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稲垣純一 日本代表チームディレクターの月イチレギュラー対談
すべてはラグビー界の未来のために



Vol.7 ゲスト
A.C.P.C. 中西 健夫 会長
-前編-

日本ラグビー協会の稲垣純一理事が、毎回ラグビーに造詣が深いゲストを迎えて、ラグビーの魅力やラグビー界の未来について語り合う対談企画。第7回のゲストは、コンサートプロモーターズ協会(A.C.P.C.)の中西健夫会長。音楽・エンタテインメント業界から見て、ラグビー界はどのように映っているのか。また、2019年ラグビーワールドカップに向けて、どのように準備を進めていけばいいのか。さらに音楽とスポーツのコラボレーションの可能性について語らう。
>>後編はこちら

A.C.P.C. 中西健夫会長・稲垣理事

A.C.P.C. 中西健夫会長 ――中西さんは、現在コンサートプロモーターズ協会(A.C.P.C.)の会長職に就いていらっしゃいますが、具体的にはどういう活動をなさっているのですか。

中西 A.C.P.C.は日本全国に60社以上あるコンサートプロモーターが会員になっている団体です。昨年は約3万件近いコンサートやフェスティバルなどを手がけ、トータルで4200万人以上の観客を動員しました。
 ラグビーとの接点と言えるかどうかはわかりませんが、国立競技場の最後の1週間のイベントは私たちが手がけました。最後にラグビーのオーバー50歳やサッカーのオーバー40歳の試合を取り仕切ったのも、私たちでした。

稲垣 ラグビーの日本代表が、5月25日に香港代表と国立競技場で最後のテストマッチを戦った翌週ですね。私たちも、そうした接点を大切にして、ラグビーをプロモートしていく上でコンサートやフェスティバルなどの運営や集客のノウハウを、いろいろ勉強させていただきたいと考えています。

――中西会長は、スポーツにも造詣が深いと伺っています。

中西 父が昭和2年生まれで終戦直後に同志社大学でラグビー部の応援団長をやっていました。その影響で、ラグビーは子どもの頃から見ています。当時近鉄でプレーされていた坂田好弘さんが好きでした。ただ、私は京都で育ったのですが、山城高校出身の釜本邦茂選手の影響もあって、子どもの頃はサッカーをよく見ていました。やはりスター選手がいると、その競技に引きつけられますね。その後も、伝説の同志社対新日鐵釜石の日本選手権を、同志社を応援しながら見に行ったりしてました。

――スポーツも、コンサートやフェスティバルと同様に、お客様に非日常的なエンタテインメントを提供して楽しんでいただくことが求められています。会長からご覧になって、ラグビーにはどういう可能性があるとお考えですか。

中西 ラグビーの場合は、2019年に日本でラグビーワールドカップ(RWC)が開催されることが、あまり一般的に認知されていないように思います。サッカー日本代表がFIFAランキングで50位前後であることに比べれば、ラグビーは参加国が少ないとはいえワールドラグビーの世界ランキングで11位です。この辺りも、もっとプロモーションをしていいように感じます。
 スター選手の存在も必要ですね。誰が見てもわかる選手の存在は大切です。
 以前、アディダスがテレビのCMにデイビッド・ベッカムとジョニー・ウィルキンソンを一緒に起用したことがありましたが、あのようなコラボレーションが見られると、とても素敵でしょう。ウィルキンソンは、イングランドでは爵位を持っていますし、非常に有名ですが、お互いに対比される存在があると、競技はさらに盛り上がります。ラグビーにも、そうした仕掛けが必要でしょう。
 あるいは、松任谷由実さんが『ノーサイド』という曲を作りましたが、音楽とのコラボレーションもプロモーションに適していると思います。
 あとは、ラグビー用語が、もう少し日常的に使われるといいですね。たとえば、物を落としたら「ノックオン」というように。「スクラムを組む」という言葉も一般的に使われますけど、ああした形でラグビー用語がもっと広く浸透すればいいと思います。

稲垣理事 稲垣 今、会長がおっしゃられたようなことは、私たちも日頃から感じています。
 ラグビーの場合は、これまで早明戦や早慶戦、関西では同志社の活躍といった国内の試合に目が向いていましたが、RWCが開催されることで、これからは世界に目を向けて行く必要があります。そのためには日本代表が強くならなければならない。代表は現在、合宿中ですが、私は4月6日のファーストミーティングで「みんなの力で新しい歴史を作ろう」と話しました。これはヘッドコーチのエディー・ジョーンズも同じ気持ちです。そのためにも、これから厳しい練習をこなしていかなければならない。
 私たちラグビー協会としても、それを世の中にアピールしていく必要があると考えています。
 この半年ほどでNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』でエディー・ジョーンズが取り上げられたり、五郎丸歩、大野均がスポーツニュースに出演したり、少しずつではありますが、認知度は上がっているように思います。それをどう人気が爆発するようにもっていくか――それが、2019年に向けたテーマでしょうね。

中西 サッカーでは「シュートを打たない日本人」という議論が延々と続いていますが、子どもの頃から確率の高い方を選ぶことを教えられたり、自己中心的になってはいけないと言われていることが影響しているのではないかと見られています。その意味では、チームプレーを大切にするラグビーは、日本人に向いているように思います。

稲垣 その点は、エディーも日本人の良さとして認めています。「日本人の目標に向かう結束力は素晴らしいし、現在のような厳しい練習はオーストラリア代表ワラビーズでも反発されてなかなか実施できないが、日本代表では目標を明確にすれば選手たちは一所懸命取り組む。それが素晴らしい」と話しています。ただ、日本人の場合は、人の顔色をうかがうようなところがあって、人に言われれば一所懸命やるけど、自ら練習に取り組むような積極性には若干欠けている。そこをどう変えるかが問題でしょう。

中西 私たちの仕事でも、インフラを構築するような作業は非常に緻密にやらなければなりませんが、その先に進むためにはアイディアが必要です。野外フェスティバルでも、毎年のように同じことを繰り返すだけでは、お客様から飽きられるでしょう。
 その点では、ラグビーのトップリーグも、サッカーのJリーグも、同じ問題を抱えていると言えるかもしれません。どちらのリーグも地域密着というテーマがありますし、ラグビーでは日本選手権でヤマハ発動機ジュビロが優勝したことで、静岡県磐田市と地域密着型のモデルが明確になりましたが、では、その先をどうするか。その先に向けたアイディアがないと、継続的に人を集めることが難しくなると思います。今は、ヤマハが強いから人が集まるかもしれませんが、人はチームが強いことにもすぐに飽きますから。その意味で、各チームにフラッグとなるような選手がいて、その先に日本代表がある――という形を構築することが大切でしょう。

稲垣 ラグビーファン以外の人も知っているラグビー選手が少ないというのが、今のラグビー界の問題ではありますね。最近になってようやく、五郎丸だったり、大野だったり、田中史朗だったりと少しずつ認知されるようになってきましたが、昔の平尾誠二、大畑大介といったレベルには達していません。一般の方がラグビー選手として思い浮かべるのはOBの選手というのが、残念ながら現状でしょう。ラグビーでは、これまでスター選手が自然に生まれるようなところがありましたが、そうした選手を育てた経験がありません。試合の運営にしても、顧客満足度という観点がまだ足りない。しかし、2019年RWCでは、まさにそうした部分でラグビー界の実力が問われることになります。

中西 現在、日本でかつて流行ったフォークソングが、私たちの想像を超えるぐらい、非常に大きな集客力を持っています。そして、ラグビーにも大学ラグビーが超満員になった時代があったように、その時に観戦を経験した方がまだたくさんいらっしゃると思います。ですから、若いファンを獲得するのも大切ですが、そうした年齢的に上の層を取り込むような発想も必要でしょう。その過程で、過去のスター選手にもさまざまな役割が生まれると思います。

稲垣 確かに一昨年ニュージーランド代表オールブラックスが来日した時は、そうした方々が一気にラグビー場に戻ってきました。チケットもあっという間に売り切れましたし、ラグビーにはまだそうした爆発力があると感じました。ですから、そこで戻ってきたファンの方々に、さらにもう一度足を運んでいただくような工夫が必要でしょう。マーケットを見ても、その年齢層が一番大きいわけですから。

中西 そうですよ。わざわざ違う層にプロモーションをしなくてもいいのではないか、という発想です。実際、音楽でも、現在10代のファンを取り込むのは非常に難しいわけですから。

A.C.P.C. 中西健夫会長・稲垣理事 稲垣 秩父宮ラグビー場でもアイドルグループNEWSのコンサートを行っていますが、そのコンサートに来ている層をラグビーに動員するよりも、潜在的なラグビーファンに、もう一度ラグビー場に行きたいと思っていただけるようなきっかけを考える方が、確かに早いかもしれませんね。

中西 甲斐バンドの甲斐よしひろさんは大のラグビーファンで、花園ラグビー場で伝説のライブを行ったこともあります。ですから、花園ラグビー場がリニューアルする前にもう一度コンサートを企画したのですが、予算的に折り合わず実現しませんでした。ただ、あの世代のラグビーが好きだと公言している人たちに、2019年に向けたプロモーションを手伝ってもらうのは最適だと思います。

稲垣 甲斐さんも、よくラグビーを見にいらっしゃっていますね。写真家の浅井慎平さんも、高校からトップリーグまで非常によくご覧になっています。

中西 そうした人たちに、RWC組織委員会に入ってもらうようなことはできないのですか。

稲垣 確かにそうした発想は必要でしょう。RWCに限らず、外部の、これまでラグビーとあまり関わりのなかった方のご意見には非常に新鮮なものがありますからね。

中西 以前、同志社が、大学選手権準決勝で明治大学にPGを一切狙わずに攻める“イケイケラグビー”で挑んだことがありましたが(1994年)、私は大興奮して見ていました(笑)。結果的に同志社は負けましたが(17―27)、そういうヒューマンドラマのような試合ももっと見たいですね。それが、ラグビーがどれほど素敵なスポーツかを伝えるいい素材になると思います。優秀なシナリオライターがいれば、特定の誰かをピックアップすることなく、ラグビーそのものをドラマチックに描けるでしょう。ただ、実際にラグビーをドラマとして見せるのは難しいかもしれませんが。

稲垣 ラグビーの実際のプレーをドラマのなかに取り込むのは非常に難しいですからね。

中西 確かにそうですが、さまざまな可能性を考えて、全方位外交のようなスタンスでラグビーをプロモーションするのは必要でしょう。個人的には、ラグビーの戦術論は、一般の日本人に受け入れられるように思っています。

稲垣 NHKの『プロフェッショナル』が1月26日に放送されて以来、エディー・ジョーンズへの講演依頼が非常に増えました。現在はワールドカップに向けた強化期間ですから、残念ながら大会が終わるまではスケジュール調整が難しい状況ですが、一般企業からの依頼も非常に多いですね。
 日本選手権で優勝したヤマハもそうですが、企業スポーツが厳しい時代でもラグビーは非常に恵まれたポジションにいたと言えるでしょう。ラグビーには、経営者に訴える何かがあるように思います。それぐらい素晴らしいコンテンツですが、その素晴らしさを、多くの方に広められていないのが、私たちの課題だと考えています。

中西 初級編として入りやすい入口を作ることと、今までラグビーを見てきた年齢の高いファン層をスタジアムに呼び戻すこと。そうした両面作戦が必要でしょうね。
 その意味では、テレビドラマが難しければ、ラグビー番組があるといいですね。ラグビーが好きなキャスターがいて、ラグビー選手を呼んでいろいろな話をする。最初は視聴率が取れないかもしれませんが、やはりテレビの力は大きいと思いますよ。

取材・構成●永田洋光
撮影●大崎聡 >>後編はこちら

PROFILE

中西健夫●なかにしたけお
1956年、京都府生まれ。京都産業大学を卒業後、バンドでメジャーデビュー。1981年に株式会社ディスクガレージに入社。1990年に取締役専務、1993年に代表取締役副社長を経て、1997年より代表取締役社長に就任。A.C.P.C.では2001年に理事に就任し、2005年より常任理事、2008年より副会長を経て、2012年に会長に就任。2014年、東日本大震災の復興支援活動団体・一般社団法人チームスマイルの副代表理事も務める。

稲垣純一●いながきじゅんいち
1955年、東京都生まれ。1978年慶應義塾大学を卒業し、サントリーに入社。1980年ラグビー部・サンゴリアス設立と同時に参加、初代主将となる。 その後、慶應大ラグビー部コーチ、サンゴリアス副部長、ディレクターを経て、2002年にGMに就任。2007年にトップリーグCOOに就任。現在は日本ラグビー協会理事を務める。



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