チケットのことならチケットぴあチケットぴあ

こんにちは、ゲストさん。会員登録はこちら

稲垣純一 日本代表チームディレクターの月イチレギュラー対談
すべてはラグビー界の未来のために



Vol.2 ゲスト
大正製薬 上原 明 会長
-前編-

日本ラグビー協会の稲垣純一理事が、毎回ラグビーに造詣が深いゲストを迎えて、ラグビーの魅力やラグビー界の未来について語り合う対談企画。第2回のゲストは、日本代表オフィシャルスポンサーである大正製薬の上原明会長。2019年ラグビーワールドカップの成功のヒントがここに。
>>後編はこちら

大正製薬 上原明会長・稲垣理事

上原明会長 ――まず、上原会長ご自身のラグビーへの思いを聞かせてください。

上原 私は小学校から高校まで成蹊学園に通っていました。冬の体育の授業は、毎回ラグビーかマラソンのどちらかの授業でした。中学校時代には、全校が丸一日授業をやめてクラス対抗のラグビー大会が行われるなど、ラグビーが非常に盛んな学校でした。大学は慶應義塾大学に進んだのですが、同好会のBYBラグビーフットボールクラブでプレーしました。ポジションは昔からフォワード(FW)で、BYBではフロントローをやっていました。
 ラグビーは、選手一人ひとりがそれぞれの役割を果たしながら、チーム一丸となって戦うところが素晴らしいと思います。バックス(BK)がとどめのトライを取ったときでも、FWがいいタイミングでルーズスクラムからボールを出してトライに結びついたことをチームメート全員が理解している。一人ひとりが自分の役割を果たすことの積み重ねが、チームの勝利に結びつくという一体感を経験できて非常に良かったと思います。

――昨年の「リポビタンDチャレンジカップ」では、日本代表がウェールズ代表を破り、ニュージーランド代表オールブラックスには敗れたものの健闘しました。今年はイタリア代表を破って初白星を挙げました。現在の日本代表をどうご覧になっていますか。

上原 エディー・ジョーンズさんが日本代表のヘッドコーチになってから、日本のラグビーは変わりましたね。それまでは体力に劣る日本が海外の強豪国と同じような戦い方をしていて、正直なところ工夫が足りないのではないかと思っていました。
 でも、今は粘りが出ている。強くなかった時期は、フォローした選手が有効に働けていない印象だったけれども、今はボールを奪って何とかしようと懸命に働いている。だからプレーがしつこいし、本当に頑張っている印象を受けます。エディーさんの闘魂が選手たちに乗り移っているように感じますね。
 それから、実際に勝っています。やはりラグビーは勝たないと面白くないですからね(笑)。

稲垣 おっしゃる通り、今はエディーの勝たなくちゃいけないのだという気持ちが選手たちに伝わっていると思います。
 選手たちも、朝5時半から1日に4回練習をしたり、30分間スクラムを組みっ放しといった本当に厳しい練習によくついていっている。選手たちは精神的にも肉体的にも疲れていますが、勝ちに飢えているから結束が崩れない。それが10連勝という結果につながったと思います。今までのジャパンにない雰囲気ですし、非常にいい方向に行っていますね。

上原 試合の内容が良くなっていますね。昨年のウェールズ戦は結果だけではなくて、戦い方が非常に変わった印象を受けました。
 サッカーを見ても、短いパスやお互いのコンビネーションで攻撃するのが日本には向いていますが、ラグビーでもボールをどう動かすのか、小柄な日本人にもできることがあるといった発想で戦略を立てる必要があると、私はかねがね考えていたのです。
 たとえばショートラインアウトは、日本が開発したのですよね?

稲垣理事 稲垣 大西(鐵之祐・元日本代表監督・元早稲田大学監督)先生が開発しました。

上原 大西先生だったのですか!
 実は、商売をする上でも全体を平均値で見てはいけないのですよ。今我が社には900人の営業マンがいるのですが、この一人ひとりの成績をつぶさに見ていくと、上位の人間が業績目標を150~200%達成しているのに対して、下位の人間は半分も達成していない。これを、全体の業績が今期は前年比100%を超えたから大丈夫と判断すると間違えてしまいます。優秀な人間はどういう考え方でどういう動き方をしているのか、苦戦している営業マンはどういう考え方をしているのかを個別に見れば、個々のモチベーションの高さや行動の質の違い、情報量の多寡といった違いが見えてくる。つまり、全体が伸び悩んだときに、平均値から問題点を探ろうとしても何もつかめない。何かいい手はないかと考えるのではなく、具体的に個々の問題に還元して原因を探っていけば答えが見つかります。これはラグビーでも同じだと思うのです。
 今はビッグデータの時代ですから、たとえばラインアウトやBKの新しい動きを、個々の優秀な選手の映像を集めて研究していく。海外の映像も分析すれば、そこから日本に適した方法論を見つけられるかもしれない。選手個人の経験をもとに学ぶのではなくて、世界の動向や戦法を蓄積した作戦部隊を組織するようなアプローチも必要ではないでしょうか。

稲垣 エディーは、もともと世界の最新情報を持っていますし、日本代表にも分析スタッフがいて、今おっしゃったような研究に取り組んでいます。
 それから、エディーは日本が勝つためにどうすればいいかをすごく考えていて、監督に就任したときに「ラグビーではなくて、世界で勝った指導者に会いたい」と言って、WBCで優勝した原辰徳監督や、なでしこジャパンの佐々木則夫監督、女子バレーボールの眞鍋政義監督といった方々の話を聞きに行きました。
 そのときみなさんが共通して言ったのが、「世界のコピーをするのではなく、日本らしいオリジナルの戦法を考えて勝った」ということでした。エディー自身も、そこでオールブラックスのコピーではなく、ジャパンオリジナルのラグビーを作ろうという確信を得たと思います。ただ、それをやるためにまずセットプレーを徹底的に整備しなければならなかった。それがようやくできつつあるところです。

上原 ラグビーはボールを確保しないと次の展開がないですからね。

稲垣 はい。特にスクラムは、フランス人のマルク・ダルマゾというコーチがついて、この春は、サモア、カナダ、アメリカといった自分たちより大きな相手を完全に粉砕して、スクラムに徹底的にこだわるイタリアにも押し勝ちました。非常に精度が上がっています。

上原 フランスはスクラムが強いのですか?

稲垣 強いですね。でも、この前勝ったイタリアは、スクラムに関してはフランスよりも強い。ですから今は確実に進化しています。

――エディーさんは、練習のときに選手にGPSをつけて個々の走った距離やランニングスピードを科学的に測定する一方で、今春は大西先生が開発した「カンペイ」(ライン参加したフルバック(FB)に直接パスし、相手防御ラインの裏へ出るサインプレー)も使っています。最先端の科学的アプローチと日本的なオリジナルが非常にいい形でブレンドされていますね。

稲垣 エディーは大西先生にも興味を持って研究していますからね。
 数年前にエディーから「今までの日本代表のベストゲームはなんだ?」と質問されたとき、私は即座に1968年にニュージーランドでジュニア・オールブラックスを23―19と破った試合だと答えたんです。私自身は見ていないのですが、ショートラインアウトやカンペイのような、それまで世界で誰もやらなかった戦術を大西先生が考案されて使った。それを伝えたら、自分もそういう新しいオリジナルを生み出そうと決意したようです。

上原明会長・稲垣理事 上原 日本のラグビーが強くなって勝てばファンも沸くでしょうし、プロ野球やサッカーに続く人気スポーツになっていくでしょう。昔、新婚早々に妻を連れて国立競技場にラグビーを見に行ったことがありましたが、超満員でした。ずっと音楽学校に通ってきた妻は非常にビックリしていました。あの沸き上がるような熱気。それから、ラグビー独特の団結であるとか、One for All, All for Oneの精神。そういったものをみんなに体験してもらって、エンジョイしてもらうことを、私自身一番望んでいます。ジャパンがそういうチャンスを生かして着々と強くなる過程で、「リポビタンDチャレンジカップ」が貢献できれば、それは非常に嬉しいことだと思っています。

稲垣 ご支援頂いている立場としては、結果を残すことが一番だと考えています。
 御社の社是「勝つことのみが善である」ではないですが、代表チームは絶対に勝たなければいけない。善戦は許されないのです。そして、勝つことによっていろいろな効果が生まれてくる。そこが、負けても何か残るものがある大学ラグビーとの大きな違いです。
 今年の最初の合宿で日本代表の選手たちに「ラグビーでもっとムーブメントを起こそう。来年のRWCで勝って渋谷の街にDJポリスを入れてもらおう。君たちにはそのぐらいの力があるのだ」と伝えました。その夢をみんなで実現していくのが日本代表に課せられた課題であり、また、それを実現できる誇りを選手たちに持って欲しい。日本代表が勝つことは、ラグビーファンだけではなくて、国民みんなに喜びを与えることにつながるのではないかと、思っているのです。

上原 RWC2015で勝利を勝ち取れば、まさに社会を動かせますし、大きなインパクトを与えることになるでしょうね。
 先ほど稲垣さんが言われた「商売は戦いなり。勝つことのみが善である」は我が社の創業の精神ですが、それだけではなくて「紳商」という言葉もあります。これは紳士の商売人たれ、という意味です。紳士は嘘をつかないし、弱い者いじめをしない。卑怯なこともしない。そして、絶えず世の中全体のことを考えながら商売をする。社員にはそういうジェントルマンシップを持つことを求めています。そのためには、「正直・勤勉・熱心」の原点に返って商売をしよう、と私は社内でも話しています。
 そういう観点からすると、ラグビーは厳正なルールのなかでレフリーの裁定に従って正々堂々と戦うスポーツ。ルールのなかで戦って勝つことは、社会人としても大変に意義のあることです。日本は、先日のサッカーW杯のコートジボワール戦のあとでサポーターが観客席のゴミを拾って掃除したような国民性を持っています。そういう国民性や、紳士としての商売の在り方にも共通する要素をラグビーは持っていると思います。もちろん、他のスポーツも持っているけれども、ラグビーにはトライをしたときに、その過程に携わった選手も評価するような精神があります。これが、ラグビーの非常に優れた部分だと思います。

取材・構成●永田洋光
撮影●大崎聡

>>後編はこちら

PROFILE

上原明●うえはらあきら
1941年、東京都生まれ。1966年、米国留学後、慶応義塾大学を卒業し、日本電気株式会社入社。1977年、大正製薬株式会社入社。1982年、代表取締役社長に就任。2012年、代表取締役会長に就任(現任)。慶應義塾大学時代はBYBラグビーフットボールクラブに所属。2001年よりラグビー日本代表のオフィシャルスポンサーとして活動を開始。リポビタンDチャレンジカップは過去13年で30試合開催されている。

稲垣純一●いながきじゅんいち
1955年、東京都生まれ。1978年慶應義塾大を卒業し、サントリーに入社。1980年ラグビー部・サンゴリアス設立と同時に参加、初代主将となる。 その後、慶應大ラグビー部コーチ、サンゴリアス副部長、ディレクターを経て、2002年にGMに就任。2007年にトップリーグCOOに就任。現在は日本ラグビー協会理事を務める。



日本ラグビー協会、稲垣純一・日本代表チームディレクターの月イチレギュラー対談、すべてはラグビー界の未来のために。ラグビーの魅力やラグビー界の未来について語り合う対談企画。2019年ラグビーワールドカップの成功のヒントがここに!