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@ぴあ/HOTスポーツ人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。2月25日に行われたイベントの模様を、そのままお届けします。
 vol.7 前編
 SUPPORTED BY KIRIN

「どうなる! サッカー日本代表」(前編)

出演者プロフィール
ホスト:金子達仁(スポーツライター・左)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターとなり、スペインに移住。「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などベストセラーを生み出した。今、日本で最も売れ、最も刺激的なスポーツ・ノンフィクション作家。
ゲスト:馳星周(作家・右)
'65年、北海道生まれ。'96年に「不夜城」で作家デビューを果たし、吉川英治文学新人賞を受賞。その後、「鎮魂歌」「漂流街」などヒットを連発、「漂流街」では第1回大藪春彦賞を受賞した。サッカー通として知られ、著書に「蹴球中毒」(金子達仁氏と共著)がある。

金子:今日のゲストはこの方、高橋尚子さんに賞をあげるのなら、この人だろうと。……メガネ。絶対はずさないですもんね。
馳:いや、家にいる時ははずしてるよ。
金子:そりゃ、当たり前でしょう。
馳:ハイ、すいませんでした。
金子:僕には今日、解せないことがありまして、皆さんにおうかがいしたいんですけど、前回はラグビーの堀越正巳さんとトークバトルをやらせていただきました。堀越君、心配してましたけど、チケット、当日まで残ってました。で馳星周、速攻完売なんですよ。
(会場:拍手)
金子:トークバトル7回目にして2番目の売れ行きの速さ。一番速かったのは、小倉隆史(東京ヴェルディ1969)と川口能活(横浜F・マリノス)が来た第1回。それはわかるんですよ。3番目が長谷川滋利投手(アナハイム・エンゼルス)、メジャーリーガー。普通はそっちでしょう。それより速いんですよ、全然。私が考えるに、皆さんもサッカーの話を聞きたいというよりは゛ナマ馳星周゛を見たかったのではないかと。そういう方って、どれぐらいいらっしゃいます? 挙手していただけますか?
(会場:反応鈍い)
金子:少ないがなー!
(会場:爆笑)
金子:何を期待していらっしゃるんです、手を挙げなかった人? そこのポニーテールというか侍アタマの方は何を期待していらしたんですか? 出版社のサクラですか?
客:おふたりがどれだけサッカー界にうるさいことを言うのかと思いまして。
金子:今の意見に賛同してらっしゃる方は、どのぐらいいらっしゃいますか?
(会場:挙手する人、多し)
金子:……それかい、それですか。で、何を話します、馳星周さん?
馳:いや、僕は全部、金子達仁先生におまかせすると、ぴあの方に伝えてありますが。
金子:『虚の王』で舞台にした渋谷で話すということで、何か感慨めいたものは?
馳:というか、出世した金子達仁が今日、僕を20分待たせたことについて語りたいですね。
(会場:爆笑)
金子:まぁ、じゃ馳さん、“うるさい話”にしましょう。今の日本代表をどう見られてますか?
馳:今の日本代表も何も、2月の代表合宿は何ですか、アレ? 50人ぐらい呼んで、そのうち3分の1ぐらいがケガして帰っちゃって、後は何をしていたんですか、アレは。
金子:…何も…。
馳:だからぁ、あれは何の意味がある合宿だったんですか?
金子:21世紀のスタート?
馳:それにしちゃみんな、ケガしたりして、甘ったれてんじゃないの?
金子:でも、選手の側に立って見ると、もうJリーグの合宿が始まってるわけじゃないですか。キャンプをやって、選手によってはもう試合も始めてるし、結構体はカッツンカッツンのところに来てるわけじゃないですか。
馳:じゃあ、なぜそんな時に合宿をやるの?
金子:……ねえ?
馳:それをプロのサッカーライターの金子さんに教えてもらいたいなあと。
金子:僕が「サッカーライター」と言われるのをイヤだと知ってて言いましたね?
馳:何と言えばいいんですか? 「スポーツライター」とお呼びすればよろしいんですか?
金子:いえいえ、僕はもうただの「ライター」として。
馳:タツー。
金子:それ、もっとイヤだって言ってるでしょ。
馳:ハイ。でも日本代表だなんだって、本当だったらワールドカップ予選があれば今頃すげぇー盛り上がってると思うんだけど、予選がないので、見てる俺の方も今イチ盛り上がりに欠けるところがあるよね。
金子:なんかガーッと来るものがない。
馳:いくらこれからフランスに遠征して試合(3月24日)をやると言って、真剣勝負ではないじゃない、どうしても。それで、どうやって気持ちを盛り上げていこうかと迷ってるところもあって。実際はもう盛り上がらなきゃいけないんだけどね、ワールドカップは来年なんだから。JAWOCの方々の問題で、まだチケットの申し込みもできないし。
金子:あなたはスポニチからもらえるでしょ。
馳:一応、自分でも応募して当たったら、それで行こうかなと。
金子:だってこれからテレビのコメンテーターとして、それからラジオだ、雑誌だ、新聞だって来るでしょう?
馳:いや、全然来ないよ。
金子:馳さんってどんな人ですか? って俺聞かれますもの。
馳:何て答えるの?
金子:お会いになられるのが一番です、と。怖い人ってイメージがあるから。で、フランスは行くの?
馳:フランスはちょっと行けない。仕事がグチャグチャで。3月24日というとですね、日本競輪選手権というのがありまして……俺の中ではサッカーと競輪は別のレベルなんだけど、でもレベルの高さは同じなのね。だから一瞬、3泊5日でもなんでもフランスに行こうかなと思ったんだけど、今現在の俺の気持ちの中ではサッカー日本代表の今年一発目の試合と、競輪選手権と……競輪選手権の方がちょっと重かったんだよね。申し訳ないと思うんだけど。
金子:サンドニ(パリ郊外のスタジアム)で日本代表が試合するって、なかなかないと思いますよ。
馳:でも俺、サンドニはフランスワールドカップの時に行ったし。試合は観たいんだけど……。
金子:まあ、言っちゃなんですけど、テストマッチですからね。
馳:それに、フランスまでわざわざ行って、頭に来ると、俺の気持ちの持っていきどころはどうなるのか。
金子:行き帰りの飛行機、タバコ吸えないしね。
馳:そうそう。それにもっと仕上がってからフランス代表-日本代表がテストマッチをやるなら観てみたいんだけど。やっぱり初戦だしね、どんなもんだろうと思うんだよ。
金子:ワールドカップまであと1年ちょっと、という段階を、'98年ワールドカップの時のこの時期に当てはめると、ずいぶん醒めてますよね。
馳:だって'97年の時は大変だったよ。
金子:おかしかったもん。
馳:俺はちょうど、'97年の秋、『鎮魂歌・レクイエム』という本が出た後で、サイン会を出版社の連中が俺の希望を考えずに「この日はどうですか?」「バカヤロー、その日は韓国との試合があるんだ、そんなんやってられるかよ!」、そんな感じで、あの頃はこんなにのんびりと話してはいなかったんだけど。やっぱ思うんだけど、日本で開催しちゃ、いかんかったかなと。
金子:確かに馳さん、この間ワールドカップに初めて行かれて感じられたと思うんですけど、試合自体はそんなに面白いものはないじゃない。
馳:ないない。
金子:その後、あれだけヨーロッパ嫌いだったくせに、すっかりヨーロッパ好きになってしまい……。
馳:うん。…だから俺が好きなのは、ラテンのヨーロッパだから。
金子:ともあれ、ワールドカップ以降、あれだけヨーロッパに観戦に行くようになって、すごい試合を観ちゃったりしてるでしょ? これはワールドカップより面白いなっていう試合を観てるでしょ?
馳:うん。
金子:だから試合自体はあんまり大したことないでしょう、ワールドカップ。で、どこにワールドカップを観る楽しみがあるかと言うと、今まで行ったことのないところに行ける楽しみが、すごく大きいと思うんです。
馳:それとやっぱり、去年のユーロ2000(オランダ・ベルギーで共同開催したサッカー欧州選手権)もそうなんだけど、その開催国自体が異様な興奮状態に陥っていて、そこに行くというのは、普段その国に行くのとはまた違った楽しさがある。
金子:そうそう、祭り。博多どんたくに行くようなもんですよね。
馳:特に開催国が勝ち進めば進んでいくほど、狂ったみたいになっちゃうよね。
金子:ベルギー、醒めてましたからね(ベルギーはユーロ2000の予選リーグで敗退)。
馳:オランダは準決勝でイタリアに負けた瞬間に…。
金子:大会、終わっちゃったからね。
馳:そうすると決勝戦を観に行っても、チケットもいっぱい余ってるし、こんなもんか、みたいな感じもあるよね。
金子:で、そういう楽しみが、2002年の日本にはないわけですよね。
馳:だから日本代表を応援する以外にないじゃん。応援したいんだよ。やっぱり最低限ベスト16に進んでもらわないと困る、とみんな思ってるでしょう? できるかどうかは別としてね。サポーターはもちろんそう思ってるだろうけど、本来ならそれ以外の人たちが盛り上げてくれなきゃいけないのに、盛り上げようともしてない。勝手に盛り上がるんじゃないか、と思ってる気がするのね。
金子:なぜ決勝トーナメントに進まなきゃいけないかと言うと、要は決勝トーナメントに行くと日程的に大会の半分は盛り上がるんですよ。予選グループで終わると、ヘタをすると10日で終わっちゃうんですよ。
馳:最初の2試合に日本が負けると、そこでもうワールドカップは終わっちゃう。一部の国、例えばブラジルとかが勝ち進めば、そこの国の人たちだけはイケイケとなるけど。今ワールドカップのチケットの申し込みが大変な問題になっていて、何100 万人の日本人が応募すると言われてるけど、そのうち90%の人はたぶん「ワールドカップだから一応観ておきたい」「日本でやるから観ておきたい」という人たちだと思う。そういう人たちが、日本が負けちゃったら「ワールドカップ? 何それ?」となる可能性大だよね。
金子:さて、この間までの反省としてあるのが、質疑応答の時間が少なかったと。
馳:もう質疑応答に入るの!?
(会場:爆笑)
金子:もうMC疲れました、僕。聞きたいことがありましたら、お酒飲みながら、ジャンジャンいっちゃってください。最前列の方、何しにいらしたんです?
客:金子さんの話を聞きたくて……。
馳:ほらやっぱり、君の話だよ。だってアンタ、ホストだよ。遅刻してきて、打合せ、何もしなかったかもしれないけど。だから、日本代表どうするの?
金子:僕自身、相当ダメかなと思ってますよ。
馳:どういうところで?
金子:クラブチームの1シーズンは大体34試合から38試合ですよね、ヨーロッパの場合。それで監督を更迭してチームを立て直せたというのは、だいたい残り20試合。
馳:半分過ぎちゃったら、もう手遅れ。
金子:今年、日本代表が6月に日韓でやる大会(コンフェデレーションズカップ)で勝ち進んでいけば試合数は増えるんですけど、たぶん多く見積もって、本大会までに20試合。
馳:すごく多く見積もって、だね。
金子:となると、あと1~2試合のうちに決断をしなければならない。
馳:それは、監督の問題ですね?
金子:監督の問題もありますよね。やっぱりチームの中から「勝つんだ」という盛り上がりが来ない。そのひとつの原因は、日本のサッカーの歴史を振り返ってみればわかるんですが、オフトさん(元日本代表監督)の時のチームは明確な目標があった。監督が就任した時に「私の仕事は、日本をワールドカップに連れていくことです」。夢物語ではあったけれど、その目標に段々近づいていったわけです。高いところへ登っていったから、失いたくないものがあるわけですよ。ここまで来たんだから、もう少し頑張って手を伸ばしたいという想いも当然芽生えてくる。それがチームの推進力となって、個々の力としては'94年ワールドカップ最終予選でたぶん4番目か5番目の力だったにもかかわらず、ほとんど本大会に出場できるところまでいっていた。今回のトルシエ監督はまだ目標を明確にしてないんですよね。
馳:シドニーオリンピックでは「メダルを獲る」とか言ってたもんね。
金子:「メダルを獲る」と言ったかと思うと、試合の前々日、「唯一にして最大の目標は、決勝トーナメントに進出することだ」とコロリと変わってましたから。彼自身の中で目標が明確じゃない。そんなリーダーに率いられたチームが明確な目標、目標に向かって進んでいく勢いを得られるわけがない。なので、僕はやっているサッカーの質に物足りなさを感じるのと、集団組織の心理が非常に危ういところにあるので、ダメかなと思う。
馳:なんで危ういと感じるの?
金子:チームの顔が見えてこないですね。苦しくなった時に頑張ってくれるだろう、という顔が見えてこない。
馳:それはここ何年か、日本代表が抱えている問題だよね。オフトの時だったら、ラモス(瑠偉・現サッカー解説者)がいた、柱谷哲二(現サッカー解説者)がいた。あの頃は点を取られて意気消沈しても、ラモスが怒鳴り、柱谷が怒鳴り。あのふたりが代表からいなくなってから、その代わりがひとりもいない。
金子:これは日本サッカーの問題というより、日本人の問題という気もします。昨日の「サタデースポーツ」で柱谷哲二さんが日本代表の顔として、名波君(浩・ジュビロ磐田)に期待していた。確かに以前と比べると、名波君は男の顔になってきたと思うし、非常に良くなったとは思うんですが、アジアカップで日本は、決勝を除くとほとんどワンサイドで試合をコントロールした。名波君自身がボールに触れる機会が多い中で、彼はコントロールできたのですが。
馳:でもあの時の決勝戦みたいに劣勢になると、トルシエは何にもできないんだよね。
金子:劣勢になった時に何ができるかが、2002年に勝てるかどうかのカギになると思うんですよね。
馳:来年、どんなメンツが日本代表メンバーになるかわからんけど、たぶん誰も経験したことのない修羅場を戦うわけだよね。
金子:同じような状況、ワールドカップに優勝したことがなくて、開催国になった国は今までいくつかありますが、キャプテンはずっと一貫してるんですよ。例えば'78年のアルゼンチンにダニエル・パサレラ(元アルゼンチン代表監督)がいた。彼がキャプテンに選ばれた時、23歳。所属チームでもレギュラーではなかったし、もちろんキャプテンではなかった。そういう選手にキャプテンシーがあるからということで抜擢して育てていった。'94年のアメリカ代表で言うとデューリー。決してうまい選手じゃなかったけど、アメリカ人として初めてドイツのブンデスリーガでプレイした選手。経験、それから年齢という面でチームを引っ張っていけた。この選手に'90年のワールドカップの時にキャプテンを任せて、その経験で'94年のワールドカップを引っ張ってもらった。'98年のフランス代表で言うとデシャンがいるわけです。そういう選手が今の日本代表にいないんですよ。
馳:ひとりもいないね。
金子:いないという面もあるけど、人為的に育ててない部分もある。だから、この段階になっても脊椎がない。'78年のアルゼンチンで言うと、あの当時、すでに海外でプレイする選手がたくさんいたんです。'74年のワールドカップに出たアヤラというスター選手がいた。彼はアトレチコ・マドリー(スペイン)でプレイしていた。それと、'74年の時は補欠で少し試合に出ただけだったものの大器として期待されていたマリオ・ケンペスという選手がいた。彼はワールドカップの直前にバレンシア(スペイン)に移籍した。彼らを呼び戻すかどうかという論争が巻き起こったわけです、アルゼンチンで。
馳:ヨーロッパでやっているから一番というわけじゃなくて、彼らのプレイを観れないし、どんな状況でプレイしているかよくわからないし、そんな選手を呼ぶのはどうかという不安が内心あったわけですね。
金子:そこでメノッティ('78年当時のアルゼンチン代表監督)が下した決断は、背骨を国内チームの選手で作り、ケンペスだけを呼び戻す。ケンペスは言わば不確定要素。活躍してくれればいいし、活躍してくれなかったら、アロンソとか国内にいるいい選手にすぐ代える……という選択肢で臨んだらしいです。それを考えると、まず脊椎がない上に、中田(英寿・ASローマ)頼みでしょう、日本は。これは、やってはいけないことのオンパレードという気がするんですよ。
馳:まったく、その通りだよね。
金子:そう考えると、2002年に関してどんどん悲観的になっていっちゃうんですよ。
馳:でも楽観的な人っているの? 日本は楽勝でベスト16に行けると思ってる人、
いる?
金子:ゼロですよ。
馳:だからみんな思ってるんだよ、ヤベーと。でもメディアが煽るよね。中田がいて、中村俊輔(横浜F・マリノス)がいて、「最強日本だ」なんて、ウソつけっつーの、と僕は思うんですけど。確かにテクニックは今までで一番うまいとは思うよ、歴代で。でも歴代じゃん、しかも日本じゃん。俺もオフト以降の日本代表を見ていて、うまくなったとは思うし、強くなってはいるんだよ、確実に。だけど今、金子先生が言ったように、どうしても不安が残るのは、軸=キャプテンがいないということなんですよ。じゃあ、中田ヒデにキャプテンを任せたとして、日本が1対2で負けていて苦しくなった時に、ヒデがみんなのケツをひっぱたけるかと言うと、あいつ、そういうことをしないタイプでもあるじゃない。
金子:でもあれだけチームを任せているのであれば、そうさせなければいけなかったと思うんですよね。
馳:ヒデがあと1年、今のローマでのすごい悔しい思いが、彼の精神的な成長になって、もっと強くなって帰ってきたとしても、今の日本代表を潰すには、ヒデさえ潰せばいいじゃん。
金子:簡単ね。
馳:で、俊輔がいるとは言っても、彼は代表では真ん中でプレイしてない。1回だけやったけど、あまり機能してなかった。中田がいなくなったから、じゃあ俊輔を真ん中にして、それで俊輔がすごいプレイができるほどスーパーな選手かと言うと、そうじゃないと思う。うまくいけばスーパーになれるかもしれないけど、まだスーパーじゃないと僕は思う。トルシエにそのあたりの明確なプランがあるのか、僕は見ていて、ねえんじゃないかと思う。
金子:今の中村俊輔君に一番必要なのは、19歳の中田英寿が遭遇していたような、周囲がすべて敵。その敵を黙らせるには、とにかく自分が必死でやるしかないという状況を、彼に与えることだと思うんです。ところが、まわりが彼にどうしても甘いんですよね。確かに持ってる才能は素晴らしい。ピクシー(ストイコビッチ・名古屋グランパス)に「Jリーグで素晴らしい才能をひとり挙げるとしたら誰か」と訊くと、彼は迷わず「シュンスケ・ナカムラ」と。ただ才能はそんなに変化するものじゃない。選手を変化させるのは、例えば肉体改造であり、プレイスタイルの変化だと思うんですが、中村君がやっていることは、実はデビューした頃とあまり変わっていない。まわりが敵だった中田英寿がひたすら筋トレに励んで、当たり負けしない体を作り、ペルージャに行って、「日本人なんか」という環境の中で、アピールするためにシュートを増やしていって……というふうに中田自身、才能は変わっていないけど、やることを変えていったわけです。そういう変化は周囲が作ったものだと思うんですよ。
馳:周囲というか、環境だよね。
金子:僕は、中村君も環境を変えてあげれば、できると思う。ところが、やっぱり、みんな甘いし。日本代表の内部の話を聞いていても、中村俊輔には怒らないって言うんですよ、トルシエ監督。となると彼がよほど強靱な精神と意志を持って、自分で変えていかなきゃ無理だと思うんですが。きっかけとなるとしたら、今度のフランス、スペイン遠征で、全然ダメなんだというのをこっぴどく思い知らされて。
馳:でもその可能性は低いんじゃないの。
金子:まあ、フランスは一生懸命やってくると思いますけど。地元だし。スペインの場合はワールドカップ予選があるから、あくまで練習。若手がいっぱいいるから試したいというのもあるだろうし、ワールドユースでこてんぱんに日本をやっつけているし。だから今度のフランス戦で日本がボロカスにやられるようだと、スペインは「あー、やっぱり」とメンバーを落としてくるだろうし、会場もたぶん、相当しょっぱい所になってしまうと思うんですよね。フランスに関して言うと、ワールドカップ予選免除で、真剣勝負がない点で日本と同じ状況にある。お遊びムードでやったとは言え、モロッコ(2000年ハッサン二世国王杯)で引き分けだった。で、あれはお遊びだったということを証明するために、彼ら今度は少なくともリードを広げるまでは一生懸命やるわけですよ。そこで、日本代表が何かができないと、意味ないんですよね。するための何かを今やっているか。全然やっていないですよ。
馳:もし俊輔が「このままじゃ俺ダメだ」と思ったとしても、もう1年しかないじゃん。
金子:悲観するしかないでしょ。
馳:いくら彼がすごい才能を持ってたとしても、1年でそんなに変われるとは思えない。
金子:最近スペインリーグの中継をやっていて思うんですけど、ゴールって、その選手を劇的に変える。思えば中田英寿が変わったのもユヴェントス戦(セリエAデビュー戦でのゴール)でしょ。だから注目される試合でゴールを決めることによって、若い選手は突然違うステージに突入することがある。なので、フランス戦は俊輔に点を取ってほしいんです。
馳:それも、フリーキックじゃなくて、でしょ?
金子:そう、流れの中で、点を取れないと結局ダメなんですよね。
馳:最初の頃は彼だって、左で使われるのがイヤで「真ん中でやりたい」って言ってたのが、最近は「左でもいいや」とか言ってるもんね。
金子:もう少し、我を張ってほしかったけど。カペッロ(ASローマ監督)に「サイドに張ってろ」と言われても、いつの間にか真ん中にいる選手もいますけどね。
(会場:かすかに笑い)
馳:それはね、彼がたぶん、カペッロを監督として認めてないからなんだけどね。
金子:そういう反応に困ることを振らないでくださいよ、僕に。
馳:それで、どうすればいいと思う? どうして俺が司会やってるんだろうね。このままズルズルいったって、僥倖が無い限り、劇的には変わらないと思うんでしょう? でも何とかしなきゃいかんじゃん。
金子:一番簡単なのは、監督交代。
馳:そこに行きますかー。
金子:僕はスペインでサッカーくじをずっとやっていたんで、“買い”の法則を結構僕なりにつかんでいたつもりなんです。
馳:はぁ?
金子:監督が代わったチームって、“買い”なんですよ。
馳:なるほどね。
金子:代わった監督の能力もすごく大切なんですけど、トップが代わることによって、劇的に変わる可能性ってあるんですよ。現状をどう認識するかによって違いますが、今のままでいい、というのであれば代える必要はない。でも僕はダメだと思う。
馳:俺もダメだと思ってるんだけど、じゃあ、トルシエの代わりを日本サッカー協会が見つけられる?
金子:そこなのよね。まだベンゲルって言ってるんだもん。
馳:俺も最初にトルシエが来た時は、ダメだダメだと言ってて、今は仕方がなく消極的な支持なのね。だって日本サッカー協会が見つけられる最高の監督が今のところトルシエだから。だって日本という器で、彼以外の監督を探せないじゃん。
金子:Jリーグには彼以上の監督がいますよ。
馳:いるよ。でも日本サッカー協会がアプローチしてる?
金子:そこなのよね。
馳:俺、ユーロ2000に3週間ぐらい行ってたんだけど、日本サッカー協会の人が来たのは準決勝からですよ。
金子:パックツアーで。
馳:そうそう。アホかっつーの。こっちがさぁ、別にそれで食ってるわけでもないのに自腹切ってガンガン行ってるのに。山本昌邦(日本代表)コーチだけは自腹で来てたらしいですけどね。
金子:あの人、熱心だから。
馳:それで、ほかの人は準決勝と決勝だけ観て、「やっぱりユーロは素晴らしいです」なんて言って帰っていくんだよ。バカかっていうの。
金子:山本さんはトップチームでの監督経験はないし、ギャンブルなんですけど、ギリギリまでトルシエで行って、もうアカンということになった時、残された選択肢は山本さんでしょうね。
馳:あんた、岡ちゃん(岡田武史・現コンサドーレ札幌監督)の時、ダメだって言ってたじゃない。
金子:だから……長期的にはね。あの段階での交代は良かったと思うんです。すぐその後、代えればね。
馳:でも代えなかった。
金子:代えなかったから怒ったんで。代えるのはいいことだと思う。実際、あそこで監督交代してフランスワールドカップに行けたわけですから。せいぜい3~4試合を暫定監督でやるのはアリだと思うし、同じことをやったのがアジアカップのサウジアラビア。
馳:本当に聞きたいんだけどさ、アジアカップの決勝のトルシエの采配って、あれ何なんですか?
金子:僕もサッカーコーチじゃないんで……。
馳:だけど、今までも彼は僕にとって解せないことをやってきたけど、特に劣勢になってくるほど「こどもじゃないんだから~!」と思っちゃう。「普段あれだけ偉そうなこと言ってるのに、何、慌ててるんだキミは~!?」とか思うでしょ?
金子:理由は簡単ですね。経験のなさ。
馳:結局、あれは彼にとっても初めてのビッグタイトルだったわけでしょう。選手にとってのゴールと同じように、監督にとっての優勝。
金子:彼があれでステップアップしたのは間違いない。
馳:ただ俺、結果として何とか優勝はできたけどね、あの采配を見る限り、もう俺、ひっくり返っちゃうんだよね。
(会場:爆笑)
馳:俺でもやらないぞ、と思うの。ヤナギ(柳沢敦・鹿島アントラーズ)を出して、17分で代える?
(会場:爆笑)
馳:名波君も、ヤナギ君もそうだけど、人としてね、許せないことされてるじゃない。その後にトルシエが頭を下げて謝ったかどうか知らないけど、もし僕が名波君の立場で、コパ・アメリカ('99年の南米選手権)の後に「お前なんかボケ、カス、コノヤロー」とか言われたら、俺、絶対にどんなことがあってもトルシエが監督である限り、代表には行かない。そのへんのところって、彼らはどうやって折り合いつけてるんだろう。例えば柳沢君が「よし行くぞー」って行ったら、ハイ、17分で「帰ってこーい」。泣いてたよね、彼。その後、トルシエに柳沢必要だから来いって言われて、「よし、トルシエのために頑張るぞ」って思える、普通?
金子:……普通、思えないですよね。
馳:どうしてそこで歯切れ悪くなるの? 時々、セルジオ越後さんから、「代表は、外で見ているより、中にいると大変だよ」といった話を聞くわけですね。それで、ちょうどアジアカップの後かな、「優勝してワーワー言ってるけど、もしかすると近いうちに空中分解するかもしれないよ、あのチームは」と言ってたんですね。
金子:あの人の予言は当たりますからね。
馳:日本人って臭いものに蓋をするじゃないですか。でももう時間がないから、臭いものはとりあえず、匂いを発散させなきゃいけない。そういうのがメディアを通して、普通のサポーターには何にも伝わってこないでしょ。本音はトルシエを代えてほしいんだけど、ただ日本サッカー協会にはその能力がないので、まあこのままいくんだろう、どこかで破綻が起きるまで。だけど本当に時間がないから、空中分解するなら早くしてほしいし。ならないなら、ならないで、お前ら、腹くくって行けや、というのが僕の今のスタンス。
金子:僕もトルシエ反対ではあるんですけど、前回の岡田監督に比べてどうかと言えば、はるかにベターなわけですよ。
馳:トルシエは決して最低な監督ではないです。どっちかと言うと、能力がある方です。ただ、劣勢となるとわけのわからない采配をしてしまう。つまり、経験がないんですよね。これがオフト監督の時代とか、フランスワールドカップに行こうと言ってる時だったらいいんだけど、日本で開催するんだよ、ワールドカップを。それで'98年のワールドカップに日本は初めて出場して、3敗というボロボロの成績で戻ってきて、でも今度はベスト16に進まなきゃいけないのに、それを俺みたいなチンピラがやきもきしてるのに、日本代表を舵取りしなきゃならない人たちは一体何をしているんだろう、と。
金子:責任取りたくないですよね。これは日本サッカー協会の人たちが責任を取らないところに問題があるんですが、もうひとつ、Kさんという名ストライカー。
馳:日本が生んだ最高のストライカーでございますね。
金子:Kさんが責任を取ろうとしたことはありましたよね。その時、それを潰したのはファンだったわけです。あれが協会の中ではトラウマになってますよね。ファンの意に反することはできない。
馳:サポーターが強くなってきたよね。
金子:非常にいいことだと思うのですが、もちろんサポーターがいつも正しいわけではない。バルセロナの監督、ヨハン・クライフを追い出したのは、結局のところバルサのファンだった。今になって「帰ってきてくれ」のオンパレードなわけですよ。
馳:ものすごく後悔してる。
金子:取り返しのつかないこともある。さしたる結果……アジアカップ優勝を結果と言うかどうかは人によって評価の分かれるところでしょうけど……を出したとは思えない監督に対するサポーターの熱狂的な支持が、協会を縛ってしまっているのは事実ですね。
馳:人それぞれだからいいんだけど、何であそこまでみんな、サポーターの人たち、特にウルトラスの人たちって、あんなに熱狂的にトルシエを支持してるのかわかんないんだよね。
金子:彼らは基本的に日本代表を常に支持する。岡田さんの時も加茂さん(周・元日本代表監督)の時もやってましたからね。
馳:でもそれはおかしいんだけどね。ダメな時は「ダメだ」と言わなきゃいけないんだけど、本当は。別に日本サッカー協会だけがダメなわけじゃないんだけど、輪をかけてダメなんだよね。俺、ユーロ2000に行ってる時にロッテルダムのホテルにUEFA(ヨーロッパサッカー連盟)の本部もあって、エレベーターが降りてきたらUEFAの会長夫人が乗っていらして、ガラガラなのに「満杯だから、降りなさい」って言われて、日本語で「ふざけんな、ババア」って怒ったんだけど、そういう人たちがやっているところなので、あそこも問題はアリっちゃ、アリなんですけどね。でも、追い詰められたら何かするじゃん。
金子:追い詰められた時にどうするかという経験値が集団としてありますから。
馳:だから日本サッカー協会は……できることなら選挙制にしてほしいよね。
金子:今の時期の日本って、第2次大戦前の日本とよく似てると思う。結局あの時、日米開戦に反対の人たちもいっぱいいたわけじゃないですか。にもかかわらず、アメリカ許すまじという空気に、サポーターというか国民という巨大な猫に鈴をつけられないまま、いっちゃったわけですよね。その国民感情に全面的に迎合した人が責任を取る形になっちゃったわけです、最終的には。
馳:メディアが本当のことを伝えていない。テレビでもスポーツ新聞でも一時期あれだけトルシエが取材してくれないとバッシングしてたのに、今はトルシエが何をした、とかガンガン書くでしょ。どーいうことよ!?
金子:面白いことになるかもしれないと期待してるのは、フジテレビとトルシエが契約したでしょう。これによってフジ以外のメディアを彼は完全に敵に回しちゃったわけですよね。なので何気ないコメントの中に、トルシエに対する毒がこれから新聞・テレビに混じっていくと思うんですよ。そうなった時に彼を支えている層、日本サッカー協会が手をつけられないでいる層、サポーターが、段々とそれに染まっていく可能性って、僕はあると思うんです。
馳:まあここでグチャグチャ言ってても、来年になってワールドカップが始まれば、俺は無条件で日本代表を応援するんだけど。とにかく俺は、フランスの時のようなことをやってほしくないの。
金子:でも思い切りやってますよね。やるべきことをすべてやって臨んだか、と言ったら、やってないもん。
馳:僕はアルゼンチン戦で現地に行ってて、ほとんど3分の2ぐらいが日本人のサポーターだった中で、みんなが青いユニフォームを着て「ニッポン、ニッポン」と応援してる中で、俺ひとり「名良橋、勝負しろ、このヤロー!」と叫んでる、そういう人だったのね。
金子:友達にはなりたくないタイプですね。
馳:だから、僕はすごく悔しかったんですよ、戦えない日本が。いくら相手がアルゼンチンだとは言え。戦って負けるんならいいんだけど、戦ってないんだもん。それは選手だけじゃなくて、行く前から日本サッカー協会も、日本人も、「ワールドカップ出られるだけでいいや」「初戦のアルゼンチン戦、1-0で善戦した」って、それ違うだろう。本当に勝負してほしいんですよ。勝つための努力を準備を120 %して、それで相手に負けたなら納得できるんだけど、50~60%ぐらいしかしないで、「やっぱり負けました」じゃ納得いかないよ。日本が120 %の努力をフランスワールドカップの直後からして、それでベスト16に行けませんでしたということもおおいにあり得るんだけど、それと、ただのんべんだらりんとやって負けるのでは、違うんだよ、俺にとっては。
金子:前回のユーロ2000は、ベルギーとオランダの共催だったじゃないですか。で、ベルギーが決勝トーナメントに行けなかったことをもってして、「だからいいじゃん」と言う人がいるわけですよ、日本も行けなくても。でもまず、ベルギーと日本の人口は問題にならないぐらい違う。ベルギーリーグの試合を観て感じるのは、圧倒的なコマ不足。あのコマでは、例えどれだけできることをやったとしても、無理ですよ。ヨーロッパからすると、日本という国はベルギーより評価は低いです。当たり前ですけど。だから、勝てる可能性があまりないと思われている、期待されていない。ただ日本を知る者としては、中田英寿、確かにいい選手です。でも彼は日本が生んだ最高の才能というわけではない。磨けば光る玉って、いくらでもいる。それを磨いてないのが悔しいですよね。だから外国人監督が日本に来て、まずびっくりする。「こんなにいい選手がいるのか」と。
馳:なのになんで? となる。
金子:世界的に見ても、これだけ才能のある選手がミッドフィールドにどんどん出てきている国って、もうないですからね。ストライカーがいないって言うけど、そんなもの、世界中どこにもいないですから。
馳:本当だよ。シェフチェンコ(ACミラン)でもなんでも、特別なんだから。バティ(バティストゥータ・ASローマ)にしても。だってローマからバティがいなくなってごらん、首位になんかいないよ絶対、あんなクソみたいな試合してるチーム。
金子:バティストゥータが出てくるまで、アルゼンチンにストライカーがいたのか。いないんですもん。
馳:ブラジルだってロマーリオ(バスコ・ダ・ガマ)やロナウド(インテル・ミラノ)はいるけど、その前はいなかったよね。中盤は素晴らしい選手がいたのに、トップとキーパーはダメ。で、いいトップが出てくると、いいミッドフィルダーがいないとか。どこの国も完璧な形ということはないわけだから。日本だけが得点力不足とかストライカー不在という話ではないから。
金子:で、なぜ日本の選手が磨かれていないかと言うと、ファンの甘さですよね。僕自身、阪神ファンだから思いますけど、阪神を弱くしているのは僕ですよ。
馳:昨シーズン、浦和レッズの試合をテレビで結構観てたんだけど、レッズのサポーターも怒るんだけど、試合後じゃん。試合中、あんまり選手に対して怒らないよね。怒ればいいのになあと思うんだよね。そしたら結構変わると思うよ。あんなにいい境遇でサッカーしてるヤツらはいないのに、俺がレッズのサポーターだったら、怒るよ。
金子:レッズのサポーターに今年期待したいのは、去年レッズのサポーターはJ1にいた時よりもはるかに厳しかった。やっぱり負けが許されなかったから。J1でもスタジアムにその雰囲気を作っていってほしいですよね。
馳:負けたら怒らなきゃいけないし、常識のある人は、フーリガンとか確かに良くはないんだろうけど、頭に来たら、石ぐらい投げてやれよと思うんだけど俺は。僕は常識人ではないからですよ。でも、その緊張感があるから、イタリアでもホームの試合では下位のチームでも上位のチームと堂々と渡り合える部分があると思う。今のJリーグって、アントラーズと下位のチームの対戦で、最初から勝てないだろうって選手もサポーターも思ってやってる雰囲気がありありでしょう。それじゃ、つまんないじゃん。

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構成・文:CREW
撮影:橘蓮二