボールを展開して行くというのが日本の戦い方だろうと。そういう意味で、平尾監督の場合は外国にない日本独自の展開を創造する途中だったと思うんです。
青島:なるほどね。
堀越:今の社会人ラグビーを見ていると、日本独自のラインを構成すると言うよりは、外国人コーチを呼んで鍛えて、力と力の戦いをしているチームが多いんですが。神戸製鋼が社会人大会の決勝で勝った試合では、センターの吉田明がうまくスペースを開けて入って行くプレイを見せたんですが、あれが日本の生きていく道なのかなぁと思いましたね。
青島:平尾さんが代表監督に就任した流れを考えますとね、第3回ワールドカップでニュージーランド・オールブラックスに145-17で大敗して、日本代表を何とかしないといけないぞとなったのがエポックになったと思うんですが、代表として何を感じて、何をしていかないといけないと思いましたか。
堀越:あのワールドカップでは第1戦、第2戦に僕が出場して負けまして、第3戦のオールブラックスとの試合は村田さんが出場して、僕はリザーブだったんですが。リザーブ席から見ていて、何でこんなに簡単に取られるんだ。5分だけでいいから出してくれって思っていましたね。でも、村田さんも意地っ張りですから、多少のケガじゃ引っ込まないんですよ。結局試合には出られなかったんですが、試合後センターだった元木由記雄(神戸製鋼)と吉田明に聞いたんです。
青島:そうしたら?
堀越:最初はドリフト・ディフェンスで行ったけど、スピードについていけなくてパス一発で振られちゃうと。それでこれじゃまずいから、マークマークに変えたと。
青島:詳しく話してもらえますか。
堀越:マークマークというのは、スタンドオフはスタンドオフ、センターはセンター、ウイングはウイングがマークするんですが、そうなるとウイングがウイングに張りついて競争になるわけです。でも、そのウイングもスピードについて行けなくて、マークマークもできない。逆に穴が見えているから、フルバックがスコーンと入ってきてトライを取られてしまう。それで今度はツメにしようと。ツメというのはウイングは外に張りつかずに、フルバックにタックルに行くんですが、最初は相手も戸惑っていたので、元木・吉田がタックルに行く機会ができたと。でも、上にタックルに行ったらはね飛ばされてしまうし、下に行ったら相手の足に腕が回らないって言うんです。多分、当たりの強さと太股の太さだと思うんですが、それ聞いてそんなに違うのかと唖然としましたね。
青島:手が回らないって、そんな感覚も世界じゃないと感じられませんよね。
堀越:本当ですね。
青島:そういうこともあって、さらに'95年に国際ラグビーフットボールボードがプロを容認するようになって、世界はスペシャリスト化する環境になり、日本にもその流れは伝わってきたわけですよね。
堀越:かつて日本が外国チーム相手に善戦したり、勝っていた時と言うのは、今ほど外国人プレイヤーがフィットネスしたり、ラグビーを突き詰めていなかったと思うんです。むしろ、日本の方がラグビーをよく考えていて、勝つための手段を研究していたんですが、プロ化されて状況が一変しました。日本人が勝つための方法としてフィットネスを上げてきたレベルまで達して、体格はある、スピードはある、おまけにフィットネスも、技術もということになって、外国人はプロ化でかなり進んでいると思います。
青島:それで日本もプロ化ということになったわけですが。
堀越:協会などではもう10数年プロ化を考えてきているんですが、ラグビーには古くから残っているモノがあって、なかなかうまく行かないというのが現状だと思うんです。僕自身、ラグビーをやることで早稲田大学にも入れたし、とうてい勉強じゃ入れない神戸製鋼にも入社できたので、ラグビーがあってこそだと思います。ラグビーというのはどうしてもケガが多いので、企業によって生活が保障されているというのは大切なことですし。ですから、プロになるというのはいいことだと思う反面、クエスチョンマークが残りますね。
青島:プロ化すれば強くなるというのも、そんな簡単な問題じゃないでしょうし。サッカーを考えてみた場合、僕も東芝で野球やっていたもんですから、20年ぐらい前に横浜の鶴見のグラウンドで東芝VS全日空を見ていたんですよ。
金子:ヘナチョコだった頃?
青島:観客なんて誰もいないグラウンドで。あの当時を考えると、今のサッカーのあり方はヒェーって感じじゃないですか。一体サッカーはここまでの間に何をやってきたんだろうって。
金子:サッカーの日本代表が弱かった頃、高校サッカーが一番人気があったんです。成長過程にある高校生の試合が、トップよりも注目を浴びていた。だから、高校生が全国大会で優勝して泣いて、燃え尽きちゃうんですよ。
青島:ふーん。
金子:サッカーをやっている小学生、中学生には自分が高校で活躍する絵があるんです。国立競技場でゴールを決めてやるとか。でも、その後は何もない。これじゃ代表チームが強くなるわけないですよね。
青島:なるほど。
金子:僕は代表チームを強くする一番の方法は、代表に選手を供給するトップチームの強化だと思います。代表は強化するところじゃないですから。代表は、強化されてきたトップチームのうわずみをすくって、その中でいい組み合わせをチョイスしていく。同じようにラグビーを考えた時、大学ラグビーが国立競技場をいっぱいにするほど人気があるのに、社会人となると秩父宮ラグビー場もいっぱいにできない。これじゃ、ラグビー日本代表は絶対に勝てない。変えるのは簡単なことですよ。あれだけ高校サッカーが磐石な人気を誇っていたのに、あっさり変えられましたから。
青島:ウーン、まあそこにJリーグの登場というか、プロ化は大きな要素としてあると思うんです。
金子:堀越さんはケガの不安とおっしゃいましたが、サッカーの場合そこまでハードな不安はないにしても、不安が選手を育てるということもあると思うんです。ですから、プロ化して強くなったというのは、乱暴な物の言い方かもしれませんけど、サッカーの場合はあると思うんです。ただし、それがそのままラグビーに通用するかとなると、僕自身、クエスチョンマークですけど。
青島:ラグビーの場合、平尾氏が代表監督であり、強化推進のトップでもあり、両方を兼ねていたじゃないですか。
堀越:正確にはですね、強化推進本部長は河野一郎先生で、平尾さんはその下ということなんですが。
青島:あ、そうか。まあ、でも代表の監督であり同時に強化も担っていたわけですが、本来それでは戦えないでしょう。このふたつはあまりに大きなテーマですから。
金子:確かに。でも、日本のラグビーの場合、社会人やジャパンがトップの注目を集めているわけではない。そういう前提でジャパンを強化しなければならないとなったわけですから、平尾さんのようなあり方もありかなとは思うんです。個人にかかる重圧は大きいでしょうけど。
青島:やらなればならないんですけど、それがある意味ラグビー界の苦しい部分ですよね。
堀越:平尾さん辞任の原因となったヨーロッパ遠征をケガを理由に辞退した選手が大勢いるんですが、僕は無理をすれば行けたヤツもいたと感じているんです、多分。だけども、行かない選手、選手を出さない企業があった。それで、それに代わる選手を探すことになったわけですが、それも平尾監督がやる仕事だったのかなぁと思うんです。
金子:じゃないですね。
堀越:マコーミックとも話したんです。彼はオールブラックスを目指していた選手ですし、お父さんもオールブラックスに選ばれていたんですが。ジャパンを強くするには、選手が代表に選ばれたい、企業は選手を代表チームに出したいとなるようにみんなでやっていかなければならないと思うんです。
金子:最終的には、ジャパンの試合が国立競技場で満員になるという環境を作っていけば、そこでやりたくないという選手はいないですよね。
堀越:すごく気持ちいいですよ。
金子:早稲田か明治か慶応か。まあ大昔でしたら同志社、それぐらいの大学でプレイしていないとそんな経験できませんもんね。
堀越:そうですね。
金子:そこでジャパンのジャージを着れたら、涙でまくりますよね。
堀越:出ますね。
金子:僕が今までで一番感動したのは、5ネイションズ(現在の6ネイションズ)のフランスVSウェールズの試合ですね。パリのパルク・ドゥ・フランスで見た時なんですが、フランスの選手たちが試合前にラ・マルセイエーズ(フランス国歌)を聞いて泣いてるんです。見ている僕もベソかきそうになりましたけどね。これはやっぱり、選手にとって無常のステイタスですよね。翻って日本の場合、サッカーはボチボチ代表の試合にお客さんが入ってきているのに、ラグビーは相変わらず代表の試合にはお客さんが入っていない。やっぱり、大勢のお客さんの前で選手がジワッとくるような状況を作るのが、代表を強くする一番の道ですよ。そうしたら、代表チームに行きたくないって言う選手がいたら、「ハイどうぞ」となるじゃないですか。
青島:人気と強くなるということが2大テーマですけど、それは表裏の話ですよね。そこで、どういうふうに強化していくかということを、サッカーからヒントを得ようとすると外国人監督という問題が出ると思うんですよ。Jリーグの場合一番多い時ですと、18チームの内15チームぐらいが外国人監督でしたでしょ。今も8チームぐらいいるのかなぁ。外国人監督を連れてくるというのは、メリットもデメリットもあると思うんですが、サッカーはそれを積極的にやってきましたよね。
金子:サッカーの場合、日本は世界から見たらハナクソでしたから、外国人監督のデメリットがなかったんですよ。メリットしかなかった。
青島:どういうメリットでしょうか。
金子:考えたこともなかったことを言われたということでしょうね。日本のサッカーは弱かったんですけど、弱いなりに“サッカー道”があって、走れ走れだったんです。
青島:野球も一緒だね。
金子:横浜フリューゲルスにバルセロナから来たチャーリー・レシャックという監督がいたんですが、彼が最初に練習で言ったのが「そんなに走るなよ、お前ら」なんです。「50m全力で走ってお前シュート打てるのか、50m走って考えられるのか」って。
青島:ほー。
金子:「5m全力で走れ。あとの時間考えろ」ですよ。それ言われた選手は「シビれた」って言ってましたよ。それがすべて正しいとは言いませんけど、そういうサッカーもあるんだと選手が知れば、広がるじゃないですか。レシャックはスペイン人。ブラジルからもドイツからもいろいろな国から監督が来て、それぞれいろいろなサッカーがあることを知った。日本のサッカーしか知らない選手にとって、それはものすごく新鮮ですよね。
青島:なるほどね。今の金子さんの話を誤解がないようにしなければいけないですけど、走ることを否定しているわけではなく、走る能力は当然なくてはいけないんだけれど、走ったらサッカーの練習が終わりと考えることを覆したいわけですよね。
金子:日本人は本来は点を取るために走るのに、走ることに酔っちゃってたんですよ。突き詰めると、ワンプレイ、ワンプレイ考えなさいよということなんですね。

【…後編につづく】 後編へ

構成・文:CREW
撮影:末石直義