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@ぴあ/HOTスポーツ人気連載コラム「金子達仁のサッカーコラム~グリーンカード~」で健筆をふるうスポーツライター・金子達仁をホストに、スポーツについて熱く語る「ぴあトークバトル」。3月18日に行われたイベントの模様を、そのままお届けします。
 vol.9 後編
 SUPPORTED BY Honda

「どうなる! 2001年プロ野球」(後編)
前編はこちら

出演者プロフィール
ホスト:青島健太(スポーツライター・右)
'58年、新潟県生まれ。慶応大、東芝で強打の大型三塁手として活躍し、'85年にヤクルトスワローズに入団。'89年退団後、スポーツライターに転身。現在は、スポーツライター、キャスターとして、テレビ、ラジオ、雑誌等で活躍している。
ゲスト:金子達仁(スポーツライター・左)
 '66年、神奈川県生まれ。法政大卒業後、「サッカーダイジェスト」記者を経て、'95年にフリーライターとなり、スペインに移住。「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」などベストセラーを生み出した。今、日本で最も売れ、最も刺激的なスポーツ・ノンフィクション作家。
 二宮清純(スポーツライター・中央)
 '60年、愛媛県生まれ。スポーツライターの第一人者として、新聞、雑誌、テレビ等を舞台に幅広く活躍中。主な著書に、「Do or Die」(KSS出版)、「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)がある。

青島:話は変わりますが、日本のプロ野球、現実の問題を考えて、もう少しこうしたら良くなるんじゃないかって提案がありますか。
二宮:いっぱい変えるとこありますよ。10年前から提言してるんだけど、いっぱいあるからふたつだけ言いましょう。ひとつはエキスパンションですよ。昔はね、札幌とか仙台とかに行くと巨人ファンが多かったのよ。だけど、コンサドーレ札幌と浦和レッズ戦を見に行ったら、そのおっさんたちがみんなコンサドーレのサポーターになってんのよ。これはエキスパンションですよ。ホームタウンってものをちゃんと作らないと。それとね、すぐにでもできる問題、インターリーグだよ。
青島:インターリーグね、うん。
二宮:なんでやらないのか?
青島:今シーズンから140試合になるってことで、清純も選手会にそれを提案したらどうだって言ったんだけど。春先にやった実績で、あんまりお客さん入らなかったの。
二宮:オープン戦だもん。
金子:実績が上がらなかったからって、始めなかったらいつまでたってもゼロのままですからねえ。
青島:そりゃそう。公式戦で例えば松坂大輔(西武ライオンズ)と巨人打線、これは見たいでしょう。
二宮:見たい。そういう商品があるわけよ。
金子:阪神は近鉄とやりたい。
二宮:近鉄に負けるよ、ボロクソに。
金子:いやいや近鉄には勝つ!
青島:大阪ダービーで大阪近鉄バファローズと阪神タイガースがやって、ウシかトラかっていうのはいいよね。
金子:こういう楽しみ方もできるわけですよね。
二宮:最弱決定戦(笑)。
金子:ここはもう目指せ11位ですよ、僕らとしては。
青島:相当きつい。
金子:結構、意地をかけたぶつかり合いになる。
青島:ねえ。これなんでやらないのかなって気がするなあ。
二宮:単に放映権の問題だと思うんですけど。
青島:まあね。まあひとつ、インターリーグというのは僕らが野球を見られる間にぜひ実現してもらいたいねえ。
二宮:これはすぐにでもできるから。
金子:セ・パが分かれてもう40何年ですか?
二宮:もともとは1リーグ制だったわけですからね。1リーグ制には絶対賛成しないけれど、インターリーグというのは絶対に必要で。アメリカなんかに行ってもね、インターリーグの試合はおもしろい。ア・リーグとナ・リーグのレベルもよくわかるし。普段やらない顔合わせってのがおもしろいじゃないですか。
青島:それとアメリカでどこかちょっと大きい街に行ったら、必ず野球チームがあるじゃないですか。1Aか2Aとかは別にしてもね。日本のファームも、最近湘南シーレックスとサーパス神戸とかの動きが出てきているけども。一軍はすぐには動かせなくても、ファームを何とか動かさないと、サッカーにホント負けちゃうね。
二宮:エキスパンションということにおいて言えばね、街によって規模ってあるわけですから、ニューヨークのチームが強いのはある程度は仕方ないわけよ。金があるわけやから。それでも一方的に負けるかって言うとそうじゃない。クリーブランドなんて人口が60万人くらいでしょ。あとシンシナティ。シンシナティなんて街がないんだから、せいぜい40~50万人くらいでしょう。そのくらいの都市でもね。
青島:ミルウォーキーもそうだね。
金子:やれるやれる。
二宮:ファームってのは30万人くらいいたら十分なわけでね。J2なんてさ、ヴァンフォーレの甲府が10何万人でしょ。アルビレックスの新潟で50万人くらいか。ホーリーホックの水戸も少ないよ。運営費なんて安いよ。アルビレックスが2億6000万円だって。甲府は1億9000万円、水戸は1億7000万円だよ、運営費が。
青島:横須賀のシーレックスも地元でかなり支持されて、ファームでもナイターやってるね。
二宮:アメリカの場合は、ファームの選手の人件費はメジャーが持ってるわけですよ。用具代をどっちが持つかってことで、ストライキなんかやったりするけど。それで興行は自分らでやるわけですよ。となると、ファームでいい興行やればいいゼネラルマネージャーってことで、上にあがれるんですよ。これはまったくの競争社会。このシステムはやっぱり日本でも取り入れないと。
金子:日本のサッカーが誤解されてると思うのは、野球は企業スポーツでサッカーは市民スポーツと思われてること。確かにそう取れないこともないんですけど、じゃあサッカーが企業スポンサーを受け入れてないか。横浜FCは完全な市民クラブで、企業のお金を入れるところでトラブルが起きているわけですけれど。FCバルセロナには、コカ・コーラがスポンサーについてます。マクドナルドもスポンサーですよ。
二宮:僕らがそのサッカーのやり方を支持したというのは、相撲もそうなんだけれども、なんて言うか魂を売らないわけさ。チーム名は売らないの。
金子:サッカーをやっている人間からするとすごく奇異に感じるのはね、なぜひとつの企業に頼るんだろうと。
二宮:F・マリノスなんかはさ、日産だけだったら危ないじゃない。例えば相撲なんかはいいと思うの。二子山部屋を実質的に支援してたのは佐川急便だよ。だけど、「佐川急便部屋」とはならないわけ、絶対に。
金子:そういう伝統が日本にあるわけなんですよね。
二宮:メジャーリーグだってそうなんですよ。全部企業の支援受けてますよ。複数の企業から。
金子:それを下品な形で「俺がお金出してるから、俺の会社の名前出せ」って言ってる質の悪いタニマチが、プロ野球ですよね。
二宮:まさにその通り。経営者が変わっても変わらないチーム名があるわけですよ。現実問題金がかかるわけなんだから、それは当たり前。
金子:保険をたくさんの企業にかけて、金をいっぱいもらって地域でまとめるっていうのが一番いいと思いますし。
二宮:札幌の例なんかそうじゃない。サッポロのビール1本飲んだら5円かなんか入るわけでしょ。そういう形にして、広く浅く募るわけよ。そうするとひとつの会社が潰れようが何しようが、経営の危機にはならない。
金子:読売新聞が22世紀まで健在であるっていう保証は何にもないですからね。
二宮:どこにもない。ホントにどこにもない。
金子:阪神電鉄がない可能性の方がもっと高いんですけれども。
青島:今年の日本のプロ野球の話をしましょうか。皆さんに書いていただいたアンケートの中で結構阪神を気にしてる人がいますね。
金子:ありがとうございます。すみません、阪神ファンの人は手を挙げてください。
客:ハーイ!
金子:今年期待してます?
客:最下位脱出!
会場:爆笑。
金子:ほらね、そんなもんですよ。僕ね一昨年と去年、優勝するかどうかで賭けましたけど、もういやですもん。
青島:あれ、丸刈りもうしないの。
金子:2年連続ですよ、丸刈りじゃなくて“ソリン”、カミソリで。
青島:キツイだろうね今シーズンはね。
金子:相当キツイでしょう。
二宮:でもクルーズいるじゃん。
金子:クルーズひとりで、新庄、大豊(泰昭、中日ドラゴンズ)、タラスコの分打てますか。
二宮:バース(元阪神タイガース)2世だよね。
金子:そうするとホームラン70本。
二宮:そうねえ。赤星(憲広)と沖原(佳典)は?
青島:オリンピック組。
二宮:あのふたりはいい選手だよ、ホントに。でもね、レギュラー取るというのはシンドイよねえ。
金子:まずね、「スーパーカーは古い。これからはF1や」ってのが、そもそも僕は古いと思うんですけど。どうせF3セブンですよ。
青島:Fポン・セブンくらいでいいんじゃない?
金子:フォーミュラ・ニッポンも結構いけてますからねえ。社会人野球出身の青島さんに質問です。いけるもんですか? そんなに。
青島:社会人から入って?
金子:プロでレギュラーになって、バリバリ3割打てます?
青島:社会人で主力を打ってた人ほど、対応に時間がかかると思う。
二宮:金属バットだから。
青島:金属バットだと、体が大きくない人でもホームラン打てるからねぇ。
金子:久慈(照嘉、中日ドラゴンズ)とか打ってましたもんねえ。
青島:木のバットを持たせた時にどうなるかってのは、持ってみなきゃわからないのよ。
二宮:時間かかるよ。その例が松中(信彦、福岡ダイエーホークス)よ。
金子:大学の時は木のバットで打ってたんでしょ?
青島:僕? そうそう。でも、社会人に入って金属になっちゃったから。
金子:忘れちゃう?
青島:そうねえ。
二宮:金属疲労。
(会場:爆笑)
二宮:おやじギャグですいません。
青島:ちょっと技術的な話をしたいんだけどね、金属バットだとちょっと引っかけるような打ち方でも、遠心力でドライブかかろうが何しようがキャーンッて飛ぶんですよ。木のバットみたいにのせて運ぶみたいな打ち方しなくても。だから外のボールでも変化球でも、全部引っかけるようにして。引っかければ持ってけちゃうんだよね。
金子:キャンプの時とか、やっぱり青島さんもすごく迷った?
青島:バットはバキバキ折れるし、ボールが飛ばないの全然。
二宮:社会人の4番で成功した選手って日本でふたりしかいないんですよ。松中と石井浩郎(千葉ロッテ・マーリンズ)だけよ。
青島:落合博満? あの時代はまだ木か。
二宮:あのふたりだけよ。その松中でも3年かかったから。
金子:じゃあ沖原は無理?
二宮:いや、あれはホームランバッターじゃないから。
青島:そうそう、ああいうタイプはね。
金子:いいの?
青島:ああいうタイプは大丈夫。
二宮:いいとこ入ったよ。阪神じゃないと試合に出られないもん。ホント絶対に!
金子:近鉄でも?
二宮:無理無理。
客:日本代表だったじゃないですか?
金子:そうだ、シドニー行ってましたよ。僕の目の前でホームラン打ってくれましたよ。
二宮:小柄なバッターだったら成功するよ。
金子:じゃあ沖原は成功する?
二宮:うん、阪神だから。
金子:阪神だからって、投げるピッチャーは相手のチームですよ。
二宮:違う、違う。慣れなのよ、問題は。試合に出てれば上手くなるんだって。巨人の2軍にいる奴でも、試合に出たらうまくなっていくんだって。出られないから下手。僕が見る限りにおいてアメリカ帰りの宮崎(一彰)なんか、いい選手だよ。でも、巨人にいて試合に出れなくて1軍のピッチャーを打つ機会がないから、ダメなままなの。試合で慣れていけば、沖原も赤星も上手くなっていくよ。
金子:F1セブンはやれるの?
二宮:やれると思う。
客:来年ですか?
二宮:今年出ますよ。
金子:全員合わせて、オープン戦で2割1分何厘かでしたよ。
二宮:だから、もう自分の役割を決めることでしょうね。打球は上に飛ばさないと。
青島:そうそう。
二宮:内野安打ばっかりでいいと。
青島:金属バットでホームラン打ってた選手が、プロでホームランを求められてるのは難しいのよ。
金子:健太さん求められてたんでしょ?
青島:俺は求められてたというより、自分自身も打ちたかったもん。
二宮:この人は4番バッターだもん、東芝の。
青島:木のバットに変えて、それでホームランを打とうとすると難しいんです。だけど、最初からホームランはいらないってなると、まあ対応しやすい。
金子:でも、健太さんは打ったじゃん、いきなり最初に。
青島:あのホームランは絶対に忘れないよ! 忘れたくても忘れないよ。生涯2本なんだから。
(会場:爆笑)
二宮:この人さ、本当に期待されたのよ。俺よりひとつ歳上で、原辰徳(読売ジャイアンツ・ヘッドコーチ)か青島健太かって言われたんだから。当たったら飛ぶぞって。でも、ちょっと当たったことなかったね。
青島:代打で行ってさ、見送り三振で帰って来たら、当時の土橋監督(正幸)に「お前バット振らないんだったら持ってくな!」って言われたよ。
(会場:爆笑)
金子:それで、今年のヤクルトは?
青島:ハッカミーと川崎(憲次郎・中日ドラゴンズ)が抜けたけど、ハーストとニューマンが入って。まあちょっと世代交代だね。ヤクルトも。
金子:阪神よりダメ?
青島:阪神は眼中にないよ。
金子:やっぱそういうもの?
青島:ヤクルトはもちろん優勝狙ってますよ。
金子:うそ~。
二宮:俺ね、真面目な話、本命は広島だと思う。
青島:本命広島?
二宮:うん、広島いいよ。
金子:なんで?
二宮:だって今日本で一番いいピッチャーって言ったら横山竜士だよ。本気になったら。
金子:ほかは?
二宮:高橋健、河内(貴哉)、苫米地(鉄人)。
青島:黒田(博樹)。
二宮:黒田、佐々岡(真司)が5番手くらいに回るんだもん。
金子:阪神ファン的には、藪(恵壹)、川尻(哲郎)、井川(慶)とあんまり変わらないような気がするんですけれども。
二宮:レベルが全然違う。今度広島のキャンプ見に来てよ。横山ってピッチャーは日本でナンバー1のピッチャーだよ。150km投げてて、カーブが昔の外木場さん(義郎、元広島東洋カープ、野球解説者)みたいに大きくて、フォークも投げて。あいつルーズショルダーで肩が抜けるんだよ。あれがなかったら、日本でナンバー1のピッチャーは絶対に横山ですよ。いやホントに。だって去年だって1試合しか投げてないけど、1試合完封。相手は中日だったかな。
青島:新井選手(貴浩)は?
二宮:あっ新井はホームラン王取るよ。ホント、彼はすごい。
青島:うんうん。
二宮:去年ね、新井は6試合に1本打ってるんだよ。松井秀喜(読売ジャイアンツ)の次なの。当たったら飛ぶのよ。だってあの少ない出場試合数(92試合)で16本打ってるんだよ。
金子:ちょっと水を差していいでしょうか? 広島市民球場ちっちゃいもん。
二宮:ホームランの本数は変わらないもん。今は本数の話。
金子:ごめんなさい、失礼しました。
青島:新井はね、俺も今年はタイトル争いに絡むと思ってるんだよね。
二宮:新井は右打者ナンバー1。
金子:阪神でホームラン王を争うとしたら?
二宮:いない、いない。
(会場:爆笑)
青島:いやクルーズでしょう。
二宮:あっクルーズがいた。
金子:クルーズ!
二宮:松井、新井、城島(健司、福岡ダイエーホークス)だよ、今の日本プロ野球のクリ-ンアップは。
青島:日本ハムってのも今年はね。
客:小笠原(道大)!
二宮:小笠原いいねえ。
青島:小笠原いいっすねえ。それでは、我々だけ一方的に話を進めて来ちゃいましたけど、質問を受けさせていただきます。では、一番先に手を挙げてくださった方。
客:選手の育成ということで。今野球の場合は、高校野球とか大学、社会人から入ってくるケースが多いですけれど、例えばサッカーならユースから選手が育ってくるってケースがあると思うんですよ。それで、野球も例えば阪神にユースチームがあって、金子さんみたいに阪神が大好きな親が、子供を阪神のユースチームに入れたら、阪神はドンドン強くなるんじゃないかなって思うんですけど。何で野球の場合、ユースを作るという考え方がないのかおうかがいしたいんですけど。
青島:うーん。
二宮:まず歴史認識の問題があると思うんですね。日本のスポーツっていうのは、学校で始まったので、プロ野球の前に学生野球ありきなわけです。一高とかね。それが発展したのが六大学野球。学校スポーツとして発展したという経緯があるから、それが高校野球になり、大学野球になりという前提があるわけですよ。これが良いか悪いかって問題になると、僕もあなたと同じようにこれからはユース化して行くとか、そういうふうに畑を耕さないといけないと思う。でも、そうやって発展したということで、一時は高校野球人気もかなりあった、六大学野球も盛んだったという歴史があり、学校からプロ野球へ入るというシステムがあったわけですよ。でも、今はそれに対して弊害が出ている。小子化の問もありますし。例えば高校野球なんかでも、いい監督なんてほんのひと握りですよ。地方へ行ったら「肘が痛かったら鉄棒にぶら下がって直せ」なんて、こんな指導者が多いわけですよ。そういうことを考えたら、指導者もライセンスがいるだろうし、科学的なトレーニングをするような指導者を持たなければいけない。チームを育てるということは、まさにユニットとしてやらなければいけないんです。これからは、どういうふうに今までのシステムを発展解消していくかっていうのが課題ですよ。
青島:あと加えて言わせてもらえば、プロとアマがまだ自由に交流できないというのが一番の難しさとしてあるんだと思うんですよね。それとアマチュアの野球憲章の問題。現実に、例えばたかだか5年間ヤクルトに籍を置いただけでも元プロ野球選手ということで自分なんかは、例えば母校の埼玉県立春日部高校に行って、誰かとキャッチボールしたり、トスバッティングでボールを上げるということすらできない。そんなことをして、万が一夏の大会前にどこかのチームから告発とかされれば、それでもう出場辞退になっちゃう。サッカーがすごいのは、天皇杯ならプロのチームと大学生が一緒に戦えたり、あるいはユースチームからJリーグに上がって、その後また大学に戻ってみたいなことでプロとアマが自由に行き来できてるじゃないですか。野球は、プロとアマが自由に交流できないという壁を除かないと、ホントに置いてかれちゃうと思います。
二宮:「学生野球憲章」っていうのを、もし興味があったら読んでもらったらいいんですけれど。これ、すっごくおもしろいんです。「プロというのは職業人であって、芸能人と一緒だから、学生野球の選手とは付き合ってはならない」と定められているんです。
青島:そうなんですよ。
二宮:「高校野球憲章」の内部文書ではね、もっとおもしろくて「プロの選手が傘をさしてたら近づいてはいけない、これはバッティングを教わる可能性がある」ってことまで書いてあるらしい。ナンセンス極まりないけど、それがルールになってるわけなんです。
青島:おかしいでしょう。私は、例えばスポーツニュースの担当をしていても、高校球児とテレビの画面の中に収まれないんです。
客:元プロ野球選手だったから?
青島:ええ、ある種タレントさんですよ。まあ厳密に言うと、もしかすると清純も引っかかるかもわかんないな。
二宮:高校野球は嫌いだから、行かない。
青島:局アナしか同じ画面の中でインタビューする資格がないんですよ。
金子:単純に考えると基本的人権の侵害じゃない。
二宮:ホントのことを言うとそうなんですよ。例えば「末は博士か大臣か」みたいなところで、高校野球なんかにおいても、未だに文武両道なんて言ってるけど、これがナンセンスなわけですよ。例えばね、田舎の人が東京大学行って、大蔵省行ってという出世コースがある。同じように、PL学園行って巨人に入るというエリートコースがあったわけですが、こういう中央集権的な考え方っていうのは今は通用しないわけですよ。サッカーのホームタウン構想なんていうのは、地方にいても選手は育ちますよという新しい概念です。変えていかなきゃ、国の仕組みを。日本のプロ野球というものは、そういう弊害がモロに出てるわけですよ。
金子:選抜大会の21世紀枠ですか? あれをやるんであれば、スポーツも一生懸命やってるから21世紀枠で東京大学に入学させる制度を作らなければ、不平等ですよね。
二宮:進学率が高いから甲子園に出すというのなら、最初から東大進学率ベスト34の高校を出せばいいじゃない。勉強のコンテストは別に受験があるわけでしょ。これは野球のコンテストなんだから。野球のレベルだけで決めてほしい。
青島:サッカーで言うユースチームのようなものが持てるのは、たぶん将来的な理想だと思うんですけど、ただ現実的に近い将来こうあって欲しいっていう意味では、さっき出た湘南シーレックスというファームのチームがあったらね、地元の横須賀高校とかがたまには2軍の練習に参加してプロの練習を体験できるぐらいの自由な、アマチュアとプロの交流ができていけばいいんじゃないかなと思うんですけどね。
二宮:ふたつ日本のスポーツに壁があるんです。これをよく覚えておいてください。ひとつの壁はプロとアマの壁ですよ。野球なんかは顕著で、相撲もそうです。ボクシングなんてもっとひどいです。もうひとつは、スポーツの競技に壁があるということです。例えば、ヨーロッパのスポーツクラブなんて、ACミランはサッカーだけではなく、バレーボールも強いし、水球も強い。いろんなものがあるわけなんですよ。本当は横浜スポーツクラブがあったらね、F・マリノスもベイスターズも関東学院大のラグビー部だって、あるいは箱根駅伝の神奈川大なんかも全部入らなきゃいけないわけです。それが地域のスポーツクラブなんだけどね。ふたつの壁、これを打破しなければいけないというのが我々の世代の使命なんですよ。
青島:というところでよろしいですか。あといかがでしょうか。
客:プロ野球にもレンタル制度があっていいんじゃないでしょうか、サッカーと同じように。巨人に偏ってますよね、戦力が。例えば清原(和博)が阪神に来るとか、松井が横浜に来るとか。1シーズンでもいいし。どうでしょうか?
青島:まあトレードがあるからなあ。
二宮:レンタルっていうのはサッカーにおいても、すべてがうまくいってるかどうかっていうのがまず問題だと思うんですよね。選手に機会を与えるということで、サッカーの場合はまず試合に有効活用したいというのがあると思うし、そこでチャンスを与えて伸びたら日本代表になれる可能性だってあるし。
金子:サッカーの場合は数値的な結果というのが出しにくいですから、試合に出るチャンスを与えないことには話にならないんですよね。
二宮:そうそう。合う合わないもあるしね、チームにね。
青島:野球はトレードがレンタルの代わりっていうことじゃないですかねえ。
二宮:だからレンタルの前に、統一契約書を変えなきゃいけない。
青島:つまりお気持ちは、ジャイアンツの戦力がすごいんで、もうちょっとプロ野球がおもしろくなるようにということですよね?
二宮:それならトレードを活発化させていくと。
青島:あるいはドラフトの問題でもあるでしょうね、これはね。もうおひと方どうぞ。
客:新庄さんは、ピッチャーが投げたボールに対して、かなり左足を上げると思うんですよ。でも、今のアメリカのバカバカ打つ選手っていうのは、俗にいうスリ足打法っていうのが流行ってると思うんですけれども。
二宮:いい指摘だねえ。すごくいいところに目をつけてる。あなたはプロのライターになれる。新庄もイチローもそうなのよ。だから僕が目をつけてるのもそこなのよ。
客:それに対して、これからあのふたりがどう対応しなければいけないかっていうのを、ぜひともお聞きしたいですけれども。
二宮:日本の野球は足上げるけど、アメリカのバッターは足上げないんですよ。理由はふたつあるんです。ひとつは安定感。やっぱり足を上げるということでバッティングに安定感が欠けるわけです。それがまあ、イチローなんかは克服したと。毎年フォームは変わってますけどね。ふたつ目の理由として、ぶつけられるということがあるんです。足を上げることも威嚇行為の一種なんです。そのふたつの理由があって足を上げないっていうことがあるんです。今回行ったイチローにしても新庄にしても、ふたりとも日本で足を上げるバッターが、果たしてアメリカでそれを貫くのかっていうことが、僕にも興味があるんです。僕はまあ貫いてもらいたい。どうせだったら彼らをリトマス試験紙にして、日本の足を上げるスタイルが通用するかってのを、試してみたい気がするんです。それともうひとつ。日本のバッターは、パワーがないので、足を上げて反動つけて打つっていうのもあるんですけどね。
青島:日本で今、思いっきり足を上げて打ってる選手というと中村紀洋(大阪近鉄バファローズ)がそうだけど、やっぱり反動で思い切りバット振りたいって気になると、もともとパワーがあれば選択肢はいろいろあると思うんですけども、体力的にないとなるとバットの遠心力と反動でってことになるでしょう。誰でも物を思い切り叩こうと思ったら、助走つけてガーッと行ってボンッとやるじゃないですか。
二宮:それとね、さっきの僕の説明ね、間違って取られるといけないんで補足します。ぶつけられるって、上げる足をぶつけられるんじゃないですよ。軸足にぶつけられるんです。軸足にぶつけられたらバッティングは成立しないんですよ。例えば前田(智徳)っていう広島のあれだけのバッターがなぜ打てなくなったかというと、軸足にバッと溜められないんですよ。軸足でグーッと溜めてボールを待つわけだから、軸足にぶつけられたら仕事にならない。去年の前田ね、あれだけ勝負強いバッターが、2-3のカウントからは16打数ノーヒットですよ。これはアキレス腱を切って軸足に溜められないから、5球、7球くらいボール待ってたら堪らないから、体が移動してしまうわけです。だから彼はフルカウントから打てないんです。
金子:逃げられないもんね。片足に完全に体重乗せちゃってるわけだから。
二宮:そう、それが怖いのよ。
青島:もうひとつ言うと、実はメジャーリーグも変化球が昔よりも多くなって、それこそ低めのフォークボールだとかが多いんですよ。そういうボールにどう対応するかっていうことも必要になってきているんです。昔はね大リーガーの真似っていうとね、クラウチングスタイルで腰を曲げて打つというのがねありましたよね。日本にいた時のクロマティ(元読売ジャイアンツ)とかね。そういう打ち方もあったと思うんですけれども、最近は全然少なくなってきてますよね。それと、何が1番変わってるかって、メジャーリーガーのバットが実はすごく軽くなってきてるんですよ。日本人よりもはるかにパワーがあるけれども、日本人と変わらない軽いバットを使ってるんですよ。900g前後くらいの。しかも腕だけで振れるような対応の仕方をしてるんです。
金子:バットの重さと飛距離ってすごく関係してるんですか。
青島:真っすぐ来る球に反動をつけて打つなら、ある程度重さがないと。
二宮:その理由を説明しますとね、アメリカのメジャーリーグってのは国策なんですよ。例えばべーブ・ルース(元ニューヨーク・ヤンキース)がホームランを60本打った時(1927年)というのは、第一次世界大戦でアメリカが勝って世界のヘゲモニーを取って、強いアメリカをアピールしたい時だったので、ホームランを出すようにするんです。わざとやるんですよ。次にロジャー・マリス(元ニュヨーク・ヤンキース)が61本を打ってホームラン王になった時(1961年)は、キューバ侵攻の前なんですよ。強いアメリカを演出しなきゃいけないって時に、アメリカはホームランをわざと出すんですよ。それで3回目。マグワイヤ(セントルイス・カージナルス)がホームラン新記録を打ち立てる。この時は世界でテロが相次いで、アメリカが国威発揚をもう一回やらなければいけない時だったんです。それが今終わったんです。終わったからストライクゾーンに変更があった。メジャーリーグのホームランが出る出ないっていうのは、全部アメリカの国策なんです。
金子:出すってどうやって出すんですか?
二宮:軽くて飛ぶボールを使って、ストライクゾーンを狭くする。簡単ですよ。
金子:なるほどね。
二宮:今度ストライクゾーンを広くしたでしょ。あれは今アメリカが、まあちょっと景気が悪くなってるけど、ひとり勝ちしたから。もうそういう強いアメリカを演出する必要がないわけよ。またこれがアメリカが弱くなったら、ホームランを増やして、「俺たち強いだろ」ってやるわけよ。だってアメリカではホームランの俗語は「BIG SWAT」。ちなみにFBIでは特殊攻撃隊に「SWAT(Special Weapons And Tactics)」の名をつけているくらいなんだから。すなわち軍事用語。好きになれないけど、それが現実ですよ。
青島:という感じでよろしいでしょうか。今日は皆さん、どうもありがとうございました。

構成・文:CREW
撮影:中川彰

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