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稲垣純一 日本代表チームディレクターの月イチレギュラー対談
すべてはラグビー界の未来のために



Vol.4 ゲスト
データスタジアム 加藤 善彦 社長
-後編-

日本ラグビー協会の稲垣純一理事が、毎回ラグビーに造詣が深いゲストを迎えて、ラグビーの魅力やラグビー界の未来について語り合う対談企画。第4回のゲストは、10月にラグビー日本代表のオフィシャルデータサプライヤー契約を締結したばかりのデータスタジアム・加藤善彦社長。ラグビーをデータで楽しむ方法や強化を担うデータの役割など、ラグビーとデータの密接な関係について語り合う。
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稲垣理事・データスタジアム 加藤善彦社長

――11月1日にノエビアスタジアム神戸で行われたジャパンXV対マオリ・オールブラックス戦(21―61)では、両チームのタックル回数がテレビで表示されました。ジャパンのタックル回数がマオリの4倍以上で、どちらが多く攻めているかを数字が如実に示していて、興味深く思いました。

稲垣理事 稲垣 以前は、試合を観戦した翌日の新聞記事で記憶を再確認していましたが、今はリアルタイムでデータを見て、何が起こっているのかオンタイムでわかる時代になっています。そういう流れをいかに取り込んでファンサービスにつなげるかが問われていますね。
 現在のラグビーはプレーの継続時間が飛躍的に長くなっていますが、そうしたデータを、以前のプレーがぶつ切りだった時代の継続時間と比較すると、違いが明確になって非常に面白いかもしれません。データを比較することで、ラグビーのどこがどう進化したのかがわかれば、ファンの方にも興味を持ってもらえるでしょう。

加藤 今、稲垣さんがおっしゃったように、ラグビーは本当に変わってきていますね。
 特に11月8日に秩父宮ラグビー場で行われたジャパン対マオリの第2戦(18―20)を見ると、昔はあんなにぶつ切りだったゲームがここまでプレーが続くのかと感心しました。ジャパンも本当に変わったな、という思いを強くしました。

稲垣 これはテレビでは放送されなかったデータですが、第1戦と第2戦でジャパンがどういう方向に攻めたかを数値で見ると非常に興味深いことがわかります。
 第1戦のジャパンは、攻める方向が順目(パスを放った方向に継続して攻めること)ばかりで、オーソドックスなアタックをしていましたが、第2戦ではリターンパスを使って内側の選手を走らせたり、いきなり密集の真ん中を攻めたりして、かなり変化をつけていました。そういうところが試合中にリアルタイムにわかると、観戦がもっと面白くなるでしょう。
 プロ野球のテレビ中継では、バッターがどういうコースを得意・不得意にしているかがスコープで表示されていて、たとえば、ピッチャーがヤクルトスワローズのバレンティン選手の苦手なコースに投げようとしてコントロールミスした結果ホームランを打たれた、というようなことがすぐにわかります。そういう映像技術の進化や情報提供の進化に、どれだけ我々ラグビー界がついていけるか。その辺りで、これからもデータスタジアムさんのお力が必要だと思っています。

加藤 ただ、メインかサブかで言えば、私はデータはサブだと考えています。
 ラグビーは走る、投げる、蹴る、押し込むといったスポーツのあらゆる楽しみ方を凝縮した魅力的なスポーツです。ジャパン対マオリの第2戦で、ジャパンがスクラムトライを挙げたときには、達成感のような、すごく原始的な喜びが自分のなかから沸き上がってきました。そういった魅力があくまでもラグビーであって、それをデータで裏づけて読み解くのも確かに面白いですが、まずは、原始的な感情を呼び覚ますようなラグビーの魅力があってこそのデータだと言えるでしょうね。

稲垣 おっしゃる通り、データは主原料ではなく副材料でしょう。その点で、データばかりにこだわってしまうと本末転倒になる恐れもあります。チームの強化に関してもそうですし、ファンサービスの面でも、方向性を誤る危険性が出てくるでしょうね。

加藤 今はビッグデータの時代と言われていますが、社員には「勘違いをするな」と話しています。私たちは基本的には黒子です。料理で言えば、いかに主菜を美味しそうに彩りよく引き立てるか。そのためにバックヤードで貢献するのが私たちだと思います。もちろん、バックヤードにはバックヤードなりの調理の仕方がありますので、その点は本当に勉強して、スポーツ界やラグビー界のために、お役に立てるような力をつけないといけない、と考えています。

――たとえばジャパンがデータを活用してRWCで結果を残すようなことが起これば、非常に大きな達成感につながりますか。

加藤 それはすごい達成感でしょうね。「ニヤリ」と笑う喜び方かもしれませんが(笑)。

稲垣理事・加藤善彦社長 稲垣 高笑いをされてもいいですよ(笑)。
 ただ、先ほどの本能的な部分の話ではないですが、ジャパンの選手たちは、エディー・ジョーンズ(日本代表ヘッドコーチ)たちから相手の弱みや強みはどこか、自分たちの強みはどこかといった部分はデータを与えられていますが、ゲームのなかでは自分たちで本能的に判断してプレーしている部分が多いと思います。あまりデータは気にしていないでしょう。
 もちろん、ストレングスの部分では「背筋力をこのレベルまで上げなさい」とか「短い距離のスピードを上げるためにこういうトレーニングをしなさい」といった形でデータを活用しています。体重や体脂肪率をどういうレベルにすればいいのかといった部分でも数値は非常に有効ですが、ゲームでは、選手たちは本能的にプレーしていると思いますね。

加藤 プレーに関しては、おそらく数字をそのまま選手たちに伝えない方がいいのではないでしょうか。指導者が数字を読み込み、咀嚼(そしゃく)して、どのようなメッセージにして伝えるかが大切であって、データは、あくまでも指導者がどういう言葉を選手に伝えるかを考える際のとっかかりであり、素材であると思います。たぶん、エディーさんはその辺りの使い分けが上手いのではないでしょうか。

稲垣 豊富な情報量を持ちながら、それを全部選手たちに伝えるのではなく、どう取捨選択してわかりやすく選手たちに伝えるか。そこが、エディーのコーチングの肝でしょう。

――さて、来年9月にはいよいよRWCが開幕します。目標はベスト8ですね。

稲垣 可能性は十分あります。我々の目標はベスト8で変わりませんし、そこに向かっている手応えはあります。ただ、今はまだ相手が手の内を隠している部分もあるでしょうし、これからの強化が重要だと思っています。日本も、もっと成長しないと、すぐに追いつかれるでしょう。ヨーロッパ遠征が終わって日本代表の今年のスケジュールは終了しましたが、これからの準備が本当の勝負になってくる。ですから、データについても相当深い要求が出てくると思いますよ(笑)。

――RWCに備えて、相手国の分析を求められるようなことがあるかもしれませんが、そういうケースも想定していらっしゃいますか。

加藤 可能性はあると考えています。そうしたご要望にもお応えできるように、まず材料をいかに仕込むかが大切になってきますね。

稲垣 相手国の映像は手に入ると思います。ただ、その映像をどういうふうに分析していただくか、それはこちらがきちんとリクエストしなければなりません。データスタジアムさんはどんなリクエストにも応えていただける技量をお持ちですが、こちらのリクエストがポイントから外れていては元も子もないですからね。簡単に言えば、最高級の牛肉を、ステーキにするのかローストビーフにするのか、注文が明確でないと、どんなに腕のいい料理人が調理しても、食べたい物と違う物になってしまう。それと同じことです。

加藤 日本の世界ランキングが上がっている今、逆に海外のチームも日本を研究してくるでしょう。そういう意味で、RWCは「分析合戦」になると考えています。ラグビー分析ではヨーロッパが進んでいますし、スーパーラグビーに参加している国は、そこでさまざまな知見を溜め込んでいるでしょう。そうした国々に対して、私たちも負けてはいられない。日々、緊張感が高まっています。

――2016年から日本がスーパーラグビーに参戦することが発表されましたね。

加藤 スーパーラグビーに、日本はどういう母体で参加するのですか。

稲垣 日本代表を中心としたチームになります。来年中にはチーム作りがしっかりとできあがっているイメージですが、当然ながら2019年のRWCをにらんだ選手選考になると思います。ですから、来年のRWCで日本代表に選ばれた選手でも、スーパーラグビーのチームに入らない可能性がありますし、新しい選手が入ってくる可能性もあります。その辺りはコーチの判断ですが、コーチを誰にするかも選考に入らなければならない。スーパーラグビーに参戦する目的は、2019年のRWCで勝ち、ラグビーの人気を高めるためですから、そこからブレないことが大切です。
 スーパーラグビーは日本のラグビー界にとって黒船のような存在です。スーパーラグビーに関わることによって、日本のラグビーは大きく変わります。ラグビーに携わる人たちすべてに変化が起こると私自身は考えています。大きく成長するチャンスです。
 2019年に関して言えば、日本代表が勝つことだけではなく、大会が成功してレガシー(遺産)がどれだけ残るかが問われています。成功へ導くための最良の手段がスーパーラグビーですが、何よりも一番大事なことはRWCの成功です。そのためにも、ラグビーがどこまで日本の社会に浸透し、ファンがどれだけ増えるかが大切になると思います。

稲垣理事・加藤善彦社長 ――通勤電車のなかでラグビーが話題になるようになれば理想的ですね。

加藤 11月8日のジャパン対マオリ戦が日本テレビの地上波で放送されましたが、翌日の通勤電車のなかでは、あの試合が話題になっていましたよ。

稲垣 みなさん、けっこう見ていましたからね。

加藤 「日本代表、きてるね!」とか、「今の強化の方向性で行けば、絶対にベスト8に入れるよ」という会話が聞こえてきて、日本代表がいい試合をすれば話題になることが実感できました。そういう体験をすると、日本代表が勝つために私たちがどんなお手伝いをできるのか――それがいかに大事なことかを改めて感じました。また、それが2019年のRWC成功には非常に大事な要素になりますからね。

稲垣 11月8日の試合は非常にインパクトがあったようですね。初めて会った人からも「ラグビーはすごいね」と言われました。まあ、勝っていればもっとすごかったのですが。

加藤 でも、こういう蓄積があって、2019年のRWCでスタジアムが満員になるという理想の世界に少しずつ近づいて行くのかな、と思いました。また、そのためにいかにラグビーを盛り上げていくか。ファンにとっては、代表チームから競技に入るのが一番入りやすいですから、その入口をどうやって作るか。そんな非常に重要な試みをお手伝いするのが、私たちの役割でもあると改めて思いました。

――ありがとうございました。


取材・構成●永田洋光
撮影●大崎聡

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PROFILE

加藤善彦●かとうよしひこ
1964年、宮城県生まれ。1987年早稲田大学を卒業後、博報堂に入社。マーケティングプランナーとして企業のマーケティング戦略策定に従事。1995年博報堂スポーツマーケティング(現博報堂DYスポーツマーケティング)設立に参画、2001年代表取締役社長に就任。同年よりトップリーグ設立準備やマーケティング業務に3年間携わる。2008年博報堂DYメディアパートナーズ・スポーツ事業局局長代理を経て、2009年よりデータスタジアム代表取締役社長を務める。

稲垣純一●いながきじゅんいち
1955年、東京都生まれ。1978年慶應義塾大を卒業し、サントリーに入社。1980年ラグビー部・サンゴリアス設立と同時に参加、初代主将となる。その後、慶應ラグビー部コーチ、サントリー副部長、ディレクターを経て、2002年にGMに就任。2007年にトップリーグCOOに就任。現在は日本ラグビー協会理事を務める。



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