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@ぴあ/HOTスポーツ人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。3月18日に行われたイベントの模様を、そのままお届けします。
 vol.9 前編
 SUPPORTED BY Honda

「どうなる! 2001年プロ野球」(前編)

出演者プロフィール
ホスト:青島健太(スポーツライター・右)
'58年、新潟県生まれ。慶応大、東芝で強打の大型三塁手として活躍し、'85年にヤクルトスワローズに入団。'89年退団後、スポーツライターに転身。現在は、スポーツライター、キャスターとして、テレビ、ラジオ、雑誌等で活躍している。
ゲスト:金子達仁(スポーツライター・左)
 '66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターとなり、スペインに移住。「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などベストセラーを生み出した。今、日本で最も売れ、最も刺激的なスポーツ・ノンフィクション作家。
 二宮清純(スポーツライター・中央)
 '60年、愛媛県生まれ。スポーツライターの第一人者として、新聞、雑誌、テレビ等を舞台に幅広く活躍中。主な著書に、「Do or Die」(KSS出版)、「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)がある。

青島:今日は計画的にニューヨーク・メッツのトレーナーを着て参りました。
会場:新庄! 新庄!
青島:いきなりいい感じですね。やっぱりこれから入らなきゃいけないでしょ。ではまず、新庄から行きましょうか。がんばってますよね。3割7分5厘(オープン戦打率、3月5日現在)。前に金子さんはクソカスに言ってたよね。
金子:だって、阪神はどうなるのって話はありますよ、僕には。
青島:阪神から出て行ったので気分悪くしてんだ。
金子:僕が新庄君の立場だったら、そりゃ行くでしょうけどね。
青島:でもさ、阪神もやってるじゃん、結構。
金子:でもほら、オープン戦じゃないすか。
青島:オープン戦でもさ、ダメだったらなかなかダメだよ。それでは、皆さんに聞いてみましょうね。新庄選手がこのままの勢いで、レギュラーを取って、ブイブイ言わすんじゃないかと期待していらっしゃる方、拍手をお願いします。
金子:一生懸命手を叩いている人が少し。シカトしている人がほとんど、ということで音は大きいけれど、一生懸命叩いている人が普通に叩いたら、ホントにパチパチって感じの拍手ですよね。
青島:それじゃ逆やってみようか。新庄もここまではよく頑張ってるけど、こんなもんじゃないすかと思ってる方?
二宮:やっぱ多いよ。
青島:二宮さんはどう思いますか。
二宮:新庄はね、よくわかんないんですけど。この前まではどっちかって言うと心配してたんですよ。トム・グラビン(アトランタ・ブレーブス)と対戦したじゃないですか。
青島:はい。
二宮:あのスクリューボールですよ、メジャーリーグの中でも一番難易度の高いボール。毎年、20勝近くするピッチャーのボールを公式戦でもひょっとして新庄が打ったら、初めてカージナルスを見て(1968年)以来のメジャー神話が、すべて失われると思うね。
(会場:爆笑)
二宮:何がどうなるんやろって。考え方全体を改めなければいけなくなるでしょう。
金子:でも、ちょっと心配だったでしょ?
二宮:ちょっと心配だった。新庄だから。
金子:佐々木主浩(元横浜ベイスターズ、シアトル・マリナーズ)のフォークも打ったからね。
青島:あったね。横浜スタジアムで。
二宮:新庄の怖さっていうのは、何考えてるかわからないところなんですよ。ないから、理論とか、傾向が。ないヤツって怖いのよ。何してくるかわからないから。新庄がバット持って立つということ自体が、怖いよ。何狙ってるかわかんないんだもん。ピッチャーは「コイツ一体何者だ」って。新庄は宇宙人ってよく言うけれども、怖いと思うよ。江夏さん(豊、野球評論家)が言ってたもん、「新庄にはワシャ投げられへん」って。「考えてないもんに対しては、野球は成立せん」って言ってたからね。
金子:なるほどね。
二宮:阪神で2年前、ノムさん(野村克也監督)が新庄にピッチャーやらせた時、「何でピッチャーやらせるんですか」って聞いたら、「ホントはキャッチャーやらせたかった」って。でも、キャッチャーはケガするかもしれないから。「ピッチャーやらせることによって、野球にも配球があるということを教えたかった」って。
(会場:爆笑)
二宮:野球に配球があるということを、彼はわかってない選手なんです。それがアメリカに行っちゃったわけですよ、世界最高峰の。新庄をフィルターにして、メジャーを見るというのはすごく恐ろしいよ。野球ってスポーツの見方が変わるんじゃないかと思うよ。
金子:イチロー選手はもっと怖いでしょうね。
二宮:イチローはね、やっぱり新庄のことが怖いと思うよ。
金子:ねえ。
二宮:こんなもんに活躍されてしまったらって。
金子:すべて理詰めと才能でここまで高めてきたイチローからすると、新庄はいきなり丁半博打してるようなもんでしょ。
二宮:別の例えなら、犬と一緒に外国へ行ったら犬の方が先に英語しゃべったりするとか。
金子:こんなコメントがあっていいのかあ。皆さんには見えないでしょうけど、すごいんですよ汗、二宮さん。体張って今日はコメントしてますからね。
二宮:もう、お客さんのために。
青島:でも、イチロー選手と新庄選手はホント、ものの見事に対照的なタイプですよね。
二宮:怖いのはね、メッツの外野手がたいしたことないんですよ。ペイトンとアクバヤーニ、それと広島にいたペレスでしょ。新庄がレギュラー取る可能性もあるのよ。
青島:シェフィールド(ロサンゼルス・ドジャース)を取れなくなっちゃったしね。
二宮:そうそう、あれで取っちゃったわけだから、新庄を。
青島:僕はちょっとは新庄を擁護するって言うか、評価してるんだけどね。
二宮:評価してるよ。人間にとって一番大切な才能があるっていう点では。才能っていうのは、揃うもんじゃないんですよ。欠けるってこと。欠けるくらい怖いことはないんですよ。アイルトン・セナ(F1ドライバー)がすごいと思ったのは、「スピードに対する恐怖心がない」って言うからね。一番いい女優さんは何かって言ったら、羞恥心がないから平気で裸になれるわけさ。新庄ってのはないんだもん。だから欠けてる人間くらい怖いものはない。
金子:はい、二宮さんに質問があります。イチロー選手は何が欠けてるんでしょうか。
二宮:イチローは揃い過ぎるってことが欠けてるの。
金子:何かそれちょっと違うと思う。
二宮:だから、克服すればすべてが成功するっていうか、秀才型の典型なんです。僕の概念の中で、天才型と秀才型のスポーツ選手がいるわけですよ。例えば秀才型というのはイチローであり、武豊(騎手)であり、ラグビーの平尾(誠二、神戸製鋼GM)ですよ。逆に天才型っていうのは、理論の前に体で証明できる。例えば長嶋茂雄(読売ジャイアンツ監督)さんとかね。
金子:二宮さんは、新庄と長嶋さんが一緒だって言ってますよね。
二宮:型としてはね。
青島:スタイル的にね。
二宮:この天才型っていうのは、理論とかが成立しないわけよ。
金子:一生懸命理論を構築している人から見れば、癪にさわる存在だってことですよね。
青島:古い話になっちゃうけど、稲尾さん(和久、元西鉄ライオンズ、野球評論家)が長嶋茂雄さんを苦手にしていて、「何考えてるかわかんない、何狙ってるかわかんない」って言ってたのよ。いつもそう考えながら、マウンドから彼のことを観察してたんだけど、そう考えているうちは全然勝てなかった。それがある日、実は長嶋さんっていうのは何も考えていないんだとわかったら、じゃあこっち本位でやりゃあいいんだって投げるようになって。そうしたら抑えられたと言うのよ。だから、野球をする上で、考えないでやるってことがいかに難しいかってあるでしょ。
二宮:それは江夏さんも言ってたけど、有藤さん(道世、元ロッテ・オリオンズ、野球評論家)にとにかく初球を打たれたと。ピッチャーが一番気を遣うのは初球じゃないですか。基本はアウトコースから入るわけだけれども。被打率っていうのは4割が初球ですよ。初球さえ抑えたら、そうそう打たれることはない。その初球をさ、いつも有藤さんに打たれると。
青島:うん。
二宮:有藤さんに「何でお前わかるんや」って言ったら、「そっか、俺そんなに初球打ったんか」って言われたって。考えて考え抜いた人間が、何も考えない人間に対したら、そりゃ考えてない方が強いよ。
青島:野球ってほら、そういうところあるじゃない。
二宮:新庄は日本の野球に合わないって言われてるじゃないですか。それは半分当たってると思うのね。やっぱりあれだけ細かくて、スコアラーに1球目はこう入るぞって言われたらね。新庄はやっぱそういったデジタル能力ないから。ところが、アメリカにも「アドバンス・レポーター」と言ってスコアラーはいるけど、初球はこう入るぞってところまではやらないじゃない。新庄には合ってるかもしれない。出たとこ勝負が。
青島:確かに合ってるね。若いいい選手が入って来て、潰れる理由っていくつもあると思うんだけど、ひとつは色々いじられて、直したり考えたりして、結局全然自分のものがわかんなくなって並みになっちゃうっていうかね。
二宮:意外にコーチってそういう人が多くてね。盆栽ってさ、ちょっと枝が出てるからここ切ろう、ここ切ろうって、最後には幹だけになっちゃうのがダメなんだけど、それがだいたい日本の指導法ですよ。アメリカではそれをやらないから。新庄のフォームもいじらないと思うんですよね。だから伸び伸びとやれるし。それとね、ニューヨークって街がアイツに合ってると思うね。
青島:言ってたよね、自分でも。
二宮:「一番最初にニューヨーク行って何やったか」って訊いたらさ、「麻雀屋探した」って言うんだよね。
(会場:爆笑)
青島:さすが。
二宮:普通さ、「アメリカ行って麻雀屋探した」って言ったら、「何考えとんねん」って。まあ、新庄は考えてないんだけど。
金子:新庄君の話を聞いてて、そんなもんかな、果たして彼だけなのか、彼は特別なのか、と思うんですよ。青島さんに聞きたいんですけどね、ピッチャーが投げて来ますよね。シュート回転、スライダー回転っていうのはわかるものですか?
青島:はっきりわかるとは言えないけど、打ちながらそういう感じのボールだなっていうのはやっぱり見えますよね。見えるっていうよりも感じる。でも、わからずに打ってることが多い。
二宮:もっとわかって打ってたらここにいないって。ゴメンネ。
青島:いえ。言い直すんだったら、俺はプロ初打席は見えたもん。
二宮:ホームランだもんね。
金子:新庄君ね、「ストレートとカーブはわかる」って言うんですよ。でも「シュートとスライダーはわかんない」ってさ。プロのバッターってそんなもんなのかって思ったんですけど、イチロー君はどうなんですか?
二宮:イチローの場合ね、やっぱりまず目がいいんですよ。
金子:だから新庄君はもしかしたらすごく目が悪いんと違うかなって。
二宮:そうだと思いますよ。動態視力っていうか。野球って150kmのボールのどこを見るかって、一番のヒントは縫い目だと思うんですよ。その縫い目の変化がどれだけ見えるか。それが、3割打てるか2割5分で終わるかの違いなんですよ。
金子:見えるものなんですか?
青島:見える人には見えるんでしょう。僕には見えなかったけど。
二宮:野茂(英雄・ボストン・レッドソックス)が何でアメリカで活躍できたかと言うと、縫い目を隠したからなんだもん、フォークの。ストレートというのは縫い目が見えないわけですよ。つまりスピンがかかるからでしょ。ということは、縫い目が見えないからストレートという情報がわかる。逆に、フォークは指から抜くから縫い目が見えるわけですよ。野茂は、どうすればストレートとフォークかわからないようにできるかを考えて、フォークに回転をかけたんですよ。だから、彼のフォークはアメリカでも成功した。佐々木も実はそうなんです。
青島:スピンをかけてるわけだね。
二宮:野茂のフォークはスピンをかけてるから、バッターからするとストレートと見間違うわけなんですよ。
金子:日本にいた時と落ち方も変わってるわけ?
二宮:日本にいた時から彼はそれをやってた。回転をかけるフォークを投げるのは、僕の知ってる限りでは野茂と佐々木だけだね。
金子:すいません、回転しないからフォークは落ちるって習ったんですけど。
二宮:理論的にはその通り。空気抵抗を受けるから。でも、それだったらストレートとフォークの区別がついてしまうと。だからそれを同じようにフォークも縫い目に指をかけて回転を若干かけたら、ストレートとの区別がつかない。だから2種類のボールでも、野茂は成功したんです。
金子:そのかわり落ち方は鈍くなるんじゃないんですか?
二宮:ただ本気で落とす時は縫い目を指にかけてる。
青島:その方が速さは出るね。もうひとつのメリットはコントロールできる。
二宮:安定感を持たせるために、彼は薬指を初めて使ったんですよ。普通はボールにかけない指を、彼は固定して抜いたわけ。だから彼は1年目の時、よく爪を痛めたでしょう。
金子:確かに。
二宮:アメリカのボールってのは縫い目が高くてザラザラしていて、質が悪いの。だから爪をしょっちゅう痛めたの。
金子:ふーん。
二宮:もっと細かいこと言えば、長谷川滋利(アナハイム・エンゼルス)ってピッチャーはなぜ1年目ダメだったかと言うと、1年目はスライダーを多用したでしょ。スライダーで引っ掛けさせようと思ったんだけど、ボールが全部落ちちゃうわけ。縫い目が高いから空気抵抗を受けて。それをアメリカのバッターはリーチが長いから、ちゃんと拾えたわけ。彼は1年目の途中からそれに気がついて、スライダーを使うのを控えたの。これが彼の成功の秘密なんですよ。メジャーで成功するかどうかは、極端な話、全部縫い目なんですよ。
金子:はい、二宮さんにまた素朴な疑問。じゃあSFFでもいいんじゃないんですか?
二宮:もうちょっと指の間隔を狭くしたら、伊良部(秀輝・モントリオール・エキスポズ)なんかが投げてるスプリット・フィンガード・ファストボールですよ。
金子:それと、野茂君が投げてるボールとの違いは?
二宮:この先はね、美学の問題。いや、ホント。なぜかと言うと、野茂は三振を取りたいわけ。だからスプリット・フィンガード・ファストでもいいんだけど、そうなるとゴロになってしまう。これは彼は気に入らないわけ。
金子:そうすると、野茂君が投げてるフォークっていうのは、スプリット・フィンガード・ファストボール以上、フォーク未満っていう感じなんですかね?
二宮:゛どフォーク゛ではないけれども、やっぱり相当落ちていますね。もうちょっと浅い握りにして伊良部みたいに投げても、ゲッツーは取れるんだけど。スライダーだって投げたら、ゲッツーいっぱい取れますよ。でも、彼はそれをやりにアメリカに来たんじゃない。「俺は打たれるか、三振取るかの勝負をするためにここまで来た」と言うわけで、これはもう美学の問題だから。話を戻しますけど、だからイチローの場合は、全部縫い目がわかってる方でしょ。縫い目を見て、アジャストするバッターだから。それとね、今イチローは、打球が右中間に飛んでないでしょ。全部センターから左方向。これは今の段階では引っ張り切れないからだと思う。
金子:重いの、やっぱり?
二宮:重い。ルー・ピネラ監督がね、ここだけの話だけど、「イチローは男らしくない」って言ってるわけ。それには、やっぱり踏み込んで打って欲しいってのがあるわけですよ。彼が打率だけ残そうと思ったら、3割は軽く残せますよ。しかし、男らしく後ろ足に重心をかけて打たないで、前足に重心をかけてちょこんと流してたら、アメリカでは認められないわけ。だから、「お前はそんなんで満足してるのか」って言われてるの。
青島:まあでも、あれがイチローのスタイルでしょう。メジャーでライトに目の覚めるようなホームランはなかなか難しいですよ。
二宮:ホームランは無理でも、右中間に引っ張っていかないと。もっとも、もっとバットが振れてくれば右中間への打球も増えてくると思う。
青島:彼は打率でぶったまげるような数字を残すことで、評価されればいいわけで。
二宮:3番を打たされたらダメでしょう。
青島:そりゃやっぱり1番でしょうね。
金子:あの1番と3番って、日本で考える1番、3番のイメージを、そのままメジャーに当てはめちゃってもいいんですか? 
二宮:もっと役割分担されていて、値段に応じた働きってあるわけですよ。1番バッターなら、最低でもあの移籍金、年俸だったら3割3分で盗塁50。これはやらないと、彼は失格なんですよ。3番バッターとして契約するんであれば、やっぱり30本塁打なわけ。昨年アメリカンリーグ、ナショナルリーグ合わせてね、3割以上のバッターが60人弱出てるわけ。その中で1・2番以外のバッターは、ほとんどがホームランを20本以上打っている。それはイチローには難しいでしょうから、1番でホームランの数を落としても、盗塁で50はいかないと。
金子:可能?
二宮:盗塁は問題ないと思う。アメリカのピッチャーはフォームが大きいし、結構雑だから。僕は50は走れると思う。つまり、イチローにとって一番近いタイトルは、首位打者じゃなくて盗塁王。
青島:打率が残せれば、当然盗塁もいけますよ、それはセットだからね。走る作戦は、日本よりも多用されているから。そういうルールがあればどんどん走らされることになるでしょうからね。
二宮:後はやっぱりあれ、足にぶつけられる。
青島:ああ。
二宮:今もやられてるけど、僕はふたつ心配があったの。ひとつはまず、バットのヘッドをピッチャーに向けるでしょ。
金子:挑発的?
二宮:アメリカへ行ったら必ず指さすなって言われるじゃない。
青島:ちょっと遠慮気味にやってますけどね。
二宮:そうなんだけど、あれ遠慮気味にやったら自分がペース崩すから。
青島:うーん。
二宮:やるんだったらやらないとね。やめるんだったらやめないといけない。へッドハンティングって、アメリカやドミニカのピッチャーは必ず頭に来ますよ。俺に文句あるのかって。バッカンバッカン来るぞ、アイツら。それともうひとつは、振り子の右足がベースにかかるじゃないですか。
青島:踏み出してってね。
二宮:向こうではダイバーって言うんですけど、必ず足狙われるわけ。そうすると、走れなくなる。このふたつをどうクリアしていくのか、そこに興味がある。
金子:どうやってクリアしていくと想像してます?
二宮:挑発は続けていいかもしれない。あれが自分のスタイル。やらないと。
青島:もう大丈夫でしょう、あのスタイル自体は。
二宮:アメリカは結果出したら認めてくれるから。こいつはこういうヤツだって。出る杭は打たれるけど、出過ぎたら打たれないのよ。
金子:なるほどね。
二宮:野茂なんて最初は、ああいうフォームだから「お前、おちょくってんのか」って。それでもやり続けるんですよ。伊良部はこれが自分のセットポジションだってやって、ボークを取られたら審判と思い切り喧嘩するでしょ。ちょっとやり過ぎなんだけれども、2年目から取られなくなった。トラブルはありますよ。そのトラブルから逃げるのか、ぶつかって解決するのか、どっちかなんです。
金子:足を狙われるのは、生命線に関わってきますけど。
二宮:乱闘すればいい。
金子:なるほどね。
二宮:狙われたら、乱闘するとか、バット投げるとか。アメリカのモノサシでは西部劇だから、完全に野球は。
(会場:爆笑)
二宮:両方がピストルを持って、10歩ずつ下がって打ち合ってる世界だから。そこで5歩下がって打ったりしたら縛り首になる。お互い武器を持ってて、その武器の抑止力で成立してるのがメジャーリーグ。右手で握手してる時、左手でピストル付きつけ合ってるようなもんですから。左手のピストルを失ったら最後、彼は潰されますよ。
青島:日本のピッチャーもイチローの踏み込んでくる足にある程度行ってたけど、それでも彼は怯まずに打ってましたからね。当然狙ってくるでしょうけど、意識過剰になって崩れるのを相手は計算しているわけだから。ぶつけること自体は折り込み済みで、メジャーで野球するってことはそういうことなわけだから。彼がどういうふうに精神状態をコントロールするかですよ。
二宮:とにかく日本のバッターとしては初めてメジャーでやるわけなんで、彼が踏み出す一歩は大きいと思うんですよ。まあ彼の技術を持ってすれば、絶対成功すると思いますよ。僕は単なる成功ではなくて、成功の仕方を問題にしたい。技術的には後ろ足に重心をかけて、引っ張らないと。センターからレフトに打っていれば、3割は打てますけど、それではイチローにとって成功にはならないと思うんです。本当の成功は、率を残すことでなくって、自分のスタイルを追求していって、「これが俺のやり方だ、俺は踏み込んで打つんだ」と。そっちが来るなら、乱闘も辞さないぞというような、男らしさを見せるってことが、次の日本人のメジャー・バッターが出ることにつながると思う。コツコツ打ったり、反対方向に打ったり、ドラッグバントじゃ成功にならないと思う。パイオニアとしては。
金子:新庄君はガンガン引っ張るでしょうけどね。
二宮:新庄の場合には、背負ってないじゃない、日本とか何とかってものを。
金子:日本人じゃないですね。
二宮:国籍不明だから。パスポートに宇宙人て書いてあったんじゃない。
青島:まあ何であれ、メジャーに行って1年目に3割以上の打率を残したら、これはすごいでしょう。
二宮:人には使命感があると思うんだよね。例えば、そのうち松井(秀喜・読売ジャイアンツ)が行くでしょ。
青島:うーん。
二宮:イチローとか松井ってのは日本から見たら、何十年にひとりのバッターだから、彼らの果たす役割とね、別の選手が行って果たす役割は違うと思うんだよね。例えば、野茂が最初にアメリカ行った時にバンバンぶつけたでしょ。ベネズエラ人のでかいヤツ、ガララーガ(テキサス・レンジャーズ)のケツに3球続けてぶつけて、乱闘になりかけて。あの時にちょうど俺も行ってて、「あれやめた方がいいんじゃないの? 乱闘になるよ」って言ったら、「いや、もし今自分がやめてしまったら、次に来る日本のピッチャーが遠慮してしまうから、俺はぶつける」と。妙な使命感を口にするんだけど、俺はそれでいいと思うんだよね。
青島:イチローはさ、バンバンぶつけられた時に乱闘に行くのかなあ?
二宮:行かないといけないでしょう。だってさ、長谷川の何が1番すごいかって、あいつ乱闘で1番最初に出てくるのよ。
(会場:爆笑)
二宮:長谷川はいつも1番最初に出てって、1番弱いヤツの方に行くんだから。
金子:素晴らしい。
二宮:それこそ『適者生存』。
金子:ちなみにイチローって日本で乱闘起こしたことありました?
青島:ないんじゃない? 記憶ではないよ。
金子:となると、二宮さんが「ぶつけられたら行かなきゃ」って言うのはわかるんですけど、乱闘したら日本と正反対の方向の彼になってしまいますよね。
二宮:その使い分けですよ。ガンジーじゃないけど、やらないんだったら「非暴力不服従ですよ」ってやるしかない。やるんだったら徹底しないと。でもね、たぶんイチローは遠慮するんじゃないかと思うね。行くふりはしてもね、まわりに止められたりして。でも、アメリカじゃ、「やられたヤツが先に行けよ」ってルールがあるから、それをやるかどうかだと思う。負けてもいいの。最初にぶつけられた時に、殴りかかって行けば彼は認められる。
青島:変な興味があるね。イチローが最初に乱闘に行く日がいつ来るのか。
二宮:俺は長谷川が相手だと思うな。
(会場:爆笑)
二宮:彼の根っこは大阪のヤンキーみたいなところがあって、いい意味でワルですよ。
青島:何か筋ができちゃってるみたいな感じがするけどね。
二宮:長谷川の一番の成功理由ってのは、走らせないことですよ。彼は30イニング投げて、2個しか走られてない。それが長谷川の一番のアイデンティティであって、当然イチローは長谷川から走ろうとする。長谷川は走らせまいとする。デッドボールだって、彼は恐れないと思うよ。
青島:そうかなあ。
二宮:やるんならやるよ。彼のメンタリティは……。
青島:長谷川がぶつけてもさ、評価上がんないじゃない。
二宮:それに球が遅いから。
青島:よけられちゃう。
二宮:野茂もインコースにガンガン来るだろうね。先輩からの愛のムチ。
青島:それは別の意味で、俺がパイオニアだって誇りがあるでしょうね。新庄はどんだけやったらすごいって世界になるのかなあ。
金子:安いですからね、年俸が。当然ハードルも低いですよね。
青島:フェラーリを売って行くくらいだからねえ。
客:2割8分、盗塁15、ホームラン5本。
青島:5本くらいですか?
二宮:新庄の場合はゲーム数だね。
金子:28試合とかにならないようにね。
二宮:100ゲーム出れば成功でしょう。あの値段だもん。
青島:でも今3割7分5厘打ってるわけですからね。まあでき過ぎかな。このまま行かせるほどメジャーリーグは甘くないでしょう。
二宮:メッツ自体の外野手のレベルは決して高くはないし、たぶんあのビジネスガイのバレンタイン監督が絶対使うから。
青島:使う、使う。いいチームに行ったよね。
二宮:運があるよ。やっぱり九州の西日本短大付属高から阪神に行ったから今の新庄があるんだもん。彼の選択っていうのは、何か不思議な力を感じるのよね。今度もメッツでしょう。去年ワールドチャンピオンになり損ねたチームですよ。日本人はまだ誰ひとりとしてワールドシリーズ出てないわけですからね。
青島:いずれにしてもさ、新庄とイチローが行ったおかげでね、これだけ野手のことでメジャーリーグの話もできるようになったわけだから。ところで、日本のプロ野球は今シーズンどうですかね。
二宮:どうですか、古巣ヤクルトは。青島コーチはないの?
青島:ないでしょう。私の場合「ベンチに座(スワ)ローズ」でしたからねえ。
(会場:爆笑)
金子:おやじギャグ。
二宮:やっとわかったよ、今。
青島:ヤクルトね。個別の話に行く前に気になるのは、新庄も言ってましたよね、「アメリカは楽しい」って。イチローも「日本の野球は暗い、つまらなかった」って。新庄君のプレイや表情を見ていれば伝わってくるけど、彼らが何を言おうとしているのか。わかる気はするんだけど、彼らみたいにメジャーへドンドン行っちゃうのを、ホントは止めるべきなんじゃないかなと。清純はどう思う? もう止まらないでしょうけど。
二宮:野球に限らず、サッカーなんかもたくさん海外へ出て行ってるけど。高いレベルでやりたいってのはやっぱり生理ですよ、スポーツ選手の。これは止められない。これを止めようと思うのであれば、プロ野球機構がいい環境を作ることですよ、出られないような。例えば、監督やコーチのことを「上の者」なんて言わなければいけないような、ある意味体育会的なものが残ってるでしょ。それが向こうに行ったら、実力だけでどこまでも行ける。サミー・ソーサ(シカゴ・カブス)は4年で88億ドルですよ。ギャランティーも違うし、プライドも違う。一番驚くのは、メジャーの扱いですよ。そのステータスたるや…。例えば1Aの選手は、洗濯物は自分で洗うんですよ。2Aになると、係がいて洗濯機まで持って行くと後はやってくれる。3Aになれば、下に置いておけば洗濯屋さんが来てやってくれる。メジャーなら、どこに脱ぎ散らかしてもいいんです。
金子:そういうヒエラルキーがハッキリしてるんですね。
二宮:だから絶対にメジャーに上がりたい、となる。
金子:それはアメリカが優れているというよりも、日本にも相撲の世界とかにはあるわけですよね。
二宮:そうだよ。
金子:それがどんどん失われてしまっていると感じるんです。
二宮:悪しき平等主義っていうかね。例えば2軍の最低保証が840万円か720万円でしょ。結構いってるよ。それに契約金がさ、裏金含めて何億も出るわけじゃない。巨人の2軍宿舎には外車がズラーッと止まってますよ。
青島:サッカーは最初から選手の流出を防ごうという話は出ないよね。
金子:流出してない国なんて、世界中ひとつもないですからね。イタリアの選手だってスペインやイングランドに行ってる。
二宮:流出ってのは言葉悪いけど、要はリサイクル。
金子:循環なんですよね。
二宮:まず前提としてね、今のアジアの野球をダメにしたのは、ある意味日本なんですよ。韓国、台湾からトップ選手を全部取って、ペンペン草も生えないようにして。
青島:使ってないからね。
二宮:巨人なんて韓国の国宝みたいなピッチャーを取ってさ、何にも使ってないわけでしょ。それでイチローが取られたりすると、どうすんだ、どうすんだって。こんな話は通じないって、世界的に。
金子:まったくおっしゃる通りですね。取ったら取られる。
二宮:当たり前ですよ。取った取られるじゃなくて、選手がもったいないということなんですよ。資源は有効に使わないと。
金子:すごく自分達でコントロールしたがる。選手をおもちゃみたいにとらえてるところあるじゃないですか。
二宮:そうそう。オーナーってのがね。野球協約上は実行委員会ってのが一番力のある組織なんだけど、オーナーの子分みたいなもんだから。
金子:野球を見ていてすごくおもしろいし、心配だなと思うのは、「メジャーはおもしろい、日本の野球はつまらない」ってこと。メジャーの方がレベルが高いから、スリリングだからと言うのであれば、わかる気がするんです。でも、日本人のサッカー選手でヨーロッパに行って、「ヨーロッパのサッカーがおもしろい」って言った選手はいないんですよね。
二宮:それはまさにそうだと思う。新庄も今はおもしろいかもしれないけど、開幕したら違う意見を言うと思うな。だってアメリカにおけるキャンプだとか、エキシビションゲームなんてのは遊びだから。
金子:今とっても彼は自由を謳歌している、本当は自由じゃないんだけど。
二宮:今はお客さん。
金子:ツラいね。でも、何でつまらないって言うんだろう、日本の野球を。
青島:ねえ。
金子:これって、例えば野村さんとか森さん(祇晶、横浜ベイスターズ監督)の野球も関係してる?
青島:まあ関係してるでしょうね。
二宮:僕はねえ、野村監督って非常に優秀な監督だと思うんですよ。例えば野球の国際大会があれば、日本代表監督に僕は野村さんを推しますよ。そうじゃないと勝てないもん。普通に考えたら、日本は世界で8番目か9番目だよ。日本は配球だとか、バッテリーを整備したりしないと絶対勝てない。
青島:今日は皆さんにアンケートを書いてもらってますけど、やっぱり多いんですよ。「メジャーリーグへ選手を輸出しているけど、その後の日本のプロ野球は大丈夫でしょうか」っていうのが。これは、誰でも考えればすぐわかることですけど。自分にありあまる才能があって、しかもやっていることが好きで、今の環境よりももっとすごいところがある。そこで通用しそうだし、成功報酬は今より桁がひとつもふたつも違っちゃうとなったら、誰でも行きますよ。それがかなう時代でしょ。それに、海外に行ったからって知らんぷりされるわけじゃなく、メディアが発達していて、行くというアクションをメディアが整えてくれる。もう止められないですよね、どんなスポーツであれ。
金子:イチロー君も新庄君も、日本の野球をつまらないと思ってたのかもしれないですけど、彼らが育ったのは日本の環境であるのは間違いない。それなのに、今彼らのような立場にある人間が「日本の野球はつまらない」と言うと、子供たちの夢を奪うことにもなると思うんです。これだけは彼らに言って欲しくない。
二宮:それは正しいね。新庄もタイガースにいたからこそ、あれだけの選手になったんですよ。巨人なんかにいたら試合に出てないですよ。ノムさんもいろいろ問題あるけれど。やっぱり新庄に野球には配球があるってことを教えて、あそこまで育てたのはノムさんなのよ。それをひとりで育ったみたいに思っていたら、それは間違いですよ。
金子:これはちょっと人間として言っちゃいけないことじゃないかなという気がするんですよ。
二宮:野茂英雄は、日本の社会人野球とかプロ野球のことはものすごく誉めている。監督以外は。
(会場:爆笑)
二宮:某Sさん以外は。
青島:好意的にとれば、新庄の場合は、日本でやっている野球とね、向こうで目指そうとしている野球のやり方とか、練習方法とか細かいところまで含めて、かなりスタイルが違うってことを言いたいのかなと思うんですが。
二宮:例えば国際競争力って考えたいんだけども、いずれワールドカップみたいな大会ができた場合、日本は大惨敗しますよ。もうオリンピックでもわかったけど、あれだけプロの選手を入れてもアメリカに1敗、韓国に2敗、キューバに2敗。あの3強に1勝もできなかった、これが現実ですよ。そういう中で、日本の野球はどうすれば国際競争力をつけることができるかとなると、ひとりひとりのポテンシャルじゃ勝てないから、ノムさんみたいな野球が必要になってくる。つまんないって意見はあるでしょうけど、あれを突き詰めていかないと勝てないんです。
金子:日本の野球の場合、国内でやってるだけですから興行的なニュアンスがすごく強いですよね。これが国際大会になってくると、勝負になってくる。例えば、「FC東京のサッカーはつまらない」って言う人はいても、「日本代表のサッカーはつまらない」って言う人はいないんですよ。日本代表に求めるものは勝利だけだから。内容まで求められるのはブラジルくらいなもんだから。そうすると、国際化が進んで行くことによって、野村さんや森さんの野球がまた再認識される時代が来るんじゃないか。今は悪者扱いされてるような気が、外部から眺めている人間としてはすごくするんですけど。
二宮:ノムさんがヤクルトで日本一になった時、開幕の巨人戦で斎藤(雅樹)を潰しましたよね。1-3からのカーブを狙わせて、ホームラン3本打たせたんですよ。斎藤は1-3のカウントでは、左バッターに対しては絶対外にカーブ投げるんです。
金子:小早川さん(毅彦、野球評論家)ですね。
二宮:その通り。何でかって言ったら、1-3というカウントでは強打者は内側のボールを待ってるから、外のカーブは打たないわけですよ。打とうと思ったらレフトへ流さないといけないからやらないわけ。ノムさんは斎藤の配球データを5年間分全部見て、何で1-3からのカーブを狙わんのやってことで、小早川にそれだけを命じた。キャンプ中、小早川のところへ行くと、いつもブツブツ言ってましたよ。麻原彰晃の洗脳みたいに「1-3からのカーブ、1-3からのカーブ」って。あれで斎藤の頭が壊れたの。投げるボールがなくなって。それで巨人を潰した。ああいう野球を日本はやっていかないと勝てないんだって。
青島:確かにね。
金子:すみません、その監督がなんで今は。
青島:やっぱそりゃ、そういうのが合う人たちと合わない人たちってのがいるでしょ。
金子:阪神っていうと、昔は豪快なイメージがあったんですけど、今の阪神はみんなセコセコしてるというか、ノムさんにピッタリという感じですけど。
二宮:あの選手たちを見たらしょうがないよ。例えば、名将と呼ばれた三原脩って人は、西鉄ライオンズの監督時代には、豊田(泰光)、中西(太)、大下(弘)がバッカバッカ打って、「野球は豪快に打ち勝たないかん」って言った人なんですよ。それで大洋の監督になった時には、秋山(登)-土井(淳)のバッテリーで、近藤昭(昭仁)とか近藤和(和彦)みたいなちっちゃい選手ばっかりで。選手によって野球を変えたんですよ。ホントの名将っていうのはこれでやれっていうんでなく、選手といういわゆる食材によって料理を変えられる人だと思います。

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構成・文:CREW
撮影:中川彰