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稲垣純一 日本代表チームディレクターの月イチレギュラー対談
すべてはラグビー界の未来のために



Vol.3 ゲスト
コカ・コーラレッドスパークス
北澤 豪 チーフPRオフィサー
-前編-

日本ラグビー協会の稲垣純一理事が、毎回ラグビーに造詣が深いゲストを迎えて、ラグビーの魅力やラグビー界の未来について語り合う対談企画。第3回のゲストは、サッカーの元日本代表であり、今季よりコカ・コーラレッドスパークスのチーフPRオフィサーに就任した北澤豪。ラグビーとサッカー、ふたつのフットボールの親和性について語り合う。
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コカ・コーラレッドスパークス 北澤豪 チーフPRオフィサー・稲垣理事

コカ・コーラレッドスパークス 北澤豪 チーフPRオフィサー ――北澤さんがコカ・コーラレッドスパークスのPRオフィサーに就任した経緯から教えてください。

北澤 コカ・コーラレッドスパークスが強化をグラウンドレベルだけではなく、ファンの広がりまで含めた幅広い意味で考えていて、そのためにラグビーとまったく関係のない僕に今回話をいただいたと思っています。
 僕がPRオフィサーになったことに違和感を感じるラグビーファンもいらっしゃるかもしれませんが、2019年のラグビーワールドカップ(RWC)を考えたときに、一般のスポーツファンにラグビーに興味を持っていただくきっかけをどう作るかが大事になってきます。僕自身、サッカーやラグビーといった競技の枠にとらわれるのではなく、スポーツというもっと大きな目線で競技を見ることが必要だと考えています。

――これまでにラグビーをご覧になった経験はありますか?

北澤 先日、コカ・コーラとNTTドコモレッドハリケーンズ(8月30日・トップリーグ1stステージ第2節・コカ・コーラ15-9NTTドコモ)の試合を見ました。これまでもラグビーを見たことはありましたが、会場で試合に見入って、目も耳もすべて集中して見たのは今回が初めてでした。
 両チームの戦い方がまったく対照的で、非常に面白かったですね。

稲垣 コカ・コーラは今季、非常に充実していると評判です。夏に網走へトップリーグ各チームの夏合宿を視察に行った際、エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチが「選手がすごくいい体になっている。春に相当練習したのではないか」と言っていました。
 開幕戦でもサントリーサンゴリアスにフィジカルで負けていなかったし、成果が現れているようです。

北澤 いくらテクニックがあっても、パワーやフィジカルで負ければ押し込まれてしまうからフィジカルは必要な部分ですね。

稲垣 一方で、コカ・コーラは、グラウンドを大きく使ったラグビーを目指しています。

北澤 確かにボールをつなぐ部分で非常に鍛え上げられている印象でした。

稲垣 ラグビーはどんなに超人的な選手がいても、その選手だけでは勝てないスポーツ。エディーも、個人に頼ったチーム作りをしてはいけないとよく言っています。

北澤 僕の隣で向井昭吾GMが試合を細かくチェックしながら、僕に試合が今どうなっているかを説明してくださった。おかげでチームの思いや狙いがフィールドのなかの動きと一致してくるところがわかって、非常に興味深かったです。新戦力のニック・カミンズについても、チームスタッフから「サッカーで言えば(ウルグアイ代表の)フォルランが来日したようなものだよ」と言われていたので、楽しみにしていました。

稲垣 彼の来日は、オーストラリアで大きな話題になりましたからね。

北澤 試合途中からの出場でしたが、出場した瞬間に空気が変わりました。そんな魅力の出し方が、すごく見応えがありました。
 先発の15人だけではなく、選手が次々に入れ替わって全員で戦う辺りも、サッカーの指導者が見れば参考になると思いましたね。

――レベルファイブスタジアムの雰囲気はいかがでしたか。

北澤 最初は、選手や観客のみなさんが僕をどう受け入れてくれるか不安がありましたけど、杞憂でした。選手たちは企業で仕事をしているから社会性もあって、人に対しての向き合い方がしっかりしていました。
 選手たちが観客ときちんと交流する姿勢もすごく良かった。僕自身、日本リーグ時代の本田技研工業でプレーした経験があるので、試合に勝つことが社員の励みになったり、一体感を生むことにつながるのはよく理解できます。もっと言えば、それが地域社会に対しての取り組みにもつながる。そういう姿勢が素晴らしいと思いました。
 それから、地元の高校生たちを試合に招いているのが印象に残りました。高校生に限らず、中学生や小学生もかなり来ていました。
 ラグビーはファンの高齢化が言われていますが、「そうではない」というのが僕の実感です。2019年がゴールではなく、その先の将来を見据えて戦略的に取り組んでいると、すごく感じました。

稲垣理事 稲垣 それが一番大事なポイントですね。
 我々がトップリーグを立ち上げて11年目になりますが、最初の頃は、トップリーグは高校ラグビーや中学生のラグビーとは別物という考え方がありました。そこで我々が訴え続けたのが、日本のラグビー選手が目指す頂点がトップリーグだということ。だから、高校生や中学生といった若い世代にどんどん来てもらって、頂点の戦いに触れて欲しかった。今は地元のラグビー協会に、トップリーグの試合が開催される日は中高生の試合を組まないようにお願いもしています。

北澤 自分たちの試合があると観戦に来られないですからね。

稲垣 まだ完璧とは言えませんが、そういう取り組みはずっと続けています。特に福岡は小学校から高校までラグビーが盛んなので、そういう世代に最高のプレーを見てもらうことがものすごく大事だと思います。

北澤 コカ・コーラウエストの吉松民雄社長も、自ら高校生に話しかけたり、ラグビー愛が強いなと感じました(笑)。

稲垣 吉松社長に限らず、トップリーグ所属企業の社長のラグビー愛はすごく強いですね。本当にありがたいことですし、これからも大切にしないといけないと思っています。

北澤 それから若い世代の観客が、僕を見てパッと誰だかわかっていました。これは、ラグビーだけではなくて、視野を広げていろいろな競技を見ているからでしょう。
 僕らの世代だと、ひとつの競技をやると他の競技に目を向けることがあまりなかったので、世の中が変わったと実感しました。

稲垣 個人的にはJリーグの影響が大きいと考えています。Jリーグは「サッカー」ではなく、「スポーツ」を主語にして百年構想を立てて、日本にスポーツ文化を根づかせるためにJリーグを立ち上げてワールドカップを開催すると打ち出した。それが、サッカーはサッカー、野球は野球といった競技の枠にとらわれていた日本のスポーツに大きな転換をもたらしたと思います。
 実は、RWCもそういう意味合いが強く、ラグビーのためではなくて日本のスポーツのため、あるいは日本の文化のために非常に重要なイベントだと私は思っています。

――北澤さんは、Jリーグ発足当時の熱狂的な雰囲気を経験されていますが、大観衆の声援はやはり力になりましたか。

北澤 もちろん、そうです。僕は日本リーグで国立競技場に100人しか観客がいなかった時代を経験していますから、そこから少しずつお客さんが入ってきて、Jリーグ発足のときは大観衆を前に「同じ国立なのにこの違いはなんだろう?」と感じていました。
 プロ選手として、契約更改の席で観客を何人競技場に呼べるのか問われたこともありましたし、僕も含めて選手自身、自分がどれだけお客さんを呼べる選手になれるのか、どれだけ自分をピッチの上で表現できるのかを、テーマとして持っていました。

稲垣理事・コカ・コーラレッドスパークス 北澤豪 チーフPRオフィサー 稲垣 ラグビーは今、約70%の選手が社員として働いていますが、それでも試合後には観客が何人入ったかを気にしています。私が「今日は入場者が1万人を超えました」と言うと、選手たちが拍手をしてくれます。
 だから、プロではなくても、多くの観客の前で試合をしたいというモチベーションはあると思います。そういう環境で試合ができることは選手として幸せなことですからね。

北澤 そのためにも、自分のプレーに集中するのはもちろんですが、スタンドに自分のプレーがどう伝わるかを意識することも、プレーを魅力的にする上で大切だと思います。
 試合は勝つことが一番ですが、たとえ負けたとしても最後まで諦めない姿勢を見せることで、お客さんにまたスタンドに足を運んでもらえるようにする。そういったことが大切ですね。その点ラグビーは、試合中からそういう姿勢がすごく出ているように感じました。

稲垣 それにはトップリーグのシステム的な要因があります。負けても7点差以内ならば勝ち点が1もらえるし、どんなに点差が離れても4トライ以上挙げればやはり勝ち点1がもらえる。つまり、負けても最高で2ポイント獲得できる。世界的にそういうルールになっています。

北澤 それは面白いですね。負けているチームも攻撃的になるわけですね。

稲垣 常に攻撃的に、そして最後まで試合を諦めるな、という姿勢につながりますね。

北澤 それからレフリングによる影響が、サッカーより大きいように感じました。でも、選手の受け止め方がサッカーより紳士的だったのが印象的でした(笑)。

稲垣 ラグビーは暴言を吐いた瞬間にレッドカードが出ますからね(笑)。

北澤 サポーターも微妙な判定に対して、抗議の声やブーイングをそれほど挙げないですよね。僕もレベルファイブスタジアムで試合をしたことがありますが、ラグビーのときはまったく違うスタジアムになっていましたね(笑)。

――そんなに雰囲気が違いますか?

北澤 選手と一緒にピッチに入場させてもらい記念写真にも収まりましたが、競技が違えば選手たちが醸し出す雰囲気も違う。入場する前はサッカーとそれほど雰囲気は変わらないと思っていましたが、やはり大きく違っていました。

――国立競技場でも、その違いを味わっていただきたかったですね。

北澤 でも、新しくなった“聖地”で最初に行われるイベントが2019年のRWCです。そのときには競技の垣根を越えてアスリートたちが協力することが必要だと思います。

取材・構成●永田洋光
撮影●大崎聡

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PROFILE

北澤豪●きたざわつよし
1968年、東京都生まれ。1987年修徳高校卒業後、本田技研工業に入社。1991年にジュニアユースで在籍した読売クラブ(現東京ヴェルディ)へ移籍。中盤のダイナモとして、J1リーグ戦264試合に出場。日本代表としても国際Aマッチ59試合に出場する。2003年に現役引退。2012年4月にFリーグCOO補佐に、同年6月に日本サッカー協会理事に、2014年7月にコカ・コーラレッドスパークスチーフPRオフィサーに就任。日本テレビ系『NEWSZERO』などに出演するとともに、近著に『父親というポジション』(中央公論新社刊/税別1350円)がある。

稲垣純一●いながきじゅんいち
1955年、東京都生まれ。1978年慶應義塾大を卒業し、サントリーに入社。1980年ラグビー部・サンゴリアス設立と同時に参加、初代主将となる。その後、慶應ラグビー部コーチ、サントリー副部長、ディレクターを経て、2002年にGMに就任。2007年にトップリーグCOOに就任。現在は日本ラグビー協会理事を務める。



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