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稲垣純一 日本代表チームディレクターの月イチレギュラー対談
すべてはラグビー界の未来のために



Vol.2 ゲスト
大正製薬 上原 明 会長
-後編-

日本ラグビー協会の稲垣純一理事が、毎回ラグビーに造詣が深いゲストを迎えて、ラグビーの魅力やラグビー界の未来について語り合う対談企画。第2回のゲストは、日本代表オフィシャルスポンサーである大正製薬の上原明会長。2019年ラグビーワールドカップの成功のヒントがここに。
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大正製薬 上原明会長・稲垣純一理事

――リポビタンDチャレンジが始まった2002年はジャパンラグビートップリーグの開幕前年にあたり、また日本ラグビーがオープン化へと踏み出した時期にも重なります。中心になっていたのが、2006年に亡くなった当時の日本代表強化委員長・宿澤広朗さんでした。上原会長がリポビタンDチャレンジや日本代表のスポンサードを決断されるにあたって、宿澤さんとはお話しされましたか。

上原明会長 上原 その話に僕は弱いのですよ(笑)。
 早稲田大学の名選手として名高かった宿澤広朗さんが住友銀行(当時)のロンドンに駐在しておられた時に、私が出張する機会がありそこでお目に掛かって街をご案内いただいたことがありました。それ以来親しくさせていただきました。宿澤さんが帰国されてからも、慶應OBの龍野和久さんや堀越慈さんたちとご一緒に何度か食事もしました。
 その宿澤さんが、協会の強化委員長に就かれて堀越さんと一緒に会社にお見えになりました。「日本代表を何とかしたいので応援して欲しい」というお話でした。私は「既にラグビーチームを持たれている会社がスポンサーになられた方がいいのではないでしょうか」と申し上げたのですが、「代表のジャージに選手たちが普段戦っている会社の商品ロゴが入るのはあまり好ましくない。ラグビーに理解があって、しかもチームを持っていない企業のご支援をいただきたい」と言われました。
 我が社としても、努力と友情と勝利をリポビタンDの宣伝コンセプトとしていたので、共通するものがあると感じ「お引き受けしましょう」とお答えしました。
 宿澤さんのお父様は高校の校長先生をやっておられ、その書棚に当社の初代会長・上原正吉の『商売は戦い』という本を並べておられたそうです。本のサブタイトルには、「勝つことのみが善である」と記されており、この言葉は宿澤さんの「生き方」にピッタリで気にいったので座右の銘にしていると仰っていただきました。
 この言葉には続きがあります。「商売は戦いであり、勝つことのみが善である」という、いわば商売における戒めなのです。商売の戦いは毎日ゆっくりと続くので気がつかないことも多いが、確実に少しずつ勝ち負けがついている。大きな川が表面には見えないが確実に海に向かって流れるごとくである。それに気がつかないまま毎日を安易に過ごしていると、思わぬ敗戦につながることになる。その結果、「勝者は栄耀栄華を極め、敗者は陋巷(ろうこう)に斃死(へいし)す」、つまり負ければ貧民窟で野垂れ死にする。商売の勝敗はそれほど厳しい結果がつくということです。
その商売の戦いに勝つには三つの条件があって、一番目は品質。つまり良く効く薬を作りなさい、と。二番目には経済的に有利な条件を提供すること。三番目がより良いサービスを提供することです。こういう条件を満たす工夫をすれば、今度はライバルメーカーがさらなる努力をしてくる。
 このように自由主義経済では、お互いに切磋琢磨することによって世の中が進歩していく。このような意味合いから「勝つことのみが善である」ということになるわけです。
 ラグビー日本代表も、テストマッチに勝つことで、単に自分たちのためだけではなく、新しい戦術を開発して世界の強豪に勝ったプライドと自信が社会全体に強いインパクトを与えてくれることになるでしょう。それが本当に大切だと思いますね。

稲垣 エディー・ジョーンズ自身がオーストラリアという国を背負って自国開催のRWC2003を監督として戦っていますし、南アフリカのテクニカルアドバイザーとしてもRWC2007の優勝を経験しています。だから、ナショナルチームはかくあるべし、という哲学を持っていて、それを今は選手たちに一所懸命伝えているところです。
 2019年にRWCが日本で開催されますが、ラグビーが持っている文化は、社会的にも非常に役に立つと私は考えています。
 だから、この大会をイベントとして成功させると同時に、そのあとの日本社会にもラグビーの文化を伝えていきたい。そのためのRWCだというのが、個人的な思いです。

上原 おっしゃる通りです。森喜朗日本ラグビー協会会長をはじめ、国会議員の方々も、みなさんラグビーに非常に熱心ですよね。おそらく、今、稲垣さんが言われたことを強く認識しておられるのでしょう。

稲垣理事 稲垣 ラグビーが社会貢献につながることを示すのがRWCだと思っています。

上原 そうあって欲しいですね。
 ただ、野球やサッカーをみていると、企業スポーツから地域密着型のスポーツへという流れがあります。アルビレックス新潟や、北海道日本ハムファイターズ、東北楽天ゴールデンイーグルスがいい例ですね。もちろん、最初は企業名を冠につける形でもかまわないのですが、ファン層の広がりとともに、バランスの取れた形で地域密着型に徐々に移行できればいい。裾野を広げる意味でも、地域でチームをしっかり応援するような風土を作ることが必要ですからね。

稲垣 トップリーグは企業スポーツとしては非常に高いポジションにあるのですが、人気の源泉となっているかと言うと、そろそろ曲がり角にきているのかもしれません。
 現在、ラグビー界以外の方にも入っていただいて、トップリーグ再生化プロジェクトを進めています。そこでご意見を頂戴して、今後のトップリーグはどうあるべきかを打ち出そうと考えているのですが、地域性は大きなポイントになるでしょうね。私たちも、今のままでいいと思っているわけではなく、そこは何とか変革しなければと考えています。

――先ほど会長が、商売に勝つための三条件として、品質と経済性、サービスという三つの条件をお話しされました。ラグビー界は現在、ジャパンを筆頭に品質は上がっていますが、あとのふたつはどうでしょうか

稲垣 個人的にはラグビーそのものの品質は非常に良くなっていると思います。トップリーグのレベルも、以前に比べて上がっています。ただ、それが世の中にきちんと伝えられていないのではないか、という危惧はありますね。経済性やサービスの面では確かに不足しているところがありますが、それは、私たちがラグビーの価値を上手く伝えられていないからではないか。その努力が不足しているのが、現状だと思っています。

上原 トップリーグの品質は確かに上がっていますが、大学や高校の広がりは、まだ足りないのではないですか。

稲垣 日本代表でも、6月21日のイタリア戦は地上波放送がありませんでした。広がりという点で不足していることは否めません。同時期に行われたサッカーW杯の日本戦が50%近い視聴率を上げたことに比べると、私たちがラグビーのブランド性をきちんと伝えられていないのではないかと自覚しています。それを打破しなければいけないですね。
 もちろん日本代表やトップリーグだけではなく、大学や高校でもラグビーの魅力を伝える努力をしないといけないと思っています。

――これから日本は強化のためにいろいろな国と試合を組むことになりますが、会長ご自身が「この国とのテストマッチをぜひ観てみたい」と思うような相手はございますか。

上原 僕が今まで見た試合のなかで一番印象に残っているのが、20代後半の頃に見た、秩父宮でのイングランドとの試合。確か山口良治さんがフランカー(FL)で出ていた試合です。

――1971年にイングランドに3―6と惜敗した試合ですね。

上原 負けたのでしたっけ? てっきり6―6の引き分けだと思っていたのですけど(笑)。あの試合は観客がスタンドから溢れて、僕もインゴールの後ろに座って観た記憶があります。非常に印象に残っています。やっぱりいい勝負は興奮するものです。
 だから、ああいった伝統国との試合は観てみたい。特に、イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドといった国々との対戦をもっと増やして欲しいですね。
 1980年代に確か日本代表が遠征してウェールズとテストマッチを戦いましたよね?

上原明会長・稲垣理事 ――1983年のウェールズ戦(24―29)ですね。

上原 当時の新日鐵釜石のバックローの千田(美智仁)選手がスクラムから挙げたトライは今でも覚えています。あの試合は、日本がどんどんオープン攻撃を仕掛けて、最後はウェールズを追い詰めたのですよね。ペナルティを得た時でもボールをオープンに回し続けてトライを取りにいったので、観客がスタンディングオベーションで日本のオープンラグビーを応援していたのが印象的でした。単に試合に勝つだけではなくトライを取りにいくあのような試合がラグビー競技の本質であり、またあのような試合を観たいですね。
 フォワード(FW)がセットプレーでボールを確保して、バックス(BK)が新しい戦術で勝負をして欲しい。
 日本人は体力勝負では勝てないから、大西先生がやられたように、相手から離れたところでどう勝負するか。そういう工夫がもっとあってもいいように思います。相手の背後にゴロパントを転がすことがあってもいいし、スタンドオフ(SO)やセンター(CTB)の新しい動きに両ウイング(WTB)やフルバック(FB)を絡めるような形もいい。勝つためのそんな工夫をお願いしたいですね。

稲垣 具体的に何が、とは明かせませんが(笑)、会長がおっしゃられたようなことはエディーも考えて、いろいろ工夫していると思います。リクエストもありますし。

上原 そういう新しいアイディアを考えて実行してきたから、日本は実力をつけて強くなってきたわけで、7人制でも代表になった藤田(慶和)君や福岡(堅樹)君を使って、いろいろ工夫してもらいたいですね。7人制に関しても、BK同士の間隔が広いから工夫をこらす価値はありますよ。

稲垣 はい。日本のオリジナルなラグビーを完成させるということですね。

上原 それから大学ラグビーも、これだけ交通機関が発達しているのだから、トップリーグのように全国規模でリーグ戦を行ってもらいたいですね。もちろん、それぞれの大学には伝統があるし、OBの方も含めて難しい部分があるのは理解していますが、その方が裾野も広がり、これからのラグビーの発展に大きく貢献できると思います。

稲垣 学生は、地域に分かれているので、その分試合数が少ないのですよ。現状はリーグ戦で7試合ですから。それは学生にとっても可哀想な部分があります。ただ、おっしゃるように難しい部分があるのも確かです(笑)。

上原 RWC日本開催が、ラグビー界全体を動かすいいきっかけになるかもしれませんね。

取材・構成●永田洋光
撮影●大崎聡

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PROFILE

上原明●うえはらあきら
1941年、東京都生まれ。1966年、米国留学後、慶応義塾大学を卒業し、日本電気株式会社入社。1977年、大正製薬株式会社入社。1982年、代表取締役社長に就任。2012年、代表取締役会長に就任(現任)。慶應義塾大学時代はBYBラグビーフットボールクラブに所属。2001年よりラグビー日本代表のオフィシャルスポンサーとして活動を開始。リポビタンDチャレンジカップは過去13年で30試合開催されている。

稲垣純一●いながきじゅんいち
1955年、東京都生まれ。1978年慶應義塾大を卒業し、サントリーに入社。1980年ラグビー部・サンゴリアス設立と同時に参加、初代主将となる。 その後、慶應大ラグビー部コーチ、サンゴリアス副部長、ディレクターを経て、2002年にGMに就任。2007年にトップリーグCOOに就任。現在は日本ラグビー協会理事を務める。



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