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稲垣純一 日本代表チームディレクターの月イチレギュラー対談
すべてはラグビー界の未来のために



Vol.7 ゲスト
A.C.P.C. 中西 健夫 会長
-後編-

日本ラグビー協会の稲垣純一理事が、毎回ラグビーに造詣が深いゲストを迎えて、ラグビーの魅力やラグビー界の未来について語り合う対談企画。第7回のゲストは、コンサートプロモーターズ協会(A.C.P.C.)の中西健夫会長。音楽・エンタテインメント業界から見て、ラグビー界はどのように映っているのか。また、2019年ラグビーワールドカップに向けて、どのように準備を進めていけばいいのか。さらに音楽とスポーツのコラボレーションの可能性について語らう。
>>前編はこちら

A.C.P.C. 中西健夫会長・稲垣理事

稲垣理事 ――ラグビー人気を盛り上げるためには、9月から始まるラグビーワールドカップ(RWC)での日本代表の成績がカギを握ります。日本代表は史上初めてのベスト8を目標に強化を続けて、現在世界ランキング11位(取材時)まで上ってきましたが、一方で、テニスでは錦織圭選手が世界5位(取材時)。ラグビーとテニスを単純に比較はできませんが、この辺りのことをどのようにお考えですか。

稲垣 エディー・ジョーンズ(日本代表ヘッドコーチ)は、宮崎での強化合宿のファースト・ミーティングで、まさに錦織選手のことを代表選手たちに強調していました。「テニスはパワーがものをいうスポーツなのに、なぜ身長178cmの錦織が190cmを超える選手たちに勝てるのか」と。エディーはその辺りも勉強していて、選手たちに「それは錦織に創意工夫があって、厳しい練習で誰にも負けないだけのフィットネスを身につけたからだ」と伝えていました。

中西 それに加えて、非常にクレバーですよね。技術があって、頭がいいから、世界で戦えるのでしょう。

稲垣 おっしゃる通りで、創意工夫と気持ち――根性が非常に素晴らしい。

中西 ラグビーは、世界のトップクラスとはまだ差があるというのが現状でしょう。個人的には、ジャパンはRWCでベスト8に入れるかどうかギリギリのところかな、と考えていますが、内容について言えば、非常に力をつけてきたように思います。

――錦織を鍛えたのがマイケル・チャン・コーチで、日本代表もジョーンズHCになってから強くなりました。ふたりのコーチは、日本人と変わらない体格にもかかわらず、世界のトップレベルでプレーした経験があり、そうした体験を生かして成果を出しているところに共通点を感じます。

稲垣 現在、世界は日本のラグビーがなぜこんなに強くなったのか。なぜスクラムがこれほど改善されたのかに、注目しています。RWCで勝てば、そうしたふたりのコーチの共通点のようなストーリーも、広く一般のスポーツファンにも伝わるようになるでしょう。RWCで勝って歴史を変えれば、そうした面白いエピソードがたくさん出てくると思いますよ。

――2019年には、RWCが日本で開催されます。すでに12会場が決定しましたが、そのなかには釜石市や熊本市のような地方都市も含まれています。その点で、野外コンサートのようなイベントを手掛けていらっしゃる中西会長からアドバイスを伺えますか。

中西 個人的には「釜石」というワードに注目しています。今度、釜石にPIT(※編集部注・チームスマイル・釜石PIT=2016年春に完成予定のホール)を作りますが、キックオフイベントをやっても面白いかもしれない。釜石市は、新日鐵釜石が日本選手権7連覇(1978年度~1984年度)をしてラグビーファンにはお馴染みの街ですが、ファン以外には、なぜ釜石市なのかが理解しづらいところがあります。若い世代には、7連覇を知らない人たちも多いですから、そういう人たちになぜ釜石市でRWCの試合が行われるのかを伝えたいですね。

稲垣 確かに30年前ですから、忘れられても不思議ではありません。
 私たちは、釜石市での開催を2019年のRWCには絶対に外せないものだと考えていました。当初は本当に開催都市に選ばれるか危ぶまれていましたが、ワールドラグビーから視察スタッフが訪れたときに試合開催への思いや復興への青写真を熱心に説明して、彼らが非常に感激していました。もちろん、ワールドラグビーのスタッフも、釜石市が東日本大震災の際に津波で大きなダメージを受けたことは知っていましたが、現地で招致に動いている人たちの思いに触れて、その時点で「ここは絶対に外せない」と思ってもらえたようです。

中西 そうですか。それではぜひ、何かイベントを考えましょうよ。RWCを盛り上げるために私たちがどこまでお手伝いできるかはわかりませんが、たとえば「釜石」というテーマで何かを考えるような形であれば、お手伝いできるかもしれません。

A.C.P.C. 中西健夫会長 ――A.C.P.C.は復興支援活動にも取り組んでいますね。

中西 東日本大震災の復興支援活動としては、「チームスマイル」の一員として、ぴあさんと一緒に活動をしています。A.C.P.C.としても、昨年宮城大学で復興支援の一環として、『東北地方におけるライブ・エンタテインメント業界を目指す人材育成支援』のための寄附講座を開講しました。この活動は好評で、今年も実施することになりました。地域に根づいている方が多いので、地域密着型の活動を続ける方向で考えています。
 復興支援活動は、これからも長く続けていくべきだと私は考えています。それはお金の問題だけではないでしょう。東京で考えたことを、そのまま提案しても地元の方から「それは違う」と言われることもあります。だからこそ、地域密着で現地の方が何を求めているのかを感じることが必要でしょう。それは、現地に行かなければわからないことですから。

稲垣 私自身にも、生半可な気持ちで現地に行ってはいけないのではないかという思いがありました。昨年、石巻市で初めてトップリーグの試合(NECグリーンロケッツ対NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)を行いましたが、被災地を物見遊山で見にきたようなスタンスにはなるまいと思っていました。ですから、中西会長が地元の方がどうとらえているかに非常に気を配るのは、よく理解できます。

――2019年のRWC日本大会を成功させるために、中西会長は、これからどのようなアプローチが必要だと考えていますか。

中西 私は、横浜FCの取締役も務めていますが、先日、三浦知良選手がゴールを決めたときは非常に感動しました。ですから、カズのような誰もが知っているプレーヤーがラグビー界にも欲しい。そうした選手を育てることは、これからラグビーを知ってもらうために非常に大切なことでしょう。
 それから、「ラグビーと音楽の融合」といった面でも、お手伝いできるかもしれません。
 今、音楽フェスティバルは進化していて、昨年茨城で行なった「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」は、フードエリアも大変充実していました。音楽もあるけれども、地元の食材を使った食べ物が出てくる。これは会場がすごく盛り上がります。

稲垣 お客さんが好きな音楽を楽しみながら、食も楽しめるわけですね。それは非常に喜ばれるでしょう。

中西 つまり、連合軍になっているわけです。私はシニア向けのフェスティバルも企画していますが、そこでは農業つまり農フェスと音楽を一緒にやろうと考えています。東日本大震災の復興のために頑張っている人たちと組んで、農業と音楽を同じ場に持ち込むのですが、今の人たちは何かひとつだけのテーマだとなかなか乗ってきません。

稲垣 先日ラグビーファンの方とお話しする機会がありましたが、その方から、埼玉スタジアムの話を伺いました。駅から遠くて「最悪だな」と思いながら歩き始めたそうですが、途中の道にさまざまなお店が出ていてお祭りみたいで、気がついたら20分間歩いてスタジアムに着いていた、と。だから、ラグビー場の周りにもそうした演出ができるのではないか。2019年も、そうした演出ができるのではないか――といったお話でした。ですから、付随する何かが必要なのだと痛感しました。

A.C.P.C. 中西健夫会長・稲垣理事 中西 単独で考えてはいけないのでしょうね。
 応援スタイルの提案も大切だと思います。ヨーロッパでは、サッカーでもラグビーでも、どんなに盛り上がっていても、いいプレーには敵味方の区別なく大きな歓声があがる。そのような成熟した応援スタイルを、日本代表の試合からぜひ提案していただきたい。サッカーのイングランド代表の試合を観たときに、サポーターが自然に「イングランド!」と叫んだときは、本当に感動しましたからね。

稲垣 私も海外でラグビーの試合を観るたびにそう思っています。ただ、日本人の場合は、誰かが“応援団長”になる必要がありますね。今、日本代表の試合ではようやく「ニッポン、チャチャチャ!」が定着してきましたが、それをもう少しカッコ良くできるようにしていければと思います。
 それから、海外でテストマッチを観戦すると、必ず試合の前にエンタテインメントがありますね。試合の1時間ほど前に有名なアーティストが登場して歌を歌ったり、さまざまな演出があって、それから選手たちが入場してきます。そういう形を何とか実現したいところです。

中西 ヨーロッパでは、試合前の交流会も素晴らしいですね。VIPエリアは完全に社交場になりますし、そこでビジネスの商談がまとまることもあります。そうした雰囲気は、これから作り出す必要があると思います。

稲垣 一般のファンも、試合開始の前にパブに立ち寄って、そこでビールを飲みながら友だちを作り、やはり社交の場にしています。海外では、そうした文化が自然にできていますが、日本では、残念ながらまだ定着しているとは言えませんね。

中西 2019年のRWCでは世界のトップチームが来日するわけですから、日本代表だけではなく、ぜひラグビーそのものを観に行きたいですね。また、実際試合が行われた際にスタンドが埋まったのは日本代表の試合だけだった、という事態になるのは避けたい。それは、「おもてなしの国」として非常に恥ずかしいことですから。そのためにも、ラグビーという競技を観に行こうという気運を高める必要があります。それはラグビー協会だけではなく、メディアも、私たちも考えなければいけない仕事だと思います。それができて初めて、大会が成功するでしょう。
 開催までの4年間で、どこまでラグビーが根づくか。その意味では、世界のラグビーの紹介も必要でしょうね。

稲垣 確かに、彼らがどれだけすごいかを伝えることは大切です。

中西 「こんなに遠いところからドロップゴールを決めるんだ」とか、「こんなにすごいステップを踏むんだ」などでもいいですから、世界のスーパープレーを特集するような番組があってもいいでしょうね。

――どうもありがとうございました。

取材・構成●永田洋光
撮影●大崎聡 >>前編はこちら

PROFILE

中西健夫●なかにしたけお
1956年、京都府生まれ。京都産業大学を卒業後、バンドでメジャーデビュー。1981年に株式会社ディスクガレージに入社。1990年に取締役専務、1993年に代表取締役副社長を経て、1997年より代表取締役社長に就任。A.C.P.C.では2001年に理事に就任し、2005年より常任理事、2008年より副会長を経て、2012年に会長に就任。2014年、東日本大震災の復興支援活動団体・一般社団法人チームスマイルの副代表理事も務める。

稲垣純一●いながきじゅんいち
1955年、東京都生まれ。1978年慶應義塾大学を卒業し、サントリーに入社。1980年ラグビー部・サンゴリアス設立と同時に参加、初代主将となる。 その後、慶應大ラグビー部コーチ、サンゴリアス副部長、ディレクターを経て、2002年にGMに就任。2007年にトップリーグCOOに就任。現在は日本ラグビー協会理事を務める。



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