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稲垣純一 日本代表チームディレクターの月イチレギュラー対談
すべてはラグビー界の未来のために



Vol.6 ゲスト
Jリーグ 中西 大介 常務理事
-後編-

日本ラグビー協会の稲垣純一理事が、毎回ラグビーに造詣が深いゲストを迎えて、ラグビーの魅力やラグビー界の未来について語り合う対談企画。第6回のゲストは、Jリーグの中西大介常務理事。トップリーグより10年早くJリーグをスタートさせ、2002年にはFIFAワールドカップを開催したサッカー界から、どんなヒントが得られるのか。また、今後のスタジアムはどうあるべきか。サッカーとラグビー、そしてスポーツが持つ可能性について語らう
>>前編はこちら

Jリーグ 中西常務理事・稲垣理事

――1993年にJリーグが開幕したとき、サッカー界は、プロ化して実力をつけて、FIFAワールドカップに出場するという明確な目標を打ち出しました。
Jリーグ 中西常務理事 中西 サッカーはグローバルで認められないと国内でも認められませんので、Jリーグ発足に際してもワールドカップに出場することを非常に意識しました。1993年から10年間は、プロ化をし、1996年に2002年日韓ワールドカップの開催が決まり、という外的な刺激によってサッカーが成長してきたと言えるでしょう。
 2002年以降はそういう刺激がなくなって、強化する目標を、外から与えられるのではなく、自分たちで作る必要が生じました。そうした流れのなかで、香川真司選手、本田圭佑選手、長友佑都選手たちが、ヨーロッパの強豪クラブで活躍するようになりました。彼らは実力が認められてヨーロッパに渡ったのですが、これは日本サッカー協会(JFA)とJリーグが共同で地道に普及と育成を行ってきた成果でしょう。
 ですから、オリンピックやワールドカップが終わったあとに、どのようなイメージをイマジネーション豊かに描けるか。何を原動力として成長するのか。その問題に答えることが、その競技のビジョンやリーダーシップにつながると思います。

――その意味では、2019年のラグビーワールドカップ日本大会が終わってからどうするかが、日本ラグビーにとって大切な問題になりますね。

稲垣 ワールドカップの何をもって成功とするのか、その評価基準をしっかりと定める必要があります。世界3大スポーツイベントのひとつとして、お祭りとして成功することだけが目的ではなく、そのあとの日本ラグビーをどうするか。競技人口や観客がどれぐらい増えるかまで考えたビジョンを描かないと、打ち上げ花火に終わる危険性があります。それでは、あまりにも、もったいない。
 こうした考え方を、私はサッカーから学びました。サッカーが、日韓ワールドカップが終わっても成長したことは素晴らしいと思います。サッカー日本代表はワールドカップに継続的に出場していますし、全国に50を超えるクラブができています。1993年のJリーグ発足時の理念を、計画的に実現し、結果がともなっているところに敬意を表し、目標としたいですね。

中西 世界のサッカーを取り巻く流れは、ここ数年で急激に変化しました。
 1993年にEUが成立してからヨーロッパに人とお金が集まる流れにますます拍車がかかり、今ではイングランドのプレミアリーグの放送権料は年間3000億円と言われています。これは、本来なら世界のサッカーのために使われるべきお金が、ヨーロッパだけに集中していることになります。ですから、ものすごい偏りが生じている。これが第一の流れです。
 もうひとつ注目すべき流れに、アメリカやオーストラリア、ニュージーランドといったサッカーが他スポーツに比べてあまり関心が高くなかった国々でサッカー人気が非常に上がっていることがあります。
 これらの国々では2部、3部の昇格・降格がありません。降格のない閉じたリーグですから、資本家も投資しやすい環境です。アメリカでは、国内のメジャースポーツに倣ってシーズン最後にプレーオフを行いますが、結果としてMLSの人気は上がっています。オーストラリアのAリーグも人気が上がっています。先日、FIFAの役員から伺った話では、ニュージーランドでも競技人口が非常に増えて、ラグビーに迫っているそうです。競技レベルも、オークランド・シティFCが昨年のFIFAクラブワールドカップで上位に進出するなど、高くなっています。国内に素晴らしい施設があり、国民にスポーツを楽しむマインドが備わっているような、豊かなスポーツ文化を持つ国々で、サッカーが先行するスポーツに迫るぐらいの人気を獲得している。これが2番目の流れです。
 そして、今から10年後のGDP予測を考えるとASEAN諸国の成長が見込まれます。もともとサッカーが盛んで国民的な人気がある地域ですから、そこで自国のサッカーに投資ができるようになると、アジアのなかでプロリーグが大きく発展する可能性があります。これが三つめの流れです。
 こうした流れのなかで日本がどういう存在感を示していくか。世界で認められることが国内に反映されることを考えると、国際的に競技面で成功することが必要ですし、Jリーグ自体のクオリティを高くして、国境を越えて多くの人に見てもらえるようにする必要もあります。ですから、ローカルで成功するやり方と、グローバルで成功するやり方の両方を考えなければなりません。それらをどう両立させて日本の存在感を発揮するための施策を打ち出せるかが、これからの腕の見せ所ですね。

稲垣理事 稲垣 ラグビーにはオールブラックスや、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズのような、遠征をするだけで何十億円ものお金が動くコンテンツがあります。南半球の国々はそういう例を知っていますから、その方法論をサッカーに応用すれば成功する道筋が見えるのでしょうね。残念なことに日本のラクビーの場合は、そういう道筋がないので、あらゆることにチャレンジする必要があります。トップリーグはようやく形が見えてきましたが、これをどう成熟させていくかを考えなければなりません。ただ、中西さんがおっしゃった閉じたリーグという考え方は、面白いですね。

中西 サッカーでは、J1を経験したクラブが29あります。つまり、29の地域が、浦和レッズのようなビッグクラブのサポーターがどっと押し寄せたり、代表選手がプレーしにきた、といったことを経験しています。佐賀県鳥栖市のサガン鳥栖のホームゲームに最初に2万人の観客が入ったときは、そのほとんどが中村俊輔選手を見に来たのですが、今は地元のサガン鳥栖を熱く応援するファン・サポーターばかりです。今年J1に上がった松本山雅FCでは、年間シートが1万枚近く売れました。つまり、松本に住む人たちのカレンダーに、いつどのチームが松本で試合をするかというスケジュールが刻まれている。松本山雅FCの存在がコミュニティの核となっていると言えるでしょう。それが、リーグに入替のシステムを残している意義です。
 もちろん、降格するクラブは非常に辛い経験をすることになりますが、その反面、J1を経験した街がこれからも増えていく。即効性はありませんが、その積み重ねが日本のサッカーにもたらすものは非常に大きいと思いますし、私たちの理念を一つひとつの街に浸透させるためにも、このシステムは有効だと考えています。

稲垣 サッカーはJ1から落ちてもJリーグの枠内にとどまりますが、ラグビーの場合は、トップリーグから落ちると地域リーグになります。この落差が非常に大きい。試合のレベルもまったく違いますから、同じトップリーグのなかで入替をするようなやり方を考える必要があるでしょう。バレーボールのVリーグはそういう方式をとっていて、V・プレミアとV・チャレンジに分かれていますが、そうした考え方は必要でしょうね。

――ラグビーの場合は、企業と、その企業が所属する地域の両方を考える必要があります。

稲垣 その意味では、ヤマハ発動機ジュビロが日本選手権に優勝した意義は非常に大きいですね。ヤマハは、トップリーグのなかでも静岡県磐田市という地域色が非常に強いチームです。決勝戦にもバスでたくさんのサポーターが応援に来て、喜んで帰って行きましたが、こういうことがあると人気が続くでしょう。
 それから、ヤマハは、ラグビー部の活動を縮小した時期がありましたが、経営トップの判断でラグビー部に力を入れて清宮克幸監督を招聘した。そして、業績のV字回復とともにラグビーも強くなりました。これは、企業スポーツとしてのラグビーの魅力、そして、地域との関わり方の、非常にいいモデルになると思います。

――清宮監督は記者会見で、「磐田市には今ラグビー部がある高校がないけれども、ヤマハが優勝したことでラグビー部ができるようになって、ヤマハラグビースクールでラグビーを始めた子どもたちが市外の高校に行かなくてもいいようになればいい」と発言していました。

中西 それは非常に素晴らしい発想ですね。
 サッカーでも、女子が2011年にFIFAワールドカップで勝ったあと高校に女子サッカー部がかなりできました。女子がサッカーをやる環境が整ってきたことは、私たちにとっても非常に大きなことで、彼女たちが次の世代、そのまた次の世代にサッカーをプレーすることの楽しさを伝えてくれるでしょう。それを考えると、2011年になでしこジャパンがワールドカップに優勝したことが日本サッカーに与えた影響は、後に振り返れば、今見えているインパクトよりも大きいと思います。また、その影響を最大化することが私たちの仕事だと考えています。

――ラグビーは2019年にワールドカップの開催を控えています。この大会に向けて、2002年の日韓ワールドカップを経験された中西さんからアドバイスをいただきたいのですが。

Jリーグ 中西常務理事・稲垣理事 中西 これだけの世界大会を開催して何をその後に残せるかを考えると、世界3大スポーツイベントの運営を経験した「人材」になると思います。グローバルな大会の運営に携わった経験は、かならず人に残ります。私は札幌の会場責任者でしたが、36歳で北海道警察やFIFAなど大会関係者と侃々諤々の議論をしたり、ボランティアのみなさんをまとめたり、さまざまな経験をしました。この経験は、有形無形にかかわらず、今の私に役立っています。
 ワールドカップの運営は大変ですよ。地元の思惑、サッカー界の思惑、FIFAの思惑、それぞれ別々でしたし、当然対立を起こす局面もあります。そうした対立を上手にまとめながら、共通の目標である大会の成功に向けて導いていく。それは、リーダーシップとマネジメントの両面において人を鍛えます。しかも、大会期間だけではなく、準備期間からそうした仕事が始まりますからね。
 ですから、ラグビーの場合も、2019年に将来の日本ラグビーを担う人材をどれだけ広く配置できるかが大切だと思います。

稲垣 2019年の12会場が3月2日に決まりましたが、これからそれぞれの開催地で大勝負が始まることになります。まずそれぞれの開催地でレガシーという言葉をどうとらえて、どういう活動をしていくのか。会場の責任者となった人間が、地元の人たちの顔を思い浮かべ、スタジアムの様子を思い浮かべ、周りの景色を思い浮かべて、どんなビジョンを打ち出すのか。多くの人を巻き込みながら、2019年につなげるような活動を具体的にしていかなければなりません。まさに今、そういう勝負が始まったのだと認識しています。

――どうもありがとうございました。

取材・構成●永田洋光
撮影●大崎聡 >>前編はこちら

PROFILE

中西大介●なかにしだいすけ
1965年、東京都生まれ。神戸商船大学(現神戸大学海事科学部)卒業後、株式会社ナガセに入社。1997年日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)入局。2002年FIFAワールドカップでは、札幌ベニューのマネージャーを務める。事業部マネージャー、事務局長兼事業戦略室室長、事務局長兼競技・事業統括本部長、理事を経て、2014年より常務理事に就任。

稲垣純一●いながきじゅんいち
1955年、東京都生まれ。1978年慶應義塾大を卒業し、サントリーに入社。1980年ラグビー部・サンゴリアス設立と同時に参加、初代主将となる。その後、慶應ラグビー部コーチ、サントリー副部長、ディレクターを経て、2002年にGMに就任。2007年にトップリーグCOOに就任。現在は日本ラグビー協会理事を務める。



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