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@ぴあ/HOTスポーツの人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。2月4日に行われたイベントの模様を、そのままお届けします。
 vol.6 後編
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「どうなる! 21世紀の日本ラグビー」(後編)
前編はこちら

出演者プロフィール
ホスト:青島健太(スポーツライター・中央)
'58年、新潟県生まれ。慶応大、東芝で強打の大型三塁手として活躍し、'85年にヤクルトスワローズに入団。'89年に退団後、スポーツライターに転身。現在は、スポーツライター、キャスターとして、テレビ、ラジオ、雑誌等で活躍している。
ゲスト:金子達仁(スポーツライター・右)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターとなり、スペインに移住。「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などベストセラーを生み出した。今、日本で最も売れ、最も刺激的なスポーツ・ノンフィクション作家。
堀越正巳(立正大学ラグビー部監督・左)
'68年、埼玉県生まれ。熊谷工業高、早稲田大で数々のタイトルを獲得した後、神戸製鋼に入社。1年目からスクラムハーフとしてレギュラーを獲得、神戸製鋼のV4からV7に貢献。'98年、神戸製鋼を退社、立正大ラグビー部監督に就任。日本代表キャップ数は26。

青島:サッカーとラグビーは違うと思うんですけど、ワールドカップでは第2回大会でジンバブエに勝っただけで全く勝てないという状況だったら、強い国に学ぼうという発想は普通に考えれば出てくると思うんですが、どうですかね。外国人選手はこれだけたくさん入って来てるんですから。
堀越:いいことだと思うんですが、サッカーが体格はあまり関係ないですよね。
金子:はい。
堀越:そこが一番違うところじゃないかなと。ラグビーの場合、日本人は体格的にかなり劣りますから。外国人のコーチなり監督を呼んで、「日本の場合はこうだから、その中でお前のノウハウを活かしてくれ」ときちんと言ってやってもらうならいいんですけど、連れてきたから、ハイやってくれダメではだと思うんです。平尾さんの前任の山本巖監督の時にエディー・ジョーンズ(オーストラリアACT監督)をコーチとして招聘したんですが、普段は言われないような言葉で選手たちを褒めながら彼自身もノリノリで練習して、僕らもやっていてメリットがあったんですが、それが良かったかどうか。体格という問題がありますから。今、サントリーがエディー・ジョーンズの言うラグビーをやろうとしていますが、社会人リーグならともかく、そのまま世界で勝てるかと言ったら別の問題ですね。  
金子:バスケットの場合、どんなに日本代表が努力しようがアメリカのドリームチームに勝つ可能性はゼロですよね。
青島:ゼロとは言えないと思うけど。僕もシドニーのスーパーアリーナでドリームチームの試合を見ましたけど、そう思っちゃうよね。
金子:そうしたらですね、究極的な話ですけど、50年後、100年後、日本人のラグビーが世界一になる可能があると思いますか。
堀越:ゼロじゃないと思います。50年先なのか、100年なのか、150年なのかわからないですけど、日本人も序々に体格的に追いついてきていると思う。日本人が大きくなったからと言って、外国人の身長が2mや2m50にはならないでしょうから。
(場内:爆笑)
堀越:それに、日本に来ている外国人の男性が日本の女性と結婚したり、まあ僕もこどもはいますけど、例えば大きい外国の女性と結婚して大きいこどもができるかもしれませんし。
金子:そうしたら、伊達さん(公子、元プロテニスプレイヤー)のところに即効でスカウトに行かなきゃ。
堀越:もしそういうことが考えられたら、世界一にもなれるんじゃないかなと。
金子:それが条件?
堀越:はい。
青島:堀越さんの場合、切実な問題だよ。
堀越:小さいもんですから。
青島:ゴメン、ゴメン。
堀越:そういうのがあれば、追いつくと思うし。日本には昔からやってきたいいところがありますので、それを突き詰めていきながら、日本チームのスタイルを確立すれば。それって、体格的に劣っていた早稲田大学がやってきたラグビーに近くなってくると思うんですが、カットインやカットアウトなどのバリエーションを増やしながらやっていく。そうすれば、フローターと言って15人全員が横に並ぶディフェンスがあるわけですが、それでも突いて行くスペースはあるわけですから、そのスぺースを広げて攻めるのは可能だと思うんです。日本人は器用ですから、足の運びをもっと研究するとかすれば、対バックスでは世界と戦える余地はあるんじゃないかなと。また、フォワードの方も体格的に近づいていけば、やっていけると思います。
金子:ラグビーは局面局面で考えなくてはいけないですよね。
堀越:はい。それと同時に、ラグビーは考えずに行かなくてはいけない時もあるんです。
青島:スクラムハーフとして見た場合、どうなんでしょうか。
堀越:ハーフは、スタンドオフの気を感じるんですね。何人かのスタンドオフと試合をしているんですけれども、すごくやりやすかったのは、1回しかやってないんですけど本城さん(和彦、元サントリー、早稲田大学卒)、それと平尾さん、藪木さん(宏幸、元神戸製鋼)、それから岩渕(健輔、元神戸製鋼)。どうして彼らが良かったかと言うと、僕はあまりスタンドオフを見ないんですが、見えるというか、気を感じるんです。平尾さんはあまり「右だ、左だ」と言わないんですけど、いる位置がわかるんです。たぶん平尾さんや本城さんは、「オレに放ってこい」という気を発しているんだと思うんですね。藪木さんはよく声を出すんですが、スクラムハームも経験していたんで、いつ、どういうふうに声を出せばいいかわかっていたと思うんです。まあ、やりやすかったけど大変だったのは岩渕。あいつは自分勝手にスペースに走って来るんですよ。いるところはわかるんですけど、そんなところまで放れるかという場所から気を発するんです。「オレによこせ、オレが何とかしたい」と。逆にですね、一番やりにくかったのは、ジャパンになりたての頃の広瀬(佳司、トヨタ自動車)。彼はキックしかなかったんですよ。だから、「オレのとこに来るな。堀越さん、どうにかしてくれ」という気を出しているんです。本当にどこにいるかわからないんですよ。
金子:気を消しているんですね。
堀越:ええ、声は出しているんですが、それが聞こえないんですね。気を消しているから。やりづらかったですね。
金子:それはいかんですね。
堀越:今は違います。トヨタ自動車でキャプテンになって、ゲームメイクもしていますから。
青島:自信がなかったんですかね。
堀越:そうだと思います。ジャパンに入って、どうやっていいかわからなかったんでしょうね。自分はキックで生きている人間だと思っているのに、ジャパンは展開ラグビーですからね。彼の色を出せば良かったんでしょうけど、不安があった。京産大(京都産業大学)では、気を出していたと思いますから。
金子:素朴な疑問なんですけど、何でそんなタイプの違う選手を選んだんですかね。選手を迷わせる前に、そもそも呼ぶなよと思いますがね。
堀越:その時は広瀬君が一番いいスタンドオフということだったんでしょう。
金子:キックしかない選手を。ジャパンは展開ラグビーを目指していたのに。
青島:こうして堀越さんのお話をうかがっていると、ジャパンを強くする方法というのは、平尾さんがやっていたこととほぼ同じような気がするんですけど。
堀越:そうだと思います。ですから、向井さんになっても変わらないと思います。
青島:早稲田の展開のラグビーを考えた時に、例えばフィジカル面で非常にレベルの高い明治の大きなフォワードに対して、どう戦うかというところから、大西鉄之佑さんの接近・展開・連続という理論が生まれたわけですよね。時代が変わってプレイそのものが複雑になっていますし、ある局面だけで相手を制するような戦いだけでなく、フォワードだって展開しなければいけないラグビーになってきているわけですが。
堀越:接近・展開・連続の接近のところに、やや接触も加わりながら、またスペースを作っていくというのが、ジャパンの新しいスタイルになってくるんじゃないかなと思うんですが。
青島:どうしたらいいのかって。やるべきことは、多くの方がそういうものだと思っていると思うんですよね。最終的には個人の能力が上がらないといけないんでしょうけど。
堀越:そうですね。
青島:神戸製鋼が強かった時、彼らはひとりでふたりを相手にできれば人が余るじゃないかと言ってましたけど。モールでもラックでも、できるだけ少ない人数で行って、相手が来る人数が多ければ、こちらは人を余らせることができる。そこまで個人の能力を上げて勝ってきたわけじゃないですか。
堀越:それが対外国人選手となった時にできるのかと言ったらですね。
青島:ひとりに対して1.5 人必要になってきちゃうわけですよね。
堀越:そうならないように、外国人以上にフィットネスを高めないといけないですし、どんなに大きくなっても鈍重になっちゃいけないですから。さらに大きく、さらにスピードのある選手が出てこないといけないんですが、そうした運動能力の高い人がラグビーに集まるかと言ったら、そうはいかないですからね。それも問題なんです。相撲や野球の選手が集まってラグビーをやってくれたら、あっという間にワールドカップでベスト8に入れますから。例えば、松井選手(秀喜、読売ジャイアンツ)がセンターをやるとか。
青島:ラグビーのセンターね。でもね、自分なんかもラグビーと出合わなかったんだよね。
金子:ですよね。
青島:出合いの場が圧倒的に少なかったですもん。
堀越:そう思います。
金子:選択肢に入ってなかったですよ。
堀越:協会の方もそれは考えていまして。早稲田大学の先輩の石塚武生さんがキャラバンという形で、全国の小学生のスクールなんかを回っているんです。まだまだ規模は小さいですけど、そういうことをもっともっと広げていかなればいけないですよね。僕は監督になってからなかなかできないんですが、例えばフランスに行っている吉田義人(コロミエ)がラグビースクールに行ったら、こどもたちはわからないですけど、付添いで来ているお父さんやお母さんは吉田を知っているでしょうから、盛り上がると思うんです。ですから、協会が吉田や村田亙さんを使って連日連夜、全国のこどもたちのところを回らせるとか。ニュージーランドでは、オールブラックスの選手たちがもうそうしたことをやっているんですよね。
金子:僕の持論として、日本の場合はマンガでしょうね。「キャプテン翼」世代が20歳になった時にJリーグができたんですよ。
青島:野球なら「巨人の星」。
金子:それまで全面的に野球に行っていた運動神経のいいこどもたちが、半分サッカーに来たんですよね。これは大きかったですよ。
青島:もう協会として、ラグビーマンガを仕掛けるしかないですね。戦略として。
金子:少年マガジンでやっていますよね。協会が協力して。
堀越:どうですかね、「コロコロコミック」とか。
(場内:爆笑)
金子:ピカチューとともに。
青島:そこまで下げる?
堀越:ピカチューにラグビーやらせるとか。そうすれば、とりあえずラグビーという言葉が小さいこどもたちの頭に入りますから。
青島:慎吾ママにラグビーやらせるとかね。
堀越:あの人できそうですよね、完璧に。
青島:サッカーでも野球でも選手が海外にドンドン出て行ってますけど、強化ということを考えた時に、ラグビーも指導者を呼ぶだけじゃなくて、選手がこっちからバンバン行くというのも手だと思うんですけど。
堀越:そう思いますけど、ラグビー独特の、会社に所属しているという問題がありますから、吉田にしても、村田さんにしても、ある程度の年齢になって会社を辞めて海外に行くということになったんで。それだけの勇気と後ろ楯がないと、海外にはなかなか行けないということなんですね。
青島:続きますかね。例えば、法政大学の平塚(純司)君とか行くようになったら、おもしろいと思うんですがね。
堀越:会社として行かせるかどうかですから。もし行かせたとしても、シーズンになったら帰って来いということになると思うんですよね。そうすると、村田さんみたいに地に足を付けて、じっくりできないですからね。
金子:ひとつ難しい問題だと思うのは、サッカーでも同じことなんですが、行ってもダメな場合というのが多々あると思うんですよ、「来い」と言われないと。
青島:確かに。
金子:お客さんと、「うちに来てください」と言われて行くのでは得るものが全然違いますから。
堀越:アンダー19の遠征で行った時の奥薗君(裕基、同志社大学)のように、フランスの田舎のチームなんですけど、来てくれと言われることは結構あるんですよ。彼の場合、メチャメチャ安い給料なんで、NOということになったんですが、他にもオファーが来ている選手はいるんです。 
金子:ラグビーのトッププロの年収って、どのくらいなんですかね。
堀越:外国人ですよね、僕もよくわからないんですが。
青島:新聞で紹介されていたんだけど、イングランドの代表選手で2000万円ぐらいらしいですよ。
金子:ケガの多いラグビーですから、それを考えると25歳で2000万円もらっていて、26歳でゼロということもあり得るわけですよね。人生かけるには怖いですよね。
堀越:絶対やらないです。
金子:日本人の社会人のトップクラスでやっている人って、いくらぐらいなんでしょう。本当に会社の給料だけなんですか。
堀越:はい。そうなると神戸製鋼の給料を言わないといけなくなっちゃいますから。
金子:Jリーグができる前、日本リーグの読売クラブであるとか日産の最高クラスで2000万円ぐらい。
堀越:いいですね。
(場内:爆笑)
堀越:その半分ももらってる選手はそんなにいないと思いますよ。
青島:ホント、シンプルに考えたら、そういう環境で海外で勝てと言っても無理だよね。
金子:無理!
堀越:僕、第2回のワールドカップに行った時に、組織委員会から一律いくらという形でお金をもらっているんですが、それは協会に何かのためにということでプールされているんですよ。
金子:何か?
堀越:はい。ジャパンクラブというのができましたので、そういうのに使われているみたいですね。今はたぶん、個人に入ると思うんですよ。
青島:大畑君(大介、神戸製鋼)、「筋肉番付」(TBS系列)で勝った賞金が入るらしいよね。
堀越:大きいですよ。年収1億円、2億円のプロ野球選手と違って、500万円と言ったらヘタしたら年収以上ですから。
青島:やっぱり何だかんだ言って、体力も能力も気力もある若いヤツが何に向かいたいかって、それはそこへ行ったらものすごいお金稼げて、スターになれるってことでしょ。理屈のいらない、簡単なことですよね。
金子:簡単ですよ。そこから目を背けていたら、勝てないですよね。サッカーやったら1億円、ラグビーやったら500万円じゃ。
青島:ホントだよね。
金子:ヘンな話、Jリーグのクラブの低学年のセレクションやると親が必死ですからね。お受験感覚なんですよ。名門大学の付属への。とりあえずこれ受かって上に行けたら、大金が稼げると親は計算していますからね。
堀越:ラグビーも早くそうなるといいですね。
金子:あるいは全く別の特別なステイタスを作るか。
青島:堀越さん、同じ埼玉県熊谷市出身の宿沢(広朗)さんが強化委員長になられる新体制に対して、強化に向けて何かこういうことをやってもらいたいというメッセージを語ってもらって、このコーナーを締めくくりたいと思いますが。
堀越:そうですね。とにかく、日本ラグビー協会、選手、企業、大学、高校、スクール、そしてファンの皆さんでやっていかないと、日本のラグビーはドンドン廃れていってしまうと思うんです。サッカーがプロ化される前、ラグビーが全盛の時代に選手としてやらせてもらって自分は本当に幸せでしたが、これからは強化も、そしてラグビーの繁栄も本当にみんなで協力しながらやっていくしかないと思います。
青島:大丈夫ですよね。日曜の夕方にこれだけ大勢の方々が、日本のラグビーが強くなって欲しいと集まってくださっているんですから。新体制でより具体的に強化、繁栄が進んでいくことを期待する中で、数日後に迫った日本選手権の方へ話を移していきたいんですが。
金子:ええ、身も蓋もない質問を堀越さんにしてよろしいでしょうか。
青島:OK、OK。
金子:意味あるんでしょうか、日本選手権は。
(場内:爆笑)
金子:学生、試験ですよね。
堀越:ええ、1月の半ばから終わりまで試験ですから、学生にとって不利というのはありますね。
金子:それで、社会人のテンション高いですか。
堀越:ええ、それは。学生には何があっても絶対に負けられませんから。
金子:この時期にやるというのがわからないし、これだけ学生と社会人の間に差がついているのに、同じように1チームずつぶつけるのがわからない。さらに、もうひとつ素朴な質問をしていいでしょうか。サッカーに関してですが、強くなるには試合をすることだと思うんです。
堀越:それはラグビーでもそうですね。
金子:日本のサッカーの何が一番ダメだったかと言うと、ほとんどの大会がトーナメントだったということなんです。なので、負けたチームはそこでおしまいで、もうその先試合ができない。強い1チームだけ勝ち残ってたくさん試合ができるから、さらに強くなる。強いチームはドンドン強くなるけど、弱いチームは経験を積めないでそのまま停滞するだけだったんです。それが、リーグ戦にして、強くなった。そうしたらですね、ラグビーだって、もし学生を強くしたいんであれば、リーグ戦の方がいいんじゃないですかね。
堀越:僕もそう思いますが、日本選手権をリーグ戦にしたら、学生は壊れてしまうと思うんです。学生がリーグ戦をやってしまうと、とにかくケガが問題で。もちろん、ケガした選手が出場しなければ、次のヤツが伸びるというのはあるんですが。僕は、学生に関してはトーナメントの方がいい、醍醐味があるんじゃないなかなぁと思うんです。
金子:早稲田大学や明治大学のラグビー部って、部員が何人いるんですか。
堀越:今はちょっと減って、80人ぐらいだと思います。
金子:それが、どうして早稲田BとかCとか言って、公式戦に出られないんでしょうか。
堀越:どうしてかというのは、後で協会に聞いてみますが、関東大学対抗戦・リーグ戦の上の方は、ジュニアリーグということで戦っていますので、強化もやっていることはやっているんです。うまくできていると思います。
金子:ラグビー人口が減っていると言われている中で、トップの大学チームにはこれだけたくさんの選手がいるわけですよね。その中には、もしかしたらラグビーを始めたのが遅かったがために運動能力はあるんだけれども、ラグビーに対する理解力が足りないとかという子はたくさんいると思うんです。そういう子たちというのは、試合をすればするだけドンドン伸びるのに、もしかしたら1試合もしないで終わってしまうんですよね。実にもったいない。今までのやり方では勝てなかったんですから、何か新しいことをやった方がいいと思うんですが。
堀越:そういうことは考えていかなくてはいけないでしょうね。
青島:それじゃ、オレも素朴な疑問。なぜ学生は社会人に勝てないのか。堀越さんの時は早稲田が社会人に勝っているんだよね。よりによって東芝に。
堀越:ラグビーの場合には大番狂わせはないけれども、番狂わせはあるんです。それがあの試合だったと思います。
金子:番狂わせだったんですか?
堀越:間違いなく番狂わせです。いくつかの要因が重なりましたから。まず、国立競技場に6万人の大観衆が集まった。これは東芝にとって、最悪の結果。それはどうしてかと言いますと、東芝の人は当時リーグ戦出身者が多かったんですね。それでほとんどが国立競技場の体験がなく、6万人という観客の前でプレイするのが初めてだったんです。
青島:我を忘れてしまったと。
堀越:そうなんです。試合前日に新しいスパイクを買って、試合でおろしたなんていう人が何人もいたんですから。
金子:中学生やね。
(場内:爆笑)
堀越:もうひとつは、早稲田の監督の木本さんが(建治)が、マスコミを使いながら「あの東芝がまさか、たかが学生相手にあの強いフォワードで来るわけないよなぁ」と流したんですよ。そうしたら東芝は、見事その通りフォワードのモールやスクラムでグリグリすることなく、ボールをバックスに回して勝負してきたんです。
金子:自分たちのアドバンテージをある程度封印して?
堀越:そうなんですが、もうひとつ。木本さんはいつも「ラグビーには仕掛けと仕留めがある」とおっしゃっていたんです。藤掛(三男)といういいセンターがいたんですが、普段の試合では前半タテに行かせて、後半は彼をダミーに使って外で勝負したりしていたんです。ところが、東芝戦の前に、「敵に分析されているから仕掛けはできている。今日は全部仕留めだけだ」とおっしゃって、前半から全部外に回したんです。そうしたら、前半相手はふたりがかりで藤掛をとめにきたりして、全部はまって、それで勝てたんですね。
青島:東芝は人がいいなぁ。
堀越:そういうことです。僕も1年生でしたけど、早明戦を体験していまして、その時は雪の早明戦だったんですけど。早明戦は6万人入るなんて言っても、こんな雪の日に入るわけないじゃないかと思ってウォーミングアップに行ったんですけど、ちょっとスタンドを覗いたらやっぱり入ってないんですよ。
金子:ちょっとがっかりして。
堀越:ええ。それでアップが終わってグラウンドに出たら、隣の選手の声が聞こえないぐらいの大歓声で、もうシビれましたね。 
金子:しかも終了間際のディフェンス一辺倒も経験して。
堀越:はい。自分たちはそういう経験をしていましたが、東芝さんは経験してなかったですし、いろいろなことが重なって勝てたということです。
金子:'85年でしたっけ、慶応大もトヨタ自動車に勝っていますよね。
青島:はい、'85年シーズンですね。
堀越:あれも番狂わせで、あの時は初めてだと思うんですが外国人レフェリーを採用したんです。恐らく、間違いなくトヨタの方が強かったんですが。
金子:そうでしょうね。
堀越:スクラムを崩したということで、トヨタは何回もペナルティーを取られているんですが、本来なら慶応のペナルティーなんです。でも、レフェリーはスクラムを崩している原因はトヨタにあると見たんでしょうね。僕はそう記憶しています。
金子:でも今は、レフェリーが誰であろうと番狂わせは起きないでしょう。
堀越:いや、そうなれば、例えば僕がレフェリーして全部学生によく吹くという条件つきだったら、全然楽勝であります。
金子:あ、そうですか。
堀越:はい。だって、後ろに投げていてもスローフォワードにすればいいんですから。
(場内:爆笑)
堀越:トライ取られても、その前のパスがスロ-フォワードだったとか。あげくの果てには、ポイントとなる選手は片っ端からシンビンにしたり、レッドカード出せばいいんですから。
金子:そんなことしたら、その人レフェリー生命をなくしちゃうじゃないですか。レフェリー生命を絶たないやり方でということでは。
堀越:それはないでしょう。普通にやったら無理でしょう。
青島:どうしてそこまで差がついてしまったんでしょう。
堀越:それはもう社会人に外国人選手がドンドン入ってきたということで、日本人選手も練習中に彼らに当たりますから。それで、社会人はレベルが上がってきたんでしょうね。僕自身感じたんですけれども、いくら鍛えても筋肉がしっかり付いてフィットするのは大学を卒業した後の24~25歳ですよ。外国人は違うと思うんですが、日本人の場合は。それに経験がともなって、肉体とメンタル面がピークになるのは27~28歳でしょう。そうなってくると、精神的、肉体的、技術的に学生が社会人に勝つのはほとんど不可能かなと。
金子:はい。でも、そこまでわかっていて、日本選手権で学生が1回負けたら終わりというのでは、意味ないですよね。
青島:そうだろうな。でも、万が一があるから。それでも、日本選手権という仕組みに無理があるのは確かだよね。社会人と学生の1発勝負では、あまりにも差があるからというので生まれたのが今のシステムですけれどね。まあ、試行錯誤しながらやっているので、問題は大会としてどうやって日本中の関心をラグビーの日本一に向かわせるかということで、それも大事な要素だと思うんですけど。
堀越:僕も素朴な疑問として、社会人同士が決勝で戦うことが多いんですが、それじゃ社会人大会とどう違うのかというのがありますよね。まあ、ただ学生と社会人が交流を持っているという面では、学生におおいに勉強になるんじゃないですか。
金子:普段はないんですか。
堀越:法政大学の学生が神戸製鋼にスクラムの練習に来たりしてるんですけれども、相手するのはどうしても神戸製鋼の下のチームですから。それより僕は時期が一番問題だと思うんです。果たして、2月下旬でいいの? 学生が社会人に勝つために1ヵ月がんばれば、勝てないまでもその可能性が1パーセントだったのが5パーセントに上がると思うんですよ。でも今のままでは試験があったりして、10パーセントあった勝つ可能性が1パーセントになってしまうというのがありますね。
青島:残念ながら時間がなくなってしまったので、最後に堀越さんに締めていただきましょう。
堀越:今日はこんなにたくさんの方々に来ていただいて本当にありがとうございました。毎日インターネットでぴあのホームページをチェックして、まだチケットが売れ残っているよって心配していたものですから、本当にうれしいです。ぜひ、皆さん日本のラグビーのために力を貸してください。よろしくお願いいたします。

構成・文:CREW
撮影:末石直義

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