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@ぴあ/HOTスポーツ人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。2月25日に行われたイベントの模様を、そのままお届けします。
 vol.7 後編
 SUPPORTED BY KIRIN

「どうなる! サッカー日本代表」(後編)
前編はこちら

出演者プロフィール
ホスト:金子達仁(スポーツライター・左)
'66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターとなり、スペインに移住。「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などベストセラーを生み出した。今、日本で最も売れ、最も刺激的なスポーツ・ノンフィクション作家。
ゲスト:馳星周(作家・右)
'65年、北海道生まれ。'96年に「不夜城」で作家デビューを果たし、吉川英治文学新人賞を受賞。その後、「鎮魂歌」「漂流街」などヒットを連発、「漂流街」では第1回大藪春彦賞を受賞した。サッカー通として知られ、著書に「蹴球中毒」(金子達仁氏と共著)がある。

金子:ひとつ期待しているのは、toto。これによってちょっと変化が起こってくれたらいいなと。
馳:僕もtotoでお金を賭けて、家で酒飲みながら見てたら、自分の賭けてる方のチームが負けてたら、オヤジと化してテレビに向かって怒鳴りまくってるよね。
金子:それが一番まっとうなプロ選手の育て方だと思うんです。で、フランスワールドカップの時の一番の失敗は何だったかと言うと、今になって選手がようやく言い始めているんですけど、「ワールドカップ前の試合数が全然足りなかった」と。
馳:ワールドカップに行けるってことで、ホッとしちゃったんだよね。
金子:もうひとつ、あの時のチームの軸がわかってなかった。今はもう誰でも軸が中田英寿(ASローマ)だと認めている。ファンが認める大黒柱ですし、ファンの雰囲気は選手も敏感に感じるから、プレイに表れる部分もあると思う。ところがあの時の中田英寿は決して軸ではなかった。なのに、あいつにエクスキューズを与えてしまっていたし、エネルギーも与えていなかったですよね。今回、そこがどうなのか。エネルギーを与えているのか。僕には与えているようには見えない。あいつの才能を、今できることの極限まで引き出して、それでもチームとしてはまだ全然厳しいと思う。ただ、勝つ可能性を大きくするためには、それを引き出すしかない。そうすると監督としては仕切れなくなってしまうわけですよね。グラウンドの中にスーパースターがひとりできてしまうと。それをトルシエ監督は非常に嫌がるだろうし。
馳:それは日本だけの問題じゃないしね。
金子:'86年ワールドカップでアルゼンチンが優勝したのは、はっきり言えば、ビラルド(当時の代表監督)がマラドーナの靴磨きになったからですよね。マラドーナと心中したから。
馳:結局、マラドーナにはそれだけの力があったからね。
金子:マラドーナと心中するのは、マラドーナにすべてを託すのではなく、マラドーナをおとりに使ったり。
馳:対戦チームからすれば、とりあえずマラドーナを2~3人がかりでマークしちゃえ、と。でも。
金子:そこでブルチャガ(決勝戦で決勝ゴールを決めた代表選手)とかが生きてくるわけですよ。
馳:そう。それで他の選手が動いて、スーッとスキができた時に、一発で点を決められるパスを通せる能力がマラドーナにはあった。
金子:マラドーナは自分にマークを引きつけるのを、仕事として与えられていたから。マラドーナを中心とするチームを作ったことによって、マラドーナ以外の選手が生きるようになった。こういう作り方はアリだと思うんですが、今はマークが付いてしまった中田英寿がうんざりしてしまう状況なわけです。みんなが「お願い、ヒデさん」という状況だから。
馳:「みんな、僕にボールを渡して走るだけだから」と言っておりましたね。
(会場:爆笑)
馳:えー、もう去年の話ですけど。本人が、任されて「ヨッシャー」と思ってる状況じゃないんだよね、今。彼がそう思えるようにすれば、ヒデの力ももっと出るだろうし。
金子:基本的に、好かれたがり、期待されたがり、ですからね。
馳:ところが、今の日本代表で言うと「また、俺のところかよ」とか思ってるよ。
金子:組織としてシステムとしてやってるのでなく、漠然とそうなってしまっているから。
馳:例えばヒデにボールを回して、名波(浩・ジュビロ磐田)なり俊輔(中村・横浜F・マリノス)なりが左サイドで何かやって、右で望月(重良・ヴィッセル神戸)でも明神(智和・柏レイソル)でも何かやって、そこで頑張ってからパスを出せばいい展開になる、という状況になれば、あいつはきっと「ヨッシャー」と思うはずなんだ、絶対口には出さないけど。それが今はできてない。攻撃の形が何もないもんね。
金子:アジアカップの日本代表が良かったと言われますけど、じゃあ、あそこに中田英寿が入ったらどうなるんだろう。僕はあのチーム、壊れちゃうと思う。
馳:アジアカップの時に一番攻撃の軸になっていたのは森島(寛晃・セレッソ大阪)でしょう。でもヒデが入ってきたら、森島はどこに置くの?
金子:僕は今の段階でのテストマッチはすべて2002年のためだと思ってるんです。2002年にどういうチームでやりたいかというイメージがあって、それに近づけていく作業だと思う。アジアカップでの日本代表の戦い方は、どこをどう考えても2002年につながらないんですよね。
馳:それはやっぱり日本サッカー協会の問題になっちゃうんだけど、あの時点でトルシエにどうするんだということを全く曖昧にしている。で、あの頃はメディアのトルシエ・バッシングも結構きつかったから、トルシエとしても「ここで獲らなきゃヤバいかな」と思ってるわけじゃない。そうすると「2002年のことなんか知らないよ、俺はとりあえずこの大会で優勝して、ホラ見ろと言いたいんだ」という世界になっちゃう。だから、バックアップがとれてないんですよ。
金子:今についてもそうなんだけど、トルシエがいい監督かダメな監督かという論議じゃなくて、トルシエが好きか嫌いかになっちゃってるんですよね。
馳:日本サッカー協会が、でしょう?
金子:そう。日本全体も。僕は友達として付き合ったわけじゃないから、好きか嫌いかわからない。
馳:俺、個人的にイヤな奴でも、優秀な監督で日本を強くしてくれるんだったらいいよ。友達になるわけじゃないから。
金子:僕は前任者と比べていい監督だとは思うけど、Jリーグでいい監督を見てるし。Jリーグの、それこそ15年前までサッカーをやってなかった、ヨーロッパにパイプを何も持ってなかったチームが、一生懸命にいい監督を探してきているわけじゃないですか。日本サッカー協会って創立何年だったっけ? と僕は思う。なぜJリーグにできることができないのか。それが一番はがゆい。
馳:はがゆいけど、できないんだよ、現実として。
金子:トルシエでいいという考え方ももちろんあってもいい。でもそれなら、もうそろそろ彼にきちんと目標を口にさせる時期だと思う。それがどんなに遠くても、それに近づいていく作業をしていかないと、いつまでたっても、チームに求心力が生まれてこない。フランスワールドカップの時の失敗って、それじゃないですか。個人をアピールしたいという選手がいて、3戦全部勝ちたいという選手がいて、1勝1敗1分と言った監督がいて。サッカーに限らず、まず目標をはっきりしないと、動く力は出てこない。
馳:'98年のフランス代表の目標は「優勝」だったでしょう、確実に。エメ・ジャケ(前フランス代表監督)も口にはしなかったかもしれないけど、絶対に「やってやる」と思ってたでしょう。たぶん、選手も。そのための強化もしていたし。
金子:目標ベスト4というのは選手も言ってたみたいですね。
馳:でも、こっそり優勝を狙っているでしょう、みんなで。
金子:ベスト4まで行ってしまえば、後はもうチンチロリンと一緒ですから。
馳:ワールドカップがどうやったら盛り上がるという話に戻るけど、フランスって最初は全然盛り上がってなかったんだよね。
金子:だってフランス人が一番「勝てない」って言ってたもの。
馳:フランス人自身が、フランスなんかで開催して、外国人も来るし、フーリガンなんかも来て、ヤダヤダ。「ワールドカップは止めましょう」というアンケートまでやってたんだから。それがイタリアに勝ってから「アレー! フランス!」(行けー! フランス!)
金子:もうあれ以来、欧州選手権でもすごいですもんね。何が一番びっくりしたかって、'96年のイングランドでの欧州選手権、フランス人が全くいないんですよ。いや、いたのかもしれないけど。
馳:全然目立たない。
金子:まず「アレー! フランス!」なんて声は全く聞かれなかった。「アレー! フランス」という応援団のキャッチフレーズがあることすら知らなかった。
馳:それでフランスは'98年ワールドカップで優勝して、次にユーロ2000で。
金子:一番うるさかったでしょう、フランス人。
馳:決勝で0-1でイタリアにやられちゃうのかな、という時にヴィルトール(フランス代表選手)のゴールが決まった後、最後に延長戦でヴィクトリーゴールが決まるまで、あいつらずっと歌い続けてたからね。
金子:国歌をね。
馳:ラ・マルセイエーズを。それは'98年以前には絶対になかった光景なんです。ゴールが若い選手を変えるのと一緒で、優勝が国民を変えたんだよね、あれは。だから俺にとっては初めてのワールドカップだったんだけど、そこに立ち会えて良かった。フランス人が初めて変わった瞬間に。
金子:これは歴史的なことでしょう、あと50年ぐらい経ってみれば。ジャケ監督の場合、フランスの世論と言うか『レキップ』紙が徹底的にジャケを叩いた。だけどチームの中はまとまっていたわけです。今回の日本代表を見てて感じるのは、逆境になった時も、好意的なスポットライトが当たるようになった時も、一向にこの監督を守ろう、という空気が伝わってこない。
馳:だってみんな、嫌いなんでしょう?
(会場:静かな笑い)
馳:嫌いとまでは言わないにしても、みんな、含むところはある、彼の練習方法や起用法について。俺の仲のいいサッカー選手はヨシカツ(川口能活・横浜F・マリノス)ぐらいだから、例にすると、ヨシカツ君から楢崎君(正剛・名古屋グランパス)にキーパーが代わった時に、トルシエがヨシカツには「今回は楢崎を試すだけだから」って言うらしいんです。ところが次からはずっと楢崎君が正ゴールキーパー。それは選手だから、向こうの方が上だと言われたら当然だけど、それならきちんと説明してほしいのではないかと思うんです。そのへんが、戦術であるとか、劣勢になっている時の采配以前に、トルシエだけが悪いんじゃないんだが、やっぱり不満を持っている選手はいっぱいいると僕は思う。
金子:あとは、試合を監督によって救ってもらった経験が、今の日本代表選手にないんです。これはすごい問題だと思うんです。それでは、質問のある方、どうぞ。
客:監督の信頼という話で、トルシエ監督を信頼できていない選手、中田選手や川口選手はあまり納得してないかと思うんですが、ワールドユースで準優勝した時の小野伸二選手(浦和レッズ)や稲本潤一選手(ガンバ大阪)、彼が監督になってから呼ばれた宮本恒靖選手(ガンバ大阪)とか、そういう人たちは彼を信頼してるんじゃないかと。あのチームの中でも信頼派と信頼していない派で分かれているのではと感じるのですが。
金子:信頼と、恩を感じるのは違うと思うんですね。ワールドユースを思い出していただきたいんですが、初戦、負けたんですよ。その時にトルシエ監督が何と言ったか。「このチームは私のチームじゃない。山本コーチのチームだ」と。もうひとつ、アジアユースの予選を戦った時、監督覚えてます? 清雲(栄純)さん。トルシエ監督は何をやっていたか。スタンドで見ていた。なので選手からすると、トルシエのチームで臨んだという意識がないんですよ。……ないんですよ。
(会場:笑い)
客:テレビのインタビューなどを聞いていると、あのユースの時の選手は、わりとトルシエ擁護的な発言をしているように思うんですが。
馳:だって、悪口言えないでしょー。
金子:川口能活、中田英寿、否定派なのではないかと言いましたよね。彼らに、トルシエ監督どうですかと訊いたら、絶対に「いいんじゃないですか」と言いますよ。
馳:トルシエになってから代表に呼ばれた選手で、トルシエを信頼している人もいると思うんだけど、チーム全体がそうならないとダメだと思うんです。一部の選手はトルシエの言うことをハイハイと聞いて、一部の選手はなんだよー、では戦いになると絶対にまとまらないですから。それも含めて、いい監督というのは選手の8割から9割の信頼を集めていないと戦えない、と僕は思う。
金子:この監督が好きか嫌いかというのと、信頼しているというのは違う。この監督の試合中の指示を全面的に信じることができるか。
馳:バルセロナ時代のストイチコフ(元柏レイソル)がクライフ監督を好きかどうかって言うと、疑問だもんね。
金子:ケンカしまくってましたからね。でも、クライフがこうしろと言ったら、それで勝つから。
馳:嫌いだけど「このオッサンの言うこと、とりあえず聞くわ」みたいな。
金子:興味深いのは、トルシエによって抜擢された選手の象徴とも言える中村俊輔君。彼のインタビューなどを見ていて、彼が「いい監督だ、もっと早く出会いたかった」と言っているのはトルシエじゃない。アルディレス(横浜F・マリノス)監督。
客:中村選手の場合はきっと、真ん中でやりたいんだけど、左サイドでやらされているから納得いかないのかなと。使ってもらってること自体は感謝はしているんじゃないかと思うんですが。
金子:彼ぐらいの才能を持っていたら、試合に出るのが当たり前。使わない監督を恨むだけで、使ってくれた監督に感謝しないと思いますよ。
客:金子さんが再三、トルシエ監督を代えた方がいいという文章を読ませてもらったんですけど、具体的にどの監督をどういう形で呼ぶかを聞きたいのと、才能のあるミッドフィールダーの話でもうひとり、小野君の話をお願いします。
金子:具体的な話をすると、ここまで来ると非常に時間がないわけですよ。代表監督を誰に代えるかと言うと、Jリーグで日本代表の選手を一番多く抱えているチームの監督。それからJリーグで結果を出している監督が、他の選手も納得させる一番の早道かなと思っています。
客:具体的には?
金子:アントラーズかF・マリノスでしょうね、現時点('01年2月)でいくと。アントラーズのトニーニョ・セレーゾ監督が、最初は「ふざけんな」と言われまくってたのに、シーズンが終わった時には見事にチームになっていたわけですよ。オジー(アルディレス監督)に関しては、エスパルスの選手、F・マリノスの選手、そのほとんどが「やっぱりオジーはすごい」と言う。これが監督になったら、Jリーグで去年結果を出していますから、他チームの選手も納得する可能性は高いと思います。クラブチームと代表チームは違うのですが、開催国に関して言うと、クラブチーム的な強化の仕方を考えていいと思うんです。トニーニョ・セレーゾ、オジーもふたりともワールドカップを経験している。オジーの場合、'78年のワールドカップでチームがどうやって作られていったか、メノッティ監督がどうやって作っていったかを知っているわけです。彼の経験を生かさない手はないんじゃないかな、とは思います。それと小野君について。中村君について言ったのと同じことが言えます。彼の持っている才能は間違いなく中田英寿よりはるかに大きいと思う。にもかかわらず、デビューの仕方が、まだアンチ中田英寿が多かった時に、中田に対する対抗勢力として出現してしまった。なので、中田に対して厳しいメディアも、小野君には全く厳しいことを書かなかった。ファンにしても。中田が一番、自我を傷つけられてもがいていた時期を、ヌクヌクと過ごしてしまった。一番心配なのは、小野君の顔が、一時期の礒貝洋光(元日本代表)に似てきちゃったことです。
客:ヌクヌクと育ててしまったメディアの片棒を担いでいるひとりに金子さんもいるのではないかと感じているんですけど。小野伸二に対する厳しい文章をあまり見たことがないんですが……。
馳:いや、結構書いてるよね。
客:じゃ、私の勉強不足です。
金子:小野君に読んでもらいたかったし、どうやらまわりの人間が伝えてくれたらしいのは、「監督の言っていることがわからない」と言ってた時期があったんですよ、彼。で、僕はそれに非常に不満を感じて、「わからないんだったら、聞きに行け」。「聞きに行って意見が違うんだったら、ケンカしろよ」ということを新聞に書いたんですよ。それから、アプローチの仕方が変わったというようなことは聞いているので……う~ん、じゃもっと厳しいことを書くようにしますね。
客:金子さんの考えだと、小野選手は代表の中で具体的にどういう使われ方をしたらいいと思いますか?
金子:僕は彼に10番になってほしいです。中田英寿は10番じゃないと思うんですよ。彼は6番であり、8番の選手だと思うんですね、ブラジル風に言うと。小野君には中田英寿に露払いをさせる選手になってほしい。いわゆる゛汚れ゙。相手を潰したり、苦しい密集した状態を散らしたりする仕事を中田英寿がやり、小野君が持っている能力の一番偉大なところはどんな体勢でもラストパスを出せる能力だと思ってますんで、それを全面的に生かしてほしいと思います。
客:僕も個人的にはトルシエ監督に早く交代してほしいと思っているんですけど、国によって特徴のあるサッカーをすると思うんです。日本の場合、これが日本の形だというのが全然見えてこない。
金子:それは仕方ないですよ。ワールドカップで勝ったことがないんですもの。じゃあ逆に聞いていいですか。ベルギーのサッカーってどういうサッカーでしょう?
客:いやー……。
金子:例えばブラジルのサッカーと言うとイメージできる形があるじゃないですか。人それぞれ違うだろうけど。イングランドのサッカー、ドイツのサッカー、イメージできますよね。ワールドカップで優勝した国のサッカーなんですよ。
馳:優勝してなくてもイメージできるのは、オランダぐらいだよね。
金子:そう。それはもうクライフがいたから特別。なので、世界的にセンセーショナルな存在になるのは、忘れちゃいけないけど、優勝国なんですよね。優勝国ともう1ヵ国ぐらいなんですよ。そこまでワールドカップで結果を出さないと、自分たちも何が自分に適しているのかは模索するしかない。ブラジルですら、'74年にクライフのオランダに負けて以後20年間、泥沼に突入したわけですよ。'78年の代表監督だったコーチーニョはもともとはフィジカルトレーナー。ヨーロッパ勢に勝つにはやっぱり体力だと。それまでのブラジルでは邪道だとして嫌われていた深いスライディングタックルを徹底してやらせ、ヨーロッパナイズしようとして大失敗したわけです。その揺り戻しで来たのがテレ・サンターナ監督('82年当時のブラジル代表監督)。クラシックなブラジルスタイルで行くべきだと。で、クラシックすぎてイタリアにやられたわけです。だからあの頃はブラジル人自身も、ブラジルのサッカーが何かとはわかっていなかったと思う。だから日本人が日本のサッカーが何かとわかっていないのは、ある意味、仕方がないことだと思います。
客:日本は開催国としてワールドカップを迎えるわけですが、まだ誰にもわからない日本のサッカーのスタイルの中で、どうやって日本は戦っていくべきなのか、おふたりにうかがいしたいのですが。僕の中では強豪国が出場してくるわけですから、守り重視の試合をやらざるを得ないと思うんです。その中でいかに速くつないで、カウンターに持っていって、少ないチャンスをモノにするかが必要だと思うんです。それとストライカーは滅多に現れるものではないという話でしたが、どうやったらそういう天才を発掘できるか、また育てられるか。
金子:この人(馳)がストライカーになったら、すごくいいストライカーになると思う。
(会場:笑い)
馳:日本のスタイルに限らず、サポーターがそれを作るんだと思うんです。イタリア代表は守備的。なぜかと言うとサポーターがそういうゲームを求めるからなんです。3-2で勝つ試合より、1-0が好き。リーグの話をすれば、オランダ人やスペイン人は1-0でしみったれて勝つぐらいだったら、2-3で負けた方がいい。僕がずっと見ていて、日本人はやっぱり攻撃が好きだなと思うわけ。日本代表、ナショナルチームとしてはレベルが世界的にはまだまだなのにもかかわらず、日本ってカウンター攻撃のチームを作ったことがないよね。なぜかと言ったら、選手の資質もあるだろうけど、サポーターがそういう守備的なサッカーを見たがらないからやらないんだろうと思うわけ。やっぱり弱くてもいいから、攻めてほしいと心の底で思って見てるんじゃないかな。それで、ワールドカップで強豪が来て、攻められるのはわかっているから守ってカウンターでやっても、長い年月をかけないと国自体がそういう方向に行かないから、すぐには無理だと思う。じゃあ、カウンターサッカーをやるとする。足が速くて、パスを一発待ってガップリ行けるヤツ、一体誰がいるんだろう、日本の選手に。困るよね。それに、そういうのって監督と選手だけじゃなくて、日本サッカー界全体で作っていくものだと思うから。ワールドカップだからカウンターに徹しようと言ってもすぐには無理で、10年、20年かけて準備しないと。それと関係してくるんだけど、ストライカー。今、日本のシステムは小学校からの学校教育が主だけど、いわゆる特別な人間を許さない社会なんです。まわりと同じことをしなさい。ひとつの能力が飛び抜けていても、ほかのことができなければダメですよという社会なんで、そういう国からは突出した点取り屋は出てこないと僕は思います。金子が、俺だったらストライカーになるよ、というのは俺がものすごくワガママだから。自分のやりたいことのためだったら、ありとあらゆることを僕は犠牲にできるので、そういう人であれば、技術は別として、心はストライカーになれる。僕も実際、ここでパスしろよという絶好のパスコースがあるけど、自分で打つストライカーが本当のストライカーだと思う。今の日本でそういうストライカーを育てるためには、こどもの時から「お前はこれができるんだから、ほかのことはできなくていい」という人を育てるシステムと、みんながそれを認めるぐらいにならないと難しいと思いますね。だからと言って絶対出て来ないとは言わないし、中には出てくるでしょうけど。
金子:馳さんも学校教育で育ったわけですからね。「日本のサッカー」と言うと、まだ日本人も世界の人も、誰も想像できないと思うんですけど、「日本人」についてのイメージはあると思うんですね、世界中に。これはアジアの他の国々が持っていないアドバンテージだと思う。デメリットにもなりますけれど。とにかく勤勉で、自動車でもミスが少ない。フェラーリのような官能的な車は作れないけど、故障の少ない、目的地まできちんと運ぶ車を作るのは得意じゃないですか。たくさんのパスをたくさんの人数で運んでいく。天才を期待しないシステム。そこに小野君のような子が入ってくると、ものすごいことになるのではないかと思います。そういう全体的なイメージをどうやってフィールドの上で具現化していくか。
客:そうした日本人の気質を理解して、具現化してくれる監督は、今の時点で誰が思い浮かびますか。
金子:ひとつ間違いなく言えるのは、日本人。ただ残念ながら現段階ではワールドカップに出たことのある監督はひとりしかいないし、選手として出場した監督はひとりもいない。経験がないし、ワールドカップという舞台で我を失ってしまう。日本人の指導者が経験を積んできた場合、面白いサッカーをやってくれる人はいるんじゃないかなと思っています。
客:僕も教育機関にかかわりたいと思っている人間なんで、ストライカーを育てられるよう頑張ります。
金子:学校で浮くと思うよ~! 俺だってイヤだもん、クラスにこんな人(馳)がいたら。もうひとつ言えるのは、部活ではこの人は存在しえないから。
馳:何言ってんだよ、俺だってサッカー部だったんだよ。
金子:いじめられたでしょう、どうせ、1年生の頃。
馳:うん。
金子:ほらね。だからサッカー選手としてたいした選手にならなかったわけですよ。
客:三浦知良選手(ヴィッセル神戸)について聞きたいんですけど、トルシエがカズのことを持ち上げるだけ持ち上げて、試合では使わなかったり。実力は別として、代表の中でも存在感のある選手に対してそういう態度をとることに対して、金子さんが取材している中で、選手や関係者から耳にすることがあったら聞かせて下さい。
金子:同情する声が高まってますよね、カズに対して。ただ選手としては言えないでしょう。たぶん、地元でのワールドカップ開催って選手にとっては1回だけでしょう。それを棒に振りたくないという気持ちがあるから、表には出てこないですよね。カズに関して言うと、トルシエ監督にうまく利用されてる気がします。日韓戦の時に中田英寿が代表招集を拒否した。で、不穏な空気を当然察知しますよね、みんな。アジアカップにも来なかった。カズを呼ぶことで、それを払拭できるわけですよ。
客:活気が出てくるということですか?
金子:と言うか、岡田さんのカズの切り方が切り方だったので、カズのファンで岡田さんを許してない人って、すごく多いと思うんですよね。そういう人を味方に付けることができる。だからすごく政治的に使われているなという気がします。僕自身の考えとしては、'98年の時のカズは代表を外すべきだったと思うんです。と言うのはJリーグで点を取っていなかったから。今のカズ。あれだけ弱かった京都サンガで、あれだけ点を取っているわけですよ。だから'98年の時より、2001年の方が代表選手としてふさわしい存在になっているんじゃないかと思います。
客:トルシエは選手としてカズを見ていないような……。
金子:同感です。
客:もうひとつ代表強化の話を聞きたいんですが、中村俊輔選手もそんなにすぐにはスーパーな選手にはなれないという話と、監督もある程度仕方がないんじゃないかという話でしたから、代表を強化するには、チーム内でディスカッションができるようにメンバーを固めて、練習試合を多くしていくのもひとつの方法だと思うんですが、それについてはどう思いますか。
金子:特にディフェンスラインについては絶対に1年、2年前からそうしておくべきだったんじゃないかという気がします。攻撃というのはある程度、性格破綻者でもいいんですよ。やることやってくれれば。ディフェンスは人柄ですから。人柄と周囲との関連性。
馳:待ってよ……。
金子:これは時間をかけて構築していくしかないと思うんです。ところがディフェンスライン、フラット3というシステムはずいぶん広まりましたけど、じゃあそのフラット3を誰がやるのかと言うと今の段階でもまだ定まっていない。これは非常に不安です。
客:練習試合は今予定されている以上には組めないんですか。
馳:もういっぱい、いっぱいでしょう。日韓でワールドカップをやると決まった時から日本サッカー協会が精力的に動けばもっと試合ができたんですけど、今の時期からじゃ無理でしょう、スケジュール的に。
客:トルシエの中では、ある程度メンバーを固めることはありそうなんですか?
金子:ま、いつかはやるでしょうね。僕はそれでももう遅いと思うし。この時期までメンバーを固めていないチームを、協会がファンの声によって首を切れないという面はあるにせよ、だったら2002年のためにという名目で出場した'98年ワールドカップって何だったの? と思いますよね。
馳:何でもなかったんですよね、本当に。
金子:'98年のあの貴重な経験を持っている監督は、今、コンサドーレ札幌のためだけに能力を発揮しているわけです。そのコンサドーレを特集する国営放送で「経験を積んでいい監督になった」と言われちゃってるわけですよ。そんな人に'98年を任せたのか。まずこれが頭に来ますよね。で、'98年に出場した選手の一体何人が出るのか。'94年のアメリカ、非常に弱いチームでしたよ。'90年のアメリカ、もっと弱いチームでした。「もっと弱いチーム」から、「弱いチーム」にステップアップできた理由は、メンバーの成熟だと思っています。中心ラインは変わらなかったから。ゴールキーパーのトニー・メオラ、キャプテンのトーマス・デューリー。こういうのが今の日本にはないでしょう。日本の方がアメリカよりはるかに優れたサッカーのタレントを持っていることを祈るしかないですね。
客:金子さんは個人的に誰に期待しますか?
金子:顔が見えないですね、今。
馳:言い換えれば、誰にも期待できないんだろう?
金子:じゃ、ダニエル・パサレラが最初から顔が見えたかと言うと、そうじゃないと思うんです。トルシエになってから何人がキャプテンになったか、数えてみて下さい。日替わり、試合替わりでキャプテンを選んでいた。これじゃあ、俺はキャプテンだからという選手はなかなか出てこないですよ。キャプテンを任されることによって、キャプテンの顔になっていく面もある。もちろん時には、生まれながらのキャプテンもいますけど。今、学校教育を含めて、特別な存在を許さない国じゃないですか。だったら特別な存在が出現するのを待っていても期待薄ですよね。2002年、中田にキャプテンを任せるという腹積もりがあるなら、それでもいいんでしょう。でも、どうもそうは思えないんですよね。
客:なんか暗くなっちゃったんで……。
馳:この話をすると、暗くなるんだよ、とにかく。
客:去年の前半はトルシエはメディアでもバッシングされていたのが、急激にキリンカップ以降、サポーターも擁護派になっちゃった気がするんですけど、それだけ劇的に状況が変わった中で、五輪代表も含めて、そんなにいい試合、ワクワクする試合があったかと考えると、ないんですよ。おふたりはトルシエになってから、そういう試合があったかどうか。
金子:僕の答え、わかっているでしょう? 
馳:これは、俺もないんだけどさ、トルシエを擁護するわけじゃないんだけど、たとえばフランスワールドカップに行くために予選をやっていたらワクワクするじゃない、どんなにひどい監督であったとしても。でもトルシエの場合はそういう状況がないから。それはかわいそうだとは思うけど、まあ、ないよ。例えば日本サッカー協会がトルシエに、この試合は攻撃面のテストで2点以上取らなきゃダメだ、とか課題を出しているわけじゃないから。日本だけじゃなくヨーロッパでも南米でも、昔からの犬猿の仲で戦えば別だろうけど、どうしても親善試合というのは、ものすごくワクワクする試合は滅多にないわけだから仕方がないと思うけど。それをトルシエ個人の手腕に帰すわけにはいかないけど、僕はトルシエが監督になってからの日本代表で、ワクワクしたり、ドキドキした試合はないですよ。
客:それと金子さんにお願いなんですが、一度でいいですから、トルシエにインタビューをしてほしいんですけど。
(会場:拍手)
客:ネットの書き込みを見ていても、擁護派の人たちが金子さんについてどうこうというのはあるんですけど、そういう人たちを黙らせるというか、納得させるというか。
金子:この間、セルジオ越後さんがトルシエと対談をやったの、知ってます? それで僕の聞きたかったことがだいたいわかったんで、結構満足しちゃって、あまりやりたいという意欲が……。
馳:今、金子センセイ、お忙しいから。
(会場:爆笑)
金子:でもそうですね、考えておきます。

構成・文:CREW
撮影:橘蓮二

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