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ぴあトークバトル スポーツ快楽主義vol.75
「JAPAN WAY ~ラグビー日本代表 世界トップ10へ~」 前編
【 開催日/会場 】10月28日(日) 青山ベルコモンズ9F「クレイドルホール」
協力:(財)日本ラグビーフットボール協会

トップリーグ2012-2013が中断期間に入り、11月にヨーロッパ遠征を控えるラグビー日本代表。ヨーロッパ遠征へと旅立つ前のエディー・ジョーンズヘッドコーチをはじめ、キャプテンの廣瀬俊朗選手、大野均選手(東芝ブレイブルーパス)、山田章仁選手(パナソニック ワイルドナイツ)を招き、これからのラグビー日本代表の可能性、今回のヨーロッパ遠征のテーマなどを語っていただいた。エディー・ジョーンズヘッドコーチからの選手への質問などもあり、会場の笑いを誘ったトークバトルをお楽しみください。

<ホスト>
矢野武(スポーツ実況・ナレーター)
「PRIDE」、「K-1」、「ハッスル」等の格闘技をはじめ、プロレス、ラグビー等のスポーツ実況をつとめる。実況のみならず、ナレーションやキャスターとして多岐に渡って活躍している。TBS「炎の体育会TV」の実況担当を務める。

<ゲスト>
エディー・ジョーンズ(日本代表ヘッドコーチ)
1960年1月30日生まれ
オーストラリアタスマニア州バーニー出身のラグビー指導者。東海大学ラグビー部のコーチに就任するために、1996年に来日。同時に日本代表フォワードコーチも兼任。指導者としては日本が出発点となる。翌年より、各国のヘッドコーチ、コーチを経験し、2009年に再来日。サントリーサンゴリアスのGMに就任し、翌シーズンにはGM兼監督として日本選手権制覇。トップリーグ2011-2012優勝。日本選手権を連覇。2012年4月より日本代表ヘッドコーチに就任した。

廣瀬俊朗(東芝ブレイブルーパス)
1981年10月17日生まれ 173cm/80kg
2004年、東芝ブレイブルーパスに入団。2007年、日本代表に選出され、同年の香港戦で初キャップを得る。以後、日本代表からは遠ざかるが2012年に再選出。同年4月より日本代表ヘッドコーチに就任したエディー・ジョーンズからキャプテンに任命された。

大野均(東芝ブレイブルーパス)
1978年5月6日生まれ 192cm/102kg
2001年、東芝ブレイブルーパスに入団。ラグビーを始めたのは大学時代からという経歴の持ち主。闘志溢れるプレースタイルに恵まれた体格を武器に、スピードも兼ね備えるプレイヤー。2007年、2011年のワールドカップに出場。相性は「キンチャン」。

山田章仁(パナソニック ワイルドナイツ)
1985年7月26日生まれ 181cm/85kg
2010年に三洋電機ワイルドイナイツ(現パナソニック ワイルドナイツ)に入団。トップリーグ2012-13では開幕7戦連続トライの新記録を達成した。11月に行われた日本代表の欧州遠征メンバーに選出された。アメリカンフットボール・Xリーグ、ノジマ相模原ライズのメンバーとしても出場している。


前編

司会:「ぴあトークバトル・スポーツ快楽主義vol.75 JAPAN WAY ~ラグビー日本代表 世界トップ10へ~」。皆さん、こんばんは。ラグビースタジアムアナウンサーのパトリック・ユウです。会場に詰めかけていただいたラグビーファンの皆さん、どうもありがとうございます。そしてUstreamでご覧いただいている皆さんもぜひ、最後まで楽しんでいただきたいと思います。では、早速スタートしていきたいと思います。本日のホスト役はラグビー実況でおなじみの矢野武さんです。どうぞ!
会場:拍手
矢野:皆さん、ようこそ「ぴあトークバトル」へお越しいただきました。私、スポーツ専門チャンネル「JSPORTS」のラグビー実況を担当しております、矢野武と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。
会場:拍手
司会:矢野さんとこうやってイベントでしゃべれるのは久しぶりですね。
矢野:そうですね。
司会:いつもは矢野さんが実況で、僕は場内アナウンスをやっているんですが、こうやってイベントでしゃべれるのも新鮮で。
矢野:もっとやってほしいですね。
司会:昨日、見事に小野澤(宏時、サントリーサンゴリアス)選手が100トライして(10月27日、トップリーグ・サントリーサンゴリアス対福岡サニックスブルース戦)。
矢野:九州の地でのトライでしたけれども。なかなかトライが生まれなくて。
司会:後半にね。
矢野:最後の最後で。
司会:中央へのきれいなトライでした。トップリーグブレイクに入る前に決めていただいて良かったですよね。
矢野:確かにそうですね。トップリーグが始まった2003年の9月13日、最初のゲームでトップリーグ初トライを取ったのが小野澤選手。
司会:そうなんですか。
矢野:歴史は小野澤宏時から始まって。ようやく100トライを決めたという昨日でしたね。
司会:小野澤選手、再び日本代表入り。合宿もスタートしました。日本代表としても頑張ってほしいですね。トップリーグはいったん中断しまして、日本代表はヨーロッパ遠征があります。11月10日にルーマニア戦、17日にグルジア戦とふたつのテストマッチ。その他にも試合があって、けっこうハードなスケジュールなんですよね。
矢野:15日間で4試合戦います。ワールドカップのスケジュールに近いんですよね。そのシミュレートの意味もあるんじゃないでしょうか。
司会:ワールドカップと言えば2019年、日本での開催が決まりました。決まってから2年が経ちました。早いような気がしますが、あと7年。ラグビーのワールドカップはどんな大会なのか、矢野さんから教えていただけますか。
矢野:会場にお越しの皆さんはもちろんご存知だと思います。1987年にニュージーランドで第1回大会。日本代表はそれから過去7大会、ずっと出場しているんですが、実はまだ1勝しかできていない。そこでエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチに声が掛かった。手を挙げてくれたということですね。
司会:前回もホントに惜しい試合があって。海外の人たちからも、日本の戦う勇姿に声援があったりして。すごく盛り上がりました。残念ながら僕はワールドカップを体験していないんですけど、矢野さんは3大会ほど?
矢野:オーストラリア大会から2003、2007、そして去年のニュージーランドの2011年大会と行きました。
司会:ワールドカップってどんな雰囲気ですか?
矢野:2019年に日本で行われるわけですよね。皆様が日本でホスト役として受け入れなきゃいけないんですけど、海外に行くとみんな、パブや酒場で「今日のラグビーのゲームはどうだった?」という話をしてきます。その話題があるだけで、英語がわからなくても話をできるんです。「今日、ジャパンは良かったな。特に11番」と話しかけてくるので、世界とつながれるんですよね。ラグビーさえ知っていれば、英語がわからなくても。そんな人たちが海外から日本にたくさんやってきます。
司会:要はサッカーの2002年ワールドカップ日韓大会のような盛り上がりという感じなんでしょうか?
矢野:あの時はテレビでもいろんなニュースをやって、みんながサッカーのワールドカップがあるのを知っていたけれども、2019年のラグビーワールドカップの時に「なんでこんなに外国の人が多いの?」となってしまうと、「日本のラグビーの受け入れ方はどうなんだよ!」となってしまう可能性もあるので。皆さんぜひ、2019年にワールドカップがあることを友だちに広めていただきたいと思います。
司会:我々も準備していかないといけないことも多々あると思います。でも、普及活動も2019年に向けて行われているんですよね。
矢野:そうですね。先ほど音楽がかかっていましたよね。「タグ・タグ・タグ・タグ・タグラグビー♪」って、こういう踊りがあって。
会場:笑い
司会:思い切り笑っていますけど。皆さん、この曲を聴くと笑顔になりませんか?
矢野:無理矢理言わせていますね。子どもたちに向けた歌なんですよね。子どもたちが2019年に向けてラグビーを受け入れる、ラグビーに慣れ親しんでもらおうということで、あの音楽ができました。
司会:振り付けもあって。
矢野:「みんなでトライ!」っていう曲です。
司会:その世代が2019年には、ひょっとして代表に入るなんてことも?
矢野:うーん……たぶんまだ、早いかな。
司会:そっか、足りないか。
矢野:でも、子どもたちがワールドカップを生で見ることにすごく意味があるんですよね。あの大会を生で見て、「よし、将来ラグビーをやろう。ワールドカップに出よう」と思うためにも意味があると思います。
司会:2019年まであと7年です。2年前に決まった時は「あと9年、まだあるな」と思ったんですが、この2年は早かったですね。しっかり準備をしていきたいと思います。
矢野:そうですね。
司会:2019年、日本で開催されるワールドカップも楽しみなんですけど、その前の2015年ですよね。予選もちょっと厳しくなるんですよね?
矢野:本大会出場はほぼ間違いないと思います。2019年でベスト8、プレーオフに進むために、2015年はトップ10に入ろうというのが今回のタイトルですよね。そこでエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ。
司会:エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチに登場していただく前に、どういう方なのかを紹介させていただきたいと思います。1960年1月30日生まれ、現在52歳です。オーストラリアのタスマニア州バーニー出身。皆さん、現役時代のポジションはご存知ですか? フッカーです。オーストラリアのフッカーには大きな方が多いんですけど、エディーさんは割と小柄なんです。でも、機敏な動きで活躍されて。ニューサウスウェールズ州代表に選ばれたんですけど、オーストラリア代表には選ばれなかったんですよね。シドニー大学で体育学を専攻し、大学卒業後は教員となり、高校で体育を教えます。そして何と、プロラグビーコーチになる前にはオーストラリアの高校で学長を務めていました。校長先生をやっていたんですね。1995年に東海大学のラグビーフットボール部の青森合宿に参加するために初来日します。これはすごいですね。学長から、ラグビーのコーチですから、それも日本の。
矢野:そうですね。しかもプロのコーチを務めたのは、東海大学のコーチが初めて。日本がプロコーチとしてのスタートだったんですよね。
司会:エディーさんにとって、日本は本当にゆかりがあるんですね。その後は日本代表のフォワードコーチに就任します。97年の4月にはサントリーサンゴリアスのフォワードコーチに就任するも、スーパーラグビー・ACTブランビーズにヘッドコーチとして移籍。2001年シーズンにはスーパー12ファイナルで初タイトルを獲得。オーストラリアのラグビーチームとして初となるリーグ制覇を達成します。2001年にノンキャップながらラグビーオーストラリア代表のヘッドコーチに就任するんですね。この頃に代表キャプテンにジョージ・グレーガンを指名したということです。そして2003年、ラグビーワールドカップではワラビーズを決勝の延長まで進めるも、イングランド代表に17対20で敗北。準優勝です。この時は矢野さん、ご覧になっていました?
矢野:現場で。延長までもつれ込んで、最後はジョニー・ウィルキンソンのドロップゴール。
司会:2007年、ラグビー南アフリカ共和国代表アドバイザーに就任し、2007年ラグビーワールドカップでチームの優勝に貢献します。その後、サラセンズのヘッドコーチを経て、サントリーサンゴリアスのGMに。2010~2011年シーズン、サントリーサンゴリアスのGM兼監督として日本選手権優勝。2010~2011年シーズンにはトップリーグ、日本選手権を優勝して2冠達成し、外国人指導者としては初となるリーグ制覇を達成。そして今年の春、2012年4月にラグビー日本代表ヘッドコーチに就任しました。それでは本人にご登場いただきましょう。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチです。皆さん、大きな拍手でお迎えください!
会場:拍手
矢野:改めて、ラグビー日本代表、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチです。そして、通訳をお願いします中澤ジュリアさんです。まずはエディーさん、昨日トップリーグのゲームが終わったばかりで、今日いきなり練習があったという話を聞きました。選手たちの表情はいかがだったでしょうか?
エディー:すごく疲れているような選手も見受けられました。昨日負けて残念そうな選手もいましたし、勝ってうれしそうな選手もいたんですが、これから行われるヨーロッパツアーに関してみんな、楽しみな気持ちでいっぱいな雰囲気が伝わってきました。
矢野:これから始まるヨーロッパツアーに向けて、ファンの人たちがいろいろ聞いてみたいことがあると思います。まずはヨーロッパ遠征を前にして今、ジャパンはどういう状態ですか?
エディー:今回は一番強い布陣でチーム構成をしています。最初にテストマッチがふたつあって、その後にバスク選抜、フレンチバーバリアンズと試合をします。非常に激しい、ハードな時間になっていくと思いますが、選手たちはいい経験をして、いい結果を持って帰ってきてくれると思います。
矢野:それではお掛けいただいて、じっくりお話を伺っていきましょう。
司会:矢野さん、それでは僕はここで失礼します。皆さん、写真撮影はいったんここまでとさせていきます。ラストショット、いいですか? あと5秒だけいいですよ!
矢野:5、4、3、2、1。どうもありがとうございました。
司会:またエンディングの方で写真を撮れる時間を設けていますので、よろしくお願いします。
矢野:パトリック・ユウさん、どうもありがとうございました!
会場:拍手
矢野:さあでは、エディーさんと呼ばせていただいてもよろしいですか。
エディー:OKです。
矢野:エディーさん、日本でプロのコーチをスタートさせたという話がありました。お母様も日本とのハーフの方なんですか?
エディー:母は日本人です。広島出身です。
矢野:奥様も日本の方?
エディー:はい。妻は群馬の人なので、すごくタフな女性です。
会場:笑い
矢野:群馬の女性はそう言われていますよね。どこの出身ですか?
エディー:中之条です。
矢野:小渕恵三元総理を生んでいる土地です。
エディー:その通りです。
矢野:奥様も先生だったんですよね?
エディー:明治大学出身で、その時はドイツ語の先生もやっていました。それからオーストラリアに行って、日本語を教える先生をやっていました。
矢野:とても日本との関わりが深くて、そういうことも日本代表を引き受けるベースにあったんでしょうか?
エディー:最初は96年に東海大学を率いました。そして日本代表のフォワードコーチを任されるようになりました。当時は山本(巌)さんとブレン・エラと一緒に仕事をしていました。そして台北で試合に勝つことができました。当初から、いつか日本に戻ってきてコーチをしたいと思っていました。日本のチームには本当にポテンシャルに優れた選手がいっぱいいると感じていたので、その後にサントリーのチームを率いることができたこと、そして日本代表の仕事をいただけたことを本当に光栄に思っています。
矢野:ワールドカップで優勝を狙えるような国からオファーもあったと思いますが、日本代表のヘッドコーチに名乗りを上げてもらいました。これから日本の可能性について話を聞いていきたいと思います。
エディー:本当に大きな可能性を秘めていると思います。でも、私たちの目標は簡単には成し遂げることはできないと思います。日本は過去20年間、ワールドカップで1回しか勝っていないんです。U20のチームは2部にいて、セブンズのチームもなかなか勝てていない。でも、そういったなかでもトップリーグ、大学、高校に素晴らしいリーグが存在しています。その中で切磋琢磨していける。そうして可能性を引き出していくことができると思います。
矢野:以前、エディーさんが話していたことで印象的だったものがあります。「日本の選手はとても一生懸命で、勤勉で、覚えるのが早い。でも、忘れてしまうことも早い」とおっしゃっていました。日本人の特性という意味で、社会の仕事にも関わってくることだと思います。
エディー:日本の今のラグビーが上手くいっていないのは、先ほどおっしゃったこともあります。日本のラグビーというのは、最後の20分の本当の勝負どころでプレッシャーを感じてしまって、判断できないのが今の状況だと思います。そこの部分でフィットネス、スキルを上げることによって、最後の最後にプレッシャーの掛かったなかで本当に判断できるようになる。そうすると、最後まで勝ち得るチームになっていけると可能性を感じています。
矢野:去年まで日本のリコーブラックラムズでプレーしていたイングランド代表のジェームス・ハスケル選手。その後にすぐ、スーパーラグビーという南半球のプロリーグに行って、自国のイングランドに戻った彼が日本のラグビーについてこう話していました。「とても勤勉で、会社のビジネスマンとしてはこの性格はいいんだろう。でも、ラグビーになると、型にはまりすぎているんじゃないか。もっと自由に考える発想も必要かもしれないね」と、日記のようなものを残していました。どう思いますか?
エディー:ハスケルはまだ、日本でさほどいいプレーをしていないと思うので、日本人や日本のラグビーについてそこまで言えるかわかりませんが。
会場:笑い
エディー:次に会ったらそう言っておきます。
会場:笑い
エディー:ただ、ある意味であっているかもしれませんね。ラグビーは常に判断しなければいけないスポーツです。私たちがやっているラグビーでは1試合にラックが100~150回あります。ラックに入る度に判断しなければならない。ラックに入っていない選手も判断しなければならない。日本の伝統ではフィールドポジションにのっとったプレーをしています。例えば自陣の22mでボールを得たら、タッチに出す。22~50mはハイパント、敵陣の半分~22mまではそこでプレーして、敵陣の22mになったらパスがなくてモール、キック&ゴー。そういう伝統がまだありますよね。そこでディフェンスラインを見て判断できる選手、周りを見て弱いエリアを突いていける選手、アタックできる選手を育てていかないといけない。ひとついい例があります。ジャパンが以前、フレンチバーバリアンズと試合をした時のことです。本当に強い相手で、その時のジャパンにとっては強すぎたかもしれません。ハーフタイムの前に、ジャパンのゴールポストの前でペナルティをもらったんですね。それでクイック・タップから筑波大学のウイング、竹中(祥)にボールがいきました。そこから90m走ってトライを取りました。こういう勇気をこれからも持っていきたいです。世界のトップ10に入ろうと思ったら、勇気を持ってやらないといけない。そして他とは違うラグビーをやらないといけない。オーソドックスなラグビーをやっていても、これから勝つことは難しいと思います。
矢野:そういう意味では大きくて強い海外をまねるのではなく、日本人の武器を使ったチームにしようとしていると思います。具体的に言うと、目指しているチームはどういうものなのでしょうか?
エディー:例えば、サッカーのスペインのチームが使っている言葉があります。それを用いたいと思います。スペイン代表やFCバルセロナを見ると、そんなに大きな選手はいないですよね。でもスキルがあって、速くボールを動かせる人がいる。チームとして相手よりも6倍のパスを通せる力を持っていると思います。スペイン代表はここ最近の2大会(2010年ワールドカップ、EURO2012)を優勝したのですが、“ティキタカ”と言われるサッカーをしています。“ティキタカ”というのはいつもボールが動いているサッカー。私たちが今後目指すのは、そのようなラグビーです。6月にサモアと試合をしたんですが、フォワードに関してはサモアよりも体重がひとり当たりで11kg少なかったんです。バックスはひとり当たり8kg少なかった。お肉の塊が目の前にあるような状況ですよね。日本とは違う店でお肉を買っているんだと思います。そういう相手に勝つには、ボールを動かしていく必要があるんですね。あの試合では190本のパスを回しました。サモアは65回のパスでした。でも、今の我々のフォワードはなかなかパスができない。今後、日本のラグビーが前に進むためには、フォワードにパスのできる人が必要です。
矢野:そういった意味で象徴的な選手、こういう人が増えてほしいというのはいますか?
エディー:日本人選手は全員がよくやってくれていますが、そのなかでも一番良くやってくれているのは前キャプテンの菊谷(崇)です。彼を見ていると、日本人には可能性があるとすごく感じます。菊谷は最初のスコッドに入りませんでした。フィットネスが高くなかったので。バークレーとの試合のなかでは高くなかった。でも、スキルに関しては素晴らしいものを持っています。彼はそれをすべて自分の武器にして、トップリーグの中でベスト選手のひとりになりました。ここからの3年間が彼のベストのラグビーをやる時間になると思います。ああいう選手がもっと欲しいです。皆さんもご存知のスーパー15ラグビーをこれからやります。日本でラグビーをプレーしている子どもたちが、「僕もスーパー15に行きたいな」と夢を持てますよね。野球をしている子どもたちが将来、メジャーリーグでやりたいと思っていますよね? サッカーの場合はマンチェスター・ユナイテッドの香川(真司)選手みたいになりたいと思っています。ラグビー選手も今、夢を持てるようになったと思います。今はラグビーを変えていく段階にいると思います。
矢野:トップリーグのゲームを見ていても、サントリーだとジョージ・スミス、神戸製鋼だとジャック・フーリーと、ひとりでゲームのきっかけを作れる選手がいます。ジャパンにもそういう選手が増えてこないと、ということでしょうか?
エディー:100%、そうです。ジョージ・スミスは日本人選手のいいお手本です。彼は100kgしかないんですね。でも、スキルがあります。フィットネスも高いです。そして毎試合、「これが人生最後の試合だ」とプレーしています。ああいう選手を作っていきたいですね。ただ、そういう存在の選手はいるのですが、菊谷のように才能を発揮できる環境を提供しなければいけません。スーパー15でプレーできるに相応しい選手を、これから5?7人作っていくことが必要です。
矢野:それが2015年ワールドカップイングランド大会までの課題になっていきますか?
エディー:100%、そうです。世界のチームをいろいろ見ていて、日本がお手本とするチームがひとつだけあります。アルゼンチンです。1999年のワールドカップから2007年のワールドカップまで、3大会でほとんど選手を変えずにチームを築き上げてきました。ほとんどのアルゼンチンの選手が世界でプレーしています。ハイレベルなところでプレーしています。その結果、世界のトップ10に入りました。彼らは12年掛けてやりました。私たちはアルゼンチンがやったことを3年で成し遂げなければいけないんです。先ほども申し上げたように、選手のポテンシャルはものすごく高い。世界のベストになりたいという大志を抱く選手を発掘して、成長させていかなければいけないんです。早稲田や明治のベストではなく、トヨタ、東芝、サントリーのベストではなく、本当に世界に向けての大志を持った選手を構築しなければならないんです。
矢野:これからそういう選手が出てくることを期待しています。エディーさんがヘッドコーチを引き受けてから2015年を頂点とすると、今の段階ではどの位置にいるんでしょう?
エディー:難しい質問ですね。2015年に世界のトップ10に入ろうと思ったら、7点満点中5点を取る選手が多くいないといけない。例えば、オールブラックスは7点満点の選手が揃っていますが、今のジャパンは2点の選手ばかり。来年に3点、2014年には4点、2015年には5点。それを成し遂げるためには1日、1分を無駄にできない。すべてが意味をなすことでなければいけないんです。選手たちは昨日トップリーグを終えて、本当にタフな状況でここに来てもらったんですね。でも、1日も無駄にできない。1分、1秒たりともです。ワールドカップに向けて日にちがないんです。
矢野:この後、日本代表の選手も紹介しますが、エディーさんは日本のことをとても勉強されて、文化もご存知で。スポーツのこともよくご存知なんですね。控え室で話していたら、日本の野球にも詳しいという話をされていました。他のスポーツも見たりするんですか? 日本のマスコミは野球、サッカーが中心ですが、どのようにご覧になっていますか?
エディー:私はクリケットが大好きなんですが、あまり日本では見られないですね。6週間前、YC&ACのグラウンドで日本代表を相手にクリケットのプレーをしました。今の日本のクリケットチームは、世界ランキングが48位です。私はバッターのような形では0ランだったんですけど、キャッチもドロップして。そういう結果だったので、クリケットを引退しようと思いました。
会場:笑い
エディー:というか、クリケットが私を必要ないとして引退させたのかと思います。
矢野:では、いい結果を残していたら、そっちの道を残した可能性も?
エディー:笑い
矢野:そろそろ日本代表の選手もお呼びしたいんですが、準備もあるので少し立ってもらっていいですか? エディーさん、今日からヨーロッパ遠征に向けて合宿がスタートしました。選手たちに第一声でどんなことを伝えたんでしょうか?
エディー:世界のトップ10になるための第一歩と言いました。テストマッチはルーマニアとグルジアと2試合あります。ほとんどスクラムとモールに集中したチームですよね。まずはセットピースを確実にやれるようにと伝えました。そして私たちのアタックスタイルにも追加を加えたので、その点も伝えました。
矢野:お話に出ましたように対戦相手はスクラムがとても強くて、フランスのトップ14にも1列を送り出しているようなグルジアもいます。日本代表が平島(久照、神戸製鋼コベルコスティーラーズ)、長江(有祐、リコーブラックラムズ)、畠山(健介、サントリーサンゴリアス)、山下(裕史、神戸製鋼コベルコスティーラーズ)、浅原(拓真、東芝ブレイブルーパス)、5人ですね。
エディー:でも、1度にふたりしか使えないんですね。
会場:笑い
矢野:今回のスクラムのテーマはどのように考えているんですか?
エディー:日本人らしいスクラムということで、低いスクラム。マイボールの場合は早くボールを出す。相手ボールの時にも本当に低く、8人一体でスクラムを組むことです。フォワードコーチの薫田(真広)さんは本当に良く仕事をやってくれています。
矢野:薫田コーチも同じフッカー出身ですよね。お酒を酌み交わしながら、日本の将来のことを話し合われているのでしょうか?
エディー:いつも日本の未来について話し合っています。皆さんがご存知のように素晴らしい日本代表の選手でありましたし、素晴らしい監督として東芝を率いました。今は日本のスクラムを率いる方として活躍していただける人です。
矢野:ヨーロッパ遠征についてもうひとつ伺わせてください。バスク選抜とのゲーム、フレンチバーバリアンズとのゲームも含めて、15日間で4試合を戦うスケジュールです。これはあえてですか?
エディー:はい。そういう形で組みました。ワールドカップと同じような日程を今後の3年間は続けなければいけないからです。毎年11月にヨーロッパに行く、もしくは2週間ほどに4試合をやることを続けていきたいと思います。ワールドカップもそういう日程で組まれているので、やらなければいけないことです。
矢野:それではお待たせしました。選手にひとりずつ登場していただきます。せっかくですので、エディーさんに「この選手はこんなヤツなんだよ」と呼び込んでいただきたいと思います。エディーさん、この人はどんな方ですか?
エディー:すごくおもしろい髪型をしている人です。
会場:笑い
エディー:変わったスパイクや靴を履いていまして。ただ、トライを取る方法は知っているようです。
会場:笑い
エディー:今日は黒で短い髪型です。ツアーでもたくさんトライを取ってくれることを期待する選手です。山田君、前にどうぞ!
会場:拍手
矢野:山田選手、登場していただいていきなりですが、今回はUstreamで全国、全世界で見られます。靴の話があったので、足を上げていただけますか?
山田:はい、これです!
矢野:ド派手な靴を履いてきていただきました。山田選手、まずはジャパンに呼ばれました気持ちを教えてください。
山田:うれしく思っています。
矢野:初日に顔を合わせた時、どんな気持ち、どんな雰囲気でしたか?
山田:チームのビジョンが明確で、すごく強いチームになる雰囲気が漂っていました。
矢野:好調ですね。
山田:ありがとうございます。
矢野:昨日は?
山田:昨日は……トライはゼロです。
会場:笑い
山田:すいません。
矢野:ちなみに今、エディーさんが髪型の話をしていました。
山田:髪型はすごく……大丈夫です。
会場:笑い
矢野:「大丈夫です」というのもわからないんですけど。また変える予定は?
山田:合宿がタイトすぎて、切る暇がありません。
矢野:山田選手がまた奇抜な髪型にしたら、「あれ? 暇じゃねえの、最近?」と思っていただいても?
山田:はい、そうです。
矢野:すいません、失礼しました。
矢野:続いてエディーさん、この人はどんな選手でしょう?
エディー:日本で一番タフな選手です。チームでプレーする時にも100%尽くしています。ジャパンでプレーする時も、いつも100%出し切っています。ツアーであと2キャップ取れば、日本で歴代キャップ数第3位になれます。日本人のフォワードに、常にインスピレーションをかき立ててくれる人です。キンちゃん、どうぞ!
矢野:大きな拍手でお迎えください。大野均選手です。後輩からもキンちゃんでおなじみです。
会場:拍手
矢野:大野選手、またジャパンのシーズンが始まりましたね。
大野:そうですね。すごく楽しみにしていました。
矢野:どんな気持ちで臨むものですか。昨日、ゲームが終わったばかりです。結果は伺いませんが。
会場:笑い
大野:昨日の結果どうこうよりも、合宿の初日はいつも憂鬱なものですね。
会場:笑い
矢野:憂鬱なんですか?
大野:楽しみでもあるんですけど、新しい選手がいることもあって。意外と人見知りなので。
会場:笑い
矢野:意外と人見知りなんですか。間にアルコールがあると、すぐにフレンドリーになれそうな気もしますが。さあ、続いて最後の選手をエディーさん、お願いします。
エディー:いろんなポジションで良い活躍をしてくれる人です。日本のラグビー選手のなかで、一番賢い人じゃないでしょうか? すごくいい大学(慶応大学)から来ています。
会場:笑い
エディー:ひょっとしたら10年後にはこの選手がこの大学の監督になるのではないでしょうか。キャプテンの廣瀬選手、前にお願いします。
会場:笑い
矢野:日本代表のキャプテン、廣瀬俊朗選手です。
会場:拍手
矢野:キャプテン、エディー・ジョーンズの紹介をどう聞いていましたか?
廣瀬:紹介ですか?
矢野:聞いていなかったんですか?
廣瀬:ちゃんと聞いていましたよ。名門大学ですよね。
会場:笑い
矢野:その時に異常に拍手している人が今日、いるんですよね。
廣瀬:OBの方? あっ、隣にいる後輩(山田章仁)ですね。
矢野:廣瀬さん、いよいよ始まりました。今日はどんな気持ちで最初の練習に臨んだのでしょうか?
廣瀬:このヨーロッパツアーはすごく楽しみだったので。みんなの顔を見て、ホントに「いよいよだな」という気がしてきました。どんなラグビーができるのかを楽しみにしています。
矢野:それでは私のお隣から山田章仁選手、大野均選手、廣瀬俊朗キャプテンをお迎えしてお話を伺っていきます。どうぞよろしくお願いします!
会場:拍手
矢野:では早速、キャプテンから伺っていきましょう。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ率いる日本代表、ひと言で言うとどういうチームですか?
廣瀬:ひと言で言うとですか?
矢野:ひと言じゃなくてもいいです。たっぷり話してもらってもいいです。
会場:笑い
廣瀬:日本人の可能性をすごく見いだしてくれて、僕たちもできるんだというところがすごくうれしくて。その生き甲斐を持ってやっているチームだと思います。
矢野:キャプテンに指名されました。ここ半年くらいで、ご自分は変わりました?
廣瀬:変わりましたね。体も変わりましたし、考え方も変わりました。すべてがいい方向に向かっていると思います。
矢野:今日の合宿初日、キャプテンとして何と言ったんですか? 具体的に教えてください。
廣瀬:実はまだ、何もしゃべってないんです。
会場:笑い
矢野:そうなんですか?
廣瀬:今日はコーチからの提示があったので、キャプテンがという感じではなかったです。でも、明日以降は。
矢野:合宿地からやって来ていただいて、このイベントが終わったらすぐに戻るんですよね?
廣瀬:今日ですか? はい、そうです。
矢野:申し訳ございません、大変な時に。
廣瀬:全然。
矢野:大野選手、今のチームの雰囲気はどうですか? 新しい選手が加わったという話もありましたが、今回のジャパンをどう見ていますか?
大野:春から一緒にやっている選手も多くて。今年、エディーさんの作ったジャパンに入って、自分自身も春からすごくワクワクしていて。そういう気持ちは今も変わりません。このメンバーで、ヨーロッパ遠征に行けるのは本当にうれしいです。
矢野:何かと比べてという意味ではないですが、今までに2度、ワールドカップに出場されていますよね。メンバーを含めて、いろんな日本代表を見ていると思います。エディー・ジャパンはメンバーも含めて、どういう個性があるんですか?
大野:全員がこのチームできつい練習をして勝ちたい、という気持ちが常にグラウンド内外で感じられるところですね。
矢野:ひとつ質問ですが、なんでそんなに声が枯れているんですか?
会場:笑い
大野:昨日、試合前に泊まったホテルが乾燥していて。
会場:笑い
大野:これが負けた原因ではないですけど。
会場:笑い
矢野:エディーさん、コンディショニングはちゃんとしていただかないとね?
エディー:府中で何かあったんじゃないですか?
会場:笑い
矢野:この辺でやめておきましょうか。そして、山田選手。遂にきたなという感じですよね?
山田:前回はこういうイベントに、日本代表のジャージに袖を通す前に呼んでいただいて、通せなかったので、今日はノーコメントでお願いします。
会場:笑い
矢野:トークショーに登場していただいて、ノーコメントと言われても。
山田:冗談です!
会場:笑い
山田:すごく素晴らしいチームだなという雰囲気が伝わってくるので、1日でも早く皆さんと一緒にプレーして、みんなにいいプレーを見せたいなと思います。
矢野:山田選手にとって、ジャパン、特に桜のジャージに指をかけながら、なかなかというところでした。日本代表というのはどういうものなんですか、山田章仁にとって。
山田:これまで生きてきた中で、こんなにも手にしたくて、がむしゃらに追いかけたものはあまりなく。袖を通すまで、みんなで試合をできるまで、必死に頑張っていきたいと思います。
矢野:今の山田選手のコメントを聞いて、廣瀬選手、どういう後輩ですか?
廣瀬:すごくキャラクターがいいですよね。明るいし。あまりチームの空気を考えずにやってくれそうなところも楽しみにしています。
会場:笑い
廣瀬:辛い時に、前向きに持っていってくれるんじゃないかなという、特別な人だと思います。
矢野:新しい期待のされ方を?
山田:はい。おふたり、監督と偉大な方ばかりですので、僕は自由にやっていきたいと思います。
会場:笑い
矢野:宣言しましたね。
山田:はい。

→後編へ
[GUEST] エディー・ジョーンズ (ラグビー日本代表ヘッドコーチ)
[GUEST]
エディー・ジョーンズ
(ラグビー日本代表ヘッドコーチ)

[GUEST] 廣瀬俊朗/ラグビー日本代表キャプテン (東芝ブレイブルーパス)
[GUEST]
廣瀬俊朗
ラグビー日本代表キャプテン
(東芝ブレイブルーパス)

[GUEST] 大野均 (東芝ブレイブルーパス)
[GUEST]
大野均
(東芝ブレイブルーパス)

[GUEST] 山田章仁 (パナソニック ワイルドナイツ)
[GUEST]
山田章仁
(パナソニック ワイルドナイツ)